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No.39565の一覧
[0] 【習作】アルマちゃんのクロスボウ(ベルセルク、TS)[タッタカター](2015/08/09 22:36)
[1] 一話[タッタカター](2015/08/09 21:52)
[2] 二話[タッタカター](2014/03/06 05:28)
[3] 三話[タッタカター](2014/08/24 17:16)
[4] 四話[タッタカター](2015/08/06 16:37)
[5] 五話[タッタカター](2015/08/11 22:31)
[6] 六話[タッタカター](2015/08/13 13:51)
[7] 七話[タッタカター](2015/08/19 11:44)
[8] 八話[タッタカター](2015/12/10 02:13)
[9] 九話[タッタカター](2015/12/21 00:01)
[10] 十話[タッタカター](2015/12/25 02:42)
[11] 十一話[タッタカター](2015/12/27 21:46)
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[39565] 一話
Name: タッタカター◆fd8b296b ID:a65f2e23 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/08/09 21:52
ミッドランド王国とチューダー帝国。百年の長きに渡り、この両国の間では激しい争いが続いている。

いわゆる百年戦争。

そしてその百年戦争が百年続いているなら、それは即ち終戦まで目と鼻の先ということ。
にも関わらず、ミッドランドはチューダー侵略に必要不可欠なドルドレイ攻略への目処は未だたっておらず、チューダーもまた然り。
しかしここで気づいて欲しいのが、中世ヨーロッパにおいてこの百年戦争を繰り広げていたのはフランスとイギリスであるということだ。
ミッドランドやチューダーなどという国は、歴史の教科書のどこを探しても載っていない。

つまりフランスもイギリスも関与していないこの世界の百年戦争が、ちゃんと百年で終わる保証はどこにもないのである。




神経を研ぎ澄ませる。
俺の潜んでいる茂みの向こう側にある水辺。今そこに、ようやく一羽の鳥が羽を休めた。
あの青みがかった鳥はなかなかに美味いし、その上大物。ここからの距離も約10mと程よい。

この獲物を逃がす手はない。

長時間の潜伏で弛緩していた神経を研ぎ澄ませ、クロスボウの引き金に指をかける。
既に弦、矢、共に万全の状態である。

俺はよく狙いをつけ、獲物が再び動き出す前に引き金を引いた。

ーービン!

「キュッ」

一瞬で途切れた甲高い鳴き声。
矢は狙い通りに獲物の腹へと命中していた。

俺は喜び勇んで茂みから飛び出すと、早速腰からナイフを抜き取って血抜きに入った。と言っても首の裏から刃を入れて動脈を切れば、あとは逆さまにして三分ほど待つだけで、解体は村の大人にやってもらうのだが。

「慣れたもんだぜ」

そう呟いてからひと思いに一刺し。
刃は上手く動脈を切断し、血が滴り始める。俺は鞄から両端を結んだ紐を取り出すと、片方は獲物に。もう片方は適当な木の枝にかけて放置。血が出切るまでの間、湖でジャブジャブと手を洗った。

「ふむ。とても可愛い」

水面に映るのは痩せっぽっちで小柄な、しかしホットでキュートな金髪の女の子である。

「ふっふっふ。この美少女戦士アルマちゃんの前で無防備に横っ腹を晒した報いだ、名もなき鳥よ」

ビシリと豹のようにカッコいいポージングをする。今の俺を第三者が目撃すれば、そのあまりに女神な光景に感涙して鼻水を垂れ流しながらひれ伏すことになるだろう。

「あーそれにしても三分長い。何で子供のころの三分ってこんなに長いんだろう」
「まるで昔は大人だったみたいな言い草だな」

突然かけられた声。
俺は素早く振り向くと、足元のクロスボウを確認して舌打ちした。

クロスボウはその構造上、一度矢を放てば次の矢を放つまでに一分ほどかかってしまう。
クロスボウの先端にあるあぶみに足にかけて弦を引き、矢を取り出して台座に固定、射出体制をとって狙いをつける。
ここまでに一分かかるのだ。

つまり俺はこの小ぶりなナイフ一本で、目の前の甲冑を着けた男と渡り会わなければならない。

このやけに整った顔をした男とーー

「ってあれ、男...か?」

波打った白銀の長髪を無造作に流している、恐らく十五歳くらいの少年。
フリルやレースのついた服でワルツでも踊っていればピッタリなのだが、その体に着用しているのは無骨な甲冑。酷く不似合いであった。
唯一腰の細身のサーベルだけはそれっぽいが。

「ここから一番近い村へ案内して欲しい。君に危害を加えるつもりはない。もちろんその村にも」

穏やかな口調だったが、それだけで信用するにはこの男は不審すぎる。

「そう言って賊と化す輩を、俺は三人は見た事がある」
「食料の補給をしたいんだ。この通り武器も捨てよう。君に預ける」

そう言うと一切の迷いなくサーベルを投げ捨てる少年。その顔には余裕の笑みが浮かんでいて、俺は非常に気分を害した。

「駄目だ」

そう返すとクロスボウを拾い上げ、鞄から新しい矢を取り出す。

「お前がその鎧の下に武器を隠しているかもしれないからな」
「鎧も脱げと?」

弦を引き上げて矢を台座に固定。
これであとは引き金を引くだけだ。

「違う。まず裸になってそこの湖にダイブしろ。そして向こう岸にタッチしてからバタフライで戻って来るんだ」

無理難題を吹っかけつつ、少年に狙いをつけて構える。距離は先ほどと同じ約10m。比較的板バネが弱いこいつでも、十分に引きつければ殺傷能力はちゃんとある。

「その後ブリッジしながら好きな子の名前百回叫んで、その次は全身を使ってウミガメの産卵を表現して。んでそれが終わったらーー」
「酷いな。オレ、君に何かしたか?」

そう言ってニッコリと笑う少年。
見ろ。相手が女となるとすぐにこれだ。だから俺はイケメンが嫌いなのだ。特にこんなスカしたエセ爽やか野郎は。

それにーー

「あんた傭兵だろ。それも貧乏傭兵団の一員。そりゃ村にも入れたくない」
「へぇ、なぜそう思う?」

余裕ぶった少年に苛立ちを感じつつも話を続ける。

「近くこの近辺で戦がある。聞く限りでは、貴族の見栄の張り合いが原因の小規模なものらしい」

少年は口を挟むつもりはないようだ。

「こんな辺境の、それも小さな戦。得る報酬は少なく、大義による名声もない。しち面倒な貴族同士のいざこざだ。こんな戦に首を突っ込むのはな、小規模な。新興の。団長が無能の。これらのどれかが当てはまる弱小傭兵団なんだよ。そして弱小傭兵団なんてのは総じて常時金欠だ」

得意になってそう説明する。
この中世ヨーロッパの世界、それも田舎村に生まれ落ちて十二年。
一時は村に染まり切ってしまったかと思ったが、やはり現代人の育ちのよさというものは隠しても滲み出るものらしい。
まずいな。この明晰な頭脳を買われてミッドランドの宰相に任命されでもしたらどうしよう。

しかし現代文明人である俺の完璧な推理に、中世原始人に過ぎない少年は生意気にも異議を唱えてきたのだった。

「だがそれはオレが傭兵だったらの話だ。君は根本の部分の説明を。オレが傭兵であるか否かの説明を怠っている」
「甲冑姿で何を言う」
「華々しい戦ばなしに魅せられた若者がどうにか剣と甲冑を手に入れて、腕を頼りに身を立てようと故郷を飛び出す......このご時世、そんな命知らずはどこにでも転がっているさ」

まるで自分事のようにスラスラと述べる少年。

「自分がそうだと?」
「さぁ? それを今から君が説明してくれるんだろう?」
「うぐっ...」

まずい。押され気味だ。
俺がこいつを傭兵だと思った理由?
知るか。だって完全武装だったからそうかなーって思っちゃったんだもん。

少し焦りつつもその理由とやらを探す俺だったが、ふと顔を上げた瞬間、少年の口元が嘲笑に歪んでいることに気がついた。

「おい、何を笑ってやがる」
「はは。いや、所詮は田舎娘の浅知恵か。そう思ってさ」

そのあからさまな侮蔑に、俺の頭は一瞬で沸騰した。

「てめぇ! 自分の状況がわかってんのか! 俺がこの引き金を引けばーー」
「思うようにいかなくなればすぐに手を出す。まるで子供。いや本当に子供だったな」

やれやれ、と言いたげに首を振る少年にさらに怒りがつもる。しかしここで矢を射かければ少年の言を肯定しているようなものだし、何より事態の顛末を知った傭兵団の報復が怖い。上手く誤魔化されてはいるが、こいつは傭兵で間違いないのだ。こいつの態度や雰囲気からいってこれだけは絶対なのである。

「賭けをしよう」
「......?」

確証となる理由が見つからずに唸るばかりだった俺へ、少年がそう持ちかけた。

「君が村の場所を教えないのは、オレのことを傭兵だと思っているからだ。戦のない傭兵団は盗賊も同じ。村をその餌食にする訳にはいかない......そういうことだろう?」
「そ、そうだよ! 俺は村の皆の為にやってるのに! なんで所詮は田舎娘の浅知恵とか言われなきゃならない!」

少し半泣きだった。前と比べて、この体は涙腺が緩いのである。

「だから賭けをしよう。さっきの一射は見事だった。君の得意なクロスボウで、この首飾りを狙って見せてくれ」

服の下に隠していたのだろう。少年が胸から取り出したのは、不気味な赤い石のついたネックレスだった。
人間の顔のパーツを目隠ししながらとりつけたような正気を疑うデザインである。

「キモッ」
「ははっ。ベヘリットって言うんだ。何でもこれを持っていれば世界を手中に収めることができるらしい」

少年はそう言うと、そのキモイデザインのネックレスを丁度石が己の心臓の位置にくるように体の前でぶら下げた。
プラプラと揺れる赤い石は酷く頼りなく見える。

この状態で射てということらしい。
大方自分の命という盾で俺の狙いを狂わせる心算だろうが。

「お前、頭大丈夫?」
「大丈夫とはいえないかもな」
「そりゃそうだよ。こんなことで命賭けるやつなんて初めて見たもん。それに勝負が公平じゃない。いくらなんでも的が小さすぎる」

別にあんな真似をしなくても、そもそもクロスボウでこの距離から。あんな3センチほどの的に狙って当てるなんて不可能である。しかも俺ほどの腕ならその狙いも大きくそれることなく、矢は高い確率で少年の心臓付近に突き立つことになるだろう。

少年はマグレ当たりで負けるごく僅かな可能性を潰すため、己の命を差し出したのだ。

「勘違いしてるようだな。この石に当たれば君の負け。外せば君の勝ちだ」
「はぁ? じゃあ空にでも向かって射てば俺の勝ちになるのかよ」
「その通り」

子供のような笑みである。

「でも狙うだけ狙ってみてもいいんじゃないか。ダメもとでさ。もしかしたら当たるかもしれないだろ?」
「......当たったら俺の負けになるんだけど」
「そうか。当たらなかったら俺は死んじまうだろうな」
「だから適当なところにーー」
「怖いのか? 人を殺すのが」
「............別に」
「空に向かって撃つか?」
「............」

「俺が怖いんだろ」

ーービン!

マズイと思ったときには、もう石を狙って引き金を引いていた。

「っ!」

矢は一切の躊躇いもなく首飾りへ。いや、少年の心臓へと向かってゆく。

殺してしまう。初めて人を。

「よ、よけろ!」
「............」

きんっ。
甲冑にクロスボウの矢が突き立った音ーーではない。

「ば、馬鹿な...」

振り子のように大きく揺れる赤い石。
矢は少年の斜め後ろにある木の幹に突き立っていた。

「嘘だろ......」
「ふぅ。賭けはオレの勝ちだな。ほら」

ぽいっ、と軽い調子で放られるネックレス。

「え、うわっ!?」

俺は咄嗟にクロスボウを放り出し、両手でそれをキャッチした。そして自分で自分のとった行動に驚く。こんな石のために、壊さないよういつも大切に扱っていた相棒を放り捨てるなんて。

「............」

しかしあんなものを見せられた手前、俺にはこの石が、この不気味な首飾りが。尋常のものであるとはどうしても思えなかった。だから地面に落とすことを躊躇った。クロスボウを捨ててまでキャッチした。

「一体なんだってんだよ...」

その時だ。
飾りだと思っていた石の目が、突然ギョロリと見開いたのだ。

「ひっ!」

あまりの気持ち悪さにネックレスを取り落とす。

「あ、悪趣味すぎる!」
「そいつは人質さ。君の村から、俺たちが出て行くまでの」

つまり賊まがいのことをするようなら好きにしていいと。これが俺の手にある限り、村には手を出せないと。そういうことか。
すでにこの石に対してある種の力のようなものを感じてしまった俺には、これ以上ない説得力だった。

「本当に無体を働く気は無いんだな......って俺たちって! やっぱりお前傭兵なんじゃねぇか! 傭兵団ごと来るつもりなんだろう!」
「もともと傭兵であることを否定した憶えはないさ。それにオレは賭けで勝ってる。その前の言葉遊びには何の意味もない。それに君、何故だか最初からオレが傭兵だと確信していただろう?」
「ぐっ...!」

石を拾い上げてその表面を見る。
僅かに縦長の傷がついていた。

あのとき少年は、首飾りの紐の部分だけを持って石をぶら下げていた。
ただ矢が当たるだけでは駄目なのだ。矢をうまく逸らす角度、位置で上手く当たらなければ......。

再び顔を上げる。
少年は絶えず子供のような笑みを浮かべていた。

「グリフィス」

少年がよく通る声でそう言う。

「......お前の名前か?」
「そう。君は?」
「ゴロログデブデピトロ」
「わかった。ゴロログデブデピトロだな」
「......アルマだよ」

この少年、どうも気に入らない。しかし勝てる気もしない。
俺は大人しく悪趣味な首飾りを首から下げると、少年に習い石を服の下へ隠した。

「村に何かしたらこいつをハンマーでペチャンコにするからな」
「それは困るな。団員には規律を徹底させることにしよう」
「規律ねぇ」

傭兵にとってそんなもの、あってないないようなものだ。しかしこの少年は気に入らないし勝てる気もしないが、何故か、信用に値する。そう感じてしまうのだ。

「お仲間は?」
「ここから少し東にいる」
「多分そっちのが近いな。先に合流するぞ。案内しろ」
「わかった。途中急な崖があるが」
「この辺は俺の庭だ。余計な気は回すな」

獲物の血抜きはとっくに済んでいる。
いつもの森にいつものクロスボウ。
いつもの獲物に......風変わりな傭兵。

「あ、これ持って。重いから」
「美味そうな鳥だな。ちょっと狙ってたんだ」
「やらんぞ」

もしかしてこいつなら。
俺はそんな淡い期待と共に東へ足を向けると、傭兵グリフィスの後を早足でついて行くのだった。



そしてこのときには既に、俺の運命は取り返しのつかないほど狂っていた。否、狂わされたのだ。

因果の糸によって。
この胸のベヘリットによって。
そして目の前の少年、白い鷹グリフィスによって。


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