<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[40286] 近代編 パナマへ行こう!
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:6ce49dbd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/04/14 22:10
緋色の繊毛が美しい絨毯が、長さ十数メートルにわたって真っ直ぐ伸びている。その両サイドには自国産はもちろん、古今東西の文明から生み出された絵画、彫刻、調度品などの品々が年代別に並べられ、奥に行くほどより古い時代の芸術作品が鎮座していく。真っ直ぐ進めば進むほど、この国が積み上げてきた歴史の重みを歩く者に感じさせ、その最奥にいる者が至高の存在であることを印象付けるよう設計されている。
ここは神聖オリーシュ帝国の宮殿最奥に在る正殿、「天愛者の間」である。新帝の即位式を始めとした、様々な重要式典が執り行われてきた由緒正しき場に、今一人の人物が足を踏み入れ、そしてスダレで隠された壇上を前に膝を突く。

居並ぶ文武百官のひとりがそれを確認すると目配せひとつ、彼らは申し合わせていたかのように一斉に膝を付き、絨毯によって吸収されてなお響く鈍い音が、静寂な空間を満たす。するとそれが合図で在ったかのように、スダレの向こうに人影が現れた。

「パナマの地を預け、公王を称する事を許す。帝国への献身をゆめゆめ忘れぬよう忠勤に励むよう」
「はっ――――」

それだけ言うと、スダレの影は消え、後に残ったのは公王を許された男――否、これからもパナマ公王を名乗り続けることを許されたソレナンテ・コルテスのみとなった。
これは、勝者と敗者、降った者とそれを許す者が取り行なう、服従の儀式。現時点を以って、正式に海外領地パナマはアステカ帝国からの離脱と、ソレに伴う対アステカへの宣戦を布告することとなった。

(噛みついてきた狂犬の使いっ走りが)
と、ある貴族がコルテスに侮蔑の視線を送る。
(金にならない土地を掴まされたな)
と、ある財務系の官僚が頭の中でそろばんをはじく。
(家を買った奴から転勤させられるって噂、本当かな……)
と、最近結婚して家を建てたばかりの警備の兵士が内心で不安がっていた。

「…………」

そして、壇上に最も近い位置にいた男が、誰にも分からないように、薄く薄く笑った。対外的には怪我から復帰したばかりであるという触れ込みながら、そうとは思えないほどの血色がいい顔色をしたこの人物は、一言もしゃべらず、つつがなく式典は終了し、一同は解散となった。一人、また一人と作法に則って退出していく中、男は先ほどまで現皇帝であり、そして実の兄がいた場所を、熱量を持った視線で一瞥する。

「―――――ッチ」

そして、至近距離でも聞き取れない様な小さな舌打ちをした後、男、近衛元帥もまたその場から退出していった。



式典参加者達のお付きの者と共に、正殿の扉の前で待っていた近衛ユウは、偶然にもコルテス将軍の副官だった男と隣同士になった。もちろん二人には面識はない。
今日からは同じ帝国の臣民ではあるが、互いに矛を交えた以上、いきなり親しく談笑と言う訳にはいかない。しかし、逆に突っかかって行くという訳にも、場所や政治的な都合で出来はしない。こうして、互いが身動きを取れないという緊張感が辺りを支配し、その場にはかなりの人数がいるというにもかかわらず、私語の1つもなかった。彼らは自分達の主人が出て来ると、これ幸いとばかりにその場を去って行った。

そうしてとうとう、待ち人が扉を開いて現れた。

「父上。お待ちしておりました」

そこにいたのは近衛元帥だった。一応は勝者側の元帥と敗北側の副官が今この場に居合わせている事に少々戸惑いを感じるユウであったが、ぐっと飲み込んだ。

「ユウか。何の用だ?」
「これより正式に官職を賜ることとなりまして、宮殿に参りました。父上もこちらにいらっしゃると聞いたのでその御挨拶に」
「ああ、そう言えば戦争で延期されていたのだったな。忘れていた」

本来ならば帰国と同時に成人し、それに伴って官職を――具体的には軍人としての階級と役職を受け取るのだが、アステカとの戦争で有耶無耶になってしまっていた。そこで先の防衛戦での活躍をたたえる勲章の授与と、軍人としての任命式を両方行なう運びとなった。ユウが来たのも、その為で、たまたま時間的に余裕があったので父親に会いに来たと言う、いってみればただそれだけのことだった。そして、そこにはあわよくば父に自分の功績を直接語りたいと、極めて子供的で、そして至極純粋な感情の発露があった。親にほめて欲しいという子が持つ自然な思い。

「それよりも、随分と活躍したそうだな」
「は、はいっ! 父上の名に恥じぬよう、精一杯勤めを――――」
「自らの立場も忘れて張り切っていたそうじゃないか。戦場の熱気に当てられたか?」
「――っ!?」

だがそれは、情け容赦のない言葉で切り捨てられた。

「例え定義の上では帝族でなくても、お前にその身に流れている血は紛れもなくオリーシュ皇帝のそれと同じだ。まず第一に考えなくてはいけない事は、自身の身を守ることだったのではないか?」
「し、しかし父上……多くの兵と市民を見捨てては――」
「黙れ。もし人質になったらどうする? 戦死した時の影響は? お前はそれらを考えた上で、無謀な防衛戦を続けた。これは極めて非合理的と言わざるを得ない」
「――――」

淡々と、かつ冷たい視線で冷静に自身の行動を非難された事に、ユウは悔しさで口元を強く結びながら下を向くしかなかった。なるほど確かに、元帥の言い分ももっともだった。一生懸命と言えば聞こえはいいが、それがリスクと釣り合うかどうかはまた別問題だ。捕虜となって交渉のカードにされた場合、一都市の陥落では済まなかった可能性もまたあった以上、兵士に死守を命じてユウ自身は逃げると言う手段も道義的な問題は置いておいて政治的にはあながち間違いではない。
間違いでは無く、そして反論できない以上、ユウには耐える以外に選択肢はなかった。


「――ふん、まあ済んだことをこれ以上言うのも時間の無駄だろう。それよりも、だ。お前の任地は都市パナマにしておいた。そこで現地兵の指揮をしてもらう。頭を冷やして責任のなんたるかを今一度考えておけ」
「…………はい」
「ちょうどそこに現地の人間がいる。色々話を聞いておくんだな」

ここで近衛元帥は、副官の男を一瞥して言った。目の前で繰り広げられる親子喧嘩にしては陰湿な光景を、何食わぬ顔で眺めていた副官は、元帥の視線に敬礼で返し、言外に了解の意を伝えた。
それを見届けると、さっさと近衛元帥は立ち去ろうとして、不意に足を止めた。そして、至極つまらなそうな物言いで伝え忘れていた事をユウに伝える。

「ああ、お前が南方で拾ってきた蛮族の首領だが、一応士官としてお前の部隊に配属させておいた。褒美として少尉の階級を与えたら、二つ返事で志願したそうだ。未熟者同士、せいぜい頑張る事だ」
「な――――っ!」

ある意味、ユウにとって最も衝撃的な事実を言って、今度こそ近衛元帥は去っていった。


「お待たせ――っと、あれ、なにこの空気?」
「おや、お疲れ様ですコルテス様。いやはや、タイミングが良いのか悪いのか」
「?」

ユウは扉から出てきたパナマ公王コルテスにも気付かずに、しばし唖然としたままだった。














帝都オリヌシの南に位置する港には、現在数千人にも及ぶ人間が列をなして乗船に備えていた。この国では珍しい、欧州系の顔立ちをした者がほとんどだ。彼らは元アステカ兵の現オリーシュ領パナマの出身で、帝国の新たな臣民であった。この国に攻め込んで来た彼らは、故郷の陥落とパナマ公王の臣従に伴い、神聖オリーシュ帝国に忠誠を誓うこととなったのだった。そしてその証として、若年者かつ怪我を負っていない者を中心に、半ば強制的に志願兵として参加することとなった。
彼らは特別志願兵という区分で部隊を新設し、その名が示す通り、大部分をパナマ出身者で構成されていた。この志願兵部隊は6個の連隊に分割されたのだが、その内の一つである第501独立志願兵連隊の集合場所に、黒髪黒目の少年が混じっていた。民族的な特徴が極めてオリーシュ人に似ているものの、彼もまた外国人。というか、行世界から来訪した異世界人であった。

「おおっすげえ光景!」

場違い感を丸出しにしながらつっ立っている山本は驚きの声を上げる。
人、人、人……ジャングルでの戦いを意識してか、はたまた量産が間に合わなかったのか、単調で適当な作りの深緑色の戦闘服を着用している。そんな者ばかりが密集しているというのは、唯それだけで見る者を圧倒する。しかもマスケット銃とはいえ銃火器を装備しているのだから、迫力も五割増しである。
しかしここで思い出してもらいたいのは、山本は少尉の階級を持った軍人になった、ということだ。つまりこの中の人間達の極々一部で在るとはいえ、この若輩者は誰かの上に立って誰かを指揮すると言うことである。

「伝説は終わらない……これからどんどん作って行く、いや、作らねばならない――!」

クックックと不敵に笑いながら、神聖オリーシュ帝国陸軍少尉というたいそう立派な肩書を得た山本。しかし順風満帆とはいかず、大きな焦りを感じていた。
原因は、都市パナマの占領の一報が流れたことであった。つまりは、国中の注目が新たに帝国の版図に加わったパナマという土地、およびその作戦を全面的に立案した近衛元帥に集まったからだ。結果、山本とその配下による活躍は過去のものとなってしまい、いま新聞を騒がせているのはパナマ陥落作戦に関する特集である。
これに、山本の心中は荒れに荒れた。賞賛や礼賛がまるで横から奪われたような気分になったからだ。

ふっざけんな誰のおかげだと思ってんだ散々持ち上げといて忘れるとかマジなんなんだよ愚民どもがあ、と性根の腐ったような言葉を吐き捨てクダを巻いていたのだが、ふと我に返って考える。

おいおいちょいと待てよ煉獄院朱雀くん。いいか良く聞け、お前はこれで正式に軍人になったわけじゃないか。なら、これからいくらでも活躍の機会があるってことだろう? この前の功績がかすむくらいのビックなミラクルを起こせばいいじゃないか。焦るなよ。大丈夫だ、だってお前は神に愛されたオリ主様なんだから。

と、イブを誑かす蛇のようなねっとりとした口調で何者かが囁くのを聞いた山本。恐らくこれは内部の山本(悪)が語りかけて来たものなのだろうが、案外的を射ていた。

というのも、山本が送られた紙には任官に伴う役職や任地についても書かれていた。来る敵首都での決戦への備え、軍備拡張として国内の各都市で兵の募集と訓練が始まっている中で、同都市の出身者で構成された志願兵部隊、その小隊長に任命しようと言うのだった。

では、なぜ山本などという何処の馬の骨とも分からない少年にそんな誘いが来たのかと言うと、とにかく何でもいいから早急に陸の守りを固めなければならないという切迫した事情からだった。
現在、パナマは海軍が占領を維持している訳だが、なにぶん陸上戦力が皆無で在る訳で、大規模な攻勢をかけられれば艦砲射撃と陸戦隊だけでは敵の侵攻を止められない。加えて、南のインカ帝国とも国境を接する事になった訳で、火事場泥棒がないとも断言できない。
パナマは敵首都と密林を隔てて隣と言ってもいい土地な訳だから、敵地侵攻への足掛かりとしても決し失ってはならない。

だが、急速な軍備拡張は兵士を用意できても、部隊を指揮する指揮官となるとそう簡単にはいかない。退役した士官などを急きょ呼び戻して活用しても定数にはまったく届いておらず、ついには指揮を出来る者ではなく出来そうな者でも片っ端からかき集めることとなり、既に一応は実績がある山本にも声が掛ったと言う次第だった。
当然、山本を合法的に抹殺するという意思などもあったのだが、このような事情などさっぱり知らない山本は即刻同意。そのまま指定された場所までノコノコと出向き、略式の任官の儀を取り行なわれ、神聖オリーシュ帝国陸軍少尉、煉獄院朱雀が誕生したのであった。ちなみに、本名でなくソウルネームで任官する面の皮の厚さは流石オリ主と言ったところか。別に褒めてはいないが。

「……そんで俺が乗る船はどこだろ? そこの前で受付するらしいし……えーと確か、所属は第1連隊……つーかこの1ってのも運命を感じるぜ。俺がナンバーワンだ的な……ムフフフ」

山本は気味の悪い笑い声を上げながらキョロキョロ。自分がこれから乗り込むこととなる船を探して歩き始めた。





「伝説は終わらない……これからどんどん作って行く、いや、作らねばならない――!」

人の波をかき分ける元アステカ兵の少年は、不審な男を見かけた。なんだか一人の世界に入っていると言うか、ブツブツと何事かを呟いている様子に、なんだか切ないものを見たような気分にさせられた。
少年はそれを生温かい顔をしつつ、見なかったことにした。きっと、彼も戦場で色々とツライ目に合って、ちょっと頭が可哀そうになっているのだろうと、むしろ悼むような気分でその場を後にした。
背中の背嚢の位置を軽く直して、改めて目的地に向けて歩き出した。

「えっと……モウ少し奥デスね」

隊長の形見であると同時に略奪品であるライフル銃も一緒になって背から突きだしているが、それを咎める者はいない。これもまた急速な軍備の拡張に間に合わなかったことの弊害で、多くの兵隊がアステカ軍時代の銃器を利用していた。唯一違うのは、手抜きとしか思えないほど簡略された深緑色の軍服だけだった。服一着で、戦う相手が変わる事に、少年はなんだか悪魔に化かされているような気分にさせられた。

「なぜ! なぜ僕が飛ばされて! お前達が本土に残留なんだあああ!?」
「? 何でしょうネ? 妙に騒がしいデス」


そこには一種異様な空間が広がっていた。眼鏡をかけた、恐らくはオリーシュ人と思われる将校と半裸の男達。一方は自分たちと同じ服を着ていたから、同じくこれからパナマに向かうだろうと思われた。しかし、もう一方の男達は、まるで見送りに来るかのように振る舞いつつ、眼鏡の将校と剣呑な空気を放っている。一体どんな関係性なのかと疑問に思いつつ、少年は先行きの不安を感じて溜め息を吐いた。
少年の名前はカルカーノ。都市セッキョーに一番に乗り込んだ者達のなかで、幸運なことに一発の被弾もなく逃げる事に成功した者であった。
カルカーノもまた、自らが指定された場所に向けて、半裸男達に背を向けて、再び人をかき分けるように進み始めた。






「なぜ! なぜ僕が飛ばされて! お前達が本土に残留なんだあああ!?」
「はあ? 知らねえよンなもんよお」

人でいっぱいの港の一角で、そこだけぽっかりと空白が発生していた。半裸の男集団と、眼鏡をかけた神経質そうな男が言い争いをしているので、誰もが距離を取って避けていた。その中心地で、眼鏡の少年が絶叫する。北是である。
先の都市セッキョーでの戦いの後、彼もまた義勇軍の関係者として同様に隔離されていた。
元々オリーシュ軍の士官であるという事もあって別段不自由する事もなかったのだが、何故か原隊復帰の希望は通らなかった。義勇軍での任務からも解放され、晴れて普通の仕事に戻れると思っていた北是は、この決定に憤慨した。しかも、あれよあれよという間に北是は志願兵部隊に派遣されることとなってしまったのだからたまらない。本来の制服ではなく、士官なのに手抜き感満載の兵卒用の制服を着させられている事は、屈辱の極みだった。


「あり得ない…… これは陰謀だ!!」
「あー、なんか前聞いたんだけどよぉ、エーテンとかいうらしいぜぇ?」
「これの! どこが! 出世なんだよお!!」
「てかさ、おい」
「ああ!?」
「これ、見てみな」
「た、大尉の階級章?! はあ?!」

そして最大の追い打ちが掛る。北是が憚りもせず見下している半裸の男が、なんと自分より高い階級を与えられていることだった。ピカピカと光るその階級章は、紛れもなくオリーシュ陸軍の大尉のそれだった。まさに悲報。軍務一筋、これまでコツコツと真面目にやってきた北是は、ここで蛮族を体現するような、ほとんど裸の、ロクに服も着れない男より下の立場に立ってしまったのだ。ピクピクと、額の血管が震えた。

「なんか馬を率いる隊長なら、これくらいの箔がないとダメ? とか言われた。そんでよ、これはお前が付けてるのよりエラいらしいじゃん?」
「ギリギリギリッ」

理不尽極まりない話ではあるが、聞けば納得する理由であった。繰り返すが、オリーシュでは大規模な軍拡を行ない、その大半を新大陸へ派兵する事になっている。しかし、再び敵意ある外国軍の上陸を許す訳にはいかないということで、北の無人地帯に専属の哨戒部隊を置くことが決定された。それに、山本と北是が率いた義勇軍がその任に当たることになった。しかし、仮にも騎兵を率いる将校が少尉では格好がつかない。ということで、いきなり大尉という大層な階級が宛がわれることになったというのが事の真相である。最も、完全なる僻地に飛ばされて決して都市圏には入れないような任地なので、普通の将校ならば受けたがらない仕事であるから、その埋め合わせと言う側面もあった。
しかし、階級は階級。少尉と大尉ではまさに目に見えた格差がそこにはあった。

「ま、お前とは拳で語り合った仲だけど、なあ」

それを知ってか知らずか、この蛮族オブ蛮族は北是の肩に手を置き、ニタニタと笑いながら言うのだった。

「まずは軽く、ナマ言ったお詫びとしてドゲザ? とかいうのを――――」

この言葉に、遂にキレた。堪忍袋とか、血管とか、理性とかをぶっちぎった時、北是のリミッターは解除され、渾身の力で拳を握り、撃ち抜いた。
ひでぶっと言ってカタが吹っ飛んだ。世界を目指せるアッパーカットであった。

「上等だてめえらどいつもこいつも舐め腐りやがってオラア!!」

北是は咆哮をあげ、拳を握りしめてモヒカン達に躍りかかった。血走った眼で飛びかかる姿は、まさにファイターであった。


(あいつら、仲が良くなったなあ)

人混みの中で乱闘騒ぎを引き起こしたため、多くの人の注目を浴びることとなった彼らは、非常に目立った。山本は人のざわめきの中心に何となく吸い寄せられるように現場まで辿りつき、そんな感想を抱いた。

(あのモヒカン共ともこれでお別れかあ)

元気に暴れまわる彼らを見て、山本はしみじみと思った。よくよく考えなくても、この世界にトリップしてから一番付き合いが長いのが彼らだった。セッキョーでの戦い以来、顔を合わせていない。ただ、それぞれに違う道を歩む事だけは知ってはいた。かつて一緒にヤクザまがいの事をやっていたカタは騎兵を率いる隊長のひとりとして、本土に残って士官としてのキャリアを積んでいくとのこと。

(あばよ、戦友。達者でな)

正直愛着など欠片も抱くとは思っていなかった連中ではあったが、それでも共に戦い、ここまできたのだ。それなりに思う所があった山本は、しかし特に挨拶をせず、心の中で別れを告げるのみにとどめた。仲よく殴り合って別れを惜しんでいるのを邪魔したくないという思いか、それとも湿っぽいのは嫌いという単純な想いかは本人にも定かではないが、山本はそのまま立ち去っていく。

「あ」

そして、その途中に見知った姿を見かけた。
周りにお付きの者を侍らして歩く近衛ユウであった。近衛は打ち合わせをしているかのようで、書類を片手に喋る側近に了解を表すように頭を軽く縦に振っていた。当然その一行は目立つ訳で、例にもれず山本もそれを目で追っていた。そして、本当に偶然、ふと視線を横にズラしたユウと目があった。

「あっ……」
「よお久し―――-」
「――――ッ」


だが、視線が合っていたのはほんのわずかな間だけであった。ユウは痛みに耐えるような顔を一瞬だけ覗かせると、山本への視線を切る。そしてそのまま立ち去ってしまった。ほんの短い間とはいえ、唯の知人とはもはや言えない様な関係になったと思っていたので、このような半ば無視されたような状況に山本は首をかしげつつ、「まあ忙しそうだったし」と、特に何の葛藤もなくそう納得した。
親しい人間がわざわざ再び危険を冒そうとしていることへの心配と怒り、そして友情と恩義を感じている者にこれから部下として接しなくてはいけないことへの罪悪感――――そんな諸々の事で心を悩ませている事など気付きもしない能天気な山本であった。
そして、そう言った心の機微を知らずとも時間は流れる。太陽が彼らの頭上に上がる頃、出港前のささやかなセレモニーが開かれていた。



「あ、誰か出てきた」
「随分若いな――――身体の線も細い」

即席の演説台が組まれ、そこに近衛ユウが現れた。所属ごとに船の前で整列させられていた志願兵達を前にその年若い指揮官が現れたことで、兵たちはヒソヒソと感想を述べ合う。大半が、「おいおいなんだよこの弱そうなヤツ」という否定的なものであったが、そんなざわめきを押しのけるように、近衛は良く響き、かつ耳に心地よい音色で声を張り上げる。

「親愛なる兵士諸君! これより、君たちの生命は私が預かることとなった!!」

確かに若い。まだ少年といった方がいいような年齢ながらも、高貴さを滲み出させるような声色は、兵たちを強引に納得させる。彼こそが自分達の長であると、理不尽に思いながらもそう理解せざるを得ない力がその声にはあった。

「これより我々は都市パナマへと渡り、当地の防衛任務に就く、各自の奮励努力を大いに期待し、武運長久を祈る!! ――――乗船開始!!」

ラッパや太鼓、そして声楽隊が美しいハーモニーを響かせながら勇壮な音楽が流れ始める。新たに将軍となった近衛ユウ少将の激励の元、六個連隊、全六千人の兵士達が、それぞれの輸送船に乗り込んで行く。
その中には当然、自分を信じる能力だけは世界最高峰の少年の姿もあった。桟橋を踏みしめながら歩き、胸を高鳴らせる。

(さあ新しい戦場へ連れて行け。この前はすり抜けて行きやがったが、今度はきっちり掴んで離さない。覚悟して待ってろよ)

こうして、煉獄院朱雀こと山本八千彦は再び海の上へ。そこに取りこぼした栄光があると信じ、新たな土地へと旅立って行った。彼がその目的を達成できるか、それとも志し半ばで屍をさらすか――そんな事はまだ分からないが、少なくとも彼以上に彼自身の栄光栄達を確信している者はいなかった。少なくとも、この国では。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028197050094604