なのはたちと別のクラスになった小学生の頃、私は彼に助けられた。クラス別だと他のクラスの子と遊びづらくなる。なのはたちとは別にクラスの友達を作ったのだが。ある日、ある遊びを行なった。その時、私はちょっぴり最悪の気分を味わった。その遊びで五円玉から指をクラスの女子の友達が勝手に外して、私だけを置いて、一斉に逃げていったのだ。その時、私はそいつらに裏切られたのだ。単純な意地悪だったのだろう。でも私にとってそれは物凄い恐ろしいことだった。放課後の教室、夕日が差していて、どんどん暗くなっていく。指は離せなかった。離すと恐ろしいことがあると信じていたからだ。死ぬほど怖かった。だけど。いっつも五月蝿いと私が文句を言っていた「あ、まだ帰ってねーのかダーヤマ」とあのホラ吹き少年が現れ、私の怖がってる様子を見て。「あ、なるほど」という顔をして。それから微笑んで。「大丈夫」と、私が指していた紙と5円玉を、私の手から奪い取って、紙をマジックで落書きをしてビリビリに破り捨て、5円玉を窓から放り投げた。その行動に私は一瞬呆然として。「何がそぉい!よ、ふざけんな」と激怒したが、「いや、なんかノリで、わははは」とそいつは飄々と私の強ばった手を握って、優しく家まで私を送り届けてくれた。そしてそれからしばらく、その日あったことを私が気にしなくなるまで、毎日私を家まで送って帰ってくれた。その手の温もりは私に永遠に残る温かい嬉しさ。そんな初恋。「それは怖い」片桐桐子の話をまとめると一言につきる。現在1月、2月に差し掛かる冬である。暗くなった夜空の中「あ、今日俺んち泊まってください、ホテル代もったいないでしょう、最近ちょうど来客用の布団とか買いましたから」という達馬の勧めで遠くからやってきた二人は泊まるそうだ。今は末馬家に4人で歩いて向かっている。少しながら暗闇に桐子さんが怯えている様子に心配そうな顔をしている達馬に「ほんとーに、お人好しだわ、こいつ」とみながらオカルト関係か、まぁウチの愚姉が好きそうな話だな、なんて思いながら歩く。「仄暗い水の底から」などの短編ホラーを書く、鈴木晃司のファンだった姉ならこの話にめいいっぱい鼻を突っ込んできそうだ。ちょうど南米から日本に帰ってきていたのだが、またまたよせばいいのに、変なものをまた集め始めたので、母親にブチ切れられ「なら適当に日本ふらふらする」なんて言って日光東照宮やら青森県の恐山やらに出かけていて帰ってこない、まぁ面白半分で何でも首を突っ込んで他人に迷惑をかけまくる悪魔のような姉なので、別に今回の件に関しては相談はいらないだろう。「え、本当!?―――私も今から携帯その川に捨ててくる!」とかむしろ悪化する方向に持って行きたがると思うし。というか、オカルトが好きなだけであって、あの姉はそういうもの解き明かしたりすることは絶対しない。リングを見ながら「あれ、情報共有ソフトに垂れ流したら面白そうだな」とか言うド外道である。過去、この海鳴市の小中学校に「こっくりさん」などを広め、ブームにし、色々問題を発生させた海鳴の超問題児である。オカルトの伝道師やら超迷惑師と渾名されたクソ姉なのだ。私が小学校の時、一番怖かった思い出の原因でもある。まぁ、横で何を思ったのか装甲騎兵ボトムズ「炎のさだめ」を歌いながら私たちを連れて歩く達馬のお陰で助かったんだけど。「で、大丈夫なの?」と私は達馬を横目で見る。そして私の眼線に気づくと、歌を歌うのをやめ、首をかしげながらこう、言う。「うーん、おばけね……3本の毛と、足、目、口だけあって服の中を見られることは「オバケの国での御法度だ」と言って頑なに嫌うやつだったら犬でも連れてくればいいんですけどね」「―――おばけのQ太郎……君、随分古いアニメ知ってるわね……まぁソレだったら家で飼ってもいいんだけど、O次郎だったら可愛いし」達馬の調子っぱずれな言動に怖がるのがくだらなくなったのか桐子さんは調子を取り戻したようだ夜に怯えた顔を明るくする。「バカラッタ!……じゃなくて滅茶苦茶「着信アリ」とかそっち系ですもんね、まぁ取り敢えず、明日その携帯落とした場所まで行きましょう、ちょうど土曜日だし」「いいの?」「ヒントそこですからね、取り敢えず「ほちょー」って言いに行きましょう」14にしては背が低めで、なのは達と歩いていて隠れてしまう私にとって、高身長でなんとも羨ましい美脚の持ち主、片桐桐子さんは「お化けのホーリー……君背中にファスナーでもついてないよね?中からおじさんがでてきたりして、ホーリーとか私が本当に小さい頃のアニメよ?」なんてクスクス笑って達馬の背中をバシバシ叩く。すぱっとした性格の女性で、好き嫌いがはっきりしているタイプの性格の女性のようだが、どうやら達馬のことを気に入ったらしい。安易に「バケラッタ」じゃなくて、別のバリエーションを叫んだ達馬の無駄記憶に感動したらしい。「いや、君面白いね、そういえば学校でジンギスカンやってること自体、相当面白いことだし、なんか、ウチの学部のアホ学生みたいね、学部の資料の動物焼いて食べたりしそう」「スーファミ持ってきたり?」「そんな感じね」そして「ロックマンXのパスワード、全部2にして最後1」とかそんな話で盛り上がっている。それを見て、曜子さんは複雑そうな顔をする。「全然わからない」「話に入れない」とかそんな顔。まぁ普通知りませんから、まぁ話三割くらいでスルーして聞けばいいですよ、こいつの無駄話は、とか教えておく。いつもくだらないことを言うのは場の暗い空気をくだらなくするのが目的っぽいし。鬱々としやすい妙子さん対策として「シリアスにはギャグで」とかそんな感じの癖である、と私は思っている。それよりもこいつの真価は「無言実行、というよりも勝手に一人でなんかやり始める」という時の迷わない行動力なのだ。ときたま有り得ないほどの馬鹿な行動も発揮されるが。とことん名探偵には向いていない男なので「どうせなら、理論詰めで綺麗に物事解決しろ、大雑把に「なんとなく?」でやるな!」とか思うときがある行動が欠点だが。そこらへんは可愛い部分である。「今日は私も泊まるから、明日行く時ついていくわ、いいわよね達馬?」そこらへんは私がサポートしてやろう。学年1の成績があっても、頭はよくないし、こいつ。これでもサンタさんを信じていた小さい子供の時、「人の好みを全く気にしない」姉から貰った誕生日のプレゼントが「市松人形」とか「チャッキー人形」だったりして、泣かされたりして育ち、それなりにそういうオカルトは詳しいし。「べっつにいいけどおばさんに連絡しといてなー。あー明日長距離ドライブだ、楽しみだなぁ、パーキングエリアとか俺、本当に大好き」とか言いながら楽しそうにしている達馬に桐子は呆れて。「君、そーいうノリなの?はっきり言うけど、本当にやばいよ?曜子以外の泊めてくれた友人とかも私を泊めたら何か怖い感じが滅茶苦茶するって、もう泊めてくれなくなったくらいだよ?」巻き込んだらどうしよう、という顔をして桐子は言う。「古今東西、こーいうことで真面目に悩んだりしてると、そういう雰囲気に押し流されます、だから楽しむくらいのノリで行きましょう、冬だけどその川でバーベキューしましょう、俺、海パンとか持っていきます」嫌な予感とか、嫌な気分とか、ますます暗くなるだけ、と達馬は笑う。達馬は過去にとことんそういう場面、しかも逃げられない桎梏に囚われていた。そんな中ですら明るく生きようとする姿勢の良さは天性の強さであり、その強さは温和な空気を桐子に齎していた。「ははっ……風邪ひくわよ達馬君?」「俺生まれてこの方風邪引いたことないんですよねーわはははは、ダレカ!オレニ風邪ヲ引カセテミロ!」「無双の魏延の真似?」「ハイ、ソウデス」「ただの片言の外国人よ?それ」そんな姿に山田ゆかりは何度目かわからない感心。そして笑が溢れる。そして言っておく。「ハリウッドだったら真っ先に怪物に食われる行動だけどね――――それ」「あ」「調子に乗って腐ったもの食べて食中毒に掛かった」と言って学校を一週間休んだことがある達馬である、そこは注意しておく。そして、ぼそりとよくわからんことを言った。「あ、そういや、マジでこの世界そういうの居るんだった………妙子さん持ってないかな――――霊剣とか」末馬達馬の事件簿2 幽霊編 閑話私たちが末馬家に入ると、温かく妙子さんが嫌な顔一つせず、というかむしろ嬉しそうにご馳走を作って待っていてくれた。「育ち盛りに食べさせないのは悪」とかそんな考えを持っているらしく、量も沢山用意されていた。「大学生ふたりに中学生ふたり」とたまに妙子さんも変な空回りするのか、育ち盛りの大学生と中学生の男が食べる量を作ってしまったらしく。「あ、女の子なのにいっぱい作りすぎちゃった………遠慮しないで残してね」と言って食べさせてくれた。もの凄いご馳走だった。「アン肝」やら「上海蟹」やらがゴロゴロと味噌汁に入っていたりして皆びっくりする。「滅茶苦茶美味しいけど………これってアリ?」とかそんな気分で私たちはイベリコ豚の酢豚などを食べる。きくらげの代わりにトリュフが入ってる酢豚である。並べられた料理は何か高級食材使ってるけど、普通の家庭料理という、妙子さんという存在みたいな夕食だった。残すのが物凄い勿体無い感じである。そんな私たちの戦慄の気分が伝わったのか、達馬と妙子さんはげっそりと「高級食材に合った料理にすぐ飽きたらこうなった」という。あとで聞くことなのだが、超お金持ちの妙子さん、そしてその息子の達馬が食い意地が張ってることがここ数年何処からか伝わったせいで今まで装飾品などがどっかから送られてくる妙子さんの正月のお歳暮が高級な食べ物が割を占めるようになり、最近その調理方法に苦しんでるそうである。どうやら妙子さんに忠誠を誓っている資産運営の代理人達が、好意で運営を食品関係に回して融通を聞かせまくってこうなったっぽい。過去「未来を予測する、天才的な個人投資家」と噂された伝説の女、末馬妙子さんである。「妙子様の息子さんには良いものを食べて欲しい」とかそんな好意である。18の頃、日本のある経済危機に対して知らずに――――――うんやめておこう。「あ、気にせず残していいよ」「どーせ残ったら俺が全部食べるから大丈夫」朝、洋食の日は食パンにキャビアとマーガリン塗って食べてるそうだ。傍から見ればやってることが真のセレブである。「フォアグラの唐揚げって……まぁ居酒屋で食べる豚レバーの唐揚げみたいなもの…?えっと達馬君の家ってお金持ちなの?」桐子さんが、奇妙な動物を見つけたように達馬を見て、曜子さんに小声で聞く。「こいつ……漫画にでてくるような超絶おぼっちゃま……?」と。「そうらしいけど、なんか普通な生活が幸せという生活をしてる変な母子家庭」と曜子さんが言っている。それが聞こえたのか、妙子さんはがっくり、と肩を下げ、こういった。「幸せって……うん……お金じゃ買えないの……でも――――あるならあった方がいいけど……」ふう、という妙子さんの溜息。それが、食卓に響き渡った。皆、沈痛な面持ちで押し黙る。そんな滅茶苦茶深い溜息だった。「……重いぜ、重すぎるぜ、母さん……元ビンボー人の俺が「それって金持ちだから言える」という僻みを感じないくらい重すぎます」達馬は顔を引きつらせながらそう言う。達馬曰く、妙子さんがお金という大体絶対的なパワーを集めたのは、ある種の自己防衛であると前に自分に教えてくれたのを思い出す。幼い頃から、その恵まれた容姿が原因で受難が度々降りかかり、時には金銭的な面で攻撃してくる輩もいたらしく、それに対抗するために若いうちから金稼ぎに急いだとかなんとか。十代の頃は本当に大変な思いをしていたらしく、その頃の過去話はあの桃子さんでさえドン引きするくらいらしい。桃子さんは妙子さんに「学生時代の卒業アルバム見せ合いっこしましょう」と二度と言わないと決めているそうだ。まぁ姉さんから私もきいてるけどね、妙子さんの苦労話。姉曰く。「高校の修学旅行?ああ、私、実家から送られた積立金使って妙子のために二人で別の旅行行ったよ?あの時期超修羅場だったし、荒木とか松原とか村木とか」「やっべ、修学旅行に妙子参加したら空港でウチの学生凶器見つかって捕まるかも―――とかそんな雰囲気だったので妙子を逃がした」「そのあとがやばかった、逃がした私も結構危ない目にあったぞ、ワハハハハハ」小学校は修学旅行途中帰宅。中学校は修学旅行辞退。高校は姉と学校の修学旅行中、行かないでその期間姉と別の旅行をしたとかいう話だ。あのどんな残酷な悲劇な見て欝になる映画でも「うわこいつらワハハハ」とか笑って見続ける姉が避けたほどの事態であったのだ。そんな妙子さんの卒業アルバム、ああ、怖い。だが若干、興味が出たので、隣に座る達馬にぼそっと聞く。「ね、妙子さんの学生アルバムって「見ないほうがいいいぞ、まじで」達馬は鳥肌が立ったらしく、肩をさすりながらそう言う。「あ、そこまで?」「え、私の卒業アルバム?大抵私の写真は丸いよ?あはははは」ぼそっと聞いたつもりだが妙子さん本人に聞こえ、妙子さんは力なく悲しそうに笑う。「そういうことだから、やめとけ」桐子さんと曜子さんは絶句していた。「うわー美人に生まれるのも大変だ」とかそんな感じ。妙子さんが被害にあった、過去の様々な人間から受けた嫉妬や羨望や憎悪や狂愛や執着やらの片鱗に皆ビビっている。皆それから静かに食事を終え、妙子さんをお風呂に行かせ皆で片付けを静かに協力して行なった。妙子さんがお風呂に入ってる間達馬に聞いたが、そんな妙子さんの学生の卒業アルバムの中でも一番ヤバイのは高校の演劇祭の写真らしい。妙子さんの母校では演劇祭というものがあって、毎年演劇を各付属の学部で小中高で実施するという行事があり妙子さんはその演劇祭の高校の部の主演を張ったという。舞台「ロミオとジュリエット」のロミオ役。そのステージ側から観客を撮った写真が超ヤバイ、らしい。「あれ、観客の眼がジュリエット100回くらい殺してるぞ―――――最初みたとき心霊写真かコラ写真だと思った」あれ、やばい、ほんとにやばい、と達馬がソファーに顔を埋めて震えるくらいのものらしい。そして。「あと卒業文集とか―――まじでぞっとする」あれ絶対に妙子さんに向けて書いたポエムだ、とかなんとか今度姉さんに見せてもらおう、と私は思った。そして夜、皆お風呂に入った夜の10時、私たち女性陣はよくわからないけど、居間で布団敷いて4人で川の字で寝ることとなった。「「こんなところにいられるか、おれは一人で部屋にこもる!」というパターンを実行してみるわ」達馬がそんなことを言いだしたのだ。どうやら、桐子さんが泊まった部屋の住人にも被害があった、という話を聞いて、そうしてみよう、と面白がって言った。わざと1階に人を集めて2階に達馬が一人で寝ることにするという。そして水場から音がして気配が来るそうなので2階のトイレのドアを開けたままにしている。「ハナミだったら、さらにひとりかくれんぼ始めるシュチュエーションだね、それ」と妙子さんが苦笑する。「え、だいじょうぶなの?達馬君」桐子さんはびっくりしていた。「まじでやばいっていってんのに、本当にノリで?」とバカをみる眼で達馬を見る。「ええ」そして達馬は深く頷き、指をピストルの形にして笑った。それを見て、妙子さんが「ああ、あれね」という顔をする。「多分余裕です―――――ダテにあの世は見て「見てないよね」」すかさず妙子さんが突っ込んだ。「ハハハハハハ」「ハハハハハハハハ」そして二人でなんだかものすごく楽しそうに笑う。これぞ、末馬家限定二人だけしかわからない渾身の母子漫才である。達馬と一緒に寝たがった曜子さんは言う。「たっくん、突然幽遊白書の次回予告の真似してどうしたの?」私も曜子さんも桐子さんも意味不明と楽しそうに笑う二人をみることしかできなかった。その変な親子の妙な絆は私たちには全くわからないのだ。曜子さんと私は「うーん」と首を捻った。桐子さんは純粋に心配そうに達馬をみているが。取り敢えず、私たちで、大丈夫だと教えておいた。「なにが大丈夫なの?」桐子さんは疑念は解けなかった。「科学ノ発展ニ犠牲ハツキモノデース」そして達馬はまた余計なことをぼそりと言って2階の階段を上がっていく。その顔はめちゃめちゃ期待感に満ち溢れた顔だった。うまいこといったぜ、俺。という顔もしたのでわたしはイラついたので取り敢えず顔面に枕を投げておいた。前にエクソシストの真似をして私の腰を抜かせた顔だったので。そして枕をぶつけられて楽しそうに「おやすみー」と2階に消えた。「変な子………」その姿を見て、桐子さんは心のそこからの言葉をぽつりと漏らす。「でも、良い子でしょ?」妙子さんは苦笑してそう言った。