父上の命令で死亡フラグが多すぎる聖鉄鎖騎士団に入団することになりました。
……最悪だ。
原作で模擬蝕の後、聖鉄鎖騎士団に所属してて生き残った奴って確か4人しかいないんだよ。
そんな騎士団に所属するって本当に泣きたい。
せめてもの抵抗は聖鉄鎖騎士団に異端審問官の護衛を命じられる前に、バルデン王国の混乱が収まるのを祈ることくらいか……
嘆いていても仕方がない。
もう起きてしまった事を振り返ってくよくよしてたら死ぬ確率が上昇し続けるこの世界だ。
で、あれば少しでも状況をよくしようと努力するに越したことはない。
まずは駄目もとでイスタークも剣の練習相手として一緒に連れて行けませんかと頼んでみた。
これは聖鉄鎖騎士団で強い奴はアザンとセルピコしかいないからな。
おまけにアザンはともかくセルピコはファルネーゼしかたぶん守らないだろうし。
いざという時に頼れるイスタークを傍に置いておきたかったのだ。
その頼みはあっけなく父上が認めてくれた。
父上曰く、法王庁の信仰に篤い枢機卿方に多額の献金をしてさしあげるとその信仰心に感激して大概のことは聞いてくれるとのこと。
なんという信仰深い方々だ。
モズグス様が知ったらなんと仰るか。
……どうやら想像以上に法王庁は腐敗しまくっているようだ。
とにかくこうしてイスタークも聖鉄鎖騎士団に所属させることに成功した。
聖鉄鎖騎士団でイスタークと相談できるということは俺の精神的負担を幾らか和らげてくれるに違いない。
それと仮にも騎士団に所属するのだからと、オルランドゥ家の家宝である見前世で覚えがある石を渡された。
なんでもこの石を持つ者は死地からかならず生還できるという伝承が伝わっているらしい。
そしてその石は次期当主がいずこかの騎士団に所属する時に現当主から受け継がれてきたらしい。
この辺は数百年前に当時の次期当主が戦場で散ったという噂が国中に広まっていたにも関わらず、五体満足で戦場より生還した。
その時の次期当主が自分が生き残れたのはこの石のお陰だと現当主に伝えて以来、正式に軍務に就くときに譲り渡すのが伝統になったかららしい。
……石の正体を知っている俺に言わせればその次期当主は戦場で致命傷を負って石の力で人外に転生したんじゃなかろうかと思う。
対策のしようがないからできれば使いたくないが、死の間際に石の力を目の当たりにした時、誘惑に負けないとはとても言い切れない。
とにかくそんな物騒な家宝を所持した俺はイスタークと共に聖都を訪れた。
ミッドランドやチューダーで信仰されている一神教の中心地。
法王庁もここに所在している。
神を称える尖塔が林立し、鳴り響く鐘の音が神への賛歌を奏でる。
……そしてその美しい都市の隅にはその日の食うものにすらありつけないみすぼらしい格好をした第三階級の人達で溢れている。
その光景を見るにいったいどのへんが聖なる都なのかとても疑問に思う。
……そもそも聖鉄鎖騎士団含め、『聖』なんて言葉のつくものがとても胡散臭い世界観だから仕方ないか。
「イスターク。聖鉄鎖騎士団の本部って何処だ?」
イスタークは腰から出した聖都の地図を広げて一箇所を指差す。
「ここだと思います」
「この通りを真っ直ぐいけばいいわけか」
それを聞いて、俺たちは乗っている馬を走らせる。
やがて聖鉄鎖騎士団の紋章である交差した鎖が目に入った。
「待てッ!この先は聖鉄鎖騎士団の本部である。何用か?」
入口のところに立っていた騎士達が槍を俺たちに向けて目的を尋ねてきた。
「私たちは聖鉄鎖騎士団に所属予定の者である。願わくば団長殿と面会願いたい」
「了解した。しばし待たれよ」
そう言うと一番偉そうな騎士が一人の騎士に命令して奥に入っていく。
暫くするとその騎士は狐のような顔をして青年の騎士と一緒に戻ってきた。
物凄く見覚えのある顔だな。
「ええと入団予定者の方々ですね。失礼ですが名前を聞いても良いですが?」
狐のような顔の青年の騎士(ただ似てるだけの可能性をまだ捨てない)が気楽な声で尋ねてくる。
「私はオルランドゥ家のシドルファス。そして隣にいるのがエレウス家のイスタークだ」
「……確かに入団予定者のリストに書いてありましたね。僕が団長のところで案内しますので馬は向こうに繋いでおいてください」
そう言って狐のような顔の青年の騎士が馬小屋の方を指差す。
「その……貴方は誰ですか?」
中々自己紹介しないのでこちらから問う。
「や、これは失礼しました。ボクは紋章官のセルピコです。以後よろしく」
やっぱセルピコでしたか……
俺は馬を馬小屋に連れて行って繋いだ後、セルピコの案内に従って歩く。
セルピコがいるってことはファルネーゼも既に団長に就任しているということだ。
時期的に今は模擬蝕から3年と少し前だからファルネーゼが団長かどうか微妙だったのだが……もう就任してたか。
そう思いながら聖鉄鎖騎士団の本部にある団長の執務室に入る。
そこにはファルネーゼがに執務机で書類を見ており、その奥にアザンが控えていた。
「ファルネーゼ様、入団予定の人達を連れてきました」
「うむ、わかった」
ファルネーゼは椅子から立ち、俺たちの方を見る。
「私が聖鉄鎖騎士団団長のファルネーゼだ。貴公らの名前は?」
「私の名はシドルファスです」
「……イスタークです」
「うむ、確かに法王庁からその方らの書類が届いている。
シドルファスには十騎長に、イスタークはその指揮下の隊に配属せよとな。
他にも色々あるが……詳しい事はそこのアザンに聞け。以上だ」
いきなり十騎長ってどんだけ枢機卿の方々に鼻薬嗅がせたんですか父上。
物凄い便宜をはかってくれてるんですけど……
一応、国内荒れてるんですよね?
それにしてもやけにあっさりした対応だったな。
原作での団長時代のファルネーゼを見る限り、くどくどと長く騎士団について説明されるかと思ったが……
その後、アザンから騎士としての心構えを熱く説明さてた後、騎士団章を授かった。
それは原作で聖鉄鎖騎士団の連中が着ていた制服のようなもの(ただし、鎧の上から着る)
後、馬用のもあるがそれは後で渡すので待たれよとのこと。
……さて、この騎士団に3年以上所属し続けた場合はガッツやグリフィスとも関わらざるをえない。
そうなると死亡フラグがあることを覚悟で原作に関わっていくしかない……のか。
家宝の石の件も含め、死亡フラグが続々と建設されている気がするのは俺だけだろうか……
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団長時代のファルネーゼの言葉遣いがイマイチわからない。