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No.36812の一覧
[0] 【SAO×BPS】おや……ログアウトボタンの様子が……?【一発ネタ】[へびさんマン](2023/01/19 00:22)
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[36812] 【SAO×BPS】おや……ログアウトボタンの様子が……?【一発ネタ】
Name: へびさんマン◆29ccac37 ID:a6a7b38f
Date: 2023/01/19 00:22
 茅場晶彦は天才である。
 比類なき大天才である。
 そこに疑う余地は無い。

 ――だが、天才が彼一人だけだなどと、誰が決めた?


  ◆◇◆


「……あれ? ログアウトボタンが――――あるぞ……?」

 それを呟いたのが誰なのかは、定かではない。
 だがその呟きは、さざなみのように人波を渡っていった。

「え、マジで?」
「おお、マジだ、ログアウトボタン復活してる」
「でも……どういうことだってばよ?」

 ざわ……ざわ……と人々は囁き合う。
 まだ彼らがゲームに取り残されてから二週間ほどしか経っていない。つまり、茅場が提示した《浮遊城アインクラッド》全百層制覇というクリア条件は、全く達成されていない。
 では何故ログアウト可能になったのか? 誰にもそれは分からなかった。
 これは本物なのか? 茅場の新しい罠では? いや外からの助けが来たんだ、などと様々な憶測がささやき交わされる。

 流石に、直ぐにこのログアウトボタンに飛びつく愚か者は存在しなかった。
 ひょっとしたら、SAO世界からのログアウトが、そのまま人生からのログアウトになるかもしれないのだ。迂闊なことは出来ない。
 これがデスゲーム開始以降一ヶ月以上経過していれば、ヤケになってログアウトボタンを押したりする人間や、追い詰められて縋るようにログアウトボタンを押す人間も居たかもしれない。
 だが今は、まだ始まって二週間ほどの極初期であり、アインクラッドの難易度すら判然としない状況であるのだ。無謀な賭けに出る者は、少なかった。(逆に言えば、今後鬼畜難易度が明らかになり、さらに前線攻略組の大量死などで、プレイヤーたちがクリアに絶望した場合は、連鎖的に自殺者が続出する可能性はあっただろう。幸いにも事態はそこまで逼迫する前のギリギリの状態で踏みとどまっていた。……とはいえ、それなりの数の犠牲者は既に出ていたが。)


 ――ピコンッ♪

「うおぁ!?」

 いきなり人混みのあちこちから鳴り響いた、その軽やかなメール受信音に、何人かが驚いて飛び上がった。

「な、なんだ、メールか」
「ビビってやんの、だせー」
「お前だって冷汗かいてるぞ。つか、心臓に悪すぎだろ」
「ビビってねーし! で、このメール何だよ? プレイヤーに一斉送信?」

 件名は――

「『お待たせしました、こちらアインクラッド幽閉事件対策本部です』?」
「何だって!?」

 それぞれが本文を読み進めるにつれ、群衆に理解と喜びの色が広がる。
 ログアウトボタンの復活は、なんと、政府の対策本部による救援だというのだ。
 政府の救援だ! と歓声が上がる。

「やるじゃん、日本政府!!」
「茅場を出し抜くとか、マジ凄えな!」
「誰だか知らんが、マジ感謝!」

 皆が、この電脳牢獄世界から開放してくれた何者かに感謝を捧げる。

 そんな中で、一人の女性が、メール末尾の署名(サイン)に気がついた。

「『BPS』……? まさカ……!?」
「なんだ、アルゴ? どうしかしたのか?」
「ああ、メールの末尾に『協力:BPS』とあるだろウ? オレっちは、この『BPS』という人物に心当たりがあル。確かに彼なら、茅場晶彦にも匹敵するだろウ」

 その女性は、ネズミのようなペイントをしており、アルゴという名前らしい。
 このSAOでは『情報屋』として売り出そうとしていた女性である。
 そして確かに彼女が言うように、先ほど送られてきたメールの末尾には、『BPS』という署名がある。

「『BPS』って、何だ? 人なのか?」
「知らないのかイ? いや、彼は知る人ぞ知るという人物だからナ」
「そういうアルゴは詳しそうだな」
「ああ、オレっちは彼のファンだからナ。
 そウ! 彼はペンタゴンにさえ鼻歌交じりに侵入する超絶ハッカー! ネットワーク上にある限り、彼の神の手からは逃れられなイ! 勿論、このSAOも!
 その彼の名前は『BPS』、即チ――」

 ――人呼んで、『バトルプログラマー シラセ』ダ。


  ◆◇◆


 時間は、そこから数時間遡る。

 政府の『アインクラッド幽閉事件対策本部』に配属されたバツイチ中年男性、秋月郁(あきづき かおる)は、12月の寒風吹きすさぶ中、都内のボロアパートを訪れていた。

「ここが、『あの男』が住んでいるというアパートか……」

 この何の変哲もない、築年数も定かではない安アパートに、秋月が求める人材がいるのだという。

 一万人が仮想世界に幽閉されるという、前代未聞の大事件において、政府は各界に協力を求めた。
 その、政府が協力を求めたウィザード級のハッカーたちの全てが、口をそろえて一人の男の名前を挙げたのだった。

 ――「この事件を解決できるとすれば、それは『あの男』しか居ないだろう」、と。

 ……だが本当に、こんな場末に住んでいるような男が、その凄腕なのだろうか……?
 秋月は、信頼出来る筋から入手した『あの男』の住所が描かれたメモを何度も確認する。
 そのメモは、確かに目の前のアパートの一階を指し示していた。意を決して、秋月は扉を開ける。――あまりに緊張していて、ノックも忘れていた(チャイムはそもそも付いてない)。

「あのー、失礼しまーす……。私、総務省の秋月と申し――……のぅわぁっ!?」

 目の前の光景に、秋月は思わず仰け反った。

 無精髭を生やした蓬髪の若い男性が、幼い女子に後ろから襲っているのが見えたからだ。
 その信じがたい光景に、秋月の脳は暴走を始める。

「あ、ああっ! これは……後背位のバリエーションの一つ、『仏壇返し』!!」

 無精髭の男は、立位体前屈をする女児の後ろに立ち、あたかもバランスを崩した彼女を咄嗟に支えただけのようにも見えるが、色々と造詣の深い秋谷は、それがエロい方の四十八手(※ちなみにエロくない四十八手は相撲の決まり手のこと)における『仏壇返し』と呼ばれる体位だと瞬時に見抜いていた。
 『仏壇返し』は四つん這いの立ちバックと言う姿勢であり、女性側の柔軟性が求められる、結構苦しい体位である。

「まさか、まさか、重要な仕事を依頼しようとしている相手が、このような異常性癖の持ち主であったとは……。子供相手に信じられん!」

 どうやらヒートアップする秋月の頭の中では、この眼の前の無精髭の男は小児性愛の異常性癖者として決定されてしまったようだ。
 ちなみに秋月の好みは断然巨乳の女である。外国映画女優で言うと、イザベル・アジャーニか。つまり、秋月郁は健全な男である。

「だがっ、しかしっ、この男以外にこの難事件を頼める相手がいないというのも確かだ」

 秋月は目の前の少女の不幸と、SAOに囚われた一万人の生命を思って葛藤する。


 ――――こ、ここは事件解決のため、俺はあえて社会道徳をかなぐり捨てて、見て見ぬふりをしなければ。
 ――――そうなのだ、これはいわば『 超 法 規 的 措 置 』!!
 ――――俺は電脳世界に閉じ込められた無辜の人々一万人のために、この安アパートに連れ込まれた一人の不幸な少女の人生をあえてっ、あえて見て見ぬふりをするのだっ!


 国家の従僕たる国家公務員(総務省)の分際で、自分は何とも最低な行いをしようとしている。そう思い、秋月は葛藤に打ち震えて悶える。

 そんな煩悶する秋月の隣を、件の少女は「お客さん来たみたいだから、帰るねー」と言って、ぱたぱたと通り抜けてしまう。
 黒髪ロング清楚系な美少女である。年の頃は小学生か中学生か、まさに青い蕾のようであり、将来はそれこそイザベル・アジャーニ並みのナイスバディにだって成長するかもしれない。
 多分今日も大方、「体柔らかくなったんだー、見て見てー」とでも言って無邪気に立位体前屈を披露し、バランスを崩したところをこの部屋の住人である無精髭の男に支えられただけなのだろう。『仏壇返し』なんて無かった。

 だが秋月は件の少女が脇を通り抜けたのにも気づかず、まだぐぬぬと唸っていた。
 そして彼の心のなかで、ついに全てのことに折り合いがついたらしい。

「故郷の母親よ、別れた女房よ、女房に引き取られ今回の事件に巻き込まれてしまった息子よ――、この秋月郁の魂の選択を、笑わばっ、笑えっ!
 ――――見 な か っ た こ と に し よ う ♪」

 惚れ惚れする笑顔で、秋月は全てを『見なかった』ことにした。
 これが大人の選択というやつである。

「んで、いきなり入ってきて、あなた一体誰なんです?」
「のわっ、これは失礼。私、総務省の秋月と申します」
「はあ」

 いつの間にか近づいていた無精髭の男に向かって、秋月は名刺を差し出した。

「実は、白瀬慧(しらせ あきら)さん、あなたにご依頼したいことがありまして」
「はあ、僕にですかぁ。人違いでは?」
「いいえ、間違いなくあなたです。依頼内容は、『SAOに囚われた人間の解放』です。そう、これにはバトルプログラマー シラセ、BPSと呼ばれるあなたの力が必要なのです!」

 この無精髭で蓬髪の男こそが、世界のウィザード級ハッカーたちが薦めた人物。
 茅場晶彦にも匹敵する天才。無敵のハッカー。世界を相手に回しても戦闘できてしまうプログラマー。
 すなわち『BPS』、彼こそがバトルプログラマー シラセなのである。


  ◆◇◆


「はあ、林教授からの紹介でしたか。でも、私はお金じゃあ動きませんよ?」
「承知しております。今回は、とある地球シミュレーターを構成するスパコンのうち、経費削減とシステム更改によって削減されてしまったものの使用権をお譲りしようかと」
「うーん」
「あとは……」
「あとは?」
「ちょっと耳寄りな情報を」

 秋月が白瀬の耳に顔を寄せる。

「かの有名なネコミミ絵師の『ねこみみにみみずく』先生ですが、SAO事件発生以後、そのサイトの更新が途絶えていることはご存知ですね?」
「ええ、それはもう。私は先生の大ファンですから。――――まさかッ!?」
「そう、そうなのです、白瀬先生。本当は被害者の個人情報は漏らしてはならないのですが、超法規的措置ッで、先生にだけはお教えします。……ねこみみにみみずく先生は、SAOに囚われています」
「ま、まだ、無事なのですよね? どうなんですか」
「今は、まだ。ですが、死亡遊戯(デスゲーム)と化したあの世界では、いつまで無事でいらっしゃるか――――」

 ごくり、と白瀬は唾を飲み込んだ。
 あの稀代のネコミミ絵師『ねこみみにみみずく』先生が、よりにもよってSAOに囚われているだと?
 それは全くもって看過できない事態だ。あの先生が仮にゲームの中で亡くなれば、それは人類にとって巨大な損失である。
 白瀬は、気負わず、しかし厳かに告げる。

「……引き受けましょう」
「ありがとうございますッ!」


  ◆◇◆


「では早速対策本部に――」
「いえ、そんな時間はありません。ねこみみにみみずく先生が囚われているというのならば、それはもう、一刻を争います」
「は、はあ、しかし、どうするので?」
「ここから仕掛けます。まあ、この部屋の設備でも充分でしょう」
「え、ええ? そんな、政府の設備でも無理だったのに、そんな」
「設備のスペックが、戦力の決定的な差ではないことをお見せしましょう」

 白瀬はそう言うと、つけっぱなしのPCへと向き直り、キーボード上で、指をまるでピアニストか何かのように踊らせた。

「まあ、ピアニストと言うよりも、コンダクター(指揮者)といったほうが正しいでしょうけどね」
「はあ」
「お、見つけましたよ、SAOの領域」

 白瀬はあっという間に、SAOを構築しているサーバへとアクセスしたようだ。
 実は白瀬は、この部屋のPCから世界各地のコンピュータにアクセスし、その処理能力を一部拝借し、かつ、それぞれに適切なタスクを手動で割り当てることで、超絶的な処理能力を実現しているのだった。勿論それには、神技的な白瀬の予測能力と演算能力がなければ不可能なのだが。白瀬の処理能力は、最新型のスパコンですら軽く凌駕するのだ。
 その彼はSAOのサーバを解析していく。

「うーん? あれ?」
「ど、どうしました、白瀬先生」

 しかし、そこで白瀬は首を傾げた。

「ねえ、秋月さん、これって本当にデスゲームなんですか?」
「え、ええ。事件発生以降、生還者は一人もなく、各界の凄腕たちも皆が匙を投げた――」
「でも、ここに出入りしてる人いますよ?」

 ………。
 秋月の思考が止まる。

「ええ? そ、そんなはずは」
「でも、実際にそういうログが残ってます。つい先程も、ログアウトしてるみたいですね。まあ、出入りしてるのは全部同一IDですけど」
「ほ、本当ですか!? もしそうなら、きっとそれは――」

 ――そいつが茅場晶彦だ、ばっかもーん!! てなもんですよ。

「ああ、そうなんですね。これが茅場晶彦かー、なるほど」
「な、なぁに呑気にしてるんですか! 茅場の位置がわかったんでしょう!? 捕まえないと! 教えてください!」
「え、でも、それは私の仕事じゃありませんよ」
「はぁ!?」

 今この男は何と言った? 秋月はにわかには信じられなかった。

「だって、私が引き受けたのは『SAOに囚われた人間の解放』ですよ? 茅場晶彦については、関係ないです」
「で、でも、茅場を捕まえれば、それも解決するはず――」
「それは何時間後、いえ、何日後の話ですか? そんな『遅い』手段に頼るよりも、もっと確実で早い手段がありますし」
「え、ええ?」

 第一、ヤケになった茅場に、自爆同然に一万人のプレイヤーを道連れにされても堪らない。
 茅場本人を押さえるなんて不確実な手段よりも、SAOの人間をログアウトさせるだけならば、もっと簡単な方法がある。
 ただこれは白瀬の腕があって初めて『簡単』と言えるのであり、普通なら茅場の居場所がわかった時点で、その身柄を押さえるほうを優先するだろう。

「じゃあ、早速いきますか。『世界正常化(ノーマリゼィション)』ッ!!」
「おおっ!」
「なんて掛け声かけても意味ないんですがねー」
「おぉー↓」

 白瀬がやったことは単純だ。
 単に凍結されていたログアウトのシステムを開放しただけである。本来であればゲームクリア後に開放されるものを、前倒しで起動させたのだ。
 当然それを阻止しようとするシステム側の動きもあったのだが、そんなものはBPSにかかれば赤子の手をひねるより簡単に無効化できる程度でしか無い。茅場晶彦自身が対応していれば、BPSにも対抗できたかもしれないが、都合の良いことに茅場はログアウト中だった。

「プレイヤーの人には、メッセージ送っときますねー。そういうの考えるの苦手なので、文面は適当に政府機関のメール文章を継ぎ接ぎして作りますー」
「は、はあ。……って、なんか凄い怖いこと言いませんでした? なんで政府機関の出すメールの文面が分かるんですか?」
「んふふふふふー、秘密です」
「え、ちょっと、冗談ですよね? ねえ、白瀬先生? ねえ?」

 ぽちっとメッセージを送って、白瀬は一息つく。
 一応はこれで依頼の目的は達しただろう。

 あとは――


  ◆◇◆


「なんだ、これは……」

 現実の方の肉体のメンテのために一時退席(ログアウト)していた茅場晶彦は、再びSAOに舞い戻ってきていた。
 今の彼の身体はヒースクリフ……システムの加護により不死となっているチートキャラになっていた。
 だが、その彼は今、困惑していた。

「莫迦な、システムがハッキングされたのか」

 ログインした直後に見慣れないメッセージを発見し、ヒースクリフは、アインクラッドの檻が破られたことを知った。
 まさかあり得ない、とは思ったものの、実際に次々と人々がログアウトしていくのを見れば、納得せざるを得ない。

 それよりも問題は、もう一通のメール(・・・・・・)の方だ。

 差出人は『BPS』。
 ヒースクリフにだけ届けられたそのメールには、ただ一文のみ、こう書かれていた。

『これは、ゲームであっても遊びではない』

 それはかつて茅場が発した台詞の焼き直し。
 この世界がデスゲームになったことを、一万人のプレイヤーに明かした時の台詞だ。事あるごとに茅場が口にしていた台詞でもある。
 そして、その言葉が真実だと明らかにするように、ヒースクリフのシステム画面(ウィンドウ)の一部が不気味に点滅していた。

「ログアウトボタンの様子が――――」

 点滅しているのは、彼のログアウトボタンだ。

 点滅は徐々に激しくなっていき、そして遂に――――ログアウトボタンは完全に消滅した。

「……ふ、ふふふふふ」

 ヒースクリフは低く笑う。
 どうやらログアウトボタンだけではなく、彼のアバターを覆っていたシステム的な加護もまとめて剥奪されたようだと、彼は直感で理解した。
 つまり今の彼は、全く一般のプレイヤーと変わらないのだ。彼はBPSが張っていた罠の中に、知らずに飛び込んでしまっていたのだ。

「つまり、これは私に対する挑戦ということか……、『BPS』?」

 そんなに夢の世界に閉じこもりたかったら一人でやってろバーカ、とでも言いたいのだろうか。
 恐らくクリア条件は、アインクラッドの完全攻略。
 あるいは何らかの方法で管理者権限を取り戻すこと。

「いいだろう、やってやるぞ……! 首を洗って待っていろ、『BPS』!」

 いま此処に、ヒースクリフ(茅場晶彦)の孤独な挑戦が始まった。


  ◆◇◆


 かくして『BPS』の活躍により、『アインクラッド幽閉事件』は幕を下ろした。

 その後、世間からの強い風当たりを撥ね退けて、SAOは、かつてのプレイヤーたちの熱烈な要望によって、デスゲーム要素を排したものが存続することとなった。
 SAOの極度に現実に近い仮想世界に馴染んだプレイヤーたちは、他の有象無象のゲームでは満足できなかったのだと思われる。

 そんな中で、一人のプレイヤーが有名になる。

 その彼の名は『《不眠》のヒースクリフ』。

 常にログインしているとしか思えない出現率を誇り、アインクラッド浮遊城の攻略最前線のギルド『血盟騎士団』を率いる廃人である。
 《不眠》の二つ名は、常時ログインしているとしか思えないほどにゲーム内に常駐していることから名付けられた。

 そして。

「ここか? ここなのか? ふぬぬぬぬぬ……」

「何やってんだ、あの人。」
「あー、《不眠》さんだ」
「《不眠》さん?」
「トップランカーなんだけど、やたらと隙間とかに入り込みたがる人なんだよね。その度に周りから『寝ろ』って言われてるんだけど」
「あー、寝不足だと奇行に走るよね、俺も覚えあるわー」
「あとは、NPCと謎言語で会話したりとかしてるみたいよ」
「www、そりゃ『もう寝ろ(笑)』って言いたくなるわなぁ」

 やたらと隙間に入り込みたがったり、NPCと全く意味の分からない文字化けした会話をしたりしている場面が度々目撃されているヒースクリフ。
 周囲はそれを『寝不足で頭おかしいんだよきっと』と生暖かく見守っている。
 それが彼の二つ名《不眠》のヒースクリフのもう一つの所以である。

 実際は、ゲームの裏側のシステム管理空間への抜け道を探したり、NPCを通じてカーディナルシステムへハッキングを試みたりしているだけなのだが、周囲からは奇行にしか取られない。

「おのれBPSめ……! カーディナルシステムのアバターからは何故か異常に嫌われているし、生半可なハッキング手段はまるでこっちの行動を読んでるみたいに封殺されてるし、こんな時のための取っ掛かりにと意図的に残しておいたバグは尽く全てデバッグされてるし……、だが今日こそは管理者権限へ至る空間を見つけてみせるぞ、っとわぁ!?」

「あっ」
「ん? どうした?」
「いや、その《不眠》さんだけど、急に消えちゃって――」
「マジで!? あの人でもログアウトするんだ! 《不眠》さんのログアウトシーンとか超貴重だよ!」
「え、えー? ログアウトなのかなあ、何か隙間に吸い込まれたような……」


========================


きっと既に誰かが書いてると思うけど、我慢できなかったSAO×BPS。

茅場と白瀬は互角の天才だと想定。しかし、今回は白瀬が不意打ちしたのと、白瀬の才能がバトルプログラム方面に極振りされていたのでBPSの完勝、その後自ら電脳世界という檻に入ることで茅場は閉じ込められました、無念。茅場がログイン中に白瀬と戦っていれば、それはもう高度な電子戦が繰り広げられていたはず……! ただしその余波で浮遊城アインクラッドは崩壊する。


一発ネタなので続かないよ! まうまう!

2012.02.26 初投稿
2012.02.27 誤字等修正


2012.02.27 追記です。
説明不足だと感じた部分をQ&A形式で。
みなさま感想有難うございます。



以下は蛇足なので読後感を壊す可能性があります。
SS中で説明しとけよって感じですが、テンポと私の力不足でここに回してます。

それでも良ければどうぞー





Q.茅場はゲームオーバーになったら死ぬのん?
A.白瀬が管理者権限で、茅場の特注ナーヴギアの脳幹破壊機能(人格電子化機能)の権限を奪ってるので、死にません。HPが0になると普通にログアウトするだけです。白瀬も別に茅場を殺したいわけじゃないので。まあ、ログアウト後に軽くナーヴギアを爆発させて茅場の頭をアフロにするくらいの悪戯は仕込んでそうですけども。

Q.じゃあ茅場はゲーム内で自殺すれば良くね? ログアウトできるじゃん。
A.そうですね。でもそれは茅場にとってはBPSどころか自分自身(SAO制作者)にも完全敗北したも同然なので、意地でもなんとか自力で脱出しようと頑張ってます。時々、「もうこのままアインクラッドで暮らしてもいいかな」とか思いつつ。

Q.茅場の肉体はどうなってるの?
A.神代凛子さんが介護してます。現実世界で茅場の身体の世話をしてる神代凛子さんも、事件解決後のSAOにログインして、茅場率いる血盟騎士団の副団長あたりでもしてるかもしれません。彼女は茅場を現実世界・仮想世界の両面で支えているのかもしれませんね。

Q.茅場はどうなるの?
A.茅場晶彦の冒険はこれからだ!
 ……当SSの最後の場面で彼が隙間に落ちて消えた後は、管理者領域において、BPSの手で好感度がマイナスに設定されているカデ子(カーディナルシステム)さんとご対面してるのではないでしょうか。キリトさん並みのフラグ構築能力があれば、好感度マイナスの状態からひっくり返してカデ子さんを籠絡できると思います。

Q.BPSって何?
A.十年くらい前にやっていたアニメ、「BPS バトルプログラマー シラセ」のタイトルおよびその主人公のことです。世界最強ハッカーですが、見た目はオーバードクターしてるだけの冴えない男で、役人でもなんでもありません。端的に言えば鬱クラッシャーズの一員です。SAOのデウス・エクス・マキナが茅場晶彦なら、BPSのデウス・エクス・マキナは白瀬慧です。BPSの手腕を持ってすれば、人工衛星の軌道を操作して、ピンポイントに連続して三機投入(メテオリック・スリーシスターズ)して地表の目標を破壊することもできます。

Q.もっと早くBPSに依頼しろよ
A.まあ政府の動きとしては、依頼までに二週間くらいかかるのが妥当じゃないかと思います。最初のうちは被害者の把握と病院への搬送で忙しいでしょうし、それと並行してあらゆる常識的な手段で茅場を探して、それでもダメだった時に初めて白瀬に依頼が回ってくるでしょうから、まあ二週間くらいかなー、と。そもそも政府はBPSにそこまで期待してなかったでしょうし、BPSも一般的な知名度はそこまでではないので、連絡つけるのに手間取ったのでしょう。動きが遅かったとすれば、あるいはそれは、時の政権が無能だったせいかもしれません。

Q.キリトさんはどこ?
A.多分どっかその辺でアスナさんといちゃついてます。歴史の修正力(笑)。SAO事件が速攻解決したので、ALOは企画すら上がってきてないはず。アスナさんも普通にSAOからログアウトできます。まあ、いずれ似たような事件は起こるでしょうけど。

===

※ハーメルンにマルチ投稿 2023/01/20


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