「ね、ねえ。ちょっと付き合いなさいよ」
僕と柏崎さんが隣人部に入部した次の日。三日月さんがゲームでリア充を目指す旨を宣言して、ゲームを用意するように言われた放課後。
帰ろうとしたら、柏崎さんに呼び止められた。
「何にですか?」
「あのキツネが言ってたゲームよ。あたし、まだ持ってないから。あんたも持ってないでしょ? 一緒に買いにいかない?」
「そうですけど……柏崎さんはわざわざ買いに行かなくても、クラスの男子から借りればいいじゃないですか?」
いつも奴隷扱いしてコキ使ってるし、そうするんだろうと思ってた。
僕がそう言うと、柏崎さんは心外だとばかりに声を張り上げた。
「はあ!? 嫌よ、下僕の手垢に塗れた携帯機なんて。何であたしがそんな汚いの使わなくちゃならないわけ?」
「いつもそうしてるじゃないですか」
「それは、そうだけど……。と、とにかくもうしないの!」
「はあ」
大股で歩く柏崎さんを見送ると、反転して来て腕を掴まれた。
「なにぼーっとしてんの! あんたも来るのよ!」
「えー」
ズルズルと引きずられる。
抵抗もできない。ゲームなんて生まれてこのかたプレイしたこともないから、何を揃えればいいかもわからないから、柏崎さんと一緒に買った方が間違わずに済むのかな?
足並みを揃えて彼女に並ぶ。
「フフ、その気になったのね。それでいいのよ、それで」
したり顔の柏崎さんを見て、僕は歩調をゆるめた。
並ぶと、胸が自然と比較されて惨めな思いになったからだ。
プレイングステイツポータブルとモン狩りを求めて、大型の家電量販店を訪れた。
モン狩りとやらはすぐにカゴに入れたのだが、PSPの色やデザインで柏崎さんが時間を取っていた。
「うーん……これとか、あたしに相応しいカラーリングね。でも、少し男っぽいかしら。アンタはどう思う?」
「プレイできれば、どうでもいいと思うんですけど」
「ハァ!? 見栄えもこだわるのが普通でしょうがッ!」
散々に吟味しておいて、まだ悩むのか。本音を言えば、早く帰りたかった。
柏崎さんのような華やかな美貌の女子高生が、大衆が利用する大型店で騒いでいれば目立たないわけがない。
既に白のカラーリングのPSPを購入し終えていた僕は肩身の狭い思いをしていた。
ごめんなさい店員さん。お金は落とすから怒らないで。
「フンフーン。ゲームって初めて買ったわ。帰ったらプレイしてみようかしら」
「そうですか」
結局、一時間も付き合わされた。小躍りしてビニール袋に包まれた商品を抱きしめる柏崎さん。
僕もゲームを買ったのは初めてだが、そこまで楽しいものなのか疑問だ。
夕日の山吹色に柏崎さんの金髪が燃えていた。帰り道も途中までは同じらしい。
もしかして、部活の帰路は柏崎さんと帰らなくてはならないのだろうか。それは嫌だなぁ。
「……じ、実はね。同年代の女の子と買い物したの、今日が初めてだったの。案外、悪くなかったわ」
「そうですか」
僕も初めてだった。疲れた、というのが率直な感想だ。書店で本を立ち読みするのは疲れないのに……
人に付き合わされる、振り回されるのは疲れるんだ。憶えておこう。
淡々と返事をする愛想のなさが癪に障ったのか、柏崎さんは唇を尖らせた。
「なによ、アンタは楽しくなかったって言うわけ?」
「想像していたものとは違いました」
もっと和気藹々と語らい合いながらショッピングを満喫できるものと思っていた。
終わってみれば、終始柏崎さんに振り回されただけ。つまらなかったと言えば嘘になる。
柏崎さんの瞳に動揺が走った。
「ぅ……な、なんでよ。なんでそういうこと言うのよ。アンタもクラスの馬鹿女みたく、あたしのこと嫌いなの?」
「むしろ逆で、僕が嫌われてると思ってました」
「え?」
僕は苦い思い出を掘り起こした。
あれは二年生になったばかりの体育でのことだ。二人組を組まされ、クラス替え早々から女王様ぶりを発揮した柏崎さんは、案の定ハブられた。
僕も組んでくれる人がいなかったので、勇気を出して声をかけてみた。
『あの、柏崎さんがよかったら、僕と組んでくれませんか?』
そうしたら――
『ッハア!? 同情してんの!? どうせアンタも内心あたしのこと馬鹿にしてんでしょ! 誰も組んでくれる人のいない柏崎さんカワイソーwwwとか思ってるんでしょ!?
いいわよ。アンタたちと組むくらいなら先生と組むから! 泣いてるように見えるかもしれないけど、これはあくびしただけだからッ! 調子に乗ってんじゃないわよ愚民のくせに!』
その後、僕は体調不良を理由に木陰で休んだ。
他の女子が慰めてくれたが、二言目に出たのは柏崎さんの陰口だった。
柏崎さんから見たら、僕も彼女のいじめに加担しているように見えたのかもしれない。
だから嫌われていると思っていたのだけれど。
「あたし、そんなこと言ったっけ?」
きょとんとして呟く柏崎さんを見るに、そもそも存在を認識されていなかったようだ。
いちおう顔は憶えられていたようだけど。
柏崎さんは胸の前で指を絡め、もじもじとして上目遣いに僕と目を合わせた。
「あの……そう言ったことは謝るから、これからは仲良くして欲しいんだけど」
「僕は別に気にしてませんから、構いませんよ」
「ホント!?」
不安げな瞳から一転して瞳が輝き出す。表情が豊かな人だと思った。
「じゃあ、その……陽香って呼んでいい? あのヤンキーだけ名前ってなんか腹が立つし」
「いいですよ」
喜色に染まる柏崎さんの顔。花が綻んだようだった。その勢いに任せて、柏崎さんが僕の両手を握った。
「じゃあじゃあ、ついでに、あたしと友達に――」
「すいません。無理です」
「なんでよ!」
デジャヴに悩まされながら、涙目になって詰め寄る柏崎さんを宥めた。
ひょっとして、少し距離が縮まるたびに、このやりとりを繰り広げなければいけないのかな……
週明けの部活はリア充になったときに備えてのモン狩りの集団プレイ体験だ。
胸を踊らせていた柏崎さんは、ほぼ三日間徹夜でやり込むという気合の入った予習を済ませていた。
僕は基本操作を頭に叩き込んだ程度。小鷹もそのくらい、言い出しっぺの三日月さんは結構やりこんでいるようだった。
そして始まったマルチモードは、柏崎さんの開幕太刀唐竹割りで不穏な空気になり、三日月さんの不意打ちボウガン三連射で凄惨な様相を呈した。
それから二人で醜い殺し合いを始めたので、僕と小鷹の二人で初心者同士、手探りで探索を始めた。
「小鷹、このイャンチョットってモンスター、全然倒せないね」
「先生って呼ばれてるらしい。これを倒せるようになってようやく半人前だって」
「もっと吹き荒ぶ血のエフェクト激しくしなさいよ! このクソギツネにもっと無様な死に様を演出してやりたいのにぃぃいい!」
「この牛が死後に腐り落ちる様をもっと見たい! もっとだ! もっと愉快な姿を晒せクソ以下の駄肉がぁぁあああ!」
「……」
「……」
二人がハイレベルな同士討ちを繰り広げている間に、僕と小鷹は、かなりの時間をかけてボスを倒した。
「やった! やったよ小鷹!」
「あ、ああ。アイテムが落ちたけど、どうする?」
「小鷹が拾っていいよ。僕はそこまで活躍してないから」
「そうか? ならありがたく――」
小鷹の手をとって、達成感の余韻に浸っていたら、小鷹が何か恐ろしいものを見たような形相になった。
振り向くと、黒と金の悪魔が仁王立ちしてた。
「何をイチャついている、このクソビッチがッ! 目を離せばすぐに男に尻尾を振る女狐め!」
「わからないところはあたしに訊けって言ったのに、なんでこんなヤンキーに頼ってんのよ!」
「ええっ!?」
僕らを放っておいて殺し合いを始めたのは二人の方で、柏崎さんに至っては尋ねても「いま集中してるから話しかけるないで!」って怒鳴ってきたのに……
特訓大会は『ゲームはひとりでするもの』という結論が出て無駄に終わった。
ゲームがコミュニケーションツールって言い出したのは誰だったかな。
翌日。モンスターを討伐する爽快感と苦労の末に素材を手に入れる達成感が忘れられなくなった僕は、学校にPSPを持ち込んでプレイしていた。
休み時間等の僅かな時間も惜しんでゲームに没頭する。同じ作業をひたすら繰り返す惰性の強いゲームだが、その分、レアアイテムをゲットした喜びは、名著を読み終えたあとの余韻よりも強かった。
黙々と熱中していると、その様子が珍しかったのか、隣の男子生徒が話しかけてきた。
「な、なあ。藤宮もモン狩りするのか?」
「え? ……は、はい。最近、人気のゲームだと耳にしたので」
慮外の声に声が上ずったが、なんとか取り繕って返事をした。
恥ずかしそうに、遠慮がちに言うのも忘れない。隣席の彼は身を乗り出した。
「へえ。意外だな。どれくらいやりこんでるの?」
「それが、全く。ゲーム自体、プレイしたことがないので……」
「そうなんだ。ならオレが教えてやるよ。オレもかなりハマっててさ」
「なになに? 藤宮さんもモン狩りやんの?」
それを皮切りに、クラスの男子が周りを取り囲みだした。
表には出さないが、いい気分ではなかった。彼らの中に純粋に僕と友人として接したいと思ってくれている人はどれくらいいるのだろう。
好意的に話しかけてくれるのも、僕の容姿が偶々、他の女の子よりも好みだったからじゃないの?
僕が困惑していると、大股で柏崎さんが歩いてきて、犬をあしらうようにシッシッと手を払った。
「なにしてんのよ、邪魔。むさ苦しいから散りなさい」
「せ、星奈様!」
女王様の登場に一斉に平伏し出す男子たち。異様な光景に頬が引きつった。彼らは……なんだっけ。SMクラブにでも通っているの?
クラスの女生徒も、また始まったと辟易したようにため息をついた。
周囲の反応も知らずか、柏崎さんはモーゼの海割みたいに道を開ける男子の間を闊歩して僕の席まで来た。
「陽香、モン狩りならあたしに訊きなさいって言ったでしょ? フフン、大船に乗ったつもりでいなさい。何でも教えてあげるから」
親しげに話しかける柏崎さんがクラスにどよめいた。
当然だよね。僕と柏崎さんって、色んな意味で対極な存在だったから。
得意げに微笑む柏崎さん。もしかして、これが狙いだったのかな。
柏崎さんは嬉しそうに教えてくれたけど、僕は怪訝な女子の視線に居た堪れなくなって、その日でモン狩りをやめて読書に戻した。
三日月さんは正しかった。ゲームはひとりでするものだよ。
●
「おい、ビッチ。なんだ、このコーヒーメーカーは」
「実家で使ってないものがあったので、持って来たんです。三日月さん、いつもコーヒー飲んでるから。豆も余っていたのを拝借してきました」
「これ数十万はする全自動のやつじゃないのか? よく持ってこれたな」
休日に運んできた銀色の光沢が眩しいそれに、二人が目を丸くした。
高級ブランドの一品で僕の胴体くらいの大きさがある。
父が趣味で買ったものだが、みんな緑茶派なので使用する機会がなく、埃を被ってしまうのも何なので持って来たのだ。
柏崎さんがティーセットを持って来て以来、三日月さんが(勝手に)コーヒーを飲むようになったので、それならと活躍の場を設けてやることにした。
「ふむ……これはどう使うんだ?」
「水と豆をいれるだけで後は自動でやってくれるんですよ。少し時間はかかりますけど……」
使い方の見本を見せた。抽出されたコーヒーの芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
不純物のない澄んだ色合いに目を丸くした三日月さんは、口をつけると、感嘆したのか、しばし瞑目した。
「……ビッチ。お前も酒に入れた目薬くらいはいい仕事をするな」
それって、最近のは全然効果ないんじゃ……
「俺も飲んでいいか?」
「どうぞどうぞ」
小鷹も気になったのか、注いだコーヒーを啜った。ほう、と吐息を漏らす。
「なんて言うか……インスタントコーヒーって、やっぱり安物なんだな」
「うむ。高級豆で淹れたものは、文字通り物が違うな。本場の本格的に淹れたものがどれほど美味いのか興味が湧いた。ただの色水と思っていたが、なるほど奥が深いな」
カップを片手に優雅なひと時に酔いしれる二人に、少し嬉しくなる。役に立つ、人に喜ばれるのは気持ち良い。
「それに引き換え……」
僕が人知れず浮かれている横で、三日月さんは家畜を見るような目で、家庭用ゲーム機の前で慌ただしくしている柏崎さんを一瞥した。
「もうひとりの自称お嬢様は何をしているのだろうな。先程から不快な肉塊が揺れて目障りで仕方がないのだが」
「その部活で役に立つもの持ってきてあげたんでしょうが! ほら、今からするわよ!
……ていうか、そのティーセットあたしのでしょ!」
柏崎さんがセットしていたのは、『ときめいてメモリーデイズ』という、パッケージにカラフルな髪色をした美少女が描かれている美少女ゲームだった。
先日、僕たちがプレイしていたモン狩りとは意匠が違うらしく、異性と仲良くなるゲームだとか。
女の子と仲良くなって何が楽しいんだろう。女の子って口を開けば二言目には他人の陰口ばかりがマシンガンみたいに出てくるのに。
僕は全くやる気がなかったのだが、開始してすぐに出てきた主人公『柏崎せもぽぬめ』の親友、『マサル』に衝撃を受けた。
「馬鹿な……既に親友がいる、だと……!?」
小鷹も同様で、強面が強張って凄まじい迫力に満ちていた。
中学時代からの親友なんて……僕には名前も憶えてられる人すらいなかったのに。
「あの、この人は攻略できないんですか?」
僕が画面を指さすと、三日月さんは大仰に嘆息した。釣り目がさらにつり上がる。
呆れと蔑みが多分に含まれた声音で語り出した。
「いいか、ビッチ。よく聞け。これは、女の子と仲良くなるゲームだ。美少女ゲームだ。こういったゲームにおいて男性キャラクターは脇役で存在価値はない。
男の娘と呼ばれる美少女に男性器をつけただけのキャラクターは稀に攻略対象となるが、このチャラ男に唆られる男などいないだろう。需要がないのだ。
お前の質問は、料理番組で『オリーブオイルを使わない料理ありませんか?』とお便りを送るようなものだ。要するにスレ違いだ。帰れ」
「三分で作る料理番組にオリーブオイルそんなに使います?」
そもそも一般家庭で作る料理にオリーブオイルって使う機会そんなにないと思うのだけれど。
僕はゲームを実際にプレイする柏崎さんに視線を送った。懇願する。
「柏崎さん、お願いがあるんですが……この人を攻略してくれませんか?」
「ハァ!? ふざけんじゃないわよ、何であたしが男なんか、」
「お願いします……」
「し、仕方ないわね」
「おい」
あっさりと承諾してくれた柏崎さんに、三日月さんがドスのきいた声で言った。
「雌豚が、何を丸め込まれているのだ。これは美少女ゲームだ。私たちが同性と仲良くなる参考にするために持ってきたのに、ビッチが男を攻略する手助けをしてどうする?
見ろ。コイツの顔を。柏崎さんはちょろいな、とか思われているぞ」
「陽香がそんなこと考えるわけないじゃない!」
「夜空、俺からも頼む。親友……それがどういう存在か気になって仕方がない。リア充は親友とどんなことをしているのか。親友がいるくせにリア充じゃないとか抜かす奴がどういう生活を送っているのかがな」
「小鷹……」
小鷹にも頼まれ、三日月さんも折れた。舌打ちし、椅子に座ると、前髪を弄りながらぶっきらぼうに言う。
「まぁ、チャラ男と言えども、親友ができてからの参考にはなるかもしれないな」
「ありがとうございます、三日月さん」
「ふん」
不満そうに鼻を鳴らす三日月さんだが、どうやら小鷹には弱いことはわかった。
ヒロインの女の子とのイベントを進めると、放課後になって選択肢が出てきた。
『さて、これからどうしようか』
1.藤林さんと帰ろうかな
2.そういえば可憐ちゃんに誘われてたんだっけ
3.マサルが呼んでる、行かなきゃ
「何でこの主人公は使命感に駆られでもしたような言動をしてんの?」
「親友に呼ばれたら、気になる女の子の誘いもシカトして向かわなければならないのか」
「女の子でもよくあるじゃないですか。彼氏ができたら友達に素っ気なくなった、付き合いが悪くなったって言われるの。友達付き合いも大事なんですよ」
「身はひとつしかないんだから、両立は不可能だよな」
さらに進めると、選択肢の関係で仲が深まっているヒロインが出てきた。
そのヒロインとの仲についてマサルに尋ねられる。主人公がはぐらかしても、マサルは執拗に問いただしてきた。
『い、いいじゃないか、僕が誰を好きでも。そんなに気になるなんて……もしかしてマサルは僕のことが好きなのか?』
『そうだ、俺はお前が好きだ!』
『!?』
「どんな超展開だ!?」
「なによコイツ、気持ち悪い!」
「そんなに想ってくれる親友なんて、この世にいるのかよ」
「……」
僕は嫌な思い出がよみがえって吐き気が込みあげてきたのだが、
『なーんてな。友達としてってことだよ』
『び、ビックリさせるなよ』
男臭い笑みで冗談を言うマサルに胸を撫で下ろした。そうだよね、男同士なんてありえないよね。
自分を鍛え、女の子とは程々に距離をおいて学校生活を過ごすせもぽぬめ。
隣の席の藤林さんと談笑を繰り広げ、時折図書館で見かける長田さんを記憶の片隅に留め、自分を慕う後輩の可憐ちゃんとはあくまで可愛い後輩としての接し方を続けた。
そしてマサルとアホなことを繰り広げながら過ごす、充実した青春。男女ともに友人に恵まれた学校生活は、非常に意義のあるものだった。
そして修学旅行の日。せもぽぬめの隣には、当たり前のようにマサルがいた。
『結局、彼女はできなかったけど、マサルがいるから毎日が楽しいよ。持つべき者は親友だよな。これからも僕と友達でいてくれるか?』
『水臭いこと言うなよ。俺もな、お前と一生友達でいれたらいいな、って思ってるぜ』
『マサル……』
そして二人は固い握手を交わして終了した。
「ぐすっ」
「良い、話だったな……」
「うん……マサルくんは、本当に……本当に良い人です……」
鼻を啜る三日月さん、瞳に涙を浮かべる小鷹、涙が止まらない僕と、感動のフィナーレに絶賛の嵐だった。
僕もこんな学校生活が送ってみたいな……
三人で如何にマサルが親友として優れていたかを述べているが、ゲームをプレイしていた柏崎さんだけは釈然としない面持ちで呟いた。
「確かによかったけどー。あたしとしてはこの、長田有希子の方が攻略したかったなー。可愛いし」
一人だけ違う感想を口にする柏崎さんを、三日月さんはドン引きして見つめた。
「牛女……まさかとは思っていたが貴様……れ、レズビアンなのか?」
「ハァ!?」
後退る。三日月さんは身を庇うように自分を抱きしめた。
「おかしいと思っていたのだ。あれだけ男に囲まれていながら満足せず、女を欲するなど。そういうことだったのか……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! どういうカスみたいな思考回路してたらそんな答えになるのよ!」
「あのエンドを見て感動しないなんて、心の底から女を求めているとしか……」
「陽香まで!? な、なんなのよ、もうっ!」
友達が欲しいという願いに邪な感情が含まれていたのかと邪推する。
小鷹もどう反応していいか判らず、後ろ髪を掻いて無言だった。
居た堪れなくなった柏崎さんは、瞳に涙を浮かべながら小刻みに震えたかと思うと、
「お、女の子の友達が欲しいのに何が悪いのよ! うわーん! 死ねクソギツネ! 陽香のぺたんこナス! あーん!」
談話室のドアを開けっ放しにして逃げ出した。ぺたんこナス……
「追わなくていいのか?」
「放っとけ。三歩歩いてたから忘れるだろう」
時間も時間だったので、これで解散となった。
僕は心地良い余韻に夢心地になりながら家に帰った。マサルくん、良い人だったな。
僕もあんな友達が欲しいな。
●
翌日、柏崎さんが別のゲームを持ってきた。
『コロスデイズ』とかいう物騒な名前のゲームだった。
一抹の不安に駆られながらもゲームを開始すると、ゲームのバグでどうやってもヒロインを男友達に寝取られて終わるという欠陥だらけのゲームだった。
「ふざけんな!」
「ユーザーを嘗めているのか、この制作会社は!」
三日月さんと柏崎さんは問答無用でディスクを叩き割った。
……正直、僕も少しトラウマになった。