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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編 序章④
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:95ce0ae2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/01/16 21:42
ウルル公国指導者達との折衝の後、神聖オリーシュ帝国派遣軍は大陸北部により部隊を上陸させ、速やかに行動を開始した。ウルル大陸内にある蛮族が占領した拠点――蛮族キャンプ――は合計四つ、まるで示し合わせたかのようにウルル公国の東西南北に点在していた。
その内の北側の蛮族キャンプを鎧袖一触で撃破し、そこから時計回りに東部キャンプを討伐し、続く南部を解放する為に部隊は南へと針路を向ける。
派遣軍の戦力はフリゲート艦一隻にマスケット銃を装備した一個銃兵聯隊。南側の蛮族キャンプは海岸線上に存在する為、フリゲート艦による支援砲撃を受けつつ、銃兵で敵キャンプを占領することとなった。

公国の東部から南部にかけての国境線をなぞる様に移動し、道すがら略奪で暴れまわる蛮族の略奪部隊を掃討する。敵は棍棒で、こちらは銃火器という圧倒的武器性能の差によって、敵は瞬く間に駆逐されていった。
同時に、フリゲート艦もまた、東周りで大陸南部の海岸へと航行し、同キャンプを無事に艦砲射撃の射程内に収める。
蛮族キャンプ周囲は北側を帝国銃兵2000人による横隊で、そして背後の海上には大砲を覗かせる軍艦一隻によって完全包囲される。電撃的な速度での討伐スピードによって、同大陸の解放は目前に迫っていた。







大陸南端にあるエアー半島。2000キロに及ぶ長い海岸線には、穏やかな入江と白い砂浜が美しい、風光明美な場所だ。さらに南極海を望むこの海はクジラが回遊していることから、高級資源の産地にもなりえる重要な土地でもあったのだが、今、そんな愛すべき自然に不釣り合いな存在が一点。
それはキャンプにバリケードを築いて徹底抗戦の構えを見せている蛮族部隊だった。

「君たちは完全に包囲されている! 即刻武装解除して降伏しろ!!」
「くぁwせ□drftgy☆ふじこフジコ!!」




もう何度目かの投降を呼びかける。しかし「ふじこふじこ!」を連呼するだけで、どうにもうまくいく様子はない。

「報告! 蛮族共は徹底抗戦をするそうです」

ウルル公国領から遠く離れた無人の野、そこに張られた指揮所という名のテントの入口から、伝命役の年若い兵士が1人入って来てそう告げる。テントの最奥、椅子に座って地図を眺めていた貴公子然とした若い指揮官が顔を上げ、「そうか」と残念そうに答えた。
指揮官――同部隊の最高責任者である近衛ユウがその時に見せる悲しみの表情に、報告に来た部下がしばし見とれる。
まだ15、16歳という事を考慮しても、一回り低い身長と華奢な身体付きをした見目麗しい美少年が、憂いの顔で長い睫毛をフルフルと小刻みに震えさせる様子は、とても男とは思えなかった。男所帯において、こういう「女性」を感じさせる要素は、まだまだ若い兵士には毒だった。

「しかたない――――艦砲射撃の用意を」
「……」
「コラ伝令! ぼけっとするな!」
「っ――――はっ!」

幕僚の1人が顔をほんのり赤くしていた兵士を怒鳴り、伝命の兵を走らせる。「まったく!」と憤慨する幕僚達を置いて、近衛ユウはおもむろに立ちあがるとテントから抜け出して外に出る。天から降り注ぐ陽光が、目にしみた。
明るい所に慣れるまで、少しの間だけ目を細めて堪える。そして慣れてくれば、遠方からでもその蛮族キャンプは良く見えた。
赤茶けた大地で火を焚いて、煙を吐き出しているそのキャンプこそが、討伐し解放すべき場所だった。今は静寂であるが、もうすぐこの場は大いに荒れるだろう。

一方、フリゲート艦の上では水兵達があわただしく動き回っていた。味方による降伏勧告が全くの無駄に終わってしまったことから、出番が回ってきたからだ。彼らに期待される仕事とは、ズバリ砲撃である。水兵たちは船の中を所狭しと動き回り、大砲に火薬や砲弾を装填していく。それが終わると、静かに次の命令を待つ。
行動はつつがなく進行し、そしてついに甲板上にいた指揮官が準備の完了を伝える手旗信号を振った。合図はリレー形式で次々と情報は伝えられる。元々は森や丘陵地帯等の視界が悪いところでも部隊が連携して動くために作られたシステムだったが、こうも視界が開けた場所では、リレーなどしなくても最初期の段階で情報は伝わってくる。それなのにわざわざこうやって何人もの人間を使って情報を伝える事に、近衛ユウは少し滑稽に思えた。。
クスっと、形の良い小ぶりな口元で小さく笑ってしまって、慌てて表情を改める。これから自分がやろうとすることは、笑いごとではないのだから。

「ス――……」

同じような事を、すでにもう二回も繰り返している。だが、何度やっても緊張を強いられる行為だった。
集中する為、静かに、かつ深く息を吸い込む。そして、その手に握られた赤い旗を頭上へと掲げ、柄をギリッと強く握りしめた。

「――ってい!!」

――掛け声と共に、振り下ろす。
ドドドンッ!ドン!ドン!

間髪をいれず発射。爆発音がウルル大陸南部の大地、そして蒼い空に轟いた。
海上に浮かんだフリゲート艦よりモウモウと上がる黒煙。閉所で発生した黒色火薬の急激な燃焼は爆発エネルギーを生み、それは重い金属球へと伝えられ勢い良く押し出される。
速度と質量、そして重力加速度によって生成された運動エネルギーはそのまま、計算によって導き出された軌跡を蒼穹の空に描いた。

「着弾!」

観測役の兵が叫び、続いて鳴り響く地響き。工学と理学の美しい融合はすぐさま破壊と暴力を振りまいた。
地面は抉れ、バリケードは砕け、人間は絶叫と共に宙に舞う。
同地に巣食う蛮族キャンプに容赦ない攻撃を加えるのは、神聖オリーシュ帝国派遣軍・フリゲート艦「菜ノ葉」による砲撃だった。



「ふぅ――」

一斉射撃が滞りなく行なわれ、たまらず緊張を解く。自分自身が撃つわけでもないのに心に負担を感じるのは、多くの人間の注目を集め、指揮すると言う重責を感じざるを得ないから。そして、その結果を思ってしまうから。敵とはいえ、大砲を撃ち込まれる側の人間が辿る末路を想像してしまうのだ。


「ホッホッホ。調子はいかが――っと、聞くまでもありませんでしたな」


未だ慣れない暴力の行使に小さく胸を痛めていると、後ろから聞き覚えのある声がかかる。しわがれて温厚そうな温かみのある声は、乾燥と暴力がはびこるウルル大陸にあって、一種の清涼剤に思えた。

「ジイ! 腰の調子はもう良いのか? ギックリ腰はクセになると言うし……」

現れたのは、白い髭と広い肩幅が印象的な、大柄の老人だった。紺色の軍服を着こんでも分かるような筋肉と体格の良さ、そして胸元に光る勲章の数々が、好々爺のような表情とのギャップを激しくさせる。そして腰には一本の刀が妖しげな存在感を醸し出していた。
近衛は自分の小さい頃からの顔見知りに会ったことで、張りつめていた緊張を解いた。そして、心配そうな表情で見つめる。
本国からの航海中、船の上で腰痛を発症し暫くベッドに伏せっていたので、こうして背筋を伸ばして歩いている姿は久々だった。

「まだちーとばかし疼きますが、せっかくの若の晴れ姿! 例え墓穴の中にいようとも這い出てでも見守らせていただきますぞい」
「晴れ姿か――私はこうして旗を振り下ろしているだけだがな」

近衛は旗を見やって苦笑する。事実、彼が行なっているのは報告を聞いて、命令の号令をかけるだけだった。というのも、この派遣部隊の実質的な責任者は近衛ユウではなく、目の前の老人であり、部隊を滞りなく運用しているのは老人が鍛え上げて来た部下達だったからだ。
あくまで名目だけ、箔付け目的のお飾りというのが、ユウの立場だった。

「いやいや。少なくともこうして前に立っている姿は、将の器を感じさせますぞ!」

朗らかに笑いかける老将だが、ユウの心は晴れなかった。ユウがこうして前線に立っているのは、義務感からだった。自分の命令で多くの人間の命が文字通り吹き飛ぶ様を、せめて見届けるのが命令を出す者の責務だと思ったからだ。対して老人の方は、それが統率者としての役得であると考えている。
目の前で命が無残に散っていく様子を自罰的に見せられる立場と考えるか、手を振り下げると同時に轟音が鳴り響き敵を粉砕する、血沸き肉躍る快感を一身に味わう事が出来る勇ましい立場だと考えるかの、認識の違いだった。
しかし、前者の考えよりも後者の方が圧倒的に主流であった。

そうこうするうちに、近くにいた計算専門の技術士官がユウに耳打ちする

(距離がやや遠いようです。二目盛上げたほうが効果的かと)

要するに、弾の飛距離が足らなくて何発かは敵キャンプ地の手前に着弾してしまったから、仰角を少し上げろと言うことだ。
当時最新鋭の艦とはいえ、まだまだ命中精度は甘い。通常は何度か実際に撃って、微調整するのが当然の手順だった。
専門教育を受けていないユウは、専門教育を受けた者の助言を聞いて、その通りにするのが仕事だ。お飾りながらも職務に忠実であろうとするユウは、その通りに声を上げる。


「距離やや遠し! 二目盛上げ!」


すぐさま手旗信号でその情報が伝わり、フリゲート艦上の大砲が修正されることになる。そして、水兵達はそのまま第二射の準備に取り掛かった。

「……それにしても、効果は絶大だな。話しには聞いていたが、まさかこれほどまでとは思わなかった」
「遠距離からの一方的な攻撃に、まだ見ぬ武器への恐怖。実際の人的被害よりも恐怖心のほうが深刻な場合と言うのは良くあることですわい。一射ごとに連中、逃げ出しますぞ」
「――――その方が余計な血を流さずに済んでいいか」

フリゲート艦を今回の討伐任務に使用されるのは、実のところ始めてだった。
航海中、海賊に向けて発射する事は何度もあったから砲撃自体は初めてではないものの、地対攻撃という点では全くの未知の光景となった。

それは北部東部の蛮族キャンプは内陸にあったので射程外で使えなかったからだが、だからこそ、その威力にユウは活目した。
あれ程徹底抗戦の構えを見せていた蛮族キャンプが、騒がしく動揺しているのが遠目からでもしっかり確認できたのだから。

当初、対人用の弾を使うという案もあったが、対艦用の砲弾を使用して正解だった、とユウは思った。細かい破片が広範囲にわたって降り注ぐ散弾はより効率よく集団を殺す事が出来るが、問答無用一切合財みんなまとめて挽肉にするという手法がどうにも受け入れがたいものがあったのだ。
対して対艦用は、確かに着弾の音や巻き上げる土くれ等で見た目は派手だが、破壊の範囲はある程度限定される。恐怖して逃げ去ってくれれば、無駄な血は流さなくて済む。蛮族は集団であるからこそ脅威だが、散らばってしまえばウルル公国でも十分に対処できるような存在だ。



「――――百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり」
「孫子の兵法ですな」

ユウはぽつりとつぶやいた。以前に勉強した、とある兵法書の一節にそのようなことが書かれていた。百戦百勝は最善なことではない。戦わずして勝つことこそが最善である、と説いているのだが、最初は良く分からなかった。しかし、詳しく読み込めばなるほどと納得できる内容であった。
なんでもかんでも武力で踏みつぶせば良いというものじゃない――――兵法書という厳めしいものでありながら、力だけを追求しないその思想にユウはいたく感動した。
だからこそ、本当ならば蛮族達を降伏させてしまいたかった。そうすれば、砲撃などしなくてもすんだのだから。


「今回も、出来なかったな」
「しかしまあ、最上の手というものは中々とれないからこそ尊ばれるのですぞ。得てして次善の策で十分というのが世の中の大半というもので」
「それは人生経験からの言葉か?」
「なに、年寄りの小言ですわい」

現実は難しい。いくら負けることが明白な勝負で在っても、意地を張られてしまえば力で押し潰すしかなくなる。この大陸に来て思い知ったのは、そういう悲しい現実と、不条理だった。


「おお、第二射目の準備が整ったようですな」
「うん」

みれば、艦上で旗が降られている。射撃準備完了の合図だった。

(大人しく従ってくれていれば…………恨んでくれるなよ)

静かに、誰かに許しを乞う。だがそれでも止める訳にはいかない。自らに与えられた職務を果たすため、ユウは再び旗を振り上げた。











モヒカン達が跳梁跋扈する世紀末のような光景が展開される中、奇跡的とでも言うべき平和を享受する西の村。✝煉獄院朱雀✝(本名は山本八千彦)があてがわれたのは村の中心付近に在る、少し大きな民家だった。元々は村の重役が息子夫婦の為に立てようとしたものだったが、その息子は田舎暮らしに嫌気がさして中央へと行ってしまい、主人なき家に成っていたところを利用する事になったのだった。
そこそこの大きさがあるので、そのまま頂いて自身の野望を進めるための拠点にすることにした山本は、ようやく本格的にこの世界について調べることにした。それはこの世界に落されて三ヶ月目の事だった。


「むむむ…………」


そうして調べて行く中、次々と驚愕の事実を知らされることとなる。今も一枚の紙を前に、腕を組んで唸っている。
それは一枚の地図だった。そしてそこに書かれている文字が、山本を驚かせているものの一つだった。常識的に考えて、異なる世界で異なる民族が住んでいる土地ならば、使用される文字も異なっていて当然である。しかし、形が微妙に違うものの、ウルル公国公用文字は、どういう訳かカタカナだった。

(そう言えば、言葉も普通に通じるしなあ……)

と、三か月も経っているのに割と今更な事を考えているが、これはかなり興味深い現象だった。何もせずに言葉が分かるのは異世界トリップモノの定番と言えば定番だが、流石に文字まで同じというのは不可思議だった。村の有力者、役人やら地主やらに聞くが、これは外国からもたらされたものをそのまま使っているという事しか分からなかった。
しかし、ここで引き下がる訳にも行かず、山本はとにかく手当たり次第に情報を集めまくった。おりしも治安が回復した西部には、再び行商人等の外部との交流が再開し始めたので、それに乗じて様々な人から聞き取り調査を行ない、先日、遂に決定的な物を入手するに至った。それが目の前の紙であり、自身の状況を大まかながら把握できるようになる為のキーアイテムとなった。
それは、何とほぼ完璧な「世界地図」だった。そしてその地図は、非常に親しみがありつつも強烈な違和感を覚える代物だった。ある意味、この世界に落されて以降最大の驚愕すべき事実だった。

「これがユーラシア大陸、でこっちが多分日本列島。で、南にオーストラリアがあると。だけど――――何だこれ?」

山本が知っている世界地図は、現代日本で一般的に売られている世界地図だ。その地図では、五つの大陸が存在し、太平洋や大西洋といった広大な海の上に、無数の島が点在する。そして太平洋西には日いずる処、即ち日本列島が存在する。
だが、この世界地図には見慣れないものがあった。太平洋、日本列島とアメリカ大陸との間に広がる広大な空間に、小さな大陸とでも言うべき陸地が書き足されたように存在していた。南北に延びた楕円形の大地で、その隣には国名を表すように「神聖オリーシュ帝国」という文字がでかでかと躍っている。

「オリーシュ……ププッ」

これを見た山本の反応は、中学校の時にエロマンガ島なる珍妙な島を地図帳上で発見した時と全く同じだった。プークスクスクス、という擬音が似合うように、「誰だよこんな変な名前つけたヤツw」と、バカにするように笑いまくっていた。ネーミングセンスに関しては人の事を笑えない身分でありながら、思う存分嘲笑しまくった。


「まあ、なんにせよ――だ」


山本は、改めて今後の作戦を考える。
この世界が高確率で「過去の地球に良く似た平行正解」であるという事を知った以上、今後もそれを想定して考えなければならない。可能ならば、今がどの時代であるのかを何とかして調べ、歴史的事件に介入したいと強く思った。

だが、今のままではそれは叶わない。オーストラリア大陸という、世界史的には辺境も辺境、クソ田舎といっても過言ではない最果ての地にいては、ヨーロッパやアメリカで発生する激動の時代に介入することすら出来ない。基本的に、世界は何時だって荒れている。自分自身を万能のチートオリ主であると考えている山本は、それこそいくらでも立身出世、チートで心躍る活躍の場があると信じて疑わなかった。運よく、というか都合よく意思疎通だけは最初から脳みそに言語がインストールされているかのように問題なく出来るので、ヨーロッパに行って言葉が分かりませんという事だけはない。言葉さえ分かれば、あとはいかようにでもなる。例えニコポナデポなど無くても、実績と口八丁で金髪巨乳美少女を侍らしてハーレムを築くことなど造作もないと確信していた。

むしろそこからが選択に悩む所である。チート能力を遺憾なく発揮して、戦国無双さながらの英雄的活躍で俺Tueee!しても良いし、ヨーロッパの小国に仕官して、ドイツ、フランス、イギリスといった欧州の大国を全て平らげる軍師プレイも捨てがたい。まさに「夢がひろがりんぐ」である。

(そうとなれば、こんなしみったれた田舎なんぞとっとと抜け出さなければ……あのモヒカン共はそうだなあ、適当にこの国に売りこんで警備隊として活躍してもらおうか)

山本、この国で活躍する事を早々に切り捨てる。ヨーロッパは古ならローマ帝国、近代ならば大英帝国といった、どの時代でも確実に時代の中心である土地だ。オーストラリアで帝国を築いて他国に攻め込めるようになるまで国を育てるのは、現段階での科学技術レベルが低すぎて現実的ではない。ゆえにここは通過点。より高く飛翔する為の手段を得るだけの踏み台にした方が得策であると判断したのだ。

あくまでデカイことがしたいと言う以外の具体的な展望がない、考えなしで身の程知らずな今の山本では、現時点での田舎のマフィアのようなポジションは甚だ不本意でしかない。海の外の世界では、自分のチートと知識のほかに歴史知識という強大な武器が活用できることに気付いてしまった以上、大きな勝負をしない方がおかしいと考えた。

それはさしずめ、勝利が約束されたギャンブルで、小額を手堅い勝負に賭けることと同じくらいの愚行に思えてならない。勝つことが分かり切っているなら、それこそ全財産を賭けるべきだ。根拠なき成功への妄信――自己破産不可避なギャンブラーの様な思考が今の山本の脳内を支配していた。

「ふふ……この景色もすぐに見納めか」

ふと、窓際に立って外の風景を眺めることにした。相変わらずスッキリとした青空と、乾燥した大地が広がる。良い風に言えば雄大な景色、悪く言えば非文明的な光景だった。しかし、家族で行こうとしていたオーストラリアに、このような形で来ることになるとは思いもよらなかった。だが何にせよ、山本は今の状況に感謝していた。チート能力の説明がないのはあれだが、これもちょっとした小粋な演出と思えば悪くはない。最初の部下がモヒカン蛮族というのは少々不服だが、引き立て役と思えば何となく可愛く思えた。
外を見れば、今もモヒカン達は職務に励んでいる。そう今だって――――


『ヒャッハー! お傷は水で洗ってから消毒だァ!』
『痛ぇェエエエエエエ!』
「…………」


訂正。やはりないなと思った山本。治療と罰を合わせたものであると言うが、わざわざ大声を張り上げながら傷口にアルコールをぶっかけるという謎の儀式に山本は苦笑を禁じ得なかった。一体どのような経緯であのような風習が生まれたのか、ある意味興味深い事ではあるが、おそらく大したことはないのだろう。というか、ちょっと前まで手を洗うという習慣さえなかった者に、「傷の洗浄」という治療の初歩を伝えたのは、山本本人だった。
泥だらけの手で食事を手掴みするのを見かねて口を出したのが始まりだが、いつしかそれが広がっていた。今では手洗いうがいの徹底は村全体で行なわれるようになり、将来的には病気予防に大きな効果をもたらすことだろう。何気に山本が行なった善行だった。


「スイマセン~~ちょっと今よろしいでしょうか?」
「ん?」

そんな時だった。外から声が掛り、山本の家に尋ねて来る村人がいた。傍にモヒカンを侍らせる趣味がない山本はこの家に1人で住んでいるので、自分で対応する事になった。いつかは美少女メイドを雇わなければと思う山本だった。

「何の用だ? 赦す。手短に話せ」

「煉獄院朱雀」としての仮面をかぶって相手をする。傍から見れば単なるゴッコ遊びでしかないのだが、村を襲っていた蛮族達を華麗に退治した時の威光によって、未だその化けの皮は剥がされていない。
村人から見れば山本の評価は、村を救った恩人でありながらならず者の集団を引きる存在――「話しが分かる用心棒の首領」のような扱いだった。

「ハア、実はえっと……」

村人はちらりと背後に視線を送る。つられて山本が目線を動かすと、そこには村人のような粗末な服ではなく、それなりに整った服装をした男が立っていた。



「煉獄院朱雀だな?」
「いかにも」

(あれ? なんかコイツ――――?)

畏怖の目で見られる事に慣れ始めていた山本は、その男の冷めた視線に少し疑問を持った。オリ主たるもの、モブに称賛されていなければならない。事実、村人たちは全員そのようにしている。

「私はウルル公国政府から派遣された者だが」
「――っ!」
「ウルル公国の都まで同行願いたい」

だが、丁重に扱われるのはあくまで村とその周囲限定の話。ウルル公国的に言えば、山本の立場は田舎に割拠したヤクザでしかない。当然、その印象は悪い。だが、自分自身の有用性を自分で保証してしまっている山本は、「政府から呼ばれている」=「自分に好意的な内容」と思い込んでしまい、すぐに当初感じていた疑問をすっぱり忘れた。現に今、山本の頭の中はこんな感じである。

(キタ―――! ついにアレか仕官の誘いか! でも残念だな~~チョー残念だなぁ。もうおたくの国では働かないって決めちゃったんだよね~~でも、どうしてもっていうならぁ、ちょっとだけ助けてやっても良いんだよぉ? ただし、礼金は多めにな! なんてったってこれからヨーロッパに行かなきゃならないモンでねぇ)

ウザさフルスロットルである。万事が自分の都合よく回ると思い込んでいる山本は、この同行を二つ返事で了承してしまう。公国内で今活躍している討伐軍の噂話が、田舎であると言うことでほとんど入ってきていなかったことも原因の一つであるが、もしもこの時、山本がもう少し慎重に行動をしていれば、具体的には確固たる足場固めに集中して余計な欲を出さなければ、運命は変わっていたかもしれない。
山本少年の未来を大きく決定付ける時が、刻一刻と近づいていた。






あとがき
長くなりましたが、これで序章は終わります。思うに、どうにも自分は素直にチートでハーレムな主人公を書いたことがない。これは一体どういうことか……


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