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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編  奇襲開戦はcivの華
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:95ce0ae2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/01/16 22:26



「……!――――っ……!!」

「揉めてるなぁ」

それから更に時間が流れ、山本を乗せた船はとうとう彼らの本国にして母港、神聖オリーシュ帝国は首都オリヌシに到着した。だが山本が船から降ろされる気配は、半日経過した今でも無かった。時折聞こえてくる激しい口論の余韻だけが、外界の情報を手に入れる唯一の手段だった。
近衛ユウとも、最近はめっきり顔を合わせていない。オリーシュ本国への帰国が迫るごとに焦燥感の様なものが顔に現れるようになり、最後の方にいたっては山本が甲板に出ることを自分から遠慮するほどだった。

(あの日見たアレが原因なんだろうけど、正体は結局聞けなかったな)

始めて山本が甲板に上がることを許可された日、あの日に山本が遠い水平線上に浮かぶ船団を見つけたのが、全ての始まりだったと直感した。事情を全く知らない身でも、アレが相当に「ヤバい」ものだった事は、艦を覆う雰囲気で察することができる。それほど誰の目にも明らかだった。

「ま、何か良く分からんけど待っとけばいいかあ」

だが、一応は囚われの身でしかない身分では出来る事はないし、他国の問題に首をわざわざ突っ込むような気も起きない。若干乗組員にその存在を忘れられている節がある囚人山本は、考える事に飽きてゴロンと寝転がり、そのまま呑気に昼寝を始めてしまう。死刑はないという話しを聞いてすっかり呑気なものだった。



一方、甲板上では激しい口論が引き続き行なわれていた。山本は余韻しか感じられなかったが、ある意味それで良かったかもしれない。もしも言い争いの内様が分かったら、昼寝などしているような心境ではなかっただろう。

「――――ですから! 今の内に海上にて戦端を開かなければ、みすみす敵に上陸を許してしまうと言っているのです!」
「ただいま交渉を行なっている最中であります。しばしお待ちくだされ!」
「交渉が決裂してからは遅いのです!」
「相手はアステカだ! そんな悠長にしていられるか!!」
「そうだそうだ!」


山本が寝息を立て始めたその頃、船の上ではフリゲート艦の館長及び乗組員達が、政府の外交部門から派遣された官僚たちと激論を繰り広げている。内容は、オリーシュ帝国に迫りつつあるアステカ陸戦部隊を満載した大船団への対応だった。
軍人たちは「このまま敵の上陸を許してしまえば、圧倒的な陸上戦力で最悪そのまま押し切られてしまう可能性もある。ならば今の内にこちらから逆に宣戦布告を行い、艦隊決戦を望むべし」という積極的開戦論を主張し、官僚たちは「現在必死の外交交渉を行なっており、これが成功すれば戦いは回避できる。むしろ軽はずみにこちらから宣戦布告を行なえば、諸外国からの非難は避けられない」という戦争回避論をぶつける。
だが、議論は平行線を辿り始めて既に半日。彼らはフリゲート艦「菜ノ葉」が入港して以降ずっと意見をぶつけ合い、結論が出ていなかった。

「平和交渉大いに結構! ですが既にアステカ側は戦いを有利に進むべく、シド大陸北部の平野部に展開しようと船を進めています。すでに一刻を争う今この時、交渉を行なっているような余裕はありません! 違いますか!?」

と艦長が叫べば、その部下も同調する。「そうだ!」「艦長の仰る通り!」「そんなに責任問題になるのが怖いかヘタレ共!」

それを受けて、外交の役人たちも反論する。身体付きは頼りないが、しっかりとした口調で怒鳴る様に声を上げる。

「オリーシュとアステカの国力は三倍! 加えて彼らの多くは幾つもの戦役を乗り越えて来た精鋭ばかり! 戦っても勝ち目は薄い! 短絡的に今戦端を切れば勝てると言い張るのは軍人の傲慢でありと我々は考えます! いかがか!?」

後ろに控えた部下たちも、やはりその言葉に追従して、援護した。
「その通り!」「良く言った!」「偉そうにいうな低学歴共!」


――首都の港で文官と武官の両陣営が掴みあいに発展そうになっているが、オリーシュのありとあらゆる公的な機関で同様の諍いが起こっていた。
そして今この時、間違いなくオリーシュの未来を左右する話し合いが行なわれている場所が存在していた。そこは運命の分岐点という名のホットスポット。有体に言えばアステカ帝国大使との外交交渉の場だった。これがうまくいけば、戦いは避けられる。だが残念なことに、運命の女神はオリーシュに微笑んでくれそうにはなかった。


「その……朕は顕微鏡を使った観察が趣味なのだが――――た、大使殿も興味はありますかな?」

恐る恐るという風に言ったのは、眼鏡をかけたやせ形の中年男性。学者肌で物腰が柔らかい――――というよりも単にひ弱そうなこの男こそが、栄えある神聖オリーシュ帝国第119代皇帝ロムレ五世だった。ロムレ五世は額にじっとりと汗をかきつつ、上目遣いに対面する男の反応に注意を向ける。

「いえ、某の様な生粋のアステカ人は戦いこそが全て。知的好奇心を満たす事に心を傾けるは某の流儀ではありません。それで、その趣味が何か?」

ぶっきらぼうにそう答えるのはアステカ大使。顔面には生々しい傷跡が無数に走り、ガッチリとした筋肉質の巨体を揺らしながら、太い腕を組んでいる。とても一国の君主に対して敬意を払っているような雰囲気ではなかった。
大使は「言いたい事があるなら早くしゃべれやボケがッ!」とでも言いたげに、貧乏ゆすりをして言外に催促する。
ロムレ五世はゴクリと生唾を飲み込んだ。いよいよ、場の雰囲気に耐えきれなくなる。世間話も早々に切り上げて、本題に入ることを余儀なくされた。

「た、大使殿。神聖オリーシュ帝国は貴殿の国に対して友好宣言を行う準備がある。お互いの発展のために友好を結び、その上で技術の共同研究――――研究協定も一緒に結ぶのはいかがか、なと……」

本来ならば、近づきつつあるアステカ軍の即時転進を要求したいが、そうも言えないのが大人の都合である。そこで友好条約を交わす事でそれとなく「ウチに攻め込んでこないでね」というメッセージを乗せた。

(帰れ! 帰れ! お前ら全員さっさとカエレ! 朕は部屋に引きこもって微生物の素描を続けたいのだ!)

国としてもロムレ五世の性格的にも、戦いや争いごとなどまっぴらゴメンである。伊達に趣味が政務を部下に任せて自分は日がな一日部屋にこもって顕微鏡をのぞいて微生物をスケッチする事ではなかった。剣や銃などほとんど握った事もなく、軍学も触りだけ。とても戦争の指揮など出来る訳がない文弱の徒が彼の本質だった。
そもそも、ロムレは皇帝などという地位よりも学者になって研究に没頭することを望んでいる人間だった。だから本当ならば、目の前の殺人ゴリラの様な男とギリギリの交渉を行なえるような器でもなければ意志も持ち合わせてはいない。
それでもこうしているのは、「どうか陛下のお力で……どうか平和の為の交渉を!!」と泣きながら外務大臣以下全員に土下座されて、突如やってきた大使との会談を無理矢理やらされているからだった。

「大変申し訳ない。今は自国の力のみでやっていきたいと、まあ本国の意向がありまして。いや、本当に申し訳ない」
「それはざ、残念ですなぁ……ハハ」

だが、そんな平和(?)への願いは一瞬の考慮もなく袖にされる。
大使はけんもほろろに断り、いよいよ自分――というよりもアステカ帝国の意向を伝えることにした。いい加減、こうして無駄な話し合いをしているのにも飽きて来たというのが実情だった。

「――――では、某もそろそろ本日ここに参った用件をお伝えしたいのですが、もうよろしいですかな?」

ビクッ! と、ロムレ五世の身体が反応する。

「いや、待った。ちょっと待った! あ~~そうだ! 葡萄酒の交易などはどうですかな?
朕もよく食前に飲むのですがまた良いモノでして……」
「……」
「は、ハハハ…………」

いよいよ可哀想になるくらいに、汗が顔全体から流れ落ちる。目は泳ぎ、愛想笑いも引き攣る。対する大使の顔は「笑顔」だった。それも、ようやく長く退屈な仕事から解放されたかのような、晴れ晴れとした笑みだった。

「シミカカ! シミカカ! シミカカ!」
「――――っひぃ?!」
「失礼。アステカ皇帝モンテスマ三世陛下よりのお言葉です。意味は――――『死ね!死ね!死ね!』であります」
「――――」


それは、これ以上には無いほど明確な宣戦布告の言葉だった。只今をもって、神聖オリーシュ帝国とアステカ帝国は交戦状態に入った。これより先は、どちらかが根を上げて和平を申し出るか、全滅するまで戦いは終わらない。
宣戦布告を行なった側はとても良い顔で笑い、受けた方は魂が抜けたように白目をむいた。

「では、御健闘をお祈りします。またお会いする事があれば、今日の続きをしましょう。……そのような日が来ればですが」
「―――――――――――」
「へ、陛下?! 大変だー! ロムレ陛下が気絶なされたぁ?!」


――――こうして平和への交渉は決裂した。こうなってしまえば、戦うより道はない。二つの国が今、太平洋をはさんで大きな戦いの渦に巻き込まれたのだった。



オリーシュ最北、その近海付近。魚場もないこの冷えた海は、普段は船の往来などほとんどない。だが、今この時に限って言えば大船団がゆうゆうとオリーシュ国境内を我が物顔で移動していた。
その内のひとつ。他よりもやや大きな旗艦の内部で、ここにもまた苦悩する者がいた。

「頑張れ頑張れイケるイケる我々なら出来る!」

銀色のフルプレートアーマーを着込んだ白人男性だった。彼は、若干薄くなり始めた頭を抱えてブツブツ呟いていた。それは自分を励ます言葉だった。もしくは、自己暗示とも言う。ひたすら己を鼓舞しようと頑張るが、中間管理職の様な冴えない面構えもあって、「おっさんが現実逃避している」としか思えない光景だった。事実、彼は部屋の扉が開かれる音にも気付かなかった。
コツコツと、彼に近づく足音が響く。

「出来る出来るやれるハズだ!頑張れ!負けるな!力の限り生きて――――」
「将軍! コルテス将軍!」
「やれぃ!?――――んもバカ! いきなり声をかけるんじゃない!」

自分の世界に没頭している間に、男――コルテス将軍の傍に彼の部下が立って声をかけた。彼もまた白人系の人種であった。部下は苦笑いを浮かべつつ、職務を遂行する為にかかとを揃えてコルテス将軍に向き直る。

「申し訳ありません。ですがそろそろシド大陸が見えてきますのでご報告に」

部下がもたらした知らせは、いよいよ自分達が攻め込むべき大陸が見えて来たというものだった。戦争――――それが彼らに与えられた仕事であった。

「あ、ああうん。分かった御苦労。下がっていいよ」
「ハッ!」

部下を下がらせて、再び一人になったコルテスは、「はぁ――」とため息をついて深く椅子に腰かけた。

「……ご先祖様のおかげでめちゃくちゃな目に合ってるよ――――恨みますよ先祖様……」

コルテスの頭に浮かぶのは、彼が国を出国する時の記憶だった。アステカの首都テノチティランで行なわれた壮絶な儀式の記憶と共に、彼の主君の恐ろしい姿がよみがえってきた。それは今から数カ月前のことだった。







アステカ帝国首都、テノチティトランの人口は数十万人を超える。王宮は北米大陸中から集められた金銀財宝で美しく飾りつけられ、王宮へと続く大通りには無数の市と神殿が立ち並ぶ。テスココ湖とよばれるひょうたん型の大きな湖に浮かぶ小島に建設されたその黄金の都は、当時最大級の規模を誇る大都市だった。
そんな都の一角に、巨大な石のピラミッドがあった。町全体を見下ろすような高さを誇る建造物は、アステカ人達が信仰する神々の為の施設だった。
漆喰で塗り固められたピラミッドの頂上には、二人の男がいた。1人は背が高く、均整が取れ、無駄な脂肪は一切ない大男。肌は褐色で、獣のような凶暴な眼光を放っている。名はモンテスマ三世、北米大陸全土を支配する強大にして凶暴なアステカ皇帝だった。



「コルテスッ!ウヌの先祖が我らの神聖なる大地に攻め込んでから、どれほどの年月が経ったぁ!」

上半身裸で頭には翼を広げるクジャクの羽の様な飾り、そして肌にボディーペイントを施したモンテスマは大声音で目の前に跪くコルテスに咆えた。背後にはキャンプファイヤーの如きかがり火が真っ赤に燃え盛り、熱風と火炎を背負うモンテスマの姿は地獄の悪鬼のように恐ろしかった。

「はい! 約200年であります!」
「ムゥ――――ではその時の借り、いよいよ返してもらおうッ!」

コルテスは小さく縮こまりながら答える。彼の正式名称はソレナンテ・コルテス。イスパニア系アステカ人である。
その起源は今から200年程前にさかのぼる。世はまさに大航海時代。多くの西洋の旅人がまだ見ぬ大地と莫大な富を求めて大海原に繰り出した時代である。
彼の祖先、エルナン・コルテスもまた冒険の旅に出た旅人。だが彼は冒険家と同時に、どうしようもない荒くれ者でもあった。エルナン・コルテスはアステカの所有する広大な領土と財宝に目がくらみ、上司や国の方針を無視して単身アステカ帝国に武力進攻した。
というのも、その当時のアステカ帝国の陸軍主力部隊は、ジャガー戦士とよばれる戦士部隊であり、所持している武器は黒曜石を尖らせた粗末な剣のみ。
現場の独断専行によってなし崩し的にイスパニアとアステカとの戦端が開かれた訳であるが、裸で肌に絵を塗ったような野蛮人たるアステカ兵に対して、エルナン・コルテス率いるコンキスタドールは馬に騎乗し、銃で武装した当時最先端の軍隊だった。このことから考えて、戦いはコンキスタドールの勝利に終わる――――と誰もが思った。
だが、コンキスタドール達は首都テノチティトランにすら辿りつく事は出来なかった。ユカタン半島のタバスコ川から上陸して進軍したコルテス軍は、首都との間に広がる広大なジャングル地帯でジャガー戦士によるゲリラ戦を受け壊滅。前線基地となっていたパナマを逆に占領されるという惨敗を喫した。

外国からの交易船を通して高度な科学知識が伝えられていた事、極めて迅速に武器――鋼鉄製の武具――の更新が出来た事など様々な要因が絡まった結果の大勝利だったワケであるが、この戦いの以降パナマはアステカ帝国に恭順する傀儡都市国家という立場に堕ち、エルナン・コルテスはそこの傀儡君主としてアステカに忠誠を誓うことで何とか助命された。
エルナン・コルテスは偉大なるアステカ帝国に無謀な戦いを挑んだ愚者として蔑まれ、そしてその子孫にも大きな負債を残した。ソレナンテ・コルテスという名前は、先祖エルナン・コルテスを由来として付けられた侮蔑と呪いの名だった。
ちなみに、アステカに高度な科学技術を伝えた交易船の主は、太平洋の神聖オリーシュ帝国であることを追記しておく。

「えっと、あの。私の領地が毎回インカ帝国との戦いの前線基地になっているのですが……」
「ナニィ!?」
「いえ、なんでもございません」


だが、コンキスタドール達とその子孫、さらに都市パナマの不遇の歴史はまだまだ序の口だった。彼らは当時着々と勢力を伸ばしていた南米大陸の覇者、インカ帝国との熾烈な戦いに何度も駆り出され、彼らが強制的に居住させられたパナマの地はその前線基地として幾度となくインカの攻撃に晒された。子孫であるソレナンテ・コルテスもまた都市国家パナマを任された公王という称号を与えられているが、実質は悲しき操り人形。毎年毎年財貨をアステカに絞り取られるわ、アステカの宗教上の理由で幾度となく発生する対外戦争にほぼ毎回動員される体のいいパシリだった。


「……足りぬのだ」
「えと、何がでございましょうか?」
「我らが神、ウイツィロポチュトリ神に捧げる供物が全く足りぬのだ!」

アステカは好戦的な軍事大国である一方、世界でも稀に見る「生贄」が社会の基礎となっている宗教国家でもあった。豊作、雨乞いといった神頼みはもちろんのこと、結婚式や葬式といった行事においてもいちいち生贄を必要とした。
また、戦争の戦勝祈願においてもやはり生贄が捧げられた。太陽神であり軍神でもあるウイツィロポチュトリは新鮮な心臓を好む神としてアステカでは信じられていたので、人体から取り出したばかり真っ赤な心臓を捧げれば、ウイツィロポチュトリ神は戦いの勝利をアステカにもたらしてくれると考えられていた。
神は勝利を約束し、そして勝利して得た領土と捕虜を追加で捧げることで更なる版図を広げる原動力とする――――以上の事を繰り返し、国は瞬く間に大陸を支配する大帝国と成長した。彼らの大躍進を支えた爆発力こそが、生贄の文化だった。アステカの神殿に無数の捕虜たちの血が流され、ウイツィロポチュトリへ血の滴る心臓が供物として捧げれば捧げるほど、アステカは戦いの勝利を確約されると信じていた。  
彼らにとって生贄とは、国家の行事から個人的な事情に至るまで欠かす事の出来ない要素だった。だが、次第に彼らの需要を満たすだけの捕虜を確保するのが難しくなっていった。国と人間の乱獲が原因で、すでに容易に行ける所にはアステカが攻めるべき場所は無かった。
そんな彼らが目を付けたのは南大陸。そしてその覇者であるインカ帝国だった。しかし攻め込もうにもアステカとインカをつなぐユカタン半島はせまく、大規模な戦いを展開しにくい土地だった。アステカとインカはほぼ年中行事のようにこのユカタン半島で小規模な戦いを繰り返し、アステカは中々得られない捕虜に苛立ち、そしてユカタン半島を治める歴代パナマ公王の胃壁をガリガリ削った。

「インカの地に攻め入るには今まで以上の――否、これまでとは比較にならない程の膨大な心臓を我らが神に捧げなければならぬ! しかるに、その大任を貴様にまかせようと思う!!」
「あの――――それはつまり、私に戦争を指揮しろと……?」
「それ以外の何があると言うのだ!」
「む、無理無理無理です! だってワタクシ精々籠城くらいしか経験が――――」
「――――」
「やらせてい頂きます!! 必ずや御国に勝利を!」


げに悲しきは宮仕え。現パナマ公王ソレナンテ・コルテス、侵攻軍主将として参戦決定。うっかりすれば自分が生贄にされる可能性もあるだけに、抗弁することは出来なかった。ちなみに生贄もただ数があれば良いと言う訳ではない、高貴なもの、美しいもの、その他諸々の「人間の質」も十分考慮される。初代のコンキスタドール達が許されたのも、この辺りの選定ではじかれたからだ。基本大航海時代の冒険家は、御世辞にもお上品な人間とは言えないタイプが基本だった。平均寿命が30を超えないという劣悪な船上生活を送ろうと思う人間は、まあカタギではない。


「ウヌの決意確かに聞いたよく言った! ――おい!」

コルテス将軍の悲痛な叫びに満足したモンテスマは、大きな声で何かを呼んだ。すると、色とりどりの飾り付けを施された神官がぞろぞろとコルテス将軍とモンテスマが居る石ピラミッドの階段を上ってきた。神官達の後ろからは、籠に入れられた捕虜らしき男が運ばれてくる。


男は綺麗に飾り付けられてはいるが、表情は恨みの色を色濃くにじませている。そして、周囲にいる者全員をじっとりと睨みつけた。この先に展開される光景を予想して、コルテスは震えた。

「この男は、先のインカ帝国との戦いで獲得した敵側の将である! 見よ、なかなかの面構えではないか! 野原に晒して犬共に喰わせるのには惜しい! 神もさぞお喜びになるだろう!!」
「くっ!――――殺せ!!」

確かにどこか高貴な雰囲気がある男だった。堂々としており、命乞いをせずあくまで敵に屈しようとしない姿に、コルテスは感動するやら痛ましいやらで、この後の事を考えても正視できなかった。
コルテスが目をそむける一方で、儀式の準備は着々と進んでいく。籠から出された捕虜を、神官たちはピラミッド頂上に備え付けられたテーブル状の大きな石の上に寝かせ、その上で両手足を押さえつけた。そしてその内の一人が黒光りする黒曜石のナイフを取り出すと、ひと思いにその捕虜の胸に突き立てる。

「ギャア”ア“ア”ア“ア”ッッ――――!」

絶叫。真っ赤な鮮血が胸から吹きだし、周囲に鉄錆の匂いが立ち上る。ジタバタと暴れもがく捕虜の男を、神官達が押さえつける。そして、さらに傷口から手を差し込み、かき乱した。
激痛から一層暴れ叫ぶ捕虜。ボギリという鈍い肋骨をへし折る音が聞こえる。出血の量は更に増え、グチャグチャと血肉をかき分ける水っぽい音が静寂な空間を満たす。
コルテスは喉元をせり上がってきた酸っぱいモノを強引に飲み込んで、ひたすら事が終わるのを待った。耳をふさぎたくなるのを耐え、目を伏せたくなるのを耐え、逃げ出したくなるのに耐え続け、そして――――ようやく神官の掌に現れた真っ赤な心臓を見て、全てが終わったことにホッとした。捕虜の叫びはもう聞こえなくなっていた。

「コルテスよ。神はより多くの心臓を望んでいる! そして、神はこの男の心臓を以って我らに勝利を約束した!」

戦いに向けた神聖なる儀式、すなわち戦勝祈願の儀式を滞りなく終えたモンテスマは、コルテスに向き直る。生贄の亡骸が石のテーブル――生贄の石――にぐったりと横たわった姿を背景にしながら、大きな声で宣言する。

「神は供物を欲しておる! 王族の心臓は良し! 美しい女の心臓は更に良し! それらが十分に得られぬならば、千でも万でも数で補えい! この戦により、生贄の石は鮮血に染まるだろう!!」

遠征が失敗すれば、今の捕虜と同じ末路を自分がたどるだろう。だが勝っても負けても、この世に地獄が具現する――コルテスはそう予感し、恐怖した。






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