「そうだ、料理をしよう」
織斑先生の気分が落ち着くのを見計らって、一夏が唐突に切り出した。
セシリアさんの料理を忘れたか、一夏。以前にこっそりと嘔吐したんだぞ、お前。
人数が人数なので、ホームパーティみたいにしたかったのかもしれない。おれと二人だとゲームくらいしかすることないだろうし、ここまで大勢だと返って出来る遊びも限られてくる。
おまけに眼光が危ない織斑先生までいるのでハメも外せないし。一夏が冷蔵庫を漁るが、在庫が寂しいので調達に買い物に繰り出すことになった。
黒服さんに挨拶して、全員で真夏の空の下に顔を出す。太陽が中天に差し掛かり、肌を焼く陽光と湿った熱気が肌に纏わりついた。水平線には雲が立っている。
イギリス生まれのセシリアさんなんかは日傘をさしているが、それでも辛そうだ。外国人には日本の夏は地獄だと聞くからなぁ。
基本的に寒冷な欧州に住んでいた人には居心地が悪そうだ。仮に一夏がセシリアさんと結ばれたら、やはり一夏が婿入りするのだろうか。
セシリアさんに兄弟がいるとは聞いたことがないから、それが自然かな。果たして一夏は英語を話せるようになるのか。イギリスの不味い食べ物に我慢できるのか。あっちは食材からして土が痩せているから美味しくないんだよねぇ。
料理にうるさい一夏なら憤慨して日本食を作っていそうだ。そっちの方が当人にもセシリアさんにとっても幸せかもしれない。
おれは横を歩くラウラの様子を窺った。
「だいじょうぶラウラ。暑くない?」
「平気だ。私は日頃から鍛えているからな」
得意げに笑うラウラに、つい頬が緩む。ラウラの玉の肌が赤くなっては大変なので、事前に日焼け止めを塗っておいて良かった。
ほっこりするおれを見て、シャルロットは唇を尖らせた。
「なんか榛名って、ラウラには甘いよね」
半目で睥睨されて、納得行かずに眉を寄せた。だって可愛いんだもん。
便乗して会長も手をワキワキさせて躙り寄ってきた。
「可愛い子は食べちゃいたくなるのよね~」
「ま、また貴様か! は……母っ」
「やめてください! うちの子に何するんですか!」
駆け寄ってきたラウラを抱き寄せるようにして庇うと、皆がおれを可哀想な人を見るような眼差しで見た。
鈴さんがため息をつく。セシリアさんが心配そうに右手を胸元で握りしめた。織斑先生がかぶりを振った。
「アンタ……疲れてるのよ」
「家族が恋しいのでしょうか……」
「金剛、ラウラはお前の娘ではない。ラウラ、金剛はお前の母ではない。ついでに言うなら一夏もお前の嫁ではない。まったく、こんな当たり前のことを教師の口から言わせるな」
ボロクソだった。ラウラが不安げにおれを見上げたので、おれは勇気づけるべく力強く頷いた。
おれたちは無言で通じ合える。もう何も怖くない。
絆を確認していると、それまで黙っていた一夏が名案とばかりに指を立てて言った。
「でも、千冬姉と榛名が結婚したら、榛名はおれの義兄になるよな。そうなったら、榛名をお義兄さんって呼ばなきゃいけなくなるな」
あはは、と一夏が相も変わらず清涼感漂う笑顔を振りまく。前にも聞いたな。
一夏としては、ウィットに富んだギャグのつもりなんだろうが、空気が読めていなかった。
「一夏、お前は黙っていろ!」
「何でいちいち火に油注ぐような真似すんのよ、アンタは!」
「ち、ちょっとした冗談だろ」
笑えない……現にシャルロットの瞳が冷たく乾いていってる。今にもボートに乗りそうだ。
近場のスーパーの空調が熱を冷ましてくれるのを祈るばかりだ。
「なんだか、こうしてると同棲したての恋人みたいだね」
「え? お、おう」
一夏行きつけのスーパーは、やはりおれも行き慣れたところだった。これだけ近所なのに一度も面識がないのが不思議なくらい。
全員がカゴを片手に思い思いの食材を手に取る中、おれとシャルロットは二人で行動していた。野菜を選ぶシャルロットの背中から、思いもよらない言葉をかけられて声が上擦る。
空調が効きすぎてないかな。鳥肌が立つんだけど。
「シャルロットって料理できるの?」
「む、榛名も失礼なこと言うね。これでも料理部に入って練習してるんだよ?」
口を尖らせる。遠くではセシリアさんが暴れて鈴さんに取り押さえられていた。
フランスは食事が美味しいことで有名だから、シャルロットの舌も肥えていそうだ。逆にセシリアさんの舌は退化していそうだ。
そんなにタバスコ買って何に使うんだろう。スープにタバスコって入れるっけ?
「フランス料理でも作るの?」
「ううん。最近習った日本食を作ってみようと思う。あっちの調味料の持ち合わせがないから」
吟味した末にキャベツを一玉カゴに入れ、おれに向き直る。
「榛名はなにか食べたいのある? 僕が作れる範囲でなら頑張ってみるけど」
「おまかせする。シャルロットが一番自信あるの食べさせて」
「う……ハードル上げないでよ。いじわる……」
拗ねたのか、上目遣いに睨まれた。セシリアさんが、次は緑の食材を……とか言って目を皿のようにしていた。
食材って色で選ぶものだっけ?
「ねえ、榛名」
「ん?」
「日本人ってみんなロリコンだって聞いたけど、榛名もそうなの?」
「違う」
どこで仕入れたのか、全日本男児に不名誉な肩書きを押されている事実を頑として否定する。
それは日本人が童顔だから海外から見ると幼く見えてしまうだけだ。決してロリコンなわけじゃない。
……そうだよね?
「よかった。榛名、急にラウラに夢中になってたから、本心では小さい子が好きなのかと思っちゃったよ」
胸を撫で下ろすシャルロットに、なぜか背中に汗を掻いた。
いや、みんな急に態度が変わったから、ラウラに縋るしかなくなってたんだが。
おれは優しくされると背後で何か良くないものが蠢いているのではないかと、奥の奥を勘繰ってしまうのだ。
三人かしまし娘とか腫れ物扱うみたいだし、そんなにおれってすぐに死にそうに見える?
鮮肉コーナーで難しい顔で整列された牛肉と睨めっ子している一夏に気を取られている隙に、シャルロットが寄り添うように隣に並んでいた。近い近い。
「ゴメンね。僕、ウザいかな?」
「シャルロットをそう思ったことなんて一度もないよ」
不安げな瞳に言ってやる。淀みなく言えた自分を褒めたい。臭いセリフは言い慣れてないから普段なら噛むか、そもそも口にできない。
見上げる瞳に視線を吸い付けられる。周囲に目を向ける暇もない。
「じゃあ……どう思ってるの?」
「……」
スーパーでやる会話ではないよね。目を背け、口を噤む。一瞬、顔を曇らせたあと、シャルロットは愛想笑いを浮かべた。
「あ、あはは。いきなりこんなこと言われたら誰だって困るよね。ゴメン、なに言ってるんだろう、僕」
らしくないと言えばらしくない。でも、寂しがりやな一面があるのも知っていた。近頃は、その部分が顕著になってきている。
「……榛名の周りが賑やかになってきたからかな。怖くなってるんだ。僕、また一人になっちゃうかもって。
榛名が初めから一夏みたいに女の子に囲まれてたら、こんな風にはならなかったと思う。榛名のいいところ、女の子では僕しか知らなかったのに……」
男の理想像みたいな子だと思う。基本的に男を立てて、愛嬌もあって、努力もしていて、でも男を転がす強かさも持っていて、おまけに金髪美少女だ。
一夏でもなければ、男なら勘違いもするし、ずっと騙し続けていて欲しいと願う筈だ。
恋愛は夢中になっている間は、それこそ他に何もいらないと思えるが、醒めた瞬間にそれまでの思い出が残骸にしか見えなくなる。切り捨てた髪と同じだ。
愛の言葉とか恋文とか、冷静になれば赤っ恥だ。だから、過ちは避ける。若かった、なんて気安い後悔で済ましてはならない。
「こういうこと言っちゃうから、あざといって言われちゃうのかな。嫌な女って思われるのかな。僕って、重い?」
「軽々しく好きなんて口にする人より、よっぽど誠実だよ。本気であればあるほど、気持ちって重くなっていくものじゃないかな」
フォローにもなっていない。おれ自身の言葉が軽いからだ。人生経験も平凡、波瀾万丈な人生なんて送ってない人の説法なんて何の深みもない。
気休めになるか、と。何か言わなくてはと、咄嗟に出た言葉だから。
……しかし、スーパーでこんな重苦しい雰囲気でいるのは辛い。清潔感のある白い床や壁に反射する光が眩しくて、おれらの暗くてウジウジした空気がいっそう目立つ。
こういう時は、だいたい空気を読まない一夏や会長の乱入があるものなんだが――
「野菜って卑猥な形状をしてるものが多いよねー。きうり、ナス、大根、ニンジンetc……」
「大根が入るんですか、会長」
「榛名くんのはどんなの? ポークビッツ?」
「変な話はやめてください」
割り込んできて猥談を始めた会長をシャルロットがピシャリと締めた。
完璧な空気の読めなさだった。思ったところに綺麗に決まった気持ちの良さ。空気が一掃されて、いつものグダグダな感じに戻る。
見計らっているのかと思い、視線を遣ると、意味深にウィンクされた。ちょっと胸が熱くなった。
でも、右手に持ったきゅうりで色々と台無しだったから、プラマイ0だった。
「買い物は終わったか? 金は私が出してやるから纏めて会計に出せ」
プライベートなのに引率の先生みたいになっている織斑先生にシャルロットと会長が堅くなる。
誤解だと思うだけどなぁ。織斑先生も織斑先生で誤解されているのに気づいてないし、やっぱり姉弟だよ。
「すいません、ちょっとこれお願いします」
催したので、カゴを会長に預け、トイレに向かう。ギスギスした空間にいたくないのもあったので、暫しの戦線離脱だ。
用を済ませ、手を洗っていたら、鏡に映る自分の後ろにモヤがかかっていた。お化けかと思い、振り向く。
誰もいない。ゾッとして、早く出ようとしたら、ドアが開かない。え、マジで?
真昼間の清掃の行き届いたトイレの白さが、不気味さを増す。ホラーは苦手だ。怖い番組を見た後は布団バリアがないとおれは眠れないくらい苦手なんだ。
焦ったおれは、ケータイで一夏に連絡を取ろうとした。しかし、取り出した瞬間、横から取り上げられた。
白くて細い腕だったから、本物が出たと肝が冷えた。が、違った。
「こんにちたばたば、はるちゃん。あなたの束さんだよー」
ある意味、本物だった。いや、本物より怖かった。篠ノ之束博士が、顔の横で両手を広げて茶目っ気たっぷりの挨拶をしていた。
「ここ、男子トイレなんですけど」
「もちろん知ってるよ。それがどうしたの?」
それが問題なんですが。でも、男子が女子トイレ使ってたら問題だけど、逆だと何も言われないよね。
掃除のおばちゃんとか普通に入ってくるし。掃除のおじちゃんはいないのかな。
「こらぁ。今ここには束さんしかいないんだから、私だけ見なさい」
頬を包まれ、現実逃避して遠くを見ていた目を固定される。篠ノ之さんを柔和にし、年上の婀娜っぽさを足した美貌に意図的に釘付けになる。
触れる手のひらがいやに冷たい。鳶色の瞳が熱っぽい。胸中を名状しがたい風が吹き抜ける。
「何で、ここに?」
「はるちゃんとの思い出の場所が近いからだよ。はるちゃんが次にココに来ることなんて、いつになるかわからないでしょ?
二人っきりの思い出の邪魔はされたくなかったんだ」
思い出、思い出と繰り返されても、おれは全く憶えていないのに。重すぎやしないですかね。
記憶に無い出来事で迫られるって、けっこうホラーに近いと思うんですよ。朝起きたら、見知らぬ女性がベッドで寝てたとかラブコメでよくあるけど、実際にあったら怖すぎるでしょ?
「また目を逸らすぅ。束さんは悲しいです。束さんはずっとはるちゃんしか見てないのになぁ」
「それって目の前のおれですか? 思い出の中のおれじゃないですか?」
つい、辛辣な胸の内を口にしてしまう。篠ノ之博士は、少しだけ真顔に戻ってから、また子どものように破顔した。
「変なこと言うね。はるちゃんは、はるちゃんだよ。今も昔も。性格や記憶や中身が変わっても、私にとってははるちゃんなの。唯一無二だよ、代わりなんてないの」
男冥利に尽きるのか、冥土に着いてしまったのか。年貢の納め時という言葉が頭に浮かぶ。
子どもの頃のおれはいったい何をしたの? いったい何をされたの?
「知りたい?」
心の底を見透かされたのか、篠ノ之博士は嫣然と微笑した。怖すぎるんですが。
「こんな汚い場所じゃなんだし、あそこに行こうか。ひょっとしたら、はるちゃんも思い出してくれるかもしれないしね」
「え? ええ?」
鏡が外れると、外の景観が広がっていた。いつ外したの? 予想外の出来事の連続に頭も身体もついていかなかった。
グイグイ手を引かれ、強引に連れて行かれる。狭い狭い。これって拉致じゃね? とか、一夏たちに連絡しないといけないなんて思ったときには、もう遅かった。
●
「ここ、ここ」
ウサ耳をつけたアリスに導かれた先は、幼少期の大半を過ごした近所の公園だった。
夏休みに入ったばかりだというのに、人っ子一人いない。ボールを使った遊びを禁じられたからか、ゲームをして遊ぶ子どもが増えたからか。
廃れ行く思い出の場所に、哀愁にも似た感慨に浸る。ポピュラーな遊具が置かれ、周囲を木々で囲まれた公園は、久しぶりに見ると狭く感じた。
走り回るには狭すぎるのに、幼い頃は全力で駆け回っていたんだ。それが今やISで空を翔けている。不思議なものだ。
「懐かしいねー。ほら、あの木の下で私とはるちゃんは出逢ったんだよ。はるちゃんはいつも泣いてたな~」
クスクスと笑う。おれは笑えなかった。おれが泣いていたのは、友達に仲間はずれにされたからで、理由もわからず、仲直りすることもなかった。
記憶は靄がかかっていて、詳細は憶えていないが。だって、四歳、五歳の頃の話しだしねえ。
「ほら、座ろ」
ベンチに腰掛けた篠ノ之博士が、ポンポンと隣を叩いた。遊ぶ子どもを保護者が腰掛けて眺めていた場所だ。
全体を視界に収めることができる特等席に腰を下ろす。妙にドキドキした。
真夏の暑さとは関係なく、肌が汗ばむ。年上の女性に迫られるのは、今日で二度目だ。
でも、あっちは切羽詰まっていたのに対して、こっちは優雅にさえ感じる余裕がある。
けれど、軋む吊り橋にいるような、不安定な緊張感は何だろう。靴が乾いた砂を擦った。雑草が斑に生えていた。
「最後に会ったのは八年前だから、はるちゃんの人生の半分も会えない時間があったんだね。それは忘れても仕方ないよ。でもダイジョーブ! 必ず思い出すから!」
「……改造して記憶を掘り起こそうとか考えてません?」
「まっさかー。私は、はるちゃんに酷いことはしないよ。思い出すのは愛の力。世界中の偉い人は、みんな言うでしょ?
ラブアンドピースって」
胸の前でハートマークを作り、満面の笑み。何に感謝してるんだろう。
いい機会なので、疑問をぶつけてみることにした。
「争いが嫌なら、何でISなんてモノを作って世界中を混乱させたりしたんですか」
「んー? 大国による世界の一極支配を打破したかったから、とか?」
「絶対いまテキトーに思いついたウソですよね」
実際、アメリカがイスラエルとISを共同開発しなければならないくらい、各国の軍事力は均衡してきている。
IS発表前は世界を相手取っても勝ち得る戦力を持っていたアメリカが、だ。刀から銃への技術革新を思わせる革命だった。
それでも世界一の大国には違いないのだが、少なくとも国連での発言力が削がれたのは事実だ。
その、テキトーにでっち上げたウソを実現させている博士は、片手をパタパタとおばさんみたいに振って冗談めかした。
「やー、ほら。束さんはその場のノリとテンションで実行したことを成し遂げられちゃう天才だから。才能が有り過ぎるってのも問題だよね。異端扱いされては寛容な束さんも怒るのは仕方ないよ」
「はぁ」
「でも……そんな世界を思い通りにできる天才が、たったひとりの子どもの為に世界を変えたって言うのは、ロマンチックじゃない?」
呆れてため息をついて、望みの答えが返ってこないことに落胆した途端だった。
訥々とした語り口で紡がれた答えに、篠ノ之博士と向き直る。優しく微笑む美貌が、視界いっぱいに広がっていた。
「……冗談、ですよね?」
「冗談じゃないって言ったら?」
ベンチに置いた右手に篠ノ之博士の手が重ねられた。真夏の猛暑は、微風さえそよがない。それでも彼女の手は冷たかった。
「良く言うよね? 女は感情で動く生き物だって。でも、それってヒトとして当然のことなんだよ?
英雄がヒロインを救う理由が救国のため、魔王を倒すついでなんて義務感に急かされたもので何が面白いの?
恋仲にある女の子を救うために英雄が剣を振るう物語の方が、よほど健全で納得できるでしょう?
人と人が結婚して子どもを作るのは何のため? 子孫を作って遺伝子を後世に残すため?
違うでしょう? 好きな人との間に確かな絆を残すためでしょう? 人が動くのはね、情動の結果なんだよ、いつだって」
心臓の音が近くなる。重なった手に僅かに力がこもった。
「恋に理由を求めるのも、束さんは嫌いだな。好きになった理由を一々述べて、好きになった理屈として正しいか証明しなきゃいけないの? 恋愛はテストかな?
違うよね。燃え上がるものだよ。人の出会いを口火に、言葉と感情を薪にして生まれた炎が愛。
燃え尽きた灰を見て、どうしてあんな人と付き合ったんだろう、と首を傾げるのも愛が答えを出すものではないから。例え消えても、暖炉は消えずに残るし、再燃もする。そこに出会いがあれば」
哲学的――いや、詩的で衒学的な言葉だった。理系の博士が、こんなに熱情に苛まれた発言をするのが意外だった。
篠ノ之博士の手がおれの手を包み、持ち上げる。手の甲に口付けられた。
「な、なにを」
「いっくんに唇を奪われたんだって? ダイジョーブ! はるちゃんのファーストキスは、十年前に私がもらってるから。セカンドも、サードも、ね」
舐られ、「しょっぱい」と篠ノ之博士が舌を出した。真っ赤で蛇のように長い。総毛立った。
左手はおれの右手を握ったまま、篠ノ之博士の右手の人差指と中指が、彼女の突き出された唇に触れる。
何だ? と、訝ったおれの唇にその二本の指が押し付けられた。
「間接チュー」
無邪気に笑っていた。顔が熱くなる。なに考えてんだ、この人。真昼間の公園だぞ。この時間帯なら人通りだってある。
公園に遊びに来る子どもだっているはずだ。なのに――
「んー。これでお互いに間接チュー成立だね。えへへ、間接キスは初めて、かな」
自分の唇に再び押し付けて、恥じらう乙女のように小さく舌を出す。おれは、空いた左手の甲で口元を押さえた。
彼女はクラスメートの姉で、担任の親友で、ISの権威だ。懇意になっていい間柄ではない。
逃げようとしたおれの太ももに右手を乗せた。意図を読んで制したかのようだった。
「小難しいことは考えなくていいんだよ。IS学園では、慣れない環境で辛かったよね。我慢と不信の連続で疲れたでしょ?
でも、これからは安心して。全部、このタバえもんに任せておけば万事解決だから」
豊満な胸を張る。おれはのび太くんだったのか。
「ヒモにはなりたくないんですよね」
「はるちゃんには、もう一生遊んで暮らせるお金があるじゃない。家族を養えるだけ稼いでいるなら、それはヒモじゃないよ」
「……世間体とか」
「世界で二人だけのISパイロット。男性で最高のステータスだよ?」
その場凌ぎの言い逃れを続けてゆくうちに、段々と追い込まれてゆく錯覚に陥る。
何か良い逃げ口上はないものか、思索するおれの意識をまた重ねられた手が引き戻す。
「人を信じるのが辛い? 深く入られるのが怖い?」
「いえ、別に……」
「辛いなら、信じなくてもいいんだよ。愛を示し続けるだけだから。言葉と、行動で」
「わっ」
覆いかぶさるようにして迫ってきた篠ノ之博士の肩を掴んで押し返す。
マズイマズイマズイ! 青姦はマズイ! ていうか性犯罪じゃないの!?
「篠ノ之博士! 青少年保護条例に違反しますって!」
「束って呼んで。うんうん、年下に呼び捨てされると、胸がキュンキュンするから」
「束さん! マズイですよ!」
貞操とか、男だからどうでもいいけど、今回ばかりは洒落にならない。
真昼間の公園で盛るって、頭悪い学生カップルじゃないんだから。
懸命に押し返すが、態勢が不利な上に、思いのほか力が強く、劣勢に立たされていた。
大きな胸が眼前で存在感を放っている。胸元の大きく空いた服を着ているから、谷間が強調され、揺れていた。
「気になる?」
「はい。だから退いて――」
「この胸はね、はるちゃんのものなんだよ。ずっと昔から」
なんか昔語りが始まった。それでも力は緩まない。何でこんな馬鹿力出してて、平静な顔していられるんだ、この人。
「泣いてたはるちゃんは、いつも私の胸に抱きついてきてたなぁ。小さな背中に回って、世界中で私しか頼れる人がいないみたいに縋ってくるの。
何で子どもって、あんなに愛くるしいか知ってる? 狭い世界しか知らないからだよ。自分と、自分を愛してくれる人が取り巻く世界しか知らないから可愛いの。
箒ちゃんも、学校で虐められるまではとても可愛かった。はるちゃんも、私の胸しか知らない頃が一番可愛かったよ。今の困り顔も好きだけどね」
疲れから、力負けしてとうとう密着する。押し倒され、束さんを見上げた。吐息が肌を這い、唇と唇が触れそうな距離で囁く。
「私の胸はね、はるちゃんの涙が染みこんで大きくなったの。だから、はるちゃんの好きにしていいんだよ?
胸だけじゃなくて、全部。お願いだって昔みたいに何だって聞いてあげる。代わりに、はるちゃんの全部、貰っちゃうね」
睦言のように言われて、脱力した。首に腕が回される。女性の薫香に頭の芯が熱くなる。
得も言えぬ安堵が胸に広がった。確かに、この感情を懐かしいというのなら、おれと束さんは過去に接点があったのかもしれない。
何で忘れてるのか謎だが、何も考えられなくなっていた。楽な方に逃げて、身を委ねたっていいじゃない、人間だもの。
視線がぶつかって、幸せのときめき憶えているでしょう、と目で問われた。パステルカラーの季節に恋した記憶がないので、潔く敗北を認めた瞬間だった。
「何をしているんだお前は」
「アイターーーーーーッ!」
束さんの頭部に衝撃が走って、おれと額がゴッツンコした。声の主に叩かれた束さんは、頭を抑えて上半身を起き上がらせる。
涙目で恨みがましくベンチの前に仁王立ちする人物に目を遣った。
「ちーちゃん……」
「ウチの生徒に淫行をはたらく性犯罪者がいると聞いてな。飛んできた」
声でわかっていたが、案の定織斑先生だった。おれの腹の上に座ったままの束さんと睨み合う。
あの、この態勢は色々と誤解を招くような……
「あぁ、そうか。ちーちゃんはこの場所を知ってるもんね。生徒と一緒に遊んでるなんて、さすがの束さんも想定外だったな。今頃は酒を呷って同僚に愚痴をこぼしてると思ってたのに」
「トイレに行った金剛が行方不明になったら誰だって不審に思うさ。お前こそ思慮が足りないな。要人の金剛がいなくなれば、血眼になって探すに決まってるだろう」
「見つかる頃には用事は終わってる予定だったから。まさか、ちーちゃんが私に歯向かうとは思ってなかったんだよ」
緩そうな瞳が細められ、冷たく乾いてゆく。湿った風が束さんの長髪を撫でた。
「私、言わなかったかな? ――邪魔すんな、って」
「私も言わなかったか? 私の生徒に危害を加えようとしたら、どんな手段を使ってでもお前を止めると」
なんか、寒くないですかね。肌が粟立つんですけど。
キャラが急変した束さんは、嘲るように小さく笑った。
「ガッカリだなぁ。私、ちーちゃんとはずっと親友でいたかったのに。心から親友だと思ってたのになぁ」
「アレを公表するなら好きにしろ。私も、お前のやってきたことを一番知られたくない奴に教えるまでだ」
織斑先生の視線がおれに向き、束さんの表情が、一瞬、鬼女のごとく歪んだ。しかし、すぐに笑顔に戻る。
おれ、置いてけぼり食らってるのに、戦争のど真ん中に放り込まれてる感じがする。
「信じると思ってるの? 少なくとも、ちーちゃんの口から語られた根も葉もない話をさ」
「他に実行できる者もいないだろう。それに、一度お前に不審感を懐いた時点でお前の目論見も水泡に帰すんじゃないか? 違うか?」
静まり返る。束さんはかぶりを振って長いため息を吐いた。
「昔から変わらないね、ちーちゃん。思慮深そうなのに脳筋で、規律を重視してるように見えて、根本にあるのは感情論でさ。
理解が足らないよ。私がただ私利私欲の為に行動してると考えてるなら、浅薄極まりない愚昧だね。
そこらのメンヘラと一緒にするなよ。愛と独善の境を見失うほど色ボケしてない」
「なら、せめて金剛が卒業するまで待て。今のお前は未成年を襲う犯罪者だ」
織斑先生が正論を言っているように見えるが、束さんは、「コイツ分かってねーな」とでも言いたげに肩をすくめた。
状況についていけないのおれだけじゃない? 誰か説明してよ、ねえ。そこに、
「母! いま助けるぞ!」
「ラウラ!?」
息を切らしたラウラが駆け寄ってきて、おれの上に馬乗りになる束さんを見て足を止めた。
「貴様は……」
「母?」
呼び名が疑問だったのか、束さんが小首を傾げ、おれを見下ろした。そしてラウラと視線を何度か往復させると、得心がいったのか首を縦に振った。
「そっかー。やっぱり考えることは同じだね、私たち。嬉しいな、こんな些細なことでも嬉しいよ」
「おい、母の上から降りろ」
「でも、どっちもお母さんかぁ。うーん、はるちゃんはお父さんにならないとしっくりこないよね。束さんも女だし」
「おい! 無視するな!」
なに言ってるかさっぱりわからない。でも、無視されても怒鳴るラウラはかわいい。あとで迷惑かけてゴメンって謝らなきゃ。
「姉さん!?」
「束さん!?」
「榛名!」
遅れて、今日集まっていた面々が集合する。全員で捜索してくれていたようだ。
前も似たようなことがあった気がする。前回は勘違いだったけど、今回は……ていうか、いつまでマウント取られてるの、おれ。
「な、何しようとしてたんですか!?」
「お前らこそなんだよ。下半身でしか物事を考えられないメスガキは黙ってろよ」
「な……!」
衝動的に叫んだシャルロットを束さんが侮蔑する。この年代の男女はそういうものなんです。耳が痛いのでやめてあげてください。
「束さん、止すんだ。千冬姉にも言ったけど、無理矢理なんて間違ってる」
「いっくん。君はいつから人に恋愛を説ける立場になったのかな。実のない言葉で籠絡されるほど人は甘くないし、私は他人の説得で揺らぐ安っぽい信念なんて持ってないよ」
……鈍感だからなぁ。たぶん、今も束さんが婚期を焦ってると勘違いしてるんじゃないか。おれも真実はわからないんだけど。
「さっきちーちゃんに言い損ねたけど、こういうことなんだよ。いっくんのモテモテスキルで男旱のガキを骨抜きにして、はるちゃんに異性の目は向かないと踏んでたのに、甘かったよ。
ちーちゃんの言うとおりだよ。人の心って難しいね。すぐブレる。好意なんてものは突発性の病、山火事みたいなものだから、予測なんて不可能なんだね。天才の束さんの失敗だよ、それは認める」
「姉さん……以前から貴方のことは嫌いでしたが、今回の件で人として見損ないました」
箒さんが嫌悪感を表する。実の妹からの罵声にも、束さんは動じなかった。逆に冷ややかな眼差しで見据える。
「箒ちゃんに言われる筋合いはないよ。専用機が欲しくて嫌ってる姉に頼み込んできたのは誰? その恩も忘れて、与えられるばかりだった箒ちゃんには感謝なんてないのかな? それとも自分に辛い想いをさせた姉なんだから、これくらいして当然って思ってる?」
「あ、貴方がそれを言うのか……」
「言うよ。箒ちゃんは好きな人に何も報いてくれないもん。今もそうでしょう? 素直になれないなんて言い訳にしかならないよ。振り向いて貰いたいなら、相応の行動で示さなきゃ。
アドバンテージも活かさず、立場に胡座をかいて、それでいつか振り向いて貰えるのを待ってるなんて、それが許されるのは少女漫画の主人公だけだよ。いつまで夢見てるの?」
「……!」
言い返せない箒さんの手のひらに爪が食い込んでいた。ここに来るまでに何があったんだ。
ていうか、いつまでおれの上に乗ってるの? 争うなら別のマウンドでやってください、お願いします。
「とりあえず、榛名くんの上から退いたらどうですか? それじゃオチオチ話もできないでしょう」
会長が進言する。やっぱり、おれの心を読んでいるのか。シャルロットと一緒でいちおう同じ部屋で生活しているからかな。
束さんは会長を一瞥した。
「誰に指図してるんだよ、お前。孫悟空にすらなれないピエロは黙ってろよ」
「道化を演じてたのに我慢できなくなって仮面脱ぎ捨てたのは、あなたじゃないですか。篠ノ之博士」
「……あぁ、誰かと思えば、私の猿真似してはるちゃんに避けられてた奴か。馬鹿だね、本心を見せない相手に心を開く人がいる訳無いだろ。
お前なんて飛び越える必要もないよ、目障りだから口を挟むな」
会長の顔が苦渋に満ちる。なにこれ、もしかして束さんがみんなを論破してゆく流れなの?
「目が曇っているぞ、束。以前のお前は目を閉ざしていたが、金剛と出会ってからのお前は、それ以外が見えていない。悪化してさえいる」
「何度も言うけど、差別の延長だよ。好きな人にだって格差はできるんだ。母親と父親にも好き嫌いはできるし、友達にだって序列はできる。
私が好きって言って、好きって返してくれるのは、はるちゃんしかいなかった。それだけの話なんだよ、人間関係なんて」
重油のように粘ついた空気の中、シャルロットが動いた。
「榛名を返してください」
「返す? いつからはるちゃんがお前の物になったんだよ。あ?」
とうとう束さんがおれから降りて、みんなと相対した。全員が身構える。え、戦う流れなの?
「IS使用を許可する。気をつけろ、何をしてくるかわからんぞ」
「あはは、滑稽だね。機械が開発者に歯向かうなんて、できると思ってるの?」
ここ、公園なんですけど、IS七機導入って、国家規模の戦闘じゃないか。
近くに民家もあるのに、やる気満々のみんなに冷や汗がでる。いや、ダメだろ。
おれは全力で状況を理解しようとし、よくわからなかったので、元凶をどうにかしようとした。
拙い策が脳裏に浮かぶ。やるしかない。おれは息を吸った。
「お、おれはみんなと仲の良い束さんが好きだなー!」
「金剛?」
ピクリ、と束さんの背中が反応した。ついでにウサ耳も。もうひと押しか。
「女の子が嫌い合ってるのは嫌だなー。女の子の友情って好きだなー。束さんが喧嘩してるところなんて見たくないなー。優しい束さんが好きだなー」
「金剛、なにを言っている。コイツは――」
織斑先生がなにか言いかけたが、最後まで言えなかった。束さんが抱きついたからだ。
「うえーん、ゴメンねぇちーちゃん。束さんが悪かったから許してよー」
熱い手のひら返しに、さすがの織斑先生もついていけずに放心していた。グリグリと首筋に顔を埋め、仲直りをアピールしている。
言い出しっぺのおれも、まさかこんなにも効果てきめんだとは思わなかった。
「みんなもさっきも酷いこと言って悪かったねー。いやー、束さんは頭に血が昇ると心にもないことを口にしちゃうんだよ。はい、仲直りの握手~」
ISを展開していたみんなにも、順々に握手して回る。全員、顔が引き攣っていた。
心にもない棒読みにも程がある。全員と無理やりに握手した束さんは、善哉とばかりに万歳して叫んだ。
「はい、これでみんな仲直り! やっぱり世界はラブアンドピースだね、はるちゃん!」
「……おい」
ドスのきいた低い声が静まり返った公園に、やけに響く。ニッコリと破顔した束さんは、織斑先生の顔を無防備に覗き込んだ。
「なになに? どうしたの、ちーちゃん。あ、スキンシップが足りない? じゃあもっとハグハグしよう!
行っくよー! 束さんフライング……」
「だ・ま・れ!」
「ああああああ! ちーちゃん! 頭が! 束さんの天才的頭脳が割れるように痛いよう!」
ミシミシと頭蓋骨が軋む音が聞こえる。アイアンクローを決められた束さんは、両手をバタバタと振って、しばらくして沈黙した。
用意の良いことに、ウサ耳から、ち~んと虚しい音がした。
「どこまでもふざけた奴だ……」
「あの……私たちはどうすれば……」
振り上げた拳の下ろす先をなくしたみんなを代表して、会長が尋ねる。場のしらけ具合が異常だった。
高い金を払って、三文芝居を見せられたあとのような気まずさ。織斑先生も若干、声を上擦らせて答える。
「解散だ。まったく、阿呆らしい。先に帰っていいぞ」
「姉さんは……」
箒さんが地面に突っ伏す束さんを指差すと、見計らったかのようなタイミングで黒服の皆さんが駆けつけた。
確保しようとしたが、人参が地面から生えてきて、束さんを乗せると空の彼方へと消えていった。
空から紙切れが一枚、ひらひらと風に吹かれて落ちてくる。丸文字でこう書かれていた。
『はるちゃんには勝てなかったよ……』
あぁ、何がなんだかわからない……
「織斑先生」
「ん? あぁ、平気か、金剛。アイツに何かされなかったか?」
「特には」
質問する前に質問されてしまった。間接キスとかは、別に言わなくてもいいよね。
「……ひとまず、礼は言っておく。お前のおかげで束と敵対せずに済んだ。お前の言うことなら、本当に何でも聞くらしい。
……あんなのでも友人だったからな。これで良かったと思いたい」
しんみりと言う織斑先生に、昔の二人の関係性が窺い知れた。おれが絡まない二人は、凸凹だが仲の良い間柄だったのだろう。
異性で友人関係が壊れることは珍しくないが、その原因がおれって……
罪悪感に胸を締め付けられていると、流し目で見つめられた。
「だが、これではっきりした。お前は、土壇場になると束の味方をするんだとな」
「え?」
「先ほどのは、争いを嫌ったように見えたが、実際は多勢に無勢の束を救おうとしてのことだ。
普通なら、クラスメートを襲う不審な人物を捕らえようとするだろう。でも、お前はそうしなかった。
束が敵になるのを無意識に嫌がったんだろう。悔しいが、そこはアイツの言う通りだ。お前はアイツに……」
織斑先生はそこで口を閉ざした。え、なに? 気になるんだけど。言いかけてやめるくらいなら始めから言わないでくださいよ。
「榛名! 俺はずっとお前の友達だからな! 何があっても友達をやめたりしないぞ!」
「お、おぉ?」
突然、肩をガッツリ掴まれて、力強く一夏に宣言された。困惑していると、他のみんなも集まってくる。
「不肖の姉が迷惑をかけて済まない」
「榛名さん! わたくしたちは皆、あなたの味方ですわ!」
「辛いことがあったら、いつだって頼りなさいよ。あたしたち、友達じゃない」
いったい、おれが束さんに誘惑されている間に何があったんだ。優しすぎてやけどしそうだ。
優しくされると泣きたくなるから、やめてください。
「……」
無言で会長が見つめてくる。居心地が悪そうな面持ちで。束さんに凹まされたのが尾を引いているのだろうか。
「……あ、あはは。なんか、カッコ悪いね、私。お姉さんぶって要らない気回してたけど、空回りして」
「会長には助けられてますよ、おれ」
「……うん。ありがと」
気休めにしかならない言葉に、会長は寂しそうに笑った。どっちも柄じゃない。
普段ならここで下らない下ネタが飛んでくるハズなんだが、さすがに束さんの言葉がキツすぎた。
「奴に何もされなかったか!? 母の身に何かあったら、私は、私は」
「大丈夫だよ、ラウラ。心配かけてゴメン。ところでさ、おれがいない間に何かあったの?」
「それはだな、教官が母のムグ」
「ダメ、ラウラ。言っちゃダメ」
シャルロットが背後からラウラの口を抑えた。なんだよ、気になって仕方ないじゃないか。
「榛名、戻ろ。それで今日はみんなでパーティーして、いっぱい食べて、いっぱい騒ごうね」
「……? うん」
てっきり病まれるかと思ったシャルロットも、穏やかな声音と柔らかい笑顔で迎えてくれた。
なんすかね、この感じ。歯切れ悪い肉を噛んでるみたいな、もやもやが胸に鬱積するんだけど。
まるで、変な夢でも見ていたような一日だった。
あとがき
三章リスペクトです(大嘘)
あと、ネタが切れました。
やったぜ。