父上がランデル地方に向かってから数ヵ月後。
領内で盗賊団が出没しているそうなので俺が部隊を率いて出撃することになりました。
被害を受けた地方都市の守備隊から盗賊団がどれ程の規模かはわかっている。
都市を襲った盗賊は15人前後。
それ以外にもいるかしれないが30人を越える事はないと思われている。
よってそれぞれの守備隊は盗賊団が領内から逃げないように追い込み漁の要領で追い詰めた。
その過程で盗賊を数人討ち取っている。
そして最後は俺に実戦を経験させる為に俺が率いる部隊が盗賊団と戦うことになっている。
それにしてもいよいよ実戦か……
思わず気を張り詰める。
「シドルファス様。あまり気を張り詰めない方がよいですよ」
「ああ、わかったイスターク」
イスタークは下級貴族の出で俺より2つ年上の15歳だ。
12歳の頃から実戦を経験しているそうでそれなりに腕が立つ。
父上が俺の補佐役として着けていったらしい。
イスタークが言うには歳が近いというので補佐役に抜擢されただけらしいが。
「斥候によりますと盗賊の数は20人前後で山中の廃屋にいるそうですがどうなさいます?」
「そうだな二班を廃屋の背後に回そう。そして挟み撃ちだ」
「成程。その方がよいでしょうね」
「後、長弓が扱えるのは何人いる?」
「全員扱えますが、長弓を持ってきている兵は各班に2人ですね」
「では、その者達に火矢で廃屋を攻撃した後、前後から挟み撃ちにする」
「畏まりました。そのように手配します」
イスタークが優雅に礼をすると各兵に命令を下していく。
……そういえばオルランドゥ家の私設軍でイスタークはどんな立場なんだろう。
今の明らかに年上の兵に命令を下しているところをみるとけっこう偉いのだろうか。
そんなことを考えていると命令を出し終えたイスタークが戻ってきた。
「準備が整いました。突撃の御命令を」
そう言われて俺は剣を抜いて山中の廃屋を指す。
「弓隊!放てッ!」
火矢が廃屋に向かって飛んでいく。
木造の廃屋はたちまち燃え上がり、中から盗賊共がわらわら出てくる。
「全軍突撃ッ!」
……どこぞの傭兵団の千人長じゃないが俺も一度言ってみたかったんだ。
全軍といっても30人くらいしかいないがまぁいい。
俺も盗賊の一人に近づいて剣を振る。
ガキィン!
盗賊の持っていた剣筋がそれる。
ザシュ
盗賊の首元に剣を突き刺すと血飛沫を出して息絶えた。
……なんというか物凄くあっけないな。
人を殺すのってもっとこう罪悪感みたいなものが沸くものだと思っていたんだが……
狩りで狐や鳥を殺すのと差がわからん程あっけない。
そんなこと思っていたら矢が俺の顔をかすった。
あぶねぇッ!
「あ、ちくしょう!」
どうやらボウガンを持っているあいつが俺に矢を放ったらしい。
この野郎……危うく世界が変貌する前に死ぬとこだったじゃねぇかッ!!
そう思い、その盗賊に全力疾走で近づき燃え盛る廃屋に蹴りいれる。
「あちぃいいいい!!!」
廃屋でなんか転げまわってるな。そんなに熱いのか。
だが、お前は焼死させたりはせん。
俺の剣技がどの程度のものか実験台になって貰おうか。
屋内なら他の連中は壁が邪魔になって屋内の様子が見えないだろうからな。
「神に背きし剣の極意
その目で見るがいい・・・ 闇の剣!」
そう呟き俺は勢いよく剣を振り下ろす。
赤い目のようなものが転げまわる盗賊の上に現れ、地から赤い剣のようなものが盗賊を貫く。
すると盗賊は糸が切れたように倒れた。
矢がかすってできた俺の顔の傷は治っていないが体力が回復したような気がする。
つまりこれを使って戦えば疲れなくなるということか。
いままで誰にも向けず攻撃してたから技の詳細がよくわからなかったんだよな。
これはよい収穫だ。
そう思い、俺は燃え盛る廃屋に背を向ける。
どうやら既に殆どの盗賊が殺されるか、捕らえられるかしていたようだ。
随分早く終わったものだ。
「シドルファス様。こちらは怪我人はいますが死人はいません。
それと……盗賊共が蓄えていた金銀財宝の類はどう致しますか?」
イスタークが盗賊団の蓄えに目線を送って尋ねてくる。
「金貨は4割程徴収してそれで今回の盗賊討伐の費用にあてろ。
それ以外は盗賊団の被害があった都市に返してやれ」
「畏まりました」
一部の兵達が驚いていたがイスタークに叱咤されて黙った。
やっぱりイスタークってけっこう偉いさん?
とりあえず屋敷に戻る際にイスタークに尋ねてみた。
「イスターク。お前は私設軍でどういう立場にいるんだ?」
「この部隊の参謀ですね」
「ああ、言葉足らずですまなかった。平時の時の話だ」
「普段だと私は百人長ですね」
15歳で百人長だと!?
鷹の団でもないのにその歳で百人長ってどんなエリートよ?
俺が今まで見た私設軍の百人長って殆どが30代後半~50代前半だぞ。
若くても20代後半だったぞ!?
末端の兵の頭が上がらないのも道理だわ。
俺はそおの事実にかなり驚いて馬から転げ落ちた。
するとイスタークが可哀想な者を見る目で手を貸してくれた。
恥ずかしい……