ランデル共和国が独立して1年後。
少し前に鷹の団がチューダーの黒羊鉄槍重装騎兵団を破り、団長が騎士の称号と爵位を授かり、ミッドランド正規軍に迎え入れられたという噂を聞いた。
その後、チューダーに連戦連勝し、現在ではミッドランド王より伯爵位まで賜ったらしい。
もうそろそろドルドレイ攻略か?
俺はというと父上がランデルに引き連れていった私設軍の連中が戻った後もけっこう実戦を経験していた。
ランデル地方の内乱――いや、ランデル独立戦争が終わってからというもの、やけに盗賊の数が増えている。
終結直後の一過性の増加であれば分かるんだがもう終結して1年もたつのに増加の一途を辿ってる。
なぜだろうか?
まぁ、そのおかげで俺は多くの実戦経験を積む事ができたんだが気になる事は気になる。
そんなある日、俺が盗賊退治から屋敷に戻った際に執事から父上がお呼びですと言われて父上の執務室に向かった。
いつも2週間に1回くらいの頻度でしか王都から戻ってこないのに……なにかあったのだろうか?
執務室の扉を開けると父上が書類を決裁していた手を止め、俺の方を見た。
「座りなさい」
父上が自分の座っている椅子と机を挟んで正反対にある椅子を勧め、俺はそこに座った。
「シドルファス。お前にいくつか言っておかねばならんことがある」
何時もより真剣な顔をしている父上に気を引き締める。
やはりなにかあったんだろうか。
「まずは……お前も気づいているとは思うがランデル地方の咎人共が我が国から分離して1年もたつにも関わらず、賊が増えていることについてだ」
父上は未だにランデル共和国という国家を認めていないのか、ランデルの咎人共と言っている。
隣接する領主も似たようなものでバルデンの貴族の間ではランデル共和国という呼称は半ば禁句扱いになっている。
「やはり、なにか原因があるのですか?」
「ああ、原因は忌々しいランデルの咎人共だ」
「まさかとは思いますが、あの咎人共はランデル領内で捕らえた盗賊をバルデンに送り込んでいるのですか!?」
「いや、やつらが1年と半年ほど前に起こした内乱が原因だ」
「戦時中そして戦後の盗賊増加というのは一過性のものでは?」
「本来ならばな。だが、今回はそうはいかなかったのだ」
いったいなにがあったんだ?
「相手はランデルの咎人共。私を含めこの国の者は皆、1ヶ月以内に鎮圧することができると思っていた。
その為、中央に領地を持つ貴族達はかなりの数の私設軍を連れて行った。
なに、敵側に兵力があるとはいっても所詮は傭兵。すぐ咎人共の資金は底をつくだろう。
それに加えて数で威圧してやれば傭兵共は命惜しさに逃げ出すに違いないとな。
しかしながら、奴等はどやってか潤沢な資金を持っており、傭兵は十二分な報酬を貰っていたという。
1ヶ月以内に決着がつくだろうという予測は外れ、8ヶ月にも及ぶ長期戦となってしまった。
すると盗賊が残されていた私設軍では対処できんほどの数となって戦で私設軍が減っている貴族の所領を荒らしたのだ」
そういえば俺もこの前、近隣の貴族との社交界で盗賊がある都市を襲って焼き尽くしたと聞いたな。
「それで貴族が戦場から帰ったときには彼らの所領は盗賊により荒らされきっていたのだ。
当然、今までどおりの収入など得られないうえに戦は負け戦だったので大した報酬は貰えていない。
そこで彼らは税率をあげたり、私設軍の兵を解雇することによって乗り越えようとしたのだ」
あれ?なんか似たような事をFFTの貴族共がしていたような気が……
「もちろんそんなことをされたら農民共に不満がたまる。
そしてそういう農民達を私設軍から解雇された兵が纏め上げて盗賊になる。
貴族はそれを討伐する為に金を捻出せねばならぬので税率をあげる。
そして益々盗賊は増えていくという悪循環に中央や戦場となった東部は陥っているのだ」
まるっきり五十年戦争後の畏国の状況ですね。
いや、バルデン王国全体というわけではないそうだから畏国よりマシか。
「それでだな。国内の情勢が落ち着くまで念のためお前を聖鉄鎖騎士団に置いておこうと思うのだ」
「……エッ!?」
あの、父上。
なんか物凄くヤバイ騎士団の名前を言いませんでしたか?
「申し訳ありません父上。何処の騎士団に私を置くと?」
「ああ、知らなかったのか。聖鉄鎖騎士団は法王庁直属の騎士団でな。
典礼警護が主な任務で実戦には殆ど投入されん。それ故、戦に跡目を奪われたくない裕福な貴族の子弟が多数入団している。
私としてはお前を聖鉄鎖騎士団にいれるのは不承不承なのだが現在の国内の乱れを見る限りはこの混乱は長引きそうでな……
おまけにこの混乱に乗じて政敵を失脚させようと手の者を盗賊に扮して政敵の屋敷を襲ったりしたしておる輩もおるのだ。
私も王宮や騎士団で対立している者は多くおる。そやつらもそのような手段でお前を殺そうとするやもしれぬ。
お前が名誉の戦死をとげたというのならばともかく、暗殺されたりなどしたらオルランドゥ伯爵家にとって多大な損失になるのでな」
成程、対立している連中の妙な策動から守ろうと父上は俺を聖鉄鎖騎士団に入れたいわけですね。
確かに普通に考えればその通りでしょうね。
諸国に跨って広く信仰されている法王庁に逆らおうなどと企む輩は殆どいないでしょうよ。
だけどね!だけどねぇッ!!
将来的にその騎士団に凄まじい量の死亡フラグが発生するって俺は知ってるんですよッ!!
下手な戦場より遥かに危険な模擬蝕がおこるアルビオンに向かいますからねぇッ!!
「あの、父上。私は盗賊退治で父上のお力になりたいと思いま――」
「気持ちは嬉しいがシドルファス。これは当主命令だ。違えることは許さぬ」
グ...ズ...ギャァァァァム!
やばい、やばい。
当主命令ってなるとあまり駄々をこねればどこかに幽閉されても文句がいえん。
幽閉されたが最後、幻造世界の始まりとともに俺が魔物に蹂躙されるのが目に見えてる。
となると所属するしかないのか?聖鉄鎖騎士団に。
いや、でも幽閉されるよりかは……
「……わかりました。父上」
あかん。これは本格的に死亡フラグがたったぞ。