まえがき
ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
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>:´:::::::::::::::::::::::::`ヽ、 モッピー知ってるよ
γ::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
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. | ll ! :::::::l::::::/|ハ::::::::∧::::i :::::i このSSがクッソ汚いホモ御用達って事
、ヾ|::::::::|:::/`ト-::::/ _,X:j:::/:::l
ヾ::::::::|≧z !V z≦ /::::/ それがもうちょっとだけ続くって事
∧::::ト “ “ ノ:::/!
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| ``ー――‐''| ヽ、.|
ゝ ノ ヽ ノ |
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ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
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>:´:::::::::::::::::::::::::`ヽ、 モッピー知ってるよ
γ::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
_//:::::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ ISのメインヒロインは箒だって事
. | ll ! :::::::l::::::/|ハ:::::::∧::::i:::::i
、ヾ|:::::::::|:::/`ト-:::::/ _,X:j:::/:::l 水面下では箒がリードしてるって事
ヾ:::::::::|≧z !V z≦ /::::/
∧::::ト “ U “ノ:::/!
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| ``ー――‐''| ヽ、.|
ゝ ノ ヽ ノ |
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ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
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γ:::::::::::::::::::::::::::::::ヽ モッピー知ってるよ・・・
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. | ll ! :::::l::::::/|ハ:::::∧::::i :::::::i ホモはマイノリティに過ぎないって事
、ヾ|::::::::|:/ト-:::::/\,X:j:::/::::l :
ヾ::::::::| ≧z !V z≦ i/::::/| 本当は皆ノンケで箒が大好きだって事
∧::ト | | | | ノ:::/::::! :
/:::::(\| | ´` | |/ ̄):::::| 知ってるよ・・・知ってるよ・・・
./:::::::::| ``ー――‐''| ヽ、:| :
/:::::::::::ゝ ノ ゚。 +゚ ヽ ノ |::| :
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蛇足の蛇足なので、まだこの汚い作品が読みたい人だけ読んでください。
「ねえ……本当に、私でよかったの?」
夫婦の営みを終えた気怠くも甘い余韻の冷めた頃になって、おれの妻となった人がか細い声で囁いた。
罪悪感に濡れた声。先刻までの淫蕩な嬌声からは遠い掠れた声音が、彼女を悪夢から醒めた少女のように思わせた。
もう結婚して二年になる。学園を卒業して間もなく、おれと彼女は籍を入れた。
もとは、政府から薦められた見合いを流されるがままに受け入れただけの、業務的な関係から始まった間柄だった。
疑心暗鬼な気質もあいまって、おれは人の内面に土足で踏み上がる彼女を好きになれなかった。
だが、時間とは不思議なもので、おれの心の楔は、彼女の奔放な気性と自由な笑顔に溶かされていった。
凡愚極まるおれの心など、彼女の天性の魅力の前では蝋の翼に過ぎなかったのだろう。或いは、誰かに縋りたい弱さを見抜かれていたのかもしれない。
おれが高校二年の夏に、おれと彼女は一線を超えた。同居して一年が過ぎた、蒸し暑い夜のことだった。
『もう』と言うべきか。それとも『やっと』、という表現が正しいのか。
結ばれるまでにかかった期間は、年頃の男女が同棲しているとしては有り得ない長さで、おれと彼女では早すぎた。
その時間は、おれが自分を諦めるまでにかかった葛藤の長さだ。
親友は気儘に、自由に愛する人を選べる。複数いる好意を向ける女性の中から、将来をともに歩みたいと思った人の手を取れる自由がある。
おれにはない。一人だけ、一緒に歩みたいと言ってくれた人と歩く権利も資格もない。
その現実に苦悩し、大人になり、折り合いをつけて決められた未来を受け入れるまでに、一年しかかからなかった。
その時間の長さだけ、一人の女性の傷を深くし、一人の女性に恥をかかせた。
未だに、ふと立ち返る。あの頃の自分に、ひと握りの勇気があれば、どういう未来を歩んでいたのかと。
「あのコね……まだ、あなたのこと好きだよ。これからも、ずっと」
行為の熱の冷めやらぬ褥で横になる彼女が、胸の中で呟いた。
淡い感情が想起させられる。まだ、燻ったままだ。大人になった、幼かった頃の思い出と回顧するには、その存在は真新しくて、大きすぎた。
国を捨て、姓も捨てた少女は、卒業と同時にIS学園の教師となった。事情を知る織斑女史らの協力もあって、彼女は無事に自由を得た。
だが……心は未だに縛られたまま、誰かと同じように燻り続けている。
「私は、構わないよ? あなたが他の誰かを好きになっても。ううん。好きな人がいるあなたを好きになったから。
だから――」
それ以上語らせないよう、強く頭を掻き抱いた。
妻は彼女の事情を知らない。おれしか彼女の生い立ちを知らないのだ。
おれは、不義の子として育てられた彼女を同じ境遇に立たせたくなどなかった。
愛するなら唯一として、もっと包み込むように抱きたかった。
おれでは彼女を幸せにできないから、もっと相応しい人が現れることを祈って振り払った。
おれには、ひとりしか抱えられないから。
「おれが愛してるのは、おまえだけだよ」
「……榛名くん」
彼女が顔を上げた。呼び名がふと昔に戻る。彼女は負い目を感じると、途端に内罰的になる傾向があった。
そういうところも愛らしかった。
おれは目を瞑り、ねだる彼女にキスしようとして、彼女の名前を呼んだ。
「愛してるよ、一夏」
……一夏?
「榛名……」
間近に一夏の顔が迫った。え? え? え?
え!? なに? 何でおれが一夏とキスしようとしてんの!?
嘘だろ、こんな未来、冗談に決まってんだろこんなの。なあ、なあ!
「――はっ!?」
おれは飛び起きた。無機質な白い壁が目に飛び込んでくる。
……夢か。夢だよな? ……夢でよかったー。
おれは胸をなで下ろした。激しい動悸と乱れた呼吸をしずめる。
よかった……変な人と結婚する未来とか、一夏と幸せなキスをして終了する現実なんてなかったんだね。
しかし、妙にリアルな夢だったな。おれの思考とか経緯が現実的で気持ち悪い。
大量に寝汗を掻いていたらしく、額に滴る汗を袖で拭った。
「あ、起きたのか榛名」
瞬間、視界に入り込んだ一夏の顔のアップに、おれの心臓は凍りついた。
頭の中で何かが崩れ落ちる音がした。
「うわあああああああああああああああ! 嫌だ! こんなの嫌だあああああああああ!」
「は、榛名! どうしたんだ!?」
「どう見てもアンタのせいでしょうが!」
「一夏はしばらく金剛に近づくな!」
「ラウラ! 一夏を取り押さえて外に連れて行って!」
「なんだよ! 榛名が! 友達が困ってるのに見捨てるなんてできるかよぉ!」
「済まない、嫁。今は母の容態の方が大事なのだ」
「医者を呼んできましたわ!」
「押さえつけろ! 鎮静剤を打て!」
「うーん……寝言で私の名前呟いてたけど、いったい何が……」
●
燦然と煌めく星がよく見える海岸にて、篠ノ之束は月を見つめていた。
月の眩さの割りに、その日は星の眺めがよい。地上に灯りがない土地の星の輝きの切なさは筆舌にし難い。
何万年も前に発せられた光が、地上で生み出された矮小な光にかき消されて届かなくなる。
人の記憶みたいだね、とセンチな感傷に浸っていた束のもとを、彼女の親友が訪れた。
「こんな所にいたのか」
「やあやあ、ちーちゃん。今日はご苦労さまだったねー。二日酔いは大丈夫なの?」
「おかげさまでな」
榛名が蘇生してから――榛名をお姫様抱っこして逃避行を繰り広げていた一夏を、再起動した千冬が取り抑えて、念の為に榛名は検査入院することになった。
その付き添いで専用機持ちと山田真耶が同行しているが、どうも一夏とのキスが心的外傷となってしまったらしく、しばらく近づけない方がいいと判断されたようだ。
愚弟の行いに頭が痛くなる。人命が懸かった緊急事態とはいえ、あとコンマ数秒で人工呼吸しようとしていたシャルロットを押しのけて自分からしたのには愕然とした。
本当に男色の気があるのではないかと勘ぐってしまう。ないと信じているが。
「いやー、はるちゃん大活躍だったね! 箒ちゃんはあまり活躍できなかったけど、はるちゃんの勇姿を見られただけでも束さんは大満足だよ。カッコイイ男の子になっちゃったなぁ」
「……おい、束。訊いておくが、本当にあのときの子どもが、金剛榛名か?」
十年近く前の記憶を掘り起こして、微かに覚えのある面影を思い浮かべた。
他人に全く興味がない束が、その頃だけは人が変わったように入れ込んでいた子ども。
だが、快い記憶ではない。束は貼り付けたような笑顔をさらに綻ばせた。
「うん! だいぶ外見は変わっちゃったけど、中身は変わってないね。可愛かったはるちゃんのままだよ」
「その溺愛していた子どもから何もかも奪うことが、お前の愛情表現か、束」
千冬の凛冽な眼光と声に束が黙り込む。つかの間の静謐も、波の音が埋めてしまった。
束は目を細めた。
「やだなー、ちーちゃん。私が好きな子に意地悪したくなる小学生男子みたいに見える?」
「IS学園を受験できない男子が二人、願書も出さず、試験も受けていないのに合格した。内ひとりは地図、GPS機能すら偽装され、受験会場に誘導させられている。合格後は安全上の問題で一家離散、一五歳の子どもが親から切り離され、社会的に孤立し、異性ばかりの学校で心身ともに疲弊したところに初恋の女性が現れ、二人は恋に落ちる。
こんなところか? お前が思い描いた絵空事は」
誰の出来事なのかは語る必要もない。千冬の声には確信と怒りが滲んでいた。
それでも、束はどこ吹く風と微笑むことをやめない。
「うわあ、束さんもドン引きだなあ。そんな頭悪い計画、イマドキ三流の脚本家でも採用しないよ」
「そうだろうな。そんなことができるヤツは、私も一人しか知らない」
ISを使える男子が世界で二人。その二人は、IS開発者の知り合い。これで邪推しない方がありえない。
束は悪役のように不敵な笑い声をあげた。
「ちーちゃんがなに考えてるかわかるよ。私がISをそう設計したって言いたいんでしょ? 残念でした。男がなんでISに乗れるのか、私も知らないのです。あ、でもでも、はるちゃんが乗れる理由はわかるよ。教えてあげようか?」
「いらん。もう過ぎたことだ。お前を責めた所で収まる問題でもない。だがな……人の心は、お前が如何に天才でもどうにかなるものではないぞ。アレの心が、お前の思うようになる訳がない。妙な企みは止せ。アイツのことを想うなら、これ以上、傷つけてやるな」
「わかるよ。はるちゃんの考えてることは、なんだって」
ついに束の顔から笑みが消えた。千冬も口を閉ざす。
昔の束は、何を考えているか判らない女だった。いつも無表情で、仏頂面と揶揄されるほど堅物の千冬から見ても、感情が欠落しているように思えた。
その束が、一人の子どもについて話す時だけ、顔に、声に感情が宿る。
「何回も話したよね? 私はね、箒ちゃん、ちーちゃん、いっくん、はるちゃんの四人以外はどうでもいいんだ。この四人にしか興味もないし、ずっと四人のことだけ考えてる。
凄い大好きで、世界でもこの四人しか要らないくらい好き。でもね、だから気づいちゃったんだ。私が好きになればなるほど、みんな離れていくって。
箒ちゃんもなんかよそよそしいし、ちーちゃんもなんか冷たいし、いっくんも箒ちゃんの姉くらいにしか思ってない。証拠に誰も私を追いかけてくれないし、箒ちゃんが私を呼んだのも、専用機が欲しかったからでしょ? 気持ちは嬉しかったけど、なんか痛かったな。
追いかけてくるのはどっかの国の追っ手ばかりでさ。私の好感度が高いほど、私のことを嫌っていくんだよ。何で気づいちゃったんだろうね、こんなこと」
矢継ぎ早に話す束の言葉を、押し黙って千冬が受け止める。
親友と思っていた。その彼女の考えが、今は読めない。
振り向いた束の顔には、無邪気な笑顔があった。
「でもね、はるちゃんだけは違うんだよ。まだ私がISを創り出す前から、はるちゃんは私のことを大好きって言ってくれた。篠ノ之束を必要としてくれたんだよ。泣き出すと、いつも私に抱きついてきて、胸にしがみついて甘えてきてさ。子どもの愛らしいまま保存できる発明でもすればよかったな。
あの頃の箒ちゃんも可愛かったけど、箒ちゃんは両親が独占してたし、やっぱりはるちゃんが一番だよ。あ、もちろん大きくなったはるちゃんも好きだけどね!」
「……お前は、その大好きな子どもに何をしたか憶えているのか? 金剛の友達に謂われのない悪評を流して、集団から孤立させた。金剛がお前に懐いたのは、お前以外の遊び相手がいなかったからだ。
今度は親元から切り離し、社会からも孤立させた。次は何をするんだ? IS学園から退学させて匿うのか? お前は何回繰り返せば気が済む?」
「勘違いしないで欲しいな。はるちゃんは、その前から私のことを好きだったよ。好きだって言ってくれた回数も言葉も一字一句、時間も秒単位で憶えているし、何なら映像で再現してあげようか?
それに私は、はるちゃんを虐めたりしない。絶交させたのも、はるちゃんと付き合うに値しないクソガキだったからだし、絶縁させたのも、もうはるちゃんに必要ないと判断したからだよ。私は、はるちゃんの幸せの為に行動してる。ちーちゃんにもとやかく言われたくない」
千冬は額に手をあて、嘆息した。何を言っても無駄なようだが、ひとつだけ忠告しておくことにした。
「金剛はお前のことを憶えていないぞ。お前と結ばれることはない。本当にアイツの幸せを願うなら、もう手を引け。しつこいと嫌われるぞ」
「えへへー。それはどうでしょうか。きっとはるちゃんは私の所に帰ってくるよ。賭けてもいい。
ちーちゃんもブラコンこじらせて、行き遅れてからはるちゃんを手篭めにしようとか考えないでね」
「誰がするか、誰が。しようと思えばすぐにできるさ」
「二四になって未だにキスもしたことない生きるアイアンメイデンに言われてもなぁ……」
「それはお前もだろう」
「残念でしたー! 私は十年前にはるちゃんと済ませてますぅ! はるちゃんのファーストキスはいっくんではないッ! この束だァー!」
呆れてかぶりを振った。やはりあの頃の束は、通報して更生施設に送った方が世の為だったのではないかと思えてくる。
「まぁ、生徒に手を出すような真似はしないさ。安心しろ」
「約束だよ? 破ったらちーちゃんでも殺しちゃうかも」
親友へ向けたとは思えない台詞に、千冬が目を眇めた。
「私からも言わせてもらおう。私の生徒に危害を加えようとしたら、どんな手段を使ってでもお前を止めるからな。肝に命じておけ」
「うーん。それは無理だよ、ちーちゃんじゃ無理」
そう言うと、束は胸元を漁り始めた。怪訝に眉をしかめる千冬。束が出したのは、古めかしいカセットテープだった。
「パンパカパーン! ちーちゃんがいっくんにマッサージされている時の、艶かしい悲鳴集~」
「な……なんだと……!?」
頭上に掲げる物体の恐ろしさに千冬の顔が固まった。盗聴までしていたのか、この天災は。
「もしちーちゃんが私に逆らったら、これを『ブリュンヒルデ、弟とまさかの禁断の恋!? 凛々しい戦化粧とは真逆の淫らな情事の様子』と銘打って全世界に公開します」
「束……お、お前ぇ……!」
「ふっふっふ。天才とはいつでも、凡人の一手、二手、果ては思考の全てさえも凌駕しているものだよ」
「くっ……~~っ! 寄越せ!」
「これを取り返しても音声データはバックアップ取ってあるから無駄だよー」
その夜、月を背にした海岸線で、兎と戦乙女の追いかけっこが行われたことを知るのは当人たちのみだった。
●
あの事件から三日後。おれは退院し、IS学園に帰ってきた。
女の子ばかりの此処も住めば都というか、おれの第二の故郷なので真っ白な病院よりも落ち着けた。
が、銀の福音と戦ってからというもの、皆の反応が露骨に変わって微妙に居心地が悪い。
まず、箒さん(名前でいいと言われた)、セシリアさん、鈴さん(鈴でいいと言われた)が妙に優しくなり、どう反応すればいいか困った。
セシリアさんは相談の件から親しくなったのだが、この二人はどう考えればいいのか。
もしかして、ラウラのポジションを狙っているのだろうか?
一夏を堕とすために友達のおれを落とし、外堀から埋める方針に変えたのだろうか?
女って怖いな。
女と言えば、IS学園では銀の福音戦が脚色されて、おれが一夏を救うために命を落とし、一夏のキスで復活するという、どこぞのおとぎ話みたいな物語となって広まっていた。
タイトルは『ハルナ姫』というらしい。本当に女の子みたいに聞こえるから止めて欲しい。
一夏も女みたいな名前なのになぁ。ていうか緘口令とか敷いてなかったのかな。まぁ、どうでもいいか。
ちなみに、その話では箒さんが出撃した事実が消えている。いつだって、百合では男が、薔薇では女が邪魔だからね。しょうがないね。
そのおれだが、死の淵から生還したことで無敵状態になっていた。端的に言えば、怖いものなし。
漫画って一度死んでから蘇生すると強くなったりするよね。あんな感じ。
病院では一夏の間近に迫った顔面に取り乱したりしたが、カウンセリングを受けて完全復活した。
マウストゥマウスはキスじゃないって教わったし、はいっ、ノーカンノーカン!
だいたいキスがどうしたよ。あんなの粘膜の接触に過ぎないじゃないか。唇がなんだよ。
キスなんかタコとかイカとだってしてるじゃないか。たいしたことないたいしたことない。
おれは自室のドアを開けた。会長がベッドで寝ていた。
「おかえりー」
また裸Yシャツかと思ったが、下着はつけているらしい。うつ伏せになり、雑誌を読む会長のお尻から、紫色のレースが見えていた。
「会長ってババアみたいなパンツ履いてますよね」
「喧嘩売ってるの?」
さっき述べたように、今のおれは怖いものなしだった。
会長が凄もうが屁でもない。前に栗坊がいようがお構いなしで突き進めるのだ。
「あっ……ふーん?」
会長は悪巧みを思いついたような、何かを察したような、小悪魔的な微笑みを浮かべた。
あれはめんどくさいことを考えている顔だ。
「ふふっ、榛名くんも見たいなら、遠まわしに言わないで、正直に言ってくれればいつだって見せてあげるのに。
ほら、今日は退院祝いの特別大サービスだよ?」
会長がベッドに膝立ちになって、両手でYシャツの裾を捲りあげた。大人っぽい下着が目に入る。
以前のおれなら紅潮させて目を逸らしたんだろうが――如何せん、今のおれは無敵なのだ。
おれは欧米人のように肩を竦めた。ふっ、と鼻で笑う。会長はムッと顔をしかめた。
「な、なんか調子狂うというか……ムカつくわね」
「まぁ、会長も年上と言っても十六歳の小娘ですからね。その程度の色香に惑わされたりしませんよ」
日頃の仕返しとばかりに憎まれ口が、口を衝いて出てくる。
会長はふと心配そうにおれの顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫、榛名くん。酸欠で脳細胞が億単位で死んだりしてない?」
「検査ではまったく異常なしでした」
すると、会長はおれを可哀想な人を見るような目で見つめた。
おれは無性に悔しくなって口元をつり上げて言った。
「そういえば、会長って処女なんでしたっけ? それでよくエッチで綺麗なお姉さん振れましたよね。キスもしたことないんですよね? おれなんて一夏と何回もしましたよ。ええ、何回もされましたよ。おれの勝ちですね。ていうか、会長っておれより遅れてるんですね。ダッサ!」
ひくっと会長の頬が引きつったかと思うと、壁に押し付けられた。早すぎて反応できなかった。
「どうやら、病院で治療されずに悪いこと、イケないことばかり憶えてきたようね。私が治療しなくちゃ」
耳元で囁かれる。熱っぽい吐息に鳥肌が立った。ち、違うぞ。この人は一夏じゃない。負けるな、おれ。
会長は思い出したように言った。
「そうだ。榛名くん、臨海学校で穴に挿れてもいいって言ってたよね。それって……このお口に私の真っ赤な舌が入ってもいいってことよね?」
おれの唇に指を押し付け、会長が艶美に微笑した。
なんて女っぽい声を出すんだ。普段のおれなら一瞬で戦略的撤退してた。
だが、今のおれはスター状態なのだ。自分でスターと言ってるわけじゃなく、無敵状態なのだ。
会長なんて死ぬことに比べたら全然怖くない。
会長とか、超絶美人でIS学園最強で才色兼備で学生にしてロシア代表で料理も完璧でおっぱいも大きいだけの小娘じゃないか。
一夏の方がよっぽど怖いわ。
おれは会長の華奢な両肩を掴んで、逆に壁に押し付けた。
「きゃっ……!? は……榛名……くん?」
両手を胸の前で組み、不安げにおれを見つめる会長に顔を近づけ、先ほどとは真逆におれが耳元で囁いた。
「会長、初めてなんでしょう? なら、おれがリードしてあげますよ」
「え……ちょ、ちょっと待って。こ、心の準備が! こんなの想定してない……」
「先にしようとしたのは会長じゃないですか」
「そ、そうだけど……」
「ほら」
「ぁ……」
細く、形の良い顎を指で上向かせ、間近で見つめ合う。しばらくすると、会長は覚悟したように堅く目を瞑り、唇をきゅっと閉ざした。
熟れたリンゴのように色付いた頬、長い睫毛がふるふると震えている。
おれは我慢できずに吹き出した。
「っぷ、ハハハハハハハハ! アハハハハ! やった! 勝ったッ! 第三部完!」
「……え?」
鬼の首を獲ったようにはしゃぐおれを、会長はポカーンと、呆気にとられて部屋を走り回るおれを目で追っている。
今まで生きてきて一番嬉しかったかもしれない瞬間だった。
あの周囲を振り回しては悦に浸っている会長に初心な乙女みたいな反応をさせた。
代打満塁釣りなし逆転サヨナラ優勝決定ホームラン並の快挙だ。
部屋中をくるくると回ったり飛び跳ねたりしながら叫ぶ。
「っしゃあああああああ! アハハハハ、会長も意外と可愛いところあるんですね。
『ぁ……』だって! 『ぁ……』~~~~っ! アハハハハ!」
「あ……あ……」
口をあわあわと戦慄かせる会長の様子がおかしくて、会長の周りで踊り始めた。
「今どんな気持ちですか? 悔しいっすか? 年下の男に手玉に取られて悔しくて言葉もでないっすか?」
「お……お……!」
言いたいことを言ったおれは、満足して踵を返した。
「はー、スッキリした。みんなに言いふらしてこようっと。わーい。今日は赤飯だー」
ルンルンとスキップで足を踏み出した瞬間、足をかけられて転び、腕をキメられた。
「あだだダダダダッ!?」
「榛名くん……キミはやっちゃいけないことをしたわ」
底冷えする声が頭上から聞こえた。しまった。無敵状態のおれでも、この態勢では何もできない。
ゲームではマウントを取られることなんてないからだ。
「素直で可愛げのあった榛名くんはどこに言ったのかしら……躾ではなくて、折檻が必要みたいね」
「よ、用事を思い出した。早く帰って宿題しなきゃ」
「キミの部屋はここでしょ?」
その通りだ。どうやら撤退は不可能らしい。おれは近くにキノコも落ちてなかったので諦めた。
おれのキノコは恐怖で縮んで使い物にならなかった。
「最後に、なにか言い残すことはある?」
勝ち誇り、悠然と囁く会長に真摯な声で言った。
「おれや一夏だから良いですけど、他の男の前では、あまり露出しないでください。会長は綺麗だから、今みたいに勘違いされて襲われるかもしれない。カラダは大事にしてください」
「……! わ、わかった……忠告ありがと。……なによ、急に素に戻らないでよ……」
ブツブツと呟く会長の声を聞き、おれはほくそ笑んだ。
これで万事解決だね。やれやれ、とおれは心の中で肩を竦めた。
女ってヤツはギャップに弱いからな。ふざけてる奴がいきなり真面目になると、改心したとか思う。
映画版タケシ現象だ。不良に置き換えてもいいし、女ならツンデレ。
まぁ、人間ってヤツはみんな単純な生き物なのさ。ちょろいぜ。
「あ、でもお仕置きはするからね」
「ですよねー」
ダメだった。おれは絶望した。残機がゼロになった。
無敵の金剛榛名は死んだんだ。幾ら呼んでも帰って来ないんだ。
その日、IS学園寮の一室で、獣の咆哮が木霊した。
調子に乗りすぎた男の無様な慟哭だった。
翌日――会長はスカートを履くようになった。
夏休みが、始まる。
あとがき
作者「とりあえずISだし、ノンケに媚売っとけばいいだろ」
↓
「なにイチャついとんねん! 一夏出さんかいボケェ!」
↓
「ホンマにホモってどうすんねん!」
↓
作者「」
作者「とりあえず、もうアニメ分終わったし、幸せなキスして終わらせればホモも文句ないだろ」
↓
「なに汚いモン見せて勝手に終わっとんねん!」
「伏線張っとんねんからもっと書かんかいボケェ!」
作者「」
こんな汚い作品ですが、皆さんのあたたかい声に応えて続くことにします。
過度な期待はしないでください。
あと、主人公は次で元に戻ります。