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No.39311の一覧
[0] 【ネタ】僕は修羅場が少ない[コモド](2014/01/23 22:21)
[1] 僕はぬくもりが少ない[コモド](2014/01/23 22:24)
[2] 僕は何かが少ない[コモド](2014/01/23 22:24)
[3] 僕はタイトルとかどうでもいいや[コモド](2014/01/23 22:25)
[4] 僕は自業自得で友達がいない[コモド](2014/01/23 22:26)
[5] 僕は点数が少ない[コモド](2014/01/23 22:27)
[6] 僕は具材が少ない[コモド](2014/01/23 23:46)
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[39311] 【ネタ】僕は修羅場が少ない
Name: コモド◆82fdf01d ID:e59c9e81 次を表示する
Date: 2014/01/23 22:21


 僕は友達がいない。

「どうする? モック寄ってく?」
「行く行くー。あ、藤宮さんはどう?」

 放課後。カバンに教科書を詰めながら帰宅の準備をしていると、クラスメートに誘いを受けた。答えは決まっている。

「ごめんなさい。今日は用事があって……」

 僕は控えめな笑みを浮かべ、いつもの、行きたいけれど、事情があって行けない風を装って答えた。
 すると、彼女たちは「だよねー」と苦笑する。いつものことだ。

「なにやってんの。藤宮さんが買い食いなんてするわけないじゃない」
「たまには来てくれるかもしれないでしょー?」
「無理だって。凄いとこのお嬢様なのよ、藤宮さん」
「佇まいとかしゅっとしててかっこいいよね。愛想も良いし」
「同じお嬢様でも、柏崎さんとは大違いよねー」
「だね」

 女の子にありがちな毒の強い世間話で大笑して、教室をあとにするのを見届ける。
 藤宮陽香(ふじみやようか)――聖クロニカ学園二年三組の女子生徒。
 背中にかかる程度に伸びた清楚な黒髪、華奢で自己主張の少ない体つき、色白で薄幸そうな顔立ち。
 控えめで、我を出さず、クラスの輪からは外れて、それでいて誰の反感も買わない、存在感を失わない女の子。
 それが一年間で僕が築き上げた人物像だった。
 同学年、同クラスに柏崎星奈さんという比較対象がいたから、この立場でいるのは容易かった。
 金髪の華美な容姿、女性が羨望して止まない男性を虜にする艶美な肢体、あらゆる物事を完璧にこなす頭脳、運動神経。それを鼻にかけた高慢な態度と男子を奴隷にする気性の華やかな彼女が嫌われ役を買ってくれたおかげで、僕は愛想が良く、病弱なお嬢様という地位を維持することができたんだ。
くわえて、僕の家は地元の名家で、ある程度の知名度もあった。

 今では誰もが僕を、腫れ物のように扱ってくれる。花を手折ることのないように。
 男子にとっては触れれば崩れ落ちてしまいそうな高嶺の花、女子にとってはステレオタイプの深窓の令嬢。
 スカートだって膝丈、休み時間は誰かと大口開けて談笑したりしないで読書に耽る、放課後はバイオリンの稽古があるからまっすぐ帰るの。
 体育も柏崎さんが派手に活躍する傍ら木陰で見学。憩いの場は図書室。静かでクーラーも効いてて気持ち良い。
 ……いっつも、ひとりぼっち。

「……つまんないな」

 廊下を歩きながら、ぽつりと呟いた。
 本当は、もっと自己主張したい。本当は、運動だってできる。本当は、友達と馬鹿騒ぎしたい。
 なまじお嬢様で突き通せる容姿とスペックを持ち合わせて、周りにそう見られる心地よさに酔っていたから、こうなってしまった。
 周りの目が気になって、名前も知らない誰かが求める藤宮陽香を演じ続けたからこうなった。
 話しかけてくれるクラスメートだって、本当は来て欲しいなんて思ってない。「柏崎さんはあんなだけど、藤宮さんはこうだよ。流石だね」、と言いたいだけ。僕が彼女たちの求めるお嬢様像だから。
 嫌いな柏崎さんを扱き下ろす材料のひとつとして見ていないんだ。
 僕と彼女たちの関係性は、見えない皮膜で断絶している。
 僕に好意的に接してくれる男子もいたけど、僕はそんな関係を求めていない。普通の友達になって欲しい。でも、男と女だから邪な感情が向こうにはある。

 そして誰も、僕が友達を作ることを求めていない。
 ずっと孤高で、孤独な存在でいて欲しいと願っているんだ。
 自業自得で自意識過剰かもしれないけれど……僕は、それがとても嫌だった。
 我にかえる。俯いた顔を上げた。憂いを帯びた顔を引き締める。
 何を落ち込んでいる、藤宮陽香! そうやってすぐにネガティブになるのがお前の一番の欠点だ。
 周囲の評価を変えたいのに、なぜ自分から変わろうとしない。情けないぞ!
 気合をいれた僕は、廊下に張り巡らされた勧誘ポスターを眺めた。
 二年生からの入部なんて厄介者扱いされるだろうが、それを恐れていたら友達なんて一生作れない。
 競争のない文化部なら受け入れてもらえるかもしれないし、人の少ない部活なら喜ばれる筈だ。
 昨日読んだ雑誌によると、最近の学校の青春物語は部活を作ることから始まるらしいし!
 ざっと目を通し、めぼしい部活の勧誘文に目を通す。ありふれたものばかりのポスター群の中に、ひときわ異彩を放つポスターがあった。

「……隣人部?」

 聞き慣れない部活動に眉根を寄せた僕は、だが、その紹介文を読んだ瞬間、天啓を受けた信者の如き衝撃に打ち震えたのだった。



『ともだち募集』

 それが、あの小学生が作成したみたいな不出来なポスターに隠されたメッセージだった。
 一般人は目も向けない雑な作りに巧妙に隠された心の叫びを僕は聞いた。
 居てもたってもいられなくなった僕は、その足で談話室4に向かった。礼拝堂のマリア像がこれほど神々しく見えた日が他にあっただろうか。
 この先に、僕と同じ悩みを抱えた同士がいる。同士……何て甘美な響きなんだろう。
 友達を得ようと志を同じくする者が集まれば、すぐに友達ができる。
 僕はこれから始まる輝かしい毎日に思いを馳せて、部室のある廊下に足を踏み出し、

「リア充は死ね!」

 部室を訪れていた先客がたたき出される光景が見えた。
 鮮やかな金髪――あれは柏崎さんだ。涙目でぷるぷると震えている。
 今、とても理不尽な台詞が聞こえたんだけど、気のせいかな。
 柏崎さんが駆け出し、擦れ違う。不安がこみ上げてきた。なに? 恵まれてる人は死ななくちゃいけないの?
キリスト教の博愛精神はどこにいったの?
 湧き上がる疑問と不安を飲み込んで、僕は恐る恐るドアをノックした。

「しつこいぞ! ――と、貴様は……」

 出てきたのは、長い黒髪と凛とした瞳が印象的な美少女だった。
 彼女は僕を見ると、仏頂面を露骨にしかめた。

「あの――」
「豆腐の角に頭から突っ込んで窒息死しろ!」

 けたたましい音をたててドアが締まる。酷いことを言われた。
 どれだけ大きな豆腐を用意すればいいんだ。

「ま、待ってください! 開けて、開けてください! せめて話だけでも!」
「黙れ! 私は貴様のような絵に描いたようにお嬢様然とした女が大嫌いだッ! 存在そのものが不快だ! 反吐が出る!
 早く病室に篭って窓から見える木の葉の残り枚数でも数えていろ、この似非華族がッ!」
「まだ春ですよ!? 初対面なのにひどすぎませんか!? 僕がなにかしました!?」
「貴様と先ほどの肉塊、リア王は私の学内三大怨敵だ! 三秒くれてやる。それまでに私から半径二キロ以上離れろ! でなければ、あらゆる手段を使って社会的に抹殺してやるからなッ!」
「無理ですよう! 何でそんな理不尽なこと言われなきゃいけないんですか!」
「なあ、話くらい聞いてやってもいいんじゃないか?」

 ドア越しに響く、落ち着いた男性の声。少女は激昂して話ができそうにないが、彼は耳を傾けるくらいはしてくれそうだ。
 僕は一縷の望みを託し、声高に叫んだ。

「お願いします、入れてください! ポスター見ました! あれに隠されたメッセージも!」
「僕も友達が欲しいんです!」「あたしも友達が欲しいのよ!」

 ……どこからか発せられた魂の叫びが重なって、静寂の帳が下りた。
 冷静になると、自分から友達がいないとカミングアウトする羞恥的な告白だ。
 でも、後悔はしていない。偽りのない本心だったから。
 虚飾ない言葉に応えるように、扉が開く。

「入れ」

 歓迎の言葉は、舌打ちと射殺さんばかりの視線がセットだった。



「あら、アンタは同じクラスの……誰だっけ?」
「藤宮陽香です、柏崎星奈さん」
「あぁ、そうそう。そういえばそんな名前だったわ」
「馴れ合っているんじゃないぞ、凸凹コンビめ」

 椅子に座った三日月さんが苛立ちを隠しもせず、足を組み直す。
 何が凸凹かって、僕と柏崎さんの胸だ。

「はん、アンタもたいして変わらないみたいだけど?」
「黙れ、皮下脂肪の塊が。適度で均整のとれた体つきと言え」
「はいはい。女の嫉妬って醜いわよねー。素直に羨ましいって言えばいいのに」
「……グレイトフル・デッドで今すぐその無駄乳をしわくちゃに変えてやろうか」
「やめろ」

 金髪と黒髪が中途半端に混ざった目つきの悪い羽瀬川くんが止める。
 服装も制服を着崩して、学校でも恐れられている彼だが、意外なことに常識人だった。
 可哀想なことに、啀み合う二人の間に入らざるを得なくなった羽瀬川くんは頭痛を堪えるように眉間に皺を寄せて話を進める。

「えと、柏崎だっけ? 友達が欲しいって言ってたけど」
「お前はいつも男に囲まれているだろうが」
「わかってないわね。あんなのただの下僕よ。あたしが欲しいのは体育で『二人組を作れ』って言われた時に気兼ねなくペアを組める可愛い同性の友達。
『え? 柏崎さんは男と組みなよ。いつも靴舐めさせたりしてるじゃないwww女王様気取りとかちょー受けるんですけどwww』とか言わない性格の良いコ。
 ……もうクラスの余り物や先生とペア組まされるのはイヤ」

 陰鬱な告白に重苦しくなる部室の空気。みんな似たような経験があるらしい。
 僕はそこまで言われたことはないが、誰もペア組んでくれない辛い思い出は数え切れないほどある。
 あぁ、やめて。もうひとりぼっちはやだよう。

「……まぁ、なんだ。柏崎の悩みは、もう解決されたも同然じゃないか?
 藤宮は同じクラスで、目的が同じなんだろう? 二人が友達になれば利害が一致するし、柏崎もぼっちにならなくて済む」
「あ、そういえば……」

 柏崎さんが期待を込めた眼差しで僕を見つめた。碧い瞳の透き通った煌めきが眩しくて直視できない。
 対面の三日月さんは濁った目を眇めた。どうしてこの人は僕らを敵視するんだろう。

「……そもそも何で貴様が来た。周りにちやほやされて毎日が日曜日気分だろう、名家のお嬢様は」
「そうよね。アンタは女の子からも人気あるじゃない。何が不満なのよ」

 敵意満々な三日月さんと純粋な疑問と嫉妬をぶつけてくる柏崎さん。
 僕は肩を縮めた。羽瀬川くんは外見が怖いけど、この人たちは中身が怖い。

「あの……贅沢な悩みかもしれないけれど、僕、あの人たちとは話が合わなくて」

 怒鳴られることを覚悟で告白すると、意外にも全員が同意してくれた。

「確かにな。リア充どもの突飛な思考にはついていけん」
「まぁ、純粋培養のお嬢様には世間のノリは辛いかもしれないが」
「わかってるわね。あいつらは馬鹿だから合わせる必要なんてないわよ。周りがあたしたちに合わせるものなんだから」

 同意を得られたことで嬉しくなり、立ち上がって続けた。顔が綻ぶ。やっぱりだ!
この人たちは僕の悩みをわかってくれる!

「だから、男の人と友達になりたいんです!」
「死ね、糞ビッチがッ!」
「っはぁぁあっ!? なに考えてんのアンタ! バッカじゃないの!?」
「なんで!?」

 分かり合えなかった。返って来たのは同意ではなく罵声だった。
 三日月さんは腕を組み、家畜を見るような凄惨な目つきで僕を睨んだ。

「本性が出たな。前々からコイツは気に食わなかったのだ。病弱、名家の令嬢、成績優秀、性格も良いと絵に描いたような属性で男に媚びを売ってる様がな。
 貴様からは清純派AV女優と同じ臭いがする」
「酷い……僕は淫猥なんかじゃ――」
「それだ。なんだ『僕』って。女で僕が許されるのは二次元だけだ。おおかた全て計算して男心をくすぐる仕草、言動を演じているのだろう。クラスにひとりはいるな。清楚系ビッチ。サラサラな黒髪と白い肌で遊んでないアピールして、裏では男を食いまくってる女。正に貴様のことではないか」
「お、男漁りなんてしてません! 僕は純粋に、」
「黙れ、耳に精子がかかる!」

 理不尽に罵倒される。何だよ……いいじゃんか、僕が僕を僕って言って何が悪いんだよう。

「アンタ正気? 男ってみんなあたしの奴隷になるくらいしか価値ないわよ?
 見なさい、このヤンキー。今にもあたしの靴を舐めたくて仕方ないって顔してるじゃない。男友達なんかやめときなさいよ。アンタ可愛いからパックリ食べられちゃうわよ」
「そんな顔してねえだろ!」
「ひいっ! な、なによ。怖くなんかないんだからね……!」

 強面の羽瀬川くんに怒鳴られ、涙目になって虚勢をはる柏崎さん。
 その様子にショックを受けたのか、羽瀬川くんは、悲壮に顔を歪めてから一度咳払いをした。

「す、スマン。あのな、藤宮。俺からも訊きたいんだが、何で男なんだ? 別に友達なら女でも良くないか?」

 語調から、極力怖がらせないよう、優しい声音で話そうとしているのが伝わってきた。
 やっぱり噂で聞いたような悪い人ではないようだ。
 僕は答えようとして――答えに窮して、口を噤んだ。

「それは……」
「ほらな、言えない。本心は男とヤリたくて仕方ないんだろう。このビッチめ!」
「夜空!」
「な、なんだ。やけにコイツの肩を持つな……」

 鬼の首を取ったように口撃してくる三日月さんと庇ってくれる羽瀬川くん。
 険悪なムードの中、隣に座っていた柏崎さんが二の腕をつついてきた。

「ねえねえ。男なんか止めてあたしと友達にならない? 同じクラスだし、お互い高貴な身分同士だもん。一緒にあの頭のめでたい馬鹿共を見返してやりましょうよ」
「ごめんなさい。僕、女の子は友達に見られないんだ」
「何でよ!?」

 両肩をガッと力強く掴まれた。涙でうるんだ瞳に責められる。距離が近い。

「し、信じらんない! このあたしが友達になってやってもいいって言ってるのに!」
「ぼ、僕じゃなくても三日月さんがいるじゃないですか」
「ハァ!? こんなキツネこっちから願い下げよ! こんな見るからに性格悪そうなヤツと友達になるわけないでしょ!」
「清々しいほどのブーメランだな。投げた言葉が貴様の頭に突き刺さっているぞ、牛女」

 再び睨み合う二人。あの、ここって隣人部ですよね?
 隣人と善き関係を築くのが活動目的ですよね?
 何で隣人に助走つけてぶん殴るレベルで啀み合ってるの?

「あー……藤宮。お前はこんな部に入っていいのか? 俺が言うのもアレだが、なんか場違いな気が……」
「……入ります。僕だって友達が欲しいんです。変わりたいんです。だから、羽瀬川くん」
「ん?」
「小鷹、って呼んでもいいかな。僕のことも陽香って呼んでいいから」
「お、おう……わかった、陽香」
「……ビッチめ」

 顔を赤らめ、目を背ける小鷹。
余談だが、三日月さんの僕の呼称は『ビッチ』で固定された。違うのに……




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