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No.36072の一覧
[0] 【習作】転生者のお母さんはTS転生者(守銭奴)【ラブコメ】みさりつの短編集 短編追加[みさりつ](2013/10/12 03:21)
[1] 妙子さんは一生困惑してるけど正直どうでもいい俺、おっぱい 妙子さんUSO追加[みさりつ](2012/12/09 08:19)
[2] 初恋ハンター妙子幼稚園編 ちょっとした小話集[みさりつ](2012/12/13 23:02)
[3] 【伝説の鉄人の伝説】息子は嘘つきです、これは全部嘘です 妙子さんUSO追加[みさりつ](2012/12/18 15:31)
[4] 俺の人生の大体のスタンスが二日で決まった人生気疲れベリーハード 小話追加[みさりつ](2012/12/10 07:30)
[5] IFもしも彼女と彼が逆だったら(15禁)大変下品なメタギャグ 小話追加[みさりつ](2012/12/12 06:25)
[6] たっくんの通信簿は賞賛か小言に満ち溢れているby妙子[みさりつ](2012/12/12 01:19)
[7] キボウ エンド [みさりつ](2012/12/12 06:01)
[9] いつまでたってもはじまりません!魔法少女リリカルなのは無理[みさりつ](2012/12/12 12:06)
[10] それは過大評価すぎる、そのまま俺が過大な重力の輪に取り込まれるからやめて!?だって軽いですもん僕by達馬 [みさりつ](2012/12/12 20:34)
[11] ねぇ妙子さん取り敢えず今から海外旅行行きましょう。 プロローグ[みさりつ](2012/12/12 22:58)
[12] 世の中こんなもんでしょう、ちょっズボン!?脱ぐな!完結[みさりつ](2013/03/03 16:12)
[13] 未解決未来編 1[みさりつ](2013/02/21 12:24)
[14] 未解決未来編 2[みさりつ](2013/02/21 19:03)
[15] 小話 末馬達馬の覚醒 暴走編 [みさりつ](2013/02/20 18:46)
[16] 末馬達馬の覚醒 バトル編[みさりつ](2013/02/21 21:11)
[17] 末馬達馬の覚醒[みさりつ](2013/02/23 02:15)
[18] 未解決未来編 了 ヘルクライマー事件 開幕[みさりつ](2013/02/25 19:12)
[19] 学校の帰り道 なのは編[みさりつ](2013/02/27 16:42)
[20] 主人公たちはついにデバイスを手に入れた 妙子の悩み追加[みさりつ](2013/03/03 14:18)
[21] 末馬達馬の流儀[みさりつ](2013/03/18 03:01)
[22] IF2彼と彼女が逆だったら、暗黒編1話【15禁】[みさりつ](2013/03/20 10:28)
[23] IF2彼と彼女が逆だったら、暗黒編2話【15禁】[みさりつ](2013/03/21 04:07)
[24] IF2彼と彼女が逆だったら、暗黒編 閑話 アンサイクロペディア編3/26追加【15禁】[みさりつ](2013/03/26 18:11)
[25] 短編ネタ 機巧少女は傷つかない二次創作[みさりつ](2013/10/13 20:22)
[26] 末馬達馬の事件簿2 幽霊編 小話さらに追加 226 さらに追加[みさりつ](2014/02/26 02:50)
[27] 末馬達馬の事件簿2 幽霊編 閑話 末馬家の最近の晩ごはん[みさりつ](2014/02/06 06:16)
[28] 末馬達馬の事件簿2 幽霊編 閑話2 沢山食べる君が好き by山田ゆかり[みさりつ](2014/02/06 11:43)
[29] 末馬達馬の事件簿2 幽霊編 悪夢と悪夢のような事実[みさりつ](2014/02/08 03:19)
[30] 末馬達馬の事件簿2 幽霊編 達馬の新能力[みさりつ](2014/02/10 06:15)
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[36072] 末馬達馬の流儀
Name: みさりつ◆2781aa24 ID:4563c076 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/18 03:01





時系列は末馬達馬の覚醒後。














「ごめんね、来週のクリスマスイブ、今年は翠屋でサンタさんやるから、遅くなるね?ケーキの販売の方だし」

「売上すごそうな話ですね、じゃあ来週は風邪ひかないように気をつけて―――まぁ俺も遅くなりますし」


「ん?」


「ええ、貴女がいてくれて、周りにいっぱい良い人がいるから気づけるようになった出来事がありまして、俺もその日は遅くなりますから」


「え、なになに?真面目な顔してどうしたの?」


「翠屋のサンタ服って余ってますか?」


「えーとね、これ私手作りだから、お店のじゃないんだ、で、どうしたの?」


「そうですか、よし、とりあえずよし」

「えーなにがよしなの?たっくん」

「あーちょっと今から百均とか行ってきます、あとでミシン借りますね」

「いいけれど、何をするの?」

「俺もサンタの服作ろうかな」


「へえ、たっくんもサンタさんやるの?」


「まぁ、ちょっと大人になってきます」


「え?クリスマスの夜に大人に「そっちじゃないですよ?」」


「山田ちゃんに着せて「そういう発想どこから?」ゲームから」


「おれに昔からそういう予定はないんですって。もうほんとーに自分の息子モテてるとか、親バカですよね母さんは」



「そうかな?」


「そうですって」







聖なる日の伝説。




白百合児童養育院の院長、霞百合子は昔出会った少年が9年の時を経てまたここに来るとアポイントメントがある日設けられた。

眠そうなサンタの格好をして背中に本当に大きな白い袋が背負ってやってきたのだ。
14の少年が一人、堂々と生真面目に挨拶にやってきた。


「霞さん、メリークリスマス!おひさしぶりです」

「メリークリスマス、達馬君、9年ぶりね、わざわざ本当に来てくれたのね、たった一週間しか此処にいなかったのに、あとどうやって来たのその格好で」

「走ってきました、トナカイは俺の足です」

「走って………電車とか」

「達馬サンタは財政が切迫してるので、あと電車に乗ると知り合いに写メで取られたりするのが嫌なので交通機関は使いませんでした
ていうか袋が大きいので人の邪魔になりますし」

「そうなの?」

「えーうちの学校のやつとかにみつかったら五月蝿いですからね「俺んちなんでこなかった!?」とか本気でうるさいですから」


街中の噂にならないように達馬は静かに山を越えていった。
木々を足場にし、忍者のごとく。


「あと数年したらうちの施設の職員にならない?立派になったわ、本当に」


佐藤達馬、ではなく末馬達馬として14の立派な男の子になった子だ。
児童相談所で一度連れられてきた子供、気味が悪いという理由で両親に虐待を受けていたと思推され、両親の感情が落ち着くまでの期間、院長である霞百合子の好意で一週間白百合院で寝泊りしていた児童。

長期のネグレクトの疑い、栄養失調気味、両目の目元に僅かな火傷あり。

全身に打撲等の痕はなし。

頭髪がない部分があるので、過去に頭を強く鈍器で殴られた形跡あり。

痩せていて、見ているだけで、悲しくなってくる幼児だった。

だけれど、霞百合子はその一週間の中、その幼児の生まれながらにして持っていた、強さ、優しさに驚いてしまった。

何処かびくびくと恐る様子もなく出される食事を見て一言

私や職員を見て確認を込めてこういった。

理知的な光を宿した目の光は、不思議だった。
悲しみや恐れが全くない、食事という振る舞いに対しての単純な疑問を浮かべた瞳。

小声で「鮭だ、俺の好物だ」とぼそりと言っていたような気がする。
そして職員の私たちに。

「これってタダで食べてもいいんですか?」

そう訪ねた、道を尋ねるような、礼儀を含ませる落ち着いた様子の声で、やはりそこには怯えが含まれない、普通の声だった。
いいのかな、という単純な疑問しか含まれない声の大きさ。


「え?……そういうの気にしなくていいのよ」

そう言った瞬間のモノ凄く嬉しそうに喜んでいた姿は目に焼きついている。


後に聞くと此処で生活していた児童達は、達馬君が配膳の手伝いに普通に参加していたことにびっくりしていたそうだ。
院で生活する年齢の期限がそろそろな少女の一人は

「今まで此処に始めてきた子って大体が怯えた感じがあって動けない子とか多いのだけれど、達馬君はみたことがない感じ、普通すぎ、なんか不思議」

普段は一緒にやろうね、とか手伝ってくれる?などとこちら側で頼み、やってくれたら感謝する、という歩み寄りで自分が此処に居てもいいと思わせる手法を使って
児童を落ち着かせるという賢い少女さえも達馬君はどうしてそんな風なのか疑問に思ったのだ。

まさか虐待とかないんじゃないかな、でも、モノ凄い痩せてるし、変だよね、と驚いたらしい。

その不思議さは食事の時にやってきた私にも発揮されていたのだ。


「ありがとうございます、おかわりしてもいいですかね、ご飯とか」

「……やめておいたほうがいいかもね、まだそこまでじゃないけれど、栄養失調気味だからね、まずはゆっくりと噛んで食べること。
それを考えながら美味しく食べて、おなかが減っていたらおかわりをしてもいいわ」

「やった、ありがとうございます」

「おいたつくん、おれの鮭も半分食べていいよ、あんまりおれさかな好きじゃないし、いっつも焼き魚のままだと醤油味だし」

「れおん君、違うぞ、鮭の可能性を見くびっているぞ、鮭は普通の焼き魚とは違う存在なんだぞ、醤油をかけただけじゃまだまだ鮭マイスターとしてのレベルが知れるぞ」

「なにそれ?」

「この食卓にある調味料のマヨと七味をその醤油浸し鮭を解したあと、ほかほかのご飯に載せたあとだな、それらを掛けて、食べるんだ、うまいぞ?」

「ごはんにマヨかけるの?」

「うまいからやってみ、それでもおれにくれるなら頂戴、もしくはこの皿に幸運にも存在する筋子と厚焼き玉子もばらして乗せて親子丼もいいぞ」

「ねーたつくんとれおん君なにやってるの、そのまま食べなさい、そういうのじゃどーっていうんだよ」

「みーちゃんもやってみ、みーちゃん嫌いなほうれん草のおひたしを最初にご飯に乗せてやってみても全然いけるぞ?」

「ほんとーかなぁ、親子丼?」

「筋子を分解したらイクラだよ、ほら鮭とイクラで親子ってやつ、あとワサビのチューブ、これを使うとだな、本格的だぞ」

「え、やってみる!」

「確かに、そうかも」

「あ、ギンコさん、味噌とかないですか?此処の施設の冷蔵庫監理してますよね」

「味噌?あるけど―――あと何故それを」

「味噌マヨ鮭丼とかいいですよ、ワサビマヨ鮭丼もいいし、味の種類が広がります、味噌と鮭だけだったら最後にお茶漬けにすると、うまいですよ、きっと、あとギンコさんこっそり蜜柑とか皮をむいて冷凍蜜柑作ってますよね?このおれにはお見通しです、冷凍庫部分を俺が間違って開けたとき慌てて「ここはいらないからいいんだよ?」とか言いながらアイスノンの下に隠してましたよね」

「へー、ここって結構食事のメニュー飽きやすいけれどこういうのやれば皆しっかり食べてくれるかもね、たつくん頭いいね、あとみんなに黙っててね、ウチの冷蔵庫スペースないからみんなやりはじめたら困るし」

「これはですね、応用力すごいんですよ、例えば一味とポン酢を使ってからあげに掛けてみたら、なんちゃって南蛮漬けとか色々です、あと隠しているバナナの方をあとで少し―――」

「いいよ、あと君みたいなの今まで考えつかなかった、一週間はいるんでしょ?だったらそういうアイデア見つけたら教えてよ、明日の夕食は味気ないポークステーキなんだけど」

「キャベツつきます?付け合せは?」

「え、ちょっとあとで今月の献立表もってくるから―――――あ、文字よめる?私よみあげるから」

「えんぴつも貸してください、ひらがなかけます(下手くそに書こう)」

という切っ掛けで、結局施設の子供達が真似をし始めて、たっくんナイスアイデアとみんなが楽しそうにしている。

明日はー?

明後日はー?

明々後日は?




施設の予算上で作る白百合院の食事は飽きやすいのは知っていて改善したいな、と常々思っていた。
食事時がルーチンワークのような感覚に陥りやすく、明るい食事ではなかった。

連れられてきたばかりの初日、来てから約2時間。
初対面の院内の少年少女たちと名前を呼び合い、既に渾名さえもつけあって本当に仲が良さそうにしている姿に驚愕した。


この子―――――何者。

親はなくとも子は育つという言葉があるが、それは子一人で立派に大きく育つという意味ではない、と霞百合子は知っている。
双蝶々曲輪日記という浄瑠璃のひとつに記された言葉であり、本来はそうではないのだ。

親を失った子供の例え話であり、人の人情が必ず世間にはあり、そういう子でも周りが助けてくれるのでなんとかなるもの、という意味だ。
そこに子供ひとりの力というのは少なからず含まれるのだが、それは大きくなっていく過程の育まれていく子供個人の個性の現れと霞百合子は思っている。

だが本当に不思議なもので、達馬君は。

なんか逞しすぎて、周囲に誰もいなくても一人で生きていけそうな気さえもして、面白い子。

初めて感じる気持ちだった。

ウチの施設に欲しいなんて思わせるほどの天真爛漫さ。
いままでは別の意味での来て欲しいという感情が占めていた。

達馬君がいるといつも食事の時間を嫌っていた児童さえも、この達馬君が作り出した光景に楽しそうに意見を言い始めた。

「これは?」

「山椒に目をつけるとは、いい発想だ、これは大人風味になるんだぞ?敢えて此処は鮭と食卓塩と山椒だけでいく――――それがいいかもヨダレ出そう」

「おいしいかな?」

「大人の味かも、あとちなみに小瓶の調味料で山椒が一番値段が高いもので、そして使用頻度が低い、この施設前にうなぎっていつやった?」

「えーとこの前土曜丑の日って時に百合子先生が頑張って初めてみんなにだしてくれたんだ」

「今は9月だから購入された日がまだ近い、ということは」

「え、なに?」

「山椒の香りがまだ芳醇だぞーほうじゅん」

「それやってみる」

「まかせたぞ、後藤隊員!」

「うん!」

「えーおれも隊員いれてー、なんかかっこいいし」


冷却期後の一週間が過ぎ、両親の元に戻っていくのをみんなが泣きはらして別れを惜しんだ子だった。

そして次の年の春にひとりの女性に引き取られていったそうであり、皆、残念そうにしたものだ。

「そうおもっちゃ悪いけど、達馬君は来て欲しいよね、誰だってそう思ってた――――本当に格好良い子だったもの」

その年に海鳴市、市役所に努め先が決まった施設の少女はまるで、その少年に会いたくて海鳴市役所を希望した気さえもする、と霞百合子は思った。

そんな人を惹き付ける素質があった少年は今

「メリークリスマス!クリマスプレゼントあるぞ!!」

そう声を張り上げ、袋を院内で開放すると、その中にはサンタの靴というお菓子が詰まったものが大量に入っていた。
子供たちに配り歩いてみんなを喜ばせる。

霞百合子は達馬のプレゼントのチョイスにセンスの良さを感じた。

安易な好みが別れるおもちゃではなく、施設ではあまり食べれない市販のお菓子類を選択するあたり、14歳としては十分すぎる考えだ。
施設では児童に小遣いを支給しているが、彼等は基本的に買い食いなどはしない、本当に欲しいものを買うことが多い。
ボランティアから貰ったりするぐらいで、基本的にあまり菓子類の支給は行わないのだ。

何がいいか調べたりしたようだ。

クリスマスのお菓子入りの靴は値段のランクで中身が大きく変化する、喜んで食べている少年たちが開けているのは有名なチョコ類。
どこでもありふれたものだが、安いスナック菓子やマイナーなお菓子でスペースを増やす商法のものではない。

一つ200円の箱のお菓子が多いし、珍しいサンタブーツだ。
季節限定品が多い、市販の製品の売り出しが最近のものが特に多い。


包装も綺麗で、市販でもみたことがない。

はっとする。


まさか、特注したのか?

そこまで難しいことじゃないが、気が利いている、そして児童の人気のお菓子が多い。
バランスも中々に良い、案外忘れがちなガム類、飴類も入っていて長く楽しめるように工夫がされている。
しかも一つ一つ、チョコも包装されたものが多いので小分けにして食べれるという気遣いもある。

ふふと、霞百合子は笑う、しばらく子供たちの枕元にお菓子が隠れるようになるわね、達馬君は悪党だわ。

「ちっさいモンダミンなんで入ってんの?」

「夜こっそり食ったあとにお口クチュクチュ用」

「あったまいいね、これならあとで虫歯にならないね」


うん、本当に気が利いている。


だが


今、施設には13人の子を預かっている、金額的にも中々高額。

一人2500円分相当のなかなかの高級品。
最低でも3万円くらいは掛かっている筈。

施設の管理者としてそこらへんにはすぐに気づく。

「ねえ達馬君、これはどうやって?」

ちょっと耳打ちする。

引取り先の保護者のお金なのか、そこらへんが気になった。

達馬君だと絶対自分で用意するだろう、そういう期待を込めた質問。


「えーとですね、これ内緒話ですけどね」

「なになに?」

「中に新商品が多いでしょう?季節限定物が8割」

「ええ」

「実はお菓子会社のサンプルのやつを譲ってもらいました、ここはオフレコで」

「へえ、そんなことができるの?」

「案外出来るもんですよ、お菓子会社の知り合いいますし、あれです、コンビニの店に無料でタバコの新製品配るような気軽さで箱でどさっとくれたりとかそういうのです」

「どんな人脈なのそれ?」

「えーと地元の話なんですけど自分ちの近所の田宮さんちってお菓子会社の人で、奥さんがよくそういうのくれるんで、ちょっと奥さんに事情話したら、お菓子の中身を手伝ってくれました、今度田宮さんちの奥さんと知り合いの奥様方のボディガード兼荷物持ち兼スキー指導員として日帰りのスキーに付き合うのが代金、それと靴と包装は商店街のツリーの組立てとアーケードの飾りとかそういう労働を対価に小売商店の店長さんと花屋さんにやってもらいました、うん、実は飴とガムしか俺、買ってないんです―――――あまりにもセコイので秘密にしてください、あとモンダミンは薬局で大判の買うと横にくっついてるやつを剥がして貰ったやつです、個人経営の薬屋のおっちゃん腰が悪いんで、年末前の在庫整理の手伝いしたらもらいました」

「凄い話ね」

アルバイトが出来ない金銭を得ることが出来ない年齢でありながら、此処までのことを簡単にやってのけてしまう


多くの人と親密な人間関係を築けるこの少年の実力というやつだ。


海鳴市職員のあの子からきいていたが、噂通りだな、と霞百合子は思う。

ほぼ海鳴市内の人間にこの少年を知らない人はいないというのは本当らしい。
保護者も似たような人間だ。

下心が一切ない、純粋なお人好し、ボランティア親子として有名だ。


ひっきりなしに地方新聞を飾るこの親子はそろそろテレビ出演とか決まりそうなくらいなもの。

人に優しく、なんでも地道な親切を繰り返し続けた少年は、何処までも気のいい少年として沢山の人に愛されるようになってきている。


そんな思考をよそに、少年はぴったり、施設にいる全員分、私の分さえもお菓子の数をきっかり個数を用意してるあたり、恐ろしいと思う。
行政で児童の保護のため、施設の人員は普通の人間では簡単に調べられないようになっている筈なのだ。

もしかしたら顔の効き具合は地方政治家並かもしれない。

子供の人員は伝えたが、まさか職員の分も用意するとは、今日休日の職員の分さえも。


あの子にその活躍は聞いたり、彼が乗る海鳴市新聞の切り抜きをもらったりしたが、傑物すぎる。


思わず冷や汗さえも出てきそうな気がする。

カリスマ。


そういう言葉が似合うが基本的に何処にでもいる少年だ。
いや違うか、何処にでも居れる少年というべきか、施設の少年たちを肩に載せたりする姿はまるで彼等の本当の兄のように見える。

海鳴市では早すぎる考えだが、彼を何れ市長になってほしい、という構想さえも始まっているそうだ。
性格上政治家には向いてなさそうなので、なったらどうなるのかという職員たちの妄想で終わるそうだが。


海鳴の役場、地元警察、消防などは将来欲しがっているのは確かな情報である。
NGO職員も一度噂を聞きつけスカウト気分で見に来たという情報もある。

さらに

あの知る人が知る他県から人が来るほどの海鳴市にあるスイーツ店「翠屋」のシュークリームが別個に全員分に用意されていて、女性職員は喜びの悲鳴を上げてびっくりする。
クリスマスケーキを販売で忙しい期間にどうやってこれを……え、あなた何者ですか?という混乱さえも起きる。



あの時達馬君と喋った子達は皆、末馬妙子という女性の手で良い引取り先に恵まれて幸せに暮らしていて私しか知り合いが今は居ないのだが、初めて出会う少年少女たちに一切警戒されずただ喜ばれてヒゲを引っ張られたりしている姿のあまりにもな頼もしさに涙が出そうだった。

そして今は施設にいる一番年齢が上の女の子にプレゼントを渡している姿を見てさらに驚きが生まれる。


「え……私16……なんだけど…君より…年上」

「勿論おっけーです!サンタさんはそんなケチケチしませんよ!」

末馬達馬は豪快に笑った、周囲を一気に華やかにさせる、明るい表情。

それは正の感情しか含まれない、純度が高い、笑いだった。
こんなにもバカ正直に人に笑みを渡せることが出来る人間は滅多にいないと思わせるほど純朴。
最上級に優しげな天真爛漫な微笑みだった。



「あ、ありがとう……君って此処の施設にいた人なの?私……君を知らないのだけれど」

「昔ここで一週間お世話になったのできちゃいました、鶴のように恩返しって感じで飛んできました」

「ええと……私……大島未華子っていうのだけれど………あと一週間?」

「俺は末馬達馬、よろしくです!一週間でも昔良くして貰いましたから、プレゼントです、一週間の美味いご飯のお礼にクリスマスということで取り敢えずプレゼントしに来ました」

「……………」

「どうしました?」

「ううんありがとう………よければ…少しこれから一緒におしゃべり…して…くれないかな、とっても楽しいから」


「勿論です、取り敢えず友達になりましょうミカさん」


「うん」



大島未華子はアルビノで神秘的で綺麗な子であり、まるでエヴァンゲリオンに出てくる綾波レイのような子だ。
その容姿からか父親から性的な虐待を受けて此処に来た。

酷い男性恐怖症のあの未華子ちゃんが、なんと積極的に逆ナンを開始したのでびっくりした。


すごいぞ、一目惚れさせたのか、達馬君。

あの男性を恐れ、怯えるこの子を撃ち落とした。

あの子は真っ赤に白い肌を染めている、すごくわかりやすい。

今この瞬間に、たった一言二言、すごすぎる。



「とりあえず、おれ友人には携帯の電話番号教えるんですよ、施設の電話から俺の携帯に何か困ったことがあったら連絡してください、いつでも駆けつけますのでえーと080の―――」

「ありがとう……」


「嘘じゃないですからね、行きますから」


「わたしは」

「そういう時になったらお礼に冷凍みかん頂戴致します、ぐらいでいいですよ、それが一番嬉しいし、あと重い友情とか思わないでください、これが俺の流儀です」

「………ナンパ?」

「違います!」



末馬達馬は本当に来る、例え引っ越して北海道で暮らしている人の下でも連絡すればその日にいくのだ。


件の柴おばあちゃん先生の謎解きを取り敢えず美味しいお菓子を送ることで解決した達馬は電話越しで


「ふふ私が此処のお菓子好きって知ってたの?ありがとう、でもやっぱり君の元気な声がそばで聞ければこれから長生きできそうね」

「え、じゃあ、今から行きますか?そっちに」

「え?」


一時間後


「きましたぜ、俺の作文の師匠!最近授業で難しい漢文あったので教えてください」

「本当に来たの………富良野よ?内地よ、どうやっても本州から一時間で来れるわけが……」

「これが師匠に贈る、謎です!」

「あらあら、難しいわね――――実は電話していた場所は富良野の近辺」

「……………………………………………残念!俺は確かに先程まで海鳴に居たというアリバイがあるんですよこのレシート、海鳴ストアで購入した肉まんのレシートが証拠です、残念ですなぁ、次回またの挑戦を」

「私ミリオネア嫌いって言ったでしょ前に、みのさんは好きだけど、そこは嫌いなのよね」

「すみません、つい」

「あっはっはっは、本当に面白い子ね、なんというかベタというか、末馬くんはピン芸人大好きでしょう?」

「あの人たちは一つの芸に己の人生を掛けている、という感じが最高です」

「あんまりおばあちゃんをいじめないでね、で、答えはなんなのかしら」

「一時間で自力で走ってきました」

「嘘でしょう?それは」

「実はできるんです、秘密にするなら教えますよ、俺の隠された能力を!」

「いいわ、謎にしましょう」

「えー」

「なんか聞きたくないのよ、女子中等部の高町さんが空を飛んでいるのを見て、一人富良野で絵を書こうと決めたのだし。私もそろそろ年だなぁって心底思ったのよ。
人の為に物事を教えることでより人に必要とされる良い人生を、と思ってきたけれど、結局一人でいるのもやっぱりさみしいからこうして達馬くんを私は呼んだのかしら?
此処にいる達馬くんは幻覚じゃないわよね?」

「え、まじすか?あいつなにやってんの?結界とか張れよ」

「一人だれもいない街の中、八神さんやテスタロッサさんも加わって空を羽が生えたように飛んでるのを一時間眺めたわ、彼女たち物理法則を無視してすいすい飛んでいたわ」

「――――あ、師匠」

「なんでしょう」

「魔法使いなりません?才能あるんですよ魔法の」

「………正気なのかしら達馬くんは」

「セカンドライフは魔法使いとかいい感じですよね」

「そうかしら、本当にそう思う?あと私がおばあちゃんだからって変な詐欺とかにかけないでね」

「師匠は結構強そうな感じがします、どうですか?結構面白い場所いったり見たりできますよ、魔法の国とか。昔師匠は一人で世界旅行したって聞きましたし、暇つぶしにはなりますよ」

「あら本当?それは刺激的だわ」

「では、師匠、俺の背にどうぞ、ちょっと揺れますけど、何故か人を後ろに乗せて音速で走っても大丈夫なんですよ、俺のレアスキル」

「では真実を見極めましょうか、あなたが嘘を言っていないのはわかるけど」

「百聞は一見に如かず」

「ふふ、そうね、若返りの薬でもさがそうかしらね」

「楽しそうならなによりです、いきますよ」

末馬達馬は己の恵まれた力を使って、誰かに手を貸すのを厭わない、きっと命だって平気で賭けてしまう、そんな存在になっていた。

それは自分がひとりの女性から始まり様々な人間に幸せにしてもらったせいだ、だから自分もその嬉しさを誰かに手渡して行きたいと願うようになった。

それはきっといいことなんだ、おせっかいでも、いいかもしれない。

あの日の妙子さんのように
この前の高町さんたちのように。



優しくしてもらって嬉しいだろうなそれは。
嬉しくて仕方がない、だから、きっと何にでも耐えられるように強く立ち上がらせて貰える。



それは絶対だ。

邪魔と言われたら帰ればいい。

利用されても構わない、それに利用するやつぐらい見破ってみせる、裏切られたら怒ればいい、そう気軽に末馬達馬は考えている。

ようするにやっぱり妙子さんが好きでしょうがない末馬達馬であった。












「やっぱり、あの人に育てられた子なのね」

本当にあの眼を見張るほど美しく強く優しく聖女のような女性。

あの末馬妙子に息子として選ばれた少年。

彼女とは一度だけあったことがある。


あの女性はこの少年を引き取ってから数年後現れた。

今のように沢山子供たちにお菓子を持ってきてこういったのだ。


「こんにちわ、えーとたっくんが此処でモノ凄いお世話になったって聞いたからきました」


「貴女が……達馬君の」

「戸籍上は姉ですけど、母親として一緒にくらしています、私はお礼と謝罪の為に此処にきました」

「え?」


「此処の施設の子たちはみんなたっくんを待っていたのに、ごめんなさい私が引き取りました、そしてありがとう」

「え」

もーたっくんも昔のこと言わないから、今までお礼言えなかったし、でも言えて良かったなぁ。

子供がお世話になったら息子の代わりにお礼するのが母親だよねーと




子供たちも沢山いる前でそう謝ってお礼を言った。

素直に真心を込めて、恥ずかしがらず、そう丁寧に微笑んで言った。

なんていう人なんだろう、とびっくりした。


女神だ。


達馬君は菩薩さまに拾われたんだ。



そう思っても不思議はないくらいの人物だこの人は。
目の前にいるだけで、なんだか、心が浮きだってしまう。

殺人犯の容疑者も彼女の目の前にいれば罪を告解しそうなくらい、慈悲深いオーラをまとっている気がする。



私たちはとっても嬉しくなってしまった。

こんなにも本当に綺麗な人に拾われた幸運に達馬を知っている子供たちは素直に祝福した。
この人なら、いいな、寂しいけれど、待っていたけど、この人なら、嬉しくなってしまう。
みんなそう思った、まるでそれが一番のいい事なのだとめでたい気持ち、誇らしい気持ちにあふれた。
そしてその年の聖なる日、施設は何処からか大量の寄付金が送られ、施設の食事は改善された。



そうして施設で皆が代々語る児童福祉施設白百合院の伝説が生まれた。



ちなみに末馬妙子に引き取られた達馬を羨ましいと思う子は誰一人いなかった。


「なんか自分が引き取られたら大変な人生になりそうで怖いし」

「どうしたの黎音君?」

「いや、俺たち結構たつくんを心配していたけれど、これからは心配ないね」

「もちろん、たっくんは私が責任を持って立派な子に育てるから大丈夫だよ」


末馬妙子の言葉には絶対の意志が宿っていた。
それはまるで神託。

よくわからない、恐ろしい気持ちになって思わず黎音は


「うわぁ」


と声を漏らす。
そしてあの普通の面白い友人を思う。


「ん?」

たつくん頑張れ、超頑張れ、俺は施設でのんびり大人になっていくから御免、本当に御免、見捨てたわけじゃない、許して、運が良すぎたんだ、たつくんは。

俺の親はいんちき宗教に嵌りすぎてヘンテコな修行という名の虐待を俺にしてきた。
俺はいんちき宗教の洗脳教育されそうになって周囲の普通と自分の普通を見比べて本能的に自分で児童相談所に逃げてきたからわかる。

様々な宗教的見地からいえば、どこの宗教だって同じ話があるものだ。

それは変な宗教でもあるわけだ。

常識的に菩薩様とか女神に拾われる人間は、苦難連続の人生に待ち受けるのは確実という例が。

下手に運が良くても悪くても、一生気の休まることのない、試練が迫りつづけるという教訓。


この人の息子。




絶対に嫌だ。
想像しただけで疲れる。
それってもしかして何よりも苦しいかもしれない。
末馬達馬はまさに恐ろしい運命に放り込まれた一匹の羊だ。


末馬妙子の第一印象は


凄すぎる。

それに尽きるのだ。
こんなお姉さんに優しくしてもらうのはたまたま知り合った男の子としてだけで十分すぎる。
息子とかになりたくない。
本気でそう思う。
荒谷黎音は心底此処にいられるだけ幸せになってきた。


「ゴットスピード(神のご加護を)達馬」

黎音は過去に捨てた祈りの言葉をいんちきの方じゃない、スラングで贈った。

「ん、神のご加護を?大丈夫、神様の前にお姉さんが護るから」

「そーいう意味じゃないんだけどね」



そして今日もクリスマスなので奇跡が起こる。


「あーギンコさんじゃなくて今はミカさんが冷蔵庫の管理人やってるんですねやっぱり冷凍みかんとか作ってますよね?」

「え……どうして」

「うん?ミカさんから指先、ちょっぴり蜜柑の香りがする、えーと確か……そう二日前の献立が変更されてなきゃ夕食のデザートに蜜柑がついていた筈、俺過去一年分の献立の改修作業させられたから覚えてます、ギンコさんに過去学生寮で生活していた貧乏人の工夫をひたすら書かされた―――あれまじできつかった、ギンコさん鬼だったなぁ。
今日は確かクリスマスなのでデザートはミニケーキ、メインは鳥肉のグリル、ポテト、スープはクラムチャウダーですね」

「え、意味わからないわ、どういうこと?お風呂だってはいってるのに、匂いは取れるはずでしょ、達馬君は名探偵なの?あと過去の献立てって9年前なのに―――え?学生寮?」

「ふふふ、出来具合の確認を今日の朝か昼にしたでしょう?最後に調味料を閉まったあと貴女はアイスノンの下から蜜柑を取り出して、確認し、そしてまた隠した!
そして俺は無駄な事に関しては記憶力が異常に働くんです、20年以上前にやったゲームのパスワードとかそういうのずっと覚えているタイプなので、あと学生寮は例えです」

「すごい……でも私は別に隠してないよ、何年か前から冷蔵庫おっきくなったらしいから、みんな冷凍庫は好きにバナナを凍らせたりしてるからハズレだよ?
献立も大分変わったそうだし、偶然だと思うよ?今日のメインは鳥肉のグリルじゃなくてフライドチキンなの、あとミニケーキじゃなくてちゃんとしたケーキ、あとスープはオニオンパイスープ………うん、でも凄い、出来具合は朝確認したの、あと達馬君、ずるいよね、朝と昼って。今は夕方だから、どっちかしかないし、うーん30点、ワトスンくらいかな」

「ワトスンは医者だから頭がいいということで、俺の場合宮崎駿のホームズに出てくる警察犬クラスだなぁ、判断材料が五感に頼り気味すぎてますね」

「でも蜜柑がわかったのは凄いね、鼻がいいのかな?ふふ、私本が好きでね、ミステリーとか大好きなの、ねぇ、この前ね――――」

とぎれとぎれしか男性と喋れない筈女の子が流暢にすらすらと男の子と楽しそうに会話し始め、周りは唖然とする。

「って感じで、何か隠しているの。ウチの施設の男の子たち」

「それはですね、多分えっちな本隠してるんですよ、男の子にとって拾ったそういう本って宝物として、慎重に保存しますから、どきどきする憧れグッズです」

「へーそうなんだ、だから男の子たちみんな変な顔を―――あ」

未華子は恥ずかしそうに顔を隠して、彼の顔がみれなくなってしまった。

男の子と下ネタを喋っているのに気づいて恥ずかしいのだろう。

うわー微笑ましい。

でも危ない、方向に―――止めないと欝展開になりそう、と霞百合子(独身57歳)は思った。

その瞬間周囲が達馬君を蹴ったり叩き始める。

「ちょーたっくんさん、ミカさんはピュアなんだからエロい話しないでよ、もうサイテーだね」

「なんでバラした!?本没収されるじゃん!?」

「え、俺が悪いの?おれだってピュアだぞ、そういうの一切持ってない男だぞ、10を超えたあたりから、そういうエロい話とかノーセンキューなんだぞ?妄想さえもしない男だぞ?
妄想しないためにな、こう筋トレを繰り返して、ほれ、こんなにも自らを鍛え上げて、腹筋とか」


ぺろりとサンタ服をめくると、爆肉鋼体が。

あら、すごい。


「うわ!なにその筋肉!?」


「え、スリムな戸愚呂弟なのたっくんって!?」

「きもい!無理矢理そのお腹に凝縮したみたい」

「え、きもくないだろ、結構周囲から写メとか撮影されるんだぞ、珍しいだろ?」

「だって……人間?」

「おい!?人間だろ、頑張ればだれでもできるって、まずはな、極限まで己を虐めるためにな、こう―――こういう柱とかに足を絡めて、重い石を持ってだな、腹筋とかな?
逆立ちして指立てするとか、色々頑張るんだ、あちょーってな、ブルースリーの真似とかしながらするとな不思議とそういう邪念が消えていくんだ、ときたま知り合いの人から内部破壊攻撃受けたりして徹底的にやると自然とできていくぞ、ちなみに鉄製のヌンチャクで遊ぶのは危険だ、下手すると死ぬ」


「たっくんって本当に中学生だよね?」

「そうだけど?」

「少林寺とかに拾われたの?実は」

「いや、普通じゃない人が住んでる普通の家」

「そ、そうなんだ」

「ねー指立て倒立やってみて!漫画でしか見たことないし!」

「いいよ、サンタクロースはな、日々暗殺に備えてこうやって鍛えてるんだぞ、KGBとかCIAとかに狙われても「まだサンタのつもりなの?」

サンタクロースが大道芸を開始し始めた。
少年が片手で倒立し、指の数を減らしていく姿に皆が興奮する。

肉体を支える指さえも、硬質的な鉄筋のように頼もしく、コンクリートの地面さえも突き破りそうな力強さに溢れている。

どこかのこういう雑技団いたわよね、肉体だけでの、と霞百合子はどんどん下にめくり上がっていく肉体美に感動する、大島未華子のことさえも忘れ、見入ってしまった。


「よっと」

指を支点にくるくると回ったりするその肉体駆動、これは一つの芸術だ。
筋肉が一斉に脈動し、綺麗な円を描いて回転している。

「フィニッシュっと」


そのまま指の力だけで、体を宙に浮かべ、空中をくるくるとコマのように縦に三回転。

着地し、体操選手のように胸を張り、一人点数を叫んで、微笑む。

「これだけで欽ちゃん仮装大賞でれるよな、多分」

「オリンピックでたら?優勝できそうだわ」

「ああいう真面目なの向いてないから無理なんです」

「そうなの?」

「ええ、緊張からか、一気にこういうのができなくなる、あと科学的検証されて解剖とかされたりするかもしれないからヤダ」

「まぁ孫悟空みたいだったわね、あと達馬君は本当に人間なのかしら?」

「渾名の一つでサルとかありますからね、俊敏なナマケモノとか、そういうの、ちなみに俺は普通の人間ですよ?」

「世界的に数少ないかもしれない人間かもね、マトリックス出来る?」

「出来ますよ?」

「やってくれる?」

「いいですよ、ネオの方でいいですか」

「スミスできるの?」


「うわ――(達馬君凄い、男の人の体って努力すればこんなに綺麗に?お父さんの汚い体と全然違う……)」


そして大島未華子もその姿に驚きと感動を覚え―――――ぱちっと自分のスイッチが入れ替わったような気がした。

今までの嫌な記憶、父に犯され、母に嫉妬され、いびられた日々の記憶が、ひどく自分の重心から消えてそっくり別なものに入れ替わった。

なんかそんなことでクヨクヨしていた自分がバカバカしくさえも思ってしまったのだ。

私は汚れて穢れている、そう思って、遠慮するのは勿体無い、ここで入れ替わったものを逃したら一生後悔するのだ。


うん、と未華子はうなづいた。


「達馬君」

「なんですか、ミカさんもなんかオーダーしマッスル?」

マッスルマッスルと腰を振ってみんなに「古い!」と文句を言われながらのほほんと聞く少年に未華子は意を決して言うのだ。
もうこの人みたいな凄い人はきっと二度と現れないのだ、此処で、もう決めるしかないと。

「ね、私だったらエロくなったりできる?達馬君。今日夜空いてる?私って凄い具「ミカちゃん!?」」

いきなり過去乗り切った、いやぶった切って、自分の体験を最大限利用しようとし始めている、と皆はビビる。

大島未華子はたかだか10分で別人になった。

妖艶さを振りまきながら一目惚れをした好きな男の子を誘惑しようと画策しはじめた。

達馬君はその瞬間、男の子の一人に耳を塞がれ、それが切っ掛けで男の子達に一斉に群がられてそれどころじゃないので一部聞かれなかったのでセーフだろう。

大島未華子は施設でも特に綺麗な女の子で隠れた人気があるが近づけない高値の花。

施設の殆どの子が憧れている。

でも話かけるのも戸惑ってきた。


突然サンタがやってきて、そのサンタがお菓子の代わりに未華子とトリックオアトリートできちゃうのだ。

男の子たちはもう、そりゃあ怒る、怒る。

「突然なに!?おれがあげたお菓子に何かはいってたのか!?今回はそういうおふざけしてないぞ俺!?」

「くっそう!たっくんの馬鹿野郎!」

「サンタが大泥棒とか!もう!」

「え、なんなの、まじでなんなの?わけわからん、なんもしてないのに、あと善行積みに来たのに!?」

「これからのしてもらえる幸運なやつが何を言うの!?」

「このクリスマス野郎!!」

「はぁ!?俺あと家かえってお風呂入って妙子さんとご飯食べてケーキ食べて、コーラ飲んで幸せ気分だと思いきやなんもないんだぞ!?なんもできないんだぞ!?酔っ払った妙子さんの逆セクハラから耐えて妙子さんが眠ったら外に飛び出して筋トレして家に戻って勉強する、それが毎年恒例の俺のクリスマスだ!―――――大体最近俺30分くらいしか寝てないぞ!?そんな可哀想な俺を虐めるのか、お前たちは――――くそ俺たちはお互いそういうの嫌な人間だろ!?なんでだ!人間は分かり合えない動物とかそういう気持ちになってきたというか
別の動物に襲われるよう気分だ、お前ら!サンタさんを虐めるな!」

「うっせ!?親の過去の虐待とか今はどうでもいいわ!!そんなの今起こった事態の方が兆倍腹立つんだよ!」

「そうだ!今日はそういうのどうでもいい日だ!」

「お菓子返せ!そういう悪い子には俺はなまはげになってやる!俺結構途中で食べたくてしょうがなかったんだぞ!?全員分の一種類くらいとか!よこせ!」

「うわ最低」

「セコっ」

「悪いのはお前だ!!」

「え、なにが悪いの?ちゅうかお前ら擽るなやめろ、殴られるのはいい!それだけは!」

「そうだろう!そうだろう!」

「拷問にかけろ!非暴力的な最悪なやつ!」

「電気あんまするな、鈴木刹那君!」

「俺をその名で呼ぶな!」

「ガンダムみたいでかっこいいじゃん!」

「だからやなんだよボケ!」

「おれ達馬よりもそっちの名前のほうが「ぶっ殺すぞ」


小さい男の子から達馬の同年代の男の子たちが達馬を囲んで一斉にくすぐり地獄を開始した。




「……どういうこと?」


あっけにとられた。


此処は暗くなったり、シリアスになる筈なのに、霞百合子は予想がハズレほっとする。
趣味のサブカルチャーの見過ぎだわ、実際は現実ってこんなにも奇跡に溢れ――――え?


子供達にとってナイーブな話が飛び交う喧嘩に発展しているのに皆笑って見ている。

楽しそうにしているのだ。




そんな馬鹿な。

そんな非現実的すぎる。

そういうめでたしめでたしで終わるお話だって、完結まで長々とかけるぞ普通。

職員たちは最初恐ろしい大事件が起きると戦々恐々していたのに、なんなのか、この状態は。
周囲の場が本当に愉快なことになっている。



「コンドームは必要、達馬君は14だし、私は結婚できるけど、できたら困るかな」

くすくすと笑いながらそれを見て不穏なことを口ずさんでいる女の子に現実逃避気味に霞百合子は話しかける。


「あのねぇ、未華子さん」

「はい?なんですか院長さん」

「そういうの早いわよ、達馬君は14だし、あなた16よ」

「え、ヤレるときやんないと、ダメじゃないですか?こういうのって。きっと達馬君って凄いモテるから、この出会いを逃したら……一生後悔しそう」

「あれだけそういうのに拒否反応起こして暴れたり自傷行為とかしていて要カウンセリングだったのに………まさか、治ったの?」

「なんかピタリと、まるでしゃっくりが突然止ったような気持ちです」

「あら」

「達馬君とおしゃべりしてたら「ああ、この人に出会うために今日この日の為に私は今まで」とか思うくらい、幸運な気持ちでいっぱいなんです、凄いですね」

「そこで本気でそう思ってたら別の心の病よ?」

「やーですね、さっきまでずっとメンヘル気味でしたけど、そういうメンヘルじゃないですよ、私」


自分を軽くそう言える強さがいつの間にか未華子には宿っていた。

奇跡だ。


人間がこうも簡単に立ち上がって笑える日が突然舞い降りた。

周囲にいる子供たちにもその奇跡が起こっているのだ。


「でも心の病よね、今」

「はい、最高のクリスマスプレゼントですね、サンタさんが本当に来たみたい」

「ロマンチックね」

「ということで今から外泊届けって出せますか?ロマンチックな夜過ごしたいんですけど」

「ダメ、許可申請は一週間前からの受付となってます」

「脱走は?」

「ダメだってもっと自分を大切に…」

「うまくいけば、凄く幸せになれるかもしれないですよ、大切にしてくれそう」

「あ、そっか………じゃあ、達馬君が帰る前までに口説き落としなさい」

「うーんもう無理っぽい気がしますから、とりあえず今日はデートの約束まで取り付けるくらいにします」

「なんでかしら?」

「達馬君ってモノ凄い恋を誰かにしてる気がします、だって私の容姿を見ても、全く気にしてない。
話す時の目線が一切ずれないんです、おっぱいも結構おっきいのに私。ちょっと悔しいです」

「そうなの?達馬君が?」

「はい、恋をして生き生きしている男の子なんです達馬君は、私も恋をしているから分かりました」

「いいわねぇ青春、でも達馬君は大変そうね、生き急いでる感じに見えるのはたしかね」

「はい、だから母性本能くすぐっちゃう人なんですよ」

「なんか不思議ね、たかだか10分程度で貴女がそんなに明るい女の子になるなんて、恋ってそんなに凄いのかしら?夫は過去に居たけれどすぐに離婚したし」

「恋はいいですよ」







次回のお話はマグロ事件編です



すいませんヘルクライマー編が中々進みません。



ということで


伏線を貼り忘れた作者による伏線ラッシュが今始まる。

目指せ、外伝、山田ゆかりのSTS編


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