第三話
ドスッ!!
俺の体にザザン(サソリのキメラアント)の尾がつき刺さっている。
「フフ、相手をジワジワと確実に殺す特性の毒よ。」
--ああ、確かに意識が朦朧としてきた。俺の第二の人生もここまでか・・・
「王直属護衛軍をやってるんだが何か質問ある?」・・・・完!!
ではなく、【俺Tueeee/アラベスク】発動!!強化「解毒力」!!
「ありがとう。ザザン」
「いえ、ジェトノワロー様のお役に立ったのであれば何よりです。」
長かった、ついに師団長クラスの毒をくらっても大丈夫なぐらいの毒への耐性が身についたようだ。
皆さんこんにちは、ジェトノワロー0.08歳です。
転生してからそろそろ1ヶ月が経つ。未だに無職のままだが、ニートでは断じてない。ニートとは就学、就労、職業訓練のいずれも行っていない状態を指した用語である(ウィキペディア参照)。
今の俺は素晴らしき護衛軍となるため日々職業訓練に勤しんでいるのである。(ただ死にたくないだけとも言う)
当初はこの毒への耐性訓練も苦労の連続だった。ぶっちゃけ毒の特性を把握していなかったために死にかけたこともある。
キルアが10年以上かけて身につけた物を1ヶ月弱で身につけるのは念の力を使ったとしてもなかなかに厳しかった。
「さすが、師団長の毒だな。まだ完全に解毒できない。」
「この毒で殺せない生物が居ることのほうが驚きです。私自慢の毒のはずなのですが……」
「まぁ毒持ちの奴にはほぼ全員手伝ってもらったからな。そのなかでも間違いなく1級品(悪いほうに)だよ。」
「ありがとうございます。ところで・・・」
サザンは若干聞きづらそうに俺を見ながら聞いてきた。
「なぜ、ジェトノワロー様のお召し物はジャージなのですか?」
「何か悪いか?」
「あ、いえ そのような事は……」
そう、ジャージである。特に何の変哲もない黒のジャージを俺は着ている。
俺の転生前の性別は男である。男がジャージを着て何が悪い。
確かに今の俺の容姿であればメイド服やゴスロリ等が恐ろしく似合うだろう。とんでもなく似合うこと間違いなしである。
黒毛ネコ耳メイドとか大好きでしたよ。
しかし漢の中の漢である俺はそんなものは着ないのである。
かなり似合うだろうなーと自他共に思っていても着ないのである。
サザンは原作でも幻影旅団との戦闘時にチャネールだかなんだかのお高そうな服を着ていたからな。
俺が野暮ったいジャージを着ているのに何か思うところでもあったのだろう。
修行の方は、順調である。 とは言いがたい。
実際にオーラの操作や基礎能力は「成長力」を強化することによって大幅に成長していると思われる。
しかし行き詰っているのも事実である。
第一に十分な対戦相手がいない。
ネフェルピトーは円での周辺警戒を行わなければいけないし、いざ戦うとなってもすでに圧倒できるだけの力は身につけてしまった。強化系と特質系では身体能力の差が如実に出てしまう。
シャウアプフもダメだった。原作でもガチバトルで強いシーンは見かけなかったし、分裂されたら厄介だが、戦闘経験値を積むという目的では対戦相手としては不十分である。
ネフェルピトーに操られたカイトはそもそも相手にすらならなかった。ワンパンでキリモミしながら飛んでいった。あ、腕が取れてる。
大事なおもちゃをあっさりと壊された姉のガッカリした顔はもう見たくない。
余談だが、カイトはしっかりと女王に食われていたようである。頭だけはピトーが確保していたが体は女王の腹の中。
カイトもキメラアントとして転生していたことから、確かに女王に食われるという工程を踏まなければカイトの記憶を持っているキメラアントは生まれようがなかったな。
大事なおもちゃ(下パーツ)をあっさりとボッシュートされた姉のガッカリした顔はもう見たくない。
その後のおもちゃ修理は大分頑張っていたようだ。円での周辺警戒はどうした、周辺警戒は!ドクターブライスを使っているときは円ができないのだからあまりそっちばかりに集中するのはやめてくれ……
修行が行き詰る第二の理由としては全力でのオーラの放出は人間側への要らぬ脅威を与える可能性があることだ。
原作でのネテロ会長の精神統一に遠方からのキルアが感づいたように、俺がオーラを出しすぎることはこの周辺にいる討伐隊第一陣に対して予想不可能なアクションを取らせてしまう可能性があるし、未だに人間側へ着くことも考慮している身としても無用な警戒をされたくはない。
堅の修行は陰と併用して行わなければいけないといういまいちなものになってしまった。
第三の理由としては修行方法の不足である。
転生前は喧嘩もあまりしたことが無い俺である。そもそも武道を嗜んでいたわけでもなく。
【俺Tueeee/アラベスク】で「知力」を強化して何か思いつかないかを試したのだがダメだった。
「知力」強化で団長やクラピカのようにキレッキレの頭をゲットしたと思ったのだが、ゼロに何を掛けてもゼロなのは代わりなかった。もちろん「知力」は確かに上がる。例えば能力発動時に将棋や軍儀を行えば、普段は10手先までしか読めないところを20手、30手と読むことも可能だ。
だが、ゴンがハンター試験のトリックタワーで思いついた壁破りや、幻影旅団のノブナガから逃げるための壁破り(ゴンは壁を壊してばかりだな……)のように盤外からの1手、常識を覆す発想は俺の能力では得ることが難しいのだ。化け物の俺が言うのもなんだが主人公組みはやはり化け物集団なわけである。
こんな出来事があった。
【俺Tueeee/アラベスク】発動、「発想力」強化!!
「姉さん、姉さん!○○を思いついたんだけどどう?」
「ん~でも△△の場合はどうするニャ?」
「(´・ω・`)」
「ノワはじつに馬鹿だニャ~。」
「発想力」の強化は徹夜明けの思いつきに等しいレベルの案しか出てこなかった。
せめてネフェルピトーに言う前に「知力」強化で検討してから言えばピトエモンに馬鹿にされることもなかったのに……
【俺Tueeee/アラベスク】発動、「決断力」強化。……
ダメだ、未だにどちらにつくべきかの決断がつかない。王が生まれるまであまり時間がないにもかかわらず、いまだに人間と蟻の間で俺は揺れていた。
原因はあの困った姉だ。
毒の耐性訓練を始めたばかりの頃、俺は一度死にかけた。レベルの低いキメラアントとのコミュニケーションは時としてうまくいかない。一匹の下級兵に毒を打ち込んでもらった後、特に体の不調を感じなかったために「解毒力」から「成長力」に【俺Tueeee/アラベスク】を切り替えて修行を行っていた。
体の変調は三十分もしない内に現れた。遅効性の毒だったのだ。どのような毒か下級兵からのテレパシーでは完全に把握しきっていないことが油断の原因でもある。
能力の制約上、一度切り替えた強化箇所は変更から一時間経たないと切り替えることができない。意識が……薄れていく……
「ノワ!」
姉が俺の部屋に飛び込んできた。俺の様子がおかしいのを円での周辺警戒で察知したようだ。
【玩具修理者/ドクターブライス】発動。
「大丈夫?ノワ」
姉の治療で何とか一命は取り留めた。
「ありがとう。姉さん。」
「ノワは……本当に馬鹿ニャんだから……」
姉の心配した顔は、もう見たくない。