S-1 戦艦オルクス艦橋「最終進路調整完了、タッチダウンまで後10秒です。」超空間航法中のゲドー社A級戦艦オルクスの第一主艦橋にオペレータの柔らかな声が流れた。「しけた星だな」最新版の分厚い銀河ローカル観光ガイドをめくっていた艦長のアバルト・ハウザーが手を止めた。「たったの半ページ、星系全部でも1ページも使ってない。」「載っているだけマシな方でしょう。」参謀副官のデモの場の応答は、いつもながらに冷たい。「マシとはいえ50年以上前のデータだぞこんなものあってもなくても同じではないか」「目標ポイントにタッチダウンします。」S-2 北米防空司令部 司令室アメリカ合衆国コロラド・スプリングスにそびえる、海抜2850メートルのシャイアン山の岩盤をそのままくりぬいて作られた、巨大な防空基地が存在する。北米防空司令部、NORAD ベータとの全面戦争を想定し、アメリカ以外の国全てが滅んでもベータとの戦争を続行するために機能するこの基地は、1973年の中国新疆ウイグル自治区喀什にBETAの着陸ユニットが降下した際以来の最大の騒ぎを起こしていた。「衛星軌道上に全長十キロの物体が突然出現しただと!?」北米防空司令部司令長官、国連宇宙軍大将ジョージ・マッキンタイヤーは、最初の報告を受けて以来、もう何度目になるかわからないほど同じ叫びを繰り返していた。「そんなことがありうるはずがない、喀什に降りたベータの着陸ユニットですら、1kmも ないのだぞ、そんなものあるはずがない!!」 地球に降下するベータの着陸ユニットに先制核攻撃を行うためにNORADでは、地球上全ての衛星軌道上及び月軌道までの物体と100m以上の地球と軌道が重なる物体を常時監視していた。深宇宙探知追跡システムと呼ばれるこの探査システムのうち、衛星軌道上に向けられた大型のレーダの幾つかが、その異常をNORADに伝えてきたのはつい5分ほど前、グリニッジ標準時で深夜11時過ぎ、現地であるコロラド・スプリングスではまだ午後3時をわずかに上回ったところだった。「すでに各所のレーダーがその存在を確認しております。」伝令の報告を訊くまでもなく、マッキンタイヤー将軍は、各地のレーダ群からくるデータがその存在の実在を示していることがわかっていた。指令センター中央の大型ディスプレイには集められた情報が集積され表示されていた。「長形10km、短形1.8lm 推定重量 8億トン以上だと・・・」将軍は、完璧な空調がなされているはずの司令室で汗を拭った。「あんなものが降下してきたらもう終わりだ」S-3 横浜基地 副司令私室「緊急のこととはいえ、早朝早くに女性の私室に勝手に入って申し訳ない。」どう聞いても申し訳ない感じが一切しない口調で突然鎧課長が部屋に入ってきた。「要件を言いなさい!」「つい先程全長10kmほどの巨大な物体が軌道上に出現してきたそうです。」横浜の魔女と言われる香月副司令ですら絶望に潰されそうになっていた。以下続かないかも