ニーナは先ほどから、不機嫌そうに考え込んでいるようだ。
レイフォンとニーナは近くでパイプを磨いていた。太いパイプがいくつも絡み合うようにしてある機関部の奥でブラシを使って汚れを取り、さび防止の塗料を塗り重ねていく。レイフォンもニーナも、黙々と頭上にあるパイプにブラシを当てている。
原因はさっきのことしかないだろう。
初戦デビュー初勝利の、めでたい打ち上げの別れ際にフェリと口論をしたことだろう。
いつもと違ってまだ周りには第17小隊以外の人間もいたし、いつもよりも激しかった。試合についても娯楽提供の見世物だーとか、安心感提供の士気高揚だーとか、やりあってたし。
酒場から機関部までの道のりも肩を怒らせていたし。
さすがに、ずっとこのままというのも過ごしにくい。
「あの…」
レイフォンは振り返ってニーナの背中に声をかけた。ブラシの動きがピタリと止まる。
「なんだ?」
振り返らないまま、ニーナはブラシを下ろした。
「怒ってますか?」
とりあえず、率直にニーナの機嫌をうかがう言葉をぶつけてみた。
「……いや」
ニーナが呟いたのはそれだけだった。
「怒っているわけではない。ただ……」
ニーナが息を抜いたのがわかった。肩を上下させた後にこちらを見ることなく疲れたように言葉を吐き出す。
「少しわからなくなっている」
「え?」
「フェリのことだ。生徒会長の言いなりと言えば、その通りだろう。フェリの入隊の受け入れが、小隊設立の条件だった。受け入れなければ、始めることができなかったのだ。それに、やる気はなくとも、才能についてはあの生徒会長が保証した。やる気なら、小隊でともにツェルニのために励んでいくなかで、培われていくだろうと、そう思っていた。だが―――あいつは一向に、まるでやる気を見せない」
ニーナがこちらへと振り向く。その眼差しには、見つからない答えをレイフォンの中に探すかのような切実さがある。
うっ、やばい、罪悪感が。
――――訓練も今まで通り適当な感じで――――
――――ニーナ先輩の喝は聞き流す感じ――――
こんなことをフェリ先輩に軽く笑いながら言っちゃった記憶があるような……
あの時は隊長のこと、よく知らなかったし……
たとえ言わなくても、やる気に変わりはなかったと思うけど…隊長のやるせない眼差しに、罪悪感が、やばい。ごめんなさい。
「なあ、教えてくれ。私はどうすればいいんだ?」
「えっと、どうすれば、と聞かれましても…」
少女として望まれながら、武芸者として在りたいと願ったニーナ。
念威操者として望まれながら、少女として在りたいと願ったフェリ。
なんでこんな二人を同じ小隊に入れたんだと、最初は思っていた。
第17小隊はあえてニーナ、フェリ、シャーニッドの三人になるように、カリアンがレイフォンの受け入れのために用意したのだと今は思っているが、面倒くさいことをしてくれたことだ。
レイフォンから見た二人は、わりと反対に位置してる。
本来なら自由に生きられるのが誰にとっても理想なんだろうけれど、悲しいことに、世の中は理想からはほど遠い。
考慮してあげるべきは、意志を無視されて縛られているフェリのほうか。
ニーナは自分の望む舞台にいるのだから。
「まあ、フェリ先輩は小隊にいたくて在籍してるわけではないですから…」
「それがまずおかしいだろ! そもそも、武芸者とは都市とそこに住まう人々を守るために戦うのが義務であり、存在意義だろう!? 武芸科に在籍するのが当然だし、小隊に在籍することは栄誉だろ!?」
内心で苦笑いする。けっこうストレスが溜まっていそうだ。
これを聞いたのがフェリだったら、もう、ここから言い合いが始まるのだ。
ニーナとフェリの話し合いは、いつもすぐに衝突して言い合いに変わって、弾けて終わる。
これまではニーナとフェリの不仲は小隊の運用に問題ないとして、放置していたけれど、申し訳ないことにレイフォンが思うよりもニーナの心には負担がかかっていたようだ。
シャーニッドがやってくれればよかったのだが、二人の不仲については、なだめるだけで特に干渉はしていない。
シャーニッドは第17小隊の隊員とは一線を引いて接しているように見える。
昔所属していた第10小隊のことを聞けるように、話の流れを作っても、積極的に話には入ってこずに逃げるから、第10小隊での出来事がそういった態度に関係しているのかもしれないが、今後もアテにはできないだろう。
小隊での過ごしやすさと、今後自身の経歴を開示するときに備えて、ちょっと話に付き合おう。主目的は、ニーナとフェリの不仲の緩和だ。そのためには、少なくともニーナがフェリに対する苛立ちを抑えられるようにしないといけない。
はあ、こういうことは苦手だが、やれるだけやてみるか。
ニーナの熱を冷ますように話す。
「うーん、まあ、隊長のように思わない人も、世の中にはいるってことじゃないですか。みんながみんな、何事にも同じ考えを持つってことはないですし……」
「それは確かにそうだが――だがっ、武芸はこの世界で生きるために人間に与えられた大切なもの! それを与えられた者が、都市を、人を、守るために使うのは当然のことじゃないのか!?」
ニーナやフェリ、あるいは大多数の武芸者はこういう教育を受けて育つのだろう。レイフォンも大切なものを守るようにと武芸を養父から教わった。
「ええ、そうですね。確かに、武芸は大切なものだと僕も思います。じゃあ、その大切さとはどこから来てると、隊長は思いますか?」
「……どこから?」
意味のわからない質問を受けて、ニーナの勢いが弱まった。
ニーナと同じようにレイフォンも武芸を大切に思っていることをまず示してから、次にニーナの中で当たり前になってしまっている、その大切さを細分化していく。大切さという枠組みの中、差異を認識させる。
考え込んだニーナに、こちらから問いかける。
「はい。武芸そのものが神聖で大切なものだと思いますか?」
「ああ、無論だ」
えー、いや、ここ本当はけっこう論じるところなんですけどね。
内心での苦笑いを、表情では柔らかな微笑みへとつなげる。
「僕は孤児院出身で、教養はありません」
なので、失礼なことを言っても許してくれと予防線を張る。
ニーナが驚きの表情を浮かべる。
まだこのことはニーナには伝えていなかったことだ。
「そうだったのか」
「ええ。しかも、僕の場合、とにかく強くなりたかったので、幼い頃は、毎日素振りを5千回はしてたりしましたから、ははっ、勉強はほったらかしでしたよ」
お金にならない思想とかを聞いてる時間はなかったし。
その分、強くなるための努力をした。
そして、努力して強くなった武芸者の言うことなんだから、
「僕の周りにいた武芸者で、武芸を大切に思っている人たちを見ていて思ったことなんですが―――」
大勢の観察からの意見なんだから、とりあえずは考えてみてくれと予防線を張る。
ニーナが驚きの気持ちから、レイフォンが次に何を言うのか、しっかり聞く態勢になるように、すこし間を空けてから言う。
「武芸を大切とする理由は、大きく二つでした。神聖性と実用性です。武芸そのものが大切なものだとする考えと、武芸は汚染獣に対抗するのに有用で希少だから大切だとする考えです。武芸を大切に思うところは共通していますね」
ただ武芸に対する扱いは変わってくるが、それは置いておく。
「武芸は汚染獣に対抗するのに有用だという考えには同意できますか?」
「それも、勿論だ。武芸しかないではないか」
「でも、世の中にはどの考えにだって異を唱える人がいます。武芸は汚染獣に対抗するのに有用じゃないと言う人だっています」
「そうなのか?」
「ごく少数でしょうが。そして、武芸は神聖なものじゃないと言う人もいます」
ここで、ニーナの反応をうかがってみると、顔をしかめている。
この事実は許容できなければ、もうどうしようもないところであるが――ニーナは許容している。
武芸者で武芸を神聖視している人が多いといっても、ツェルニの場合、10人もいれば2,3人は神聖視していない武芸者がいる。グレンダンだったら半分以上はそうだ。
「この意見の人については、それなりにいます。隊長も多く出会っていると思います」
「ああ、そうだな」
武芸が神聖なのかどうか、までは踏み込んで話はしない。
レイフォンとしては、武芸の神聖性なんて、実用性から武芸を大切にする考えがまず生まれ、そこから転じて統治だったりのために便利だから神聖性が付与されていった程度に思っているし、それ故に神聖性については環境差が生まれやすいと思っているが、そのあたりの持論は置いておく。
ここでは武芸についての神聖性の是非ではなく、神聖視していない武芸者が現実としてある程度いるという事実をニーナが許容できているかどうかが重要だ。
「シャーニッド先輩はおそらくというか、間違いなく武芸に対して神聖さを感じてない人だと思いますが――」
あれで武芸を神聖視してるとか言ってきたら、びっくりだ。
「でも有用さは理解していて、それを使用することに対しても、ある程度やる気を出していますし、使命感も持っています。だから、小隊にも在籍しています。そのことを隊長も感じているから、シャーニッド先輩に対して苛立たしく感じることはあれど、我慢できている」
「ああ、――そうなのだろうな」
不承不承というていではあるが、ニーナはゆっくりうなずいている。
ニーナの認識をはっきりさせるために、攻めるようではなく労わるように気をつけながら確認の質問をさらに重ねていく。
「さっきの隊長の発言、「守るために戦うのが義務、当然」というのは、神聖性からではなく主に実用性からのだと思いますけれど、どうですか?」
「あ、ああ、そのとおりだ。武芸の力を持って生まれたのだから、持たないもののために戦うべきじゃないか」
ニーナの中で一緒くたになっていた神聖性と実用性の認識を分離させる。
ここがニーナの中でなんとなく一緒くたになったまま話を進めても、良い結果にはならない。
自分が当たり前にしていた発言が、自分のどんな想いから生じていたのかを認識させ、限定させる。
話し始めた当初よりも発言に勢いがなくなっているのは、今まで気にしていなかった自分の発言を他人から指摘されて、改めて認識しなおしていることからの戸惑いだろうか。
「そうですね。みんながみんな、武芸を嫌だと言って戦わなければ、人類は生きられませんから、隊長の言うことはもっともです。現実として、汚染獣の脅威にさらされている現状、武芸に対してどう思うかは自由でも、武芸の行使に対してまでも自由とはなかなかいかない」
「そうだろう」
ニーナがうなずいてくるのを見て、レイフォンは一息をつく。
ふう、これで、ようやく前準備の終わりか。
「――それなのに……フェリは……! 今、ツェルニは危機なのに―――」
気を休めていたレイフォンの耳に、
ニーナがうめくように、吐き捨てるように言った言葉が飛び込んできた。
うわあぁ、どんだけ罪悪感をえぐってくるんだ。
ごめんなさい!
――――崖っぷちだったツェルニも、もう最強のツェルニです――――
とか言っちゃってた記憶もありますうぅぅ!
ツェルニ、さっぱり危機なんかじゃないよって感じで言っちゃってます……
ほんと、ごめんなさい!
ああ、過去に戻れるなら、調子に乗っていた自分をどうにかしてやりたい……!
「えぇーと、まあ、社会正義とか、社会の要請とかいうのを無視して、自分の感情を優先しているフェリ先輩の我がままですね」
「まったく、フェリのやつめ!」
フェリ先輩の擁護、入れないと――!
……ほんと、なんか、ごめんなさい。
「ははは、まあ、女の子で言えば、ダイエットしなきゃ、でもお菓子食べたいから食べちゃおうって感じですかね」
「軽っ! えっ、軽いな!? お前、いきなり例えが唐突に軽いぞ!」
「いやー、ははは、なんか、真面目な話、疲れてきちゃって」
「私から聞いておいてなんだが、もう少し頑張ってくれ!」
大げさに笑いながらおどけたように言ったら、ニーナも大げさな反応で返してきてくれた。なんかそれすらに罪悪感を感じるけれど…
よし、気持ちを立て直そう。
「ふう、――でも、職業の選択が武芸者だけにないのは不公平ですし、ツェルニの危機というのはひとまず置いて考えれば、本来は武芸者であっても職業選択は自由ですから。ここ、ツェルニの法律でも自由ですしね。フェリ先輩の我がままは、別に許されないことじゃないんです。僕も一般に入ろうとしてましたし」
「ああ、――そうなんだろうな。頭ではわかる」
ニーナのしかめっ面に、苦笑いして言う。
「隊長には、覚えはありませんか? 自分のやりたいことと、周りからの要請が食い違ってしまうことって」
「もちろん、ないわけではないが」
ニーナは相変わらずのしかめっ面のままに言う。
ハーレイから聞いているニーナの過去に誤りがなければ、ニーナは自分の過去にもあったとすぐに思い出せるはずだし、状況は違えどニーナは周りからの要請に自分も反発した行為をしたことがあると思い出し、認識すれば多少はフェリに対して寛容になれるのではないか。
レイフォンはやわらかく苦笑いして言う。
「まあ、感情のほうはなんとか抑えてください、としか言いようがないですよ。そもそも、隊長がフェリ先輩に苛立つのは、三つのことが原因として重なってるんだと思います。まず、フェリ先輩が有用性を理解していながら、社会正義を無視して自分の感情を優先することに対しての苛立ち」
「ああ」
「有用性、社会正義に対して、今はツェルニの危機性も足されているのに、それすら無視していることに対しての苛立ち」
「ああ」
「フェリ先輩は武芸に神聖さを感じていませんし、隊長にはちょっとわかりにくいかもしれませんが、むしろフェリ先輩は自分に義務を生じさせた武芸を恨んでます。だから、武芸にまつわるものに対して悪態をつきます。隊長は自分にとって神聖で大切にしている武芸が軽んじられていることに対して苛立つ、三つが重なってしまってるんじゃないですか?」
「ああ、――お前の言うとおりだろうな。確かに私はそれでフェリに苛立ちを感じていたのだろう」
自分の感情がどこから来ているのか、今までよりは認識できただろう。
あとは、ニーナがその感情を制御できるかどうかだが……。
「なので、フェリ先輩にやる気を出してもらうために、どうしたらいいのかって話であれば、フェリ先輩に、感じていない武芸の神聖さを説いても、拒否している武芸者の責務を説いても効果はないです」
ニーナが武芸の正しさしか与えられないというのなら、フェリは動かない。
フェリは自分を苦しめたそれを毛嫌いしているのだから。
だから、ニーナがやっていることは空回りだけしてしまっている。
酷ではあるかもしれないが、それが事実だ。
「正直、なにが正しいのかって話は、それぞれの立場とか状況にもよってくるものだと思いますので、僕にはわかりません。隊長も正しいと思いますし、フェリ先輩も正しいと思います。あるいは、ツェルニ防衛を思って、フェリ先輩を入れた生徒会長だって正しいと思います。ただ、隊長がシャーニッド先輩の態度を許容できているというのならば――」
黙って聞いているニーナにはっきり言う。
「――フェリ先輩にやる気を出してもらうために、ひいてはツェルニを守るために、隊長がすべきは、フェリ先輩を正すことじゃなくて、戦う理由が見つかるまで、待ってあげるか。あるいは、隊長が理由を作るかだと思います。これ以上は僕からはなんともいえないです」
「いや、そうか、――十分すぎる。ありがとう。―――やはり、お前はすごいな。お前の話を聞くといつも、自分の未熟さに恥じ入るばかりだ。―――そうか、私のしていたことは、―――ツェルニのためにもなっていなかったのだな」
レイフォンの話を聞き終えたニーナが、うつむいてレイフォンから目を逸らしながら落ち込んだように言う。
まだ、レイフォンは話を終わらせるつもりはない。
今までの話では、ニーナの武芸観に対してはなるべく否定しないように、攻撃しないようにして、認識、苛立ちをはっきりさせて、感情は我慢しろ、お前の行為は無駄だった、正しい行為はこれだと言い捨てただけで終わりになってしまう。
これでは目的に足りない。
落ち込んだままで終わらせなんかするか。
もう少し、武芸者としての方向性、価値と仲間意識を言い足していく。
ニーナと接していればわかる。
別にニーナは他人をいたずらに貶めたいと思うような悪い人間ではないのだ。
レイフォンは笑顔を浮かべて言う。
「そうやって、都市のことを、人々のことをを思って動けるあなたは、尊いです。隊長には申し訳ないんですが、僕は武芸に神聖さは感じていない人間です。僕は武芸ではなく、隊長のような武芸者に神聖さを感じるのです。誰かのためを思って、守るために戦うという、―――そういうあり方をする、あなたのような武芸者にこそ尊さを僕は感じてます」
「レイフォン……」
――――たとえ、想いが綺麗だとしても、行いは醜悪さを極めるなんてことは、どうしようもなくあるけれども。
そのことをレイフォンは知ってもいるけれど、それでも、レイフォンはこう思っている。だから、――――。
「ただ、誰もが隊長のように尊く他人のために、当たり前には戦えないんです。自分のことで精一杯の人間もいるのです。なので、都市や人々のことを思える優しさがあるのなら、当たり前には戦えないフェリ先輩のことも思ってあげてください」
――――たとえ、全体と一部、どちらをも救おうとして、歪んでしまおうとも。
「僕の知ってる武芸者はこう言ってましたよ。「隊を率いる者は二つのシキ能力が大切になってくる。戦場、戦術での部隊運用の指揮能力と、戦場に行く前、戦略での部隊士気をあげる能力だ」って。フェリ先輩のことを思って動いていれば、フェリ先輩だってきっと隊長のために力を貸してくれますよ」
あくまでニーナが武芸の正しさを通してしか武芸者を見られないというのならば、ついてくる人間は少なくなる。
――――そんな、程度の低い使えない武芸者なんて、いらない。
ニーナが顔を歪ませ、叫ぶ。
「でも! それでは、ツェルニがっ、時間がっ・・・・・・!」
その叫びを聞いて、本当に自分が思う以上にニーナは切羽詰まっていたのだと気づかされる。
レイフォンからすれば、ツェルニの現状をまったく危機として捉えていなかった。
だが、レイフォンの実力を知らないニーナからすれば、この一ヶ月間はツェルニの危機に対して不十分だったのだ。なまじ、レイフォンとの訓練で自分の力が伸びていくのを感じている分だけ、まったく訓練に身を入れないフェリに余計に苛立ちや危機感を抱いていたのかもしれない。
レイフォンのミスだ。
だが、反省は後回しだ。
――――強くあらねばいけないのだ。
その叫びを受け止めるように、ニーナの目をじっと見つめ返して微笑み、優しくも堂々と聞こえるように言い切る。
「都市対抗戦は絶対に僕がなんとかします。隊長は一歩一歩、できることを、一緒に頑張っていきましょう」
「――レイフォン・・・・・・」
ニーナがレイフォンの名をつぶやいてから、なぜかいきなり背を向ける。
「くそっ、お前は・・・・・・卑怯だ」
「えっ? 今までの話の中に卑怯なところありましたか?」
そして、黙ってうつむいていたかと思ったら、しばらくしてニーナはいきなり訳のわからない発言をしてくる。
戸惑うレイフォンにニーナが向き直って、にらめながらなおも言ってくる。
「ええい、この卑怯者めが。」
「えー、なんなんですか、急に」
「うるさい。あー、もう、くそ! お前のほうが隊長に相応しいんだよ!」
「ええー、なんなんですか、それ。隊長が隊長なんですから、そこは隊長として、隊員にお前がいてくれて良かったって発言にしてくださいよー。それに、第17小隊はニーナ・アントークが始めた戦いです。その言葉だけは、誰が言おうとも、――――あなたは言ってはいけない」
急に様子が変わって、本当にどうしたのか。
わからない。
さっき悲痛な面持ちで叫んだ人間とは思えないほどに、なにかが吹っ切れたようだ。
ただ、冗談のようなノリであっても、聞き逃せない言葉にはそっと注意しておこうと、軽い言葉の後にさらりと言ってみれば。
「―ッ、ええい、わかっている! だから、お前は卑怯だと言うのだ!」
「ええ!? 意味がわからないんですけど・・・・・・」
ついには軽く小突いてくる。
レイフォンはそれに、苦笑い気味に笑いながら付き合う。
レイフォンが予想していた反応とは違うけれど、これはこれでニーナの心労を減らせただろうから良しとしよう。
ニーナが言うように、
――――――――たとえ、卑怯だとしても。
自分としては頑張ったほうだろう。
レイフォンが気を抜いた瞬間に合わせるかのように、
冗談で突き出されていたニーナの拳がふいに、それまでのよりも速くなってレイフォンの腕をすり抜けて胸にぶつかる。
ぶつけた腕の肘を曲げて、ニーナがぐっと顔を近づけ、レイフォンをじっと見つめながら問うてきた。
「――――お前はなんのために、戦ってきたんだ?」
不意に、思いがけずに近い距離から放たれた問いに、一瞬、レイフォンの思考がかき乱される。
近くで見ればニーナの目がほんの少し赤くなっているのに気づく。
レイフォンのなにかを見逃さぬかのように、見つめられる。
嗅いだ覚えのある匂いが、いつかの記憶を刺激する。
あれはいつだったか。
軽くぶつけらたはずの拳が、なぜか重い。
重くぶつけられたのか。
思いがけない質問だった。
だが、いつか来る質問だった。
どう答えるか、答え方は決めていたのに。
なにに動揺したのか。
とっさに出てこなかった。
それでも、停滞は一瞬だ。
レイフォン・アルセイフが戦ってきた理由、そんなのは決まっている。
――――――たとえ、無意味だとしても。
レイフォン・アルセイフが戦い続ける理由、そんなのは決まっている。
僕は――――――――――。
答えようとレイフォンが口を開けた。
「僕は――――――」
その瞬間。
床から突き上げるような衝撃が二人を襲っってきた。
あーあーあとがき
エター、エター。永遠が見エター。
すいません、としか言えませんね・・・・・・・。
文章が、今回も雑ですね。
すいません、としか言えませぬ・・・・・・。
一巻ラストまで、遠くないっすか・・・・・・?
行けるかな、行けるといいな。
あ、前話、ちょっと書き足してあります。
今話について
(これよりネタバレありますので、嫌な方は飛ばしてください! ていうか、原作終了からだいぶ経ってるし、そもそもこの作品を読んでいる人がいるのかってところではありますが・・・・・・)
原作では
レイフォンとニーナがレイフォンの過去を話題に武芸者のあり方について云々だったのを
今作では
レイフォンの過去バレが残念ながらまだないので
レイフォンとニーナがフェリの普段を話題に武芸者のあり方について云々って感じで書きました。
それと、
原作でニーナがレイフォンに対して「卑怯だ」と言う場面に対して
今作では違う意味で「卑怯だ」と言わせてみたかっただけだったり・・・・・・・
うーむ、色々と入れたかったのが書けなかった。
ニーナのキャラについて
原作とあんまり乖離させたくないと思って書いていますが、イノシシでかませ犬なだけのニーナにはしたくないとも思っています。
ニーナは原作でもカリアンやシャーニッドに対しての態度を見ていても、完全潔癖狂信者ではないでしょ、って感じで書いてますが、物分りが良すぎるなど違和感など強すぎれば言ってくださると幸いです。
今話最後らへんのニーナについては、私の力量と尺の問題ですね。
ニーナとしては、濃い一ヶ月間を過ごしてきたんだとでも思っていただければ・・・・・・・
ニーナ視点もちょっと、入れたの方がいいのかな・・・・・・?
次回予告も含む(そして、ネタバレを含む。次回への注意を含む)
「これより、楽園都市ツェルニはシュナバイルに宣戦布告しちゃいます! これは聖戦である、かもです! おっけい?」
次回かどうかわかりませんが、今作のレイフォンは戦いへの迷いもなく、幼生体襲撃において戦術目標「ツェルニ防衛」は単独で無害に抑える程度の魔改造戦闘力を与えているつもりですが、戦略目標の関係で死者を容認してしまうなどなど、外道行為をしてしまいますので、心が清い人は読まないほうがいいです。
おまけ(テキトー)
(もうすぐ、完結のはずなので・・・・・・・)
(ネタバレだらけ。今作の設定と、ありえたグレンダン編などをちょっと)
レイフォン
原作レイフォンとの「逆同一」をちょっとイメージして作られたキャラだった気がする。
史上最凶最悪の武芸者。
優柔不断?
果断優柔?
目的がなくて、自分がない?
目的しかなくて、自分がない?
闇試合が発覚して追放された?
闇試合を発覚させて追放させた?
アルシェイラ
最強、神聖、体制側、世界、檻の象徴。女王様である。
史上最強最大の武芸者。
今作のレイフォンにとっては、絶対に挑まなければならない、挑まずにはいられない相手として登場するはずでした。
アルシェイラと再会するまでに、今作のレイフォンは原作と違って戦闘能力が出来事を経るごとに増大していくので、きっと頑張ったはず。
リーリン
日常、平和、守護対象、理解者の象徴。幼馴染様である。
ただ、原作同様に再会するあたり、レイフォンがアルシェイラと頑張るあたりで、まさかの象徴反転、裏切をするナイスガール。
(コー○○アスとかF○TEとかでも似たような要素ありますよね)
レイフォンが英雄属性から犯罪者属性に裏返ったのと同じ感じですね。
このあたりから
わかったつもりになっていた状態から
レイフォンとリーリンは本当の互いを見つめ出すことになるはずだったし、
レイフォンの過去、レイフォンの現在が交錯しただろうし
リーリンと過ごしたグレンダンでの日々
ニーナ、フェリと過ごしたツェルニでの日々
グレンダン編において、
ようやくレイフォンが少年レベル1から少年レベル2になるという爽やかな少年青春物語を思い浮べてました。たしか。
今話までで、レイフォンの目的はおぼろげに出てきたと思いますので、
残り数話、今作レイフォンの行く末をイメージしながら読んでいただいてもいいんじゃないかなと思ったりしてます。
さて、次の話はいつ書けるのか・・・・・・
えー、リアル消えろー
2015/10/27初