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No.39088の一覧
[0] 【ネタ】【東方×銀英伝(一部)】古明地文里の優雅な日々[Rei.O](2013/12/18 16:51)
[2] 【ネタ】【東方×銀英伝(一部)】古明地文里の優雅な日々 - 2[Rei.O](2014/07/06 19:01)
[3] 【ネタ】【東方×銀英伝(一部)】古明地文里の優雅な日々 - 3[Rei.O](2015/10/04 19:49)
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[39088] 【ネタ】【東方×銀英伝(一部)】古明地文里の優雅な日々 - 2
Name: Rei.O◆79a6e000 ID:9116060d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/06 19:01
<注意書き>
・本小説は「らいとすたっふルール2004」に従い作成しています。
・本小説は「銀河英雄伝説」の一部分を「東方Project」の世界に混ぜ込んだものです。
・筆者は他サイトでも物を書いていますが、これについては他において公開しておりません。
・なんか続きを期待されてたらしいのでちょっとだけ続きました。久しぶりに物を書いた気がします(気のせい)。
・なんとなくこのタイトルでのっけとくのもナンだと思ったので、「もしも天才兎が~」のほうは消しときました。うん。どうみても続けられないしね。
<注意書き終わり>

「おお、空に燐じゃないか。お前さんらが来たということは、さとりが来るのか?」
 屋敷、と言っていいだろう。旧都の建物でも比較的壊されない、なかなかの威容を誇る建物の中。女が、立膝をついた足元に声を上げた。
 にゃあん、燐と呼ばれた黒猫が声を上げる。並ぶ烏も、挨拶代わりか羽を広げてみせた。
 猫は猫でも、しっぽが二本の猫又だ。未だヒトガタをとること能わぬが、人語を完全に解する、さとりのお気に入りだ。
 烏に至っては、これは地獄鴉である。鉄の体と燃え盛るくちばしを持つと伝承されるものだが、どういうわけかこれが燐と仲が良い。鳥頭であるがこれも人語をよく解するので、やはりさとりのお気に入りだ。

 この旧都という場所において、大工の需要は極めて多い。
 但しそれは気温が高いから火事が起きやすいとか、湿度が高くて建材が朽ちやすいとか、そんな真っ当な理由によるものではない。
 喧嘩が絶えないからだ。なまじ誰もがある程度以上の力を持つものだから、建てた端から壊される。例外は地霊殿や橋ぐらいのもので、これは単に壊すと不味いからそこでの喧嘩は自粛、という不文律によるものだ。一説によれば、旧都と呼ばれる領域が本来のそれよりも拡大している最大の原因は喧嘩だという。破壊と再建が繰り返され続けた結果、外へ外へと広がっているのだと。
 そんなわけだから、大工仕事が出来る者はそれだけで引っ張りだこである。
 そして大工の中でも仕事が速く、嘘を嫌い、しかも腕っ節が強い――そんなものがいれば、強い尊敬の念を抱かれるのは自然の流れだ。

 つまり、この女――鬼、星熊勇儀はそういう存在であった。
 地上にいたころは「山の四天王」と呼ばれ一勢力の頭とされていた程である彼女が、地下に降りた程度で劣化する道理もない。
 旧地獄に流れ込んだあらくれたちをまとめあげたのは、その腕力と伴うカリスマによるものだ。

 そんな彼女が楽しみにしているのが、不定期にやってくるさとりである。
 圧倒的な力の差に萎縮されたり、お零れに与ろうと擦り寄られたり、一極支配憎しと逆恨みされたりと嫌な連中も多いこの地下において、知恵者でありながら正道を旨とし、心を読むがゆえに嘘を嫌い、自らの目的のためとはいえ他者の嫌うことをわざわざかって出るような存在。
 心を読まれるということさえ、勇儀からすればまるで脅威に値しない。鬼は嘘をつかぬのだ。表裏はあるにしろ、それはさとりもわかっている。
 旧都の状態確認や頼みごと頼まれごと、愚痴、笑い話、嘘のような本当の話。さとり手ずから、地霊殿の余り部屋で醸造しているという酒を持参しやってくるその時を、勇儀は本当に楽しみにしている。

 だから、さとりの先触れである猫と烏など、勇儀からすれば正しく喜ばしいものの筆頭なのだ。

「さとり様がいらっしゃるならば、我らはお暇したほうがよさそうですな」
「確かに。 ……では、星熊様。我らはこれにて」
「これからもよろしくお願いいたします」
 勇儀は、応、とだけ応えた。木材の商談に訪れていた商人二人組が去ってゆく。彼らにとってさとりは最強の味方であり、最悪の敵だ。
 普段ならば嘘ではないという保証をしてくれるわけであるが、どのみち鬼相手に嘘を吐くわけにもいかぬ。つまりタダで心を読ませてしまうわけであり、ここは切り上げるが吉である。縁のための投資ならばともかく、完全なタダ働きは商人に似合わない。

 勇儀は息を吐く。どうにも、商人相手は面倒だった。己相手に嘘を吐くことも悪辣な真似をすることもないとはわかっているが、そうでなくともあれは快いものではない。
 にゃん、と声。見ると、燐が首を傾げていた。
「ああ、大丈夫だ。来てくれて問題ないと伝えてくれ」
 そう言うと、空が飛び立つ。次いで、燐も走りだした。いい組み合わせだな、と勇儀は思う。空は疾いが鳥頭だ。燐は空ほど疾くはないが、賢い。速度と確度を補い合う組み合わせだ。
 そしてそこまで考えて、私も細かいことを考えるようになったものだな、と思った。
 豪放磊落こそが生き様であると思っていたが、どうしてこれも。
「……悪くない」



 猫は、走る。
 竹簡を落とさぬよう速度は多少控えめであったが、それでも、速い。
 猫はという生物は、一般の家猫ですら、全力を出せば半刻で大凡十二里を駆けるほど(※)の――勿論その勢いをずっと維持できればだが――捷さを誇る。
  (※約48km/h。一般道における車の法定速度ぐらい。)
 江戸の世において天下の将軍様が日光東照宮を参る際使われたという、日光の御成道――本郷追分より幸手まで――で十二里三十町。捷さのみでいえばこれを半刻というのだから、家猫の底力が知れるというもの。
 ……では、普通の倍はあろうかという、竹簡を首から提げられる程の体躯で、にも関わらず若いものと同等以上の身体能力を保持し続ける、この猫の捷さたるや如何程であろうか?

 旧都は広大である。狐狸化生、いくらかの鬼に多数の怨霊、木っ端妖怪や変化のたぐいは数知れず。
 これを多数呑み込んで暮らさせる、かつての大江戸の如き旧都の広さを称えるべきか、それともその旧都ですら足らず多くの妖怪どもがそれぞれ思い思いに在るこの化生共の数量を称えるべきか?
 答えはいつも簡単である――即ち、どちらもすさまじい。
 
 猫は、旧都を駆け抜けた。
 中心に在る地霊殿より出ると、裏街道を駆ける。遠回りだが、喧嘩に巻き込まれぬための措置であり、面倒を引き起こさぬための措置でもある。なにより、この猫の捷さならば、少々の距離は誤差であった。
 橋をふたつ渡り、旧都の外郭へ出る。かつてここが地獄であった名残、怨霊封じの内向き防壁──外郭。地霊殿の片割れであるこれは、さとりの権限の及ぶ限界でもある。「旧都」の領域は──古明地さとりの銘の下、星熊勇儀が統制してきた領域は、ここまでだ。
 猫は、走り方を変えた。道を走るのではなく、跳躍し飛ぶように進む。整備が不完全で誰が狙うとも知れぬ道を漫然と走るのは、危険だった。
 
 地霊殿を出て、半刻。木っ端共の攻撃をかわし、抜け穴をくぐり、変針を三度繰り返した後。
 この地底と、地上とをつなぐ大穴、『橋』。そこで猫は、見知った存在に出くわした。
「ついさっき、ここを通って行った気がするのだけど?」
 古くは水神信仰に端を発し、橋を外敵から護るものとして祀られ、伝承により歪み、嫉妬深いとされ、神であると同時に妖怪として語られるもの。
 緑翠の瞳が妖しく光る、緑色の目をした見えない怪物をあやつるもの。
 橋姫。
 
「流石のお前も、少しツカれているようだけど」
 橋姫が言う。猫はその通りだと一声鳴いて、しかし、と竹簡を揺らしてみせた。
 さすがの猫も、地底に降りてからこんなにも早く「穴」を登るのは初めてだった。疲労は、間違いない。いくらか、憑かれてもいるだろう。
 だが、それは問題ではない。問題ではないのだ。
 敬愛する古明地さとりが、その上司に向けて"見舞いの竹簡を放つ"。要件は不明だが、療養中の相手に竹簡。しかも、直前にひどく困惑した様相?
 ──緊急事態だろう、と、猫は見ていた。
 故に、猫はもう一声鳴く。行かねばならぬのだと。我の使命だと。

「……持って行きなさい」
 橋姫は、小さな包みをとりだす。何事かつぶやき、数秒指を押し当てると、投げてよこした。
「この橋姫の呪が、お前を護る。必要とされたまま死ぬなどと、あまりにも妬ましい」
 にゃあん。
 猫は鳴いた。今度は、礼を込めて。
 鳴いて、包みを咥えて、『橋』を天へと駆けていく。

「……妬ましい」
 信頼される古明地さとりが。
 信頼する相手のいる猫が。
 橋姫は、小さく呟いた。
『あの猫を取り巻くすべてが、妬ましい』
 古明地さとりを、地霊殿の住人たちを、首から提げた竹簡を、届け先の誰かを、駆け抜けてきたであろう街道を、踏みしめられたであろう大地を、吸われ力となったであろう空気を、食まれ血肉となったであろう糧食を、自ら与え、咥えられた包を、
「……ァぁあ!」
 ……猫を見届けた自らの緑の瞳、それすら妬む橋姫は、一つ身を震わせ、甘く恍惚とした、それでいて底冷えのする笑みを浮かべる。
 
「……早く、使われないかしら……」
 そうすれば、アレを永遠に私のものにできるのに。
 轟、と吹き抜けた風だけが、その呟きを聞いていた。



「ぅ」
 安楽椅子に身を任せ、重い頭を重力に任せ、ついでに万年筆をペン立てに任せて、さとりはゆったりとした時間をすごしている……或いは考え事をしている……ように見えた。
(……彼女と会うといつもこうなるんだから……)
 右腕で目を覆い、左手を垂らし、安楽椅子のふわふわとした挙動に顔をしかめる。
 胸の奥底に未だくすぶる吐き気、じりじりとした責めるような頭痛に、なんだかゆらゆらと不安定な意識。
 要するにさとりは、酷い二日酔いに襲われていたのであった。

 鬼という種族は、「鬼のように」という形容が出来るほど単純に強力である。そして、同時に無類の酒好きだ。
 彼らに言わせれば、生と酒を楽しめる事こそが「鬼らしさ」なのだという。強さはそもそもの前提、ということらしい。
 さとりは、この地底にやってくるまで、鬼という妖怪にして一種の神である存在を知らなかった。
 もちろんそれはヤンにもいえる。歴史に強い彼だが、そんな細かく古い部分まではさすがに知るはずもない。
 しかしヤンの記憶をもつさとりが勇儀と対面した時、彼女に覚えたのは懐かしさであった。

 ヤン・ウェンリーの周囲に変わり者が多いというのは、かの世界においてはあまりにも有名な話である。
 「伊達と酔狂」のダスティ・アッテンボロー。「エースのフォーカード」ポプラン、コーネフ、シェイクリ、ヒューズ。もちろん、「魔術師」ヤン・ウェンリー自身も変わり者であることはいうまでもない。
 その中に、ワルター・フォン・シェーンコップの名もある。
 自由惑星同盟において、その敵手である銀河帝国からの亡命者と子弟のみで構成される、精強無比の陸戦隊――「薔薇の騎士」連隊の第十三代連隊長。
 豪胆不敵な毒舌家で、女好き。不良中年と呼ばれても否定するのは中年というところのみで、ひねくれているのか真っ直ぐなのか、あるいはその両方なのかという人物である。
 基本的に白兵戦を専門とする男であるが、多くの部下を預かる連隊長であるだけあってか否か、広い視野と鋭い洞察力、そして何よりも一本の芯を備えた人間であった。
 星熊勇儀という鬼の、「粋」を体現するようなその立ち居振る舞いと豪胆不敵な思念の声は、さとりのもつヤンの記憶から、シェーンコップの姿を想起させるに十分だった。
 そうなると「旧都」在住の妖怪たちは「薔薇の騎士」連隊の隊員たちという事になってしまって、奇妙な違和感があとに残るのだが。

(しかし)
 さとりは思う。会合は成功であった。意図はともかくとして、命令として伝達された以上は遅かれ早かれ管理担当として任を果たさねばならない。
 ならば、有力者との会合は早い方がいい。判断としては単純であったし、実際これがなんらかの意志による偽報であった場合余計な面倒を引き起こす可能性もあった。
 が、ある意味、そのための「猫」の派遣でもあった――「こちらはそう聞いたから動いたのですよ」という宣言である。もっとも、九割方は単なるお見舞いなのだが。

 地底の妖怪どもは基本的にひねくれ者だらけであるが、その混沌とした様相とは裏腹に、力のある明快な秩序が存在する。
 だから、さとりはその最初期において、まず勇儀に秩序の維持を一任した。といっても、お墨付きを与えただけである。
 当時、地底が既に見せていた秩序の片鱗は、勇儀の腕力と種族によるものだった。秩序には力が必要である。既に力でありシンボルであるものを外すことほど愚かなこともない。
 力による秩序ということは、力の強いものには誰もが従うということでもある。鬼という種族はその点力には事欠かなかったし、仁義にも篤い。「曲直庁の役人がやってきて彼女の統制にお墨付きを出した」という事実は、彼女に従う妖怪たちの自尊心を満たすことにもなった。

 そして、ヤンの知識が古代ローマの例を引き出してきた。曰く、「パンとサーカス」。
 本来それは、「群衆とは食と娯楽さえあれば政治に目を向けなくなる愚かな生物である」と揶揄する表現だが、同時にさとりの赴任と施策が反対されないための最重要要件でもあった。
 さとりの欲求は、平穏無事な生活である。是非曲直庁に入ったのも地底に降りたのも恐怖を押し隠して勇儀と交渉したのも、それだけのためだ。だから極端な話、独裁的だろうがなんだろうが、自分がリンチされないことがもっとも重要だった。
 だから、さとりは商人を引き込んだ。曲直庁を通じて多方面と交渉し――竹簡をやりとりするだけの作業だったが――地上との交易を「盟約」の例外的なものとして認めさせ、地底に木材資源と食料を入れた。
 ヤンの知識は、その商人たちはきっとフェザーン人のごとく阿漕な真似をするだろうと嘯いた。或いは切り取るパイが残っているうちは別かも知れないが、それすらも微妙な所だと。
 実際の所、さとりは今も恐れている。引き込んだ商人たちがいつか調子に乗って、そういう面倒を起こすのではないかと。だからこそ気付かれない程度にいくらか策を講じたし、勇儀にもいくらかいい含めた。

 もっとも、気づいていないのは本人ばかりである――商人たちに聞けば、わかるだろう。一体誰が。この土地で、そんな間抜けなことをしようか。
 ことこの地底において、さとりは勇儀と同じ程度に恐れられているのだ。「怪力乱神」を取り込むなど、いったいどのような知謀を使えばそうなるのか!
 しかもさとりは、傍から見れば何を考えているのかさっぱりわからないような行動を取っていた。明らかに面倒な土地へわざわざやってきて、開拓でも搾取でもなく現地の原始的な統治機構にお墨付きを与えたと思えば交易を整え、しかしどこからも自らへの利益を確保していない。
 挙句、住処はかの地霊殿である。封印の屋敷、怨霊の神殿、灼熱地獄の蓋の蓋。そんなところに平気で住むような存在を、一体誰が害せようか――

 ……「あの」星熊勇儀すら、いくらか話しただけで簡単に従ったというのに?


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