特段、特別な主張などいらない、正義感念。そんなものは無価値であり、無意味であることは良く知っている。この瞬間にそんなものは不毛でしかなく刃物で斬られかけているときに「ペンは剣よりも強し」なんて言う様なものだ。耳障りの良い言葉も格好の良い言葉も、悟ったような言葉も、悲観したような言葉も。何の役に立つというのか。誰かに手を差し伸べ助けることは尊い。それでも助けることはそう言葉など言葉に過ぎず、簡単ではない。言葉にする、そのひと呼吸分さえ、省いた方がマシであろう。差し伸べた手は時には切り傷を負ったり、火傷することもある。誰かに恨まれたり、泣かれたり、軽蔑されたり、憎まれ嫌われたりすることもある。誰しも純粋な好意に対して、正しく受け取ることなんてなく、卑屈になる人だっている。そして一度たりとも同じシュチュエーションなんて有り得ない。その人種も性別も年齢も種々雑多。心もそうだ、考え方も違う。いつだって上手くいくことは絶対にない。100%の最善なんてない。失敗は数知れず、助けられないまま、終わることも、中途半端で終わることも、幾度もある。だからこそ、いつだって後悔に溢れかえったまま、後悔しないようにたとえ卑屈に見える手を使っても、卑屈にならず、不屈であれ。卑怯な手を使っても、卑怯なまま終わらず、正々堂々とあれ。常に自己の全力を引き出し、さらに最善に導き結果を出し続けるように怠らぬようにせねばならない。そして決して諦めない。それが出来なければ、自己満足甚だしい。他者を助けるということは決して自己満足で終わってはいけない。まずは私心を捨てなければならない。己が報われたいなんて思うな。名誉心、虚栄心、自己陶酔、なんてものは、以ての外。挫折だってする、折れもするだろう。後味も悪いだろう。そんなの当然だ、それが手を差し伸べた者の責任だ。それが嫌ならやめろ。やめてしまえ。失敗するのが嫌なら、憎まれ嫌われ、軽蔑されるのが嫌なら。助けるな、最初から手を出すな。上辺だけの親切だけで済ませればいい。耳障りの良い言葉を吐いて、消えろ。その方が、まだ互いに傷つけあわず、すむ。謝って「無理だからごめんね」で逃げればいい。「ご愁傷様です」で、それ以上は醜い思いはしなくて済む、己が汚れなくて、穢れなくてすむだろう。それでも―――――。―――――それでも手を伸ばすというのならば。傷ついて、汚れ、穢れ、後味が悪いままで、全てを抱えて、いつだってせめて、己に恥じず、誇りを捨てず、後悔しても後悔しないように前に進む、それしかない。そして一番冴えたやり方を探して、研鑽を続ける。臨機応変であることを忘れない、そして慣れないこと。そして。何があろうと、悪びれず、怯まず、媚びず、飄々とあれ。そして希望せよ。絶望を絶望させるほど、希望せよ。そしてそれらを全て忘れ、それら全てが――――。ただの衝動でしかなく。脊髄反射でしかなく。我武者羅でしかなく、結局それは、ただの馬鹿であれ。それが出来る馬鹿となれ。それが出来る馬鹿は「やるべきこと」「やりたいこと」が重なれば。ただ、ただ、面白おかしく、なんとかしてしまうだろう。そうだ。なんとかなってしまうものだろう。という信念があるわけでもない本当の馬鹿の子、末馬達馬を見て、妙子は溜息を吐く。別に頭が悪いわけではない、ただ「天才的な馬鹿、紙一重というよりもむしろ彼岸にある」少年は正座したまま、お腹に手を当てている。あのあと二人で抱きついて、泣いて、すぐ、また「そんな大したことじゃないですから泣かないでください」とかそんなまた余計な感じになったので、またすぐ正座のお説教が再開された。そして。達馬はお腹がすいたのだ。『ぐるるるるるるるる……』という、大型肉食動物の唸り声のような腹の音が部屋に鳴り響く。ああ。叱っても物凄い不毛である気がする。そして、その怒りもまた不毛である。ああ、これが、所謂、言うところの「どうしようもない、馬鹿」なのか、と妙子とその隣で壊れたハリセンをセロハンテープで補修している山田ゆかりは深く、納得と理解をした。涙はすすっとまた戻していた。だが、だからと言って、許せるもんでもないわけで。「で、その夢に出てきたの、助けてあげようとか思ったの?」「いや、「本当につい……」とかそんな感じです、あの幽霊さん、絶対無理ですよ、常識通用せんですもん」ああいう感じで、ひとり、堕ちていった捻くれ者を助けてあげよう。なんてそんなことはどうやっても無理。そもそもあの幽霊は自分が永遠に助かろうとしないのだから。ちょっと可哀想だと思うけれど、哀れだとは思うが。俺は普通の人間だ。助ける?―――無理。現実的に言うと。多分あれを助けたいのなら、助けるためだけに今の自分の人生を、ぽいっと放り投げて、捨てて。どっかの有名なお寺にでも弟子入りして80年くらい?修行しなきゃ無理。正直、あんなすげー「超ド級の捻くれ者」を助けようとするなんて、過信や傲慢もいいところ、つうかただの無謀である。今、あれに何をどうやっても、あれに対しては全てが通用せず、結局は上辺だけの薄っぺらい、益々アレに憎まれる余計な親切にしかならない。それは、散々殺されかけてわかった。アレを助けちゃうとか、感動系ライトノベルじゃないんだから、無理です。むしろあの幽霊は正統派ホラー小説系である。下手をすると、モンスター映画級。ライトノベルはライトノベルでも「missing」とかに出てきそう。「恐怖はまだまだ続く、永遠に終わらない………END」系だ、アレ。だから、ほっといてあげるだけ、むしろこないでください、まじで。それしかできん。それ以上にやる気も起きません。あれを殴って追い払う?無理。かくとうタイプ(格闘技)のみでゲンガーに挑むようなもんだ。なんだか、スターライト・ブレイカーさえも効きそうにない、そもそも当たるような場所にいないだろう、アレ。そういうタイプです。つうかアレは大事故です。俺はただ、信号を渡ってて、車に轢かれかけただけなんです。自分で赤信号に走って突っ込んでったけど。俺が慎重に青信号を渡ってても、きっとホーミングしてきます、あの幽霊。もう、迫力が殺人ダンプ・カーです。ポケモンのエンカウントの音楽が勝手になるようなもんです。早くポケモンセンターいきたいのに「にげられなかった」とかそんな感じ。そして、これは散々殺されかけてやっとわかった、感想でしかない。あのときはそもそもそんなことを考えてないし―――――――そもそも本当に手を引っ張ったのも。本当に偶然も偶然。「なんとなく?」やっただけなのだ。なんとなく「かめはめ波」の練習をおもむろにし始める子供のような行為である。失敗したと思ったときの感覚も、ゴミ箱に紙くず投げて捨てた時の「あ、外れた」である。「本当に――――――何も考えてませんでした」そんなことを考えつつ、末馬達馬は謝った。土下座した。本当に「その場のノリ?」で生きてます。だからごめんなさい、馬鹿で。でもどうやっても直らないんです。気をつけていても、「呼吸をするな」といわれるくらい難しいんです。つうか無理です。ですが。「反省してます」末馬達馬がそう心の内を正直に話して、反省しているのを見て妙子は言った。すげえ理不尽に。「猿でも反省はできるよ?――――――――直せって言ってるの」「はい………」いや、だから、どうやったらいいの?という顔を心底浮かべて、無理、無理と青ざめている達馬。下手をするとさっきより青ざめているかもしれない。さらにそんな達馬に横から山田ゆかりが言う。「で――――――直せるの?」「許してください、本当にそこは―――――どうしようもないんです」二人はその言葉に「うん、わかってる」という顔をした。【第一回、末馬達馬はどうしてそんなに馬鹿であるかを考える会】それは不毛に幕を閉じた。「本当に何も考えてないって凄いよね」妙子はしょうがないなぁ、という顔をして、小さくまるまっている、大きな息子を見る。「はい、すいません今度から、なんか考えて置きます」「無理なんでしょ?」「はい…………あ」【第二回、末馬達馬はどうしてそんなに馬鹿であるかを考える会】それは不毛に幕を開けた。スパーンと、また末馬達馬は妙子に新聞紙(昨日の夕刊)ハリセンで叩かれた、山田に風船ハンマーで叩かれた。風船ハンマー(おしりかじり虫模様)去年の夏祭りの紐くじ引き300円で達馬が買ってほっといたものを、山田ゆかりがいつの間にか膨らませておいたものである。目敏く山田がみつけ、間接キスを喜びながら膨らませたものである。ばし、ばふ、と叩かれ。「すいませんでしたあぁああああああああ!!」自棄糞になって達馬は謝り叫んだ。理不尽すぎてワケがわからなくて、最早泣きそうである。寝ても起きても、そんな目にあうなんて、踏んだり蹴ったりである。「なんであんなにたっくん怒られてるの?」「さぁ?」二階から女ふたりの泣いている声が聞こえて上がってきてみればこれだ。曜子と桐子はワケがわからなかった。「あ、おはようございます――――――え、曜子さん、実はそんな顔だったんですね」「私も叩くの参加していい?」お風呂に入っても、好きな男の子を食べるために化粧は最後の最後寝るまで取らなかった曜子はムカっとした。とことん余計なことをしてしまう空回りな一日が幕を開ける。「いやいや、すっぴんの方が可愛いってことですよ!?」「なら許すよー」曜子は上機嫌になった。「化粧下手ってことでしょ、それって」桐子はすかさず、達馬を追い詰めた。そして「これぐらいにしておくか、どうせ何を言っても無駄だし」と妙子と山田ゆかりと曜子が説教をやめたとき。「無駄と思うなら、最初から怒らないで!」と思ったことを顔に出さない程度には今日朝一番で達馬は賢くなった。そしてそして、達馬がどんな夢をみたのか、どんなレベルの幽霊か、皆で相談し合う。結局何があったのかを理解した片桐桐子は大きな後悔をしていた。「ただの普通のちょっと面白い14歳の男の子を巻き込んだ」「自分のせいでもしかしたら達馬君は死んでいた」自分が末馬達馬よりも年上の女性だと自覚し、大人として達馬の冗談に付き合っていた片桐桐子にとって、それは許せない行為だ。本当にただ巻き込んだとしか、思えない。「死ぬなら、自分だ」とさえ、悲愴な決意を浮かべ。「こんなお母さんがちょっと不幸せっぽい母子家庭を巻き込んで、息子を殺しかけたなんて自分はなにを……」と、今にも泣きそうになり、「そんな、私のせいで……」と謝りかけた瞬間に末馬妙子が微笑んで、その唇にすっと、優しく指を添え口を閉じさせた。「しー」っと喋らないようにし。そして優しく微笑んで「だって、そういう風に思える人をなんで見捨てられるのかな?……私はすぐに助けたくなるよ?」達馬はその綺麗で透明な声の中性的なイントネーションに身震いする。「そして―――――絶対に助けてみせるよ、だから、そんな悲しいこと言わないで」流石、妙子さんだ、仕草が超絶美人、というか美人の癖に超カリスマイケメン「そりゃあ、この人、女にもモテるわ」と達馬が呆れる行動だった。桐子さんが一気に悲愴な顔をやめて、顔を赤らめ呆然と妙子さんを見つめ始める。「まかせて?」そして、妙子は片桐桐子の唇から指を離し、ふっと滅茶苦茶格好良く笑う。「はい…」片桐桐子は顔を真っ赤にしてこくこくとキツツキみたいに首を縦に動かしていた。あ、また罪なことしてるこの人。「この人、本当に何処の王子様だよ、前世殆ど忘れてるらしいけど、前は王侯貴族とかだったのかな」と思いつつ。あーやっぱり、元の男らしすぎる部分は未だに消えず…と達馬はがっくりとし、「いやそこは逆にこっちが乙女気分になってメロメロになるんだけどね」と思い。「もともと、はじめっからこういうパターン狙いましたから、ていうか、夜寝る前にそういう話しましたよね?」と笑って末馬達馬はそう言った。「こんなところにいられるか、俺は一人で部屋に篭る」というパターンを正しく利用したのだ。面白い冗談と片桐桐子たちは笑ってすませたが、違う。馬鹿の発想かもしれないが、結構真剣な手段だった。ようは、殺人的な幽霊のために、被害者を用意し、もう殆ど限界の片桐桐子から眼を逸らさせること、それを実行した。片桐桐子は一週間安心して寝れていなかった。昨日、夜9時には爆睡だった。だから。「みんなの中で一番明るく元気で幸せそうな馬鹿な末馬達馬君」という超目に付く餌をぽいぽいと用意したのだ。夜の無意味な一人遊びさえ、なんだか意味がありそうな気がしてくる。末馬妙子は論外、かつて過去「あの山田ハナミがわざわざ入学するほどの超絶やばい生徒会室」で、全然夜まで一人で働いていても全く大丈夫だったという実績がある。そう。妙子は山田ゆかりや石塚曜子、片桐桐子、その彼女達の「聖なる妙子ミラーフォース」という伏せカードだったのだ。達馬は「タツボー」である。そのことをこっそり、達馬は妙子と話し合って決めていた。一応、末馬達馬は確かに感性が鈍感であるが、危険に敏感だ、他人の悪意に目聡い。危機感も人一倍優れている。そして、伊達に2年間もの長い虐待を耐えたわけではないのだ。人間の残虐さや害意、悪意などに対し、感覚能力が優れている。人に慣れない獣並だ。フレンドリーさは馬鹿犬クラスの。2年間両親の行為を社会から公にせず、隠し通し、両親を守りきったのだ。最後まで「ただの気持ち悪い子」として捨てられたのは伊達じゃない。流石に陽気さだけで、精神力だけで乗り切れるものでもなかったのだ。じわじわと真綿で絞められるように苦しんでいた。しかし一気に暴虐な虐待を行わせないように、周囲にわかるほど明確に表に出させないように、苦心した、上手に避けた。それは今の成長した達馬にとっては「どーせなら最初っからとことん嫌われて捨てられればよかった、もっと上手くやれれば良かった」だったのだが。だからこそ、困っている他人を直ぐさま助けにいくし、そして自分に悪意を持っていた高校生のお兄さんたちを一回も殴らず殴らせず、仲良くもなれた。物事をなぁなぁですませ、くだらなくし、楽しくする、そんな才能を獲得した。この自分が生きている現実に起きた「原作の物語」を楽観視せず、客観視せず、主観的にみて、本当に危険だと逃げたのはそのためだ。それを無意識で行っている。「ストーカー被害者になりやすい母」も居て、危機感を養わなければいけない9年間を過ごしている。そして意識して「妙子さんが鬱々してくる」のを止めるのが得意である。誰とでも仲良くなれるのは、そういうことだ。だから他人に不快な思いをさせない「微笑ましい」馬鹿を発揮できる。そして、ちゃんと自分が一歩間違えれば、簡単に死ぬ人間だと知っている。その凄さを信用していたから、妙子だってGOサインを出したのだ。馬鹿だから死にかけたけど。そう、ただの親子じゃない。元々は擬似親子でしかない。信じ合い、信頼し、生活を共にしていくうちに何か知らないけど本当に母と子になってしまったことに達馬が最近焦り始めているが。元々は血の繋がりよりも濃い、「同じ境遇」の唯一無二の同胞、仲間であるのだ。どんな悲しみも喜びも分かち合おう、助け合おうという親愛を大切にし、強固な絆を作り上げた家族。そのコンビネーションは卓越している。この二人は様々な日常のトラブルを二人で解決してきたトラブル・ブレイカーでもあるのだ。まぁただの「ボランティア親子」なのだが。「周囲の日常の、世のため、人のため」が当たり前でそれが楽しい日常なのだ。9年間の付き合いであり、純粋に親切を街に振りまく海鳴市の名物コンビ。その役割はこうだ。末馬達馬「馬鹿だから」実働専門にして「妙子さんの鬱々を止める」回復魔法担当末馬妙子「たっくんが勝手に馬鹿なことをするから、私が考えなきゃいけない」万能なんだけど大体頭脳を専門にしなきゃいけない羽目になる「落ち込む」担当その上で―――――達馬が大馬鹿なことをしたことに大激怒したのだ。ちなみに現段階、女としては目覚めてないけど、父性やら母性は目覚め、妙子の達馬の扱いは殆ど「頼れる可愛い息子兼人間精神安定剤」である。「あんた、桐子さんの言う、「マジでヤバイ」って、嘗めてたわけじゃないでしょ?」まさかそこまで考えてたの?冗談も本気でやるのか…この二人―――と戦慄し。「この二人、二人揃うと天然爆発するんよ?」という八神はやての言葉を思い出し。二人が突然なんだか、途轍もなく名探偵コンビオーラというか「不思議なボランティア親子」の空気を出し始め、「妙子さんが羨ましい」と出遅れた感を感じつつも山田ゆかりも発言する。そして「あと妙子さんやばい、私もどきっとした」とかも考えながら。山田ゆかりは問い詰め、思う。寝る前におちゃらけたのは、こいつらしい理由があると。暗くなる雰囲気が近づけば、くだらないことを言い始める癖、と山田ゆかりがそう理解している言動だ。多分、本当に馬鹿なだけかもしれないが、多分こいつは本能でやっていると知っている。「9年間妙子さんの鬱々を止め続け、手に入れた、暗い予感や、暗い気配、暗い雰囲気を読む才能」の直感能力がその危険を感じ取ったのかを問い詰める。「ああ……まぁ、あそこまでヤバイとは思わなかったけど」鼻血が止まり、ティッシュなどを片付けながら「妙子さんの鬱々100個分くらいは感じてた」と達馬はそう言った。妙子さんは「ハンバーガーみたいな言い方しないでよ……」と言いながら嫌そうな顔をする。「東京ドーム7杯分くらい解りづらい」と山田ゆかりは思った。シリアスなムードはそこには全くなかった。普通は此処で、映画だったら達馬役の子役あたりが、みっともなく、喚いて、「おまえのせいで……」と絶望する状況である。母親役が「なんでウチの子が……」とか、そんな感じである筈なのに。桐子さんは「なんなのこの人たち、この、わけわかんない感じ、でもなんだか大丈夫そうな気がしてくる」と不思議な気分に陥り、首を傾げ「うん?」という顔をする。大抵の人間が末馬親子に助けられるとこんな顔をするという顔をする。曜子さんは「こういう人たちだよなぁ、だから相談持ち込んだんだけど」とうんうんと頷く。「あんたねぇ………人よりちょっとばかし特殊だからってよくもまぁ―――――」「あれ知ってたの?」どんだけアンタのことが好きで好きで、何時も見てるのか知らないのか、と山田ゆかりは思った。「で、なんとかなるの?」そして末馬達馬が此処で、問題発言をする。そしてその言葉を吐く、末馬達馬の顔には怒りがあった。「俺、滅茶苦茶ロックオンされたわ、最後に目覚める瞬間、舌打ちされた感じ、「次こそは……」みたいな空気バリバリ最強出してた。桐子さんとか最早、あれ眼中にないわ。もう、俺が大好きで大好きでしょうがないって感じ。あれがストーカーに合う被害者の気持ちか、とか思った。うん。どうやっても逃げきれる自信ないね、あれ。さらにいうと、そもそも桐子さんは罪悪感感じる必要もないかも。元々桐子さんが最後に頼った家族とかを皆殺しにして喜ぶために、あんなにじわじわ1週間かけてたっぽい。あいつは最後に頼れる人間がいる人間全てが許せない超ひねくれた奴。最後に頼れる人間がいなかったのか、それとも、元々そういう頼れる人間も居なかったか、それはわからんが。そういう最後を送ったんだろうな」「大型トラック、スレスレでしたよね?で、携帯落としたんですよね?」「そ、そうだけど」「携帯で済んでよかったです」右手をグーパーしながら達馬はそう言った、珍しく眠そうな眼を見開いていた。「あいつ、既にあの橋を通った人間を事故とか誘発させて殺してるわ、結構沢山」桐子さんがぞっとし、自分の肩をさわさわと抱く。そして末馬達馬のその眼の奥は深く、ただ深く、飲まれるほど、深い。ああ、こいつ………怒ってるのね。こんな顔初めてみた、そう思い。続く言葉は。「ああ―――――許せん」あ、なんか、え、なんか特殊な展開、と桐子さんが顔をワクワクさせ。曜子さんが「惚れ直した、たっくんかっこいい」みたいに顔をとろけさせる。妙子さんは一緒に「許せない」という顔をする。「でもなぁ」「でも?」「ぶっちゃけ、言うと、俺やばい、超やばい」「は?」瞳を「しゅん」と眠そうな眼に元に戻した皆、え?という顔をする。そして「うあー困った、困った、困った」と連呼し。「朝ごはん食べたあと」「うん?」「今日は和食だよ?」妙子さんが天然ボケをかます。達馬は悲壮感や、絶望感もなく、ただ「やっべぇ」と宿題を忘れた中学生のような顔をして。「ハナミさんと電話させて?」両手をパシッと合わせて私に拝んだ。大変だ。みんな、一気に顔を青ざめ始めた。そして、妙子さんが顔を引きつらせながら言う。「そんなに……やばかったの?」「俺今、霊感ないんだけどさ、前、あったんだ、つっても霊能力とかじゃなくてただ時たま見える程度」「うん」「前世の頃、ばーちゃんが死んだときとかじーちゃんが死んだとき、ちょっと、通夜の夜、みるくらいね?」「よく聞くね、そういう話」「妙子さんそういうのあった?」「ううん、私霊感とか全くない」「それで、俺、前世で昔、肝試しで酷い目にあったことある、そんとき、死ぬ思いした、でちょっと霊感鍛えささったんですよ」「うん、それで?」「今回、その霊感「しゅっぱっ!!」って復活したくらいヤバイ」「それってどれだけヤバイの?」「あのですね、俺の霊感ってですね、ヤバイ状態を感じ取ってその場所から超絶ダッシュで逃げる程度の霊感なんです」「うん」「その超絶ヤバイ状態が最早スーパーサイヤ人になりそうなくらい、やばい」「1?」「4」「大変だ!!―――え、どうしよう!どうしたらいいの!?」「とりあえず朝ごはん食べたいです」「今すぐつくる!!」妙子さんが大混乱して、台所に走っていった。皆沈痛な面持ちで、立っていた。俺の横に、ソイツが立っている。「憎い」そして末馬達馬は思う。起きてから、妙子さんの説教が終わってから、様々な残虐な光景が脳裏に染み込んできた。はっきりいって、滅茶苦茶胸糞悪かった。人間の五体バラバラ映像がごろごろ脳裏に見え、それを笑う声が耳を這った。一瞬戦争映画でも見ているのか、と勘違いしたくらいの残酷映像だった。やばい、つうか此処までシリアス気分人生初だわ、とか思っていたが。それは、おいといて。『ぐるるるるるるるるるるる』その前にとにかくお腹がすいていた。取り敢えず、今日の白いごはんに載せるものを悩み始める。納豆か、玉子か、それとも、なめ茸か――――――それが問題だ。現実逃避してんのかな、これって、お腹が空いてる方が優先順位高いって、なんだろな。「憎い」こういう感じで、どんなに離れても「居る」のを知覚してしまう。朝だから、まだまだ声しか聞こえない。夜になると……えーっとストレッチパワーが高まって、じゃなくて陰気だかなんだかが高まって、やばくなる。今のところは大丈夫だけど。妙子さんあの人すげーな、まじで「聖なる人」だわ妙子さんの傍にいる間は大丈夫だ、まじで。しかし。こいつらに質量はないから「死んでいる」と自覚しているやつは瞬間移動だって出来る。意識ごと、飛んでくる。水道管とか電話回線とかインターネットとか、すいすい、電源だって使って移動します。どうやら、桐子さんの携帯電話から「縁」とかそういうものを手繰り寄せてきたのが、今回の問題になったのだ。そこまで、俺みたいなやつが大好きか。わざわざ、その「縁」で俺を見つけて大喜びですか?「うんうん、その気持ちよくわかるよ?自分のショボさが憎いもん俺も」「憎い」取り敢えず、無視をすることにする。それが一番!ああ、長い一日が始まるな、こりゃ。うわーん、また、すげえいらねえ能力目覚めた。見えるだけの霊感とかクソ使えないのは前世で知っていた。霊能力って凡人はまず使えない。これはただセルフで怖がるための能力である。だから、一応、大学もそっち系の本が置いてある文系馬鹿大学に行った。もしかしたら、霊能力者になれるかも、とかアホなこと思って、知り合いのモノホンに「一生そんまんまだから」とすぐ言われて落ち込んで勉強しなかった。「あとな、オマエ、一生同情せんからな俺――――」妙子さんが「どんがらがっしゃーん」と混乱して皿とか割って、みんな「妙子さぁああああん!?」と言って台所に向かっていったのを尻目に。俺は、そうつぶやき。「妙子さぁああああああああああん!!」と取り敢えず、一番放っておけない人のところに向かう。心配かけちゃうじゃん。どーしてくれんだよ、マジで。さっきみたいにまた泣かれたらどうするんだ?そもそもお前助けるためなんかじゃないんだよ、桐子さんのためなんだよ、今回の問題は。「甘えるな」結局のところ、こいつ、世の中舐めてんだよな。舐め腐ってやがる。わざわざ、孤独な声、悲しそうなフリさえもしやがって。ちょっと可哀想?哀れだとは思う?そんなことを思った自分が恥ずかしくなった。そこまで目が覚めてなかった自分の馬鹿さ加減に腹が立った。「憎い」だからどうした。だからどうしたんだよ。「黙れよ―――――死んでても、死なすぞ、てめえ」ああ、許せない。12人も殺してやがる。そして、自分の腹の中に入れて苦しめて楽しんでる。今日1日くらいは、ちょっくら馬鹿をやめてみるか、そう思った。沢山怒られたし、ちょっと泣かれて焦ってまた怒られた。だから。末馬達馬の眠そうな眼蓋の下には今は、まだ続く。末馬達馬リーチ掛かった、人生第2ラウンド 末馬妙子霊感ない子なので、全然怖さがわからない。でもすごいヤバイと思って大混乱。山田ゆかり泣きながら、姉に電話。桐子最早パニックで皿を片付ける。曜子あまりのことで、ショックで寝込みそうなまま皿を片付ける。あとがき。次回の更新は遅くなります、まじで。次回山田ハナミ登場するかも?