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No.40248の一覧
[0] 【艦これ】もしかしたら瑞鶴と呼ばれたかもしれない空母ヲ級の話【ネタ】[kuboっち](2014/07/30 11:32)
[1] 【番外編ネタ】某ヲ級にボコられたある正規空母の恋愛に対する考察【おまけ】[kuboっち](2014/11/27 23:52)
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[40248] 【艦これ】もしかしたら瑞鶴と呼ばれたかもしれない空母ヲ級の話【ネタ】
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:8bbe0e43 次を表示する
Date: 2014/07/30 11:32
久しぶりに投稿するのが自分だけ楽しい短編ですいません。
艦隊これくしょんはほぼ素人なので、設定とかもう好き勝手です。
史実とか軍事的な知識とかあるわけがありません。
あと瑞鶴とヲ級が好きだったんです。

それでも良ければどうぞ~




深海棲艦。人類がそう名づけた敵性存在がある。
どこから来たのか? 何を目的とするのか? 一切が不明。
ただあるのは行動。海洋からの人類を駆逐する。
軍艦だろうがタンカーが漁船だろうが客船だろうが関係はない。
ただ襲い……ただ沈める異形の怪物ども。通常兵器ではない歯が立たない悪夢。
人類がただ一方的に虐殺されること数年、対抗兵器が量産されるようになるまで数年。
押しては引いてを繰り返しながら殺して、殺されるようになってからさらに十数年。
一部国家が全盛期とは比べられないまでも、それなりの海を取り戻して数年。

そんな人類と深海棲艦の最前線、とある南方の海域を進む群れがあった。

「■■■」

「■■■■」

それらには言葉はなく、知性もない。彼らが『艦隊』を形作るのはこちらを攻撃するための本能に過ぎない。
これは上の人間が定義した便宜的なものである。実際に矛を交える現場の人間からすれば、失笑すら出ないふざけた話だろう。
そうすることで『相手は無知な害獣』とし、精神的な防壁を形作ることが出来るから。
知性ある相手に一方的に敵対され、それを皆殺しにするために戦い続けるという事態から目をそらすことが出来るからだ。

「■■?」

「■■■■■!」

艦隊の前衛を務めるのは魚類を連想させる外見……と定義することもできるが、やはり名状しがたい異形が数種。
大きさこそ大型犬ほどだが、その砲雷撃は対抗兵器なき時代には、多くの軍艦を沈めた人類の怨敵。
その出現する量が多いことや快速であることから、軽量で量産される艦種 『駆逐艦』に分類される者たち。

「■■■~■■■」

そんな駆逐艦に水死体のような人間の半身、上か下のどちらかが生えた『軽巡洋艦』がその内側を固めるている。
もしこれが砲撃による制圧を行う艦隊であったならば、続くのは重武装になった『重巡洋艦』。
もしくは圧倒的な砲撃力を有する海戦の花『戦艦』だったはずだ。

「■■」

だがこの艦隊の中枢はそれらの艦種ではない。
戦力の主軸として駆逐艦と軽巡に守られた中央部、まず目に付く同型の異形が三つ。
大きすぎるドーム型の頭部。水銀色の瞳と並びが悪い大きな歯。まるでとってつけたような死人色の手足。
砲雷撃ではなく、小型飛行種『艦載機』を搭載することに特化した『空母型』。
どんな大口径砲よりも圧倒的な射程と火力。同じく空母型の『対抗兵器』が開発されるまで、人類にとっての悪夢そのもの。

「■■■」

もちろん今とて危険な存在であることは変わりはない。
搭載量よりも量産性と運用性を追求した『軽空母』だが、その数が三つとなれば決して安く見ていい戦力ではない。
この三隻は二つのグループに分かれている。やたらと仲が良く僅かに先行する二つ。
そしてこの艦隊の旗艦にぴったりと随伴する一隻。朱色の燐光は優良種 エリートの証。
それだけでも十分な脅威なのだが、この艦が随伴する旗艦。それこそがこの艦隊の脅威度を決定的にしていた。


「カイセイ……ナレド……ナミタカシ」

ギリギリ人語に聞こえなくもない音を発するのは完全な人型。
屈強な戦士のソレではない。膨らんだ胸、縊れた腰回り。か細い手足に整った顔。いわゆる女性のソレ。
ラインがはっきり見えるボディースーツ、肩からは黒いマント。手には歪んだ杖状の物体。
そして何よりも特徴的なのはその頭に被った異形。軽空母たちの頭部の様な物から触手が垂れており、なお大きい。
つまりそれこそが飛行甲板にして格納庫なのだ。もし対抗兵器を指揮する者たち『提督』がこの艦種を認めた場合、できることは主に二つ。
自分の艦隊が持つ航空戦力に自信があるのならば、警戒を厳にして迎撃。
もし自信がないのならば……逃げ帰るしかない。もしくは大事な娘を海の底に沈めるか。

イロハ順に与えられる人類側の呼び名で『正規空母ヲ級』と称される深海棲艦だった。






穏やかな航海が続くこと一時間ほどたったところだろうか?
ヲ級に随伴するヌ級が不意にびくりと震えた。

「テイサツキヨリニュウデン……ジョウホウヲオクレ」

このヲ級はただのヲ級ではない。その全身から沸き立つ金色の燐光。
いわゆる深海棲艦の中での優良種 朱色の光を纏うエリート……のさらに上。
単艦としての戦闘力向上はエリートの上、さらに艦隊統制能力が強化された旗艦種 フラッグシップ。

「■■■■! ■■■■■」

それだけでも恐ろしいことこの上ないのだが、このヲ級はさらにおかしな点があった。
まずはその髪型。長い髪をツインテールにしていること。
そして飛行甲板が緑色迷彩に染まっている点。これは艦隊の中枢たるヌ級三隻にもみられる特徴だ。
そして右胸部にうっすらと読みとれるのは『ス』の文字。

「テキカンタイ、ミユ。ゼンカン、リンケイジン」


フラッグシップに率いられた深海棲艦たちの動きは迅速だった。
中央に空母を置き、駆逐と軽巡が周りを固める対空迎撃と対潜警戒に適した輪型の陣形。

「クウボカクカン、ダイイイチジコウゲキタイ ハッカンハジメ」

ヌ級の頭部 ヲ級の兵装が開く。カエルが大口を開けたよう。
生物的な内部から這い出して来るのは空母型に寄生し、使役される小型飛行種。
次々と飛び立っていくそれらを見送りながら、そのフラッグシップヲ級は死んだような無表情を歪める。
その表情は間違いなく『喜び』のソレ。


「ワタシハイマ……カガヤイテイル」









「……そうか……轟沈はいないか……」


とある『鎮守府』が一室にて、深海棲艦と唯一戦える対抗兵器 『艦娘』を使役運用する雇われ軍人たる提督が一人、大きなため息を吐いた。
偵察任務に出ていた艦隊からの緊急入電。伝えられるのは深海棲艦との戦闘……そして被害報告。

もとより新造艦の完熟訓練も兼ねており、第一艦隊と呼べる面子ではなかった。
それでもこの激戦の南方海域で偵察任務に出しても安心できる面子を揃えている。
実際、相手がただの深海棲艦ならば勝利こそ難しいかもしれないが、被害少なく退却することが出来たはずだ。

「まったく『名前持ち』なんてついていない」

本来深海棲艦に個体名は存在しない。個体の識別など出来ないからだ。
せいぜい、エリートやフラッグシップなどで分ける程度だろう。
だが稀に……個体を特定できるほどの特徴を有する場合、彼女たちは名前と最大級の警戒を与えられる。

たとえば……片方の肩にうっすらと見える『ス』の文字。特徴的なツインテール。
そして最も印象に残るのは『海上の緑色迷彩』という違和感を発する飛行甲板。
同じく緑の飛行甲板を持つ三隻のヌ級を従える機動部隊旗艦。
まるで『幸運の女神が憑いている』ように回避し、雷撃を当ててくるフラッグシップ・ヲ級。

「ス号目標……か」








「ホキュウ……」

ス号という名前で人間たちから呼ばれているフラッグシップ・ヲ級は海上を進みながら零す。
本来ならば戦闘時以外には感情で揺らぐことがない表情が苛立ちのソレで歪む。

「カンサイキノフソク」

「……」

いつもならば彼女にぴったりと寄り添うエリートヌ級……実は飛行甲板に小さく『づほ』の表記がある個体……すらも距離をとって沈黙を選ぶ。
どんな厳しい作戦にも、どんな強敵にも文句を言わないこの機動部隊……人類側呼称『グリーンヘッドフリート』旗艦の機嫌が悪い。

「■■■■」

「■■■?」

「「「「……」」」」

周りを警戒、航行する軽巡・駆逐艦たちもいつよりも間隔を開けているようだ。
小さな囁き声が交差し、結局のところ解決策が見つからずに沈黙が下りる。

理由はたった一つ。補給で受けられなかったこと。
大きな損害こそなかった故に、泊地での修繕は必要としなかったが、弾薬や燃料は消費されるのだ。
もっとも一回きりの戦闘で艦隊運用に支障をきたすようなことはない。
闘争本能にバカ正直な獣の群れとは違い、堅実な艦隊運用を行うフラッグシップクラスが率いる旗艦直衛艦隊。

「ワズカナ カンサイキデハ オトリ二モナラナイ」

巡航予定を曲げてまで補給が必要ではないが、『以前の経験』により艦載機や燃料、弾薬の欠如に対して忌避感を持っているス号。

「アノ■■ドモメ」

そんな彼女の前に純分な護衛艦を連れて、物資を満載した輸送種の群れが現れれば、補給を要請するのは当然だ。
これはフラッグシップが指揮する機動部隊に対する補給である。
しかも無駄なため込ではなく、敵偵察網を崩す一撃を加えた故の補充だ。
普通ならば断わる理由などあるはずがないのだが……

「■■■♪」

そんな旗艦の不機嫌を和らげるべく、気を利かせたのはいつも以上に先行していたヌ級のうちの一隻。

「~」

その後ろを嫌々ついてくるもう一隻の様子から、このヌ級たちは『姉妹艦』であるのだろうか?
もし人間的な感覚をもって『人付き合いが上手い』とされる姉艦は、偵察機が偶然接触した他の艦隊から得た情報を伝える。


「ソウ……『姫』ガオウマレニ……」

ス号は得られた情報より、自分の苛立ちを若干沈めることに成功した。
あの輸送種たちが運んでいたのは姫が生まれるための資材だとしたら、通常とは異なる命令順位が与えられるだろう。
旗艦種直衛艦隊の要請を却下できることにも納得がいく。


『姫』
それは深海棲艦たちにとって、特別な存在だ。
圧倒的な戦闘能力を有し、戦術的な思考を持ち、海の底から通じる暗き安寧なる揺り籠 泊地を守り広げるモノ。
艦種が異なるのではなく、生まれながらにしてのクラスが一つ上とでも言えるだろう。

「……」

怒りは既にない。あるのはこれから行うべき作戦行動の概要だ。

「バショハ、カクニンデキテルノ?」

「■■■」

告げられた場所は近くもないが、遠すぎるわけでもない。
その航路はすべてこちらの勢力圏内故に、面倒な手間もかからない。

「カンタイ カクカンヘ。ジュンコウヨテイヲ ヘンコウ」

泊地とは兵器工廠であり、補給所。
敵の工廠などは最も優先して殲滅するべき場所であり、こちらの戦力が拡充すると同時に、泊地とは『激戦の地』が確実に生まれる確証。
姫の力は一個艦隊にも勝ると伝わるが、それでも多くの敵兵器を相手にはできない。
故に泊地には強力な同胞たちが集まり、姫と泊地を守る。そこには当然彼女たち ス号の艦隊も含まれるのだ。
種としての本能が『馳せ参じろ!』と叫び、フラッグシップの理性が『できるだけ早い方がいい!』と歌う。

「オハヤク サンジレバ……モライモ オオイ」

フラッグシップとして、ス号は自分が率いる艦隊には自信があった。
いつ戦線に参加しようとも戦火を上げられるし、姫にも重用されるだろう
だがこの艦隊こそが最強!などと思えるほど、『元』最後の機動部隊旗艦は夢を見られない。
自分たちと同様の戦力足りうる同胞達が先に姫のもとに参じた場合、どちらが覚えがいいか?など考えるまでもない。

「トウソウハ デキルダケ イイジョウケンデ オコナウベキ」

ずっと前に止まっているのだろう、ある筈もない心臓がゆっくりとその鼓動を高めていく感覚。
潤沢な補給と苛烈な闘争が彼女を呼んでいた。









「コレホドトハ……」

ス号は眼前に広がる泊地を見て驚愕に満ちた声を零した。
数日の航海を経て、彼女の艦隊がたどり着いたのは人間側からすると、サーモン海域と呼ばれる場所。
緑に覆われた小島をいくつも通り過ぎた先、他に比べれば大きなその島には樹木が生い茂っていない。
代わりに目立つのは荒い舗装が施された滑走路の網目紋様。その間に格納庫と機銃が備え付けられた対空陣地。
三日月形の湾内には港としての施設各種が並び、繭のようなドッグからは新たな深海棲艦の産声が絶え間なく響く。
資材を運搬する輸送船種の列も途切れることがない。
もちろん、湾内にはすでに深海棲艦の姿があるが、ス号はその様子を見て安堵の息を吐いた。
別に味方がいることに対して安心したわけではない。

「ドレモ ヒヨッコカ?」

自分たちと同等の戦力足りうる艦隊が来援していないか?という心配があった。
いくら自慢の艦隊とはいえ、一番乗りを同規模の群れに奪われれば、姫の覚えも鈍るというもの。

「■■■!」

だがその安堵の息は長くは続かなかった。
先行する駆逐艦たちからトラブルの連絡が届いたからだ。

「ドウシタ?」

本来ならば陸に上がることがない深海棲艦にとって、珍しい揚陸用リフトの前。
陸に座すという姫への補給用であり、顔を見せるという形に意味を見出さない程度の同朋には無意味な場所。
そこで小競り合いが起きている。唸り声を上げて今にも砲雷撃戦を始めそうな様子。
もちろん半分はス号の艦隊に所属するものだ。だがもう半分は?
姫に惹かれたはぐれ? それともこの泊地で生まれたヒヨッコ? 
そんな連中では艦種こそ同じなれど、フラッグシップ指揮下の水雷戦隊を構成する駆逐種たちに吠え掛かろうとはしないだろう。

「センキャクカ……」

つまり同等か、それ以上の艦隊に所属するという証拠。
さすがにス号が現れれば、吠え掛かりこそしないが脅えて動けない訳ではない。
姫のもとに参じているのだろう旗艦たちを守ろうとする意志を感じさせる。

「ニンムゴクロウ」

手で両陣営を制すると、決して『こちらからは』手を出さないように水雷戦隊を纏める軽巡へと言明。
足がない彼女たちは連れていくことが出来ない。足がある軽空母たちへと同伴を指示し、ス号はリフトへと足を乗せた。





『足で地面に立つ』というのは慣れない。
水の上を進むのとは比べようもないゆっくりとしたぎこちない動き。
深き水底に溜まる力を得られない不自由さに何時もならば、気の留めない頭部の重さが腹立たしい。
自分のことでも手一杯だというのに、自分以上にふらふらしている軽空母たちに気を使いながらだ。

「ッ」

故に前方から近づいてくる四隻に気が付くのも遅くなった。
艶やかな黒い髪と美しい造形の顔。整った全身を覆うのはボディースーツ。
その両の手には無数の砲が並ぶ楯状の兵装。圧倒的な大口径の砲を使用する艦種。
駆逐艦、軽巡洋艦で奮戦する人類の前に現れた圧倒的強者にして黒き絶望。
人間からの呼称で言えば『戦艦ル級』。

「■■?」

「■■■!!」

四隻とも分類こそル級という一種なのだが、僅かに誤差がある。
他の二人を庇うように、ス号たちを警戒するように前へと出た二隻。
一隻は艶やかな黒髪が他の個体とは異なり短く外に跳ね、もう一隻はなぜか眼鏡を着用。

「■■■、■■■■」

敵愾心を隠そうともしない同胞を嗜めるのは、深海棲艦には似つかわしくない優し気な微笑みを『張り付けた』個体。
そして……そんな三隻を押しのけるように現れたル級。それを見てス号は確信してしまった。

『あぁ、どうやら先を越されてしまったようだ』と


「ハーイ、チョットオソカッタですね~」

まず強烈にインパクトを与えるのはその妙なイントネーションと深海棲艦にはあり得ないハイテンション。

「イチバンノリハ イタダキよ♪」

そして同胞ならば理解できる個体スペック。特段新しい訳ではない他の三体よりも、なお古い製造年月日。

「ふ~む……ミドリアタマノ キカン■■ト■■ですか?」

最初期量産、下手をすれば先行試作型。艤装を統一するのは黒一色。
この四体の中では間違いなく『姉』と呼ばれる立場だろう。
しかし各所に施された丁寧な改装により、そのスペックは今でも一線級。
そして……淡く発する金色の燐光はフラッグシップの証。

「ウワサニハ キイテま~す。ワタシタチノ ボウクウハ マカセテモいいね」

つまりス号たちの艦隊を指揮下に入れるという意味。
これにはノータイムでス号もこう返す

「ソチラコソ、トウカンタイノゴエイハ サセテヤロウ」

防空と護衛。砲雷撃戦と航空打撃。戦艦と空母。
数十年前に人間が体験したせめぎあいを今度はその敵対種が行っている
いつの間にか超至近距離で睨み合う二隻のフラッグシップ。
一瞬で自分たちよりも熱くなっている姉に戸惑うル級姉妹はもちろん、ふらふらとした足取りで追いついた緑頭のヌ級達とて、止められる訳もない争い。



「控えなさい」



「「っ!?」」

だがそれは一瞬で終末を迎えた。声の聞こえた先はル級姉妹が歩いて来た先、ス号が歩いていく先。
艦隊旗艦種として与えられているはずの強権は一切無意味だった。
争いなど全く無かったようにル級は小さく無言で礼を一つ。
凍り付いたように動かない妹たちを微妙なイントネーションの軽口で再起動。
去っていく背中を見送って数秒、ス号はあの声の主に会うことに若干の不安を感じつつ、歩みを再開する。









「よく来たわ」

本来ならば深海棲艦の得意としない音声での意思伝達。
だが眼前に浮遊する白地の美体から発せられる音は、何の違和感もない。
重い頭を下げて、空母たちは傅く。

「サンジョウ ツカマツリマシタ……姫」

「「「■■■■」」」

周囲には巨大な滑走路。無数の対空気銃と複数の大口径砲。
恥に並ぶのは複数の格納庫。続々と産み落とされる飛行種の群れ。

「旗艦種の参陣は貴女で二隻目だ、歓迎する」

声の主は特段に大きい訳ではない。大きな飛行甲板を頭に載せていない分、ス号よりも低いくらいだ。
だが通常の艦種では決して持ちえないだろう圧倒的な存在感を放つ。
飛行場を見下ろす上空に浮き、周囲に従えるのは大きな浮遊要塞。
髪も肌も衣服も白、ただ眼だけが爛々と赤の輝き。滑走路に似た艤装に腰を下ろす様はまさしくこの『飛行場の姫』。

「姫ノショウリニ、シリョクヲ ツクシマス」

既に一番乗りの座を奪われてしまった以上、ス号はこの謁見に大きな意味を見出してはいない。
故に少ない言語からそれなりの言葉を紡いで、慣れない陸地から撤退しようと試みる。

「それは文字通り死ぬまで、全艦が轟沈するまで戦ってくれるということかしら?」

だが曖昧な返事で終わらせられない事柄という物は案外存在するものだ。

「モシソレガ トウホウノ ショウリ二 ムスビツクノナラバ」

つまり『無駄死にはしない』と宣言しているようなものだ。
姫の表情が僅かに揺らぎ、従うヌ級たちからは焦りの電信。
それでもス号は告げる。

「アナタハ姫デスガ……旗デハナイ。センジョウモ ココダケデハナイ。
 ワレラノトウソウハ タッタヒトツノセンキョクデ ケッサナイ」

自慢の機動部隊というのはス号の核心であり、重要な戦力であるという事実に疑いはない。
もしこれが無駄に使われるような事があれば、深海棲艦の戦力が確かに減少するという自負。
そして……過去をとある空母 名を『瑞鶴』に起因する故に。

「トウカンタイハ ムダジニダケハイタシマセン。ソレイガイナラバ ゾンブンニ オツカイクダサイ」

「先に来た戦艦の旗艦種と同じようなことを言うのね?」

あのハイテンション戦艦と同じとされるのはあんまりいい気分ではない。

「スギタクチヲ……」

「構わないわ。下がって良い」

いつの間にか自分たちへと向いてた浮遊要塞の砲が収納されるのを見て、ス号は自分の幸運が再び発揮されたことを確認した。









飛行場の姫が指揮下にある泊地を満たすのは緊張感だ。
偵察機と潜水艦による索敵で、敵の大規模機動部隊が確認された。
距離と方位からして、この泊地 それを総べる姫がその攻撃目標だろう。
敵艦種から推測する通り、近々あるだろう空襲に向けて、対空迎撃の準備が進められている。


『汝、何ぞや?』

緊張感こそあれ、既に迎撃用の戦闘機を準備し終えた空母たちは基本的に、暇である。
索敵機やピケット艦からの入電があるまでス号はそんな事を考えてみることにした。
『瑞鶴と呼ばれた艦に宿っていた負の思念』とでも言えるだろうか?
船はそれだけならばただの鉄の塊だろうが、それに人が乗ることで思いを宿す。

瑞鶴……翔鶴型二番艦……当時世界最高峰の性能を持っていたはずの空母。
それが実に無様な最期だった。本命の玉砕艦隊を突入させる為の囮艦隊。
飾りのような少数の艦載機と意味があるとは思えない緑色迷彩。
強力な対空兵器が積まれていたとはいえ、それが最新鋭にして最後の空母の最後?
しかもその囮作戦は成功したのに、本命の突入は行われない体たらくだ。

『こんなはずじゃない!』

きっといつの間にか自分自身が形成されていた瑞鶴の意志はそう叫んでいたはずだ。
誇り高い最後、空母として戦って散った一航戦や二航戦の先達たちにはきっと理解できないだろう。

『もっと戦えた! もっと誇り高く散れたはずだ!』

そんな一念。恨みは方向を持たず、ただ淀んで個体となった。
それが深海棲艦 正規空母ヲ級 フラッグシップ 名前持ち『ス号目標』。
もし『みんな守りたかった』とかそんな感情が存在し、個を得ているのならば敵 艦娘側にも自分と同じようなものが存在するのだろう。


『敵機発見』


そんな言葉で思考を中断するス号は僚艦たちへと指示を出す。

「カククウボ、カンサイキ ハッカンハジメ」

胸には高揚がある。闘争に対する感謝がある。
負の念というのはかくも楽しき物なのだろうか?



いま、自分には詰めるだけの艦載機が積まれている。

いま、周りには信頼できる僚艦がいる。

いま、背後には十分な燃料や資材が備蓄されている。

いま、統制された情報を受けて行動している。

いま、過去に貰った強力な対空兵装 噴進砲も健在である。

いま、簡単に死んでしまう脆い人間は積んでいない。

いま、よく聞こえる電信が耳に響いている。

いま、眼前にはいくら打倒しても向かってくる強力な敵がいる。



「つまり私は……いま『幸』せで……『運』が良いんだろう……幸運」



これはつまり幸運の空母と呼ばれた……もしかしたら艦娘 瑞鶴と呼ばれたかもしれないヲ級の話。





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