第五話
「馳走を用意せよ。余は空腹じゃ。」
ついにキメラアントの王が誕生した。
確かに王に相応しい凄まじい存在感とオーラ。しかし、出てきてからの第一声がユピーと一緒って……
予定よりもかなり早く生まれたことによる弊害か女王蟻は瀕死だ。とりあえず、カイトが転生しているかどうかを凝で見てみるか。
パァン!
「王の御前でどこに目を向けている。」
殴ったね!!(今世では)親父にも打たれたこと無いのに!
「失礼いたしました。」
うおぉーーー超☆ワガママ!!
初っ端殴られるとは思わなかったよ。とっさに【俺Tueeee/アラベスク】で「平常心」を強化しなきゃヤバかった。
最初の内だけだとは思いたいがこのままの性格が続いたら、確実に世界は滅ぶぞ。
その後、瀕死の女王の治療を求めるコルトを袖にして、巣の屋上テラスに向かった。ピトーのドクターブライズであれば瀕死の女王を治せただろうが、王を生んだ女王はもう不要だとあっさり治療を断っていた。ピトー冷てーな。
俺が毒で死にかけたときは王にとって必要だったから治療してくれたのか? それとも、姉として心配だったから直してくれたのかどちらなのだろうか?
原作では王が腕を自らちぎった時の治療の際にピトーの円が消え、事情を知らないゴンたち討伐軍が何を起こったのかを推測していた。そのときイカルゴ(タコのキメラアント)やメレオロン(カメレオンのキメラアント)は護衛軍の誰かを治療しているという可能性は無いと断じていた。俺としてはピトーが俺自身を心配して治療してくれたと思いたい。
転生してからの2ヶ月弱で確かに姉妹としての絆的な何かがあると思わせることもチラホラあった。
――俺とユピーとの模擬戦闘で油断している俺をたしなめる為、ユピーの拳を避けるそぶりを見せなかったり。
――ピトーの実験が行き詰ったときに俺にちょっかい出してきたり。
――人間肉団子を食べない俺を見かねて、猫缶を持ってきたり。
――なにかにつけてピトエモンとして「ノワはじつに馬鹿だニャー」と罵ってきたり。
――ピトーとのじゃれあい(模擬戦闘)で俺が圧倒するようになってからはピトーの操り人形の念能力で動けなくされた後にボコられたり。
……あれ?俺実はピトーから嫌われてね?
巣の屋上テラスで食事をして、その食事に薄いと文句を言いレア物を探しにさっさと王と護衛軍は旅立つことになった。
王の食事中、コルトが女王の治療を討伐隊(モラウ、ノヴ)に求めるために飛び立っていったがさっき王に叩かれた俺は止めるつもりは毛頭無かった(原作から離れないようにというほうが大きいが)。
結局、現時点では人間側につくという行動は起こさなかった。今、人間側についた場合、王の討伐に失敗すれば人間側についたキメラアントの立場は非常に危ういものになると思われる。
毒をもって毒を制すということわざのようにキメラアントを使って王討伐を検討するかもしれないので、キメラアントから離反する場合は、王が討伐されていることが必須条件となる。ただ、「卑怯なコウモリ」のように両方でフラフラ揺れているせいでどちらにも付くことが出来なくなるのは警戒しないとな。
そしてなによりも、人間側につきたい俺自身がキメラアント側についているのはピトーが原因だ。せめてこの馬鹿姉だけは何とか生き残ってほしい。ピトーが生き残るにはどうすればいいだろうか。
護衛軍の三匹は生まれたときから王への忠誠心MAX。
魔獣ベースのユピーはそもそも個というものが少なく、蟻の本能として王への忠誠を誓ってそうだ。もし王がマサドルディーゴのような奴だったとしても、淡々と本能に従い王を護衛しただろう。
プフは……確かに忠誠を誓っているように見えるが、原作では偶像崇拝に近いような気がする。
プフの中に確固たる王の理想像があり、その理想に王を重ねているように見られる。こいつは王を理想から遠ざけようとしたコムギを殺そうとしていたが、王が理想からかけ離れたとき、その牙は王自身に向かいかねない危うさがある。もし王がマサドルディーゴのような奴だったら、王を殺して自分も死にそうだ。ヤンデレだな。
ピトーは謎だ。猫としての好奇心、おそらくベースとなった人間のサイコな部分、王・コムギを守ろうとした母性。とても一人の人間がベースだとは思えない性格の変わり具合が原作では見られた。おそらく自身の心に一定のラインが存在していて、その内側に入った者に関しては相当心を許すタイプだろうか?ツンデレだな。
もし王がマサドルディーゴような奴だったら、従うが裏ではメチャンコ王を嫌ってそうだ。
俺?俺はもし王がマサドルディーゴような奴だったら、顔面にグーパン食らわした後にキンニクバスターを食らわして全裸で街中引きづり回した後に、花火で打ち上げて「汚ねえ花火だ」と言いながらそれをニヤニヤ眺める……という想像を毎日しているけど実行に移す勇気は無い小心者ですけど何か?
まぁピトーの話に戻すと、王が存命のうちは世界がひっくり返っても一緒に人間側についてくれることは無いって事だ。王が討伐されてしまうと廃人のようになってしまう可能性もあるが、人間部分が精神の復活を果たしてくれると思いたい。
そして最大の障害はゴンさんである。
コレばっかりはどうしようもねえ。あんなのに勝てる存在なんて覚醒後の王ぐらいじゃねえか? なんとか、王が生まれたタイミングでカイトの転生体であろうキメラアントを凝で見ることが出来たので、原作知識を武器にして「カイトはキメラアントとして生まれ変わることを強いられているんだ!!(集中線)」とか何とか言って丸め込むしかないな。ボられたくねぇな~。
王はプフの足に尻尾を巻きつけ、俺とピトーはユピーの足にそれぞれ掴まり、空を移動している。
しばらく飛んでいるとNGLの農村が見えてきた。
王がプフの足を離して下に落下していく、護衛の立場からするとせめて一言ほしい。王に先行されるとどうしても護衛が後手に回ってしまう。
見た感じ、この農村では危険なことは一切なさそうだし原作でもなにも危険は無かったので大丈夫だろうが。
王はあっさりと、農村の人間3人を殺害後、まずいといって食わなかった。まずい(人間食ったわけじゃないよ!!)、この後原作ではピトーが王にレア物を見分ける方法を伝えようとして王が機嫌を損ねピトーが殴られる場面だ。
とっさにピトーが言う前に俺が、
「恐れながら申し上げます。レア物を見分ける方法がございます。それをつかえば、」
パァン!
「余を愚弄するか、目を凝らせば体を包むエネルギーが見えることぐらい承知しておるわ。その多寡で判断するのであろうが。」
2回も殴ったね!!(今世では)親父にも打たれたこと無
ドゴン!
再度、殴られキリモミしながら俺は飛んで行った。
「なにか不遜なことを考えている雰囲気があったため、再度処罰を加えたぞ。」
「た、大変失礼しました。」
うおぉーーー超☆ワガママ!!しかしなぜ考えがばれた?
「ときにノワローよ、お主強いな。2回目はかなり本気で殴ったぞ。褒めてつかわす。」
「もったいないお言葉」
う、うれしくねー(ばれないようにひっそり考えています)。
「大丈夫かニャ?ノワ?」
ピトーが心配してくれている。おそらく今の俺はマッチョになったビスケと修行を行ったキルアみたいな顔をしているに違いない。
【俺Tueeee/アラベスク】発動!!「回復力」強化。
これでしばらくすれば治るだろ。ピトーも殴られずに済んだし。
結局、その後はぶらり途中下車(プフ)の旅、で農村を見つけては殺害→食事→吐き出すを繰り返しながら東ゴルドーに向かいましたとさ。