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No.38166の一覧
[0] メガテン系オリジナル世界観風?(ネタ・習作・リハビリ)[navi](2013/07/31 19:08)
[1] 題名未定《序章・覚醒篇・1》[navi](2015/01/28 13:20)
[2] 題名未定《序章・覚醒篇・2》[navi](2014/12/27 01:59)
[3] 題名未定《序章・覚醒篇・3》[navi](2014/12/27 01:59)
[4] 題名未定《序章・覚醒篇・4》[navi](2015/01/02 21:19)
[5] 題名未定《序章・覚醒篇・5》 [navi](2015/01/07 05:44)
[6] 題名未定《序章・覚醒篇・6》 [navi](2015/01/14 06:37)
[7] 題名未定《序章・覚醒篇・7》 [navi](2015/01/28 13:29)
[8] 題名未定《序章・覚醒篇・8》 [navi](2015/01/28 13:22)
[9] 題名未定《序章・覚醒篇・9》 [navi](2016/03/28 07:39)
[10] 題名未定《序章・覚醒篇・10》 [navi](2016/01/08 01:18)
[11] 題名未定《序章・覚醒篇・11》 [navi](2016/03/28 07:40)
[12] 題名未定《序章・覚醒篇・12》 [navi](2017/08/15 17:49)
[13] 題名未定《序章・覚醒篇・13》[navi](2017/08/20 16:01)
[14] 題名未定《序章・覚醒篇・14》[navi](2017/08/24 18:31)
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[38166] 題名未定《序章・覚醒篇・7》
Name: navi◆279b3636 ID:17d1eb6e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/01/28 13:29
 旧校舎に入り、最初に感じたのは埃と黴臭さだ。何十年も使われていないことを感じることができた。床板が軋み、音を立てる。
「よくもまあ、こうなるまで放っておいたものだ」
 湊はそう思う。少しでも強く足を踏み込めばそのまま床を突き破ってしまいそうだ。
 光源は左手に持つライトのみ。先は見えにくく、奇襲に気をつけなければならない。
 動く。歩くような速度ではない。全力で前に。
 気配がした。悪魔のものだ。珍しい。いつもならば、もう少し深く入り込まなければ出てこないはずだ。しかし関係が無い、とすぐに思い直した。敵は殺す。そんなシンプルな思考を持って即座に抜刀。振りぬいた。



「なんでこんなことになってるんだよぅ」
 空き教室の一つ、窓側の壁に腰掛けながら少女は己の置かれている身を嘆いた。
 暗がりが余計に不安をあおる。既に夜になっていた。
 本来なら学生であろう少女は帰宅していなければならない。きっと、両親は既に自分の身を心配しているのだろう、そう思う。そして心配をかけていることを恥じた。
 ――何で、何で私がこんな事になっているんだ……。
 自分は何も悪いことなどしていない、と小さく口の中で転がした。
 ことの始まりはなんだったんだろう。
 ――たしか一ヶ月前だ。
 思い出したくも無い、と吐き捨てながらも少女は原因を頭の中に浮かべた。
 少女はクラス委員長でクラスの課題を回収することを義務として課されていた。宿題は学生ならば当然行わなければならないことだ。しかし、いつの時代も自分のこと『のみ』を優先させる人間は存在する。少女のクラスにもこの手の人種は存在していて、頭を悩ませた。
 仕事である以上そんな少女達に注意や苦言を呈し、どうにか宿題を回収しなければならない。それを少女は苦としたことはないし、仕事として役割をこなしていた。最初は注意しただけだった。一度二度ならばまあ、入学してすぐなのだから浮ついているのだろうくらいで済ませていた。だが流石に三度は許されるべきではないだろう。少女も既に何と言ったかは覚えていない。そうだ、確か課題を提出しなければ評価がどうのいのこりがどうの、と言った記憶がある。
 イジメ、と俗に言われるものが起こったのはその頃からだったと思う。その中心になったのはクラスでもあまり素行の良くない少女とその取り巻きだ。
 最初は陰口を叩かれていた。それを無視していたらだんだんと、エスカレートしていき――、腹に痛みを感じた。
 ――理不尽だ。
 無視していればいずれ終わると思い、無視を続けていたはずだが――、とうとう痺れを切らして直接行動にでた。典型的なもので人影の少ない旧校舎に呼び出され罵倒の限りを尽くし、最後は暴力を振るう。当然一対一なんてお行儀の良いことなんてあるわけも無く、複数人に囲まれてリンチだ。
「気持ち悪い」
 寒さを感じ、身震いをする。少女の制服は濡れていた。イジメの時にぶちまけられた物だ。夏だから、生乾きで気持ち悪さも倍に思えた。
「帰りたい」
 否、本来なら既に帰っていたはずだ。
 外に『化け物』が存在しなければ。廊下を出れば眼つきの悪い幽霊や、何に驚いているのか良くわからないほど驚愕の表情を浮かべている幽霊。左手に自分の足を抱えている足の無い幽霊、何故、こんなのが旧校舎にうろついているのだ。
 少女は天井を見上げた。思う。本当に何でこんな事になっているんだ。



 今日の異界はいつもに比べて妙に広い、と湊は思った。それなりにハイペースでマップを埋めているが、それでもなおマップが埋まりきることが無い。二時間かけてようやく一階のマップを埋めきり二階に上がり、現在ようやく三分の一のマップを埋めたところだ。
「旧校舎自体は三階だが、異界になっている時点であまり意味は無いか」
 建物が異界化すると、その空間そのものが捻じ曲がる。故に、階層と言う概念自体が意味が無くなる。
『ソレニシテモ、サマナー、ミョウナカンカクヲカンジルゾ』
 前方を歩いていた『妖獣』ヘルハウンドが鼻を鳴らしながら告げた。顔の部分で吹き上げる青い炎が揺らめいている。
「妙な感覚?」
『ウム、サマナーイガイノニンゲンノニオイダ』
 ――俺以外?
 依頼は徹底的に頭に入れているから、今日この旧校舎の依頼を受けているのは湊以外にいないことを理解している。故に不審を思う。
「敵、か?」
『サアナ、ソコマデハワカラン……、ギャリートロット、オマエハナニカワカルカ?』
 隣を歩く『魔獣』ギャリートロットにヘルハウンドは問う。ギャリートロットは興味なさそうに、
『シラン』
 一言で切って捨てた。要するにわからないということだろう。
 湊は頭を抱えた。このような状況ではどうすればいいのだろう? 連絡一つ入れない無礼者は後で報告でもすればいいだろうか? なんにせよ依頼の横取りを許すわけには行かない。
『ナンダサマナー? ヤルコトナドワカッテイルダロウ? テキナラバキレバイイ』
 まあ、それもそうかと湊は納得し、再度探索を再開する。
 歩く、暗闇と静寂のおかげか自らの足音が強く反響する。
「?」
 声が聞こえた。すすり泣く声だ。甲高く響くことから、どこと泣く女性であることを予想させる。
「これは、泣き声か?」
『アクマノモノデハナイナ』
『アアソウダナ』
 二体の仲魔が湊に同意を示した。
「だよ、な――、サマナーか?」
『ダロウナ』
 ヘルハウンドはつまらなそうに唸り声を上げる。先ほどから戦っている敵は一言で弱いと言い捨てることができた。『悪霊』ポルターガイストにクイックシルバー、『怪異』カシマレイコ、『幽鬼』ガキとグール、どれもこれも物理と炎でどうにでもなる敵しかいなかった。多少のレベル差なら相性でゴリ押しできる。故に、弱い者苛めをしてるようにヘルハウンドは思った。弱い者苛めも嫌いではないが喰らい甲斐のある敵を殺すのも大好きだ。
「――何が出てもいいよう今のうちに回復しておくべきだな」
 ポケットから二つの魔石を取り出しヘルハウンドとギャリートロットに与える。敵からの攻撃は一度も受けてはいないが、特技の使用で体力を削っていた。
 進む。すすり泣く声はさらに大きくなる。
「ここ、か?」
 立ち止まったのは一つの教室だった。未だすすり泣く声がとまることは無い。
 いつでもサーベルを抜刀できるように構えながら、扉に手をかける。のどが鳴った。何が出るだろう。マップを埋める作業を中断してまでここまで来たのだから、せめて損害が出るような状況にならなければいいのだが。思い、意を決し扉をゆっくりと開く。
 影、小さい。うずくまっているのが見えた。月の明かりで姿が現れる。予想通り、女性だ。
 問う。
「何者だ」
 少女が顔を上げた。
「え?」
 それは見知った顔だった。いつもならば凛とした表情を浮かべ、堅物な印象すら与えるが、今は見る影もない。
「委員長――?」
 湊としては精々最初に溜まっていたプリントを渡されたことと宿題の提出くらいでしか接点の無いクラス委員長、成田・秋乃だった。
「え、あ、浅木、君?」
「!!」
 月の明かりで此方の顔が見えて居のだろう。秋乃の目線が湊の顔に向いていた。
 即座に顔を手で覆った。あまりのことに気が動転していたが、顔を見られると言うのは余りにもまずい。
 ――どうして、この可能性を考えなかった!?
 自らの落ち度を湊は叱責する。最初から相手が霊能力者系列の人間だと思い、このような一般人が紛れ込んでいる可能性を最初から捨てていた。このところ巧く行き過ぎていたから気が緩んでいたのだろう。
「な、何で顔を隠すの」
 咄嗟の行動であった故だったが、意味が無いと言うことを理解し、手を下ろす。
 湊は息を吐き、
「……何故委員長がここにいる」
「それを聞きたいのはこっちだ。何で浅木君がここに?」
 どうでもいい、とばかりにヘルハウンドが声を上げた。
『サマナー、ミラレタノガマズイナラバコノオンナクッテモイイカ?』
 秋乃はあからさまにおびえ、
「い、犬!? っていうか、私を食べるって――!?」
「……安心しろ、食わせたりはしない」
 湊としても、流石にたいした接点が無いと言えどクラスメイトを殺すほど非道ではない。当然後で処置はするが。
「でも」
「ん?」
「よかった」
 一度とまったはずの嗚咽が再度始まり、また泣き声が起こり始める。
「な、何故泣く!?」
「だ、だって、きゅうこうしゃがへんなふうになっちゃってて、このままたすけもこなくて、しんじゃうかもしれないとおもって、けど、けど――」
「分かったから泣き止んでくれ」
 面倒なことになった、湊は思った。仕方ないとばかりに背嚢を下ろし、中をあさる。取り出したのは食品だった。二百十円で購入可能なブロックタイプの栄養食品と缶コーヒー。それを秋乃に差出し、
「とりあえず、食うか?」



 昼食を摂ってから何も食べずに既に八時間たっていることを知って、急激に秋乃は空腹を覚えた。
 差し出されたブロック食品を口に含む。味はフルーツ味で、噛むと硬さの違うクッキーが感触の違いを与え時折アクセントとなり、面白い。缶コーヒーはブラックで苦味が一気に来るが、口に含んだブロック食品を溶かすように飲むと苦味が緩和されて飲みやすくなる。
 一袋に二本入りだが、数回で食べきってしまう。
「足りるか?」
 ただ、首を振ることで不要の意を示す。空腹以上に、疲れが秋乃の肉体を支配している。
 不意に、声が来た。湊のものだ。彼は二体の不気味な生き物? に同じブロック食品を与えながら単調な声色で、
「それにしても、良く無事だったな。外の悪魔はここに入ってこなかったのか?」
「悪魔? あれが?」
「そうだ」
「架空の生物じゃないんだな」
「見てのとおり、存在する」
「そっか……」
「まあ、ここに悪魔が入り込まないなら問題は無い」
 湊は手に持っていたゴミを丸めて袋に捨て、リュックサックの中に入れて立ち上がった。
「え、あ、どうしたの?」
「委員長はここで待っていろ」
 端的にそんな言葉を告げ、部屋を出て行こうとする。
「な、なんで!?」
「……俺は依頼でここに来た。この状況を如何にかするのが俺の仕事だ」
「し、仕事って――、そうじゃなくて、こんなところに一人にされるとか私は嫌だ!!」
「後一、二時間もあれば、どうにでもなる。そうなれば、ここはもともとの、ただの教室に戻る。それまでの辛抱だ」
 そういうことを言っているのではない。
 と、言うか何を考えているのか。この状況で男性女性関係無く一人放置していくとか正気なのだろうか。
 あからさまに湊が頭を抱えるのが見える。
「ならば、委員長はどうするつもりだ」
「つ、ついていく」
「止めてくれ、足手まといは不要なんだ。この状況で戦えない人間を抱えていられるほど俺はまだ経験を積んでいない」
「や、やだ。私はついていくからな。たとえ危険でもこんなところに放置されるとか絶対に無理、嫌だ」
「無理ではない、やらねばならないんだ」
 言い聞かせるような声色がさらに秋乃の苛立ちを深くさせる。ならば逆の立場で平静でいられるのか、と問いたくなったが、いられると涼しげな声で言う姿が見えて言葉を飲み込む。
「そもそも君がついてきたところで何ができる」
「あ、悪魔が近づいてきたことくらい知らせることは」
「残念だが、それくらいなら俺もできる。そうでなければ既に死んでいる」
「軽い怪我の治療なら」
「それを行うための道具も持っているから不要だ」
「……――ああもう、と、とにかく私は君についていくからな!!」
「もう好きにしろ、そして勝手に死んでくれ」
 彼がこちらを見る目は、馬鹿を見る目と同じだった。



 厄介な荷物を抱え込んでしまったと湊は思った。まるでサービス残業だ。依頼料が上乗せされることも無い、完全な無料サービス。どうしてこうなってしまったのか。神様とやらがいるのなら――そう言えば普通に神族はいるし某四文字様の存在もあるのだった――、恨むほか無い。
 息を吐き、頭を切り替える。どうせいつかこういうことはあるかもしれないのだ、と。
 あの葛葉・キョウジでさえ人助けをしていたのだし、巻き込まれた一般人を助けるのは仕方の無いことなのだ、と。
 ――ああ、けどやはり置いていきたかった。
 あの部屋はおそらく結界になっていて、悪魔の存在が向こうが許容しない限り入り込めない仕掛けになっているのだろう。ヘルハウンドとギャリートロットは己の付随物として入り込めたのだ、と考察する。
「あのさ」
 声が来る。秋乃だ。
「? どうした」
「浅木君は、その、悪魔退治っていうのをやってるんだよ、な」
「……ああ」
「怖くないのか?」
「別段怖くは無い」
 そっか、と、小さく呟いたのが聞こえ、すぐに、
「すごいな」
「何故?」
「私は、怖いよ」
「物理で殺せるなら問題ないだろう? 怖がる必要性が無い」
 これがギリメカラのような物理反射持ちなら恐怖を感じて一目散に退散するところだが、ここらへんにはそのような手合いは存在しない。結論として怖がる必要性を感じなかった。
「そういうことじゃないよ――、私、イジメられてるんだ」
「急な話題変換だ。慰めて欲しいのか?」
 彼女は苦笑し、
「違うよ。違うんだ。クラスにほら、女子グループってあるだろ?」
「興味が無いから知らん」
「まあ、そういうのがあるの。それでさあ、そのグループでいわゆる、なんて言うのかな? クラスでも影響力のある女子グループに課題を提出しろって言ったら何を逆恨みしたのかイジメに発展したんだ」
「そうか、難儀なことだな」
「……真面目に聞いてる?」
「ああ」
 湊は逡巡するまもなく答えた。当然、ほとんど横から聞き流しているがかつての湊の記憶が思い浮かべ返答は嘘をつく。一応、前世とでもいえるプライベートで親交のあった女性は話を真面目に聞かないと不機嫌になった。それが生産性の無い、冗長で幾度も繰り返されたような話であれ。
「本当?」
「本当だ。受け答えはできているだろう? ちゃんと気は割いているから」
「そう……、それでさ、酷いんだ。宿題をするのは学生なら当然じゃない。だから、注意しただけなのに、何で私が虐められないといけないんだ」
「さあ。まあ、その手の輩は一定数いるから仕方ないんじゃないか?」
 手伝ってもらえること前提で仕事を進めるようなプランを立てた挙句、手伝わないと逆切れするような怠慢な馬鹿を思い出す。死ね。
「そうだよな。けどさ、今思い出せば私はクラス委員長に押しのだってあいつ等なんだ。面倒くさがって人に押し付けたのに、こっちが真面目に仕事をしたらそうやって邪険にする。本当に酷いと思わない!?」
「酷いとは思う。だから少し声のトーンを下げてくれ、今、悪魔が出てないとはいえ、よってこられたら面倒なんだ」
「あ、うん、御免。けど、浅木君はほら、こんな状況でも落ち着いてるし、私のいた部屋に来る時だって結構いろいろやっつけたんだろ?」
「まあ」
「じゃあ、やっぱりすごいよ、私はそんなのできない」
「なら、おとなしくあの場で待っていて欲しかった」
「それとこれとは別だよ」
「そうかい。まあ――、!! ヘルハウンドッ! ギャリートロットッ! 後方警戒!! 委員長、死にたくなければ俺のそばから離れるな!! 来るぞ!!!」
 ソナーの反応が急激に変化する。悪魔がちかづていることの証左。故に二体の仲魔に警戒を呼びかけ、戦えない荷物――、秋乃にはなるべく離れないように指示をする。
 突如、風が来た。群れだ。まず緑色の体をし、落ち窪んだ眼孔に、空洞の口、どこか呪術に使う人形のような雰囲気をまとう『悪霊』ポルターガイスト。何かを叫び、驚愕するかのような表情を浮かべ金切り声でも上げそうな『悪霊』クイックシルバー、そして釘や螺子を浮遊させて獲物を見るような笑みを浮かべる黄色い新手の悪魔『邪鬼』グレムリンの三種が群れを成してこちらに来る。
 まず、湊はどうするかを思考した。前方からは少なくとも十体以上。後方から気配は感じないから、二体を呼び戻し――、否、一体を後方の警戒につかせておくべきだと考え、声を上げた。
「ヘルハウンド! 援護しろ! 『ファイアーブレス』!!」
『チッ、マタザコガリカ、ツマラン』
 悪態をつきつつ、ヘルハウンドは即座にその身を前に走らせた。翻るように緑青の火の粉が散った。
 ためは一瞬。口元に炎が渦のように円を描き、それを思い切り吐き出す。
 炎は躊躇い無く悪魔の群れを飲み込み、大半の悪魔を焼き殺す。
 好機と斬り込んだのは湊だ。悪魔が秋乃を狙った瞬間後方に戻れる程度の距離を維持して斬撃、既に虫の息になった敵を殺すのはたやすくサーベルの一刺しで簡単に息絶えていく。
 不快な叫び声をあげて逃げようとする悪魔に追撃をかけるのは二体の仲魔だ。既にギャリートロットは前線に復帰、湊よりも高速で動ける二体は楽しそうに追撃を開始する。
 一体が逃走経路を塞ぎ、一体から即座に後方から追撃。前方に躍り出たのはギャリートロットだ。回転。前に出た瞬間、右足を軸にし、勢い良く一回転をぶち込んだ。それは瞬間ではあるが壁の役割を果たし、逃走を防ぐと同時に触れた敵を叩き潰す。
 後は消化試合に他ならない。傷つけ、嬲り、いたぶり、殺す。
 散々玩具にされた敵対悪魔は決まって最後に悪魔を見るような目で湊を見て、死んでいく。二体の獣型悪魔ではない。それに指示を出す人間を見て悪魔より、悪魔のような人間、と。
 湊は息を吐き出した。
「まったく、所詮は群れても雑魚は雑魚、か、楽なのは良いが、もっと頻度を落として欲しいな」
 MAGが溜まるのはありがたいが、頻出されると面倒だ。
『マッタクダ』
『ソウダナ』
 サーベルを納刀し、湊は秋乃を見やる。
「さて、さっさと行こう」
 秋乃は呆然とした表情を浮かべ、しかしすぐにおびえた声を上げた。
「い、いつもこんなことを、してるのか?」
「ああ、そうだ」
「し、し、こんなことしていたら死んじゃうだろ、いつか」
「委員長もそういうことを言うのか。まあ、良いさ。問題は無い。俺は死なないように気をつけているから、そう簡単に死にはしない」
 なにより、
「それこそ実力差を見誤って突撃はしない」
「わけわかんないよ」
「わからなくていい。それとも怖くなったなら、前の部屋に戻るか? 基本的にマップは全部埋めるから前の部屋に戻るルートもきっちり記録してある」
 秋乃は少しだけ迷いを見せた後、小声で、行く、とだけ告げてくる。湊としては戻って欲しかったが、仕方ないか、と頭を振った。
「ならば、早く行くぞ、この異界のマップも埋めないといけないからな」
 湊はCOMPを軽く叩いてみせた。



「な、なんで落とし穴なんかに落ちるんだ!?」
「落とし穴に落ちなければマップが埋まらないだろう」
「何で罠にワザワザかかるんだよ!!」
「コアシールドがあればよかったんだがなあ、生憎市場を知らないんだ」
「そういう問題じゃない!!」
「後ろから悪魔ぁ!!」
「そこの部屋に隠れていろ、ギャリートロットは委員長を守れ」
『ヤレヤレ』



「つ、疲れた」
 荒い息を吐き、体を上下させる。それを横目で見て呆れを見せたのは湊だ。
「だから待っていればよかったんだ」
「あの場所に一人でいる方が不安に決まってるだろ!」
 それで散々悪魔に追い回されたのだからご苦労なことだ。
「……さて、最深部に来たわけだが」
 COMPのマップを眺めた。旧校舎は三階まで存在した。構造は単純ではない。まず三階まで上り、そこから落とし穴で一度落ちてそこから幾度か階段を上下。悪魔からの襲撃を切り抜けること七度、そして最後は校長室を残すのみとなる。
 ――それにしても……。
 濃密な魔力とでも言うのか、校長室を隔てていても分かるその気配は無意識に生唾を飲ませる。
『ホウ、コレハ』
『フン』
「お前達も感じるか」
 ヘルハウンドは口角を上げ、ギャリートロットは面倒くさそうに肯定。
『イママデナイホドノテキダナ、クイガイガアレバイイガナ?』
『マタメンドウゴトカ』
「まあ、仕事だ。やるしかない」
 不安そうに声を上げるのは秋乃だ。
「わ、私はどうすればいい?」
 湊は考え込んだ。部屋の前に残していても悪魔はまだ沸いているだろう。部屋の前に残していたら食われて死んでいた、なんていうのは夢見が悪い。複数のリスクを天秤にかけて頭を悩ませる。
 ――ボス前だと言うのに仲魔を割く余裕は無い。だからといって委員長に戦うだけの力があるわけでもない。しかし――、だが、荷物を抱えながら戦うことができるほど自惚れは無い。だが――、ああ、くそ。
「委員長」
「あ、ん、何だ?」
「何があっても、何があっても無茶はしてくれるな」
「え、えっと?」
「悪いが、俺の手持ちにを割ける程戦力は無い。要するに、仲魔をつけて外に待たせていくことができない」
 だから、と、
「良いか、自分だけ何もできないなんて変な義務感に駆られて戦線に出ようなどとは思うな。逃げることと守ることだけ考えて後方に居ろ、俺もまだこの仕事を始めて二ヶ月程度だ。要するに守りながら戦うなんて器用な真似はできない――、そうだ」
 湊は背嚢を下ろし、コートを脱いだ。人に貸すのは癪だが死に安さを考えればやむを得ない。
「こいつを着ていろ、何も無いよりはマシだ」
「これ……」
「第1SS装甲師団のコートだ。知り合った霊能者に頼んで加護をかけて貰い霊装に仕立て上げてある」
「わ、分かった」
 秋乃は湊から受け取ったコートに袖を通す。
「結構大きいんだな」
「軍装だから、当然だ……、いいか、覚悟を決めてくれ、行くぞ」
 右手にボウガンを握りつつ、左手で校長室の扉に手をかけた。
 光が漏れる。目元を左腕で覆ってしまう。しまった、と思い直ぐに腕を退かして前を見る。
 いたのは男だ。
 やせ細った大柄な男だ。双眸は淀み怨念をたたえていた。しかしたたずまいはそれに反するように洗礼されたものだ。
 声が来る。
「ほう、このような辺鄙なところに来るとはなあ」
「貴様は何者だ」
 男は不機嫌そうに鼻を鳴らし、
「今時の若い者はこれだから困る。言葉遣いがなっていない」
「――失礼」
 湊はボウガンの照準を床に下ろす。しかしいつでも狙いを定められるように気をつけながら、
「私のは前は浅木・湊。サマナーをしております」
「警戒は解かない、か」
 内心で舌打ち。警戒がばれていることに対しさらに警戒度を上げつつ、
「失敬。仕事柄」
「フン、マアいい。どのような用向きでここに来た」
「この異界を終わらせに」
「下らないことをするものだ。何の意味も無いというのに」
 否、と、湊は言った。
「この異界により多くの人々が危害を加えられることになります」
「下らないな。ああ、まったくもって下らない!!」
 彼は演説のように仰々しく腕を上げた。
「忌々しい、今の世の人間にどれだけ守る価値がある。どれだけその身を裂いて助けてやる価値がある!!!」
 表情を憤怒に歪めながら、
「誇りを失い安寧に走った豚! 牙を失い鬼畜米英に伏すだけの下らない雄豚! 貞節を捨て快楽に走る理性の無い売女! かつて誇り高かった日本の持つ精神性をかなぐり捨てた今の下らない糞共の命にどれだけの価値がある!!」
 叫びを聞き、湊は思う。おそらくは嘗て、まだ日本が帝國を名乗っていた頃に兵士として戦っていたのだ、と。
 嘗ての兵士は今の日本になじめないこともあると聞く。
 つまり思想を拗らせた老人なのだろう、目の前の男性は。
 しかし、と湊は叫んだ。
「今、この日本に生きているのは嘗て貴方たちが守ろうとした民衆の子孫だ。貴方たちが必死をもってして勝ち取ろうとした平和に生きている」
「阿呆が!! 米国の口車に乗せられ誇りを失った屑が我等が守ろうとした物だと!? 認めるものか!! 御国を廃墟にした国に媚び諂う蛆虫などッッッ!!」
 絶叫が響く。
「今こそ叩き直さねばならないのだッ!! 皇国の持つべき魂をもう一度取り戻さねばならないというのだッッ!!」
「それは、まさか、貴方は悪魔の力を使うとでも言うのか!!」
「然り!! 悪魔、否、日本に住む神々の力を借りて今こそ日本に巣食う悪鬼共を駆逐し高潔なる日本を取り戻すのだ!!」
 叫びと同時に男の体は大きく膨れ上がった。
 服が弾け、中身が現れる。醜悪な肉には亡者の顔が張り付いている。どれもこれも憤怒、後悔、痛恨、怨恨、あらゆる負の感情を混ぜ合わせた形相を浮かべている。
「見ロォ、カツテ我ラ、誓イ合イシ、ハラカラタチノムネンノ姿ヲォォ!! 今コソ取り戻すゥ、有るべき日本ノ姿ヲォォ!!!」
 同時、腕が振り上げられる。
「散開!!」
 言葉を告げるや否や湊は前身。同時、射撃。巨大な体積を持つ肉体にたやすく吸い込まれるが、しかしそれは効いたように思えない。
 ――チィッ!!
 差があった。焼け石に水に思えるほどの差だ。
 叫んだ。
「ヘルハウンド! ファイアーブレス!!」
 肉の鞭を器用によけながら、声を聞いたヘルハウンドは大きく肉体を情報に跳ね上げた。
 轟音。
 莫大な量の火炎が渦を描き、肉塊を飲み込まんとする。
「甘ィイィィィ!!」
 何本かの肉塊を犠牲にし、それを防ぎきる。
 追撃。
『スクンダ!!』
 ギャリートロットの呪文が男を捕らえ、しかしそれが聞いた様子は無い。
『キカナイダト!?』
 肉塊は空に浮いた無防備なヘルハウンドの脇腹を捕らえた。
『ガッ!?』
 地に叩くつけられたヘルハウンドは大きくバウンドし倒れ伏す。
「ヘルハウンド!!」
『余所見をシテイラレルトデモ!!』
 肉塊が来る。抜刀、人間離れした動体視力は複数方向から向かい来る肉塊を斬り裂き、開いた隙間に体を滑り込ませる。
 前方へ。
 足を踏み出し、狙いは頭部。
 斬撃。
 腰を落とし、力を込め、首をはねる。
 ――殺った!!
 確信を持ち――、しかし悪寒。
 風が来る。それは上方。肉塊が此方を押し潰さんと迫り来る。後方へ飛んだ。追撃を弾き、ヘルハウンドのほうへ魔石を投げた。
 光が上る。瀕死だったヘルハウンドはその身を起こし、憎悪の視線を男に向けた。
『ユルサンゾォ!!』
 唸り声、咆哮、そして突撃。
 その小柄な身を鞭の合間に置くように、しかし確実に前方へ、
『クタバレェ!!』
 ヘルハウンドは男に齧り付き、即座に火炎を叩き込む。
 悲鳴が。しかし、死んだ様子は無い。
『貴様ラァァァアア!!』
 怒声が天を突いた。失いかけていた理性は既に千切れ、乱雑にただ肉を鞭として振り回している。
「いやぁ!?」
 声が来る。女のもの。
「委員長!!」
 湊は気づけば走っていた。
 それは義務感だった。巻き込まれた一般人を守らねばならない、という義務感。正義感などでは決して無い。
 身を飛ばす。秋乃を弾き飛ばす。
 衝撃。
 ――糞。
 それは肉塊からのものだと用意に想像できた。
 魔石を、と考えるが激痛が肉体制御を許さない。
 死を思うより先に、怒りがこみ上げる。敵への怒りだ。
 ――一太刀をッ!!
 湊はポケットに――否、胸元のナイフシースに手を伸ばす。



 秋乃は倒れ伏す湊を見て呆然とする。
 ――な、に?
 これは、何が起きているのか。混乱する中でわずかな理性的思考が総動員された。
 湊が倒れている。何故? 自分を守ったからだ。
 嫌だ、と思った。自らのせいで人が死ぬのは。憎まれ口を叩きながらも守ろうとしてくれた人が死ぬのは、嫌だ。
「イや」
 声が出る。
 死ぬのが嫌だ。死なせるのが嫌だ。まだ生きていたい。助かりたい。
「嫌」
 叫び。魂から秋乃はそれを望んだ。
「私は――」
 眼前を見る。
 肉塊があった。それを秋乃は敵だと認識できた。思う。あれを倒さねばならない。平和を乱す存在は、排除しなければならない、と。
「――戦いたい!!」
 生きたい、ではない。怖い、でもない。助かりたい、でもない。
 戦い、活路を見出したい、と秋乃は心から叫ぶのだ。
 故に、それは来た。
 まず秋乃の認識できる時間から秋乃は切り離された。白く輝く空間に秋乃はたっていた。
「ここは?」
 そこには扉があった。重厚な鋼の色をもち、無用の存在を阻む巨大なものだ。扉の前には黒いローブを着込んだ女がいる。
『貴女は私、私は貴女』
 声。掠れ、女とも男とも取れる声が秋乃の精神に響いた。混乱は無かった。予定調和のようにそれを理解し、ローブの人物の眼前に立つ。その人物は右の手を開き、その手の中にあるものを見せた。鍵だった。形の違う三つの鍵だ。
『選ぶ権利を貴女は擁する。一つは魔道、一つは魔法、一つは魔導』
 秋乃は迷わずに鍵を取る。魔法を示す鍵だ。
『其れは異界が用いし魔の力に通じし鍵。それを選ぶか――?』
「うん、今必要なのはきっとこれだから」
 秋乃はその言葉をローブの人物に返し、その横を通り抜けた。
『良い、運命を』
 言葉が来る。かすれた声は鈴の音なるような女の声に変わった。秋乃の声に其れは似ていた。
 振り向かず、扉を開いた。
 光が漏れ、世界が切り替わる。そこには先ほどまでと変わらない戦場が存在した。秋乃は眼前を睨みあげる。反撃の意思を込めて。立ち上がる。息を吸い、叫んだ。右手を眼前へ、そして左手で支えるように右手首を握り、
「アギッ!!」
 其れは炎の力を持つ言霊。火炎が舞う。それは肉塊を焼く。しかし致命傷にはなりはしない。だから、追撃とばかりにさらに気勢を上げて、咆哮。
「アギ!! アギ!! アギ!! アギィ!!!」
 火炎は直線を描き、敵を燃やし尽くさんとする。
『コチラヲワスレテクレルナヨ』
『キヲヌキスギダ』
 ヘルハウンドが援護をするようにファイアーブレスを、ギャリートロットが囮を買い陽動に、三方向からの連打は劣勢を覆す。
「もう、終われ!! アギィ!!」
 残っていた魔力を掻き集め、秋乃は火炎を収束させる。先ほどまでの火炎の比ではない、巨大な火炎の球体だ。
 轟音。
 火球は何もかも飲み込み、突撃。
『ガアァァ!!??』
 肉塊による防御は総じて無意味だった。炎はその男もろとも飲み込んだからだ。火柱が上がる。
「終わった!?」
 祈り、しかし、煙が晴れると同時にまだ姿は現れる。黒焦げの肉、最早人間とも見えないその醜悪な姿のうつろの目だけが敵意を持って秋乃をヘルハウンドをギャリートロットを捕らえている。
 ――嘘!?
 既に文字通り精も根も尽き果てたこの状況は絶体絶命で、
「ああ、終わりだ」
 声が来る。
 同時、何かが煌いた。其れは鈍い一条の閃光を描き、肉塊の額を思わせる部分に吸い込まれた。崩れていく。その肉体は既に構築の限界を向かえ、最後は灰のように。
「浅木、君?」
 唖然とし、視線を下方へ、湊も秋乃へ視線を向け交差。口角を上げて、
「良いところは頂かせてもらった」
 秋乃は笑みを浮かべる。
「馬鹿」
 と、しかし湊はうめき声を上げて、
「限界だな」
 震える手でPDAを操作。粒子になって悪魔が消えていく。
「悪いが、少し、寝る」
 湊は目を伏せた。
「え、あ? ちょっと!!」
 秋乃は叫んだ。



 心地よい、まどろみが湊を包んでいる。
 その闇はとても優しい。


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