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No.39478の一覧
[0] 【習作】【ヒカルの碁】神様にお願いしたら叶っちゃった件【逆行物】[Ardito](2014/03/25 21:24)
[1] ①おわりとはじまり[Ardito](2014/02/19 21:10)
[2] [Ardito](2014/03/23 19:20)
[3] [Ardito](2014/02/23 04:26)
[4] [Ardito](2014/03/23 19:20)
[5] [Ardito](2014/03/24 20:14)
[6] [Ardito](2014/05/22 02:14)
[7] [Ardito](2014/06/02 02:49)
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[39478]
Name: Ardito◆14e2802b ID:235943aa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/03/23 19:20
(え……ヒカルのライバルのトーヤと打つのですか?)
(そう。 塔矢に勝てたら塔矢先生と打たせて欲しいって条件で対局してもらうんだ。 断られたら、オレのことを伝えてもらうだけでも良い。 塔矢先生も結構子煩悩でさ、塔矢を倒せばきっとオレの力を試そうとしてくる。 そこで佐為と塔矢先生の対局が叶うってわけだ。 うん、我ながら完璧な作戦! 今日先生と打つのは無理だと思うけど……でも塔矢も結構強いし楽しめると思うぜ)
(ふむ……)
(佐為?)

 何故か佐為の表情が浮かない。 どうしたんだ? 喜ぶと思ったのに……あ、もしかして――

(トーヤがオレのライバルだったってこと、まだ気にしてるのか?)
(ヒカル……やはりライバルとの初対局ならヒカルが打った方が良いのでは? あなただって十分強いのですから――)
(……あのさぁ、そのことはオレがもっと強くなってからってことになってただろ? だいたい、前の時だって塔矢との初対局は佐為だったんだから今更だよ)
(しかし、私がトーヤと対局してしまったことで、あなたは苦労したのでは無いですか?)

 む。 それはまぁ……確かに、最初に佐為と打ったせいで塔矢は全然オレの事見てくれなくて、苦労したと言えばしたな。 オレが初めて塔矢と打った時なんか佐為とのギャップで『ふざけるなっ!』なんて怒鳴られたし。
 でも佐為の存在信じて貰えるほど強くなってから打つんなら少なくとも怒鳴られるようなことな無いだろうし、むしろオレとしては別に打たなくても良いんだから問題ない。

(今回の対局はオマエが塔矢先生と打てるかどうかが掛かってる大事な対局なんだぜ? オレが打ってもしダメだったらどうするんだよ)
(トーヤは今のヒカルが勝てないほどの強者なのですか?)
(勝ち負けじゃなくて、圧倒的に倒さないと塔矢先生が出てきてくれないかもしれないだろ? 一度決まったことを蒸し返すなよなぁ。 佐為は塔矢先生と打ちたいのか? 打ちたくないのか?)
(……打ちたい、です)
(だったら四の五の言わない! ほら、もう行くぞ)

まだ何か言いたげな佐為を振り切ってガラガラっと囲碁サロンの引き戸を開いた。

「あら。 いらっしゃい」
「こんにちは」

 受付のお姉さんがにこやかに迎えてくれた。
 さり気無く店内をざっと見回すと奥の方に塔矢を見つけた。 良かったぁ。 もしいなかったらどうしようかと、それだけが気がかりだったんだ。 毎日いるとは限らないもんなぁ。 塔矢と一緒に打ってるのは……どっかで見たことが……あ、塔矢門下の葦原さんかな。

「名前書いて下さいね。」
「はい。 ……このランドセル、塔矢の?」
「え? ああ、そうよ。 ――アキラ君のお友達?」
「いや、初対面」

 受付にはピカピカで新品同様なランドセルが置かれていた。 六年使ってこの綺麗さ……オレとは大違いだな。

(物を大切に扱う子なのですね)
(塔矢らしいと言えば塔矢らしいかな。 アイツがランドセルそこらへんに放る所なんて想像つかないから)

 名簿に名前を書いていると、受付のお姉さんがガッカリしたように肩を落とした。

「なぁんだ。 でも、ずいぶん親しげに呼ぶのね?」
「そう? あ、呼び捨てだから? 同い年だからと思ったけど、不味い?」

 つい癖で呼び捨てにしちゃったけど、会う前から呼び捨てはダメだったかな。 塔矢だって一度会っただけの俺を呼び捨てにしてたしそういうの気にするタイプじゃないと思ったけど。
 っていうか、今更『塔矢君』なんて気持ち悪くて呼べねぇ。

「呼び捨てっていうのもあるけど、何だかアキラ君のこと良く知ってるような呼び方だったから……褒められたことじゃないと思うけど、アキラ君が良いって言えば良いんじゃないかしら。 ……アキラ君と打ちに来たの?」
「うん。 オレもランドセル預けて良い?」
「ランドセルは良いけど、アキラ君はまだ対局中で――」
「大丈夫大丈夫。 邪魔しないように終わるの待ってるからさ。 お金いくら?」
「子どもは500円よ」
「はい。 それじゃあちょっと待たせてもらうね」
「あ、ちょっと……」

 お金を渡して塔矢と葦原さんの所に近づく。 端の席で打っていたからすぐそばの壁に寄りかかりながら二人の対局を観戦することにした。 どちらもリラックスして気楽に打っているようで、親しい間柄であることが伺える。 それでも対局には集中しているらしくオレに気付く様子は無い。

 やっぱ近くで見ると塔矢若いなぁ。 こう小さいと何かかわいいかも。
 これが真剣勝負になると顔つきがガラリと変わるんだもんなぁ。 今日はオレが打つわけじゃないから関係ないけど、あの目つきで睨まれるのは結構怖い。

(この少年がトーヤなのですね。 どれどれ――)

 佐為が興味深々に碁盤を覗き込む。 ちょ、そこに立たれるととオレが見えない!

 しばらくパチ、パチと碁石を置く音だけが響いていたが、ふと塔矢が声を発した。

「その手はケイマにツメる手もあったんじゃない?」
「なんでさ。 ツメてコスまれたら中央の黒模様が厚くなるよ」
「でも、黒からカドに打たれると隅の白石が不安定になるよ」
「そっかなぁ~~、中央に一間にトブのも立派な一手だと思うけどなー」

 葦原さんが軽く頭を掻きながら首を傾げている。 葦原さんが白石で、塔矢が黒石のようだ。
 オレも葦原さんの手は悪い手では無いと思うけど……。 ただ、塔矢は攻撃的だから隙を残すような打ち方が気になったのだろう。 普段は猫被ってるけど、本来の性格が全部碁に出てるんだよなぁ。

(ヒカルならここ、どう打ちますか?)
(オレ? んー、オレだったら……)

 盤面をよく見ると、塔矢が『不安定になる』と言った隅がやはり気になる。

(オレだったら、葦原さんの中央に一間にトブ手をとるかな。)
(ふむ。 それで?)
(それで、塔矢はカドに打つだろ。 そうしたら隅の黒の連結を切る。 塔矢は当然あたりにしてくるだろうから伸びて、塔矢がそれを追う意味は無いから当然カドに戻る。 そこでさっきの中央にトんだ 石を補強して――)

 オレの考えを佐為は面白そうに聞きながら何度も頷いている。

(――そうするとほら、手順は難しいし接戦になるけど隅の黒石は完全に殺せる!)
(なるほど。 昨日打った時も思いましたが、やはりヒカルの打ち方は面白い。 一見悪手に見えるのに、思わぬところで最良の一手へと化ける。 読みが深く、接戦を好むヒカルらしい手です)
(だろっ! 上手く嵌ると爽快なんだよなぁ)

「お二人さん。 お茶どーぞ。 キミもほら、お茶持ってきたから座ったら」

 受付のお姉さんがお茶を持ってきてくれた。
 そこでようやく塔矢と葦原さんもオレの存在に気付いたようだ。

「あれ、いつの間に。 声かけてくれれば良かったのに。 アキラに用かな?」
「邪魔しちゃ悪いかと思って。 オレも塔矢と打ちたくて来たんだけど、終わってからで良いから気にしなくていいよ」
「ボクと?」
「ふぅん、キミ、棋力は? アキラのこと知ってるみたいだけど、君が思ってる数倍は強いと思って間違い無いよ? なんたって、もうプロでも十分やっていける力はあるんだから」
「あ、葦原さん!」
「オレも結構強いぜ? 棋力は打てば分かるさ」
「おお、言うねぇ~! そういうことなら――」

 葦原さんがジャラジャラと石を片付け始めた。

「あ、終わってからで良かったのに」
「いーの、いーの。 俺はいつでもアキラと打てるんだから。 君がもし口だけじゃなくてアキラのライバルになってくれるって言うなら邪魔するわけにいかないからね」

 葦原さんはニコニコしながらガタリと席を立った。

「アキラに足りないのはやっぱり同年代のライバルだと思うんだよなぁ。 やっぱライバルが居ないとつまんないだろ?」
「え」
「中々プロにならないのも、そこが引っかかってるんじゃないか?」
「そんな……ボクはただ、もう少し力をつけてからでもと……」

塔矢が複雑そうな表情で少し俯く。
同い年くらいのライバルね。 確かに、周りが年上ばっかじゃ盛り上がらないもんなぁ。
あ、最初の頃塔矢がオレに執着してたのってライバルが欲しかったからなのかな。
オレを見限った後も何だかんだオレのこと気にしてたのはそういうことだったのか。

でも――

「悪いけど、オレは塔矢のライバルになるつもりは無いぜ?」
「へ?」
「オレのライバルは塔矢名人だから。 今日は、塔矢に名人との対局を取り持って貰うために来たんだ」
「はぁあ?」
「お父さんとの、対局を?」
「そう。 もしオレが塔矢に勝ったら、塔矢名人と打つ場を設けることに協力して欲しい」

 驚いたような表情を浮かべる塔矢の目を真剣な表情で見つめる。 ここで頷いて貰わないと打つ意味が無いのだ。
 不意に受付のお姉さんが呆れたような声を上げた。

「キミねぇ、あなたみたいな子どもが塔矢先生に勝てるわけ無いでしょう? キミがどれ程強いか知らないけど、アキラ君にだって勝てないわよ」
「それに塔矢先生はお忙しい方だから、仮に君が勝てたとしてもそう簡単に対局なんて出来ないんじゃないかなぁ」
「そうかな?」

 苦笑する葦原さんにオレはにっこり笑いかけた。

「さすがの塔矢先生も、最愛のわが子で秘蔵っ子の塔矢がコテンパンにやられたって聞いたらオレの実力を試そうって気にもなるんじゃないかな?」
「なっ」
「ちょっと!」
「葦原さん、市川さん」

 塔矢が固い声を上げ、名前を呼ばれた二人は口を噤んだ。 目線を塔矢に戻すと表情がガラリと変わっている。 そこに表されているのは怒りの感情では無い。
 ――その瞳は、爛々と期待に輝いていた。

「葦原さんが言う通り、お父さんは忙しい人だから確約はできないけど……でも、もし本当にボクに勝てたならお父さんと対局するための協力は惜しまないと約束するよ」
「うん、それでいい。 オレは進藤ヒカル。 六年生だ」

 ニッと笑顔を向けると、塔矢もふっと笑った。

「ボクは、塔矢アキラ。 同じく六年生だよ」
「それじゃ、早速打とうぜ!」

 そう言って、葦原さんが立った席に座ろうと手をかけた時だった。

「っ、うぶっ……!?」

 猛烈な吐き気に襲われその場に膝を付き、口元を抑えて蹲った。

「進藤君!?」
「ちょ、大丈夫か!?」

 塔矢が慌てたように席を立ちオレの傍に駆け寄る。 しかし、それに答える余裕は無かった。
ザァっと血の毛が引き、貧血で頭がクラクラする……口開けたら、吐きそうで、喋れない。
 ――この、感覚は……!

(さ、佐為……!?)
(ヒカル……)

 何とか目線を上げると、佐為が未練たらたらの表情でアキラを見ながら言った。

(この対局、やはりヒカルが打ちなさい)


● ○ ●


(佐為……とりあえず、落ち着け。 は、吐きそ……)
(あ……す、済みません!)

 猛烈な吐き気が少しばかり治まる。
 うーん……まだ体調最悪だけど会話できるくらいまでは回復したかな。

(わざとでは無いのですが……)
(分かってるって……。 オマエの感情がオレに影響するのは知ってる)

「大丈夫!? どうしたの?」
「はぁ……はぁ……もう、大丈夫」

 心配そうにオレの顔を覗き込み背中をさすってくれる塔矢を軽く押してふらつきながらも何とか立ち上がる。

「本当に大丈夫なの? 顔真っ青よ。 ちょっと横になった方が良いんじゃないかしら、別室にソファがあるから……お家に連絡する?」
「あ、水飲む? 持ってこようか?」
「葦原さん、吐き気がある時に水分はダメよ!」

 家に連絡!? 冗談じゃない!
 散々塔矢のこと煽って、市川さん?なんか結構ムッとしてたのに凄く心配してくれてありがたいけど、塔矢とは早い段階で打っておきたいんだ。 塔矢が絶対ここにいるとも限らないし、ここで帰らされるわけにはいかない。

「ほ、本当に大丈夫だって! ほら、もうこんなに元、気……?」
「わっ、進藤君!?」

 笑顔で腕を広げ、無理に元気な振りをしたら身体がふらつき塔矢に支えられてしまった。
 あーもう、佐為いぃい!

(ごめんなさいぃ)

 佐為の気が完全に塔矢から逸れたためか、本当に体調が回復してきた。
 これはちょっと佐為と話し合わないとな……。

「全然大丈夫じゃ無いじゃない! ほら、休める部屋があるからいったんそっちに移って――」
「えっと、もう本当にへーき! 原因は分かってるから大丈夫。 滅多に無いんだけど……あはは。 あ、念のためちょっとトイレ借りてもいい? 」
「それはいいけど……まだ吐き気があるならちゃんと休んだほうが――」
「トイレならそこだよ。 肩貸そうか?」
「すぐそこだろ? へーきだって」

 塔矢から離れて一人でトイレに向かうが、すぐに塔矢がついてきた。

「塔矢?」
「さっきも大丈夫だって言って倒れそうになったし、ボクもついてくよ」

 何が何でもついて行くと言わんばかりの目で見つめられ、断るのを諦める。
 コイツ人の言うこと聞かないしな……強引なのは昔から変わらないな。
 まぁ、さっき倒れそうになった手前何言っても説得力無いだろうし、どうせすぐ着くんだから良いか。

「別に良いけど……トイレの中まで入ってくんなよ?」
「……」
「おい!?」
「冗談だよ。 中まで入るわけないじゃないか。 まだ少し顔色悪いし、心配だから入り口までついてくだけ」

 オマエの冗談分かりづらいんだよ!
 とか話してるうちにもうトイレについた。

「じゃ、ありがとな」
「うん……進藤君。 ボク、待ってるからね」
「……おう。 なるべく早く戻る」

 掃除の行き届いたトイレの個室に入り、洋式トイレの蓋を閉めて、その上にドンッと座る。

(佐為)
(はい)
(どうやらオレたち、話し合う必要があるみたいだな?)
(はい……)

 オレの前に正座で座り込む佐為をギンッと睨むと、佐為は申し訳なさそうに身体を小さくさせた。
 トイレの床に座ると汚いぞ。


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