第四話
モントゥトゥユピーが生まれた。
「腹減った」
起きて一言目がそれか。
「おはよう、ユピー」
「正しくはモントゥトゥユピーですけどね」
ピトーの挨拶にシャウアプフが補足する。
モントゥトゥユピーは王直属護衛軍の中で唯一人間とではなく魔獣との混成型のキメラアントだ。
系統もピトー、プフが特質系なのに対して強化系のはずだ。
つまり俺と同じ系統である。俺はこいつと脳ミソ同レベルなのか?
これで王直属護衛軍が全員揃った事になる。プフが生まれた時もそうだったが、ユピーも双子では無いようだ。
やはりピトーの誕生時だけが原作と異なるイレギュラーだったようだ。
そしてユピーが生まれたということはもう間もなく王も生まれるということになる。貴重な双子枠をピトーで使ってしまって、王と一緒に生まれてくるはずのカイトの転生体が生まれなかったらどうしよう。
「今日もノワは食べないのかニャ?」
「グロイ、相変わらずよく他の奴らはそんなもん食えるな」
ユピーが腹減ったとうるさいので、食事タイムとなった。
俺はさすがに人間肉団子は食べる気にはならない。人間(前世)としての記憶が残っている身としてはどこの毛かわからないものがはみ出していたり、眼球がそのまま残っている肉団子を食す気にはとてもならない。
プフなどはナイフとフォークを使って優雅に食べているつもりかもしれないが、お前の食っている肉団子はたぶん男の肉団子だぞ、ナニかがはみ出している。あの豚型キメラアントの料理長、肉団子はちゃんとミンチにしてくれ……
「ユピー、俺の分も食うか?」
そう言って出されたものをユピーに渡す。
「もらうぞ」
「好き嫌いは良くないですね。女王に提供する分を考えると掃いて捨てるほど増殖してる食料も貴重ですよ。最近は兵隊アリが確保してくる量も目減りしてきていますしね。」
さすがに俺自身も1ヶ月飲まず食わずだったわけではない。NGLの麻薬工場には人間用の食料も保管されていた。
他にそんなものを食うキメラアントもいないため食料には困っていない。ほとんどが、保存食の缶詰のため、飽きはくるが……
俺的ランキングでは銀の○プーンが一番、モ○プチが次点か。
「ノワのほうがよっぽの偏食ニャ……」
若干あきれた顔でピトーがツッコんでくる。
「ユピー、俺の分の肉団子やる代わりに後で相手してくれよ。」
もう間もなく、王が生まれる。その前に俺自身がどのぐらい強くなったのかを確認したい。
ユピーは単純な戦闘力で言えば王直属護衛軍の中で一番強い固体だ。
魔獣ベースの肉体は人間ベースのプフやピトーよりも遥かに強靭なはずだ。
「一応、条件としては巣をあまり壊さないことぐらいだな。後は相手を殺さないようにするぐらいか」
「ああ、それでいい」
そう言って、自身のオーラを練りこむ。【俺Tueeee/アラベスク】は1時間前から「成長力」を強化した状態のため、戦闘中に切り替えることも可能。
この戦いが、討伐隊との戦いまでの最後の戦闘になるはずだ。しっかりと戦闘の空気を学ばなければ。王が生まれてからは恐るべき24時間労働が待っているはずだ。
「それじゃあ、はじめるニャ」
相対した二匹、先に動いたのは俺だ。
10m以上離れていた二人の距離を一瞬で詰め挨拶代わりの拳を突き出す。
ユピーは予想以上の速さに驚いているのか反応が遅れている。とっさに急所を防御されたためボディーへの一撃を繰り出す。ダメージも多少発生した実感がある。
スピードは圧倒的に俺が有利だ、今もユピーが繰り出してくる拳を紙一重の距離で楽々避けることができている。
戦闘開始から1分、こちらは1発ももらわず相手をサンドバッグ状態にしている。
1発でももらうと大ダメージを受けるという状況で【俺Tueeee/アラベスク】で強化した「成長力」が活きている。もうユピーのオーラの動きを読みきり、次にどのような攻撃がくるのかがほぼ判るようになっている。
これなら、【俺Tueeee/アラベスク】で強化箇所を戦闘寄りに切り替えるまでもなく、勝利を納められそうだ。ユピーの攻撃も当たらないことに苛立ってか闇雲に拳を振り回しているだけになってきている。
俺自身の攻撃も致命傷となる物は与えられていないが、確実にダメージを蓄積させていっている。
相手の左右の拳からのコンビネーションを避ける。次にどのような攻撃がくるかわかっていれば攻撃を避ける体制にも余裕ができてくる。今の左右からの拳も最低限の体重移動と、足運びのみで一発目を避け。二発目はシッポを振ることによる反動で腰から上体をずらすことにより足を動かさずに回避。二発目にあわせてカウンターの拳を突きこんでやった。
人間のときに無かった尻尾が意外に役に立つ。生活の中で適当に物を取るとき等に意識して使っていたおかげで大分使えるようになってきた。
オーラの流れから次のユピーの攻撃は払い足気味の蹴り。後ろに飛んで避けた俺をユピーが追撃する。
オーラが右拳に寄っているのが見える。予想に違わず大振り気味の右ストレートが来る!?
マズイ! その軌道の先には姉さんもいる。
とっさに【俺Tueeee/アラベスク】を発動、「防御力」を強化してユピーの拳を受ける。
ドゴン!!
巣の壁まで吹っ飛ばされたが、能力のおかげでダメージはほとんどなかった。
「ようやく一発お返しできたぜ」
「そこまでかニャー」
やられた!! 闇雲に攻撃していると見せかけてネフェルピトーの方に避けるように誘導されていた!?
もしコレがナックルのハコワレのような能力者が相手だった場合、詰んでいた可能性がある。俺自身も能力の切り替えを使わされたため1時間は「防御力」を強化した状態が続いてしまう。こちらの方が相手に多くのダメージを与えているが、俺からすれば完全に敗北であった。
「いつからこの状況を考えていた?」
「戦闘開始からしばらくしてか?俺のスピードではお前を捕らえきれないのはすぐわかったからな」
「戦闘が有利に進んでいるからってノワは油断しすぎニャ。まったくノワはじつに馬鹿だニャ~。」
ぐぅ……ピトエモンめ。しかし俺に足りなかったのはそこか、相手を圧倒していたために思考が停止してしまっていたのかもしれない。攻撃が当たらない現状を打破するために策を巡らすのは至極当然のこと。あの状況のまま、何も行動を起こさずにサンドバッグにされている奴はドMぐらいしかいないだろう。
負けはしたが収穫はあったように思う。窮鼠猫を噛むといったことを忘れないこと、相手がネズミ以下の敵だったとしても俺自身が噛まれうる猫だという事を忘れてはならない良い教訓になった。ネコ型キメラアントだけに。
――そしてその数日後、王が生まれた。