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No.36838の一覧
[0] 【ネタ】社長少女キャロ・ル・ルシエ(リリカル×遊戯王)【完結】[ぬえ](2015/07/03 12:37)
[1] 「デュエル開始の宣言をしろ、磯野!」(六課入隊前)[ぬえ](2013/04/07 15:41)
[2] 「黙れ凡骨っ!」(初訓練)[ぬえ](2013/04/03 15:02)
[3] 「場のエリオを生け贄に捧げる」「ゑ?」[ぬえ](2013/04/03 15:03)
[4] 「憐れな没落貴族には勿体ない会社だ」(アグスタ編)[ぬえ](2013/04/03 15:04)
[5] 「White Devilの前には勝率わずか3%……」[ぬえ](2013/05/05 03:24)
[6] 「この虫野郎!」「あなた……誰?」[ぬえ](2013/04/03 15:05)
[7] 「セト様」「貴方の心は」「闇に囚われてはなりません」「何だこの美女(×3)は」[ぬえ](2013/04/03 15:05)
[8] 「仮面の下」[ぬえ](2013/04/07 15:39)
[9] 「三千年の時を超えて」[ぬえ](2013/04/03 15:12)
[10] 「優しさという、強さ」[ぬえ](2013/04/03 17:09)
[11] 「ドラゴン族一体につき攻撃力が500上がる超魔導剣士」[ぬえ](2013/05/04 14:18)
[12] 「俺達の満足はこれからだ!」[ぬえ](2013/05/05 03:23)
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[36838] 「三千年の時を超えて」
Name: ぬえ◆825a59a1 ID:a2f7b503 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/03 15:12
 長い文章で書くのはまだ巧くない……反省。分割しただけで内容は変わりありません。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 セトの危機を感じ取り、王都を抜け出してやって来たキサラ。たどり着いた建造物を駆け上がり広場でセトと合流するが、何やら様子のおかしい神官アクナディンが巨人を呼び出してけしかけて来る。

 セトの呼んだデュオスは瞬殺され、キサラもまた白き竜を呼び出したが戦況は思わしくない。巨人はブレスが当たる直前に粒子状に解けて避けてしまい、驚いている内に形を取り戻すと反撃してきたのだ。

「ああっ!?」

 巨人の一撃を受け、その余波でキサラは地面に倒れこむ。精霊、カーと術者は精神で繋がっており、ダメージを受ければ術者のバー、精神力も削られるのだ。バーとカーが等号で結ばれているキサラならば影響はより深刻である。

 そしてその隙にアクナディンが地中より出現させた六芒星の呪縛が白き竜へと襲いかかった。為す術なく動きを封じられ、ジリジリと石版に飲み込まれていく白き竜。完全に吸い込まれれば竜は封印され、彼女達を守るものはなくなってしまう。

 何とか呪縛を跳ね除けようとバーを振り絞るキサラだが、千年眼に加えて邪神ゾークの欠片まで宿したアクナディンの魔術の前では時間を少し引き伸ばすことにしかならない。

「よせキサラ、お前のバーが尽きるぞ!」

「構いません。けれどセト様、あなただけは守ってみせますっ」

「キサラ……!」

 もう何も出来ないのか、と臍を噛むセト。自分はこうして庇われることしか出来ないのかと。だが自分のカーであるデュオスは早々に敗れ去ってしまい、あの巨人に敵うだけの魔物は手札に存在しない。

 神でも悪魔でも何でもいい、ただ力が欲しい! そう強くセトは願った。

 ——それが叶ったのかどうかは分からないが。

 ブチリ、と大きな音がした。ハッと見ると石版に封じられる寸前の白き竜、その身を縛る六芒星の呪縛を物陰から現れた桃髪の少女が鷲掴み。

『Bind Break!』

 ……あろうことか引き千切っていた。





(……ここはどこ?)

 眠りに就いた筈が、気が付くとキャロは荒野に立っていた。ただ一人、ブルーアイズもおらず見知らぬ土地に放り出されている状況に軽く混乱し、頬を抓ってみる。

(痛っ……でも痛覚を感じる夢もあるっていうし……結局よく分からない)

 過去の記憶を引き出されたせいで素の、年頃の弱いキャロが顔を覗かせていた。心細く思いつつもなんとか現状を把握することに務める。

 しかし話しかける相手もおらず、あるのは見渡す限り砂の吹き荒れる荒涼とした大地のみ。

「ふ……うぇ……」

 正直、ふとしたことで涙さえ零れてしまいそうなキャロ。

「ずっ……ううん、私だって、一人前のレディなんだから」

 泣くものか、と拳を握った拍子にデバイスに気が付き、やっと自分の格好に目がいった。バリアジャケットを着られているので身の安全は確保できる。チンピラ程度ならば多分、魔法なしでも熨せるだろう。

(良かった。じゃあ次は)

 ひとまず人のいそうな場所に向かおう、しかしどの方向に行けばいいのかと悩むキャロの前を女性が走り抜けていった。

(わっ……キレイな髪……)

 余程急いでいるのだろう、こちらには見向きもせずに去って行く女性を観察する。珍しい真っ白な長髪と、質素な布の服。そこまで眺めて重大なことに気が付いた。

「待って、私を置いていかないで!」

 大声で呼びかけてみるが全く反応がなく、どんどん遠ざかってしまう女性。それをキャロは慌てて追いかけるのだった。

 大人と子供の違いがあれば当然、走るスピードも差が出てしまう。見失わないように必死で駆け続けること十数分、前方に見えてきた巨大な建造物にキャロは驚く。

(あれは、煉瓦や石? ミッドチルダでは見ない建築様式……お金かかってそう)

 遺跡としての価値はありそうだなぁ、と感想を抱くキャロ。考え事をしている内に更に距離を広げられてしまい、女性はもう建造物のふもとにまで到達していた。

 キャロもまた走ることに専念して後を追う。ふもとに着き長い階段を駆け上がり、やっと乱れた息を整えられると思ったところで目に飛び込んできたのは……先程の女性がまさに召喚したばかりのブルーアイズだった。

「えっ!?」

(ブルーアイズ? でも私のじゃない、なんであの人が召喚できるの?)

 疑問符で埋まるキャロの頭。自身が卵から孵したブルーアイズと寸分違わない目の前の竜は、しかしリンクを感じられないので自身の竜ではない。

 ならばこれは夢なのだろうと結論付け、一安心するキャロ。後は覚めるまで待っていればいいと思い石柱の影に隠れ、夢の続きを観賞しようと思っていたのだが。

(バーストストリームが光弾なんて……私のブルーアイズよりも弱体化してる)

 ブレスを見てハラハラし。

(一度避けられた位で唖然とするなんて、敵は待ってはくれないのに!)

 惚けた女性にドキドキし。

(ああ、バインドを喰らってしまった!)

 拘束された竜にイライラする。

 詰まる所、馴染み深いブルーアイズのあまりに酷い戦いぶりに落ち着いて見ていられないのだ。最初は大人しく傍観しているつもりだったのだが、今や隠れていた石柱から半分以上身体がはみ出てしまっている。落ち込んでいた筈の気分も既に気にならない。

 そして。

「よせキサラ、お前のバーが尽きるぞ!」

「構いません。けれどセト様、あなただけは守ってみせますっ」

「キサラ……!」

 何やら悲劇のヒロインじみた行動をとっている(ように見える)女とそれに乗っている(ように見える)男のやり取り、そこまでが限界だった。

 ブチリ、と血管が切れる音。もう色々と我慢出来ない。下がっていたテンションも沈んでいた気持ちもすっかり元通りだ。

(三文芝居かっ!? ああああもう、見てられない……いや、見ておれん!)

「バインドブレイク!」

 ブルーアイズを封じていた六芒星の呪縛を手で鷲掴み、妨害の術式で引き千切った。なのはのバインドからすれば玩具も同然である。

「大丈夫かキサラっ」

「は、はい、セト様……」

「つまらん三文芝居は他所でやれ!」

 解放される白き竜にセトとキサラがホッとしたのもつかの間、キャロが二人をもの凄い剣幕で怒鳴りつける。

「許さん、許さんぞ貴様ぁぁぁ! 仮にもブルーアイズを従えておきながらその体たらく、見損なったぞ!」

「え、あ、え……?」

 相手の剣幕もそうだが、珍妙な格好をした白い肌に桃色の髪という外見にセトはフリーズしてしまう。神でも悪魔でも何でもいいと願ったのは自分だが、異国の幼女(?)が現れたのは流石に許容範囲を超えていた。

 キサラの方はといえば彼女も彼女で混乱していた。すれ違った際に懐かしい匂いを感じたのは確かだが、この場で力を貸してくれる理由にはならない。

「あなたは一体……いえ、どうして何の関係もないあなたが干渉を……」

「関係がない? 確かに、貴様らの事情は俺にとって関係はないな……だからどうした」

 だからどうした、その言葉に呆気に取られるキサラ。ふん、と鼻を鳴らしてキャロは言い放った。

「貴様が何者だろうとこの世界がどうなろうと知ったことではない。だが俺は認めん、絶対に認めんぞ、ブルーアイズの敗北を!!」

 小さな体を一杯に動かしてみせるその様子は、キサラは何故か微笑ましさよりも先に威厳が感じられてしまう。

 この世界がどのような位置づけだろうとキャロには関係ない。彼女にとってはブルーアイズが敗北するかどうかだけが大事であり、そのためだけに干渉したのだから。

 最強たりうるブルーアイズが、無様な指揮のせいで敗北するなど許せない。ブルーアイズの強さを証明するためならば自分の悩みも木っ端同然なのである。

 しかし面白くないのがアクナディンだ。折角の策謀を邪魔されるわ無視されるわ、酷い扱いに憤慨していた。

「なんだお前は! 私の邪魔をしようというのか!」

 魔物を操りキャロへけしかけるアクナディン。紫の巨人は右腕を振りかぶり、無防備に見える背中へと叩きつけるが易々と防がれる。

『Protection!』

「静かに待つということができんのか」

『Wing Shooter!』

 話の途中で邪魔をされたことで機嫌が悪いキャロ。障壁を張り攻撃を防ぐと、逆にアクナディンに向けて魔力弾を撃ち込んだ。

「ぐああああっ!?」

「バカめ、貴様など瓦礫の中にでも埋まっていろ」

 ものの見事に直撃し吹っ飛び、そのまま帰ってこないアクナディン。石造りの建物を貫通し、ドォンと崩落していく。

「あ、アクナディン、様……」

「セト様……お気を確かに」

 自分達を苦しめた相手のあまりにもあんまりな光景に茫然としてしまうセトとキサラ。その二人に向き直り、キャロは糾問を開始した。

「さて……何ゆえそこまでブルーアイズの扱いが下手なのだ貴様らは?」

「下手? どういうことだ?」

 衝撃的な光景の連続に上手く働かない頭のまま、セトは問い返す。この時代の決闘、ディアハは一体のカーを召喚し、備えた攻撃方法と特殊能力の強さで勝敗が決まるものだからだ。そこに戦術が入り込む余地は殆どなく、攻撃力の高い魔物を召喚してただ殴っていれば勝ててしまう。

 そんなことを説明するとキャロは思い切り溜め息を吐いた。

「確かにブルーアイズの攻撃力は世界規模で見ても稀有の高さだ。だがそれも当たらなければどうということはない」

 体をバラけさせることでブレスを避けられてしまった先程のことを指摘する。この程度、子供でも知っていることだと子供に断言されてうな垂れるセト。

(戦術もロクに存在しないほど大昔という訳でもあるまいに……)

 ……実はそれで正解なのだが、彼女が知る由もなく。今度はキサラに標的を変える。

「加えて一度防がれた位で諦めるとは早すぎる。俺のブルーアイズならば軽く五十、いや百発はブレスを放つぞ」

 その数の多さに絶句するキサラ。気を失わずに竜を呼び出せるようになったのがついさっきなのだ、その要求は遥か高みにあった。

「貴様もだ、その手に持っている杖はロストロギアだろう。使わずにただ持っているだけでは普通の杖と変わらんではないか」

「うぐっ……」

 ロストロギアとは意味が分からないが痛い所を突かれて唸るセト。確かに戦いが始まってから千年杖の力を一切使っておらず専らキサラに庇われるばかり。ディアハはカー同士でするものという先入観に囚われて、何も出来ないと思い込んでいたことに気付いたのだ。

 言いたいことを言うとキャロは二人に背中を向け、巨人へと向き直った。ガラガラと瓦礫を押しのけて這い出てきたアクナディンの姿がその先にあった。見るからにボロボロであり、当然その目は怒りに歪んでいる。

「バーとはすなわち魔力なのだろう? 尽きかけだというなら下がっていろ。雑魚如き、俺一人の力でねじ伏せてやるわ」

「舐めるなよ小娘ぇっ!」

 怒り心頭のアクナディンが再度巨人をけしかける。

「勢いはいいが速さが足りん」

 次々と打ち下ろされる拳の乱雨の中を、まずは涼しい顔をして回避し続けるキャロ。エリオと共にフェイトに課せられている銃弾回避トレーニングからすればこの程度、ハエが止まる遅さである。それこそフェイトは雷速で動くのだから。

「何故だ、何故当たらん!?」

「耄碌した頭では分かる筈もあるまい。説明するだけ無駄だ」

「おのぉぉれぇぇぇっ!」

「まともに攻める手立てがないならばこちらから行くぞ!」

『Shooting Ray!』

「はっ!」

 思い切り馬鹿にした口調で激怒させ、誘導弾を撃ち出した。真っ直ぐに飛ぶ弾丸は巨人へと殺到し突き刺さろうとする。

「十発もの弾丸!? だが」

 被弾しそうになる巨人。しかし体を細かな粒子に解体することで攻撃を避け、弾が通り過ぎた後に再び集合し復活する。

「先程の攻防を見ていなかったようだな、小娘!」

「……だから貴様は耄碌しているというのだ」

 その程度お見通しだ、と空へと抜けていった誘導弾を操作して呼び戻すキャロ。思うままに動くそれらは粒子で構成された巨人が唯一持つ実体部分、すなわち左眼へと直撃した。

「ぐおおおっ!? 目が、目がぁっ!?」

 魔物とリンクが繋がっていたのか、アクナディンもまた左眼を押さえて痛みに悶絶する。巨人の方はというと次々と誘導弾をぶつけられ、無残に左眼を砕かれていた。

「貴様もそうだがタクティクスがまるでなっていない。凡骨にも劣るな」

 普通ならショック死しかねない痛みに膝を付いて耐えるアクナディン。目を砕かれた巨人は寄り代を失い、靄のように漂っている。

(この程度でお終いか、これなら凡骨の方がよほど骨のあるデュエリストだ)

 ティアナよりもつまらない馬の骨に興ざめ甚だしいキャロだった……が。

「ぬ……グゥッ……!」

 ユラリと立ち上がったアクナディンを見て鼻を鳴らした。

「ふん、惰弱な馬の骨がこれ以上何をするつもりだ?」

「もう、加減はせん、セト諸共に貴様を消し去ってくれるッ!」

 アクナディンの雰囲気が変貌していく。その体は腐食を始め、禍々しい瘴気を噴出し辺りを汚染していく。

「アクナディンの真似事をするのは終わりだ、我が邪神の力で直々に葬ってやる!」

「な……」

 セトの体がふらつく。師と慕っていたアクナディンが既にこの世におらず、あろうことか邪神に体を乗っ取られてしまっていたからだ。加えて彼は実の父親、衝撃は計り知れなかった。

 セトへと慌てて肩を貸すキサラ。未だ戦える様子のない二人の姿にキャロは一人で相手することを決め、口を開いた。

「……それで、貴様の本当の名は何というんだ?」

「ゾーク、それが貴様を消し去る神の名だ」

「ゾーク、か……どうでもいい、どうせ覚える必要も無い」

 自分で聞いておきながら覚える気の無いキャロの態度にゾークは当然憤った。というか誰でも怒るに違いない。

「舐めるなよ小娘ェッ!」

 紫の巨人だったものを吸収、瘴気の塊としてキャロへと叩きつけるゾーク。ゴン、と重い音をたてて障壁にぶつかったそれを見てキャロは少しだけ感心した。

「先程よりは力を増したか。だが頭の方は相変わらず足りていないようだな?」

「減らず口を!」

 二撃、三撃と叩きつけるゾークと、それを防ぎ続けるキャロ。合間合間に射撃を放つが、厚い瘴気に覆われたゾークの体には到達せず遮られてしまう。

 互いに攻撃が通らないまま過ぎる時間。元々攻撃手段をブルーアイズに頼っているキャロには射撃以上の攻撃力を持つ魔法がなく、ブーストを自分にかけるにしても障壁を張り続けている現状では一つが精々。完全にこう着状態に陥っていた。

 と、キラリと光を放つ千年眼。次の瞬間、キャロが予想していたのとは違う方向から瘴気が叩きつけられる。

「な……しまった!?」

 ガン、と襲ってきた衝撃に弾き飛ばされるキャロ。バリアジャケットのお陰で怪我こそなかったが、痛みは当然伝わってくる。だがそれよりもつい今しがた起きた現象の方が問題だった。

(どういうことだ……何故軌道が急に変化した?)

 今までは相手の攻撃軌道を完全に読みきって障壁を張っていた。だが今の攻撃はキャロが障壁を張り始めたまさにその瞬間、軌道を変えて迫ってきたのだ。

 自分の防御タイミングを読まれたのか、そんな懸念がチラついたが即座に否定する。そんな高等なことが出来る頭脳があるのであればそもそも最初、瓦礫に叩き込まれている筈がない。

 ならば原因は他にある。そう考えたキャロは相手を注視する。

「休む間は与えん!」

「くっ!」

 形勢を逆転させて調子付いたのか、次々と瘴気の塊をぶつけてくるゾーク。それを防ごうとするのだが、やはり障壁を張る瞬間に軌道を変えられ防御を抜かれてしまう。

「どういうことだ、何故……」

「不思議か? そうだろうな、ことごく内心を読まれているのだから」

 フンと笑い、髪をかき上げるゾーク。金属で出来た左眼がキラリと光っているのを見てキャロの脳内に電撃が走った。

(あの左眼、何らかのアーティファクトか。内心を読む、とはアレの能力か?)

「その通りだ。貴様の手の内など丸見えだということよ」

「くそ……っ!」

 思考をそのまま読まれ、上手くない状況に歯噛みするキャロ。再開された攻撃にもはや全方位のプロテクションを張って防御することしか手がないのだ。

 そして局面を打開するための手段を思いつかない現状では徐々に魔力を削られていき、やがて枯渇して敗北する。

 考えを読み取られ、攻撃は通らず、守勢もいずれ粉砕されることが決定している最悪の状況。

 容赦なく叩きつけられる瘴気の塊に文字通り魔力と体力を削り取られながら、キャロはジリジリと敗北に近づいていく。一人ではどうしようもないままに。





 そう、“一人では”、だ。

 ——ドォン! と閃光が空を裂いて瘴気を貫く。

 それを放ったのは、キャロの後ろにいた筈の白き竜だった。息を荒げて地に膝を付いたキャロの前に、竜と共にセトとキサラが歩み出る。

 庇われていることに気付いたキャロが二人の背中を睨む。ついさっきまで庇われることしか出来なかった二人に借りを作ったことが気に入らなかったからだ。

「お前に救われたというのか? キサラ、余計な真似を!」

 ぶつけられる雑言、それには振り返らないまま、キサラとセトは口を開いた。

「確かにあなたの戦術は素晴らしい、ですがあなたの攻撃では彼には届きません。力を結束しなければ」

「見ているがいい、異人の少女よ。我らの結束の力を!」

「セト……結束だと? ふん」

(力とは何だ? 己が生き抜くために、たった一つ信じられる物、それこそが力!)

 セトの言葉に気勢を削がれ鼻を鳴らすキャロ。彼女にとって力とは自分の拠り所であり、決して誰かのために揮うものではなかったからだ。

(戦いにおいて己以外は全てが敵。力とは敵を叩き潰し己の絶対領域を守るために与えられた武器なのだ。それは己自身のために存在すればいい)

 そう確信して生きてきたし、そのことに間違いはないと今でも考えている。

(だが、あの二人は……)

 膝を付いたまま視線を前へと向ける。そこには押されながらも寄り添い、ゾークに対抗し続けている二人の姿があった。

 白き竜にブレスを放たせて瘴気を貫き、千年眼の力に対しては千年杖の力を使いスキャンを阻止する。キャロが知る由はなかったが、共にミレニアムアイテムであればこそ互いに対する能力を防ぐことが出来るのだ。

 包囲するように襲いかかる瘴気に対しては竜が翼を羽ばたかせ、暴風を以って吹き飛ばす。お返しに放つブレスをゾークは瘴気を集中させることで到達を遅らせ、着弾前に跳び退ることで回避していた。

(あの男には戦う力がなく、あの女には戦う頭がない。にも関わらずヤツと渡り合っているのは、二人を束ねる何かがあるから……?)

 煩悶するキャロ。自分では押されるしかなかった相手に追い縋っている二人には、自分には無い何かがある。その正体が結束の力だというならば、今より上に行くためにはそれが必要だということだ。

 だが今までの自分は結束、仲間など必要ないと見向きもしなかった。同じ部隊で戦う者はいるが、それにしても作戦を遂行する上での駒としてしか思ってこなかった。部下も同じ、目的遂行の上での駒でしかなかった。

 今までの自分の信念と、目の前で示された力。その食い違いに、積み重ねてきたものが揺らがされる。

「……結束の力。この力はそれをも超えているというのか?」

 口に出して問うキャロ。それに答えてくれる者はおらず、自分で答えを見つけ出すしかない。

「く、あぁっ!?」

「キサラッ!」

 痺れを切らしたゾークが放った、今までで一番の量の瘴気。ブレスで散らしきれなかった瘴気がキサラへと迫るが、その前へとセトは身を躍らせた。

(私は見つけたのだ……世界がどれほど闇に満ち乾こうと、その闇を照らす術を……愛という光を!)

 力のない自分でも盾になることはできる。愛を、愛することを教えてくれたキサラ、彼女を失うことに比べれば自分を犠牲にすることの何とた易いことか。

 セトは覚悟を決め、目を瞑った。間もなく攻撃を受け、キサラと死に別れてしまうことに。口惜しいが、自分に出来ることはもう残っていない。

 だがそれはあくまでセトに限った話。
 
『Protection!』

 えっ、と漏れた声は誰のものだったか。恐る恐る目を開けた二人の前にあったのは桃色の魔力光で編まれた障壁だった。

「勘違いするな、さっきの借りはこれで返した」

 何か言われる前に素っ気なく理由を告げ、前に出るキャロ。そこに籠められて見え隠れする子供らしさに二人は笑みを漏らした。

 アクナディン、否、ゾークは戻ってきたキャロを見て嘲笑をあげる。彼にとって今の戦いは本来の力を取り戻すまでのついで、遊びに過ぎない。

 三人を絶望に叩き込み怨み呪わせることで、邪神たるゾークはより強くなれる。ゾークにとってキャロは邪神を強化する贄でしかないのだ。

「戻ってきたか! だが貴様の心ならば全てお見通し、何の役にも立たん」

「……茶番は終わりだ。怒りの臨界点を越えた俺とブルーアイズが応えてやる」

 挑発に応えることもなくキャロは魔力を練り上げる。既に彼女の中にはゾークの攻略法が組みあがっていたからなのだが、その澄ました様子がゾークは気に入らない。

「やれるものならやってみるがいい!」

 瘴気の壁がゾークに従い、再び全方位から押し寄せる。

「キサラ、やれ!」

 キャロの声に応えてブレスを放つ竜。ゾークに向けて放ったそれは当然防がれるが、開いた隙間はキャロが飛び出すには充分だった。

 後方の様子を気にすることなく突撃するキャロを見てゾークは嘲笑う。

「その動きは何度も見たぞ!」

 雨霰と降り注ぐ瘴気の散弾、その合間を縫ってキャロは迫っていく。ゾークには右に左に、急流に翻弄される木の葉のごとく映る。

「忘れたか、千年眼の前では無力だということを」

 キィン、と光り輝く千年眼がキャロの内心を暴き立てる。その回避方向、速度、行おうとしているフェイント、その全てをゾークは把握できてしまう。

「これで終わりだッ!」

 キャロが回避しようとしたルート、そこに瘴気の塊を放つゾーク。キャロに回避する手立てはなく、打ち据えられて吹き飛ばされる————筈だった。

「ふん!」

 全く違う方向に危なげなく回避するキャロ。読み違えたことに驚愕するゾークをせせら笑い、キャロは猶も進撃を続ける。

「馬鹿な、読み違いなどある筈がないッ」

 再び千年眼を発動し、今度は間違えないと隅々まで思考を読み取ろうとするゾーク。だが。

「な……なんだこれは……三つ、四つ、五つ、まだ思考があるというのか!?」

 幾つもの異なる思考が並列して行われていたことにゾークは再度驚愕する。どれが本当の思考なのか、そもそもトリックがまるで理解できない。

 ゾークは知る由もなかったが、キャロの行っているマルチタスクはミッドチルダではごく当たり前の技術だ。たまたま先程までは単一思考で戦っていただけで、彼女もまた複数の思考を同時に行うことが出来る。

「喰らえッ!」

 混乱したままの雑な攻撃を潜り抜け、ゾークへと殴りかかるキャロ。その腕は強化を施され、障壁程度た易く貫きうる。

「舐めるなッ!」

 それを寸での所で回避し、逆にゾークは下から瘴気をぶつける。ドンッという衝撃にキャロはその体を浮き上がらせ、高く上空へと打ち上げられた。

「……ふ、所詮は小娘の浅知恵、何ィッ!?」

 無様にカウンターを喰らったキャロを笑おうとして身動きが取れないことに動揺するゾーク。肉薄したのはバインドを掛けることが目的、攻撃はブラフでしかなかった。

「やれ、キサラぁっ!」

 拘束されたゾークへと、白き竜が渾身のバーストストリームを見舞う。激しい閃光に飲み込まれたゾークは瘴気を吹き飛ばされ体を焼き尽くされていった。

「ぐぅぅぅっ、このままではッ!?」

(本来の姿を取り戻せば、こんな奴らなど!)

 溜まらず肉体を放棄して抜け出すゾーク。邪神の欠片となって離脱し再起を図るつもりなのだ。

(残る寄り代は盗賊王バクラ、そこに宿った魂と合流すれば全てが片付く!)

 しかし露出したその魂へと、鎖が突き刺さる。

「がっ!?」

『Chain Destruction!』

「魂だけならば滅するのは簡単だ、消えろ雑魚め——連鎖破壊!」

 必滅の呪いが篭った破壊の鎖がゾークの離脱を許さない。ゾークのみならず何処かへと伸びていった鎖はすぐさま白熱し始めた。

 この世界からゾークが存在した痕跡全てを破壊し尽くし邪神を滅ぼす、浄化の鎖。

「あ、あ、ア、アアアアアアアアッ!?」

 カッと閃光が迸り————消失する。そこには既に何も残ってはいなかった。

「……これが我らが勝利せんがための結束の力だ」

 危なげなく着地し、キャロは体に付いた埃を払う。本体を失ったためか瘴気は霧散してしまっていた。

(未だ考案中の魔法だったが、上手くいったな。とはいえ夢での成功では不確かでしかないが)

 魔法陣の中へ鎖を収納しつつ魔法の出来を採点するキャロ。

 チェーン・デストラクションは最近力を付けてきたティアナの幻術対策である。姿を消そうが遠くに隠れようが執拗に追尾し襲いかかる新魔法を実戦で試すことが出来てキャロは大満足だ。

 後は気晴らしとしても上々の趣向だった。やはりブルーアイズこそが最強にして無敵であり、その事実こそが自分の根幹だと理解できたのだから。

「……一応礼を言う。ではな」

 用は済んだ、適当に時間を潰して起きるまで待とうと考えたキャロ。だがそれをセトは慌てて呼び止めた。

「待ってくれ! 何者なんだお前は? どこから来た? どうしてそんなにも強いのだ?」

「質問が多いぞ……人の心には神を越えて信じるべきものがある。俺はそれに従ったまで」

 相棒であるブルーアイズの最強、それこそが自分の根幹なのだと気付いたキャロはその信念を貫き通した。それだけのことだ。

「神を超えて、信じるべきもの……」

 呟き、思わずキサラの方を見るセト。隣の彼女もまた、セトの方を向いていた。

「キサラ……」

「セト様……」

 徐々に近づいていく顔と体。互いの頬に手を伸ばし、顔を近づけていって——

「俺を放って何を始めるつもりだ、貴様ら」

「はっ!」

「い、いえ!」

「全く……」

 思い切り二人の空間に入ろうとしていたのをぶち壊し、しかし彼女は気分を害してはいなかった。

(結束の力か……悪くないな)

 新たな境地に手ごたえを得てそのまま姿を薄れさせていくキャロ。二人が気付いた時には完全に消え、元の世界へと帰還してしまった後だった。

 つい先程までキャロがいた場所にはもう、何も残っていない。だが確かにそこには彼女がいたのだ。

 後に残された二人は顔を見合わせる。

「……あの者は、何だったのだろうな」

「分かりません……ですがまたどこかで会える、そんな気がします」

「キサラもか? 私もどこか懐かしさを覚えた。案外身近な存在なのやもしれぬな」

 えぇ、と返し空を見上げるキサラ。それに倣ったセトは陽光の眩さに思わず目を細めた。

(太陽とは、こんなにも眩しいものであったか)

 ふと視線をやると、だいぶ先に馬で駆けてくるファラオがいた。その遥か先には王国がある。

 何もないように見える砂漠も、セトには何故だか美しく感じられる。それはやはり心境の変化があったからなのだろう。

(その切欠を与えてくれたのは……)

 隣に並び、景色を眺めているキサラを見る。自分の人生に深く関わりを持ち、そして大事なことを教えてくれた存在だ……父に歯向かってまで選んだ相手を手放すことなど考えられなかった。

「キサラ……この国は深く傷付いた。再興には時間が掛かるだろう」

「……はい」

 キサラの眼をじっと見つめる。どこまでも深い蒼の瞳には、セトの顔だけが映っている。

「神官たるこの身は王国のためにある。私といれば辛いことも苦しいことも多いだろう。それでも……」

 私の隣で支えてくれないか、一世一代の言葉にキサラはそっと頷いた。

 ――叶うことならば来世までも共に、と。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 次回、『小さな王様』


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