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No.36838の一覧
[0] 【ネタ】社長少女キャロ・ル・ルシエ(リリカル×遊戯王)【完結】[ぬえ](2015/07/03 12:37)
[1] 「デュエル開始の宣言をしろ、磯野!」(六課入隊前)[ぬえ](2013/04/07 15:41)
[2] 「黙れ凡骨っ!」(初訓練)[ぬえ](2013/04/03 15:02)
[3] 「場のエリオを生け贄に捧げる」「ゑ?」[ぬえ](2013/04/03 15:03)
[4] 「憐れな没落貴族には勿体ない会社だ」(アグスタ編)[ぬえ](2013/04/03 15:04)
[5] 「White Devilの前には勝率わずか3%……」[ぬえ](2013/05/05 03:24)
[6] 「この虫野郎!」「あなた……誰?」[ぬえ](2013/04/03 15:05)
[7] 「セト様」「貴方の心は」「闇に囚われてはなりません」「何だこの美女(×3)は」[ぬえ](2013/04/03 15:05)
[8] 「仮面の下」[ぬえ](2013/04/07 15:39)
[9] 「三千年の時を超えて」[ぬえ](2013/04/03 15:12)
[10] 「優しさという、強さ」[ぬえ](2013/04/03 17:09)
[11] 「ドラゴン族一体につき攻撃力が500上がる超魔導剣士」[ぬえ](2013/05/04 14:18)
[12] 「俺達の満足はこれからだ!」[ぬえ](2013/05/05 03:23)
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[36838] 「ドラゴン族一体につき攻撃力が500上がる超魔導剣士」
Name: ぬえ◆825a59a1 ID:ff7ef8b6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/04 14:18
 古代、ベルカの時代において開発使用された兵器は現代のそれを遥かに上回る性能と凶悪さを持っていた。羽虫を払うように命を奪い、息をするように環境を汚染する、ただ効率的に殺すことだけを目的にしたものばかり。

 そしてその中でも一際、危険視されていた存在。土地と生命を贄に生み出される最悪の生物兵器を、ベルカの民は畏れと蔑みを込めてこう呼んだ。

 ——地縛神、と。

 固い体表に通常兵器は意味を成さず、魔法すら遮断する特性を持った巨大生物達。加えて対峙した者の戦う意思を折るという精神干渉能力に、数えるのも馬鹿らしくなる程の人命が失われた。

 膨大な魔力、生命力を常に必要とし、呼び出された土地を離れられないという欠点は存在した。 但し敵地で召喚すれば解決できるため、何ら足枷にならなかったが。

 しかし戦争は終わり、ベルカは滅びた。地縛神もまた、失われた筈だった。

 一人の科学者さえいなければ。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 地上本部及び機動六課が陥落させられたものの、襲撃の苛烈さが嘘のようにスカリエッティ側からの音沙汰がないまま一週間が経過する。不気味ではあるものの、その間にキャロは本社に戻り必要な準備を終えていた。

 それから更に三日後、テロから都合十日後、スカリエッティのアジト発見の報と巨大戦艦出現の報がほぼ同時に六課司令部へと飛び込んでくる。それに少し遅れる形で、首都へ向けて進軍する戦闘機人とガジェットの群を確認。

 アースラに拠点を移した六課人員は三手に別れての作戦を決定、フォワード陣は戦闘機人迎撃のため首都クラナガンへと向かったのだった。





「どういうつもり……自分から窮地に追い込まれるなんて」

 ディードらによる奇襲でバラバラになったフォワード陣だが、ティアナがビルへ隔離される寸前にエリオが突入、戦闘機人達の目論見とは少しだけ異なった状況になっていた。

 それもこれもキャロがエリオの襟首を掴んで放り投げたからである。ブーストした腕力により弾丸のごとく飛んでいったエリオは轟音とともにビル内部へと突き刺さった。

 その結果、目下一番不利なのはたった一人になったキャロである。当然、ルーテシアは問いかけた。一体何を考えているのかと。

 だがキャロは笑う。飛んで火に入る夏の虫はお前だ、と。

「貴様らのつまらん小細工など初めからお見通しだ」

 どこかの時点で奇襲があるだろうことは初めから分かりきっていた。四人一組での戦いに慣れたフォワードに対し、正面からぶつかるのは下策もいい所。以前の交戦も、四人のコンビネーションにより難なく乗り切っている。

 故に、彼女にとっては全て想定内でしかなかったのだ。
 奇襲により自分達を分断し、各個撃破を試みるだろうことも。
 スバルに対し、彼女が戦いを躊躇するギンガをぶつけることも。
 ポテンシャルに劣るティアナを袋叩きにするだろうことも。

 そして読みきり各員に告げた上で、キャロはそれを利用した。自分がルーテシアとサシで戦うために。

「あと、何か勘違いしているようだが……俺は一人の方が全力を出せる。故に窮地に陥っているのは貴様の方だ、小娘」

「っ!」

 覇気に溢れた眼差しに圧されかけるルーテシアを見て、最初に仕掛けたのはガリューだ。会話をしている間に、彼は既にキャロの死角へと回りこんでいた。

 姿を消して忍び寄り、無防備な背中に右腕を振り下ろす。生半な障壁では防ぎ得ない鋭い刃、それをキャロは半身になってかわしながら、流れるように両掌を鳩尾へと押し当てた。

「——!?」

 一点に向けて放たれる十発の弾丸。ゼロ距離で放たれた射撃は、いかに適性の低いキャロのものとはいえ凶器と化す。

 ズドン、と腹部を襲う衝撃に押され、ガリューは数メートル後退った。

「そんなフェイントが俺に通用するとでも思っているのか?」

 接触状態で形成した射撃魔法陣を消しながらやれやれと首を振る。この位の奇襲、ティアナとやりあえば日常的に経験できるのだから。

 追撃が来ないことを見て取ったキャロは右手を天に掲げ、振り下ろした。

「来い、我が手札にて最強、かつ美しきしもべ——」

 主の声に応じて上空から降り立つブルーアイズ。対するルーテシアも自分の召喚獣、地雷王を呼び出していく。その数、五体。

 ポテンシャルとしてはブルーアイズが勝るだろうが、数が違う。五対一の状況は客観的に見て劣勢の筈だが、キャロはそちらに目を向けはしない。ただ、仇のみを見据えていた。

「竜魂召喚」

 短い始動キーに応じ、両方の宝玉を光らせるケリュケイオン。竜魂召喚を用いるのは実に数ヶ月ぶりである。

 キャロの用いる龍魂召喚とは、別のドラゴンの力を降霊し、能力を受け継がせる技術である。キャロとブルーアイズが打倒した竜を糧とするこの技術はルシエにおける基本、そして究極の術である。

 普段は使用することの無い規模のため、回路は最大限に回転させられ悲鳴をあげていた。修復したばかりの宝玉にまたしても亀裂が走る。

 だがキャロは猶も容赦なく魔力を注ぎ込み、両手を天に翳した。そして高らかに謳いあげる。

「蒼穹を焼く赤き憤怒。我が翼となり、天を燃やせ。来よ、タイラントバーストドラゴン!」

 自らのストックから呼び出した竜魂を球状に形成するキャロ。球形に押し込められた魂は真っ赤に脈動し、ブルーアイズへと吸収されていった。

 暴君の異名を持つ竜の魂を受け継いだブルーアイズが姿を変じていく。その巨躯は蒼に染まり、優雅さを粗暴さへと変え、全ての上に君臨する暴君さながらの威圧を放っていた。

 ブルーアイズタイラントドラゴン、攻撃力そのものはさほど上がっていないものの、獰猛さを格段に増した蒼龍が咆哮をあげた。その身に溜めた怒りを力と変え、眼前の敵へと叩き付ける。

 召喚された地雷王達に撤退するという選択肢はなく、ましてや降伏を選べるだけの知能は存在しない。だがビリビリと圧力となって押し寄せる存在としての格の違いを見せ付けられ、彼らですら無意識に後退る。

 今のキャロの辞書に容赦などという言葉は存在しない。ヴィヴィオを取り戻す時まで、立ち塞がる敵は全て叩き潰すのみ。

 ゆらり、と頭上に伸ばされる右手。ブルーアイズが待ち望んでいた攻撃の合図が、下される。

「ゆけ! 滅びのタイラントバーストストリーム!」

 拡散するブレスが地雷王達を呑み込み、打ち倒していく。地雷王も雷撃で応戦しようとするが蒼い閃光に掻き消され、その身を吹き飛ばされていった。

「く……!」

 障壁でもって余波を防いだルーテシアの視界に、既に地雷王は一匹たりとて残ってはいない。ことごとくがその身を焼かれ、地上へと落下していった後だった。

 想定以上の力量差に焦るルーテシア。彼女が戦力として呼びうる虫のほとんどは、以前の交戦で葬られてしまっている。

 だが彼女にはまだ一つだけ、奥の手が残されていた。

「来て……白天王!」

 自分の呼び出せる最大の召喚獣、白天王を召喚するルーテシア。彼女の背後に現れた巨大な魔法陣から、白天王が更に巨大なその姿を現していく。

 虫の分類でありながら四肢を持ち二足歩行を行う白い巨人、それが白天王だ。魔力を根こそぎ奪っていく奥の手ではあるものの、竜種に対抗するにはどうしても切らなければならない切り札だった。

 白天王の体躯は大きく、ブルーアイズよりも更に大きい。流石に攻めあぐねているのか仕掛けようとしないキャロに、ルーテシアは僅かばかり態勢を整える時間を得る。










 そうして暫し、互いに睨みあう主従。

 同じ年頃、同じ孤児の身、同じ召喚士、同型のデバイス、同じ孤独な境遇、二人には共通点がいくつも存在する。

 だからこそルーテシアはキャロに親近感を持ち、疑問を持ったのだ。何故六課に留まって不必要なことをしているのか、と。一人で生きていける力を持つにも拘らず、何故仲間ゴッコをしているのか、と。

 確かに以前の邂逅においては、二人は似ていたのかもしれない。孤独に震え、力があるにも関わらず他人との繋がりを欲していたキャロは、ルーテシアにとって鏡のような存在だった。

 だが今現在、決定的な違いが二人にはあった。猶も答えを持たない者と、既に答えを見つけた者。今を拒絶し立ち止まった者と、過去を直視し清算した者。寄る辺を持たない者と、信念を明確にした者。

「お前は何故、あの男に手を貸す?」

 キャロは問いかけた。気まぐれか、戯れか、気の迷いか。俺の居場所を破壊してまで成し遂げなければならない大義でもあったのか、と。

 そうして返ってきた答えは……彼女にとって興ざめも甚だしいものだった。

「あなたを倒して、全てが終わったらレリックを探してもらえる。アルハザードの技術で生まれたドクターならお母さんを生き返らせられる……そうしたら私にも心が生まれる——」

「憐れだな」

 自分から尋ねたにも関わらず聞くに堪えぬ、とキャロは独白を断ち切った。呆気に取られた様子のルーテシアを見て、フンと鼻を鳴らす。

「死者蘇生、アルハザードの英知……俺には全て、壮大なスケールを並べ上げた泣き言に聞こえるぞ?」

 貴様の身に起きた悲劇など俺の知ったことではない、だがと言葉を続ける。

「間違いなくお前は人間だよ……何故ならそんなくだらない御託を並べて、お前は自分の心の弱さを封印しているからだ。それこそ紛れもなく、人間だけが自らにする愚かな自己逃避だ」

「っ!?」

 容赦なく抉ってくる言葉にユラリ、と目の焦点を失うルーテシア。自分の心を土足で踏み荒らされていく衝撃は、それこそ筆舌に尽くし難いものがあった。

 生まれながらに一人ぼっちで、犯罪組織の中で育った日々。狭い洞窟の中、暗い闇の中、人目を避けて、身を竦めて生きてきた。

 冷たくて、寒くて、震えて、でもそれを伝える相手がいない毎日。手を引いてくれるゼストは、しかし自分を見てはいない。ドクターも、戦闘機人達も、召喚士としての力しか自分に求めていない。

 悲しかった。苦しかった。辛かった。そしてなにより、寂しかった。

 誰かに訴えることの出来ない心にはただただ嫌なことが積み重なるばかりで、痛みしか与えてくれない。だったらそんな心なんて、無ければよかった。

 だから心を閉じた。感情を殺した。気持ちを封じた。そうして自分には心が無いのだと“思い込んだ”。

 ーーギリ、と食い縛った歯が鳴る。抑えきれない激情がルーテシアの表情を歪める。

「あなたに、何が分かる」

「貴様にも分かっている筈だ」

 ドクン、と魔力が命脈する。Sランクの魔力が感情のままに、小さな体から迸る。

「満ち足りたあなたに、何が分かる」

「現実から目を逸らすことの愚かしさを」

 焦点が再び合った時、ルーテシアの瞳からは憎悪をも越えた殺意が噴出していた。

「殺す、あなたにだけは、絶対に」

「他人に求めた所で何も得られはしない……この世界はそんなに優しくない」

 食い殺すと言わんばかりの鋭い視線を哀れみの目で見返すキャロ。

「白天王ッ!」

「ブルーアイズッ!」

 魔力砲とブレスが放たれ、拮抗し、爆発する。爆煙が視界を遮る前にその場を離脱し、キャロはルーテシアとガリューの二人を相手取る。

 ルーテシアは一切の手心なく敵を殺さんと魔法を放ち、キャロは全てを防ぎ叩き潰していった。










「そん……な」

「……これが現実だ」

 猶も君臨し続けるキャロに、ルーテシアは思わず膝を付く。ガリューは瓦礫の中へと埋まっていて、白天王も燃やされて地上に転落していった。

 自失したルーテシアを見て、再びキャロは声をかけた。

「まだ戦うつもりか。ヤツらの言葉を妄信したまま」

「私には、それしかない、残ってない!」

 辺りに響くルーテシアの叫び。他に手はないのだと、自分にはこれしか残っていないのだと必死に訴える。

 その訴えに、キャロは更に大声を叩きつけた。

「ならば聞こう! スカリエッティが貴様を本当に助けようとしていたなら、あの男は何故全てをお前に話さず俺と競わせるような真似をした!? 何故そんな回りくどい、歪んだ方法を選んだのだ!?」

「っ!?」

「貴様も薄々気づいている筈だ、何故貴様がスカリエッティの下で育てられたのか。何故ヤツが貴様の母親の体を保管しているのか」

 ヒュッ、と息を飲むルーテシア。キャロはそれだけの剣幕だった。

「ヤツらはお前を所詮、使い勝手のいい道具としか思っていない。十一番のレリックとやらが手に入った所で素直に母親を返してもらえるかどうか……既に入手し隠している可能性すらある」

「そんな、嘘、嘘だよ……そんなことあっていい筈がない……!」

 そのようなことがあれば前提から崩壊する。ただ良い様に利用されるだけの駒でしかないなど、ルーテシアは到底許容できない。

 だがそれが“あり得ること”なのだと理解させられてしまった今、その可能性を無視して戦うことなど出来ない。彼女はもう、立ち上がれない。

 それでも尚、キャロは訴え続ける。耳を塞ぐことを許さず、容赦なくルーテシアの心を抉っていく。かつての自分によく似た少女の心に触れるために。

「貴様の見てきたものは所詮、全て作りごとの世界。貴様は心を、目を閉じるのではなく、見開き、真実を求めて戦わねばならなかったのだ!」

 そのようなことを言われても、今の自分に一体何が出来るというのか。もう全てが遅いのだ。

 これまでやって来たことを全否定され、底なしの沼に堕ちていくような絶望。行くも地獄、戻るも地獄の自分には、やはりこれ以上進むことなど出来はしないのだ。

 色を失っていくルーテシアの瞳。ぶつけられる言葉の重さに、突きつけられる現実の痛みに、幼い心は壊れる寸前だった。

 その彼女に、キャロは手を差し述べた。

「投降しろ、ルーテシア。俺に負けたことを認め、そして真実を己の目で確かめろ」

 その言葉は一筋の光明だった。何も見えない彼女に差し込んだ、たった一つの道筋。

 だがそれでも躊躇してしまう。もう疲れてしまったのだ、これ以上進もうとすることに、一体意味はあるのか。

「……それでも、まだドクターやナンバーズが残ってる。あなた達でも」

「ヤツら如きがどう足掻こうと、俺に対峙する敵の結末は既に決まっている。あの男の力など取るに足りぬということを、この俺が直々に証明してやる」

「あ……う……」

 力強い断言にすがりたくなる。本当に立ち止まってしまう前に、あと一度だけ進んでみてもいいかもしれないと思ってしまう。

 この自信家の言うことを、信じてみたくなる。

「わたし、は……」

 揺れる心情。あと一押しなのだろう彼女の迷い。





 それを、邪魔する声が空から響いた。

「————あらぁ、いけませんよお嬢様。ソイツはお嬢様の、私達の敵なんですから」

 上空に現れたモニターに映る戦闘機人Ⅳ、クアットロ。彼女の声にビクリと体を震わせて、ルーテシアは俯いた。どうすればいいのか、と。

 戦闘機人達に教えられてきた“常識”と、今キャロによって叩きつけられた“非常識”が衝突し、せめぎ合う。容易に答えを出すことは出来ず、煩悶するルーテシア。

 それを見て……クアットロは嗜虐の笑みを浮かべた。

「そこの子供に甘い話を吹き込まれてしまったんですねぇ。お嬢様はお優しいですから……すぐに惑わされてしまって」

 何を企んでいるのか、キャロが疑問に思う間もなく変化が現れる。ルーテシアが突如として苦しみだしたのだ。

「う、うあああ、ああああああっ!?」

 轟、と魔力を噴出し叫ぶルーテシア。後先考えない魔力放出を続けながら、その目を紅に染めていく。到底本人の意思でやっているとは思えない行動だ。

 その理由に思い至ったキャロは苦虫を噛み潰したような表情でクアットロをなじる。

「洗脳、いや狂化か。人の意思を操るとは……下劣な発想だ」

「ふふ、負け惜しみにしか聞こえないわねぇ」

 好きに吠えろ、そう言わんばかりのクアットロにこみ上げる怒りを感じながら、ルーテシアへと呼びかけていくキャロ。

 だが何の反応も返ってくることはなく、ただ何かの魔法が発動していることが分かった位だった。

 スカリエッティの開発したコンシデレーション・コンソール。予め処置を施すことにより、電波一つで人間の心を塗り替えてしまう洗脳の業。

 人を人とも思わぬ所業にとっくにキレているキャロだが、吹き上がる魔力の密度に近づくこともままならない。手出しできないままの状況にもどかしさだけが積み重なっていく。

「ふざけた真似を……!」

「ふふふ、精々足掻くといいわ。ほうらお嬢様、目の前の憎い敵を、プチッと潰しちゃって下さいな」

「……我が運命の光に潜みし亡者達の魂よ……流転なるこの世界に暗黒の真実を導くため、我に力を与えよ」

 クアットロにその身を操られ、強制的に魔法を行使させられるルーテシア。まず一つ目、周囲一面を覆うように結界が張られると、続けて地上に異変が起こる。

 ドーム上に張られた結界の中、地表に魔力で図画が描かれていく。紫に輝くそれは地上絵と呼ばれる代物であり、描き出されたのは巨大な蜘蛛だった。そして地中よりソレは姿を現す。

「現れよ……地縛神Uru」

 地縛神Uru。古代ベルカの生物兵器の中でも一際凶悪とされた、地縛神の一柱。

 赤い目を爛々と光らせた大蜘蛛、高層ビルをも越える巨体のUruが徐々に近づいてくる。明らかに異様な敵を、当然キャロも魔法で迎撃しようとした。だが。

「……魔法が発動しない、だとっ!?」

 まるで編みあがる気配のない魔法。気が付けば辺り一帯をこれまでにない強固なAMFが覆っていた。その強度、実に100%。飛行魔法すら発動できないレベルだった。

 そして異変はそれだけではない。

「くっ、やれブルーアイズ! ……ブルーアイズ?」

 ブレスで焼き尽くせと命じたにも関わらず応えないことをいぶかしむ。そうしてキャロが見たのは、信じられないことに戦意を折られ膝を付いているブルーアイズだった。

 あり得ない事態に困惑するキャロ。一体何が起きているのか、その疑問に答えたのはクアットロだった。

「ふふふ……魔法無効化能力や対物理装甲も強力だけど、ソレの一番の特長は精神干渉能力。地縛神の前ではあらゆるものが跪くことを強いられるのよ」

 遂に間近まで迫ってしまったUru。自らを呼び出したルーテシアを蜘蛛の糸で絡め取り、囚われの身としてしまう。

 Uruの不気味に赤い複数の目が、キャロに歯向かうだけ無駄だと訴えてくる。にじみ出る邪気が、抗いを無意味であると押し付けてくる。他にも何か、幻覚を見せるような作用もあるのかもしれない。

「くっ……」

 人一倍自我の強いキャロですら、耐え切れず膝を付いてしまう。脳内をかき回されるような酷い不快感と敗北への甘い誘惑が、しきりに彼女を苛んでいく。

 立ち上がることもままならぬ窮地のまま、Uruの吐き掛けた糸がブルーアイズを屋上に縫い止めてしまう。反撃は元より離脱すらままならなくなった主従は絶体絶命だった。

 Uruの攻撃力自体はブルーアイズがまともに戦えるならば、まだ抗いようはある。だが体外への魔法が一切発動しないAMFと通常兵装で傷付けられるかも怪しい装甲、そして何より洗脳効果が厄介過ぎる。

 ふとした拍子に甘い言葉が脳裏に流れ込んでくるのだ。あんな相手では、到底敵う筈がない……これだけの攻撃、負けても仕方ない……そうすれば、すぐにでも楽になれる……実に優しい言葉で、Uruは抵抗心を折ろうとしてくる。










 ——それでもキャロは抗うことを止めなかった。

『どうしてそこまで頑張る必要がある?』

 決まっている。この身がデュエリストだからだ。

『それにどれ程の価値がある?』

 誰に認められずとも譲れないものがある。誰の指図も受けん。

『意地を張って何の意味がある?』

 自分に憧れてくれた者がいた。幼いながらに信念を貫いた者がいた。ここで膝を付くことは即ち、その者の信頼を裏切ることと同義。

 そんなことは。

(そんなことは、断じて認めんッ!)

 ギリ、と歯を食い縛って立ち上がるキャロ。だが風前のともし火といった様子を見て一つ、クアットロは追い討ちを与えた。

「気付いているかは知らないけど……地縛神へ攻撃することはできない、だけど術者本人を攻撃する分には自由。さぁ、どうするのかしら?」

 この状況を脱することの出来るかもしれない、悪魔のような提案。召喚士を殺せば地縛神を送り還せるかもしれないという甘い言葉でクアットロは揺さぶりをかける。

 確かに魔力の供給元がいなくなれば、如何に強力な召喚獣とはいえ現界を維持することは不可能だ。

 だが目の前の地縛神が通常の召喚獣と同じである保障などどこにもない。そして一度手を差し伸べたルーテシアを見捨てるような選択、キャロに選べる筈もなかった。

 視線の先、Uruに囚われてなお魔力を吸い上げられ続けているルーテシア。徐々に土気色になっていくのを見れば、そう時間が残されていないことは瞭然だった。

(ふ……この俺がまたしても劣勢になるとはな。どうしたものか……)

 クアットロの提案を蹴り、Uruを睨み据える。この窮地を乗り切るべく持っている手札を洗い出しながら、キャロはふとフェイトとの戦いを思い返していた。

 キャロはずっと一つの答えを捜し求めていた。究極竜を召喚したにも関わらず喫した敗北、キャロは何度も、何度もシミュレーションを繰り返して敗因を探り続けた。

 そしておぼろげながらも答えを見つけ出したのだ。あの時、フェイトにあって自身になかったものを。

 あの時、キャロは自分のためだけに力を揮っていた。ブルーアイズすらおざなりにして、ただ己の望みのためだけに。

 フェイトは違った。哀しみに、苦しみに表情を歪めながら彼女が戦い抜いたのは、キャロの心を守るためだった。

 人は守らなければならぬ者を背負った時、強くなれるのか……その問いの答えを確信する方法は、デュエルに勝つ以外ない。

(あの小娘は、過去の俺自身なのだ)

 キャロもまたルーテシアに親近感を覚えていたのだ。だからこそ今の彼女が許せず、手を伸ばしたのだから。

 それを踏みにじったのはクアットロだ。上空で高みの見物をしている彼女にキャロは指を突き付けた。

「貴様には分かるまい、この俺を動かす怒りの意味が」

「怒りの意味? ふふふ、今にも死にそうだってことかしら?」

 モニター越しに窮地のキャロを嘲笑うクアットロ。風前の灯といっていい今の彼女がいくら吼えて見せたところで何の痛痒も感じない。

 だがキャロが怒りを感じていた理由はそうではない。“この程度の状況”ならば、逆境と称するのもおこがましい。

 Uruが吐き掛けてくる糸の塊を跳び退って回避しつつ、フンと鼻を鳴らした。元に戻った精神状態でもって、キャロはいつも通り相手を馬鹿にする。

「勘違いするな、根暗女。そんなことはどうでもいい」

「ね、根暗……っ!?」

「貴様は小娘の心を封じ、俺達のデュエルの邪魔をした。それは俺達デュエリストの誇りに傷を付ける行いだ」

「……何を言うかと思えば。決闘? 誇り? そんな下らないことで」

 ブツリ、と何かが切れる音。続いてキャロの身から魔力が吹き上がる。

 デュエリストすら馬鹿にされ、真実キャロはキレていた。そうして決して使うまいと封じていた手札へと手を伸ばす。

「俺はずっと、この身が疎ましかった。竜召喚士でありながら竜殺しでもあるこの身がずっと、疎ましかった」

 す、と懐から取り出した剣の柄。蒼と金で彩られたそれを、キャロは何ともいえない表情で握りしめる。

 ここ数日かけて創り上げた、自分にとっての区切りとなるデバイス。ただの発動媒体でしかないソレは、彼女の力を最大限に発揮するためのものだ。

 誰よりも竜と共に生きる定めを持ちながら、誰よりも竜を殺すという矛盾。彼女の体にはルシエの巫女としての力とアルザスの竜の力、そしてドラゴンスレイヤーとしての力が宿っている。

 これまではずっと、後者二つの力を互いに封印させることで打ち消していた。手に入れた経緯からして忌むべき力でしかなかったからだ。

 だが本来、力そのものに罪はない。そう吹っ切れるまでが長かったものの、既にコレを揮うことに躊躇は存在しない。

 葬られた竜の数だけ加護を得る竜破壊の証。キャロは魔導師であると同時に竜殺者でもあるのだった。

 一振り、柄を宙へ振るうキャロ。何もなかった筈の刀身に数百の竜魂が送り込まれ、光剣を天へと伸ばしていく。

 1メートル、5メートル、10メートル、20メートル、更に伸びようとするソレをキャロはゆらりと大上段に構えた。既に斬艦刀と呼べる大きさになっており、ただ振り下ろすだけで全て両断してしまいそうな様相を呈している。

「で、でもUruの前では抵抗は不可能。相変わらず攻撃できないのは変わらない筈……!」

 刀身に集束しているエネルギー量に冷や汗を流しながら、クアットロは確かめるように呟いた。いくら強力な攻撃ができるとはいえ、精神に働きかける力ではUruに敵う者はいない。その力を揮うことが出来なければ、結局意味はない。

 その呟きをキャロは鼻で笑った。その程度のこと、とっくに対策済みだ、と。

「見るがいい、そして戦くがいい! 新たなる魔法、拡散する波動を!」

 キィン、と光るケリュケイオンが、キャロの体にブーストを施していく。

 拡散する波動、それはフィールド上に存在する相手モンスター全てに対する攻撃を魔導師に強制する魔法だ。相手の攻撃対象にならない、というUruの効果すらも越える、絶対攻撃能力である。

 既に数十メートルにも達している、馬鹿げた大きさの斬艦刀。Uruへ向けて袈裟斬りに振り下ろした光剣は吐き掛けてくる蜘蛛の糸ごと断ち切っていく。

「超魔導烈波斬!!」

 轟音とともに大地が揺れ、衝撃がビル群を倒壊させていく。抗いつつも巨躯を叩き割られ、両断されたUruは消滅していった。地上に落ちたままの召喚獣達も衝撃波を受けて送還され、周囲を覆っていた結界も叩き割られていった。










 Uruの力が失われたためか繭もほどけ、中からルーテシアが放出される。

 倒れ込む寸前で抱きとめたキャロは急いでバイタルを確かめ、デバイスの示す検査結果にホッと胸を撫で下ろす。

「……魔力の枯渇で意識を失っただけか。外傷は……まぁ問題あるまい」

「姉さまーっ!」

 恐ろしく魔力が削られてはいるものの死んではいないことに安心したのも束の間、遠くから聞こえた声に視線を向ければ、ビルを飛び移ってくるエリオと背負われたティアナの姿が目に映った。

 すっかり存在を忘れていたことに気付きしばし状況を思い返すキャロ。どうやら他の戦闘も終結したようだった。その間に二人が傍までやって来る。

「エリオか。それと凡骨」

「凡骨っていうなぁっ! ふんっ、心配して損したわ」

 エリオの背中から降りつつ鼻を鳴らすティアナ。キャロの真似なのだろうか。

 見るまでもなく二人は手ぶらだ。戦っていた相手は一体どうしたのだろうか、と疑問に思うキャロ。

「機人達はどうした?」

「一応全員逮捕したわよ。シャマル先生とザフィーラに引き取って貰ったところ」

「そうか。ん?」

 さてこの後はどうしようか、と本部に回線を開こうとしたキャロの前に、勝手にモニターが出現した。誰が開いた訳でもなく、ましてや六課の専用回線でもない。

「なんだこのビジョンは……これはっ」

 薄暗い映像に目を凝らし、キャロはそこに映っている場所と人物に気づき目を見開いた。

 スカリエッティのアジトの最深部、まさにたった今捕らえられたフェイトの姿があったのだ。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

実際の所、地縛神に攻撃できるかどうかは偉い人に聞かないと分かりませぬ。因みにアニメ版。 答えてみろルドガー!

……一発ネタに追い付いた、と思ったら次で最終話。バトルフェイズと心理フェイズばかりなのは最後まで変わらない。


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