米花市米花町5丁目毛利探偵事務所
コナンは有栖川邸から帰宅すると蘭の父親の探偵毛利小五郎に有栖川家について尋ねた。
「有栖川??有栖川っていったら商店街の近くのあの馬鹿でけぇ家のかぁ??」
ちょびヒゲのおじさん、毛利小五郎はビールを飲みながら問いに答えた。夕方なのに冷房を掛けキンキンに冷えた缶ビール飲んで大好きな沖野ヨーコの出演テレビの再放送を見ている。これでいいのか名探偵…
「うん、クラスの子がその有栖川の人みたいだから何か知ってるかなって思って…」
コナンは大人の前では猫をかぶり子供の振りをして可愛らしく振る舞う。
「ちょーが付くほど金持ちだってこと位しか知らねーぞ」
小五郎はヨーコちゃん見てんだから邪魔すんなと手を払い再び缶ビールをかっ食らった。それと同時に事務所の扉の開く音がした。
「またお父さんお酒なんか飲んで」
コナン君ただいまと小五郎の娘である毛利蘭がため息混じりに入室し、机の上にあるビールの空き缶を早速片付ける。続いて一人の女子高生も扉の後ろから顔を出した。蘭と同じ制服を着ている事から同級生だろう。
「ねーねー何の話?」
蘭の親友の鈴木園子だ、茶髪にいつものようにカチューシャで前髪を上げている。
「有栖川っていう家の話だよ、園子姉ちゃん」
げ、出たなガキんちょ!と園子は身構え有栖川という言葉に反応する。
「有栖川っていえば、美沙ちゃんとこの…さてはガキんちょ美沙ちゃんの事…」
「そ、そうじゃないよ園子姉ちゃん…家の前で男の人に打たれてたから気になって」
ははーんさてはとニヤニヤする園子に慌てて訂正するコナン。
「打たれてたって?それって大丈夫なの?コナン君」
蘭が血相を変えて詰め寄り心配した声色でコナンに問い詰める。
「うん、大丈夫だよちょっと赤くなってただけみたいだから…」
あははと急に出てきた蘭に乾いた笑いで誤魔化すコナン。
「それより園子姉ちゃん知ってるの??」
「有栖川家はこの辺の大地主で有名な資産家よ、美沙ちゃんのお父さんは株や金融業で成功してて最近は未来への投資だとかでエネルギーや色々な研究に投資しいてるらしいわよ」
園子が顎に手をやり中空を見つめ記憶を絞り出しながら説明する。
「商店街近くの屋敷は別邸で普段は何処かの国だかで広い敷地のもっと凄い豪邸に住んでいて、こっちには美沙ちゃんが小学校に入学するのを期に母親の意向で日本で生活する事にしたみたい……でも…」
「でも??」
途中で言い淀んだ園子にコナンや隣で聞いていた蘭や執務机に座っていた小五郎も興味津々で先を促す。
「あの娘の両親、1ヶ月位前から行方不明らしいのよ」
「ゆ…行方不明!?」
詳しい話は知らないけどねと園子の発言で一同に衝撃が走る。
「じゃあ美沙ちゃんは屋敷に一人で…」
「ああ、それは大丈夫勿論家政婦さんが居て生活に不自由してないはずよ」
心配する蘭に園子は安心させるよう私んちもそうだったからと付け足す。
そういえば普段の言動で忘れそうになるが園子も超お嬢様だったなとコナンは思い出す。
「それでも……」
蘭がそれでもまだ小さいのに両親が居なくなって心配だわと小さく呟いた
確かに幼い子供が両親が居なったんだ、あの落ち込み様も暗さも頷ける。
しかし、あの門の前で美沙を打ったあの男。一体何者なんだ??コナンは下校時の光景を思い出し思考を巡らせる。
「コナン君…」
蘭がコナンの両肩を掴み自身も屈み目線を合わせ続ける。
「その美沙ちゃんと仲良くしてあげてね?」
コナンは薄ら顔を赤くしながらう、うんと肯定を示す。
「暗い話は終わり!じゃあ私帰るね、蘭また明日」
園子はまたねーと蘭に手を振り帰って行った。蘭もそれに応じてから夕御飯の支度しなきゃと事務所の上の階に有る住居へ上がっていった。
全くアイツは何しにきたんだ?と小五郎は園子に呆れながら再びテレビに集中しだした。
米花町有栖川邸
辺りも暗くなった有栖川邸に男の声が響く。
「何処にある!あれが無いと私は…」
離にある倉庫といってもそれだけで美術館が出来そうな大きさと美術品が飾られている部屋の奥で夕方美沙を打った男が探し物をしているようだ。
相当焦っているのか額に汗が滲んでいる。
「屋根裏も地下室も倉庫も探したっていうのに…おまけにあの娘も知らないとなると…」
男は背広の内ポケットから携帯電話を取り出し何処かへ発信した…しばらく呼び出し音が鳴ると誰かが電話に出たようだ。
「ああ、俺だ。三日後に事を起こす、幸い両親は行方不明…護衛は最小限に残しあとは捜索に駆り出されているから俺が何とかする。娘や使用人に抵抗する術はない。」
男は階下に広がる広い部屋の美術品を見渡しながら宣言する。
「一人では限界がある、どんな手を使ってでも探し出すのだあの至宝を」
一方美沙の居る食卓では重苦しい雰囲気が流れていた。数十人が座れそうな大きな机には純白のクロスがシワ一つなく張ってありその上には高級レストランに出されそうな料理が出されているが座っているのは美沙一人で後ろには料理人の男 、世話役の若い女性、執事風の壮年の男が控えている。警備は屋敷内におらず、庭にある管制室に守衛が二人居るだけ。元々堅苦しいのが嫌いな両親だけに大きさの割に人は少なくなっている為、敷地内に居る人間は倉庫にいる男合わせて七人。
「しかし、あの男は何なんだ…急に現れたと思ったら敷地内をこそこそと…」
料理人の男、室井は憤慨そうに呟いた。視線は明かりのついた美術品が納められた倉庫へ窓越しに向けられている。
「旦那様と奥方様が居ればこんな事には…」
執事風な男、斎藤が無念そうに呟く。
「ですが、本当にあるのでしょうか?ここに有栖川の至宝が…」
世話係の清水が興味深そうに尋ねる。
「我々使用人が知ることでは有るまい、在処を知っているとしたら旦那様か奥方様に後は…」
斎藤が発した言葉で使用人達の目が食事中の美沙に注がれる。
無言で食事を続けていた美沙は食べ終わったのかナイフとフォークを置いて徐に立ち上がる。
「食器は私が片付けるのでお嬢様を部屋に…」
斎藤が清水にそう伝えると清水は美沙の手を取り食堂から出ていった。
「お嬢様も両親が居なくなっても気丈に振舞ってたけどあの男が来てから何にも喋んなくなっちまったな」
室井は去っていく美沙を心配そうに見つめ小さく呟く。
暫く見つめたあと伸びをしながら言った。
「俺にはうまい料理作る事しか出来ないのか…さーて、俺は明日の仕込みすっかなー!」
自分の不甲斐なさを打ち消すように明るく去る背中に斎藤が告げる
「我々使用人の晩御飯も忘れず頼みますよ」
室井はげっと一瞬竦むが今日も世界一美味いまかないを食わしてやるぜーと意気込んで厨房へ消えていった。
美沙は部屋に戻ると清水に捕まっていた。部屋は入った時から既に暖かくエアコンを見ると暖房が付いている様だすぐに汗ばんで不快な気持ちになった。
「お嬢様、今日もあの男に打たれたんですか?すこし頬が腫れていますよ?」
清水は屈んで目を合わせ心配そうに聞くが美沙は答えない。
「お嬢様、本当に至宝の隠し場所知らないんですか?これ以上お嬢様が打たれるのを私見ていられなくて…知っていたら教えて下さいあの男に…」
涙ながらに懇願する清水に美沙はある一言をか細い声で呟く。
「…」
「お、お嬢様何言ってるんですか…ご飯食べて眠くなったのかな?さあ一休みしましょう」
急に告げられた美沙の言葉に慌てたように頬を掻きつつ話を誤魔化し寝かしつけると急いで部屋を去る清水。その手は冷や汗だろうか熱さでだろうかびっしょり濡れていた。
美沙はそんな清水を首を傾げながら見送るとエアコンを切って机に向かっていた。
椅子に座ってひじ掛けに手をやるとカチャと何かが外れるような音がした。
その後美沙は日課だろうか日記を付けているようであった。
その日の深夜
あるビルの上、白いシルクハット、マントにタキシード。片目眼鏡をした男がいた。
「次のターゲットは有栖川家の至宝【ムーンエンジェル】」
マントを靡かせた怪盗は夜の闇に消えた。