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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編 序章③
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:95ce0ae2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/01/16 21:15
大陸の中東部には大きな盆地が広がっている。そこに本拠地をもつウルル公国は、エアーズロックを御神体とした原始宗教を信奉する諸部族を母体として構成されている。この国は荒れ地を利用する技術や文字といった基本技能を「稀人」から習得し、その指導の元に成立した都市国家だった。
政治は各族長による合議制をとり、独自の技術開発や生産行動をとっている独立国家なのだが、その国力は低い。一つはそもそも耕作に適した土地が少ないことと、特に目立った資源がないことに起因するという、土地と気候に根ざした欠陥があるためである。そして、こちらがより深刻な懸念として、ウルル公国の国力に対して大陸が広すぎ、支配下にない土地が大量に存在するという点。
即ち、同国家が大陸をほとんどコントロール下に置いていないということを意味する。これが治安面において重大な問題をもたらしていた。
現に今、ウルル公国の国境に程近い村には、招かれざる客が訪れていた。



ウルル公国の領土は、大陸中東部の盆地がほとんどなのだが、これには大きな理由があった。というのもこの盆地は何と、井戸を掘ると水が自噴してくるという少々変わった土地だった。東部の山脈に降った雨水が地下を通って噴き出している訳なのだが、この水があるからこそ、砂漠気候における土地であっても人が生活する事が出来るのだ。しかしこの地下水、実は多量の塩分が含まれているため農業には適さない。そこで塩分と乾燥に強い作物を育てる他に、羊の牧畜を行うことでようやくそこそこの生活している。だが、当然のことながら安定しているだけで豊かではない。


「オイオイ! こーんなに溜めこんじゃって……今年も食料アザーッス!」
「「「アザーッス!」」」
「堪忍、堪忍して下さい。それは冬の分の……!」

毛皮を腰に巻いた粗野な男達の集団に、老人が縋りつくように這っている。傍らの粗末な家々は既に大部分が荒らされていた。羊たちを囲っている柵は手荒に乱入されたことで、もう作り直さない限りは使い物にならないだろう。何度も試行錯誤してようやく作った畑も踏み荒らされている。農業をする者にとって、畑というものはある意味作物よりも貴重である。一種のインフラなので、荒らされた場合の復旧に手間取るという意味で、ただ単に作物を奪われるよりもダメージは大きい。
うねに出来た無数の足跡を見るにつけ、切なく悔しい。
その上、この先迎える冬を前にして貯蔵していた食物や、いざという時に現金に換金できる羊毛が奪われてしまっては、無事冬を越せるかどうか怪しい。下手をすれば全員首をくくらなければならないので、老人は必死に縋りつくが、無法者たちは全く躊躇することなく村の穀物倉に踏み込んでいく。

「アニキィ! こいつら家の中の地下に酒も隠してやがりました!」


蛮族の1人が、大声でリーダー格の男に声をかけて来た。この時、老人の顔が激しく動揺する。蛮族の男がその両手に抱えているのは大きな樽。「そ、それだけは!」と老人がかつてない形相で焦るが、蛮族達は「ウェーイ!」と歓喜の叫びを上げて群がる。みるみる内に蓋は破壊され、中からはアルコールの芳醇な香りを放つ液体が並々と内部を満たしていた。乱暴に開いた拍子にしずくが乾燥した地面にこぼれる。零れた酒はそのまま染み込んでいった。

(何度も試行錯誤して作った酒が……! コイツラの目を盗むために、あえて民家の中に隠しておいたというのに――クッ!)

度々蛮族の襲撃に晒されるこの村では、自衛までは無理でも何とか傷を最小限にする努力が行なわれていた。この酒もその一つで、飲み水に使えない水を苦労に苦労を重ねて酒として生まれ変わらせることに成功した、まさに努力の結晶だった。せめてこの樽一杯の酒さえ無事であれば、他の村から食料を融通してもらえる――そう思っていた最後の切り札のような存在が、いま蛮族達に見つかってしまった。
「倉の中身だけで満足して帰っていってくれれば……」と言う目論見は、粉々に砕けた。

「マジでぇ? ――おいオッサン、あんた酒は好きか? 好きだよな? 好きだと言えやコラ! 言わないと刺しちゃうよぉ?」

喜びの表情で迫る男の顔は、笑っているというのに見る者に絶望感を抱かせるような、暗く醜いものだった。
手にもった抜き身の鉄剣を老人の首元に突きつけながら、ドスの利いた声で低く脅しつけた。発言の意図が上手く読み取れないが、とりあえず「はい」と言わなければ殺されてしまうような有無を言わせぬ凄味に、老人はコクコク首を縦に振りながら是と言う。

「え、あ……はい大好き――です」

ニィ――!と、口を三日月のような形にする蛮族の男。「そうかそうか」と頷いてはいるが、目はあくどい事を考えているような不穏な光を放っている。(な、何なのだこの不気味な顔は…… ワシにどうしろと言うのだ!)と、老人がガクガク震えるのを抑えながら思った。男は酒樽を老人に抱え込ませながら叫ぶ。

「じゃあ、たらふく飲ませてヤンヨ! おいテメエら! アレやっぞ! せーの……!」
「「「オッサンの! ちょっといいとこ見てみたい! ハイ!」」」

突然の蛮族による斉唱に、戸惑う老人。蛮族達はみな不愉快な笑みで、手拍子と共に囃したてる。無駄に声が揃っている所を見ると、蛮族達にはお馴染みの行為なのだろうが、老人にとっては初めてのことで、どうしていいのか分からない。だが、そんな風に困った表情すら面白がるように、蛮族達は愉快愉快とニタニタとするばかり。

「は、え?」
「「「はい、いっき、いっき、いっき、いっき! はーい、はーい、はーい、はーい!!」」」
「飲むんだよ、全部! 一気飲みだ!」

ようやく何をしろと言っているのか分かって――老人は顔を真っ青にさせた。子供1人がまるまる入れるかと言う大きさの樽、それに並々と満たされた酒を一気飲みしろというのだから無理もない。無理だと叫びたかった老人だが、ギラリと陽光を反射する鉄剣を前にしては、とてもではないが出来ませんとは言えなかった。結局、圧力に負けた老人はゆっくり恐る恐る、樽に口を付ける。というよりもむしろ、樽の中に顔を突っ込むような形になった。蛮族達のボルテージも最高潮。


「ウッ……グゥ――――ブヘア!!」


懸命に頑張る老人だったが、土台無理な話。自分の胃袋より体積が大きい液体を、それもアルコールが含まれている飲み物を飲み干すなど不可能なのだ。結局、すぐに倒れ込むように仰向けで崩れ落ちる。

「「「ウェーイwwww!!!!!」」

そんな無様な姿を見て、蛮族達は大盛り上がり。奇声を上げながら、倒れ込んだ老人を尻目に略奪行為を再開する。
蛮族達が蹂躙して、無事な場所など村の何処にもなかった。




「ああ……収穫したやつ全部持っていきやがるつもりだ――!」

昇る煙というものは、遠くからの方がよく見える。村から離れた高台で、自分の故郷が蹂躙される様を彼らは終始悔し涙を流しながら見届けた。
彼らは襲撃前に察知して、ここまで逃げて来た村人たちだった。せめて人的被害だけでも無くそうという自助努力の賜で、犠牲者は逃げ遅れた老人以外ではゼロであったが、それを喜べるような心境ではなかった。
蛮族達はご丁寧に、物資を奪うだけでは飽き足らず、必要以上な破壊活動を行い、火まで放つ。火が家屋や倉庫に燃え移り、無数の煙を吐き出す様を見せ付けられるのはたまったものではない。


「クソ! あいつらいつもいつも俺達の村を襲いやがって! 公王様の軍はまだ来ないのか!?」

握りしめたこぶしを地面にたたきつけながら、村人の男が無念の思いを込めて唸る。本来、蛮族の略奪から村を守るのは軍の仕事であり、その軍を動かす公王の義務であった。だが、来ない。その気配すら見せずに、家畜もついでとばかりに奪われ、「ウチのベコがぁ……」と嘆く声が切なく響いた。

「きっとまた、他の村の防衛で手いっぱいなのさ!」
「手が全く足りてないんだ! あいつら数が多いから、いっぺんにやられるとお手上げだ!」

軍隊も決して遊んでいる訳ではない。ただ、圧倒的に数が足りていなかったのだ。軍隊と言う存在は、基本的に生産活動をしない。ただ保持しているだけで維持費という負担が財政にのしかかる。その経費を賄うのは税金であるのだが、耕作地も少ないこの国では、多額の軍事費は賄えない。軍の頭数が揃えられないので、蛮族達の襲撃を複数か所で同時に受けてしまえば、防衛出来ない部分が出てしまう。すると、略奪を受けて唯でさえ貧しい国がさらに貧しくなる。よって軍備をそろえられないという悪循環が続く。要するに、全部貧乏が悪いのだ。
加えて、広大な未支配領域に複数の蛮族達の拠点が出来てしまい、周辺の喰いつめ部族を吸収して、いくつもの略奪部隊を編成しているという。大陸はもはや、蛮族達が跳梁跋扈する危険極まりない土地だった。


「蛮族共の根城を直接やれればいいんだけどな……クソゥ!」


ある村人がそう言うが、それは無理な注文と言うものだった。蛮族の拠点は現在、東西南北に渡って広く点在しており、ウルル公国は大陸中央に位置する。
現在の公国軍は全部で三個独立大隊で、いずれも長槍兵を主力とする部隊だった。単独で作戦行動がとれる部隊として、戦力を維持しつつ出来るだけ部隊の規模を小さくして、多方面の防衛を可能としている訳だが、それでも周囲を満遍なく守るには一部隊たりない。この状況で、仮に蛮族の根城を攻略しに行ったら、確実に防衛が手薄になる。唯でさえ穴がある状況でそれを行なう事は、現実問題として不可能だった。
力なき者は嘆くのみ。それが今の現状だった。だが――――

「おい、アレはなんだ?!」

ドドドドドッと、土煙りを上げる馬に乗った一団が遠くから近づいてくるのを、目ざとい誰かが発見して悲鳴の上げるような声で叫ぶ。村人たちの間に「またか!」と動揺が広がる。これ以上何を奪われるモノがあるというのかと、絶望の色を濃くしていく一同。

「まさか別の蛮族が来たのか……? 今日はなんて日だ!」

今まで何度も蛮族達に襲撃されてきた村だったが、流石に同日に二回も荒らされた経験はなかった。余りの不幸に嘆く村人たちだったが――

「あ、父さん見て!?」

小さな子供の、声変わり前の高い声がする。立ちあがった少年は指をさしながらその集団を指し示した。
見ると、その一団は村にたむろする蛮族達の中に突っ込んでいったのだ。混乱する現場の中、黒い服をまとった異相の人影が、ハッキリとこの少年の目はとらえていた。







少し時間をさかのぼる。蛮族達はあらかた略奪を終えると、そのまま村の広場に居座った。連中はどうせ公国軍が来たとしても逃げ切れると高をくくって、もう全てが終わったつもりでいた。帰還もしていないというのに、随分と気が抜けている。
「遠足は家に帰るまでが遠足」――――21世紀日本では誰でも知っている言葉を贈りたい所である。



「えー、それではお待ちかねの配分の時間……と行く前に一つここでお知らせがありまーす!」
「「「ウェ?」」」
「なーんーと!」
「「「ウェ!」」」
「今日からここを俺達の第二の拠点としまーす!」
「「「ウェーイ!!」」」

村人たちが聞いたら卒倒しそうな事を言い放つ。だがこの時、蛮族達は油断していた。そしてそんな油断しきっている彼らを見つめる者が二人、この荒野に伏して存在していた。





「――――で、あそこで脳みそにウジが沸いているような声を出しているバカどもは一体何だ?」
「あれは……ドキュソ族の連中です。恐らくは略奪帰りかとヒャッハー」

オリ主を自称する煉獄院朱雀(本名・山本八千彦)と、パッドゥ族の族長カタだった。二人は馬に乗らず、岩陰に隠れるようにして眼前の蛮族集団を観察していた。

この二人。悪運が重なって大成功を収めてしまった演出の結果、なんやかんやの末、友誼を交わすこととなったのだ。
山本少年はノリノリで行なった青春の過ちの結果、パッドゥ族の相談役的なポジションに収まった。このような事態になったことを (さすがオリ主! とんとん拍子とはこの事だ!)と、あまり重く考えずに引き受けた。というのも、流石にいつまでも1人で荒野さ迷う訳にもいかないので、早々に人里なりに行きたいと思ったので、かなり軽く引き受けてしまったというのが実情だった。

山本少年は、さっそく今部族が抱えている問題に対する相談を持ちかけられた。先の「あいつのモノが欲しいけど頼むのが嫌だから奪っちゃおう☆」というものである。
まあ実際はもう少し複雑なのだが、頭が丁度いい感じに緩んでいた山本少年はそう解釈した。内心(コイツらマジ蛮族。ないわー)とドン引きだったが、そこは相談役になった手前、なんとかビシッと解決策を示さないとマズい。本人は気付いていないが、失敗すれば、山本少年のハッタリで築いた権威は失墜する。法も秩序もないこの部族内ではそれは即、荒挽ハンバーグにつながるのだ。

そうとは知らない山本少年は、とりあえずとばかりに「まずはその国とやらを見せてもらおう」とこれまた偉そうな物言いで、パッドゥ族を引き連れて視察へと赴いたのだ。元々、ウルル公国へ向けて進んでいたので、この申し出はすんなり通った。

そしていよいよ国境、というより縄張りと表現した方がいい辺りに近づいたところで、異変に気付く。先のウェーイ集団達による略奪行為で生じた煙を見つけたのだ。そこで山本少年は敏感にイベントの匂いを嗅ぎつけ、カタを伴って偵察に出たのだった。
そこで見つけたのは、何やら頭の悪そうな声を出しているバカの集団。服装はパッドゥ族とモヒカン肩パッド以外には大して変わらない。だが、何となく連中の言動が無性に腹立たしいのだ。
特に「ウェーイ」が。聞けば聞くほど頭が悪くなっていくようで甚だ不快だった。


「よしやるぞ。貴様は今すぐ部下共を率いて、馬に乗ったまま突っ込め」
「ヒャッハー。狩りですかい?」
「然り。油断しきっているバカどもに、狩りのなんたるかを教育してやれ」
「ヒャッハ! しばしお待ちを!」

ススッと音もなくカタはその場を離れ、1人素早く走り去っていった。ここから少々距離がある場所に仲間を待機させている為、少々手間だったがしかたない事だと割り切る。
問題は連中がこのままどこかに行ってしまう可能性があることだったが、運がいい事に蛮族達はその場でとうとう酒盛りを始めてしまう。全く持って都合がいい展開に、山本少年は不敵な笑みを浮かべる。
その酒盛りは、案の定「ウェーイw」の掛け声が連発。何の意味があるんだよソレ! と小一時間問い質したくなるのを我慢して、その時を待つ。

(ウェーイウェーイ楽しいかーそうなのかーでもこっちは全然楽しくないんだよ。オメエらみていると駅前のバカ共の事を思い出すんだよ!)

山本少年の地元では、未だに暴走族が存在した。地方都市でも天然記念物レベルで珍しい生物だったが、けたたましい音を鳴らして安眠を妨害する連中など保護する気持ちは一切わかなかった。
ヤツらと同質の匂いを放つ連中に、思わぬ所で今まで抱いていた鬱憤を晴らす機会に恵まれた山本少年は、残酷な表情で迫りくる馬蹄の音を聞き届けた。







アルコールが入っていよいよ宴会の盛り上がってきたとき、ふと蛮族の中の1人が、「あん?」と視線を上げる。
酒に弱い彼は少量しか飲んでいなかったのでその異音に気がついたのだが、周りはそうではないようで、相変わらず騒がしい。
そしてその陽気な喧騒が、一瞬後には一変する。
「ウェーイ!」「ウェーイ!」「ウェーイ!」「ウェー……な、なんじゃ――ありゃ?」
「「「ウェ?!」」

突如、蛮族の1人がだらしなく口の端から酒を垂れ流しながら彼方へ指を向ける。モクモクと上がる土煙りがそこにはあった。そして、大地を揺らす振動も。なんだなんだとお互いに顔を見合わせている間に、彼我の距離は一気に縮まる。そして、それがこちらに突っ込んで来ると分かった時にはもう、全てが手遅れだった。


混乱するドキュソ族達。そしてそれはこの場を取り仕切っていた男も同様で、突然の事に対処出来なかった。先ほどまでほろ酔い気分で盛り上がっていた場は急激に冷め、代わりに訪れたのは悲鳴と怒号がとどろく狂乱の宴だった。

「な、アレは――パッドゥ族のヤツらか?! なんでヤツラが――!」
「そんなこと言ったって――グハッ!」

耳障りな金属音に肉を切り裂く異音。そして絶叫――。
傍らの仲間が、飛んできた槍で胸を貫かれ噴き出す様を目撃して、ようやく全てを察した。自分達が今とんでもない窮地にいる事が。

「ヒャッハー! ようドキュソ族の。最後に会ったのは……まあいいや。けっこう前だったな」
「パッドゥ族のカタ! テメエら一体何の真似だこりゃ!」

非難の叫びを上げる。だが、それを受けたカタはどこ吹く風で飄々としている。何ら悪びれる事もなく、「何って狩りだよ狩り! 見てわかんねえのかよヒャッハ!」と言い放つ。

「獲物は俺たちじゃねえだろうが間違えんなコラ!」
「ヒャッハー!! いいや間違ってないね! ある所から奪うのが俺達のやり方だろ?」
「っ――ッザケンなァアアア――――!!」


激昂して、腰に下げていた剣を抜きはらって切りかかる。だが、その刃がカタに届く事はなかった。興奮して周りに目がいかなかったので分からなかったが、カタの周囲には既に護衛の取り巻きが多数存在しており、切りかかった瞬間逆に槍衾で体中をめった刺しにされていたからだ。

「ァ……?」

自分の身体から流れる赤い液体が自分の血液であると言う事に、呆けた顔でようやく認知出来た頃、すでに男の膝は折れ、荒野に出来た血だまりに身を沈ませていた。ドチャリという湿った音が周囲の怒号に混ざり、そのまま事切れる。
その様を見たドキュソ族の生き残りも総崩れ。抗戦する意思も砕けて思い思いの方向に武器も放り投げて逃げ出した。後に残ったのは宴の残骸と、村から先ほど奪った食料を始めとした物資だった。

「「「「ヒャッハー!!!!」」」
モヒカン達は、喜びの雄叫びを上げた。




辺り一面に広がる血と死体を視界の中に収めながらも、それを生みだした首謀者の山本少年はほとんどショックを受けていなかった。それどころか(やっぱ野蛮だなコイツラあーヤダヤダ)と非道な事を考えていた。というのも、その光景はあまりにも現実離れしていて、正直映画かテレビドラマのようにしか見えなかったのだ。そこには、先ほどの狂乱の渦に当事者として参加していないと言うのも原因かもしれない。
やったことは、ただ指示を出しただけ。これでは、現象を外から観客として見ているようにしか感じられないこともあり得る話だった。

「うーん」

それよりも今、山本少年が考えるのは今後の事。ぐるりと見た村の光景は、お世辞にも現代レベルとは言えない。せいぜい中世程度の技術力しかない、原始的な農村――というのが、正直な感想だった。まあ、半裸で馬に乗っているよりは文明水準は高いのだろうが。

(この程度の科学技術レベルなら、内政チートが出来るな。内政チートの三巨頭の1つ、糞土による農業改革。まずはここから着手するか。なら――――)

テキパキと、ネット小説で読みかじった知識を元に、自分の立身出世コースを思い浮かべる。まずは地道にこの村で実績を重ね、格段に豊かになったこの村のうわさを聞きつけた王の側近(女騎士希望)がめっちゃ作物が実っている畑を見て――――「こ、これは一体?」「肥料をまいたのさ。これで収穫は倍増する!」「す、すごい! 是非とも城に来て王にこの事を!」「やったぜ!」――――みたいな。

「そうと決まればさっそく――――」
「なあ、アンタがあいつらをやっつけてくれたんだろ!?」

思い立ったが吉日とばかりに、さっそく村長的な人と交渉しようとした矢先、ボロキレのような粗末な服を着た人々が山本少年を取り囲んでいた。彼らは皆一様に、目期待と僅かな不安感を滲ませている。

(襲われて逃げていた村人たちってところか。賊を追い払った俺達を味方――と思いたいが……)

ちらりと、自分が連れて来たモヒカン達を見る。そして、傍から見れば同類と思われて警戒されているのか、と納得する。
納得すると同時に、ピコンと頭の中で電球が点灯するイメージが浮かんだ。

(いろいろ手間が省けるなこれは――!)

名案が浮かんだとばかりに、心の中でガッツポーズする。そして改めて村人たちに向き合うと、おもむろに手をその両肩に当てて力強く頷いて見せる。
「おおっ!」とどよめく村人たちを前に、今度は死体のはぎ取りを終えたモヒカン達が山本少年に近寄って来る。手を置いていた村人はザザッと逃げ腰になるが、山本はそれを一端置いておいて、大声で宣言した。

「吾輩の名は煉獄院朱雀! ここを荒らしていた蛮族共は我らが成敗した! 我らは諸君らの味方だ!!」

「おおっ!!」「はへ?」
前者は村人から。後者はモヒカン達から漏れた声だった。モヒカン達に混ざっている族長のカタもポカンとした顔でこちらを見つめているが、別段止める気配がないのでそのまま続行する事にした。

「これよりこの村は、煉獄院朱雀の名の元に責任を持って守る! どのような蛮族であろうと鎧袖一触で討ち払ってやる故、安心しろ!!」

「なんと!」「ありがたやありがたや……」「え?」「そんな話聞いて――」
山本少年の何の相談もなく勝手に行なわれた宣言で、その場が一時的にざわつく。だが、そのまま押し切るつもりだった。
結論から言えば、山本はこの村に、モヒカン達を用心棒として雇用させるつもりだった。
ここまでの道すがら、山本はこの国の現状を軽くカタから聞きだしていた。その話しを聞いた上で考え付いたのがこれだった。

(モヒカン共は頼んで食料を譲ってもらうのがプライド的に許せないから奪おうって訳で、なら向こうからどうぞ受け取ってくださいと差し出させる分には問題はない。――やってることはヤクザのみかじめ料みたいなもんだが、まあいいか。細かい事は)

ここの治安が世紀末レベルで悪いからこそ、暴力から身を守れる暴力は値打ちがある。これは双方が納得できる取引で在る――と自分の考えを自画自賛した。だが、実際にはもう一つ、山本自身にもメリットがあった。

(これで立身出世へのきっかけが出来たな)

それは先ほどの農業チートの件だった。農業をする為には土地が必要で、そしてそれを耕す人手がいる。モヒカン共はどう見ても農作業が出来るような連中には見えない。なら、こういう風に最初からその手の作業が出来る人間をまとめて取り込み、知識だけ与えてやれば後は勝手に結果を出してくれる。そして自分はそれを待つだけで済む。そしたら実績を手土産に、蛮族共とは縁を切ってこの国の重鎮に――――と言う風に、腹黒い事を考えていた。

(さて、それはそれとして――)

早速、ボディーガード料の話しをするか。そう悪人顔で素敵な笑みを浮かべながら、山本は話しが出来る責任者を、改めて探すことにした。







西方蛮族の1つ、パッドゥ族がウルル公国領のとある村に用心棒として定住する事になった噂は、瞬く間に周辺へと広がっていった。今まで軍に守ってもらえず蹂躙されるがままだった村々は、続々と噂話の真相を聞くために人を寄こしてきた。山本はそう言った人々に対して自信たっぷりに全部任せろと豪語し、着々と基盤を築いていった。
一方、使われる側のモヒカン達の反応はというと、当初は慣れないことで困惑していたが、どうぞと食料を差し出される分には予想通り問題はないらしく、文句は出なかった。「水だヒャッハー!」と真っ昼間からうるさい以外には全てが順調だった。
こうして、ウルル公国に公然と非合法組織が生まれようとしていたのだが――当然、それを面白く思わない者たちもいた。そう、公権力保持者たるウルル公国の指導部だった。







「任侠気どりの蛮族共が図に乗りおって!!」

ウルル公国の中心地。城壁に囲まれた都の一室で、元老を務める部族の長が声を荒げて机をたたく。叩かれた机はミシリと音を上げ、植物油を用いたガラス製のランプが揺れるが、それを気にする者はない。周囲の者は、その大半がウンウンと頷いて先の発言に賛同する。

「いや至極ごもっとも! しかしですね、現に軍の定数も足りておらず――」
対して、賛同しなかった側の者が反論しようと声を上げるが、帰ってきたのは罵詈雑言だった。

「貴殿は我らの面子に泥が塗られている事にすら気がついておらぬのか!」「若輩者は引っ込んでおれ!」「会議に混ぜてもらっているだけでもありがたいと思え小便若造!」「カス!ボケ! クソガキ!」

と散々だった。言われた方もその圧力に押され、シュンと引っ込んでしまう。再び議場は、パッドゥ族の悪行を糾弾する悪口大会へとなる。文盲やら土人やら食人鬼やらという侮蔑の言葉が次々と飛び出してきて、もはや何の為の会議か分からなくなり始めたころ、1人の元老が更にここで爆弾を投下する。

「そもそも! 奴らは未だ文字すら持たぬ蛮族共だ! 獣を追いまわす以外の能があるとは思えん!――――ということはつまり、だれかが入れ知恵をしたということだ」

「まさか!」「我々の中に裏切り者がいるとお疑いか!?」と、今までとはまた別の意味で会議は沸騰する。アイツが怪しい西部は元々誰々の一族の縄張りで――という、身内同士の疑り合いになり始めたころ、議場の上座に座る老人――会議が始まって以来沈黙を守ってきた現ウルル公王が口を開く。

「沈まれ……!」

そこでようやく、ザワザワしていた議場に静寂が訪れる。それを確認した公王は、ゆっくりと語りかけるように話し始める。

「我らの力は未だ弱い――それは紛れもない事実であることは皆の者も理解していよう」

「クッ!」と誰かが悔しさを堪えたような声を上げる。それは事実だった。公王は更に続ける。多くの西部の村がパッドゥ族の庇護を求めているという。即ち軍の力が、もっと言えばウルル公国という国自体の統治能力が民草に疑われていると言う事だ。だからこそ、あのようなヤクザ者が公然とのさばっている事が出来るのだ――と。

シン……と静まり返る。改めて突きつけられた国力の低さが、皆情けなくて仕方がないのだ。努力しても努力しても生活は楽にならず、じっと手を見る暇もない。その上、守るべき国民にまで無能者呼ばわりされては立つ瀬もない。全ては土地と気候のせいと言ってしまえばそれまでだが、それでも何とかするのが彼らの仕事であり、存在意義だった。

「――――皆の苦しみは良く分かる。余も全く同じだ。だが、諦めは罪というものだ。そこで、だ。皆に紹介した人物がおる――――!」

バサッと、議場の出入口を仕切っていた大きな布がめくり上がる。入口から差し込んで来る逆光の中に浮かんだ人のシルエットを、その場の誰もが見つめたた。

「皆さんお初にお目にかかります。神聖オリーシュ帝国派遣軍指揮官、近衛ユウと申します」

後光を背に現れたのは、見目麗しい貴公子。声色は鈴を転がしたように美しく、涼しげな眼差しは理知的でいて力強さも感じさせる。また、色白でありながら健康的という矛盾を内包した容貌が、ことさら魅力的に映った。
ユウと名乗ったその人物は、見ればまだまだ少年の趣を残している。恐らくは元服(概ね15歳前後)を迎えた直後か直前といった風情であったが、地味な軍服を晴れ着のように見事に着こなす立ち居振る舞いに、先ほどまで大声で醜く怒鳴り合っていた老人たちは一瞬のうちに圧倒されて押し黙ってしまった。

「我らに力がないのならば、力ある者に頼るは世の習い。そこで、余は帝国に対し蛮族問題への根本的な解決を依頼した」
「!」

若者と公王以外の誰もが息を飲んだ。根本的な解決とはつまり、蛮族の本拠地含め、全ての蛮族をこのウルル大陸から一掃するということを意味する。そしてこれだけの支援を受けた以上、こちらも相応の覚悟を余儀なくされる。
覚悟――――それは、かつて先祖たちが結び、時代が経過する内に消滅してしまったオリーシュとの同盟を再び結ぶと言う大きな政治的決断にほかならない。
資源の融通に始まり、戦争の全面協力――それはもはや同盟と言うよりも従属に他ならないような契約を結ぼうとも、民草に安寧をもたらさんと公王は決断した。元老達はそれを即座に理解したのだった。

「それでは、作戦会議と行きましょう。西部を不法占拠した蛮族の頭目――煉獄院朱雀の件も含めて」

近衛ユウはそう言って、会議を取り仕切る。
カチリ――どこかで巨大な歯車が、静かに回り出す音がした。


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