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No.38166の一覧
[0] メガテン系オリジナル世界観風?(ネタ・習作・リハビリ)[navi](2013/07/31 19:08)
[1] 題名未定《序章・覚醒篇・1》[navi](2015/01/28 13:20)
[2] 題名未定《序章・覚醒篇・2》[navi](2014/12/27 01:59)
[3] 題名未定《序章・覚醒篇・3》[navi](2014/12/27 01:59)
[4] 題名未定《序章・覚醒篇・4》[navi](2015/01/02 21:19)
[5] 題名未定《序章・覚醒篇・5》 [navi](2015/01/07 05:44)
[6] 題名未定《序章・覚醒篇・6》 [navi](2015/01/14 06:37)
[7] 題名未定《序章・覚醒篇・7》 [navi](2015/01/28 13:29)
[8] 題名未定《序章・覚醒篇・8》 [navi](2015/01/28 13:22)
[9] 題名未定《序章・覚醒篇・9》 [navi](2016/03/28 07:39)
[10] 題名未定《序章・覚醒篇・10》 [navi](2016/01/08 01:18)
[11] 題名未定《序章・覚醒篇・11》 [navi](2016/03/28 07:40)
[12] 題名未定《序章・覚醒篇・12》 [navi](2017/08/15 17:49)
[13] 題名未定《序章・覚醒篇・13》[navi](2017/08/20 16:01)
[14] 題名未定《序章・覚醒篇・14》[navi](2017/08/24 18:31)
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[38166] 題名未定《序章・覚醒篇・6》
Name: navi◆279b3636 ID:17d1eb6e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/01/14 06:37
「おやおや」
 八畳程度の部屋に一人の男がいた。緩くスーツを着こなしハットで目元を画している。一見すればだらしないようそうだが、それは男の雰囲気とよくあっていた。
 暗い部屋だ。退廃的なバーを思わせる調度品や小物に囲まれ、室内自体がダークトーンで統一されている。
 男はダーツを手のひらで弄び、数瞬、予備動作もなしにそれをターゲットに投げつけた。写真がある。移っているのは少年で、視線がカメラを向いていないから盗撮だとすぐに理解できる。しかしそれは男にとってどうでもいいことだ。刺さった。顔面に吸い込まれるように、眉間の中央へ。
「浅木・湊君ねえ」
 黒いソファに深く座りなおし、ハットを手で押さえつけた。
 口元が見えた。笑っている。面白いおもちゃを見つけたときのような、子供の無邪気な笑顔だ。
「いいねえ、うん」
 今回の獲物はこの子にしよう。



 七月にもなれば、流石に暑さが強く身を苛む。道を行く人――、一部の奇特な趣味を持つ人間を除けば――、その大半は薄着となり少しでも涼しくあろうと涙ぐましい努力が見えた。
 その奇特な趣味もしくは異常者の一部の中に浅木・湊は存在した。半袖のシャツを着て歩く学生の中で一人ブレザーをきっちりと着こなし、あたかも暑さを感じさせない。ネクタイも生徒手帳に記載されているとおり、緩めることなどしない。
 鬱陶しいと思った。道を行く多くの学生が自分を見て何か噂話をしている。分からなくはない。社会人がスーツを着こなす。否、社会人ですらクールビズとやらで薄着をしているであろう中で厚着をしていれば目立たないわけもない。
(言いたいことははっきりと言えば良いだろうに)
 湊は鼻を鳴らした。
 こんな格好をしているのにはわけがある。
 浅木・湊は悪魔使いだ。馬鹿正直に誰かに言えば高校生にもなって中学生がかかるような疾患にでもかかったのかと白い目で見られるだろうが、事実なのだからしょうがない。
 なんにせよ普段は学業にいそしみながらも夜は梓馬市を縄張りに悪魔を狩る生活に身を浸しているのだ。
 が、そこには弊害があった。だんだん夜の生活に引きずられているのだ。
 要するに、少しでも身を守る衣服が厚く、硬くなければひどく不安になってしまう。戦場帰りのアメリカ軍人であろうか。ともあれ、そんな事情もあり湊は模範学生のごとく――、異常にも冬服のまま夏を過ごしている。
「よう、湊、今日も暑そうだなあ」
 声がかかった。低く威圧感があるが、それを感じさせないほどにフランクな口調。
「崇平か」
 後ろを振り向く。友人、高橋・崇平とその後ろには峰岸・誠一がいた。どちらも薄着で、軽い足取りだ。
「俺は趣味に難癖はつけないが、脱水症状にだけは気をつけろよ」
 誠一の言葉に少し目を丸くしつつも、ありがとうとだけ答えた。
 それにしても、と崇平は、
「湊、こんな暑いのによくまあ、汗一つかかないよな」
 そう、それは湊の異常さを際立たせる要因の一つでもあった。
 湊には心当たりがあった。夜のことだ。最初は湊も汗を流し、脱水症状で死に掛けることも多々あった。しかし日を追うごとに汗の量は少なくなっている。適応しているのだろう。悪魔との戦い、死の淵、生と死の境界線におけるギリギリで少しでも生存を望む肉体がより戦いに向くように変化しているのだ。それも、ただ変化しているのではない。悪魔を殺したときほんの少し肉体が軽くなる瞬間がある。予想はできた。MAGがCOMPに溜まるだけではなく、肉体にも少しだけ蓄積されているのだ。要するに経験値のようなものだと結論付けた。
 思わぬ誤算だった。別に悪い変化ではなかったので放っておいたのだが、他人にやたらと噂されるとどうにも鬱陶しい。
「まあそういうこともあるさ」
 なかなかどうして、着々と自分が人間を止めていると言うことを理解すると少しブルーになる。
(まあ、メガテンでも大体人間やめてる奴が大半か)
 まだ平和だった時期に落ちてたナイフで悪魔と渡り合い最終的にLaw・Chaos陣営どちらも相手取ったり、デビルサマナー時空ならば殺されかけた挙句肉体を取り替えられたと言うのに一瞬で順応し裏稼業にいそしんだり、と考えてみれば最初から人間から一歩踏み外したようなのばかりだ。
「まあ、あれだよなあ、体育の後で汗臭くならないのは良いよなあ」
 普通の人間からしてみればそう見えるのか、と湊は思う。そうだな、と相槌を打ち、少しだけ目線を揺らがす。
 見知った顔があった。黒く長い髪を後頭部で纏め上げた女、湊が所属するクラスの委員長、成田・秋乃だ。
 いつもは凛々しい顔を浮かべていると言うのに、どうも今日は様子がおかしい。
(どうでもいいか)
 しかしすぐに思考を打ち切った。考えてみれば接点なんて最初にプリントを渡されたくらいで、それ以降は特に接触があったわけではない。
 それよりも、と、
「そろそろ夏休みだな」
 湊はそんな話題を振った。崇平だけに話題を出させるのは悪い気がしたから、適当な話題を出そうとしたら自然と言葉が出た。
 乾いた生活をしている。せっかく擬似的に、否、他人の肉体に寄生してまで高校生活をやり直していると言うのに、新しい趣味を見つけたわけでもない。新しい体験と言えば精々悪魔狩りくらいであり、殺伐としている。
 この機会に何か新しい趣味でも見つけてみようか。
 声が来る。崇平だ。
「おお! そうだ、後三週間もすれば夏休みか!!」
 嬉しそうな顔だ。やはり学生には夏休みと言うのは楽しいことらしい。もう忘れてしまった感覚だ。
「中学と違って、高校ともなればいろいろできるようになるからなー! 湊はなんか予定はあるか?」
 海に行こうぜ海! とはしゃぐ友人を見つつ、
 ――悪魔狩りくらいしかないな。
 どうにも枯れた思考が思い浮かぶ。
 まあ、
「ないな」
 無難に告げた。
「よっしゃ、じゃあ海でキャンプしよう、キャンプ」
「テントでも張ってか?」
 誠一が声を上げた。おうよ、と崇平が嬉しそうに言う。
「そ、バーベキューもしようぜ、ほかには花火とか?」
「男三人でか?」
「……お、女は無粋だし――、良いんだって! 話が合わないのがきても萎えるだけだしよ!」
 別に女だけのことを言っているわけではないはずだ。湊を除けばそれなりに男子にも友人がいるであろうに。
「それよか、やるなら金策もしないと! バイトだバイト!」
「バイトか、あてがあるのか?」
 崇平は笑い、
「これが結構伝手がありましてねえ、そこそこ良い給料が期待できるさ」
「ほう、それは期待してもよさそうだな」
「ばっか、お前、誠一もなんかやるんだよ!」
「別にやらないとは言っていない……、湊はできそうか?」
「俺は――、まあできるだろうな」
 割と親ばかな湊の両親だ。社会体験の一環とでも言えばあっさりと許可するだろう。
 決まりだな、と崇平が声を上げた。
「じゃあやるとしたら八月の最後らへんだな! 宿題もそれより前に終わらせて気兼ねなく遊ぼうぜ!」
「まったく、お前のその言葉は聞き飽きたよ。一度も守ったためしがないだろう?」
 そんな騒がしい日常の中に自分はいるのだな、と湊は思った。
 ――悪くない、な。
 ああ、悪くない。



 奇異の視線に晒されながら学業終了の鐘がなるのを湊は聞いた。特に変哲もない六時間の授業をこなし、開放された多くの学生は笑みをこぼしている。これからは放課後の自由を満喫するなり、部活動に精を上げたりするのだろう。
 湊は今日掃除当番ではない。故に、すぐに鞄を持ち、クラスを出た。向かう先は図書館だった。足を向けるのはここ最近になってからだった。図書館は一階にある。湊のクラスは二階にあり、向かうにはクラス前、東階段から降りて西側に歩く。存在すると言うのに、無いかのように生徒たちは図書館の前を通り過ぎていく。入るのは湊だけだ。
 図書館に人はいなかった。掃除をするのは図書委員で月に一回十数人がかりでやるらしい。貸し出しをするためにいる中年の女性教諭を除けば湊くらいしか人がいない。読書家の一人二人いても良さそうだが、それならば近場には開放されている大学の図書館があるから大半はそちらに行く。
 湊は静かな空間を好んでいるからこの状態は都合が良かった。蔵書云々ではなく、一人で静かに本を読むのがすきなのだ。これでコーヒーがあればさらに良いが、飲食禁止なので我慢する。
 本をあさった。ここ最近の著者ではなく、少し古い作者のほうが好みゆえに自然と新書から外れたほうに目線が行った。
 本棚は六つに分かれていた。新書は入り口側に、次に歴史書が二つの棚を陣取り、次に語学の本、その他の雑多な本があり、最後に辞典のある棚と続く。
 歴史書の本棚には著名な作者の本も並んでいた。それはゲーテなりトルストイなり、あとは日本ならば夏目・漱石や芥川・龍之介と普通の学生ならば退屈そうなものばかりだ。
 どれをとろうかと悩んでいると、声がした。
「あ、先生ちょっと席をはずすから、本を借りたかったら、カードに書いて提出しておいてね」
 本の貸し出しは機械化されていないから、貸し出し用のカードに手書きとなる。
 はい、と湊は一声それに返した。すぐに、扉が開く音がして――、
「?」
 しかしすぐにまた扉が開いた。
 誰かが入ってくる。教諭の足音ではない。硬い靴底がリノリウムの床に当たるたびに高い音が反響する。
 ――革靴?
 少なくとも校内を革靴で歩くような人間はいない。いるとすれば一部の教諭くらいだ。
「お、いたいた!」
 男の声だ。しかし、それは聞いたことの無い声。見る。そこにはスーツの男が立っている。漆黒のスーツに黒いネクタイ、目元はハットを目深にかぶり隠されているが軽薄な笑みを浮かべる口元が特徴的だ。
 男はなれなれしく歩み寄り、
「やあ、君が浅木・湊君だね?」
 ――この男ッ……――!!
 嫌な予感が背筋を覆った。生理的な嫌悪と警戒。本能が警鐘を鳴らし、肉体が反射的に構えを通りそうになる。
 しかしそれを知ってか知らずか男は笑みを浮かべてままだ。
「うんうん。いいねえ、その警戒感。そそるそそる」
 ――危ない、この男は危ないッ!!
 後ずさる。後方が壁と言うのは分かっているが、しかし肉体は動く。
「あ、そうそう、そういや自己紹介してなかったねえ。僕の名前は――、うーん、そうだねえ、じゃあロートとでも読んでほしい」
 それと、と、笑みを深め、
「世間一般ではダークサマナーとも呼ばれてるかな? フリーのだけど」
 ――ダークサマナー!
 ますます嫌な予感が増していく。何かヤバイ物に意図せず巻き込まれているような。
「自分に何か……?」
「おお、そうだったねえ」
 ロートは笑い、
「つまりねえ、僕は遊びに来たのさ」
「遊びに?」
 湊は即座に理解した。これはもう駄目だ。回避不能。
「そうだよ、君と遊びに来たのさ」
 心の中で嘆息し、
「お断りします」
「それは無理」
 なけなしの抵抗は一瞬で引きちぎられた。
「僕みたいな人種はさ、常に面白いことに身を浸していないと新じゃ死んじゃうんだ。退屈を呪い常に刺激を、それこそが至高。そこそが究極――、理解できる?」
「思想としての理解はしましょう。ですが、理性としては否定させていただきます」
「そう? まあそんなことはいいか」
 本題を、と、
「ここ最近さあ、梓馬でたくさんの依頼をこなしているのは君だろう?」
「……そう、だと思います」
「うーん、自分のことってなかなか理解できない者なんだねえ。そうなんだよ」
 ロートは自らの胸元に一瞬手を入れて、何かを取り出した。それは一見ペンに見える。鈍い銀色、キャップ部分には紐をくくるための円があった。
 湊はそれを知っている。大正時代に使われた、悪魔召喚プログラムの前身だ。古き、悪魔を使役するべき魔具。
「封魔管――!?」
 お、と、ロートは笑い、
「こんなレトロな物を知ってるんだ? 通だねえ。――なんで知っているのかは分からないけどねえ」
 ――薮蛇だったッ。
 そうだ、自分は封魔管など知っていて良い存在ではないのだ。
「と、言うわけで、遊びのルールを説明しようか」
 ロートは封魔管を一度宙に投げた。封魔管は空中で数度周り、またロートの手に戻る。人差し指と中指の間に挟み、湊のほうへ突き出し、
「僕がこれを梓馬市に五個仕掛ける。君はそれを解除する――、簡単だろう? ルールはそれだけ。ああ、どんな手を使ってもかまわないよ? 代わりに僕も妨害させてもらうから」
 ふふん、とロートは鼻を鳴らし、
「期間は一週間、オゥケィ?」
 頭を抱えた。何故こんな状況に巻き込まれているのだ。自分が一体何をしたと言う。己にできる精一杯のことを行い、己のみを守ろうとしているだけではないか。何故、こうも厄介ごとが舞い込んでくるのか。
「一応聞きますが、一週間過ぎるとどうなるんですか?」
「まず、封魔管が壊れるね。もちろん、壊れたからといって悪魔が死ぬわけでもないから悪魔が野放しになる。それだけじゃないよ? たとえばそうだな。君ゲートパワーって概念は分かる?」
 人差し指を立て、教師が講義をするように、
「魔界が今僕たちが住んでいる現世とどれだけつながっているか数字に落とし込む概念なんだけど、それが一瞬だけ急激に上がるんだ。本来は出現しないようなレベルの悪魔に引っ張られてさ――、それが意味すること、分かるよね」
 わからないわけが無い。
「本来出現するべきではない悪魔が出現するようになる……」
「そ、普通ならゲートパワーの関係で『外道』スライムになるような悪魔が出現するようになる!」
 なんという厄介なことをしてくれるのだろうか。この目の前の馬鹿は。
 しかし、嬉しそうにロートはさらに告げる。
「基本的に、現政府はゲートパワーを平均3程度にとどめるように調整しているんだけど、この五個の封魔管の解除に失敗すると――」
 口でドラムロールを回しつつ、ジャンっ、と、
「なんと、一瞬だけどゲートパワーが最大40、最低でも20まで上がるのだぁッ!!」
 頭を抱えた。馬鹿とキチガイにつける薬は無いが、それでも欲しいと思うのは人情ではないだろうか?
 湊の心情などお構いなしに嬉しそうな笑いを上げ、しかしすぐに腕時計を見てから冷や汗を浮かべ、
「おっとぉ、そろそろ行かないとねえ、会合に遅れちゃう遅れちゃう。ヤバイヤバイ」
 ロートは背を港に向けて、最後に釘をさすように、
「そうそうもしもこれを誰かに他言するようなら、期間を待たずに封魔管はBAN! 仕掛けが解除されて悪魔が解き放たれちゃうからおきおつけあれ!」
 そういって彼は消えた。風が残る。おそらくトラポートかトラエストかであろう。
 残された湊は呆然と呟いた。
「厄日だ」



 いらいらとした面持ち、乱雑な歩みで、湊は人気の無い夜の通りを歩いている。電子音が声になり、湊の耳に届いた。『妖獣』ヘルハウンドのものだ。
『ククッ、アレテイルナ、サマナー』
「荒れずに入られるか、何故俺がこのようなことに巻き込まれねばならないんだッッ!!」
 静まり返る夜に湊の声が響き渡る。端から見れば独り言をPDAに叫ぶ痛い人だが、それすらも気にならないほどの荒れようだ。
 理由は、ある。昼間のロートの件だった。
 わけも分からず大事件を起こそうとする馬鹿に巻き込まれた挙句、援軍も期待ができない。失敗すれば死ぬだけではなく、さらにこの世界に悪魔が大量に解き放たれることとなる。悪夢だ――、否、覚めないから現実だが。
「畜生め、冗談は冗談だけで勘弁してくれ、クソッタレ!!」
『マア、イイデハナイカ! ソレヨリモイッポンクライワザトシッパイシテシマエバイイ! コノヨヲスゴシヤスクナルゾ』
 湊は鼻を鳴らし、
「馬鹿を言うな。そんな面倒な状況になってたまるものか。俺はそういう面倒が嫌だから、自分の身を守るために戦っているんだ」
 そうだとも、
「俺は御免だぞ、毎日悪魔に命を狙われながら生きる日々なんて」
『フン、ヤッテイルコトヲカクサナクテイイトイウノハラクダトオモウガナ』
 それはそうかもしれないが、命にかかわるよりはマシだ。
 それよりも、と気を取り直す。湊は今日こなすべき依頼を思い出す。COMPのメモにも概要は記載してあるが、記憶できないほどではない。
 今日こなす依頼は梓馬高校旧校舎の悪霊を退治するという依頼だった。
 梓馬高校の北側には、昭和初期から中期までにかけて使われた校舎が存在する。本来は早くに壊される予定だったが、地元の老人たちの反対にあい取り壊しができない状況に陥っていた。耐久性に不安があるから資料置き場としても使えない。それこそ維持費だけがかかるお荷物と陥っていたのだが、最近そこに妙な噂が流れ始めた。悪霊の噂だ。学校と言うコミュニティの中ではよく話の種とされるオカルトな噂だ。
 結果は当たり。噂話は現実で、実際に旧校舎には悪魔が出現しているのだという。例によって湊は立候補し、今日も悪魔狩りに勤しむこととなった。
 ソレニシテモ、と欠伸交じりにヘルハウンドは、
『オマエモリチギナオトコダナ。ワザワザコノヨウナトキニイライヲコナサナクテモイイダロウニ』
「それは無理だ。俺の信用問題にかかわる」
 『かつて』の記憶がよみがえる。社会に出ればできないという言葉は封殺される。やれと言われたら、我武者羅にでもこなさなければならない。それがどれだけ無茶なことであっても――、少なくとも日本では。
 ――そんなんだから日本にはブラック企業が溢れるのだがな。
 無茶を通して道理を無いことにする。仕事をすることは美徳、自分を殺し他社と迎合することこそ良しとする風潮。くだらない話だ。
 ――と、言うか俺は何でこんなことを考えているんだ。
 馬鹿な思考を振り払うように、首を振った。なんにせよ、ロートからの無理難題は今日を除けばあと六日間期間が残っている。その間でベストを尽くす。それ以外はどうにもならない。
「ギャリートロット。お前はどう思う? 俺は馬鹿か?」
 ギャリートロットは興味なさげに、
『ドウデモイイナ』
「そうかい……」
 マイペースなものだ。とはいえ、少しだけ心が軽くなる。と、言うか、自分がこんなことを考えていることが本当に馬鹿馬鹿しくなる。
 気合を入れた。くだらない話をしているうちに高校に上がる坂が見えたからだ。
「さあ、行こう」
 湊は坂を踏みしめた。



 狂いそうになるほど、今日の月は美しい。否、既に狂い始めたのだろう。
 それこそ、運命という物が。


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