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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編 パナマ戦線異状アリ3
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:3fd88065 前を表示する / 次を表示する
Date: 2018/03/31 23:24

それは、比較的涼しい空気に熱帯地方特有の湿気が合わさった薄明の朝の事であった。深い緑に色鮮やかな花々が咲く密林の中、寝静まった兵舎の中に突如として乱入してきたのは鳥獣の鳴き声ではなく、破裂音と高速の物体が空気を切り裂く笛の様な音色、そして直後に続く破壊の調べであった。地面を揺らし、何か硬い物体が衝撃で砕ける不愉快な目覚ましは、文字通り「叩き起こす」という表現に相応しい。
野生の鳥達がうっすら明るい東の空に向かって勢いよく飛び出していくのと同様に、人間達も同様に飛び起きる。

「な、なに!? なんだあ!?」
「エ? えっエ……?」


口元にくっきり残っているヨダレの痕跡を拭う暇すら与えられる事なく、誰も彼もが毛布を跳ね飛ばし、一体なにが起こっているのかと混乱気味に辺りを見渡す。しかしいくらキョロキョロとせわしなく頭を動かした所で、答えなどない。返って来るのはオマケとばかりに間断なく襲いかかる轟音と震動のみである。

「マイガッ!マイガッ!」
「ギャアアア――――神様ァ助けて!!」
「主よ我らお守り下さい主よぉ!!」

口々に胸元で十字を切ったり毛布に頭を突っ込んだり祈りの言葉を叫んだりと、僅かな間隔をあけて全員が混乱の渦に叩きこまれる。
足元を揺らすほどの破壊の音に寝起きを襲われたとなれば、誰であっても訳が分からなくなるモノであろうが、ナチュラルに神頼みの言葉が出るのは文化の違いか。

さて、結論を言ってしまえば、それは砲撃とそれに伴って要塞が粉砕されている音である。だが、これを聞き馴れている者はこの場にはいなかった。もっといえば、撃たれる側であり、かつソレを寝ぼけた状態で聞きなれている者もいない。であるからして、冷静であれと言うことの方が無茶というものだ。
しかしそれは通常、というよりも常人であるならば。幸か不幸か、慣れる慣れない以前の問題で、この男にはそういった動揺を誘うモノが通用しなかった。

「うろたえるんじゃないッ! 帝国軍人はうろたえないッ!! あと、いい年して頭だけ隠してケツまる出しの状態で震えるんじゃねえボケが!!」」

――――と一喝。その場にさっと立ち上がり、周囲を睨みつけるように眼光鋭く見渡す。そのとき、何故か「言ってやったぜ」とでも言うべき満足した顔であったが、オリ主もとい煉獄院朱雀が素早く立ち上がり、動揺もなく大きな声でそう叫んだことが重要だった。
相変わらず外からは怪獣が暴れているかと錯覚するような有様ではあったが、指揮官のどっしりとした態度によって、周囲は急速に落ち着きを取り戻していく。

「いいかこういう時はまずはオカシだ。……落ちついて、ゆっくり出口からから外に出るんだ。あ、ちゃんと銃と弾だけは持ってけよ」

そっと人差し指を口に当て、「静かに!」とジェスチャー。ほぼその場にいた全員が「おかし」ってなんだよ――――と頭の中で疑問符を浮かべていたが、逆にそれが良かったのか、ゾロゾロと移動を開始する。まるで小学校低学年の雑然とした避難訓練の様相を呈していたが、兎にも角にも、パニックに陥ることなく建物の外に出る事に成功したのだった。
しかし、問題はこの後である。

「――――で、これは一体何だと思うよ?」

めっきりアドバイサー? 参謀? の立場に相応しくなった北是にそれとなく相談する。繰り返すようだが、この男は別に専門家でも、ましてや軍オタでもない。とりあえず突発的にソレっぽい振る舞いをしていただけであって、いま何が起こっているのか、そしてどうするのが最善手であるのかを理解している訳ではない。ただただ直感的に良いと思った事をしているだけなのである。


「常識的に考えれば、アステカ軍の襲撃だろう。音から考えるに海から要塞に向かって撃たれている訳だから、海上からの艦砲射撃だ」
「なら話は早い! 敵が来たなら要塞に籠って戦うだけだ!!よーしお前ら行くぞお!!」

拳を突き上げ、兵達を引き連れて裏口から要塞に入って行くオリ主。当然、その副官である北是もそれに付いて行くのだが、基本頭空っぽのオリ主とは違い、むくむくと疑問が湧き上がってくる。それは先ほど自分が出した答えに対する疑問であった。

(陸軍主体のアステカ軍に海軍? それに、占領されたパナマでは無くこんな辺鄙な場所を態々攻撃してくるか? しかも今更になって…………嫌な予感しかしないな)

状況から導き出した最も妥当であろう解答が、どうもしっくりこない。何か大きな見落とし、もしくは思い違いがあるのではないか――――そんな形容しがたい不安に襲われる。
不穏な気配に震えが走った。南国のハズなのに、なぜか背筋が冷たいのだった。


「探せ探せ!! ――――バカ野郎そっちはもう調べた!」
「第三角塁が壊されました!」
「連隊長ぉお!連隊長ォオオオ!!」

やはりと言うべきか、要塞内は混乱状態であった。兵士たちがあちらこちらに走り回り、迷子であるかのような不安げな声を出しながら右往左往していた。新しいというよりも工事中とでも言うべき廊下を疾走して勢いそのまま作戦指示所に飛び込むと、そこには要塞守備隊の若い士官達が焦った顔を突き合わせていたのだった。「援軍に来たぞ! なにがあった!!」とオリ主が叫べば、驚いた顔のあと一瞬だけ喜び、そして再び渋い表情を浮かべる。


「ゴホン。ああ、君。何があったんだ?」
「あ、いや……」

北是が代わって問い直しても、どうにも明確な答えが返ってこない。もちろん現在攻撃を受けている事など百も承知なのだが、敵はどの程度の数なのか、対して現在どのような応戦を行なっているのかだとか、そういった戦況的なものを聞きたいのだがまともな返答がない。こうなってくると逆に困惑してしまう。
だが、しばらく逡巡した後にようやく若手士官たちのひとりが泣きそうな顔で、その理由が一発で察せる一言を言い放つ。

「その……連隊長、今どこにいるのか知りませんか?」
「……え?」
「さっきから探させてるんですけど、何処にも居ないんです。居室も見ましたけど――――ベットで寝た形跡すらないみたいで……」
「ふざけんなバカ野郎!! そんな事より敵から攻撃を受けているんだぞ!総員戦闘準備だ! 敵の船数はどれくらいだ!!10か?100か!?」

とここで、どうにも煮え切れない会話にしびれを切らしたオリ主が咆哮を上げた。責任者不在の状況よりも、撃たれてるんなら反撃するのが先だと、怒鳴り散らす。その迫力に押された士官のひとりが、答えるように一歩前へ。

「えっと――――はい。現在確認できる範囲では、敵はガリア王国軍所属のフリゲート艦が一、ソレに護られた同じく輸送船が二の合計三です」
「よし、ならこちらも反撃だ! 大砲を撃って撃って撃ちまくれ!」
「――――いえ、出来ません、です」
「あ?…………え?」
「なにぶん未完成というか、そもそも残党狩りの拠点程度の役割しか求められてなかったので――――大砲とか付いてないんです、この要塞」
「じゃあ、こちらから海に突撃――――」
「よし。ならお前が小船に乗って行ってこい何時も通り。その前に吹っ飛ばされて終わるだろうがな」

北是の冷静な突っ込みが入る。この段になってようやく、完全無敵のオリ主様の顔に、「あれ?」と感じるだけの冷静さが宿る。

「じゃあどうしようってんだよ!」
「それを決める連隊長を探しているんだよ。まさか連隊長御一人で逃げられた訳でもなし」


オリ主。ようやく状況を把握する。つまり彼らは責任者不在の緊急事態に困惑していたというよりも、この現在撃たれるばかりで一発の反撃も出来ないという、棺桶と化した要塞に籠っている現状に対して困惑していたのだった。
より端的に言えば、「マジで陥落五秒前」なので、逃げたいから許可が欲しい、な状態なのだ。

「とにかくそういう訳だから、早く見つけて撤退を命じてもらわなければ――――」

北是が「まて、まだ慌てるような時間じゃない」とでも言わんばかりの手ぶりと共に先を続けようとしたその時、扉が勢いよく開く。
「連隊長殿戦死! 連隊長殿戦死! 小姓の部屋で敵艦からの砲撃を受けられて戦死された模様!!」
「「「…………」」」


え、マジでヤバくね? どうすんのこれ俺達全員マジで死ぬんじゃね? ってか何でそんな所に居るんだよと、その場にいたほぼ全員が同じ思いを抱いた事は、互いに目配せで察する事ができた。

「――――クソッ惜しい人を亡くしたぜ! 俺に手柄をいっぱい立てさせてくれる、立派な上司だったのに…………っ!」

唯一の例外が悔しげにつぶやき故人を偲ぶと、再び皆が一斉に思う。
え、この人本気で言っちゃってんの? 
……見よ、この素晴らしい戦友同士の仲の良さを。皆が同じ思いを抱き、それが理解できる相互理解のなんと美しいことか。戦場にあってこれほどの宝があるだろうか、いやない。
だが、それはともあれ次の一手を決めなければならない。こうしている間にも砲弾が次々と命中し、その度に衝撃が走っているのだから。


「――――時に。こういう隊長が死んだ場合って階級的に、次に偉い人間が隊長を継ぐんだよな」
「ああ、その通りだ」

と、どこかで聞きかじった知識を確認する。恩人が死んだと言うのに、随分と切り替えが早いものである。それはソレ、これはコレ。流石現代っ子、人間に対してドライである。
とは言うものの、死んだ人間よりも生きている人間の方が優先されるので当然でもあった。

「それって誰?」
「要塞内に居る士官は此処にいるので全員です。れんたい――いえ、前連隊長は佐官でもバンバン首にしちゃって、今では僕達みたいな新任しかいないんです」
「――――全員少尉……か。まったくもってあり得ない現状だが、そうなると現在二つの部隊の内一方がもう一方を吸収する形になるだろう。よって両隊の隊長で先に任官を受けていた方が上位者として指揮権を得ることとなる。少なくとも、島の各地に派遣している部隊のなかで中尉以上の人間に指揮権を渡すまで。だが――――」

北是がソレに答えると、チラッと若手士官達に視線を向ける。
すると、その内の一人が代表して答えた。

「その、僕達は全員士官学校を繰り上げ卒業して急いで送られたから……任官したのはパナマに到着してからだったので――――」
「――――え? なに、俺?」
「誠に残念ながら、今から我々の隊長は君だ」
「そ、そうなの?」

自分から話を振ったのに、流れに微妙に付いて来れなかった男が急に皆から視線を向けられてキョドった。
本人の気持ち的には、その次の隊長が誰か教えてもらい次第、その人の元へ飛び出していくつもりだっただけに完全に予想外の展開。いくら最上位者が死んだとはいえ階級面で言えば、自分以上の人間はまだまだいると思っていたのだ。
だがしかし――――前任者は人事面で相当な無茶をやらかしていた。自分に意見できるような存在をさっさと追放し、己の放蕩っぷりを見て見ぬ振るをするしか出来ない様な身分の者しか残さなかったのだ。改めて思うに、彼はここに戦争をしに来たのではなく、バカンスにでも来たかのような振る舞いであった。

ドーンッガラガラ……! と、大きく何かが崩壊する轟音と震動。続いて「角堡がまたひとつ崩されました!ここにも流れ弾が……ッ」という悲痛な叫びがその後を追う。どうやら部屋の隅に金属のラッパの様なものが取り付けられており、そこから先ほどの声がしたようであった。小粋なインテリアだと思って視界からほとんど除外していたが、よくよく見ると同様な物が複数、列をなすようにして壁にひっついていた。恐らくは、これを使って指示を要塞中に送れるようになっているのだろう。
また、先ほどの報告以降、改めて意識をこのラッパもどきに向けて見れば、悲鳴やら破壊音やら、それぞれから切迫した現場の音が耳に飛び込んで来る。それらを聞けば流石に――もうこれは色々と無理なのは明白であった。

「一応、私たちの権限で兵達は比較的安全な場所で待機するよう命令しています。ですが、こうも撃たれ放題では時間の問題です」

若手士官達が、それとなく促す。今ならまだ、人的被害を最小限にできると。

「……ッ……ッ!~~~~ッッ」

今にしてようやく悟る。これは貧乏クジであると。神に祝福され、勝ちまくりモテまくり、札束風呂で美女を侍らすが如くの人生が約束されている転生先で、よもやこのような屈辱的な自体に陥るなど、不快の極地である。
――――いやまあ、オーストラリアからオリーシュに囚人護送されるという失態はあったものの、コレとアレとでは事情が大きく異なる、と本人の中ではそうなっていた。
なぜなら――――これより先は、自分の決断で行なうのだから。

「残るじゃねえか……俺が――――たって事が、歴史にさあッ…………!」

最強チートオリ主はその事実に顔を真っ赤にしてプルプルと震える思いであった。自己の行動が一生どころか未来にまで残るのかと思うと、決して消えない汚点を刻まされる気分であった。これならばまだ、死んだら灰になって消える分、額に「バカ」の字を刺青したほうがマシである、とまでちょっと冷静さを欠いている脳みそで思ったほどだった。
しかし…………しかしである。まさかここで総員夕日に向かって走れならぬ海に向かって玉砕アタックをかますほどトチ狂っている訳でもなく、それはそれとして、どうにもならない事を理解して飲み込めるだけの冷静さだけはかろうじて残っていた。だからこそ、悔し涙を浮かべながらも最強チート様(笑)は断腸の思いでその言葉を口にする。

「……逃げる」

ズカズカと大股で壁掛けラッパに向かって歩みより、大きく深呼吸した後に叫ぶ。

「逃げるんだよチクショウめ! 全員撤退!! ジャングルに逃げ込めええ!!」

悔しさと不甲斐なさをたっぷり込めた慟哭は金属のラッパもどきを通して瞬く間に伝わった。その際の大音声のおかげで、まるで要塞全体が敗北の不名誉に泣いたかのような震えを一瞬だけ見せる。かくして、新連隊長―――煉獄院朱雀少尉は同要塞の放棄を決定。部隊はジャングルへの敗走と相成った。

後年。何百回と勝利を飾っても戦勝率が100パーセントになることはないのだと思うと舌を噛みちぎりたくなる、などと本人が忸怩たる思いで評した敗北は、こうして歴史に刻まれた。
















払暁は既に過ぎ、太陽が周囲を明るく照らし出した頃。小船を降ろし、彼らは小人数ごとに上陸していった。白い砂浜にはマスケット銃を構えた兵隊たちがゾロゾロと続いて行く。砂浜にいくつもの足跡を付けながら目指すのは、目と鼻の先に在る敵要塞。
しかし、彼らを阻むものは何もない。夜明けと共に行なわれたフリゲート艦からの砲撃によって、完全に沈黙している。というよりも、反撃らしい反撃などなく、実はとっくに放棄されていて、無駄弾を使わされたのではという疑念すらあった。
ガンッ! 正面脇にあった扉を蹴り破り、突入していく。通路を抜け、幾つもの部屋を一つ一つ調べて行く。共通して、生活感の薄い、というよりもまだまだ日が浅く住人達の色が付く前の、新築特有の真新しさがそこにはあった。
ガリア軍兵士達は泥棒よろしく、手当たり次第に部屋に押し込んでは中身をひっくり返していく。その際、ほとんど金目のモノがない、というよりも内装すら未完成の有様にがっかりしながら、そこで見たものを報告していく。

「食料庫を発見。ほとんど手つかず」


実際に行ってみる。確かに、そこには食料が詰め込まれた袋が山となって積まれていた。その内の一つをナイフで裂いてみれば、大小様々な種類の豆が滝のように流れ出て行った。更にその隣に据え付けられていた調理場においては、調理途中と思しき大鍋がそのまま取り残されていた。中身は豆の煮込みスープであった。

「フム……塩味やな……」

突入部隊の1つを任されていたガリア陸軍貴族士官のヴォナパルテ少尉は眉間にシワを刻んだ表情のまま、おもむろに鍋の中にお玉を突っ込み、一口すする。それから、窯の中に残されていたパンや籠の中に入っていた果物をムシャムシャと手づかみで食べながら、先ほどこぼれ出て、そのまま足元に転がっていた豆を幾つか手に取ると部屋から出る。

「報告。武器庫には銃と火薬が持ち出されたあとがありやした。それと、指令所も」
「ッチッチ……ほな、先に武器庫に案内せーや」

歯に挟まったカスを無作法にツメでほじくり返していると、他の部屋を探索していた兵士の一人が駆けよってきて、そう告げた。「面白くない仕事はよう終わらせるに限る」と、つまらなそうな顔をしながら実際にその場へ行って確かめれば、確かに複数ある武器庫の中身は空っぽであった。銃を固定する台座だけが壁一面に残されているだけで、恐らく火薬を保管していたであろう空きスペースが寒々しくのこされていた。残留している火薬のにおいがこの広い空間に僅かに漂っているのみで、それ以外では、隅に小さな机がポツンと残されているのみ。
それに何気なく近寄ると、手に持っていた豆を何らかの規則に従って、机の上に配置していった。
上から見ると、中央に大きな豆が三個、そしてそれから距離を置いて、ソレらとは一回りも二回りも小さいものが複数散らばっている。

「あの、それは?」
突然の行動に、一体この人は何をやっているんだろうと思い、周りにいた兵士の一人が尋ねる。

「ここがワイら……で、こっちが敵どもや」
「ああ、なるほど」

味方が大きな豆で、小さな豆を敵と呼称する。
つまりは、これは指揮官が地図上に彼我の戦力を配置して作戦を思案する際によくやる手法なのだ。本来駒で行なうべきものを豆で代用し、地図を想像で補っているだけなのだ。

「いつものように朝メシ喰おうと準備しておったら、ドカン。せやけど戦う手段も頭数もないもんやから、スタコラサッサト逃げおった。恐らく主力は分散して島内に今もおる。用意されておった朝メシの分と要塞の大きさ的に考えれば――――」
「はあ……」

説明と言うよりも、自分自身の考えを組み立てるためにひとりごとを言い出したのを機に、周囲は何とも言えない空気が漂い始める。というよりも、彼は今日一日、朝からずっと不機嫌であったから、どうにも空気がギクシャクしていたのだった。だが、当人はそんな周囲の反応も気にしなかった。

「――――まあええわ。次、指令所はどこや?」
「あ、はい。こちらです」

武器庫から指令所までの距離は、実際かなり近かった。事故があった時のことを考えればある程度距離があってしかるべきなのだろうが、かつての要塞の主の性格上、武器の類は常に自分の目の届く範囲内に保管したかったのだ。ガリア軍の兵士たちは、地の果てからやってきた連中の考える事はよく分からんな、口々に言った。

さて、目的地までの短い距離の間でも、男はブツブツと自らの分析を誰に聞かせる訳でも呟いていた。相変わらず、ちょっと近寄りにくい雰囲気を放出している。

「要塞ん内におった少数の留守番兵は今頃せっせと逃げとるやろうな。ジャングルの奥へ奥へ……せやかて、連中はメシには目もくれず武器を真っ先にもってトンずらしよった」
「個人的には、何処へなりとも逃げてくれりゃ楽でいいんすけどね」
「アホウ! そんなんでどうすんねん。ワイの商売は戦ってなんぼや」
「といっても、敵さんはさっさと逃げちゃいましたが」

兵士に熱弁を振るう。どうやら、起こると思っていた戦闘が起こらずに消化不良だったことが不満であったようだ。しかし、その文句は逃げたオリーシュ側に言うべきことだろう。もっとも、突如として攻められた上に撤退したことにケチを付けられたのではたまったものではないだろうが。


「多分、いや絶対、このまま終わりとはならんで。なんせ武器を全部持って逃げたんや。ちゅーことはそういうことや」
「はあ――――」

そうこうするうちに、扉の前に辿りついた。すると、案内役が戸惑ったように振り返る。

「あの……ここです。ただ、実は内部の壁に文字が書かれてまして――」
「文字ぃ? なんやそれ」
「いや、多分ブリタニア語なんでしょうが、自分には読めないもので。もしかしたら呪いの言葉かも」
「教会でエラそうにふんぞり返っとるクソ坊主どもじゃあるまいし、気にしいやなあ。まあええわ、この目で直接拝見させてもらうで!」

バンッと勢い良く開け放つ。筆記用具と地図を広げるための大きなテーブル。そして、声を伝えるための金属管――――そして、「呪いの言葉かも」と兵士を困らせた件の文字が、壁に赤い塗料でデカデカと、そして荒々しい筆使いで残されていた。

I shall return
私は必ず帰ってくる


それはある意味で呪いの言葉よりもなおインパクトがあった。なぜなら、明確な戦いの布告であったから。

オモロなってきたな……っ! 

獰猛な笑みを浮かべたヴォナパルテ少尉は、今日初めて気難しそうな顔を崩して、心底おもしろい遊びに誘われたかのような顔をした。











あとがき
ただただ遅れてスイマセン……次は四月頭くらいには…………

追記 次回の投稿ですが、四月の頭ではなく四月中ごろに延期させてください。
PCゲーみたいに延期の延期とかしないように頑張りますので、どうかよろしくお願いします。


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