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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編 序章②
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:95ce0ae2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/01/16 20:53


本来の地球歴史において、世界に存在する大陸は全部で6つ存在する。その中で最小の大陸と呼ばれるオーストラリアは、周囲を海に囲まれた巨大な島とでも言うべき大陸だ。
特筆すべき点は、土地のほとんどが耕作に適さない不毛な大地であるということだろう。その原因は、最東部の山脈が太平洋から運ばれてくる湿潤な空気を遮り、同山脈で大量の雨を降らしてしまうためである。この山脈より西の大陸中央部は乾燥し、大陸のおよそ半分が乾燥地帯に属する過酷な大地となってしまう。特に大陸の西部に至っては大半が沙漠であり、ほぼ無人の荒野が広がっている。
このような過酷な生活環境であるため、太古の時代から人は居住するものの国家と呼ばれるようなものは自然発生せず、加えて他大陸とは海を挟んでほぼ孤立しているという立地の為、文明の伝播と言うものもなかった。結局、オーストラリア大陸の存在が歴史の表舞台に現れるのは、17世紀から18世紀にかけての西洋の探検家による発見を待つ必要がある。
だが、それまでよくも悪くも内に籠って慎ましく暮していたこの大陸の先住民たちは、これより先に過酷な運命を辿ることとなる。
西暦1770年のことである。海洋大国として世界に進出していたイギリスがオーストラリアの東半分を領有すると宣言し、更に1788年には独立戦争で失ったアメリカ大陸に代わる流刑地となり、犯罪者の流刑という形でもって定住が開始されこととなる。
1828年にはついに同大陸全土がイギリスの植民地と化し、その段階で先住民たちのほとんどが土地を取り上げられ、ある者は放逐され、またある者は殺害された。こうした政策の結果、西暦1830年までに純潔の先住民たちは全滅することとなる。
時代は19世紀。帝国主義が血と屍を養分に猛毒の花を咲かせようとしていた時代には、弱きは悪であり罪であった。かような弱肉強食の世界に在って、国家すら持たなかったオーストラリアの先住民たちは瞬く間に歴史の闇へと葬り去られてしまう。ものの善悪を問わず、力こそが自身の身を守る最良にして唯一の道であった中、彼らは余りにも無力であったのだ。

しかし――この世界のオーストラリア大陸は少々異なる歴史を歩むこととなる。その原因はそう、はるか昔に捲かれたもう一つの世界からの種が発端となる。この世界は太平洋、その洋上に浮かぶ『第七の大陸』に芽吹いた花が、着々と世界の歴史を変えようとしていた。さらに、今また一つ、世界に波紋を広げる存在が彼の地に舞い降りる。




近代編プロローグ②

「ヒャッハー!!」

オーストラリア――否、現地呼称ウルル大陸の片隅で、彼らは走る。振りまく蛮声は馬の嘶き声よりもハッキリ高らかに。大量の馬が通ることで生まれる連続的な蹄の音が、太鼓を連打するが如く大地を踏み砕き上げる。彼らは手に持った槍や弓と言った雑多な武器を叩き合わせながら、天下に存在を誇示するように愛馬を疾走させる。
なんとも目立つ存在だったが、注目すべきは彼らの格好である。
頭髪は両サイドをそり上げた上で頭頂部の毛髪をライン線上で伸び生やし、加えて草木や動物の血を使って染め上げて逆立てている。両の肩には多種多様な動物の頭蓋骨を利用して作られた肩当てが付けられており、異相の集団が醸し出す怪しげで凶暴な存在感を倍増させることに一役かっていた。
乾燥した土埃を大量に巻き上げて、彼らは叫ぶ。我は此処なりと。彼らは訴える。我らは、我らこそは――――

「ヒャッハアァアアア!!!! パッドゥ族御一行のお通りだァアア!!」


パッドゥ族の若き族長にして自称未来の大陸の覇者、カタ=パッドゥは両肩のカンガルーの骸骨を旗印にして、そう名乗りを上げた。
自らの存在を天に示し、これから行う行動を照覧あれと高らかに宣言したのだった。

パッドゥ族はここウルル大陸に先住する部族のひとつである。彼らは過酷なウルル大陸西部において、採取狩猟生活を行いながら極限世界を生きて来た、由緒正しいウルル大陸先住民族だ。
だが、彼らが先祖代々守ってきた伝統に従ってつつましやかな狩猟生活を営んでいたのは今は昔。今のパッドゥ族の生活は、変化を余儀なくされるほど追いつめられていた。

暦を持たない彼らの一族がこのような事態にいたることとなったきっかけは、彼らの曽祖父よりもなお昔の時代の事。すでにその時代に生きた者は死に絶えて久しい大昔に、遠く北の大地に住まう稀人の到来が始まりだった。その稀人達は大きな木でできた水に浮かぶ箱で乗りよせ、ウルル大陸南東に位置する海岸に辿りつくと、現地諸部族と手を組んで、クニなる集団を作った――――そのように一族の口伝で伝わっている。そしてそのクニの名称をウルル公国とし、集団を構成する諸部族をウルル人なる一族として再構築した。
未だ原始的な生活スタイルしかなかったこの大陸に、本来の史実ではあり得ないタイミングでの文明が誕生した瞬間であったのだが、その大きな意義を理解できる者は、ウルル大陸には皆無であった。
事実この段階におけるパッドゥ族も、特に関心を払うことはなかったという。頑強な肉体と健脚を誇り、大地を所狭しと駆けまわっては獲物を狩る彼らにとって、祖先の教えを捨てて他所者に頭を垂れつつ定住して土をいじくりまわす存在など、滑稽で取るに足らない存在でしかなかったからだ。むしろ狩り場の縄張りが増えて助かったとすら思っていたほどであった。
だが、その認識が一変するのに、そう長い年月はかからなかった。

ウルル大陸は、史実のオーストラリア大陸同様に、基本的には不毛の大地が延々と広がる過酷な土地だ。一部はそうでもないが、大部分は生きることすら困難と言わざるを得ない砂漠地帯である。そんな人ばかりか生き物が生きるのにすら厳し過ぎるような環境下にあって、なんと土をいじるだけのウルル公国のみが、ほとんど望外なほどの豊かさを享受する事が出来た。

それは多くのウルル大陸先住民族達にとっての、まさに青天の霹靂とでもいうべき異常事態。ウルル公国周辺に広がる、瑞々しい食べられる植物と、巨大な木と石で出来た大きな建造物群を見たときのパッドゥ族を含めたその他先住部族の衝撃は計り知れないモノであったと言う。
何日も獲物を求めて荒野をさ迷う必要もなければ、獲物の生血で喉を潤す必要もない生活が眼前に広がっていることに、彼らは羨望の思いを強く抱いた。
続いて、先祖代々の教えを律義に守る自分たちよりも、教えを放棄した連中のほうがいい暮らしをしていることへの率直な嫉妬と憤慨を覚える。

だが、今更頭を下げることなどできない。彼らはしょせん、土いじりの集団でしかない。一族の伝統と矜持をあっさりと捨てて、見た事もない様な土地からやってきた他所者にペコペコ頭を下げて服従している存在の、その更に下につくなどあってはならないことである、とかたくなに信じていた。
しかし、その豊かさは是が非でも手に入れたい、享受したい――そう身勝手で自己中心的な感情にまんじりと苦悩する日々に対して、ある日唐突に解決策を示されることとなる。欲しいのならば奪えばいいと、至極単純な方法を思いついた他部族が先んじて動き、ついに掠奪を行い始めた。
獲物を狩る為のブーメランは人を刺し殺すための槍に代わり、獲物を追う為の健脚と肉体はウルル公国の田畑を蹂躙する為に使用された。結論を言えば、今ここに、ウルル公国と先住諸部族による抗争が勃発することとなったのだ。

ほとんど奇襲的な略奪は見事に成功した。ほぼノーリスクでハイリターンな狩りを、すぐ近くで見せつけられてしまうこととなる。戦果を見せ続けられるようになってしまえば、今まで先祖の教えをギリギリまで守ってきたパッドゥ族も、ついにその思い腰を上げざるをえなくなる。

別段、食料が足りない訳ではない。彼らの日々の分くらいの獲物なら、わざわざ他人から奪う事もなく獲得できる。だが、自分達はそのままなのに周りが豊かになって行く様というのは、人間の心を想像以上に掻き乱すもので、この度の略奪遠征にしても、実体は政治的な理由が大半だった。すなわち、このままでは一族の中から離反者が現れかねない、いまは何とか抑えつけているが、もしそうなったら部族は空中分解するだろう、というのが最大の原因といえた。
そんな事情から行なうこととなった第一回目の略奪遠征、その先頭に立ったのは、パッドゥ族の若きリーダーであるカタだった。

先代から新たに族長の地位を得たカタは、最強の勇者として勇名をはせていた。彼の両肩にはめられたカンガルーの骨は、彼が武器を使わず素手で仕留めたものである。そんな誇り高き勇者は、一族の正装でもってこの度の『狩り』を行なうつもりだった。

特徴的なモヒカンは自らの存在を高らかに示す事と、動物の骨を身につけることで周囲を威嚇し、それでもなお向かってくる気骨ある獣のみ狩ることを表す神聖なる衣装。
そもそも、パッドゥ族の言語に略奪という単語は存在しない。あるのは「狩り」、すなわち自分自身の命を賭け金にして行なう真剣勝負のみ。
如何に言い変えようとも略奪は略奪ではあるのだが、パッドゥ族の根底には、弱肉強食の掟が根強く残る。それでもなお、カタは敬意を表した上で奪おうと考えた。
この戦いが、一族の存亡をかけたものであるという事は重々承知ではあった。だが、これからの狩りをきっかけとして今までの自分たちから変容しようとする中に在って、それでもなお不変の何か、自分達の心の中に確固たる先祖代々の教えを保持したかった。

「ヒャッハアアアアー!!」
「「「ヒャッハハアア!!」」」



ヒャッハー! とカタが叫べば、彼に突き従うモヒカン達も続いて叫ぶ。生きるか死ぬか、大一番を前にして、パッドゥ族の面々は燃えに燃えていた。だが、その叫びには僅かな不安の色が隠しようもなく滲んでいた。みな、内心では不安だったのだ。別に罪悪感に苛まれいる訳ではない。常に命のやりとりを、狩りを通して行なっているパッドゥ族の道徳では、弱い方が悪いとする。負ければ勝者の糧となるだけという簡単かつ明瞭な風習において、狩るモノが動物から人間に代わっただけなので、道義的問題はあまりない。ただ、今までの経験が通用するかどうかが未確定であることが恐ろしいだけだった。あるいはそれは、未知への恐怖かもしれなかった。




「ヒャッ――――」
「お頭ァ 前に変な奴がいやす!」

今一度、そしてこれまでよりも大きなヒャッハーを叫ぼうとしたカタを制したのは、並走する部下の1人だった。便宜的にモヒカンAと呼称する。モヒカンAは器用に片手でたずなを握りながら、空いた方の手で前を指さす。余談であるが、馬術や馬というのも元々パッドゥ族の中には存在しなかった。これもウルル公国から伝播した技術だった。

「バカ野郎! 口でクソ垂れる前か後ろにヒャッハーを付けろと言っただろうがマヌケがぁ! 頭ぁ出せ! ぶったたいてやる!」
「痛ッ痛いですお頭! 申し訳ありません、ヒャッハー!」
「よーし、今度忘れたら消毒だからなヒャッハー!」
「ひゃ、ヒャッハー!」



消毒とは、傷を負った所に酒をぶっかける行為である。医療行為であると同時に傷口にしみる痛みが一種の罰として機能していた。その際、「お傷は消毒だー!」と叫びながらやるので、めちゃくちゃ目立って恥ずかしいという。使用される酒は罰せられる者の所持品を使われるので、精神的にも経済的にも損失を喰らう恐ろしい罰だった。

さて、ガツンとモヒカンAの側頭部を殴りつけてほどほどに怒気を抑えたカタは、指摘された前方に向けて改めて目を向けて、じっと遠くを見つめて見る。
陽炎が揺らめく大地の彼方に、確かに人影を発見した。

「なんだぁ、ありゃあ?」

続いて、その不自然さにいぶかしんだ。この辺りの大地に住まう民は、とっくの昔にウルル公国への恭順を示し、移住していったハズだ。そうでなければ、このような雑草すら満足に生育できない様な場所に1人でいる訳がない。疑惑は確信に変わる。アレは普通じゃあない、と。

「ヒャッハアア!! 轢き殺されてェかあ――――!!」

威嚇。まずはこれで出方を窺うことにした。こんな所に1人でいるなんてあり得ないとは思うが、ウルル側の斥候や戦士である可能性もある。
だが、ソレは動じることなく、相変わらずそのままの姿で立ったまま動かない。
さらに彼我の距離が近づいたことによって、その不審者の詳細が鮮明に見れるようになってきた。よくよく見れば、どうにも見慣れない格好をしている。一体どのような植物や動物の液体で染めたのか、真っ黒な服と靴を身につけている。

(ヘッ! どこのどいつだか知らねえが丁度いい獲物だ!)

おかしい、そういぶかしむカタだったが、それよりもなお強いワクワク感がむくむくと湧き上がってきた。パッドゥ族はこれより決死の狩りに赴く訳であるが、彼らの昂ぶる感情をぶつけて腕慣らしをする格好の獲物に思えた。あの見た事もない珍しい衣は、奪い取ってしまおう。しかしそうなると、傷を付ける訳にはいかない。ならば脅し取った後、血祭りに上げるのがよかろうと、冷徹な計算を即座に行う。
――――よし。

カタは右手を上げて、部下に停止を命じた。そしてそのままワザと乱暴に、その人物の前で馬を止めた。
大きく息を吸い込んで、一喝する。これが彼と彼に従うパッドゥ族の運命を、そして世界の歴史に大きな変革をもたらすきっかけであることにも気付かずに。








「ヒャッハアア!! 轢き殺されてェかあ――――!!」
(ま、周りにいるのは、360度水平線の向こうまでモヒカンだけ……だと?)

威嚇の雄叫びを上げる族長そっちのけで、山本少年は絶望していた。それは見るからに危険な匂いを発している蛮族を前にして、わが身に降りかかる不幸を想像して打ちひしがれていた――訳ではなかった。
もしも彼が素のままであったならば、このような世紀末的集団に出会った瞬間に大小共に漏らしてズボンに大きなシミを作っていたことだったろう。きっと手持ちの種モミを強奪されたり、ピラミッド的なものを作らされる労働力にされてしまうことだろうことは想像に難くない。普段の山本少年は普通の高校生なので、そうなることは太陽が東から昇るのと同じくらい当然のことだった。

だがそれは普段の、日本で平凡な高校生活を送っていた時の山本少年であったならばの話である。
彼は恐怖などしていない。それは今この少年が、自分がチートを与えられたチートオリ主であることを全く疑っていないからだ。彼が抱いているのは、彼が落された世界そのモノに対する絶望だった。

(――――ふざっ! ふざけんなぁああああああ?!)

心の中で慟哭する。ヒロインらしき女性が、影も形もない事に。これではボーイミーツガールではなく、ボーイミーツモヒカンズである。
モヒカンまでは赦そう。しかし、それはあくまでヒロインの登場を盛り上げる為のエッセンス、すなわち引き立て役としてである。間違ってもこんな、いかにも主人公にヒデブされるために存在するしか能がない雑魚ABC……がでかい顔をして、主人公とヒロインがする運命的な出会いを邪魔していい訳がない。それは世界の運命律に対する重大な違反だ。
出るなら「お前いままでスタンバッてただろ」と言いたくなるような絶妙なタイミングでヒロインが飛び出してこいよ、そうすれば颯爽と俺がパパッと片づけてフラグが立つって言うのに!――――と、山本少年は地団太を踏んだ。

それは例えるならば、いい感じの学園系エロゲを購入してさっそくプレイしようとしたら、いきなりヒロインが惨殺される所から始まる猟奇系だった――という感じだろうか。山本少年は、パッケージ詐欺も甚だしいクソゲーを、あまつさえフルプライスで世に送り出す不届きなメーカーが世界で最も許せないのだ。
世の中には、作法というものがある。古今東西、若い少年が異世界に落されたのならば、最初に邂逅するのは美少女と相場が決まっているものだ。そうでなくても、荒くれ者とセットに出すのが常道だ。行き倒れていたところを助けられるというのも大好物だ。
学園モノなら学園モノ、転生モノなら転生モノとしてのお約束を守れと言う話なのである。バッカじゃねえの、なんでオリ主が最初に出会うのがむさくるし野郎の群れなんだよ空気読めよ、と山本少年は会った事もない神に文句を付けた。


グチグチとあーでもないこーでもないと不平不満を垂らす山本少年の目の前に、遂に族長カタがやってきた。馬を乱暴に停止させたから砂埃が舞って煙い。それがまた、山本少年の神経を逆なでした。視界にすら入れることを拒否したい存在だった。

「その衣を寄こしなァ! 小僧ォ!!」
(あーもう、うっさいなぁ――!)


テンプレを守れない無粋な世界を構成する腹立たしい存在に対して、一気に感情が沸騰する。イラッとした思いをそのままに、山本少年は眼前の蛮族を睨みつけ、諸々の不満を込めつつ口を開く。

「貴様……誰に向かって口を開いていると思っているかッ」
「ッ?!」

喉から出た声は、本人もびっくりするような底冷えする声だった。だが本人以上に驚いたのが、族長カタだったことには、ただ八つ当たり気味の山本少年は気付かなかった。
もっというと、さっきまでのキャラ設定のままだったことにも喋り終わるまで分かっていなかった。発言した後、ちょっと照れる感じがしたが勢いのまま行くことにした。

「テメエ……何を余裕ぶっこいてやがる――!」
「ほざけ。そもそも吾輩を見下ろすとは何処までも礼義を知らぬ愚か者め……まずは下馬して――――跪け!」

と、かなりノリノリである。ちなみに余裕の態度なのは、いざとなればチートが目覚めて指先一つさ~~とお気楽に思っているからである。中指と人さし指を使って「クンッ」と挨拶すれば、辺り一帯を吹き飛ばせるくらいの力は余裕であると何の根拠もないのに思っていた。その上、半身を引いて指を「跪け!」発言に合わせて突きつける、気取った格好をするものだから余計に始末が悪い。
だが、あるいはこの悪乗りがどこかの神様の目に留まったのだろうか。ここで小さな奇跡が起こる。

跪け! にタイミングを合わせるかのように、その時突風が吹いた。
さらに見慣れぬ格好の人間が、突然大声を出したことに驚いた馬が俄かに棹立ち、これには訓練を積んでいた族長も堪らず放り出されてしまう。

「なあっ!?」

信じられないというような顔をする族長。だが、それよりもなお驚いたのは彼の部下たちだった。傍から見れば黒尽くしの異装の男が怒鳴り声を上げながら突風を吹かせたように見えたからだ。
そして、族長が放り出された事によって本当に地べたに跪いたようにもみえる。


(風を操るのか!? ヒャッハー!)(あんな格好みたことねえゼ!ヒャッハー!)(お頭の威厳が……消えた……?ヒャッハー!) と律義に心の中でも発言の後ろにヒャッハー!を付けて驚愕する。
もちろんこれは完全なる偶然だが、実際にそう見えてしまったのだからしかたがない。
さらに――

「吾輩は地獄を総べる第六超魔王ルシファ=ベルゼブブ・ノブナガが直属、6大魔将軍の1人にして焔の堕天使! ✝煉獄院朱雀✝であるぞ頭が高い! 控えろい!」
「「「へ、へへ~!」」」

何かいい感じに盛り上がっていたので、空気を読んで「僕が考えたカッコイイキャラ」のまま語る山本少年の姿がそこにはあった。基本、人は堂々とモノを言うと例え嘘っぽいものであろうが「あれ、これだけ自信たっぷりに言うってことは本当なんじゃね?」と割と根拠なく思ってしまう習性がある。
チートがあるという絶対的自信と、ノートの上でシコシコと考えていた口上、そこに先ほどの自然現象とカッチョイイ格好が加わることで、山本少年の言葉には絶対的な信憑性が生まれしまった。
こうして――今ここに、山本八千彦根改め、✝煉獄院朱雀✝がウルル大陸に降臨したのだった。合掌。










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