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No.37485の一覧
[0] 【ネタ】Muv-Luv~The Nursery Tale of Love and Bravely~【タイトル決定】[nov](2013/09/01 22:04)
[1] 1/愛ゆえに[nov](2013/05/04 12:17)
[2] 2/死の先を逝く者達[nov](2013/08/01 23:22)
[3] 3/名誉と栄光のためでなく[nov](2013/06/21 14:15)
[4] 4/幸はここにあり[nov](2013/09/01 21:57)
[5] 5/Only is not Lonely[nov](2013/07/15 21:05)
[6] 6/噫無情[nov](2013/09/01 22:06)
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[37485] 2/死の先を逝く者達
Name: nov◆8a622b39 ID:bc79139e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/01 23:22
1999年 日本 帝国大学 オルタネイティヴ4占有区画 香月夕呼の研究室


香月夕呼は、苛立っていた。
現在建設中の横浜基地へラボを移設する準備、それに伴って本格化するオルタネイティヴ4に必要な人員の選定・確保、帝国・国連加盟各国の要人との交渉、
明星作戦によって奪還した横浜ハイヴから日々届く最新のデータやサンプルの分析・解析、そして何より00ユニット完成へ向けた研究等々、やるべき事はまさに山積していた。
そんな、時間も人手も全く足りていないまさしく猫の手も借りたいこの時に、

「そう睨むな、香月博士。我々は貴女に害を成す存在ではありません。それは信じてくれないかしら、夕呼」
何故、こんな訳のわからない侵入者の相手などしなければならないのか、と。
唐突、としか言いようがなかった。警報も無ければ、研究室のドアが開いた音さえしなかった。夕呼が気付いた時には、既に彼女のデスクの前に階級章の無い国連の軍服を着た見知らぬ男女が立っていた。
奇妙な二人組みだった。女の方は、夕呼が状況を忘れて息を呑むほど美しい顔(かんばせ)と豊かな肢体を持った女だ。灰色の髪が妙に目を惹くだけでなく、形容し難い独特の雰囲気を纏っていた。
その上、声音や口調が常に変化しているのだから、異様極まりない。
だがそれ以上に、夕呼は男の方を注視していた。
男は顔立ちからして恐らく日本人、年齢は二十に届くまい。一目で鍛えられていると分かる体躯に、端正な顔立ちをしているが、女ほど突き抜けた容貌をしているわけではない。平凡、と言っても良いかもしれない。
だが、明らかに男は普通ではなかった。表情にも、瞳にも、一欠片の感情さえ宿っていない。
オルタネイティヴ3により生産されたESP能力者であるトリースタ・シェスチナ……社霞も人間味が薄かったが、零ではなかった。だが、この男は違う。全く人間らしさが感じられない。まるでマネキンのようだと、夕呼は思った。
そこまで考えたところで、男から視線を外し夕呼は女を見た。どう見ても男はお喋りには見えなかったし、交渉役は女の方であるのは明らかであったからだ。

「それで、用件は何かしら。私は忙しい身でね、なるべく手短に済ませてもらいたいのだけれど」
「そうそれ、それでございます。アタシ達のもくてきは、お忙しい香月博士のお手伝いをすることです」
「あらそう、それは嬉しいわね。それじゃあコーヒーでも淹れてもらおうかしら」
「問題ない。では淹れている間に、送っておいたファイルに目を通してもらおうかしら」
異常に愛想の良い笑顔のまま無愛想な口調で応じると、女は本当にコーヒーを淹れ始めた。しかし、そのちぐはぐな女に反応することが出来ないほどに、夕呼は驚愕していた。
何時の間にか、先ほどまで使用していたパソコンのモニターに、見知らぬファイルが表示されていたのである。

「……一体、どうやって」
「実は私、魔法使いなんですよ。得意の魔法で、ちょちょいのちょい、というわけさ」
「随分電子機器に詳しい魔法使いね」
「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないそうで」
女と軽口を交わしながら夕呼は思考し、そのファイルを開くことに決めた。ウィルスの可能性も当然考えたが、研究データのバックアップは取ってあったし、
何より、こんな芸当が可能な時点で女がその気ならウィルスを仕込むことなど容易いだろうと判断したためであった。そうしてファイルを開いてすぐ、夕呼は硬直した。
いや、それは間違いだ。マウスを握る彼女の繊手だけは、微かに震えていた。
そこに、相変わらず愛想の良い笑顔を浮かべたまま、女がコーヒーを夕呼のデスクに置いた。ご丁寧に、ソーサー付きだ。

「気に入った?」
「アンタ、一体何者よ。こんなものを私に見せてどうしようって……そもそも、このデータは!」
「プレゼントですよ、香月博士。しかも、それはほんの手付。それ以上のものを、私と、ワタシの親分は提供するつもりです。勿論、無償でというわけにはいかんがな」
ちらり、と女の視線が部屋に入ってから無言のまま微動だにしていない男に向けられた後、再び夕呼に帰ってくる。

「……手伝いたいと言っておきながら、代価を要求するとはね。一体どれだけふっかけられるのかしら。そもそも、このデータがブラフの可能性だってある」
「疑念も当然。ですが、聞くだけならばタダだ、聞いて損はなかろう。しかも、あなたには一切デメリットがありません。それのみならず要求を呑んでくれればお前は今以上の権限、資金、人脈が手に入り、そして何よりも貴重な"時間"を浪費せずに済む」
「良いことづくめって訳ね。素晴らしい、聞くのが怖いくらいよ。でも、良いわ。言ってみなさい」
夕呼に促された女が口を開きかけた所で、研究室に来客を知らせるブザーの音が響いた。

『夕呼、今少し良いかしら?』
来客は、夕呼が最も頼りとしている人物である、神宮司まりもだった。
夕呼は、素早く奇天烈な二人の様子を窺ったが、少しも動揺した様子は見られなかった。それどころか、女は目線で、まりもの入室を促してくる始末だ。
しかし、まりもの来訪は夕呼にとって好機だった。女の奇妙な自信も、知ったことではなかった。

「どうぞ、神宮司軍曹」
このような状況でも、まりもならばどうとでもしてくれるという信頼が、夕呼の中にはあった。



『どうぞ、神宮司軍曹』
返事と同時に電子錠が解除された音を聞きながら、まりもはホルスターに収めた拳銃に手をかけた。
まりもと夕呼は、旧知の仲であった。故に、香月夕呼がどんな人物であるか誰よりも理解している自負があった。
そして彼女が知る限り、夕呼が自分を苗字で、更には階級付きで呼ぶようなことは天地が引っくり返ってもありえない。
殿下の前であるならば或いはありえるかもしれないが、そのようなアポイントメントは聞いていないし、そもそも来客が来た気配もなかった。

で、あるならば。

入室すると同時に、まりもは躊躇なく夕呼のデスクの前に立つ二人の人物に対し発砲した。即死はさせずに、しかし確実に行動不能にするために。
まりもの射撃は速度、正確さ共に申し分のないものであった。例え相手が訓練を受けた人間であったとしても、反応出来なかったであろうことは間違いない。
ただまりもにとって不運だったのは、

「言った筈だ。ボクは魔法使いだとね」
相手が普通ではなかったことだ。
まりもが女に放った弾丸は全て外されていた。女が躱したわけではなく、またまりもが狙いを外したわけではない。明らかに不自然な軌道を描き、銃弾が女の体を逸れていった。
しかしながら、目の前で起きたありえない事象に驚愕する余裕はまりもにはなかった。銃弾を自力で回避した男が、尋常ならざる速度でまりもに迫っていたからだ。
対処せねば、とどうにか反応し思考を加速させるが最早手遅れ。握っていた拳銃は何処かへ飛ばされ、気付けば両足を刈られていた。
あまりに速すぎる。スローに感じられる視界の中まりもは必死に男の姿を探すが、既に至近にいる筈の男の姿を見つけられない。
床に落下した衝撃で通常の思考速度に戻ったまりもの眼前で、硬い軍靴の踵がピタリと止められていた。
男が足をどけても、まりもは動かなかった。いや、動けなかった。男の硝子玉のような瞳から目を逸らせないまま、ただ荒くなった呼吸を繰り返すことしか出来なかった。



「どうです。うちの親分は凄いでしょう? まあ、今の攻防で注目していただきたいのは、どちらかと言えば親分より私の方なのでございますが」
真顔のまま気楽な調子で言葉を投げかけてくる女によって、漸く夕呼は自失から抜け出した。この状況で僅かな時間とはいえ惚けた自分の失態に、思わず唇を噛み締める夕呼。

「……分かっているわよ。さっき銃弾から身を守った術のことでしょう。何が魔法使いよ。電磁波か何かを使った装備でしょ、それ。思いっきり科学じゃないの」
電源の落ちたパソコンを一瞥した後、にやにやと笑っている女を睨む夕呼。女は夕呼があっさりと魔法の正体を看破したことに驚いた様子は見せず、愉快そうに笑みを深めるのみ。

「先ほどの言葉を繰り返しましょう。充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」
まさしく、女の言葉通りだった。夕呼は一目で女の手品のタネを見破ったが、だからこそどれほど高度な技術によるものか理解してしまった。
それ故に、思ってしまう。まるで魔法のようだと。

「我々の持つ技術の一端を見て、それが高度なものであると理解していただいたとした上で、ワタシ達の条件をお伝えしたいと思います。とは言ったものの、たったの二つ、それも条件とも言えないようなものですが」
夕呼のデスクに腰掛けると、指を一本ピンと立ててみせる女。

「まず一つ目」
「人類に黄金の時代を」
夕呼の予想に反し女の声を遮るように言葉を発したのは、男の方だった。宙に視線を彷徨わせながらの男の言葉は、小さくも大きくもなく、これといって特徴のない声音だった。
そしてその瞳にも、声にも、相変わらず感情は宿っていなかった。

「……というわけで、これは親分の条件なのよね。早い話、人類に完全無欠の勝利を、って訳。そんなの、今の全人類共通の目標だろう? 条件とさえ言えない代物だよね」
「確かに、そうね」
女の言うとおりだった。BETAを滅ぼし、地球に平和を取り戻すことは、全人類の悲願だ。夕呼自身も、人類を救済する聖母となるため、努力しているのだ。
奇妙なことに、夕呼は男の言葉を素直に受け取った。男の言葉を全く疑うことなく信じた。夕呼自身にも分からない心の奥底に宿る何かが、夕呼に語りかけてきたのだ。男の言葉を疑うことは"恥"であると。
となれば、気にかかるのはもう一つの条件。恐らくは、この奇天烈極まる女の望み……。
途端、夕呼の肌が粟立った。急激な女の雰囲気の変化を察知した時には、デスクに腰掛けていた女は、既に夕呼の眼前までその顔を寄せ、限界まで開かれた眼(まなこ)で夕呼を捕らえていた。

「そして、二つ目。これはアタシの条件だが……」
夕呼は、目を逸らせない。最早物理的な圧力さえ感じられるほどの女の強い眼差しに、完全に呑まれていた。

「親分の役に立て。親分に尽くせ。親分のために働け。親分の願いを叶えろ。親分を愛せ……! それだけが唯一、彼に!」
まるで数多の乙女達が泣き叫んでいるかのような、聞く者に憐憫の情さえ浮かばせるその女の声に宿る感情は、

「オズ」
平らかな男の声により、嘘のように消えていた。
「いや、失礼しました。アタシとしたことがついつい興奮してしまった。だがその様子なら、夕呼も我らの申し出を受けてくれるみたいですね。良かった。
これでボク達は一蓮托生、手と手を取り合う仲間というわけね。Au pas camarade!(友よ、さあ行こう!)ほらほら親分、神宮寺軍曹をお助けして」
デスクから軽やかに飛び降りると、くるくると回りながらまくし立てるように言葉を発し続ける女。女の動きに合わせて長い灰色の髪が宙を舞う。その灰色に遮られ、女が今どのような表情を浮かべているのか、夕呼からは窺えなかった。
前触れ無く、女がその動きをぴたりと止める。顔にシニカルな笑みを貼り付けて、芝居がかった動作で綺麗にお辞儀をしてみせた。

「名乗りが遅れたが、私はオズ。魔法(かがく)そのものの魔法使い。親分の子分をやっています」
オズと名乗った女の言葉が夕呼の耳に入り、その明晰な頭脳に届き一つの閃きが生まれた瞬間、夕呼は堪らず立ち上がった。
そんなことはありえない、という思いが第一にあった。だが、女の見せた技術、魔法(かがく)という言葉、そしてオズという名前。そこから導き出される、女の正体は。

「ビンゴ、当たりですよ夕呼。ワタシは博士の目的、その具現。生体反応0、生物的根拠0……だから00(オズ)。00ユニット、よりは人間らしい名前でしょ? それでね」
呆然としている夕呼を気にした風もなく、跳ねるような歩みで男の傍らに立ち、その体に絡みつくように抱きついた。



「この人は、飛ばされてきた子供、脳の無いカカシ、心の無いブリキのきこり、臆病なライオン、そして愛しく憐れな、私の親分。名前は――白銀武っていうんですよ」



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