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No.39088の一覧
[0] 【ネタ】【東方×銀英伝(一部)】古明地文里の優雅な日々[Rei.O](2013/12/18 16:51)
[2] 【ネタ】【東方×銀英伝(一部)】古明地文里の優雅な日々 - 2[Rei.O](2014/07/06 19:01)
[3] 【ネタ】【東方×銀英伝(一部)】古明地文里の優雅な日々 - 3[Rei.O](2015/10/04 19:49)
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[39088] 【ネタ】【東方×銀英伝(一部)】古明地文里の優雅な日々
Name: Rei.O◆79a6e000 ID:a8b439bb 次を表示する
Date: 2013/12/18 16:51
<注意書き>
・本小説は「らいとすたっふルール2004」に従い作成しています。
・本小説は「銀河英雄伝説」の一部分を「東方Project」の世界に混ぜ込んだものです。
・話の立ち位置的にはプロローグなので、尻切れ感が酷いです。また、続くかどうかは不明です。
・筆者は他サイトでも物を書いていますが、これについては他において公開しておりません。
・規約は確認しましたが、何分初投稿なので、不備ありましたらお知らせ下さると嬉しいです。
<注意書き終わり>



古明地文里の優雅な日々

 大地の奥底、かつての「地獄」の一領域。
 財政上の問題というひどく切ない理由で切り捨てられた「旧地獄」、そこを走る「旧地獄街道」、そして「旧都」の中心部。
 「地霊殿」。
 かつてこのここが地獄の一部であった頃、その場に在った「灼熱地獄」。その怨霊を鎮め封ずるべく在る屋敷。
 その奥深く、本棚と茶器と書き物机と、ちょっとした寝台がある程度の部屋に、奇妙な出で立ちの、少女のようなものがいた。
 クセのある紫の髪、白い肌、ゆったりとした袖の長い水色の服に、薄桃色のセミロングスカート。
 そして左胸に、奇妙な紐の伸びる「第三の目」。

「んん?」
 少女の姿をしたそれは、ちち、と走るノイズとともに、小さな音を聴きとった。
 尋常の音ではない。地霊殿は封印の屋敷、ある種の神殿といってよい。通常の建造物とは比較にならぬ、過剰に過ぎるほどの余裕を持って設計された建物だ。
 いざとあらば、その壁一枚一枚が物理的に防壁となる。ゆえに壁の数々には隙間一つなく、厚みも凄まじく、きちんと戸を閉めれば音はおろか、煮炊きの薫りすら通りはしない。
 それを不便とみなすそれは普段戸を少し開けていたが、しかし今日は、のんびりと書物を読み漁るべくきっちりと戸を閉め切っていたのである。
 では、何が聞こえるのか。

「……探している」
 何を? それを。
 聞こえたのは意思の声。思念の声。表層意識の声なき声。
 さとり。
 それは、世にそう称されるものである。

 かつて、古明地さとりという、一人のさとり妖怪があった。
 さとり妖怪。それは心を読む妖怪である。
 つまり、尋常の妖怪よりも酷く迫害されるものであった。
 彼女とその妹は、受けるストレスに耐え切れなかった。

 妹は心を閉ざし、心を読む第三の目を閉ざした。
 さとりにとって、第三の目を閉ざすことはそのままであらば死を意味する。もとより、物理的な力をほとんど持たぬ妖怪なのだ。
 では、姉たるさとりは?
 家族を失う恐怖に震え、受け入れられぬことに絶望し、ほとんど折れかけた「姉」の矜持を杖に歩いてたどり着いた先で、彼女は、奇妙な霊魂と出会ったのである。

 それはきっと、何かの間違いであったのだろう。

 さとりは、霊魂と対話した。
 心を読む能力がここで役に立った。霊魂とて、言葉は聞こえる。ただ発せられぬだけだ。
 しかし、さとりは言葉ならぬ意識のみで相手の想いを受け取れる。彼と対話するに不都合はなかった。

 当時のさとりは、流れ者であった。
 人々と妖怪たちの迫害に怯え、妹たるこいしがその目を閉じたことを嘆き、恐るべき未来に倦んでいた。
 ゆえに、霊魂に関して素人である彼女にもわかるほどぼろぼろでありながら、それでもなおその聡明さを失わぬその霊魂に、彼女は半ば自棄/妬けで、ただ一言告げたのだ。

 『私に、憑きませんか』



 ある男の話をしよう。

 男は商人を父に持つ、ごく普通の赤子として生まれた。
 男が5歳になった年、母は死に、男は父の船で幼少を過ごすこととなる。
 男は、歴史に惹かれた。

 15の年、父が死んだ。父は骨董の収集を好んでいたが、そのほとんどは贋物であった。
 資産を持たぬ男は、戦いの歴史とて歴史には違いないと、軍学校へと駒を進める。
 男は名誉に欲を持たず、ただ歴史に明け暮れ暮らしたいと願っていた。

 21の年、男は期せずして英雄となる。
 守るべき民を棄て逃亡を図った上司たちを囮の代わりとし、敵の包囲網から民を守って脱出を成功させたのだ。
 あるいは、ここが転換点であった。

 男は、奇功を立てた。追い詰められてものらくらかわし、ここぞというその一点を叩く。
 なにかと疎まれることも多い。命を狙われたことも一度では済まぬ。
 だが、彼には彼を慕う仲間があった。彼は仲間を救い、仲間に救われ、戦った。

 28の年には、全滅間近の味方を救う。
 29の年にはとうとう、難攻不落の要塞を落としてみせた。
 男は、「魔術師」と呼ばれた。

 男は分をわきまえていた。
 戦場に出た時、戦はそのほとんどが終わっているものだと知っていた。
 心理を読み、意図を汲んで、魔法のようにその穴を突く。
 男はそれで戦に勝てると知っていた。
 しかして、戦争には勝てぬとも知っていた。

 命を狙われ、危地を脱し、最後は仲間とともに立ち、最期まで「敵」に手を焼かせ続けた。
 男は報われぬ戦いを強いられた。しかし、その身の奥深くに仕舞い込んだ、ただひとつの信念を持って、ただひとつの種子を残し、義理の子を死なせぬために巨大な敵と戦い続けた。
 曰く――「最悪の民主政治は、最良の専制政治に優る」。

 男は、狂信者どもの襲撃に遭う。
 戦い続けた敵と、ただ一度会話するために、その場へ向かう最中のことであった。
 薬で朦朧とする意識の中左足を貫かれた彼は、敵に強要した出血を想い、遺す者たちを想い、その往く末を想いながら、ゆっくりとその命を落とした。
 齢、僅かに33。仲間たちの奮闘虚しく、「魔術師」が還ることは二度となかった。

 男、さとりが出会ったその霊魂の名を、ヤン・ウェンリーといった。



 広い廊下を、白猫が走る。
 走る猫はなにやら包みをさげていた。
 それは、布に包まれた竹簡である。
 かつて東洋において広く使われ、紙の普及とともに廃れたそれであるが、この幻想郷においては生き残っている。
 竹の入手が易く、逆に木の入手が安定しないこともある。しっかりとした紙は妖怪頼みになることもあるだろう。だが最も単純な理由は、その強度だ。
 幻想郷は結局のところ、不安定な領域である。
 書を運ぶ者が困難に直面するのは別段珍しいことでもなんでもない。妖精のいたずらに遭うこともあるし、妖怪と交戦することもある。そもそも不整地ばかりゆえ、単に転倒するというのもないとはいえない。
 つまり、最も安価かつ輸送上都合のいいものが竹簡であった。

 猫が止まる。見れば、廊下に並ぶ戸の一つが開いていた。
 顔を出したのは、さとり。
『是非曲直庁より、さとり様へと』
「ああ、ありがとう」
 そういうとさとりは腰を落とす。結び目を解き、受け取る。ひとなで。猫は一仕事終えたとばかりにしっぽを揺らし、にゃん、とひと声。
 先の思念は、この猫のそれであった。

 猫は、やはり尋常の猫ではない。
 姿形も習性も猫であることは疑いようもなく確実であったが、それにしては随分と聡明であるし、長生きである。既に20年は生きているというのに、未だそこらの若い猫以上の身体を維持し続けていた。そしてなにより、竹簡を首から提げられる程に、大きい。
 ゆえに動物でありながら、その猫はさとりの右腕として、普段からあちらこちらへ動いている。動けぬ理由だらけのさとりと違い知恵者の動物に過ぎぬこの猫は、そういう面でひどく便利な猫であった。
 名はない。名を持たぬ事こそが猫でありながら猫ならざる猫たる秘訣なのだと、猫はそう言っていた。それだけが不便だとは、さとりのこぼした愚痴である。

「なにか、あるようね?」
 その場を動かぬ猫に、さとりは言った。
『中身を御覧ください』
「大丈夫よ、ちゃんとみるわ」
『お言葉ですが、それで何度お忘れになっていたことか』
 う、とさとりが言葉に詰まる。
 痛いところをつかれたな、彼女はそう思った。
 同じ文字でも、書籍――特に歴史書のたぐいと、こういった書類ではものが違う。好きなものに意識が向くのは仕方ない、そう考えていると、猫は呆れたような感情とともに、意識下へと続きを綴る。
『なにより、重要書類だと』
「あらら、それは一大事」
 まるで人事のように言って、仕方なしに包みをひらく。竹簡の上下に施された黒白二色の縁取りは是非曲直庁公式の竹簡であると示すものだ。それ自体はいつものとおりだが、随分と小奇麗である。普段なら何度も使用され古びてどこかしら縁取りのはげているところだが、今回に限ってはどうやら新品であるらしい。
 おや、と心中に声を上げ、さとりは少し驚いた。何事かあらば二言目には経費がないとつけるようなあの曲直庁の連中が、まさかなんでもないただの連絡でこんな辺境へ新品の竹簡をよこしたと?
 嫌な予感しかしない。しないが、まさか読まぬわけにもいかぬのがこの身、宮仕えならぬ地獄仕えの辛いところ。
 からり、音を立て竹簡がひらく。
 ――辞令、古明地さとり殿。旧地獄管理担当官を命ず。
「……これは」
『さとり様?』
 さとりは、悟った。
 やられた、と。
「……やれやれ」
 仕方がない、と肩をすくめて、さとりは猫に命じた。
 とりあえず屋敷の動物たちから力のあるのを選抜し、酒樽を引っ張りだしておいてくれ、と。
「これも給料分の仕事、かぁ」



「動き?」
「旧地獄管理担当官が換わりました。警戒が要るやもしれません」
 いつかの夜、どことも知れぬ場所。閻魔と妖怪がそこにいた。
 片やこの世の罪を裁き、善となり悪を敷く是非曲直庁の閻魔。
 片やこの世の幻想を守り、その存続と維持を担う妖怪の賢者。
 さして仲がよいわけでもないこの二者が会うからには、何かが起きたということである。
「『天地の盟約』在る限り、私は地底に関われない。それを知った上で?」
「ええ」

 かつてこの二者は、本格的に仲が悪かった。
 そもそも、長命な存在と閻魔は相性がよくない。生命は基本的に生きるほど善行も罪も重ねるものであり、特にこのスキマ妖怪に限って言えば、やることがいくらなんでも大きすぎた。
 善行が罪を曳き、罪が善行を牽く。そんなものと閻魔が、理由もなしに仲良く出来るはずがない。
「旧地獄管理担当官が体調不良を理由に職を退き、そのポストに地霊殿管理官が横滑りしています」
「……あらやだ、私も歳かしら。耳がおかしくなったようですわ、もう一度言ってくださる?」
「都合のいい時だけ年寄りぶらないでください、年端もゆかぬ背格好しておいて。……古明地さとりが、旧地獄管理担当官になったといっています」
 幻想郷は結局、閻魔にとっても楽園なのだ。

 さとりという妖怪が、心を読むという極めて強い能力を持ちながら、力を持ち得なかったのはなにゆえか?
 その原因は、さとりという種族そのものの欠陥にある。
 心を読むとはいうが、実際に「読んで」いるわけではない。彼/彼女らは恒常的に「表層意識の声を聞かされている」という方がまだ正確な表現である。
 明確になにかを探すようなものならば、それが密閉された部屋の中であろうと、聞こえる。聞こえてしまう。
 ちょうど人の聴覚のようにそれらを無視したり、逆に雑多なものから拾い上げたりという能力を得るまでに、ただ聞こえ続けるというだけで、多くは耐え切れずに死ぬ。
 そしてそれを得てなお、さとりというものはその能力ゆえに、「知らない他者の行動を予測する」能力に劣るのだ。何故なら、短期的であれ、「向こうから答えがやってくる」のだから。
 敵対する、するかもしれぬ相手と、誰が会うことを喜ぼうか。ましてや、相手が心を読むと評判のさとりならば? これは「万難を排してでも」というよりは、むしろその「排すべき万難」である。
 そしてさとりは迫害された。妖怪だからと人から、危険だからと妖怪から。一部は神に庇護を求め、そして見えてしまった神の心に打ちのめされて消えていった。
 神すら、さとりを愛することは終ぞなかったのである。

「……いったい、どこかしらね。あれの勢力を広げて、一体何を企むのかしら?」
「辞令は正規の経路で出ています。あたりましたが、どうにも」
 にもかかわらず、さとりの中でも古明地さとりと、その妹こいしだけが、今の今まで生き延びている。
 しかも堂々とさとりを名乗り、是非曲直庁の財政改革の尻馬に乗って地霊殿という要衝を押さえ、地下に移り住んだ鬼と縁を結ぶ?
 聞けばこいしは読心の力を失ったというが、それすらももはや疑わしい。
 読心を失ったさとりなど、さとりではない。それは唾棄すべき弱者に過ぎず、死に体の妖怪に過ぎず、急速にその存在を薄れさせて消滅するものでしかない。
 では、なぜそれはさとりとして在り、在り続けていて、なお行動することが出来、そもそも姉に面倒を見られているのか!

 ――というのは、何も知らぬ者達から見た時の話。
 紫も映姫も、さとりが安穏以外の何も求めていないということぐらい、知っている。
 そもそもだ。地底がさとりの下に結束したとして、一体何ができようか?

「八雲紫。私は」
「みなまでいわないの」
 ゆえに、彼女らはそれを為した何者かを警戒する。
 閻魔四季映姫は、生来の生真面目な正義感から。
 賢者八雲紫は、その幻想郷に対する真摯な愛から。
 勢力間のパワーゲームで、犠牲者が出ることなど許せはしない。
 それゆえ、むしろ庇護すべき対象の一人であるさとりがそんなものに巻き込まれようとしているとあらば、警戒するほかないのだ。

「では」
「ええ。こちらでも網は張ります。でも期待はしないで頂戴」
 あなた同様、私も最近忙しいの。紫はそういって、その口元を扇子に隠した。



 さて。
 かつて、古明地さとりが現世に絶望し、ほかのさとりたち同様に自らを失おうとしていた時。出会った霊魂は、もはや消え去らんとしているところであった。無理からぬことである。
 まずもって、死に方が良くなかった。宇宙の只中で、出血多量により徐々に死に至るなど、その時点でかなりの負荷である。
 そうでなくとも、このヤン・ウェンリーという一人の優秀な提督には、随分と負担がかかっていた。彼自身はのらりくらりとかわしているつもりであり、周囲もそうしていると見ていたが、それでも彼のなすべきことは多く、そのどれも大変な労力を要することはいうまでもない。
 そしてそもそも、死した魂という枠でありながら、世界を超えてしまったこと。彼の世界にいうヴァルハラへ逝けなかった時点において、その魂が真っ当に還ることなどありえない。そして魂というやつは、聖書が教えるほど頑強ではない――。

 ゆえにその魂は、さとりへ完全に同化した。
 あの歴史と平和と怠惰を愛し、民主制とひとりの養子、妻と友人たちを守るために戦った若き提督の知恵も記憶も喜怒哀楽もなにもかも──愛という感情すらも、さとりは受け取ってしまったのだ。
 ヤン・ウェンリーという個は、喪われた。古明地さとりという個も、完全なものはもはやそこになかった。
 そこに在るのは、そのどちらでもある存在。

 ヤンの知と精神力はさとりのもつ欠陥を埋めた。
 声なき声を時に受け止め、時に無視し、時に頭を掻いてごまかして、そしてその心情を汲み取って、先を見据えた策を打つ。ヤンの得意分野である。
 そもそもさとりが是非曲直庁に入り込んだのは、その知によるところが大きい。
 是非曲直庁はつまるところ裁判所と刑務所の運営団体であり、相手がさとりであろうとなんだろうと公平に扱う。それどころか、それまで嫌われ迫害された分同情的ですらあった。まずそれだけで、入り込む価値が十二分にあった。
 もとより、さとりは事務仕事の類を苦にしない。自らの先が長いことも知っている。ならば、寄らば大樹の陰である。是非曲直庁という大樹を頼るのに、少々の労を惜しむ理由はなかった。

 財政改革の間隙を縫って地霊殿管理官の職を掠め取ったのは、さとりの読心能力がうまく働いた結果だった。そのまま切り捨てるのはいくらなんでも無責任が過ぎると騒ぐ反主流の一派につき、自らその処理役に名乗りを上げることで、地霊殿への永住権を手に入れた。
 幹から離れれば、面倒な権力闘争に巻き込まれることも少なくなる。何をためらうことがあろうか。

 旧地獄の妖怪たちとうまく住み分けてみせたのは、宇宙艦隊の変わり者やあらくれものを扱ったという経験が背後にあった。
 幸運なことに、流入した妖怪たちの中には、原始的ながら力をもとにした秩序が生まれていた。
 そういった手合には最初から意図も何も全て吐いてしまったほうがいいと記憶から引き出したさとりは、うまくその協力を得ることに成功する。

 結果として、妹を世話しつつ時折いくらかの竹簡を送り、それ以外は概ね読書に励む生活という天国がさとりのものとなったのである。

「……だったんだけどなぁ」
 しかし、ここで辞令である。
 命令なら致し方ない。だが、旧地獄管理担当職がいきなり回ってくるというのは、いくらなんでも無茶だった。
 繰り返しになるが、この地底、旧地獄というところは、その名の通りかつては地獄であった領域である。財政上の問題というひどく切ない理由で切り捨てられた部分だ。
 旧地獄管理担当の職には、曲直庁から事務方のひとりがついていた。他との兼業で忙しく、基本的にはさとりと曲直庁本庁の窓口役兼監視役でしかなかったが、人情にはそれなりに篤く、ずいぶんとさとりによくしてくれた。
 この職が回ってきたのは、その事務官が病気療養に入るからだという。
 過労であった。ある日突如倒れ、療養を要すると判断されたらしい。彼は少々真面目過ぎるし、抱え込みすぎたのだろうと、さとりは悲しみはしても驚きはしなかった。
 気づけば猫は、命じた酒樽の準備を終えている。ちょうどいい、さとりはそうつぶやいて、したためた竹簡が乾いたことを確認した。
「忙しくてすまないが、これを『先輩』に」
 曲直庁に問えば、療養はどこでしているのかぐらいは聞き取れるでしょう。そういって、さとりは猫の首に包みをさげた。
 さとりは、その職責と様々な法の制約で、地下から動けない。恩人の見舞いにもいけないのだ。
『……承りました』
「悪いわね」
『いえ。それよりも、ほどほどになさいますよう』
 猫は走り去る。はて、ほどほどにとは酒のことであろうか、と、さとりは首を傾げた。
「しかし、本庁は大丈夫かしら?」
 あの有能な「先輩」が倒れるなんて、事務方が大変なことになっているんじゃなかろうか。あそこはそれこそイゼルローン並に忙しいのだから。
 面倒がなければいいが、さとりはそう考えて、いや、今はそれよりもすべきことがあったなと、待機する動物たちの方へ足を向けた。


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