ぼーっと眼下の街を見下ろす、周囲の喧騒など耳に入らない。というか気が付けば私は私になっていた、うん何言ってるか分かんないって? 当然だ私にも分からない、窓ガラスに映る私を見る。小さい、ポニーテール、ずーんと沈む私を呼ぶクラスメイトの声。
「――光もそう思うでしょ」
「何でよっ!?」
「えっ」
戸惑うクラスメイトは無視だ、落ち着け私。冷静に冷静に、まず私の名は獅堂光。いや待て、それ何処の魔法少女もとい魔法騎士だ。本来の光はどうなったのか……それも気になるけどこの私がセフィーロに招喚されたとして魔神を使役できるのか?
心の強さ、想いでレイアースに認められ――るわけないですよねー。あれは本来の光だからあそこまで海と風を想いレイアースに認められた、つまり中の人が違う私じゃどう足掻いても絶望。詰んだ。
東京タワーから見上げる太陽が眩しい、何でこうなったのかな。あれか、こうなる前にスーパーファミコンで魔法騎士レイアースをプレイしていたからか。そんなアホな。現実を見ろ、私は此処にいる。エメロード姫の呼び掛けが聞こえませんように! と電波を飛ば……もとい祈る。
届け、届いて、届きなさい!
『この世界を助けて、伝説の魔法騎士たちよ!』
……。
…………。
届きませんでしたー。
カッと光ってパアアァァとなってコボッと足元から水みたいなものが身体中を包み込む、普通なら混乱する出来事だが諦めの気持ちで受け入れる。エメロード姫を呪う。ふと周囲を見渡すと同じ現象に悲鳴をあげている眼鏡の少女にお嬢様。風と海だ、彼女達にどう説明したらいいのやら。原作の光は天真爛漫で明るい少女だったけど私は違うからねー、うん原作?
そう言えばこの世界は原作なんだろうか、アニメなのか。どちらも展開が違う、これは重要な問題だ。まあ私が光になったことからして変わるんだろうけど、確かめるのはあの二人に聞こう。今は1993年か1994年のどっちですかと、前者なら原作で後者ならアニメだ。どっちでもいいんだけど原作じゃあ後味悪いんだよね、むしろバットエンドっぽい。第一部として見るなら。
何しろエメロード姫を殺すために光達を招喚、まだ思春期の少女達にやりきれない思いを残す。最後は三人が泣きながら終わった、リアルタイムで読んだ私もちょっ……となった。あんな結末は御免だ、決めた。私が風と海の心を傷つけないように立ち回ろう、大丈夫。無敵の呪文を思い出す、絶対大丈夫。私の勝利条件は、セフィーロに招喚されたら姫を倒せ!
って意気込む前に落ちるうぅぅっ、パラシュートなしのスカイダイビングは命がけ。助かると分かっていても気分は最悪、早く助けに来てよぉぉっ。
ツルツルした感触に下を見る、バサッと翼を広げる魚。風が大きな飛び魚のようですねと感心しているけどそんな飛び魚日本じゃあいませんから。世界中どこを探してもいるはずがない、流石ファンタジーな世界。
そんな様子を男は見ていた、空から現れ落下する少女達が水鏡に映る。伝説どおり否原作どおりだ、ボスらしく呟こう。
「魔法騎士キターー!」
間違えた。
「ふっ最後の力で伝説の魔法騎士を東京タワーから呼んだか」
微妙に違うがよしとしよう、神官ザガードは頭を抱える。ヤベーマジで来ちゃったよ魔法騎士。このままじゃ俺死ぬ、不味い。今のザガードを三行で表すならこんな感じ。
ある日城の中。
気がついたら。
ザガードになっていたよ。
「ふざけんなぁぁっ!」
叫んでみる、そうしたところで現実は変わらない。こうして彼と彼女の魔法騎士レイアースが始まる、果たして光は魔神に認められるのか、ザガードは死亡する未来を変えられるのか。
「……さて私の願いは今度こそ叶えられるのでしょうか」
悲しみの表情で呟くエメロード姫が全てを知っているかもしれない。