まえがき
ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
{::{/≧===≦V:/
>:´:::::::::::::::::::::::::`ヽ、 モッピー知ってるよ
γ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
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. | ll ! :::::::l::::::/|ハ::::::::∧::::i :::::::i これから先は蛇足だって事
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ヾ:::::::::≧z !V z≦ /::::/
∧::::ト “ “ ノ:::/!
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| ``ー――‐''| ヽ、.|
ゝ ノ ヽ ノ |
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「あ、箒は出番ないから」
;ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
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;(、_| |_ノ;
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「お引越しです」
シャルルがシャルロットとしてデビューを果たした日の放課後。
山田先生が目をしぱしぱさせながらやってきた。
「ぼ……私ですよね?」
「はい……部屋割を考えるのがもう大変で大変で……」
「すいません」
目を伏せてシャルロットが謝る。そら事件の後処理から転入手続きとかもあっただろうから、山田先生も苦労しただろう。
シャルロットはデュノア社とは決別し、一人の女の子として生きていくことにしたらしい。
だが、今でも代表候補生だったり、製品自体はデュノア社から届いていたりと良く判らない扱いのようだが。
「あ、あの、本当に不純異性交遊はなかったんですよね?」
「はい」
「もちろんです」
疑惑の眼差しを向ける山田先生に口を揃えて答えた。
男女が一ヶ月近く同室で過ごしていたのだから、当然の反応だ。
おれとシャルロットは爛れた関係になったワケでもないので、同等と潔白を主張できる。
「うーん。二人ともしっかりしてますから信じますけど……」
「本当です。神にも誓って何も疚しいことはありませんでした」
「……えーと、おれは誰に誓えばいいのかな?」
「僕に誓ってよ」
「え?」
「本当に何もなかったんですよね!?」
「はい」
口裏を合わせていると思われたのか、山田先生が激昂した。
ストレスが溜まっているのだろうか。
もう荷物を纏めていたシャルロットがスーツケースを持ち、一月を過ごした部屋を出ようとしていた。
「じゃあね榛名。楽しかったよ。不謹慎だけど、いつ女だってバレないかドキドキして、スリルがあって」
「あぁ。おれも楽しかった。シャルロットなら誰とでも仲良くなれるだろうけど、達者でな」
「学校でいつでも会えるのに。榛名はまた一夏と一緒だね」
言われて、一夏がこの部屋にまた来るのかと思うと、感慨深い気持ちになる。
正直、女の子と同室だと、気が休まる時がなかったので、気兼ねなく過ごせる一夏との相部屋が恋しくなっていた。
シャルロットとの同居も楽しかったが、やはり女の子とは緊張してしまう。
「あ、あのー……それなんですが」
「? なんですか?」
言いづらそうに挙動不審な山田先生を質すと、心底申し訳なさそうに、
「織斑くんを金剛くんの部屋に戻すことを、織斑先生が拒否しまして……」
「はあ!?」
愕然とした。え、あの人マジでブラコンだったの?
「何で教師が部屋割りに私情を挟んでいるんですか!?」
「うぅ、私だってよく知らないんですよ~! ただ、先日の事件を受けて、男性操縦者の安全を確保するにはこうするのが一番だと織斑先生が頑として譲らなくて……上からも色々言われてて~」
「……ああ」
そうか、真っ先におれがやられたもんな。主賓が見てる前で。
たぶん一番近かったから狙われただけなのだが、周囲から見たら謎の敵性ISに男性操縦者が標的にされているように見えたのだろう。
上っていうのは学園の上層部か、日本政府か。権力に属さないんじゃなかったのかよ。
「てことは、榛名は一人部屋ですか?」
そうなるのか? それならそれで気楽なんだが。
「いえ、そういう訳でもなくてですね……」
「?」
妙に歯切れが悪い山田先生。一夏がいないなら他に思い浮かぶ候補がいないんだけど。
教員も全員女性だし。
「あぁ、どこから話せばいいか」
「どういうことですか?」
「えぇと……と、とりあえずしばらく金剛くんは一人部屋です! きょ、今日はこのくらいで失礼しますね!」
面倒くさくなったのか、言えない事情でもあったのか。
そそくさと退室する山田先生。残ったおれとシャルロットの目が合う。
「何が言いたかったんだろう」
「さあ……でも、一人部屋ってことは、いつでも遊びに来れるね」
「女の子なんだから、男の部屋に来るのは控えなさい」
「毎日寝食共にしてたのに、今さらだよ」
言い返せなくて、黙認してしまった。ホント、よくこんな美少女と一月も何事もなく過ごせたものだ。
シャルロットはしっかりしているようで何処か抜けているから、日常生活で無防備になる処がいくつかあった。
時には目を逸らし、時には未然に防いだ自分を褒めてやりたい。この子が着替え中に転んだ時などは、冗談抜きでハニートラップかと思ったし。
まあ、これで憂悶とした日々も終わるわけだ。少し寂しくなるが。
「荷物持とうか?」
「ううん、平気。それとも、榛名に見ず知らずの女の子の部屋に入る度胸ある? それなら頼むけど」
「……遠慮しとく」
「うん。じゃあ、荷物片付けたあとでまた来るから」
陽気に手を振って、シャルロットが出て行った。結局また来るのか。
あまり変わらないな、と思いつつ、扉を閉めようとすると、視界の下に銀色の丸いのが見えた。
視線を下げると、今朝に色々とやらかしてくれた人がいた。
「ラウラさん、いつの間に……」
「母がシャルロットから注意を逸らした隙にだ」
姿が見えなかったのに、一瞬で扉の内側に入り込んだラウラさん。
やっぱりこの子もちょっとおかしい。軍人らしいけど、それにしても社会的常識に疎い気がする。
平静を装って、話しかけてみた。
「織斑先生から言われた罰は?」
「無論、完璧に終わらせた。当然だ、教官の命令に逆らう筈がない」
だったら教室でIS展開とかしないで欲しかったんだが、面倒なので口にはしなかった。
ISの専用機持ちって気性が荒くて、逆上するとみんなIS展開して暴れるんだもん。
そもそも一部機能の使用すら制限あるのに、完全展開して戦闘するってどうなんだ?
深く考えだしたらまた眩暈がしてきた。額に手を当てながら言う。
「で、何のようですか、ラウラさん」
「うむ、母に話があって来たのだが……まず、その他人行儀な接し方は止せ。ラウラで構わん、敬語もやめろ」
「……わかった。でも、ラウラもおれを母って呼ぶのやめてくれないかな」
「なぜだ。母は母だろう」
「おれは男だし、まだ娘を持った憶えもないから」
「なら何と呼べばいいのだ?」
「そりゃ、金剛とか、榛名とか」
「金剛は呼びづらい。榛名も母に比べれば長い。何より私は母という響きを気に入っている。よって却下だ」
どういう理屈なんだよ。
「他に呼び名はないのか? 母に代わる良き名があるなら私も従うが」
「……じゃあ、パパとか?」
「パパ」
「……」
「ふむ、パパか。この響きは心地よいな。これにしよう」
「――いや、ダメだ! 自分で提案しといて何だけど、絶対にダメだ! 禁止!」
「なぜだ!」
なぜも何も、犯罪臭しかしないだろ!
小柄なラウラが何も考えずに口にするから、ますますヤバイ。お金の匂いがする。
無垢すぎるのかな、この子は。
「では、何と呼べばいいのだ」
「もう母でいいです……」
「あぁ、母は母だからな」
何度かループして、結局母が一番マシだと気づいた。というか、まともな呼び名はラウラが気に入ってくれなかった。
自分と同い年の娘ができた。
「それで、話って?」
「そうだな。まずは、どこから話そうか」
「あー、立ち話もなんだから、ウチの部屋に上がってよ。飲み物も出すから」
「母の部屋ということは、私の実家か。実家……いいものだ」
やっぱりこの子、ちょっとズレてる気がする。
●
「――以上だ」
「……」
ラウラの話と言うのは、彼女の生い立ちについてだった。
試験官で生まれたとか、軍人として育てられたとか、織斑先生に鍛え抜かれたから今があるので尊敬しているとか。
つい最近まで一般人だったおれにはかなり重い話だった。
「何でこんなことをおれに……」
「母となる人には私のことを偽りなく知って欲しかった。それだけだ」
ラウラは淡々と答えるが、おれとしては過去がヘビー過ぎてちょっと困惑していた。
シャルロットと言い、重い過去がある子多くないかな。誰でも大なり小なり辛い過去はあるだろうけどさ。
……ただ、親のいない彼女が母親を求める気持ちは理解できた。
おれの母は口うるさくて小心者だったが、離れた途端に、それまで味気ないと思っていた手料理が恋しくなった。
まあ、ごっこと変わらないが、ここまで信頼されているなら応えなきゃ悪いか。
「……」
「おぉ……なんだ、こそばゆいぞ」
何も知らない子どもだと思うと、それまでの言動も可愛く思えて、無防備な頭を撫でた。
ていうか誰だよ、この子に衆道とか教えたヤツ。嫁とか母とか言い出したのもそいつの所為なんだろうけど。
「母よ、腹が減ったぞ」
「じゃあ食堂行こうか。まだそんなに混んでない筈だし」
「うむ」
促すと、おれの後をトコトコとついてくる。
口調や態度は尊大なのに、行動や思考は子どもっぽい。
可愛い……かもしれない。
「嫁、ねえ」
「守ってやると言われてな。それで惚れてしまったのだ。運命的だろう?」
「はは、そうですね」
半笑いになって一夏とのノロケ話に相槌を打つ。
おれが寝てる間にフラグ建てたのか。心変わりが唐突すぎて意味がわからなかったが、実際に聞いてみても意味がわからない。
ラウラが運命とか言い始めたので、きっとそういう運命だったのだと思い込むことにした。
セシリアさんといいラウラといい、恋愛方面に関してちょろすぎじゃないかな。単に恋愛に耐性がないのかもしれないが。
「それでだ、母よ。どうすれば嫁を私のものにできるか教えて欲しいのだが」
「まずは恋人にならなきゃね。一夏に告白して恋愛関係にまでならないと」
はちみつをかけたアップルパイを口に運びながらラウラが尋ねてきた。
そこから教えなければならないのか。まあ、そんな反応も新鮮で面白いけど。
「恋人とは母と嫁のような関係か?」
「違う。お互いを異性として好き合って、両想いで交際関係にあること」
呼び名があれな所為でおれが姑みたいな扱いになっているが、まだおれたちの関係を衆道だと勘違いしているようなので、訂正しておいた。
するとラウラはナイムネを張って、
「それなら成立しているな。私も嫁を好いているし、嫁も私を好いている」
片想いなんだよね、残念だけど。何でそんなに自信満々に言い切れるか知らないが、そんなところも可愛いから良いか。
おれはうどんを啜り、水を嚥下してから言った。
「じゃあ、一夏に『私と付き合ってくれ』って言ってみて。それでアイツがラウラをどう思っているかわかるから」
「ふむ、言えばいいのだな? この私にかかれば簡単なことだ」
首肯して食堂内に視線を巡らすラウラ。そうか、この子羞恥心が薄いのか。
これならもたついている三人組に比べればチャンスがあるかも。
おれも一緒になって見渡すと、ちょうどトレイ片手に席を探している一夏を見つけた。
そろそろ混雑してくる時間か。おれはラウラの代わりに手を振って声をあげた。
「おーい、一夏。こっち空いてるぞ」
「榛名! と、ラウラもか。サンキュー、隣いいか?」
「構わん。嫁、母とともに食事を摂るのは家族として当然だからな」
「? 何だか知らないけど、一緒に食事なんて二人とも仲良いな」
「当然だ。私と母だからな」
「?」
ダメだこりゃ。会話がまったく成立していない。
これは鈍い一夏が悪いのか、世間離れしてるラウラが悪いのか。
二人とも全然噛み合ってなくて、同席しているおれの頬が引きつってきた。
疑問符を浮かべている一夏の視界に入らないよう、テーブルの下でラウラの腕に触り、訊くように促す。
「ところで嫁よ。私と付き合ってくれ」
「ん? いいぞ」
聞き耳をたてていた周囲の女生徒が「えーっ!?」だの「ウソーッ!」だの騒ぎ出す。
同時にもう慣れてしまった邪悪な気配も感じたが、おれはまったく動じずに一夏の次の言葉を促した。
「おれからも訊くけど、どういう意味の付き合うなんだ?」
「来週の臨海学校の水着の買い出しだろ? 付き合うよ。俺も新調したかったしな」
予想通り過ぎてため息も出ない。周りからは「なーんだ」、「よかった」と安堵の吐息がこぼれた。
みんな、コイツがどういうヤツかいい加減把握しなよ。
「母よ、これはどういうことだ?」
「一夏と明後日デートできるって。よかったね」
「で、デートだと……?」
紅い片眼を見開いたラウラは、信じられないとばかりに詰め寄ってきた。
「そ、それは男女が親交を深めるために外に出歩くというアレか?」
「うん」
「て、手を繋いでウィンドウショッピングをしたり、夜に夜景を見ながらキスするというアレか?」
「うん」
「……母はさすがだな! 母の言う通りだ!」
瞳を輝かせて、サンタを信じている子どものような純粋な眼差しを向けてくるラウラ。
……まあ、結果オーライなのだろうか。これ以上は二人の邪魔になると悪いので、早々に席を立とうとした。
「じゃ、あとは二人で頑張って」
「あ、榛名も来るだろ? 水着もってきてないよな?」
二人きりにしようとしたのに、一夏に呼び止められ、誘いまで受けた。一夏……なんでお前はそうなんだ。
「いや、おれはいいから」
「んだよ、お前も来いって。遠慮するなよ」
「そうだぞ母よ。こうして嫁も誘っているのだ。なぜ断る。私たちの間に遠慮などいらん」
ラウラの為を思って断ったのに、なぜかラウラまで乗ってくる始末。
ラウラ……それでいいのか? せっかく二人きりだったのに。
「……まあ、二人がいいなら」
水着は持ってきていなかったので、たしかに無いと困る。
外出するのもIS学園に入ってから一度もしてなかったので、ちょうどいいか。
――おれはこの時、女性陣のことを完全に失念していた。一夏が特定の女性とデートなんてことになったら、どんな事態になるか、冷静に考えれば容易に想像がついた筈なのに。
●別視点
「もう、何で夕食まで待ってくれないかな……」
引越しの片付けが終わると足早に榛名の部屋に足を運んだシャルロットだが、もぬけの殻のかつての自室に怒り心頭だった。
同室の生徒はなぜか部屋に居らず、後から行くと告げたのに榛名は一人で先に食堂に向かう始末。
一月もともに過ごしたルームメイトにこの仕打ちはあんまりではないか。募る不満に久しぶりに履いたスカートの違和感も気にならないほど。
(たしかに、黙って再編入したのは悪いと思うけど……)
女の自分を見せて驚かせたかった。いつも部屋では色気のない格好ばかりしていたから、女子制服に身を包んだ自分を見せれば、嫌でも意識せざるを得ないと思った。
このまま男子と偽って、榛名との秘密を抱えて過ごすのも、罪悪感を抜きにすれば悪くなかった。むしろ、その罪悪感も忘れてしまうほど、喜悦に富んだ毎日だった。
好きな男の子と二人きり。周囲には話せない秘密という蜜は、吊り橋効果もあるだろうが、自分を物語のお姫様のような気分に浸らせてくれた。
友達もできたし、フランスの片田舎で育ったシャルロットには、大勢でやるゲームに夢中になる感覚も新鮮だった。
だが、このままでは駄目だと、榛名と親しくなるに連れて気づいた。
(榛名はデュノア社と繋がりがあると、本当に心の底から信用してくれないんだから、しょうがないよね)
榛名が自分が完全に寝付くまで眠りにつかないことに気づいたのは、半月も経ってからだった。
少しずつ疲れが溜まっているように見えたのも、シャルロットが未だにスパイではないかと疑って神経をすり減らしていたからだ。
と言っても完全に疑っているわけでなく、信じたいから榛名自らシャルロットがスパイ行動を取らないか確認していたのだが、好きな人に懐疑的に見られていることを知った彼女は少し傷ついた。
だから、偽りの自分を捨てて、政治的な事情に縛られない一人の女の子として再出発し、自分の所為で拡散したゲイ疑惑もぬぐい去ろうとしたのだが――
(なんでこうなっちゃうのかなぁ)
肩を落とし、長いため息をついた。
ラウラ・ボーデヴィッヒ――シャルロットの告白を邪魔だてし、学校に二人だけの男子を嫁と母として俺の物宣言をした少女。
何となく日本を勘違い、もしくは常識を知らないことは言動から窺い知れた。
しかし、一夏と違い、マークの薄い榛名に恋愛感情はなくとも執着する女生徒がでてきたのは誤算だった。
(そもそも榛名をお母さんみたいって言ったのは、僕の方が先なのに)
自分だけが知っていた宝物を横取りされた気分だった。
だいたい、榛名とラウラはいつ親しくなったのか。シャルロットが知る限りではいがみ合っていたイメージしかないのだが。
「あら、デュノアさん……いえ、今はシャルロットさんでしたわね」
「セシリア! ……と、鈴も何してるの?」
「しっ、黙ってなさい」
パスタを注文し、席を探していると、身体を小さくしながら食後のティータイムを楽しんでいるセシリアと鈴を見つけた。
様子がおかしいことに首を傾げながらも同席していいか訊くと、息をひそめながら頷く二人。
女性とカミングアウトしてからは、二人も同性として接してくれるようになっていた。
その切り替えの早さは、シャルロットが恋敵ではないことが要因にあったかもしれない。
「二人とも、どうしたの?」
「アレを見なさいよ」
「?」
鈴が顎で指した方向を見ると、今朝にやらかしてくれたラウラと榛名が一緒に食事をしていた。
二人、そして周りも興味津々に聞き耳を立てているのは、ラウラが一夏に惚れた経緯について語っているからのようだ。
それより気に食わないのは、ラウラが妙に榛名に懐いていることと、その語りに耳を傾ける榛名の目がやけに優しい光を帯びていること。
そして、シャルロットよりもラウラを優先して食事していること。
「なんか怪しいわね、アイツ等……」
「そうですわね……まるで将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、を実践して、一夏さんの親友の榛名さんから篭絡しようとしているような」
「どこで覚えたのよ」
「榛名さんに言われてから、為になる日本のことわざを勉強しているのです」
「そんなことどうでもいいよ……」
世間話をぞっとする冷淡な声音でシャルロットが一蹴するものだから、二人の肌が寒気に粟立った。
シャルロットの表情を見ると、菫色の双眸をすっと細めて、榛名たちを見つめていた。
こんな子だったのかと、認識を改めた二人の背筋を冷や汗が伝った。
「あ、アンタって偶に怖いわよね」
「そうかな……? 僕、自分ではわからないや」
あ、ヤバイ。と、危機感に滝のように汗を流す二人は顔を見合わせて話題を変えた。
「そ、そういえばシャルロットってさー、金剛くんと同じ部屋で一ヶ月も一緒だったのよね?
二人とも仲良さそうだったし、やっぱりそれなりに進んでたの?」
「そ、そうですわね、わたくしも気になりますわ。シャルロットさんが女性だと発覚する前から応援していましたから!」
「え……いいい、いや、何もないよ! 変なことは全然! 本当に!」
顔を真っ赤に染め、両手を振って否定するシャルロットに胸を撫で下ろす。
「ねえねえ、金剛くんとはどんな感じだったの、実際?」
「わたくしも知りたいですわ。男装を隠して殿方と同棲なんて、聞いてるだけで胸が踊る内容ですもの」
「えぇ!?」
ついでに、湧き上がる好奇心から話を膨らませた。女の子というものは総じて他人の恋バナが大好きな生き物なのだ。
慌てふためくシャルロットに二人して意地悪く笑いながら詰め寄った。シャルロットは俯いて、もじもじと視線をさまよわせながら、
「そ、そんなに面白いものじゃないよ? 二人が期待してるようなことはなかったし……」
「いいからいいから。ほら、あたしたちって金剛くんことよく知らないし、アレが女の子とだとどんな感じになるか聞いてみたいのよ」
「ええ。榛名さんもなかなかに紳士な方だと思っておりましたが、二人きりでも女の子に手を出さないのは感心しました。
ですが、それとこれとは話は別で……人の恋愛は、単純に気になりますわ!」
「う……本当に何でもないよ? いつも一夏とか、のほほんさんたちが来てたから、二人きりになるのも、寝るとき以外はなかったし」
「シャワー浴びたり、着替えのときもハプニングなかったの?」
「うん。ハプニングどころか、僕が着替え中に転んだら見ないように目を背けるし、シャワー浴びてるときにバスタオル忘れたって思ったら、脱衣所にそっと用意してくれてたりして、変なことは一回も起きなかったよ」
「一夏だったら一日三回はラッキースケベが起きてたわよ……」
榛名が女の子と同室ということで極力気を遣っていたからだ。
もちろん、天性の女難がついている一夏と同列に語られては堪らない。
「では、男女としての進展は何もなかったのですか?」
セシリアが申し訳なさそうに尋ねると、シャルロットは気恥かしそうに、頬を緩ませながら言った。
「え、えとね……ひ、膝枕は、してもらったよ?」
「膝枕!? アンタがしたんじゃなくて!?」
「うん……ほら、学年別トーナメントで一夏たちに勝ったご褒美に。一晩ずっとしてもらって、頭も撫でてもらっちゃった」
「キャー! 素晴らしい! 素晴らしい展開ではないですか、シャルロットさん!」
「完全に脈アリじゃない! 何よ、アイツ。女には興味ないみたいな顔して、ちゃっかりしてるわねー」
三人集まれば何とやら。姦しい声を張り上げて、もはや榛名とラウラそっちのけで盛り上がる。
国家の代表候補生三人と言えども、蓋を開けてみればただの年頃の女の子ということらしい。
三人は内緒話をするように身を寄せ合って再び話し始めた。
「そ、それ本当? 僕に脈があるように見える?」
「男が女の頭を撫でるのは気があるサインなのよ! もっと進んだ関係になりたいけど、理性がブレーキをかけてるのね。
男は好きなコといたら我慢できなくなるから、触ってみたくなるのよ」
「まあ、妹か子どものように見ている可能性もありますけれど、シャルロットさん相手にそれはないでしょうから」
「そ、そうなんだ……榛名も言ってくれれば、僕は別に、もっと触ってくれてもいいのに……」
「くぅー! 何よ自慢してくれちゃってー! この、この!」
「あ、や、やめてよ鈴!」
「羨ましいですわね……わたくしも一夏さんとそのような関係になりたいですわ!」
「……あれ? 一夏だ」
鈴に肘で小突かれていたシャルロットが、トレイ片手に空いている席を探している一夏を見つけた。
「あら、箒さんとの剣道の稽古は終わったのでしょうか?」
「あ! 一夏のヤツ、金剛くんのところに行きやがったわ!」
「相変わらず、榛名さんにベッタリですわね……」
黄色い空気が、一夏の登場で雲行きが怪しくなる。
そこにラウラの告白紛いの一夏へのアタックと、三人でのデートと話がトントン拍子で進んでゆくに連れて、三人の顔から表情が消えていった。
「デート、って言ったわよね?」
「ええ……」
「水着を選んでもらうって聞こえたけど、気のせいじゃないのよね?」
「ええ……」
「よし、殺そう」
「ええ……そうしましょう」
「ふーん……榛名って、僕が水着持ってないの知ってる筈なのに、一夏やボーデヴィッヒさんを優先するんだ……」
榛名たちの知らぬところでこんな出来事があったのも知らずに、三人は波乱の週末を迎えようとしていた。
あとがき
まえがきでモッピーが言うように、いったん前話で終わったことにして、蛇足的に書いていこうと思います。
元々が一発ネタなので、過度な期待はしないでください。
今後の方針
・(ホモとノンケに)媚びを売る。
・シリアスとか知らない。でもドロドロは好き。
・伏線とか回収したいけど放り投げたい
の三本です。それでも読みたいと思う懐の深い方々だけお付き合いください。