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No.39478の一覧
[0] 【習作】【ヒカルの碁】神様にお願いしたら叶っちゃった件【逆行物】[Ardito](2014/03/25 21:24)
[1] ①おわりとはじまり[Ardito](2014/02/19 21:10)
[2] [Ardito](2014/03/23 19:20)
[3] [Ardito](2014/02/23 04:26)
[4] [Ardito](2014/03/23 19:20)
[5] [Ardito](2014/03/24 20:14)
[6] [Ardito](2014/05/22 02:14)
[7] [Ardito](2014/06/02 02:49)
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[39478]
Name: Ardito◆14e2802b ID:235943aa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/02/23 04:26
「じゃ! また明日、学校で!」

 そう言ってフラフラと走りだしたヒカルを、藤崎あかりこと私は唖然と見送ることしかできなかった。
 ヒカルの様子は普通じゃなかった。 でも、どうしてそうなったのか分からない。

 分からないから――怖い。

 真冬の寒さからだけでは無い寒気に、私は二の腕を擦り、とりあえずヒカルがおかしくなった状況を振り返ってみることにした。

 ヒカルに誘われ、共にヒカルのおじいちゃんのお蔵に入り込んだのが始まり。
 ヒカルのいたずらに付き合わされることは良くあって、あまりにも度が過ぎるなら私が止めなくちゃと思ってついて行ったのだ。

 そして、ヒカルがおかしくなったのは古い碁盤を見つけてから。
 突然、ありもしない碁盤の汚れとやらを必死に擦りはじめ、居もしない誰かの声を聞いたとあたりをキョロキョロし始めたのだ。

 最初は怖がる自分をからかっているのだと憤慨して帰ろうとした。 もちろん、本当に帰るつもりは無かったけれど、背を向けて帰る素振りをすればすぐに笑って冗談だと言ってくれると思ったのだ。

 けれど、期待した言葉は掛けられず、代わりにヒカルが発した言葉は多分誰かの名前。
愕然としたような震える声で囁かれた『さい』という人は一体誰なのだろう。

 その声があまりにも普通では無かったから、本当に誰かいるのかもしれないと思って思わず振り返ってしまった。 やっぱり私には誰も見えなかった。
 でも、ヒカルはまるでそこに誰かがいるかのように身体を震わせながら一点を凝視して尚も言葉を発し続けるのだ。

 その時のヒカルの雰囲気をどう表現すれば良いのか分からない。 ただ、凄く変で、怖かった。 そう、怖かった。 ヒカルがどこか遠くへ行ってしまうような気がして、だから一生懸命話しかけたけど、まるで私の存在なんて忘れてしまったかのように全然反応してくれなくて――恐怖で私まで頭がおかしくなりそうだった。

 唯一分かったのが、ヒカルは凄く喜んでいたっていうことだけ。 あんなに喜んでいるヒカルを見るのは初めてだった。 ううん、ヒカル以外でもあんな風に喜んでいる人を私は見たことが無い。
 歓声を上げたかと思うとぶつぶつと神様に感謝しはじめて不気味だった。
 その後、誰かを抱きしめるかのような仕草をしたかと思うと急に倒れ、一瞬死んじゃったのかと思った。 だって、何か悪いものに取り憑かれて死んじゃったのだと言われれば納得してしまうくらい、あの時のお蔵の空気とヒカルは異常だったのだ。

 慌てて助けを呼びに行こうとしたけど、ヒカルはすぐに立ち上がって、小遣い稼ぎのために売ろうとしていた碁盤を大切そうに抱えてお蔵から出て行ってしまった。

 どうすれば良いのか分からなくて追いかけるのを躊躇ったけど、やっぱり放っておけなくてついていくことにした。 だって、ヒカルは私の大切な幼馴染だから。
 もうヒカルが私をからかっているとは思わなかった。 ヒカルはきっと『さい』とか言う私には見えない人を本当に見ていて、それで喜んでいたのだ。 見えない存在なんて幽霊か幻覚のどちらか。 何れにしても良い物では無い。 ヒカルがそんなものを見るような変なことに巻き込まれているのなら助けてあげたい。

 そう思って急いで外に出ると、ヒカルのおじいちゃんとヒカルが碁盤を賭けて囲碁の勝負をすることになっていた。
 ヒカルが囲碁なんてできるはずが無い。 今までやってるところ何て見たことが無いし、ヒカルだってお年寄りのやる遊びだと馬鹿にしていたのだから。
 でも、ヒカルは囲碁でおじいちゃんに勝ってしまった。 良く分からないけどヒカルは囲碁が強いらしい。 あり得ない。
『ゴカイジョ』っていうところに通って囲碁を覚えたって言っていたけど、絶対嘘だ。 だって目線が泳いでた。 ヒカルが嘘をつくときの癖だ。

 何となく、理由なんか無いけどヒカルが囲碁をできるようになったのはついさっき、あの古い碁盤を見つけた時からなんじゃないかとそんな気がした。 そんなのあり得ないって分かっているのだけれど……でもきっと『さい』とか言う人は関係しているのだと思う。

「くしゅんっ」

 ヒカルのおじいちゃんのお家の前でそんなことを考えながら佇んでいたらいつの間にか身体が冷え込んでしまっていた。

 ――今日あったことを振り返ってみたけど、依然としてヒカルがおかしくなった理由は分からない。
 やっぱり本人に聞いてみるのが一番なのだろう。 幽霊とか、怖い話とか、そういうの苦手だから聞きづらいけど、私が逃げたら完全にヒカルは手の届かないどこかへ行ってしまう気がする。 ……連れていかれてしまう気がするのだ。
 ヒカルは『また明日、学校で』と言っていた。 明日学校に行けば必ず会える。 普通では無い何かに関わっていくのは怖いけど、頑張って今日のことを聞いてみることにしよう。

 そう心に誓って、私は重い足を引きずるように歩き始めたのだった。

● ♡ ●

 翌日、学校であったヒカルは異様に上機嫌だった。 下駄箱の場所を間違えたりとか、たまに変だったけど、私の話も笑顔で良く聞いてくれるし、先生に頼まれてクラスの皆のノートを運んでいた時なんか、代わりに持ってくれた。 まるで別人みたいに優しい。

 でも、昨日の話をしようとするとさらりと受け流されて詳しい話を聞くことが出来ない。 無理に聞こうとすると、何か踏み込むのを戸惑わせる壁のようなものを作られてしまってつい躊躇してしまう。 ヒカル、いつの間にこんな雰囲気を身に着けたの?

「では、これで帰りの会を終わりにします」
「起立、礼~!」
「「さようならー!」」

 とうとう一日が終わってしまった。
 ヒカルは早くもランドセルを背負い小走りで教室から出ようとしている。 いつも私と帰っていたのにっ!
 私はランドセルを背負いながら急いで後を追いかけヒカルを呼び止めた。

「ヒカルっ、待って!」
「ん、あかり。 どうした?」

急いでいる様子だからまた無視されちゃうかもと思ったけれど、予想に反してヒカルはすぐに立ち止まり笑顔で振り向いた。


「ええと、その……今日は一人で帰るの?」
「ん? ああ、そう言えばいつも一緒に帰ってたっけ。 今日はちょっと行くところあってさ、急いでるから……ごめんな」
「えっ。 う、ううん、用事があるなら――」

 申し訳なさそうに眉を下げて謝られ、胸がドキッと音を立てた。 こんな素直に謝るヒカルを初めて見たかもしれない。
 やんちゃで、意地っ張りで、いつまでも子どもなんだからと何度も呆れたことのあるヒカルなのに、ずっと年上のお兄さんと話しているみたい。 ヒカルが『もっとこうだったら良いのに』と思うことが殆ど叶って、何だか今日のヒカルは格好よく見える。

でも、一日で人はこんなにも変わるものなのかな?
――思い当る原因といえば、やっぱり昨日の事しかない。

「じゃ、オレもう行くな」
「待って!」
「な、何だよ?」

下駄箱へ向かおうとするヒカルの腕を慌てて引っ張り再度引き止めると、今度は怪訝そうな顔をされてしまった。 でも、明日は学校がお休みだから、今日聞けなかったらもうずっと聞けないかもしれない。 頑張らないとっ!

「ヒカル、昨日の、お蔵でのことだけど――」
「あー、その話か。 あかりには言ってなかったけど、オレ最近囲碁始めたんだよ」
「っ、囲碁なんてお年寄りの遊びだって散々言ってたじゃない。 どうして急に――って、そうじゃなくて――」

 ヒカルの疑わしい言葉につい反応しちゃったけれど、聞きたいのは囲碁を始めたかどうかじゃなくて昨日のお蔵でのこと。
 今度こそは話を逸らされないように急いで言葉を続けたけれど、ヒカルが話の途中で割り込むように言葉を重ねてきて失敗。

「まぁ、色々あってさ。 やってみると案外面白いもんだぜ? そうだ、あかりもやってみないか? 囲碁」
「えっ!」

それって、ヒカルが教えてくれるということだろうか。
唐突に、碁盤を前に二人で寄り添うようにし座り優しく囲碁を教えてくれるヒカルが脳内に浮かんだ。 

『ほら、こういう時はこうなって……』
『う~ん……じゃあこういう時は……あ』

不意に盤上で手が触れ合う二人。 指先にヒカルの体温を感じて高鳴る鼓動。 ふとヒカルに視線を向けるとヒカルも柔らかく微笑みながら私を見ていて……。

と、そこまで考えてハッと我に返る。
や、やだぁ。 私ったらこんな時に何考えてるの。 もう、ヒカルが急に大人びるから変な事考えちゃったよぉ。

「ど、どうしようかなぁ……。 私囲碁のこと全然分からないし、覚えられるかなぁ」
「興味があるなら、保健センターでプロの先生が初心者向けの囲碁教室やってるから、行ってみれば? あそこ、教え方が丁寧で分かりやすいって結構評判良いぜ。 先生も優しいらしいからあかり相手でも根気よく教えてくれるんじゃねぇかな」
「え」
「それじゃオレ、悪いけど急いでるから……またな!」
「え、う、あ……ちょ、ヒカルっ!?」

 今度は呼び止めても止まってくれなかった。
 結局話を逸らされて、聞きたかったこと全然聞けなかった……。
 囲碁も、誘ってくれるのならヒカルが教えてくれれば良いのに、囲碁教室って何よ、もう!
 悔しくて、ダッシュで遠ざかるヒカルの背中を軽く睨む。

「ヒカルの、ばかぁ!」

 いつか絶対『さい』の事とか、碁盤のこととか、問い詰めてやるんだから!
 ……でも、囲碁教室かぁ。 ヒカルもそこで囲碁の勉強したのかなぁ。 それならそこにいけば何か分かるかも。

 ヒカルが囲碁続けるなら、私もやってみようかな?

○ ● ○

 オレ、進藤ヒカルは下駄箱の手前であかりが追いかけてこないことを確認しようやく足を止めた。
 あかりは朝からずっと昨日のことを気にしている様子で、話を逸らすのが大変だったがとりあえず今日は逃げ切れたことに安堵し、ホッと息を吐く。

(あーもー。 面倒なことになったな)
(いっそ、ばらしてしまってはどうですか? 昨日一緒にいた少女――あかりと言うのですね。 あかりはヒカルの言い訳を明らかに疑っていましたし、とても誤魔化せるとは思えません)
(ばらすって……だから、佐為のことを言ったところで信じる奴なんか居ないんだって。 頭がおかしくなったと思われておしまい)
(昨日のヒカルを見ていたのですから、もう頭がおかしくなったのでは無いかと思われているかもしれませんよ?)
(……オレ、そんなに変だった?)
(そりゃあ、もう)
(……)

 散々あかりに不審そうな眼差しを向けられ、佐為にまでしみじみ『変だった』と肯定されてしまい思わず閉口した。
 ちぇ、原因は佐為だってのに、他人事みたいな顔しちゃってさ。
 仕方ないじゃん。 オレだってわけ分かんなくて混乱してたし、それ以上に佐為に会えたのが嬉しくて自分を抑えられなかったんだ。
 確かに、何も知らないあかりからしたらおかしくなったと思っても仕方ないかもしれないけど……。

(ま、いいや)
(良いのですか?)
(これからやることたくさんあるし、あかりに構ってる暇なんか無い。 別に悪いことしてるわけじゃないんだから、適当にごまかしとけば良いだろ)

どうせ、あかりだし。

(そんなことより――)

オレの口元が自然とにんまり弧を描く。

(今日は良い所に連れて行ってやるから、楽しみにしてろよ~!)
(良い所? 碁が打てる所ですかっ?)
(当然! 碁会所って言って、碁が好きな人たちが集まって対局する所さ)
(碁会所……! 碁が好きな者の集う所ならばたくさんの打ち手がいるのでしょうね!)

 対局できると知った途端、期待に頬を上気させ瞳を輝かせる佐為。 オレもこれだけ喜んで貰えるのならなけなしのお小遣いを費やす甲斐があるってものだ。

 佐為が神の一手を極めるためにオレができることなら何だってする。 今日これから行われるであろう対局は佐為が神の一手に至るための大事な第一歩だ。
 未来での経験から言って、佐為の実力があればオレの計画は絶対に成功するはずだ。 上手くいったら佐為はどれほど喜ぶだろうか。
 ……『アイツ』も、あれだけ佐為と打ちたがっていたんだから最初は驚くだろうけど最終的には喜ぶだろう。

 ああ、楽しみだ!

 オレは緩んだ頬をそのままに、目的の碁会所『囲碁サロン』へ駆け出したのだった。

○ ● ○

(ああっ、ヒカル、大きな板に碁盤の絵が!)
(さすが、囲碁に関することには目ざといよな。 ここが碁会所だよ)
(ここが……囲碁サロン、と言うのですね)

 駅前の碁会所、囲碁サロンはビルの5階にある。
 ビルの中には当然エレベーターもあるんだけど、待ちきれなくて階段で行くことにした。
 この階段、緒方先生に無理やり登らされたっけ。 その後塔矢先生に対局を申し込まれて……今考えると結構すごい体験だったよな。 あの塔矢名人に対局を申し込まれるって。 いくら息子を二度も倒したからって――塔矢先生、何気に子煩悩? その方が都合良いっちゃ良いんだけど。

(ここの碁会所はただの碁会所じゃないんだぜ。 なんと、あの塔矢名人が経営してる碁会所なんだ!)
(なんですとー! って、トーヤ……? それはもしやヒカルのライバルの?)
(それは塔矢名人の息子。 塔矢先生はオレにとっては雲の上の人でライバルなんてとても言えないよ)
(雲の上……ヒカルがそこまで言うとはかなりの実力者なのですね)
(当たり前だろ! なんたって、神の一手に最も近い男って言われてるんだから!)
(神の一手に……!?)

 佐為はピシャーン! と、雷に打たれたかのような衝撃を受けている。 良いリアクションだ。

(佐為のライバルとして塔矢名人以上の適任は居ないよ。 オレが居た未来じゃ佐為と半目差になる激戦もしたんだぜ)
(半目差……それは私が勝ったのですか? それとも、その者が……!?)
(正確には半目差になるのを最後まで読み切っての投了。 でも一つ違えば勝敗がひっくり返る大接戦! オレも一番近いところで見られて――本当に、凄い対局だった。 どっちが勝ったかは……な~いしょ!)
(ええっ! そんな! ケチー!)
(ケチって……。 塔矢先生の実力は実際に打てばわかるだろ?)
(うぐ……それも、そうですね。 その者の力は対局で確かめるとしましょう!)

佐為がメラメラと闘志を燃やしながらグッと顔を近づけてきた。

(それで、その者とはいつ打てるのですか!?)
(まぁそんな焦るなって。 ちゃんと塔矢先生と打つ為の完璧な計画を立ててるからさ! その計画が成功すれば、たぶんすぐにでも打てるようになると思うぜ)
(ヒカル……! 何から何まで、本当にありがとうございますっ……!)
(そのためには今日打つ奴を完膚なきまでに叩きのめす必要があるんだけど――)
(今日、打つ奴?)

「ふぅ……。 やっとついたぁ」

長い階段をようやく登り切り、ようやく碁会所のある五階についた。 囲碁サロンの入り口である引き戸の前で少しばかり乱れた息を整える。 ここ、もっと下の階にあれば良いのに。

オレは焦らすようにゆっくりと二回深呼吸をし、完全に息が整ってからくるりと佐為を振り返ってにやりと口角を吊り上げた。

(今日佐為が打つ相手は、塔矢アキラ。 塔矢先生の息子で、オレのライバルだった奴さ)


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