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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:95ce0ae2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2018/04/16 01:33
天候は雷雨。滝のように流れる雨と低く響く雷の気配の中で、男達は戦っている。馬の嘶きと悲鳴、怒号、助けを乞う言葉、流血と雨で瞬く間に体温を奪われた骸……それら一切を内包している。
そんな環境下にあって、山本と逸れた北是少尉の戦いもまた始まっていた。

「砲! 砲! 砲だ! それ以外は無視してとにかく敵カノン砲を破壊しろ!」
「ホウってなんだあ? 鳥かあ!?」
「アレだよアレ! あの木の車に乗っている金属の筒だ! 木の部分だけでもいいから叩き壊せ!!」

馬上から、声を張り上げて指揮を執る。本来ならば山本が行なうべき諸々の仕事を代行していた北是は、戦闘であってもそつなくこなしていた。自分達が背後から強襲した部隊がどうにも攻城の主力である敵カノン砲部隊である事、そして数が少なく唯一の砲兵隊である事をすぐさま察知し、敵から火力を奪うことを最優先する。
モヒカン達が馬に乗って敵兵を追い回す一方で、カノン砲の木製の台車部分を破壊していく。砲は言ってみれば鉄の塊であり、筒だ。これを運ぶのも発射するのも、砲の台車部分――すなわち砲架がなければ始まらない。砲架が存在しない砲など、ただの鉄屑に過ぎない。この時代の戦争は歩兵、騎兵、砲兵の三つの兵科が戦争の勝敗を決していたが、とりわけ城攻めといった防御施設を破壊する戦いにおいては、砲兵が放つ遠距離からの火力がなによりもモノを言った。そしてこの火力が野戦においても支援と言う形で大きな力を生む事も。だからこそ、北是は最優先でその火力を奪う事を専念させたのだった。
その際、逸れてしまった山本の事は思考の脇において、目の前の仕事に集中する。モヒカン達が其々の方法で砲架を破壊していった。手際はハッキリ言って悪いが、それはある意味仕方のないことだった。彼らも、そして北是も同様にこのような戦いは全くの未経験なのだから。むしろ、そのような素人集団でありながら着実に戦果を上げているのがおかしいくらいだった。

(早く、早くっ…………ッ!)

そんなことを理解しつつも、北是は焦りを感じずにはいられない。もっと早く、敵が体制を立て直す前に速やかに敵を弱体させなくてはと焦る。北是はその焦りを早速、砲を守ろうとする兵士でもって発散させることにした。馬を嗾け、サーベルを振り上げて疾走する。自身に向かってくる騎兵の存在に気がついた兵士も、銃剣を構えて迎え撃つ構えを見せる。

「くたば――――っ」
「お前が死ね!!」

血の帯を引きながら、雨空の向こうに放物線がひとつ出来あがる。シャンパンのコルクが抜けるように飛んでいく兵士の首は、やがて万有引力の法則に従って地面へ。後に残るのは眼鏡に付着した血痕。だがそれも元々突いていた雨粒が混ざり合って消えてしまう。一瞬だけ視界が赤く染まるのを、北是は裾で軽く拭って解消すると、不意に誰かが大声を上げた。



「おい! 前の方に派手な服を着た連中がいるぞ! やるか!?」



順調に大砲を乗せた砲架を破壊していく中、一人のモヒカンがそう叫んだ。とっさに顔を上げて前を見つめると、雨に隠れて味方の方向へ――この場合城攻めをしている歩兵部隊に向かって―――逃げて行くアステカ軍の将校の姿を発見した。服装的にかなりの高位、おそらくは遠征軍を率いる将官クラスで在ることを看破。そしてその瞬間、北是は決断を迫られた。

(どうする? このままカノン砲破壊に専念するか、それとも敵将を捕らえに行くか……)


敵は突然の奇襲に混乱しており、事実大切なハズのカノン砲はほとんど即席と言った体の守備隊を撃破した後は丸裸も同然の状態にする事が出来た。そして混乱は現在も継続中であり、組織だった抵抗は無く、孤立した兵が個人的な武勇を頼りに点々と抵抗を続けている程度だ。これならば、じきに全てのアステカのカノン砲を破壊できるだろう。
だが、ソレをしていれば敵将は味方の部隊に合流してしまう。そうなればもはや将軍の捕縛は不可能となってしまう。
ならば将軍の捕縛が今ならば簡単化と言うと、はたしてそれも怪しい。将軍クラスならば身の回りには精鋭が護りを固めるハズだ。もし万が一それらに阻まれてしまい将軍を取り逃がしてしまえば、その分カノン砲を潰せる時間を浪費してしまうこととなる。
奇襲はいつまでも効果を持続できない分、時間が膨大な価値を持つ。その価値を投資した分のリターンがあるかないか、要するにこのまま手堅く戦いを有利に持っていく布石に専念するのか、それとも一気に戦いを終結させる勝負にでるのかの違いだった。

(どうする……どうする?)

北是少尉は、降って湧いた重要な決断にしばし逡巡する。自分の判断が祖国の命運を決めるかもしれないと思えば、そう易々と判断を下す訳にはいかない。リスクとリターン、失敗した場合のリカバリー等をあれこれ考える中、ふと頭に浮かんだのは、幼き日の、とある女性に関する記憶だった。

『私、勇気がある大人の男の人が好きなの。ごめんね坊や』

あれは何時の日のことだったか。前後の記憶も定かでない曖昧な在りし日の情景で、そのような事を言われた事があった。多分、自分はその恐らくは年上の女性の事が好きだった。まだ物心がつくか付かないかの頃であったから、多分好きと言っても男女のそれでなく憧れのようなものだったのかもしれない。あるいは、子が母に懐く様な気持だったか。
北是には、母親が居ない。まだ赤ん坊のころに病死してしまったから。故に、女性という存在になにか神聖で尊い何かを強く感じる人格になってしまった。それは北是自身にも自覚があるが故に、その発言に対しても、子供なりにとりわけ敏感に反応してしまっただけなのだとも理解している。だが、しかし。それでも。

「総員傾聴ぉおおお!」

その言葉は自己を縛る。情けないと思われたくない、臆病となじられたくない、人に――ナメられるのは我慢できない。

「砲の破壊を中止! 総員前方に向かって攻撃せよ! 目指すは敵将――あの派手な服を着た男に向かって突撃!!」
「「「ヒャッハアア!!」」」

奇声を上げながら、それに突き従ったモヒカン達は、逃げ惑うアステカ兵を馬で踏み倒しながら再度突撃していった。




「見つかったか!?」
「……はい将軍。そのようであります」

即席の防衛線を突破された後、僅かな護衛と共に退避しようとしたコルテス将軍は、ついに自分が敵に補足されたことを悟った。先ほどアステカ人特有の病気を発症した大使殿であったならば喜んで迎撃戦を行なってくれただろうが、彼を置いて逃走中のコルテス将軍には、すでに数人の兵士しか手元にいない。
先頭にはオリーシュ軍の制服を着た若者が、馬に乗って真っ直ぐ自分の方へ向っている。その背に多数の部下と思われる騎兵がつき従えている事から考えて、目的は自身の捕縛、もしくは排除であることは誰の目にも明らかだった。そしてその場合に導かれる結論も。

(負けた、のか……?)

コルテス将軍は、苦悶の顔で敗北を認めた。序盤を優位に進めた遠征軍が、たった一手の奇襲でよもや虎の子のカノン砲部隊を蹂躙され、敗北寸前にいたるなど誰が予想しただろうか。もしも予備兵力を残していれば、もしもあの時、毅然と総攻撃のタイミングは自分で決めると主張していれば、もしも後一日進軍のスピードが早ければ、もしも、もしも……そんな風に、頭の中であり得た可能性を夢想するコルテス将軍。


(いや、そもそもこの遠征自体が最初からおかしかった。一国を攻め込むには足りない兵力。護衛もない航海に、唐突な出征命令……)


頭の中で沸き上がる疑問。本当は当初から感じていた違和感を改めて認識するも、現実は非情。いくら考えた所で起こってしまった結果は覆らない。覆らないならば、せめてまともな敗北に着地させるのが、いまのコルテスに残された最後の仕事だった。

「降伏を――――」
「それはいけませんよ将軍」

白旗を準備させようとした将軍に待ったをかけたのは、自身を守っている護衛のひとりだった。その兵士は雨にぬれた顔で、それでもなお何かを受け入れたような顔つきをしていた。みれば、身の回りの兵の全てがそうであった。彼らは一様に、将軍であるコルテスを見つめていた。


「大切な火力の喪失。これではもうまともな戦争は出来ません」
「であるならば、現状敗北は必至であります。が、それでも突っ張らなければならないときがありましょう」
「それには、将軍がこちら側にいてくれなければ見栄を張ることもできません」
「私達は今日までアステカの兵士として戦ってきましが」
「しかし、最後は我々の為に戦いたく思います」
「200年前の爺さんたちの負債で戦わされるのは、もうウンザリでありますから」
「死ぬときくらい、故郷の為に戦いたいのです」

かわるがわるコルテスに訴えかけて来る兵士たちの瞳は、口以上に語りかけて来る。故にコルテス将軍は、彼らの意志と、彼らがこれから行おうとしている事を一瞬の内に察してしまった。

「まっ……!」
「お逃げください将軍……パナマ万歳!」
「万歳!」
「我らが故郷! パナマばんざーい!!」

止める間もなく、兵士たちは口々に万歳を叫びながら騎兵に向かって生身で飛び込んで行った。


「捨て身の突撃だと! 侵略者共が殊勝な真似を……!?」

将軍を守るために決死の突撃を敢行してきたアステカ兵に対し、北是は驚愕しつつも冷静に事態を受け止めていた。なるほど、確かにその勇気と献身は讃えるべきものだろう。だが、世の中は勇気と献身だけでなんとかなるほど甘く無い。事実、これまで馬の突撃で幾人ものアステカ兵を蹂躙してきた。いまさら気合いだけでどうにかなるなどと思えなかったのだった。
しかし、北是のこの読みは外れた。

「パナマばんざ――――い!!」
「んなっ!?」
「ヒヒィーーン!!
「ヒャハッ!?」

先頭を走る兵士が、あろうことか馬の脚に思い切り体当たりしたのだ。これにより、馬は盛大に転倒し、それに伴い北是は宙に放り出された。更に、次々と兵士が同様に後続の騎兵へと捨て身の突撃を敢行し、落馬した者が続出してしまった。こうなってしまえば、騎兵の優位は完全に失ってしまった。

「っくそ! やってくれたなぁ……!!」

受け身を取ることでダメージを最低限に抑えた北是は、鋭い視線で倒すべき敵の姿を見定め、拳を握りしめて駆けた。先ほどまで持っていたサーベルは落馬時に手放してしまったので、武器は無い。故に素手で在ったがそれでも構わないとばかりに北是は絶叫しながら銃剣を構えたアステカ兵に向かって突進した。

「ハッ! 馬から落ちた騎兵など――――」

だが、そう言いかけたアステカ兵は次の瞬間には宙に浮く。襟首を掴まれ、引っ張られたのまでは認識出来た。だが、それから一瞬のうちにまるで風車のようにくるりと回転したと思ったら、自身の肉体は地に伏していたのだった。あまりの唐突さに何が起こったのか分からないという顔の兵士だったが、その疑問を解消する前に、首に全体重を掛けられて骨をへし折られ、息絶えた。

「生憎と、僕は騎兵じゃあないんで。だが……逃げられたか」

元々寡兵であったのが、馬への特攻で更に数を失ったコルテス将軍の護衛は、モヒカン達の怒りの逆襲によって瞬く間に駆逐されてしまった。だが、彼らの犠牲によって移動手段が奪われ、なおかつ貴重な時間まで稼がれてしまった。見れば、将軍の背は遠くにあり、今からでは捕縛も排除も不可能だろう。

「侵略者のクセに……」

北是は馬に轢き殺されてミンチになってしまった敵兵の姿を見ながら、複雑そうな顔で彼らの冥福を、ほんの少しだけ祈った。




――――そしてその頃山本はというと、絶賛命の危機に瀕していた。




「ハッ! ハッ! ハッ!――――ッ!!」
「どうしたあ!! 弱い! あまりにも弱すぎるぞ!?」

上、左右、そして掬い上げるような軌道で間髪いれずに振るわれる剣に、山本は必死に抵抗する。運よく手にできたマスケット銃を両手で構えて盾にし、ギリギリの瀬戸際で踏ん張り続けるも、すでに限界は近い。
冷たく激しい雨で視界は悪く、体温は徐々に低下し、指先の感覚は寒さと剣を受け止めた衝撃で既にしびれ始めている始末。いや、そもそも限界など最初の時点で既に突破していたに等しい。武芸の経験も素養もない山本が、目の前の戦闘民族の様な半裸蛮族に未だ殺されていないのは、つまるところ手加減に依る所が大きかった。

(コイツ――――楽しんでやがる!)

徐々に抵抗力を失って弱って行く獲物。それをジワジワとなぶり殺しにすることを楽しむように、山本が防げるか防げないかの境界線上で加減されているのだった。だからこそ今もなお、なんとか命だけは保っていられると言うのが現状だった。匙加減一つで首が物理的に飛ぶというのが正しい認識であるといえる。

「やはり戦いはいい! 交渉などというまどろっこしい真似をせずにすむ! 奪いたければ奪い、気に入らなければ征服する! ああなんと単純で分かりやすいことだ!!」
「ハアッ! ハアッ!し、知るかボケ!」
「だまれ弱者が囀るなあ!」

楽しそうに語る様に大して、抵抗するように怒鳴る山本。そして、その直後に唐突な蹴りで吹き飛ばされた。急な腹部への攻撃に、思わず蹲る。

「お前は死ぬのだ! お前は弱いから死ぬのだ! これがこの世の道理であり、混じりけのない真実!」
「うっ! うえ…………!」
「全く以って不愉快だ。これだけ鮮烈な奇襲を行なったのだからさぞ勇敢な戦士と思えばこの体たらく――――だがもういい。その心臓、我が神に捧げよう……!! 貴様の心臓は、まあせいぜい太陽を生き永らえさせるのに数秒分の価値だろうがな」
「ぅ……ク、クソ……」


こみあげて来る嘔吐感を強引に押し込めるが、もはや反撃するだけの力も残っていない。泥水にまみれ、至る所に切り傷を負い、衣類を血に染めている満身創痍の山本には、せいぜい悪態をつくのが精いっぱいと言う風に睨み上げる。だが悲しいかな、視線で人は殺せないし、身を守る事も出来ない。

(死ぬのか……こんなところで?)

頭をよぎったのは、死を受け入れるような考えだった。所詮自分は、チート転生者ではなかった、唯それだけなのではないかと言う思いが徐々に脳内を満たしていく。だから仕方がない、死ぬときは死ぬ、主人公以外は物語に語られることなくひっそりと舞台から退場していく……そんな言葉が現れては消えて、そして再び現れる。


「貴様の心臓は、果たしてどんな色をしているのか見せてもらおう……!」


眼前で天高く降り上げられる剣。ああ、あれが降り下ろされた瞬間、自分の生命は尽きるのだと無理矢理にでも思わせる。雨にぬれた白刃のきらめきは、さしずめ死神の鎌といったところだ。だが――――

(ふっざけんなよ……!)

こんなに易々と自分を諦めるような男なら、山本はそもそもこんな所には来なかった。今頃逃亡用に宛がわれた船に乗って、ガタガタ震えながら外国へ脱出していることだろう。否、そもそもこの世界に降りたって最初の三日で野たれ死んでいた。今日まで山本を生かしたのは、結局のところ、馬鹿と紙一重の適応能力、及び強運以外にない。そしてその幸運とは――――――いつも最後まで自分をあきらめない者にこそ巡ってくる。
山本は強く思う。もしも自分が神からこの地に遣わされたのならば、こんなところで死ぬべき存在ではない。そう、もしも自分が――――

「本当にオリ主ならば! 俺は……!!」
「死ねい!!」

降り下ろされようとしている凶刃を最後まで睨みながら叫ぶ。そしていよいよというその時――――山本の視界は青白い光で満たされた。





もしも神がいたのならば、それは決して博愛主義者ではない――――と、北是は思った。馬を走らせ一心不乱に敵将めがけて殺到した結果、確かにアステカ遠征軍の将であるコルテス将軍を射程圏内に捕らえたものの今一歩のところで将軍の捕縛に失敗してしまった。そこから再度馬をモヒカンのひとりから調達し、ダメ元で追撃をかけようとした次の瞬間、途中でいつの間にか逸れてしまった山本の声を聞いた。とっさにその方向を見れば、数瞬後にはアステカ兵と思わしき敵に切り殺されようとするような際どい姿であった。

(あの馬鹿ッ!)

と心の中で悪態をつく。こうなってしまっては、もはや助けに行っても助からない。一秒と満たない時間で山本の生命を救う事は人間には不可能だと判断した。だからこそ、せめてその最後を見届けてやろうと言う気になった北是は、自分の心境にむしろ驚いた。自分と山本の関係は、お世辞にも良好とは言いにくい。むしろ憎み合っても別に不思議ではないくらいだ。だが、そう思ってしまったというのは、少なからず自分が臆病者にならずに済むよう、背中を押してくれたことに感謝しているからかもしれなかった。

(…………チッ)

あるいは、先ほど命がけで味方を逃がそうとしたアステカ兵の姿にらしくもなく感傷的になっているのか。
だが、そんな男は死ぬ。これも戦場の掟だ、せめて苦しまずに逝ってくれと祈りを捧げようとした時、奇跡――というよりひどい贔屓――が起こった。

たびたび繰り返すが、現在の天候は雷雨。そして、頭上にただよう雲は黒い雷雲で、さきほどから低い雷鳴を響かせている。いずれはどこかに落雷と言う形で放電するだろうと誰もが予想した。だが、はたしてそれが、特定の人物を助けるように落ちる確率は、数字にしてどの程度であるだろうか。
北是は、ぶすぶすと煙を上げる炭化した敵の姿と、その前で尻もちをついて放心している山本の姿を見てつくづく思った。もしも神がいたのならば、そいつはとんでもない贔屓を平然とするヤツだ、と。



戦場の喧騒は、しばし静寂に包まれた。相変わらずの激しい雨の音が全ての音を一切合財洗い流すかのように、降り注ぐ。遠く、アステカ軍の銃兵とオリーシュ軍の守備隊が懸命に戦っている様子を伝える音だけが、遠くから伝わるくらいだ。
皆が皆、目の前で起った現象を飲み込むために精一杯であり、この男、山本八千彦もそれは同様であった。

「雷……? 助かった……??」

呆けるように呟いた言葉が、全てを端的に表した。事実を抜き出して言えば、偶然落ちた落雷が、たまたま山本を殺そうと振りかぶられた剣に吸い寄せられ、その持ち主が感電死したことで山本が結果的に命を拾ったと言うところだろう。
事実、先ほどまで山本を嬲っていた敵は、黒く変色して絶命。タンパク質が焼ける嫌なにおいを発する以外の全てを停止させている。

「ふひっ!」

知らず、山本の口から奇妙な声が漏れた。余りにも出来過ぎた状況に、喜んでいいのやら怒っていいのやら、あるいは呆れればいいのか分からなくなった。周囲があり得ぬ事態から立ち直って再び騒ぎ出しても、山本は湧き上がってくる良く分からない感情に翻弄されるばかりで、脳みそが稼働する事は無かった。ただただ、不可思議な感覚にとらわれるばかり。

「おい煉獄院! さっさと乗りたまえ! これから味方に合流する!!」

そんな風に誰かの手に引っ張られて馬に乗せられ、馬にゆられながらどこかに行く。いや、味方に合流するのだから都市セッキョーを守る守備隊がいる方向なのだろうが、山本の頭は決してそれを認識するだけの機能を取り戻してはいなかった。ただ流されるままに、促されるままに動く。そしてそれは、突如現れた騎兵隊に背後を突かれたことで混乱したアステカ軍銃兵の中を無事突破するまで続いた。











「誰か!」

と、誰何の声を聞いた北是が事情を説明した頃。本部から単身飛び出した影があった。近衛ユウだった。

「だ、大丈夫か? おい!?」
「――――あ」
「怪我は痛まないか? その格好は……?というか、どうしてここに? いや待て、何から聞いたものか私も分からないが、とにかく大丈夫なんだな!?」
「お、落ちつけよ。俺はただ助けに…………」


ユウは放心状態の山本に駆けより、その身体を揺さぶって安否を気遣う。その突然の行動に面喰う北是だったが、遅れて現れた幕僚に事情を説明されると、慌てて馬を下りて棒を飲んだ様な直立不動の敬礼を行なう。だが、ユウは本来それにたいして敬礼を返さなくてはならない事を忘却し、ひたすら山本の身を心配していた。
ひどく取り乱す近衛と、夢見心地のように目の焦点が定まっていない少年。この二人のやり取りを不思議に思った幕僚は、現状が現状なだけに「とりあえず中に!」という言葉を言おうとしたその時――――俄かに雨がやんだ。そして雲の切れ目から、一筋の光が差し込む。別名天使の梯子とよばれるソレは、いまだ急転直下の事態についていけない末端のアステカ軍とオリーシュ軍が激しい戦いを繰り広げているその場に、まるで戦いの終結を知らせるように降り注いだ。

「あ、そうか――――」
「え?」

その時。はじめて納得が言ったかのように山本の口から確信めいた響きを持った言葉が発せられた。自分達の本部が壊滅状態にある事がアステカ軍全体にようやく伝わり始め、それによってアステカの攻勢が止まったことで徐々に戦闘が停止。そして同時に降ってきた美しい自然現象に両軍の将兵が一瞬心を奪われていた間にも山本に意識を切らさなかったユウだけが、その時のささやかな声を拾う事が出来た。

「何もかもが理解できる。命の意味、神の意志、そして俺の運命……俺が生き残って、アイツが死んだのはすべてそういうことなんだ。弱いとか強いとか、そんなチャチなものじゃ断じてない。これは――――天命だ」

山本はタチの悪い熱病か、はたまた天使の啓示をうけたかのような顔だった。だが、不思議と声には明確な理性が宿っているようにも感じられる。一体どうしたのだろうか、と先ほどとは別の意味で心配になってきたユウはとりあえずと言う風に、山本を馬から下ろす。その際肩を貸したユウの耳が、再び山本の声を拾う。

「俺が……俺こそがオリ主だ。やはり、オリ主だったんだ……!」
(オリヌシ……天に愛された者という意味の古代語――――いったい山本は何を?)


戦いの緊張は、急速に弛緩していく。両軍が両軍とも、これ以上の戦いはないだろうと直感していた。そして事実そうであり、カノン砲をほぼ喪失したアステカ軍にはこれ以上戦争を継続して勝ち抜く目は無い。逆に、限界ギリギリのオリーシュ軍側も追撃は無い以上、あとはタイムアップを待つのみとなる。それはつまり――――オリーシュの粘り勝ちという結果をもたらす。
ギリギリの所で敵の攻撃をしのぐ事に成功したことでほっと安堵するオリーシュ軍の中、この二人だけが世界に取り残されたかのように、存在した。
片方は、授けられた天命に心を震えさせ、もう一人はそんな相手を心配そうに見つめたのだった。

――――――――だが、本当の戦いはこれからである事に気が付いている者は、この場には誰一人としていなかった。長きにわたる平穏が破られ、狂気に満ちた「世界」への入り口に自分たちがいるということを、知る由もなかったのだった――――――――


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