私メディア、古代ギリシャの普通の女の子。でも本当は神様の血をひいているコルキス王国のお姫様なんだ♪
迫りくる不幸フラグにビクビクしていたあの日の私はもういないの。身体は女の子、魂は中年オヤヂ、君のハートを狙い撃ちしちゃうぞ!
魔法少女クリーミー☆メディア、始まります♪
「ここがエーゲ海ですか」
「ああ、世界で最も美しい海だ」
コルキスを出発したアルゴナウタイ一行は一路イオルコスに向けて舵を取った。
英雄伝説においては私の義弟であるアプシュルトス(ショタ)を惨殺したことに怒ったゼウスが嵐を起こし、元来た航路で帰れなくなってしまうのだけれど、
この世界では私の介入によってそのような事は起こらず、アルゴー船は何の障害もなくボスポラス海峡を通過することが出来た。
そうして父王に無断でアルゴー船に乗り込んだ私は、曖昧な政治的答弁によりイアソン達にあたかも神託によって引き続き同行したかのように思い込ませ、こうしてアタランテの横顔をニマニマ眺める簡単なお仕事を続行している訳である。
いえいえ、もちろんそれだけでなく、アタランテに弓の引き方を教えてもらったり、オルフェウスに竪琴を習ったり、医術の天才であるアスクレピオスに薬学や医術について教授してもらうなど、やることはちゃんとやってますよ。
これだけの著名人と交流できるのだから、交流できるときにしとかないと損なのです。
「空が広い。まるで天国みたいですね」
透明度の高い、澄み切った美しい青い海。
右手には灌木と石灰岩の岩の丘が連なる荒涼としたギリシャ本土、テッサリアの大地が広がり、強い日差しと無数の群島によって浮き上がるコントラストは目を見張るものがある。
そうした要素のおかげか空は貫けるように蒼く、そして実際以上に広大に感じる事が出来た。
私の第二の故郷であるカフカス山脈の麓のコルキス王国や、あるいは記憶の中の東の果てのコンクリートに包囲された都市においては空は小さく切り取られ、日差しはここまで強烈ではなかったから、これほどまでに広い空を体感することは出来なかったのだ。
「だが、森が少ない」
「アタランテの故郷はアルカディアでしたね」
「ああ、緑豊かな国だ」
アルカディアは楽園という意味でも使われるが、実在する土地であり、ギリシャのペロポネソス半島の高原地帯を指す。
基本的に農耕に適さない山岳地帯であり、そこに住む人々は牧畜や狩猟などで生計を立てているらしい。山岳地帯に隔てられた高原は人の手が入りにくく、多くの森林が残されているのだろう。
アタランテが語る幻想的なアルカディアは、様々な山の幸や鹿などの動物たちに溢れ、山谷や川、泉では妖精たちが踊るというもので、まあこの辺りの事情はコルキスと変わらなかったりする。
山がちなのはどちらも変わらないからで、違うのは植生ぐらいらしい。
とはいえコルキスはカフカス山脈に囲まれているので土地によってかなり気候が違ったりする。
王都や黒海沿岸のファシスなどはギリシャに似て冬に多雨だが、ギリシャほど乾燥することはなく年間を通じて降水量はそれなりで、暑くもない。
ただし冬は降雪がほとんどないものの、結構温度が下がる。
「この旅が終わった後、アタランテはどうするんですか?」
「故郷に帰る。吾は常に森と共にあるべきだと信じているからな」
「アルカディアですか。訪ねて行っても良いですか?」
「歓迎しよう。森の者たちにもメディアを紹介したい」
「ああ、クマさんですね分かります」
そうして船は出航した街であるイオルコスに到着する。ギリシャの都市ということで、石灰岩でできた壮麗な神殿などの建築物を想像するが、
まあ、パルテノン神殿のような形式はまだ完成されていなかったらしく、石灰岩のブロックを積み上げた分厚い壁に囲まれた、あまり洗練されていない箱型の石造りの建物が密集している様子だった。
とはいえその切り石は大きく立派で、都市建設にはかなりの人手と技術が投入されたことも伺える。
都市と言っても1~2万人程度が居住する程度の規模であり、21世紀の日本を知るものからすれば小ぢんまりとしたものだ。まあ、コルキスといい勝負といったところだろう。
船は石灰岩などで舗装された埠頭に近づく。幾つかの船が行き交い、漁船も出入りしている。
この時期の富裕層は豚肉や獣肉、野鳥の肉を好んで食し、魚をほとんど食べなかったが、野生動物の数が少なくなったことで庶民は魚を主に食べるようになっている。
そして主要な調味料はオリーブオイルと魚醤だ。
魚醤はガロスと呼ばれていて、青魚を塩水に漬けて発酵させ、この上澄みを掬ったものを利用する。
古代ローマではガルムと呼ばれ盛んに製造されたが、ローマ帝国滅亡に伴い製法は失われ、新大陸の産物であるトマトによって地中海における旨み調味料としての魚醤はほぼ駆逐されることになる。
港には多くの人たちが集まって、この時代においてはかなり大きいと言えるアルゴー船を指さし、手を振って来た。
イアソンがそれら市民に対して爽やかな笑顔で(白い歯を輝かせて)手を振り返し、帰って来たぞと叫ぶ。
コルキス王国よりも軽装な服を身に纏う市民たちは、王が彼に課した試練を知っているようで、彼がそれを果たした事を理解し歓声を上げていた。
「これであの男がこの国の王となるのか」
「さてどうでしょうか?」
「メディア?」
「人間の保身とか権力への執着というのは厄介なものなんですよ」
「理解しがたい」
「縄場あり争いみたいなものです」
「…何か良くない事でも起きるのか?」
「最悪、少し血生臭い結果になりそうです。警戒しておいた方がいいかもしれませんね」
そんな事をアタランテと話している内に、船は接岸する。歓声と共に船は迎えられ、イアソンは従弟であるアカストスと共にイオルコスに凱旋する。
アカストスは今回の冒険の発端となったペリアスの息子だ。ペリアスはイオルコスの王アイソン、つまりイアソンの父から王位を簒奪したイアソンの叔父である。
つまりアカストスは簒奪者ペリアスの息子で、本来は敵対関係になるのだが、見る限りそこまで仲が悪いとは思えず、むしろイアソンの父アイソンから王位を奪った父親を嫌っているようにも思える。
彼はアイソンの子イアソンによる王権復活に賛同する発言をしばしば口にしていた。つーか、アイソンとかイアソンとか名前が似ていて紛らわしいな。
「何をしている二人とも、早く降りてこないか!」
「ええ、今降ります。ではアタランテ、行きましょうか」
「…イアソンには今の事は伝えないのか?」
「正直、そういうのに巻き込まれたくないです」
そうして波乱が訪れた。ペリアスが監禁していたイアソンの父と母、そして幼い兄弟たち二人を殺したことが伝わってきたのだ。
ペリアスはイアソンが二度と帰ってこないものだと信じ込んでおり、王権はゆるぎなく、すなわち人質であったイアソンの父母も不要と判断したのだろう。
「おのれペリアスっ、殺してやる!!」
「お、落ち着いてくれイアソン! これは何かの間違いだ!」
激昂するイアソンをアカストスが宥めようとする。この酷い裏切りに対してアルゴナウタイの面々も怒りを共有するが、しかし相手は苦楽を共にしてきたアカストスの父親でもある。
このためアルゴナウタイの内部で意見が対立し始めたのだ。つまり、イアソンの味方をしてその復讐に手を貸すか、あるいはアカストスに同情して暴力による解決を見送るかだ。
「まあ、正直なところ私にはどうでもいいんですが」
「だが、あのペリアスという男は何らかの形で罪を贖う必要があるだろう」
「アタランテはイアソンに味方するんですか?」
「イアソンが蜂起するなら。ここまで付き合ったのだ。最後までこの船の行く末と共にありたい」
「そですか」
アタランテはそのように話すも、私としてはどう転んでも正直どーでもいいし、ここで何かをして恨みを買うのも好ましくない。
とりあえず話し合いは市民たちが開いた夜宴の後に持ち越されることになる。とりあえず、長旅を終えた肉食系男子たちは酒と新鮮な肉や野菜を使った料理を所望していたからだ。
イオルコスにおいて私たちは有力者の大きな屋敷に案内され、そこで宴でもてなされることになった。
二階建ての建物はやはり矩形で、メガロンと呼ばれる形式を基にしたエントランスと前室と主室の三つが続く部屋の配置となっている。
梁は木材で出来ていて、後世で多用されるアーチ構造はほとんど見られない。壁は漆喰のようなもので塗られているが、実態は日干し煉瓦で出来ていて、外壁の重厚な石材とは違って脆いと思われる。
まあ、好き好んで壊そうとは思わないが、形式上、窓を広くとることが出来ないために内部は昼間でも暗い。
とないえ、そんなのはコルキスの私が住んでいた屋敷は石材を多用した宮殿だったからそう思うだけで、この世界の標準的な家屋というものは日干し煉瓦か木材で造られているはずだ。
焼成した煉瓦は雨水からの日干し煉瓦の保護に使われるぐらいじゃないだろうか。
「うまうま」
「メディア、ギリシアの料理はどうだ?」
「魚料理が多いですね」
「そういえば、コルキスでは魚料理が供されなかったな」
「そうなんですよね。漁はしてるはずなんですが」
ギリシャの料理は魚醤が少し臭いけれど、魚料理が結構おいしい。コルキスではほとんど魚が食卓に上ることはあまり無い。
黒海というのが基本的に海流が少なくて漁に不向きというのもある。とはいえイワシなども良く取れて、漁業が行なわれていないわけではないのだけれど。
コルキスや、おそらくはこのギリシアでもそうだろうが、特に王族ともなれば魚を食べる機会は少なくなる。
この時代の人間にとっては獣肉、猪や牛や鹿、あるいは野鳥や羊、山羊の肉が重要とされていて、かつては魚類などは貧乏な人が食べるものと認識されていた。
まあ、土地開発が進むと野生の獣が少なくなって、そうも言っていられなくなったらしいのだが。
私は魚好きですよ。刺身とかは特にどうでもいいですけど、この時代の肉っていうのは品種改良も未熟で、また冷蔵・冷凍技術が未発達なせいで熟成期間が取れず、なんというか硬いのだ。
また胡椒もほとんどないので、肉の臭みを取るにはハーブを使うしかない。ローズマリーやセージ,
マジョラムなどが用いられるが、クローブやナツメグは入ってこない。
インドや東南アジア原産のスパイスはまず入ってこないと思っていい。
そして、この時代においては何故中世において胡椒が黄金と同じ重量で取引されたかを嫌というほど思い知る事が出来るのだ。
つまり、魚料理は柔らかくて食べやすいのです。と言いつつ、野鳥に引き割の麦や香草を詰めて焼き上げたローストを頂く。マスタードが合う。
「しかし、相変わらず男どもはすごいですねぇ」
「姫君には刺激が強すぎるか?」
「いえ、楽しいです。こんなに騒がしい食事は初めてですから」
英雄たちの食事は戦争である。奪う。奪い合う。
古代ギリシアにおいては食事の際に酒を一緒に飲むことは無い。宴はたいてい二部構成になっていて、まずは食い、そして第二部で酒を飲むのだ。
また、酔っぱらうということを重視しないというか忌避するため、快楽は自然と大食に集中する。
私は魔法でズルをして自分とアタランテの取り分を確保する。ヘラクレスと白兵戦ができるような連中に揉まれて食事するなんて、か弱いお姫様には不可能なのである。
全く、これだから未開の蛮族は困る。そうして食事が終わり、酒を供する宴の後半へと移っていく。
「甘~い」
「そういえば、コルキスではワインをストレートで飲んでいたな」
「美味しかったでしょう? コルキスのワインは特別なんです。ストレートで飲んでも発狂しませんよ」
この時代の古代ギリシャ・ローマ人たちはワインをストレートで飲むことを野蛮だと考えていた。というか、そのまま原酒を飲むと発狂すると信じている。
一方、コルキスはメソポタミア文明圏の影響を色濃く受けるため、微妙に習慣が違ったりする。
とはいえ、この時代の醸造技術はそれほど発達しておらず、アルコール度数の高いワインを醸造することは無いようだ。
この時代の一般的なワインはかなり甘く、さらに蜂蜜やミント、シナモン、干し葡萄や杜松の実が添加されている。そして、必ず水で割っていた。最低でも一対一、水が3にワインが2というのも一般的だ。
要は、ジュースなのである。
「アルゴナウタイたちは酷く酔っていたようだが?」
「度数高いですからね」
ワインの醸造に手を染めたのは出来心である。
道楽の1つとして認識されていたようだが、樽での醸造とか、ガラス瓶とコルク栓の導入とかをして、数年ほど実験を繰り返したところそれなりのものが出来た。
まだまだ歩留りとか味なんかが不安定なのだけれど、そのあたりは要研究といったところか。
「で、出来上がったワインを父様が気に入られて、外国の方にも振る舞われるようになったんです」
「メディアは変わっているな」
「ええ、ええ、皆から良くそう言われますとも」
昔から変人と言われ続けてきた。前世でも学校の変わってる奴ランキングの上位常連だった。解せぬ。
そんな話をしながら蜂蜜入り水割りワインを飲みつつ、蜂蜜のケーキを食する。この時代、甘味と言えば蜂蜜のことである。
サトウキビははるか東方の島国原産で、甜菜はまだ品種改良されておらず今はまだただの大根である。あれを実用化しようと思えば100年ぐらいかかると思うのだけれど。
「だから俺は今すぐ叔父上を市民の前に引きずり出して、罪を告白させるべきなのだと!」
「だがペリアス王はアカストスの父親なのだろう。もっと穏便にできないのか?」
「穏便にだと? あの男は簒奪者なのだろう? 殺してしまえばいい!」
男たちが喧々諤々の議論を白熱させている。アルコールが回って舌が良く回るようになったらしい。アルゴナウタイたちは今後の行動方針を巡って熱論を交わし、そしてワインをがぶ飲みしていた。
私とアタランテは蚊帳の外である。ずっとこのまま蚊帳の外でいたい。
そんな騒いでいる面々の中で、渦中の人であるアカストスが苦悩の表情で一人俯いていた。辛気臭い男であるが、まあ実の父が殺されるかどうかの瀬戸際なのだから仕方がないだろう。
と、この時、偶然にもアカストスと目が合ってしまった。まるで雨に濡れた仔犬のような目で私を見てくる、ええい、こちらを見るな!
「すまない、メディア殿」
「あー、アカストス様、大変ですね」
藁にでも縋るような思いというのは、目の前の覇気のない男の事を指すのだろう。面倒事に巻き込まれた感がひしひしと。
気の利く一部の男たちはチラチラとこちらを伺うが、それだけで何もしない。地雷原に自ら突撃するバカはいないのだ。
「私はどうすればいいのだろう? 父の非道は許せない。しかし、父が殺されればと思うと途端に胸が苦しくなるのだ。妹たちもまだ幼い。ああ、私はどうすれば!」
知るか。そんな話を一国の王女の前に持ってくるんじゃあない。とはいうものの、アカストスは期待に満ちた瞳で私を見つめてくる。
何故私に頼るのか。その辺りを問い詰めてみると、
「ギリシャきっての魔法使いにして、女神ヘカテーの神託を受ける巫女である貴女です。きっと良い知恵を下さるに違いない」
何その過剰評価。全然嬉しくないんですけど。
とはいえ、何故か妙な注目を浴びてしまい、アルゴナウタイの面々が私の一挙一動に注目するように白熱した議論を中断して私とアカストスに視線を集中させている。
何か言わないといけないような、そんな無言の圧力。この時ばかりは空気を読む日本人的豆腐メンタリティーを深く恨むのである。
「あー、これはあくまで一般論で、決して私個人の意見ではないのですが、思うにイアソン様の側に貴方いれば大義は立つんじゃないですかね? ペリアス様については追放と共に、デルフォイで神託を受けさせて、どうすれば罪を贖えるのか、試練を課すというのは? 王位についてはイアソン様に譲り、財産についてはある程度の保証を求めてはいかがでしょう?」
「な、なるほど!」
「いえ、私個人の意見ではなく…」
「どうだイアソン!」
「…ふん、ここはメディア姫の顔に免じて、その方法でいってみようか」
「感謝するイアソン!」
「ですから、これはあくまでも一般論であり、議論のたたき台の1つとしてですねぇ…」
「メディア殿、感謝いたします!」
「あー、ははは……ははは、はぁ…」
話を聞けこのタコ野郎ども。
◆
「アカストスめ。我が息子だというのにイアソンなんぞの肩を持ちおって…」
ペリアスは居室から息子が出ていくと眉を顰めて吐き捨てるように呟いた。
そうして四本のミノス式の柱に囲まれた炉床の、王権を保証する絶える事のない聖なる炎を眺めながら奴隷が差し出した無花果の実を頬張る。
彼は息子であるアカストスが、自分から王位を奪う人間を応援することが理解できなかった。
「王よ、如何なさるおつもりですか?」
「このワシが大人しく王位を明け渡すと思ったか?」
「いえ、しかし、イアソンは王の要求に応え、金羊毛を持ち帰っております。金羊毛を持ち帰れば王位を譲るという約束は王自身がなされ、もしこれを違えばアルゴナウタイたちを敵に回してしまうでしょう。彼らは50人ほどとはいえ相手はギリシャでも名うての英雄たち。かのヘラクレスを欠くにしても、我々では抑え切れるか…」
家臣の一人はそう言って不安がる。アルゴナウタイに参加した勇士たちはギリシャでも名だたる英雄たちで、しかも神の血をひく半神と呼ばれる者たちが大半だ。
ペリアス自身も海神ポセイドンの息子であるが、アルゴナウタイにもエウペモスとエルギノスというポセイドンの息子が参加している。
他にも神の血を濃く引いていないものの、ミノスのミノタウロスを退治したことで大英雄として名を響かせるアテナイの王テセウスなどは大物といえる。
またデュオスクロイ(ゼウスの息子たち)として名高く、後に双子座のルーツとなったスパルタの王子カストルとポリュデウケス兄弟。
戦神アレスや伝令神ヘルメス、光神アポロン、豊穣神デュオニュソスといったオリュンポス十二神の子ら、太陽神ヘリオスや風神ボレアスの子もいる。
神の直接の子ではなくとも、槍投げの名手であるカリュドンの王子メレアグロス、弓の名手ポイアス、ギリシャきっての演奏者オルフェウス、医神アスクレピオスなども参加している。
どいつもこいつもギリシャきっての名家の出の者や、あるいは神の血をひく貴種だ。
後世においては自らの一族や祖先を権威づけしたり、あるいは異民族の出でありながらギリシャとの関わりを主張するために捏造された神話とされていたが、この世界ではリアルに神の血をひく者がいた。
ギリシャの神様まじ好色。自重しろ。
「お父様、兄上がお帰りになりました」
「おお、ペイシディケか」
「いつもは喧嘩ばかりだったのに、お兄様ったらすごく上機嫌でしたわ。今回の冒険で何か思うところがおありになったのかしら?」
ペリアスの娘、ペイシディケが特に悪意も邪気もなくそんなことを口にする。
ペリアスにはアカストスという嫡男の他に、アルケスティス、ペイシディケ、ペロペイア、ヒッポトエ、メドゥセという5人の娘を妻アナクシビアとの間にもうけていた。
彼は欲深い簒奪者であったが、彼なりに家族を愛してもいたのだ。
愛おしい娘の相手を一通りした後、ペイシディケを王の居室から出す。娘を前に垂れ下がっていた優しげな眼は、再び厳しいものに変わり、そうして再び聖火を見据えた。
「十二の試練を乗り越えし大英雄が欠けた彼らなぞ恐るるに値せん。良い機会だ。奴らを王宮に集め、一網打尽にしてくれよう」
「しかし、アカストス様はいかがなさいますか?」
「あいつは現実というものをもう少し知るべきだ。アカストス自身の手でイアソンを殺させよう。そうすればアカストスも目を醒ますだろう。はっはっはっは」
◆
「なーんて風に企んでるんじゃないですかね」
分かり易いまでの悪役である。だけど、セコイ。悪役ならばもっと壮大に、ゲスっぽくしないと。
「やはり、君もそう思うのか」
「それで、どうなされるのですか?」
「ふっ、罠ならば内側から食い破ってやるだけだ。メディア姫、君の魔術にも期待している」
「なるほ…、え?」
アカストスが王宮に向かった後、イアソンらが私を囲んでこの後どのようになるか意見を聞いてきた。
もちろん私と彼らの意見は一致しており、つまりイアソンの両親を何の良心の呵責無しに謀殺したペリアスが約束を果たすなど信じる者はいなかったのだ。
ていうか、私、何の関係もないんですけど、なんで参加する流れになってるんでしょうかね?
「あの、私、行きませんよ?」
「皆、ここでペリアスの思いのままにさせては、我々の苦難に満ちた旅の栄光が全て水泡に帰してしまうだろう。これ以上、あの男の暴挙を許すわけにはいかない! 奴が何をしでかそうと、我々に何をしようとしているかは、それはメディア姫の語った通りだ!」
「そうだそうだ。ここで何もしなければ、死んでいったイドモンやティピスたちも浮かばれない!」
「神聖な契約を破ろうとするペリアスには相応の罰を与えねば!」
イドモンは予言者として知られており、アルゴー船での冒険の途中で命を落とすことを知りながらも冒険に参加し、冒険の途中で猪の牙に突かれて死んでしまった。
ティピスはアルゴー船の舵取りを任された勇士だが、急病にかかって死んでしまったらしい。
いや、そんなことはどーでもいいんです。私、関わらないですからね!
「あの、ですから私は…」
「安心してくださいメディア姫、卑怯者たちに貴女には指一本触れさせない」
「おい、アカストスが帰って来たぞ!」
「どうやらペリアス王が俺たちを王宮に招待しているらしい」
「罠だな。いいだろう、さあ、皆、戦の準備だ。メディア姫も備えてください」
「えー…、私、女の子なんですけどー」
そんな風にぼやく私の肩に手を置くアタランテ。その表情は諦めろと言うのもので、首を横に振っていた。何故だ。
そうして私はなし崩し的に戦いの用意をすることになる。まあ、相手は普通の兵士だろうということなので、そこまで身構える必要はないが、それでもこの時代の戦士というのは侮れないものがある。
例えば短距離走など、現代社会のオリンピック選手クラスというか、それ以上の連中がゴロゴロいるし、というかアタランテは世界レコード保持者である。
腕力については、ヘラクレスのそれを見ればよく分かる。巨人と白兵戦する時点で奴は規格外なのだけれど。
ということで、この世界の一般兵は強さ5倍増しと考えた方がいい。すなわちデストロンの戦闘員と同等である。
そしてヘラクレスとかはライダーである。ヒュドラとかドラゴンなどは怪人とかそれ以上、ギガースなどの巨人とかに至ってはウルトラマンに出てくる怪獣のようなものだ。
…戦闘力を数値とかで表現しようとするのはなんと不毛なのか。
まあ、そういうわけで、そんな所にか弱い乙女、ヒーローショウなどで悪の怪人に人質に取られて「助けてー」とか優雅に叫ぶのが最も適した配役である私を、彼らは戦場のど真ん中に連れて行こうとするのだ。
鬼畜である。ドナドナである。人間のすることじゃない。お前らの血は何色だ。あ、こいつら神様の血引いてるや。ギリシャの神様なら、ちょっとは納得。
そうして私は泣く泣く戦闘準備を行う。というか、そもそも後衛な私は前線で戦うタイプではないのだ。
前衛を囮にして、姿を隠して、逃げ回りながらデバフとかスリップでちまちま削っていくのが趣味なのである。
毒とか好きですよ。世界最初の毒による暗殺はアッシリアの女王様によるものですがね。
「では、皆、覚悟はいいか?」
「「「「おお!」」」」
「やだー」
そうして準備が整い、イアソンの号令の下、私たちは王宮への階段を上っていく。警戒されないように、武具は最小限に、しかし、己の得物を携えて私たちは王宮に向かう。
守りの要は私のようで、なんというかプリーストな気分。戦士が大半、弓兵が一部、吟遊詩人が一人、医者一人、神官一人。これはバランスがいいのか?
王宮は典型的な古代ミケーネ文明のステレオタイプであるメガロンと呼ばれる建築様式だが、王宮は他の建物とは違い二階建て。
漆喰や大理石で飾られるものの、基本的な構造は日干し煉瓦で造られていて、本質的に地震に弱い。
王宮の前には衛兵が立っていて、そしてエントランスには黄金の冠を頂いた男が私たちを見下ろしていた。
「おお、イアソン。よくぞ無事に戻って来たな」
「叔父上、約束通りかつてプリクソスがヘルメス神より賜りし金羊の皮、金羊毛を持参した。今度は貴方が約束を果たす番だ」
イアソンが美しい黄金に輝く毛皮を掲げる。この金羊は牡羊座のモデルであるとギリシャ神話で語られるが、そのルーツは古代メソポタミアにあったりする。
伝説の金羊毛を前にペリアス王でさえ息をのみ、兵士たちはその威厳に目を奪われ、遠巻きに見ていた市民たちも歓声を上げた。
「ふむ、なるほど。イアソン、すまないがもっと近くで見せてくれないか?」
「…いいでしょう」
ペリアスの願いを聞き入れ、イアソンはゆっくりと金羊毛を抱えてペリアスの元に歩いていく。イアソンが十分にペリアスに近づいた時、ペリアスは嬉々とした表情で、
「馬鹿め! 引っかかったなイアソン!」
「何ぃ!?」
ペリアスがそう声を上げた瞬間、王は真横に跳躍する。そしてそれと同時に王の後ろに隠れていた一人の屈強な兵士が槍を携えてイアソンに突進したのだ。
なんと卑怯。なんという悪辣。かつてペリアスに授けられた予言は外れ、王の奸計の前に王子イアソンの冒険はここで終わってしまうのか!?
「甘いなペリアス!!」
「な、なんだってぇ!?」
しかし槍はイアソンを貫かなかった。イアソンは咄嗟に背中に忍ばせていた剣を振るい、槍を斬り飛ばしてしまったのだ。
そしてイアソンの白い歯がキラリと輝き、爽やかなまでの笑みを浮かべて襲い掛かって来た兵士に対して華麗に反撃を加えた。まさにイケメン、まさに主人公!
「ベタやなぁ」
私はその光景を面倒臭いと思いつつ眺める。イケメンの華麗な活躍に悲鳴をあげていた市民たちも、特に年頃の若い娘たちは黄色い声を上げてイアソンの名前をよぶ。
「キャー、イアソン=サマー、ケッコンシテー!」「キャー、イアソン=サマー、ダイテー!」。イケメンは全滅すればいい。
「おのれおのれイアソン!! お前たち、こいつらを殺せ! 皆殺しにせよ!!」
「皆、ここが正念場だ! この簒奪者を打ち倒そう!!」
ベタな台詞を狂うように叫ぶペリアス。呼応する兵士が建物の屋上や陰から現れ、私たちを包囲する形で弓矢をつがえる。
対してアルゴナウタイは持参した武器を手にイアソンの号令に呼応した。突然の戦闘に市民たちは悲鳴をあげて逃げ惑う。
「メディア姫!!」
「はーい。にふらむ」
イアソンの合図を元に私が適当な呪文を唱える。
次の瞬間、私の頭上で強烈な閃光が発生し、世界を白く埋め尽くした。熱量を伴わない光の洪水はしかし、確実に周囲の者たちの目を眩ます。
「目がぁ!? 目がぁ!?」「うわぁ、何も見えない!?」「目が焼ける!?」
「くそっ、お前たち! とにかく反撃するんだ!!」
ペリアスが叫ぶ。だが、遅い。既に勝負は始めからついていたのだ。
「ぐわっ!?」「痛っ!?」「な、どうなってるんだ!?」
建物の屋上などのいた兵士たちが次々と倒されていく。そして視力が戻ったらしいペリアスは目を剝いて息を詰まらせた。
目の前にはイアソンと、その後ろに私。それ以外のアルゴナウタイは王宮前の広場には見えない。彼らはいつの間にか周囲に、建物の屋上などに散っていて、私たちを包囲していた兵士たちを制圧していたのだ。
「な、何が…?」
「馬鹿め。ペリアス、お前は最初からメディア姫の魔術に惑わされていたのだ。俺とそこにいるメディア姫以外は全て幻だった。俺たちの仲間はお前の兵の後ろに陣取り、メディア姫の合図の元、お前の兵たちを制圧したのだ。もはや逃げ場はないぞペリアス」
「お、おのれ…イアソン、謀ったなぁぁぁぁ!!」
いや、最初に悪い事企んだのお前だし。
とはいえ、これで一件落着と言えるだろう。兵士たちの多くは殺さずに鎮圧できたし、こちらの被害もゼロだ。
矢除けの加護は無駄になったが、まあ、細かい事はどうでもいい。イアソンは勝ち誇った顔で白い歯を輝かせ、私の後方の建物の上ではアタランテが矢をつがえて鋭い視線であたりを警戒している。
「うぬぬぬ…、アナクシビア!! アナクシビアはおらんのか!?」
「ペリアス、何を考えている?」
突然、ペリアス王は自分の妻の名を叫び出した。そうすると、王宮の奥から兵に付き添われてアナクシビア妃が現れる。するとペリアスは意地の悪そうな、悪役っぽい笑みを浮かべた。
「おい、お前っ、アナクシビアに剣を突きつけろ!」
「ペリアス、気が狂ったか!?」
「王の命令だ。ワシが合図したら、アナクシビアを斬り殺せ! アカストス、聞いているかっ? この茶番を早急に止めよ! でなければお前の母親を殺す!」
うわ、最悪だ。この駄王、ピンチになったら今度は自分の嫁さんを人質に取りやがった。兵士は挙動不審な態度を取りながら剣を妃に向ける。
妃はなんだか諦めたような、呆れ返ったかのような表情だ。アカストスは酷く動揺し、イアソンはどうしたものかと思案している。そして、
「ふっ、それで俺を止められると思ったかペリアス!」
「待ってくれイアソン! 私は母上を見殺しには出来ない!」
アカストスは悲壮な表情で投げ槍をイアソンに向ける。イアソンはそれに驚き動きを止め、ペリアスは嗤う。
面倒な状況である。ペリアスはアカストスにイアソンを殺すように言い、イアソンは馬鹿な真似はよせとアカストスを説得する。そして次に妃が口を開いた。
「良いのですアカストス。これも全ては夫ペリアスの不徳。私の事は構わず、ペリアスを殺しなさい!」
「アナクシビアっ、貴様ぁ!」
だが、そんな茶番は次の瞬間に大気を斬り裂いた風切り音で終わりを告げる。気が付けば、矢が妃に剣を突きつけていた兵士の眉間を撃ち抜いており、兵士は何もできずに即死したのだ。
皆の視線が私の後背200mに集まる。金色の髪の弓を構えた美女が「え? 吾、何か悪いことした?」的なキョトンとした表情をしていた。
「やっちまったな、アタランテちゃん」
そうしてこの茶番は、盛り上がりに欠けたまま空気の読めないアタランテちゃんのおかげで無事に解決されたのです。
◇
「さて、ペリアス、お前の処遇だが…」
「う…、いや、イアソン様、ほ、ほんの出来心だったんです!」
「黙れ、我が父と母だけではなく、幼い弟まで手にかけ、さらに約束を果たした我々をも謀殺しようと試み、挙句に妻までも人質にとったその卑怯さ、万死に値する。アカストス、異議はないか?」
「いえ、この男はもはや父とは思いません」
そうして略式裁判が始まる。アルゴナウタイが見守る中、結果と見えた吊し上げが始まったのだ。
ぶっちゃけ、ペリアスにどんな罰を与えるかを決定する人民裁判なのである。有罪は既に確定しており、後はどのように処断するかと言う事だけ。
「ああ、イアソン様、どうか父の命だけは…」
妃アナクシビアはもはや何も語らず、ペリアスの助命を願うのは彼の5人の娘たちの中の、世間を良く知らない幼い2人だけだ。そして、刑が話し合われる。
「鍋でどうだ?」
「鍋だな」
「鍋でしょう」
どうやらペリアス王はこの世界でも煮込まれて死ぬ運命らしい。しかし、イアソンは納得いかないようだ。
彼はもっと残虐な罰を望んでいる。そして彼は魔女である私にどんな罰がふさわしいか聞いてきた。いや、これなんのフラグでしょう?
とりあえず私は適当に答える。まさかそれが採用されるとは思いもよらずに。
「ええっと、ではこういうのは…」
そうしてペリアスの刑が公開される日がやってきた。王宮の前には木で出来たステージとそこに乗せられた巨大な大釜。五右衛門風呂みたいな大きな釜だ。
ぐつぐつと湯が沸きたち、湯気が立ちのぼるその周りには人間を釜に放り込むためのクレーンのような機械が設置されている。
「スープはやっぱり豚骨に限りますねー。臭みを取るためハーブを少々」
私は木で造られたステージの上で、大きな木の匙で大釜をかき混ぜる。そして助手である神官たちが様々な香草、鉱物を大釜の中に放り込む。
白濁したスープはどんどん黒っぽい色へと変化してゆき、香しい様な、どこか宇宙的恐怖を呼び起こすような臭いがイオルコスの街を漂った。
「では、これより超神秘魔術ショウ《ドキッ、ペリアス君大ピンチ。ポロリもあるよ♪》を開催します!」
イアソンが上機嫌で拍手し、市民の歓声が上がる。処刑をエンターテイメントのように考える市民たち。まさに野蛮である。
さて、前回のやらかした件でペリアスの人気は地に落ちていた。私は皆に手を振りながら、神官たちに荒縄で亀甲縛りにされたペリアス王を連れてこさせる。
彼の顔は真っ青で、大釜を前にフルフルと顔を振って膝は震えていた。今日がお前のメイニチDA!! キッチンはマイステージだZE!!
「それでは皆さん、声を合わせて唱えましょう!」
「「「「「「HOOOOOO!!!」」」」」」
「Yes, I am a Princess♪ 恋はスパイス、Love is Poison、ノコギリリズムで刻みましょ♪」
「「「「「「Yes, My Princess♪ 恋はスパイス、Love is Poison、ノコギリリズムで刻みましょ!!!」」」」」」
リズムに合わせて踊る私と、熱に浮かされたように歌う市民たちによる奇妙な呪文の合唱がなされ、それと共に神官たちがペリアスを大釜の中に投入しようと持ち上げる。
縛られながらも必死に拒絶するペリアスは、なんだか暴れるボンレスハムだ。ボールギャグのでせいで何を言っているか分からないが、多分、すごく楽しみにしているのだろう。そして投入。
「愛は赤熱、Love is Gehenna、灼熱ハートで煮込みましょ♪」
「「「「「「愛は赤熱、Love is Gehenna、灼熱ハートで煮込みましょ!!!」」」」」」
「Yes, I am a Princess♪ 血まみれ クッキングアイドル メディアちゃん♪♪」
「「「「「「Yes, My Princess!!! 血まみれ クッキングアイドル メディアちゃん、HOOOOOO!!!!!!」」」」」」
神話におけるメディアの大釜による魔術、すなわち神話においては雄羊を大釜に放り込んで子羊に変え、それを見せた後に若返らせてやると唆して、ペリアスに自から大釜に入らせ、煮殺したとされる。
が、実のところこの神話にはルーツがあり、それはメディアという存在に深く関わるものである。
つまり、生き物を殺し、これを切り刻んで大釜に放り込み、そして生まれ変わらせ、若返らせる。
この過程はつまりは復活であり、太陽が沈み、朝になってまた昇る事、あるいは冬至において弱った太陽が再び力を取り戻す過程をなぞった儀式と理解できる。
そして私メディアは太陽神へリオス、海神オケアノス、古の神テテュスという三神の血統から生まれた、人間の血が混ざっていない女神の端くれ。
ここで重要なのは私が太陽神の孫娘であり、すなわち太陽神の血統であるということ。この場にいる私は太陽を殺し、再生させるという冬至の祭に連なる古の儀式を再現する巫女である。
「Yes, I am a Super Idol Princess♪ でっきあっがりー♪」
「おおっ」「何が起きるんだ?」「どんな魔術が行われたんだ?」
そうして私は大釜を横に倒す。大釜は子宮だ。羊水が溢れ出し、そして中から生き物が放り出された。イアソンやアルゴナウタイが瞠目し、民衆は目を疑う。
生き物は肺に入った羊水を咳き込んで吐き出し、そうしてヨロヨロと立ち上がった。
「美味しく出来ました」
「…あ、な、ワシは生きておるのか?」
「「「「「「…………」」」」」」
「メディア姫、これはペリアスなのか?」
「はい。今はもう、ペリアスたんですが」
大釜から放り出されたのは10歳にも満たないだろう裸の幼女だった。
そう、あの権力にしがみついていたクソ爺だったペリアスはもういない。今はただの幼女ペリアスたんでしかないのだ!!
もちろん下の毛のはえていない、正真正銘の裸身の幼女である。神様の血統なのでカワイイ。幼女ペロペロ。そして私は声を荒げる。
「幼女! 幼女! 幼女! 幼女!」
「え…、何、これ……」
「プッ…、ペリアスが…幼女に……」
イアソンは笑いがこみあげてのたうち回っている。私は民衆を扇動して幼女と叫び続ける。民衆は良く分からないまま私につられて幼女叫び出した。
ペリアスたんの娘たちは幼女をとりかこみ、くしゃくしゃにしている。アカストスは魂が抜けていた。幼女は周囲の異様な熱気に恐怖を抱いて震えている。
「幼女! 幼女! 幼女! 幼女!」
「「「「「「ヨージョ! ヨージョ! ヨージョ! ヨージョ!」」」」」」
「幼女ペロペロ!! 来いよアグネス! 銃なんか捨ててかかってこい!!」
「「「「「「ヨージョペペーロ!! コウヨアグネ! ジュナンカステッテカカテコイ!!」」」」」」
そうしてペリアスは幼女ペリアスたんになった。彼…彼女はもう二度と男に戻るどころか少女になることも出来ない。
永遠に幼女であり、幼女のまま永遠にこの世界をさまよう運命なのだ。なんという悲劇。ギリシア神話的理不尽。おお、ナムアミダブツ。因果応報である。
そして後にこの逸話が元となって《幼女座》が生まれ、星座として後世に語り継がれることになるなど今の私達には知る由もなかった。
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幼女座…、幼女宮…、幼女座の黄金聖衣…、うっ、頭が…。