アザンに連れられて俺が指揮することになる隊員達の宿舎に案内された。
アザンは隊員達を集めて俺とイスタークを彼らの前に引っ張り出すと説明を始める。
「彼が今後この隊を指揮することになるシドルファスだ。イスタークはこの前に爵位を継ぎ、騎士団を抜けた者に代わってこの隊に入る。皆、仲良くするように」
そう言うとアザンは今後の予定を軽く説明した後、宿舎から出て行った。
……予想はしていたが例外なく隊員達の視線が俺に集中している。
具体的には明らかに敵意を向けてくる者が5人、純粋に興味を持っているのが3人だ。
俺がオルランドゥ家の者であるにも関わらずここまであからさまに敵視する者の方が多いとは……
聖鉄鎖騎士団では新入りがいきなり千騎長・百騎長に抜擢されることも珍しくない。
無論、その裏では親とかが多額の献金(というか賄賂)を法王庁の方々に送っているからだ。
オルランドゥ家はバルデン王国有数の名家だし、いきなり百騎長とかに抜擢されててもおかしくないのだが、
ランデル独立戦争とそれに続く国内の治安悪化のせいでなにかと父上が節約している為そうならなかった。
……だからてっきり下っ端扱いで入団だと思ってたんだがそれなりに金に都合をつけてたみたいだ。
そんなことを思っていると一番俺に悪意ある視線を向けていた短い金髪で20代の男が俺に話しかけてきた。
「お前かぁ。私の代わりに新しく十騎長になる奴ってのは……」
どうやら俺が入団したせいで降格した人らしい。
「君は?」
「ザガンだ」
そう言うとザガンは指を突き刺して叫ぶ。
「はっきり言って私が貴様のような小僧の下に就くのは御免だ!十騎長の座を賭けて決闘を申し込む!!」
その発言と同時に他に俺に敵意を向けていた4人がザガンの後ろに回って応援する。
……どうやらこいつらはザガンの代わり俺が十騎長になったのが気に食わないようだ。
残りの3人はなにか面白いイベントが起きたぞみたいな感じで遠くからヤジを飛ばしている。
イスタークは何も表情を変えずにいるが手が剣の柄に触れていた。
……嫌だけどここで決闘受けないと後々面倒なことになりそうだしなぁ。
「わかった。外の広場でするとしよう」
「言ったな!後で『やっぱりやめて』とか言われても受け付けんぞ!!」
やけに強気だなこいつ。
そう思いながら俺達は外の練兵所に向かう。
練兵所にはアザンがいた。
「ほう、いきなり隊の全員で稽古か。感心した。どれ、私が稽古をつけようか?」
アザンの言葉に俺とイスターク以外の全員の顔がやや青くなった。
……なんかこのやり取りだけでアザンが普段からこんな行動してるんだと確信した。
「け、稽古をしにきたわけではないのです副長。私達は……ただ……その……」
ザガンがどもりまくりながら言い訳を言う。
……怪しさ満点だな。
「稽古しにきたのではないなら……いったいなにをしに練兵所に来たのだ?」
アザンが怪訝な声で尋ねる。
「新入りである私の実力がどの程度なのか皆が気になり、そこで前十騎長のザガンと一対一の決闘をすることになってここに来たのです」
適当にアザンが好みそうな理由をでっち上げて話した。
「成程!たしかに自分達の隊長の実力を知りたくなるのは部下として当然だからな。そうだ、その決闘の立会人は私がやってやろう」
アザンが立会人になるとの宣言にザガンを慕ってた4人の顔が一瞬ヤベッって表情になった。
なんか碌でもないことを考えてやがったのか?
だが、肝心のザガンの表情に陰りは見えないが……
「だぁーはっはっは。副長が立会人だぞ? 卑怯なまねはできんぞぉ~?」
ザガンはそう言うと俺に向かって槍を向ける。
「最初からそんなまねする気がない」
こんな場所で剣技なんか使った日には逃げる暇もなく火刑に処されそうだからな。
「では、始め!!」
アザンの合図と共にザガンが槍で突いてくる。
ヒュ、ヒュ、ヒュ。
かなり早い!いつもの手加減状態だとちょっと厳しいぞこれは。
「え~い、素早しっこい奴め!そこだぁ!!」
ガキィイン!!
振り下ろされた槍を防いだ。
……意外と強いぞこいつ!
父上以上の……いや、得物の違いがあるから単純に比較はできないか。
ただ、少なくともアランは俺が今まで相手にしてきた盗賊共よりは遥かに強いぞ。
「よくぞ止めたな小僧!だが、何時まで耐え切れるかな?
コボルイッツ家に140年に渡り伝承されし戦槍術の奥深さ、その身で味合うがいい!!」
え、コボルイッツ家?
「そりゃああ!!」
ガキ、ガキ、ギャリン!!
やべ、後ろ壁だ。追い詰められた。
「いまだ、最大奥義、……」
ザガンはそう叫ぶと過ぎ勢いで頭上で槍を回し始めた。
……さっきの怒涛のような攻撃の連続攻撃をその口上のせいで中断しているのだが……ザガンはわかってやってるんだよね?
「喰らえ、岩斬旋風――!!」
「オラァ!!」
バゴン!!
剣の腹で思いっきりザガンの頭を叩きつけてやった。
するとザガンはしばらくフラフラと足をさ迷わせた後、バタッと倒れた。
……気絶してるな。
「これはいかん!誰か神官医を呼んできてくれ」
「わ、わかりました」
ザガンを慕ってたメンバーの一人が急いで聖堂の方に走っていった。
ちょっと強く叩きすぎたかな。大丈夫だろうかザガンは……
30分後。
「いや、大した強さだな。チューダー有数の武門であるコボルイッツ家の跡取りの私に勝つとは」
心配した俺が馬鹿だった。
神官医が気付薬を飲ませた直後に目を覚ましやがった。
あまりに即効で効いたから神官医が呆れてたぞ。
それはそれとして……
「ザガンがコボルイッツ家の跡取りってことは青鯨……なんとか騎士団団長の息子なのか?」
「その通り!私の父上は青鯨超重装猛進撃滅騎士団の団長なのだ。因みに叔父上が副団長」
なるほど、こいつは原作で出てきたアドンの息子なのか。
ということはあの野郎は妻子がいるにも関わらず、キャスカを辱めようとしていたと?
ゲス野郎……って言われるのも仕方ない気がする。
「父上も叔父上も騎士の鑑と称されるような人だ。父上の部下である人達からもそのような話をよく聞く」
は?
「女子供を辱める者あれば、喩え味方であろうとも斬り捨てる方だと――」
おいおいおいおい。
なんかスゲェ原作での印象と違うんですが?
あ、あれか。
アドンって多分親馬鹿なんだろう。
それで脚色しまくった話を部下ぐるみで息子にしていると。
容易に想像できるな。
「なんと、まさしく騎士の鑑だ! 是非一度お会いしてみたいものだ!!」
おーい、アザン。
感動の涙を流しながらそんなこというんじゃねぇ。
……こんな信じやすい奴が副団長で大丈夫なのだろうか?
ああ、聖鉄鎖騎士団そのものが法王庁のお飾りみたいなもんだから大丈夫なのか。