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No.39514の一覧
[0] 【習作】【ヒカルの碁】初めからの始まり[しあ](2014/02/27 00:01)
[1] 不愉快注意のおまけとあとがき的ななにか[しあ](2014/02/22 16:21)
[2] 始まりからの先[しあ](2014/02/27 00:03)
[3] 先の先は停滞[しあ](2014/03/08 21:02)
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[39514] 先の先は停滞
Name: しあ◆3889be11 ID:b3d1c001 前を表示する
Date: 2014/03/08 21:02
【ご注意】

閑話的な両親ターン。
一人称挫折。でも三人称ともいえない。
ヒカルが別人。


【先の先は停滞】

 新藤家の主婦、新藤美月の朝は遅い。
 とはいっても、朝食を作り、弁当を詰め、洗濯機を回しながら夫を送り出せる程度の時間に起きてはいるのだが。
 幼い息子が四時とか五時とか早すぎる時間に元気いっぱいで起き出したり、ママ友からはそんな事は頻繁で当たり前だと聞くけれど、離乳食に切り替えたころから美月は息子に起こされた事は一度もない。
 食事中に遊び出してしまうから、時間は余分に見ておかなくちゃ――そう言ったママ友には、曖昧な笑みしか返せなかった。食べる時は食べ終わるまで食べる、美月の息子はいつもそうだったから。
 そもそも夜泣きの少ない子供だった。乳離れにも苦労しなかった。トイレトレーニングに至っては、やった覚えすらないのである。いつの間にか完璧に出来ていた。行動がいちいち慎重で、急に走り出すなどほとんどしないし、曲がり角から飛び出したりもした事がない。ありえないほどに手がかからないといえる。
 食べこぼしも少ない。
 ママ友が子供を連れて遊びに来たとき、ひかるくんはずいぶん綺麗に食べるのねぇ、とつくづく羨ましそうに言った事が強く印象に残っている。
 あのとき美月は目を瞠る思いでいた。その子供を見て、幼い子供とはこれほど騒がしく手がかかるものなのか――と、とても幼い子供のいる母親とは思えないことを考えたものだった。
 そんな母親の裏で、当の子供は恥辱に震え、失敗に涙し、早く早く一刻も早く己の思うとおりに己を動かすことが出来るよう、神に祈って――呪ってともいう――いたのだが、そんなこと美月は知る由もない。
 ただ、言葉が遅いのは気にかかった。
 同じ月齢の子供が(伝わるかどうかはともかくとして)一生懸命なにか喋っている頃、美月の息子は意思のほとんどをジェスチャーで示した。開けて、取って、それ頂戴、そんな簡単な事でさえ。
 おもちゃに興味を示さないこともある。幼児番組も好きではないらしい。余所の子供はテレビを見ながら踊ったりするのに。
 もしや何か障害が、とも思ったけれど、言葉を理解していない訳ではないようで、話し掛ければきちんと聞いて、ちゃんと通じた。最近はまったく喋らないわけでもなく、意味の取れない言葉もない。
 あまりにも聞き分けが良くて手がかからない、それが悩みだなんてママ友には言えなくて。おかしいおかしいと思いながら、検査を受けさせる踏ん切りもつかなかった。
 だから、驚いたけれど嬉しかったのだ。買い物に行った先で、これが欲しいとわんわん泣く息子が。
 ――欲しがったのが囲碁セットというのは予想外だったけれど。


  *


「おかあさん、おかあさん、オレこれやりたい」
 キッチンに立つ母親に、ヒカルは碁盤を指差してみた。いいわよ遊んでて――見当違いの答えが返る。
「ちがーう! ちゃんとやりたいんだってば!」
 そう訴えれば、どこか嬉しそうなため息を吐き、母親はいそいそと碁盤の前に座った。
「さ、どうするの? お母さんに教えて?」
 ……独自ルールの子供の遊びだと思ってるな、これ。
 新藤光流の囲碁歴捏造計画は前途多難である。両親の両親つまりは祖父母も、囲碁とはまったく無縁なことは分かっているし。
「そーじゃなくて、オレがおしえてほしいんだ」
 目標、囲碁教室。
 しかしながら母親は、まったく予想外の行動に出た。
 ちょっと考え込んだあと、碁笥から白石と黒石を一掴みずつ取り出し、碁盤の上に置いて――チューリップを描いたのだ。白石が花、茎と葉が黒石。デフォルメされたチューリップが盤上に咲き誇った。
「どう?」
 ちょっと得意そうな母親にダメ出しも出来ず、ヒカルはこっそり肩を落とした。
「うん……かわいいね」
 可愛すぎて泣ける。
(――駄目だ、佐為。ウチの親、囲碁教室の存在すら知らねぇ……)


 ***


 新藤家の大黒柱、新藤陽一は息子が生まれるまでずっと子供に縁がなかった。
 一人っ子なので甥も姪もいない。親しい友人は独身者ばかり。妻の懐妊は嬉しかったが、どう接していいものやら皆目見当がつかない。
 標準的な子供の成長段階もまったく知らなかったから、不安げな妻に「これも個性」と言い切れた。
 囲碁セットを欲しがったあたりから急に独り言が増えたが、言葉が遅いと悩んでいた妻を思えばむしろ成長。暇さえあれば白黒石を並べている姿は、外を駆け回る子供たちを思えば不健康と言えるだろうが、夢中になれるものがあるのはいい事だ。
 さて、もうすぐクリスマス。
 何が欲しいかとそう問えば、かわいい息子の“本”との答え。棚で埃をかぶっている絵本を思えば虚しくもなるが、己が息子の望みである。選ばせてやろうと買いに出掛けた、のだが。
「…………これが欲しいのか?」
「うんっ!」
 満面の笑みで三歳児が差し出す囲碁タイトル戦最新棋譜集。何故。
「あー……これは父さん読めないぞ?」
 父さんだけじゃなくて大概の人が読めないぞたぶん。解説だけなら読めるだろうが、意味が分からなくては意味がない。少なくとも平仮名さえ読めない幼児の読むものではない。
「いいんだオレが、じゃなくて、ええと、もようがキレイ? だから、みるだけ」
 たどたどしく訴える息子は目がきらきらしていた。積み木にもレゴにも見向きもしなかったというのに、そんなに白黒模様が好きか。
 息子の中では画集のような扱いなのだろうと納得して、陽一はレジへ向かった。
 ――うん、イラストロジックに見えなくもない。
 パラパラめくってみてそう思う。
 間違えた上に途中で諦めたイラストロジックもどきの、いったい何がこんなに息子を惹きつけるのか、それは謎だけれども。


  *


 囲碁タイトル戦最新棋譜集を発見したヒカルは浮かれた。
 かつてのライバル、先輩、後輩たち――進藤ヒカルが死んで四年余り(新藤光流が生まれて三年と少し。十月十日は胎児である)――彼らはいま、どんな碁を打つのだろう。
 浮かれた挙句、いいんだオレが読むんだから、なんて言いそうになって慌てて誤魔化したりもしたけれど、手に入れてしまえば無問題。
『変な顔をしていましたねぇ』
 苦笑する佐為に肩をすくめてみせる。
(まあ仕方ないさ。月刊囲碁の購読頼まなかっただけマシだろ)
 それはさすがに三歳児として変すぎるので自重した。
 囲碁以外ではあまり物事を深く考えないヒカルだが、出来るだけ両親に心配をかけたくないとは思っている。前の両親にひどい親不孝を働いた自覚がある事もあるし、幼稚園で普通の子供を見るにつけ、親に対する無条件の信頼と親愛を抱けないのが申し訳ないような気になってしまうのだ。いい人たちではあるのだけれど、いい人たちだと思う時点で子供としてはダメダメである。
 少々変なのは仕方がないとしても、変すぎるのは良くないだろう――そんな風に思うせいで、新藤光流囲碁歴捏造計画は進捗はかばかしくない。
 唯一の救いは、リビングで(つまりは両親の目の前で)佐為と二人で極度に高度な対局をしていても、囲碁のルールも知らない二人は子供の一人遊びと見てくれることか。自室もない身としては、変に誤魔化さずおおっぴらに打てるのは大変ありがたい。
 とはいえ、周囲の大人がルールも知らない状況だからこそ、苦労しているともいえるわけだが。
(はぁ……。ルールを知る機会がないってのがイタイんだよなー)
 進藤ヒカルの時は、祖父がアマチュア高段者だったので助かった。最初の手ほどきさえ受けてしまえば(本当に受けたかどうかは別にして、受ける機会があったという事実さえあれば)棋譜を見ました打ってみました考えましたで押し通す事も可能だろうが、現時点では打つ手がない。せめて子供向けの本でも読めるくらいの年齢であれば良かったのだが。
『焦っても仕方ありませんよ。ヒカルはまだ三歳なのですし』
(……だな。これ並べてみようぜ、佐為)
『はいっ!』
 途端にぱぁっと明るくなった佐為の笑顔を見上げれば、ヒカルは何度でも幸せになれる。
 開いた本の目次に触れて、[名人:塔矢アキラ]の文字に目を閉じた。

 ――待っててよ、トーヤ。そこに佐為を連れて行くから。





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『囲碁タイトル戦最新棋譜集』
詳しい解説付き七大タイトル戦全戦棋譜。
リーグ戦、トーナメント戦の戦績を掲載。
中でも面白かった対局を10局、解説者が選出。解説付きで掲載しました。
2○○×年の棋戦をここに集約!
――捏造。

***

幼児の自由のなさを侮った。一日中誰かの目が光ってる(当たり前)
ヒカルが周囲に気を使うとかまるで別人。大人になったんだと思ってクダサイ。

いいかげん確定申告をしなきゃなので更新ができません。
青色申告ってなんで青色なんだろう桃色じゃダメなのかとかやってる間に熱が冷め切ると思われますので、やっぱり完結とか無理デシタ。
あと二話くらいで終わらせられそうなので、何とかしたい気持ちもなくはないですけども。
今後の流れとして飛び飛びで書いた場面って、そのまま投下してもいいんですかね?
チラ裏はゴミ箱じゃないって怒られるでしょうか……。


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