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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
[54] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 5[瞬間ダッシュ](2025/01/03 20:43)
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[40286] 近代編 パナマ戦線異状アリ4
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:d899a5e0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2018/04/16 01:31


早朝の都市パナマ。太陽が東の空に昇り始めた頃、海辺に程近い場所には屋台が密集していた。ここは現地の労働者が早い朝食で腹を満たすための場所である。さながら朝市のように活気づいている場所で、友人同士らしき若い男が二人、焼いた肉とパン、そして魚のダシが効いたスープを屋台に備え付けられた粗末なテーブルで食べながら喋り合っていた。

「最近どう?」
「今は港が造り終わって休暇中。そっちは?」
「カカオ農場造ってる」
「へ~」

何気ない世間話。だが、それは数カ月前までは考えられない現象であった。かつてパナマがアステカ帝国領であった頃は、まさにスラムと言っても良いほど街には荒廃感と陰気な雰囲気が漂っていた。何度も南のインカ帝国との戦いで戦争に巻き込まれ、若い男手は大抵兵隊に取られる。そして先の遠征では根こそぎ動員とでも呼ぶべき無茶な徴兵が行なわれた結果、都市の人口ピラミッドは一時期とんでもないことになった。
ところが、攻め込んだ神聖オリーシュ帝国で遠征軍が崩壊。そして逆にパナマが占領されるという憂き目にあってから、状況が一変した。都市に砲撃が加えられていた時にはてっきりこのまま更地にされるのではと戦々恐々していたものの、蓋を開けてみれば遠征先で捕虜になっていた男達が続々と復員し、それどころかジャブジャブと湯水のように都市パナマへの投資が行われた。
続々と都市に必要なインフラが整備されると同時に、大量の食糧と品物が運び込まれた結果、同都市は高度経済成長を彷彿させるような勢いで発展を続けている。
仕事はいくらでもあり、働けば働くほど街と懐が豊かになり、欲しいモノがどんどん買える――――まさに復興バブルに沸いていたのだった。
これは、神聖オリーシュ帝国からこの地における現地兵の指揮権と共に大幅な裁量権を与えられていた近衛ユウ少将が、パナマを太平洋と大西洋を繋ぐ交通と交易の一大拠点とするという思惑と、占領直後のまだガレキが至る所に残っていた時の情景に心を痛めていた過去から生み出された、占領地にはあるまじき扱いの結果であった。
だがその辺りの事情は大っぴらにはされず、ただただ近衛ユウは慈悲深く美しい貴公子であると現地民からの受けはすこぶる良い。

「全くよ、負けた時はどうなるかと思ったけど、あの若い将軍様のおかげで俺達の未来は明るくなったもんだ」
「散々エラそうにしていたアステカも、もうお終いだザマアねえぜ!」
「そう言えば。そろそろアステカに止めを刺すために大軍が来るんだってよ」
「おおそりゃあ良いね! 今日最高の知らせだ!! まだ朝だけど」
「「我らが将軍閣下に乾杯!」」

ハハハハ! と早朝なのに軽く酒を飲んで笑い合う男達。
民心は安定している。復興も軌道に乗っている。このままいけば戦争の傷は早々に癒え、二つの大洋を繋ぐ都市として大いに発展する明るい未来があった。だが――――太平洋側の水平線にぽつぽつと現れ始めた大艦隊が、いまだ戦争が終わっていないことを見せつけるのだった。





「テノチティトランへの進撃は、予定通り明朝となります」
「よし。とにかく時間との勝負だ。ここの奪還の気配すらない内に一気になだれ込め。先鋒は新設した部隊にやらせる」
「よろしいのですか? 新兵の比率が多いですが」
「構わん。敵が準備不足の内に戦場の空気に触れさせろ」
「はい。では続いて海軍のほうですが……」

アステカ帝国首都テノチティトラン攻略にむけた軍を引き連れてパナマへと上陸した近衛元帥は、将官専用宿舎の廊下を歩きながら部下へと指示を飛ばしていく。
元帥はパナマに上陸して以降、ほぼ不眠不休で侵攻軍の準備に没頭していた。こうして、歩きながらでも仕事の手を緩めないのもそのためだ。
事前情報では敵の動きは全くと言っていいほどなく、当初予想されていたパナマ奪還の為に派遣されると思われた敵部隊の存在も確認されていない。この事態を元帥は「敵の混乱」として判断し、陸上戦力5万と護衛兼支援を目的としたフリゲート艦を含んだ大艦隊を都市パナマへ駐留させると、すぐに北進させることを決定した。到着してから、まる二日程度の速決であった。
そこから殺人的な仕事量に忙殺されることとなったが、間にある密林地帯さえ突破してしまえば敵首都は目の前であるため、この戦争の決着は目前であると思われた。その事実が、元帥に活力を与える。

「――――」
「……ガリアだと?」

だが、ここで横やりが入る。後ろから駆け寄って来た部下がそっと耳打ちする。突如としてパナマ都市圏の外縁にある諸島に上陸し、アステカ軍の残党狩りを行なっていた友軍に攻撃を開始したというのだ。
うむ……と、元帥は少しの間だが考え込む。時間にして十数秒だが、その間に、今度は前方から再び人が駆けよって来る。真新しい服装と、若く美しい顔立ち。そして貴公子然とした雰囲気を漂わせる近衛ユウであった。

「父上……! が、ガリア軍が突如として我々に宣戦を布告してきました!! 既にパナマ東方の外れにある折杖諸島にて建設中であった要塞が占領されるなど深刻な事態に――――」
「たった今同じ報告を受けた。死守命令を出しておけ。降伏も認めるな」
「ッ?! そんな、味方部隊は少数です! それでは――――」
「なるほど、分かっていないのか。いいか、連中は金次第で誰にでも噛みつく傭兵のような国だ。大方アステカに金で頼まれたんだろう。アステカが落ちれば、連中も何処ぞへと逃げ散る」

それは事実でもあった。欧州に名高き戦争国家ガリア王国。欧州を中心に、戦争にたびたび雇われ参戦し、交易船の略奪や、火事場泥棒のように交戦相手の都市を攻め落としては賠償金をせしめる悪名高き王国だ。過去においても友好的な関係であった国へ不意打ちのように宣戦布告し、散々に荒らしまわった記録が残っている。
ただし今回は本拠地から距離的にも離れ、間に海が跨っている。故に、アステカに金を積まれて、言い訳程度に戦力を差し向けた程度であると元帥は考えたのだ。

「ですが、しかし――――敵戦力は同地での友軍戦力を上回っています。既に任務についていた連隊では連隊長が戦死しており、せめていくらかでも支援を!」
「ほお……ヤツは死んだのか?」
「えーと――――はい。志願兵どもを率いていた『例の』伯爵さまは早々に戦死。現在はたまたま要塞近くにいた煉獄院少尉が敗残兵をまとめて行動しているとのことです」


元帥は先ほど自分にガリア参戦の一報を届けた部下に目配せする。「例の」という部分に込められた意味を即座に汲み取った元帥は、たかだか少尉がまとめ役をしている事に納得する。そしてしばし思案し、その名に覚えがある事に気付く。元帥は表情には出さずに心の中で残酷な笑みを浮かべると、すこぶる悪辣な考えを閃く。

「既に北進の為の準備が完了しているのだ。予定通り、我々は敵首都を攻め落とす。死守命令を出せ」
「考え直してください! 撤退か降伏の許可を――――!」
「ダメだ」

なおも喰い下がろうとするユウを、元帥は一言で切って捨てる。
元帥は内心の感情を悟られないように表面上は何気なく、指示を付け加えた。

「あとその少尉は二階級特進の上、連隊の指揮権を引き継がせろ。そして、死にたくなければ島を守り切れと伝えておけ」
「そ……そんな――――!」

信じられない言葉を聞いたように顔を青ざめさせた近衛ユウを残して、元帥は足早に去って行った。二階級特進とは、戦死した将兵に与えられるモノだ。それが未だ生きている状態で下されると言うのはつまり、「死んで来い」という命令とほぼ同義である。さらに、連隊長にされてしまえば、命令を無視して撤退や降伏してしまった場合には責任を取らされるということ――――すなわち軍法会議からの銃殺は免れない。
まさに逃げ道を塞がれた、死刑宣告であった。







「――――クッ!」

端正な顔を歪め、唇をかみしめた。以前にも同じような事があった。だが、今回のそれは前とは比べ物にならないほどの危険度だ。なにせ敵にはフリゲート艦が確認されている。ならばこちらも海軍を派遣してカリブ海の制海権を確保しなければ、彼らは孤立状態かつこちらも援軍を送れない。だが、海は大陸によって東西に分断されているので、艦隊を南へ大きく迂回させ、太平洋から大西洋へ出なければ派遣できない。
しかし、時間をかけてしまえば到着前に現地部隊の全滅は必至である。結局のところ、支援しようとも事実上無理なのだ。

(何とかしなければ……なんとか――――)

必死に対策を考えるも、簡単に思いつくなら苦労はしない。名案を思いつかないことから焦りを感じてついつい足早になっていると、気付けば自室に到着していた。せめて地図でも見ればヒントになるのではないかと思って部屋に入れば、机の上に一通の手紙が乗っていた。私室に在ると言う事は、個人宛に送られたものであると言う事だ。ユウはいぶかしみながらも汚い字で宛名が書かれたソレを開封して、手紙の内容を一読する。そこには、送り主の性格が出ているかのような大雑把な筆跡で、友人に語るような他愛のない内容が書き連ねられていた。そしてその最後は、今しがた考えていた少年の本名と、短い英文で締めくくられていた。

「…………」

ユウはもう一度だけ内容を読み返し、その一文に目を止める。

「必ず帰る I shall return」


海に囲まれた逃げ道のない戦場――――かつての自分も、敵に囲まれ迫りくる死をひたすら先延ばしにする日々を僅かな期間ではあるが経験したことがある。彼はそれを、生命を賭ける覚悟で突破して助けに来てくれた。いくらでも逃げだせた立場にありながら、チャンスがありながらそうしなかった勇気に、何としても報いなければならない。さもなければ自分は一生、彼に合わす顔がない。
彼が後先考えない非常識な突撃戦法で助けてくれたのならば、自分もまた非常識な方法であろうとも助け返すだけだ。

「よし、今だけは君を見習おう!」

ユウは今一度、今度は常識を放り出し、地図を取り出して自分が出来る最善の手を考え始めるのだった。

(でも…………なんだろう?)

正直。こちらの心配を無視するかのように軍隊に入ってしまった彼に、思うところがない訳ではない。最後に彼を見かけたとき、形容しがたい怒りにも似た感情さえ感じた。だが―――――I shall return

戦場で敵に囲まれている状況を加味して(当たり前だが、この手紙自体はこうして届いた以上、そうなる以前に書かれているハズである)、少しロマンチックに訳せば。
――――必ずあなたの元に戻ります

「っ!!」

書いた本人は何となくカッコイイ締めの為に書いたのだが、それを知らない近衛ユウは、人知れずその訳を頭の中で作ってひとり赤面するのだった。


さてその頃のカリブ海。住居にしていた要塞が陥落して行き場を失ってしまった連隊であったが、彼らは現在要塞から視認できる範囲ギリギリ外にある小高い丘でそっと息を潜ませ潜伏していた。周囲には完全手つかずの密林があるおかげで天然の目隠しになっていたので、そうそう目視されることはない。
異変を察知して各地に散っていた部隊も方々に人をやったり、見張りを置いたりしてうまくこちらと合流させることができたので、鎧袖一触で蹴散らされることはないだろう。
だが、人数が増えただけに、いまのままではガリア軍が討伐隊を組んで捜索された場合、あっさりと見つかってしまう。それでもそうならないのは、現在まで要塞内のガリア軍が軍事行動に移る兆候がなく、それどころか連日連夜楽し気な弦楽器の音色が響いてきて、いまだ祝勝会を行っている様子ですらあったからだった。

「……来たか」

北是少尉が空を見上げてつぶやいた。青空を背景に、一羽の鳩がこちらに向かって飛んでくるのがわかる。バタバタと羽を羽ばたかせながら、北是の差し出した腕にとまる。そして、その足に結びつけられた紙を自らくちばしを器用に使ってほどいて見せた。

神聖オリーシュ帝国軍にて正式採用されている伝書鳩である。高い知能と優れた長距離飛行能力から、時間さえあれば世界の裏側からでも手紙を配達してくれるという、規格外と表するべき品種だ。先日のガリア軍の襲来と要塞の陥落を都市パナマの司令部に報告し、事後の命令を仰ぐために送られていたこの鳩を待つために、彼らは危険を冒してこの場所に待機しつづけていたのだ。ある程度要塞から近くなければ、最悪の場合迷って現地の猛禽類に襲われてしまうこともあるからだ。

「ハァ、またか。またなのか―――おい隊長代行殿! お前にだ!」

読み進めるごとに眉間にシワがより始めた北是は、紙をグシャリと握りつぶすと共に吐き捨てた。そしてその声に反応したように、茂みからヤツが出てくる。緑色の服に、さらに葉っぱを括り付けた迷彩スタイルであった。

「手紙ぃ? あ~~、あれもう返事帰ってきたの。アイツってラインとかメールがあったら即返してくれるタイプだなぁ」

顔に覇気がない。敵を前にして撤退を余儀なくされたことが堪えたのか、ここ最近はずいぶんとおとなしかった。
最初のうちは威勢の良いことを言って、気炎を吐いていたものの、汚名返上の機会もなく腐っていたのだった。

「何を言ってるんだか全然分らんが、早く読め」
「ヘイヘイ、どれどれ――――ふむふむ!なるほど――――!!」

オリ主は同じように読み進めていくが、今度は先ほどとは真逆で、字を追うごとに喜色満面に、そして獰猛な笑顔へと変っていく。
同じ内容でも受け取り方が違っているが、前者のほうが一般的であることは確定的に明らかであろう。後者になるのは変人か気狂いの証明だ。

「つまりは、俺がこの連隊を率いて島からあの連中を追い出せと。名誉挽回の機会というわけだ!」
「二階級特進の前払いでの死守命令で喜べるのはお前だけだろうがな! 今更だがどういう神経してるのかさっぱりわからん!」

北是は頭を抱えて地面に転がりまわりたい衝動を必死に抑えながらも我慢できずに叫んだ。前回も戦死不可避の特攻をやらされて、まだだいぶ日も浅いというのにこの仕打ち。
あの時は死神がサボっていたのか運よく生き残れたが、そんな奇跡が二度も続くと期待するのは大馬鹿野郎である。こんな見ず知らずの異国の土地で捨て駒として死んでいくならば、いっそセッキョーでの戦いで死んだほうがまだ故郷で死ねる分マシというものだ。物資の補給もなく、周りは敵の船が見張って逃げ場なし。
そしてなにより敵の数がこちらを超えているのだ。自分の境遇に絶望をするのが普通である。

「安心しろよ。俺がいるんだ」
「――――――――」


自信満々に言い放つ新連隊長を、あからさまなまでに胡散臭そうに見つめる。

――――確かに、この男ならなんやかんやで奇跡の大逆転を再びやってみせ、万に一つの可能性をひょっとしてつかんでくれるのでは……

などと、一瞬だけ思ってしまったのだった。

「だって俺、オリ主さまだぜ? いや~~モテるって凄いね。前の戦いでも俺のファンができたみたいだし、幸運の女神さまも俺にゾッソンだって。そんで今更だけど、攻めてきてるガリアってどこの国? 地図とか、あと有名な歴史上の人とか教えてくれれば何となくわかるから」

サムズアップでいい笑顔。そして浮かれまくって調子に乗りまくった世迷言の後にいつもの寝ぼけた発言。それを聞いて、北是は思った。やっぱりもうダメかもしれないな、と。










南国に浮かぶ美しい月夜にて、フリゲート艦の甲板で行われる連日の宴。どこから用意したんだと尋ねたくなる美酒と料理に素晴らし音楽。いわば男ばかりの宮廷晩餐会が毎夜開かれ、貴族士官たちが優雅に、そして楽しい夜を過ごす。
だが、参加者のすべてが楽しめているわけではない。一日ならまだしも、こう飽きもせずにオシャベリと飽食の毎日ではたまらないと、少しづつフラストレーションを重ね続ける男がいた。

「ジュテーム?」
「ブルボーン!」
「ムシュー?」
「ウィ!」
「なに話とんねんさっぱりわからんわ」

故郷のコルシカ島なまりのガリア語でこっそりと小声で毒づくのは、地方出身のナブリオーネ・ブオナパルテ少尉であった。この場の出席者たちは、だれもが中央の、宮廷社交界を経験した貴族である者たちばかりだ。
すると、言葉ひとつとっても発音やら言い回しやら違ってくる。一応は貴族階級に属しているものの田舎の生まれであること、そして誕生した年に故郷がガリアに編入されたという経歴もあって、由緒正しい正統なるガリア語に不慣れである彼は、蚊帳の外である。そのうえ、彼の見立てではまだまだ戦う気がある敵が密林に潜伏しているのだ。
となれば、ワイングラス片手に楽しむことなどできるはずがない。そもそもむさい男しかいない場所で、何をキザッたらしくと白々しく思うのだ。

「やあ楽しんでいるか少尉?」
「はあ、おかげさまで」

真っ赤な顔ですでに出来上がっているカール髪のカツラを付けた男が取り巻きに支えられながらふらふらとした足取りで近づいてきた。ガリア側の司令官、ジャン・ピエール将軍である。
とっさに標準的なガリア語で対応する。やや発音に違和感があったが、将軍は酒臭い息を吐きながらブオナパルテの肩を抱き、もっと飲めと自分がもっていたグラスを差し出す。
しぶしぶ受け取るものの一口だけ口に含んだのみで、いい加減こらえるのも限界になってきた質問をぶつけた。

「敵はいまだ密林に潜んで我々に襲い掛かる機会を待っています。明日からでも、討伐隊を組むべきではないでしょうか?」
「明日から? 討伐隊? 何を言ってるんだまだまだ宵の口だ。あと一週間は楽しい宴を続けるぞ」
「い、一週間?」

ブオナパルテはその日数に絶句した。だが、将軍は当たり前だと言わんばかりで、まわりの取り巻きも同様の反応を見せている。
いつの間にか、ほかの参加者たちも自分と将軍のやり取りを見ていることに、ブオナパルテは気が付いた。

「いかんなあ、どうやら分っていないらしい」
「?」

ニヤニヤとした半笑いの将軍の表情にいぶかしむ。にやけた顔をそのままに、指を鼻の穴につっこんだまま、疑問顔のブオナパルテに語る。

「これはお前のための宴なんだよナブリオーネくん。ド田舎生まれで貴族らしいことを全く知らんだろう君に、すこしでも雰囲気を味わってもらおうという我々からのささやかな善意の発露なんだ」
「それは……あ、ありがとうございます」
「さっき敵はまだ戦うつもりがあるとか言っていたが、そんなのは思い違いじゃあないかね? どうせ武器を持ち出したものの土壇場で臆病風に吹かれて、どこかで我々の味わっている美酒を指くわえて見ているだけだろうさ」
「ですが――――」
「まあまあ、我々は君が生まれる前から国王陛下の忠実なる剣としてご奉公してきたんだ。先達の意見は素直に聞き給え。あと、もうひとつ善意の忠告だ」

ジャン・ピエール将軍は、鼻に突っ込んでいた指をおもむろにヴォナパルテ少尉の服に押しあて、ぐりぐりと動かしてハナクソを擦り付けた。
その最中も、ずっとにやけ笑いは絶やさない。

「その偽物臭いコルシカなまりのガリア語は今後一切私の前で話さないことだ。不愉快極まりなくって、君の洗濯の手間を増やしてしまうからね」

ゲラゲラと腹を抱えて笑う取り巻きを引き連れて、将軍は去っていった。自分の服についたソレを一目見て、いっきに頭に血が上ったヴォナパルテ少尉は握りこぶしを作って、本気で殴り殺すつもりでそのあとを追おうとして……突如として自分たちが乗った艦ごと揺り動かされるような衝撃に襲われた。
海の上から、敵から奪った要塞が爆発して真っ赤に炎上するのが見え、楽し気な晩餐会は一変、混乱の渦に放り込まれる。

「何事だ!?」 
「いったい――――水兵ども何をしている報告を、はやく!」

困惑するばかりの同僚たちを尻目に、ブオナパルテはやっとまともに戦争が始められると喜ぶ。あたふたとする将軍に、「命拾いしたなボケが」と吐き捨てると、さてこれからどうするべきかと思案しはじめたのだった。











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