これは山ちゃんに怒られるかな、となのはは思った。学校の帰り道。隣にいるのはいつの間にか背が大きくなったあの自分が常識人だと思っているようだけれど大分非常識な方向に傾いているもう一人の兄のような少年である。眠そうな羊とか牛とか馬とかそんな感じの瞳をした末馬達馬。横に並んで今日も今日とて翠屋にいる妙子さんのウェイトレス姿を眺めて「イイ…」とかぽややーとするために向かっている。所謂「一緒に帰ろうぜ」というやつだ中学校に入学してからこういう事はちょっと避けてきたかな、となのなは自分の複雑な事情を思い出す。私は誰かの悲しみを涙を見たくないから、色々な人々を護る為に管理局の魔導師として地球から出る、あと一年程度で。多くの仲間たちと、一緒に、ずっと一緒に。ちょっぴりこの横で妙子さん、と言っている少年にも仲間、自分も含めて勧誘したのだがばっさり断られた。はやてちゃんが何か妙子さんとたっくん二人にリンディさんのアドバイス「こういうのは将来大事な勉強よ」とパワーポイントでスライドショーを作り管理局や次元世界についてのプレゼンをした後に。普通に楽しまれて終わった。恐ろしい程人間離れしたら彼らにも少しは興味を持ってもらい、良ければ――との事だったが。「うわぁはやて凄、凄、俺とかそういうわかりやすいの無理、すげー、やっぱり面白いな、別の国の文化って(一応文系の大学だったし、馬鹿だったけど)」「へぇー、案外地球で騒がれている宇宙人とかって次元世界の人を勘違いしてるだけかもね、あとたっくん、別の国じゃなくて世界だよ?あと道路交通法規則が何か似てるのが、すごいね、やっぱり人間って同じこと考えるのかな、結構類似してるし、確かに異世界っていうよりも海外っぽいね」「お前らそんなところで魔法でCSIマイヤミ&24&攻殻機動隊みたいな、感じだろ?何か不思議、将来はやてがアラマキか」「お褒めに預かり光栄や、でも私は荒巻さんよりも素子さんみたいなバリバリ――「関西弁の素子さんは違和感あるだろ」「次元世界は広大だわ――――」「おお――おい、はやてそれお前の決め台詞にいいんじゃないか?関西弁風味が半端ないから誰もパクリとか思わない」「なんか複雑や…」何を当たり前のことを、って皆に突っ込まれそうや。この人ら、基本二人揃うと天然爆発するから無理、とかそんな感じでただ喜ばれて終わったらしい。リンディさんは「そこでもっと働きたくなるような空気に……」人手不足な管理局の偉い人としてがっくりしていた。確かに彼らなら心強い、恐ろしい程だけれど。「やっぱり嫌かな?」「なのはは日本以外でも生活できんの?大丈夫か?欧米っぽいだろミッドって。何か俺とか所謂水が合わない気がするね、そういう世界って。硬水なんだろ?基本、ミッドチルダ。俺は軟水じゃないとお腹壊すし、最近は何か畳とか好きになってきたんだよな、あ、だけどヒグマいないんだろ?」妙子さんとたっくんは郷土愛が強いので無理だなぁ、となのはが何時も思う言葉である。基本的に二人は恋愛はしていないが、生活は一緒だ。一生こんな感じなんだろうな、と思う。色々普通じゃないのに普通に生きて普通に楽しそうに生きる。ちょっと複雑な気分になる。自分自身の迷いではない、なんだかなーっていう感じの気分。「海鳴にもヒグマなんていないよ………?」「日本にいるだろ、北海道に」末馬達馬は何故かヒグマがこの世で一番怖いモノだと思っている。女の子がよく持っているテディベアでさえ、ちょっとイヤーな顔をするのだ。大抵茶色なのがテディベア。なのでヒグマを想起するそうだ。大嫌いなのだ本気で。「なんでそんなにクマ嫌いなの?普通に今なら勝てるでしょ、たっくんなら」「昔―――まぁいいか、ああいうの何か「ぐわああああああ」って言うのが滅茶苦茶に怖い。人間よりも、生きるってことに一生懸命だからな動物は。それが怖いんだ、いくら俺が強くても、片手でぬいぐるみのように放り投げられるとしても、怖い」まるでお父さん―――高町士郎が言いそうなことを達馬が言って、なのはは驚いた。まぁいまなら、400キロくらい出して2時間は逃げれるから大丈夫だな、と末馬達馬は笑う。その笑顔さえも、どこか悟った大人の笑顔だった。「そうなの?」「あの一生懸命な1時間の地獄を受けた、俺が言うなら間違いなしだ、あれは怖かった」ある日、森の中、くまさんに食われそうになったことがあるのだ末馬達馬は。前世大学生になるまでの春休み期間を使い、ちょっと雪が残る寒い中一人、ローンで買った初めてのマイカーで北海道一周ドライブ旅行をした末馬達馬。勿論、安いテントを積んで、北海道に沢山あるキャンプ場で寝泊りする貧乏旅行だ。「寝袋はマイナス15度までおっけーだから凍死はせんよな、多分」インスタントラーメンを家庭用のカセットコンロで作って食べ(キャンプ用は高い)今日の寝る場所どこにすっかなーと寂れた無料の誰もいないキャンプ地で一人揺れる熊鈴をBGMにしてテントを組み立ててる時に「あ、何か視線感じる、これ――――やばい」組み立てるのを辞め、逃げ「まずい、動いたら食われる」と動けなかった。棒立ちで、その捕食視線にさらされ、1時間棒立ちになった瞬間である。体が震えないように、隙を見せないように、ただ棒立ち。手には伸縮タイプのテントの骨組み。今時のテントの骨組みは軽く、それが心細い。(新世代タイプの羆か、人間を恐れなくなった、音を立てると近づいてくる奴か―――――ああ、死ぬかも)脳裏に生き埋めにされる自分の末路が思い浮かんだ。羆はある程度パクパクしてから殺さず新鮮なまま土を掛けて獲物を保管する習性があるのだ。で、たまに忘れる。「死にたくないっていうか、半殺しで生き埋めやだ、リアルに半端なく苦しそう」皆さん気をつけましょう。絶対に人が沢山いて安全なところでキャンプしましょうね?本当にそういうことありますので、ご注意。1時間。姿を見せず、ひたすらジロジロと獲物か、それとも、という感じで眺められ舌なめずりされたのだ。近くにいないのに。「ハァハァハァ」その吐息さえも聞こえる気がする。「クチャクチャ」(実は後ろとかにいるっぽいな、うん、ていうかすぐ後ろにいるね、俺の食料食ってるし――――――パニックして動くなよ、俺、ワニワニパニック――――)末馬達馬がこの世で一番嫌いなのはヒグマとなった瞬間である。くだらないことを考えて恐怖から現実逃避した1時間であった。その気配がなくなり。「あー助かったーにげよーにげよーにげよー」心臓がはちきれそうな恐怖の後に、一人キャンプ道具を置いて、ダッシュでキャンプ地から抜け、車にエンジンをつけ、脱出――――最後にバックミラーで道路を見た。道路の真ん中にヤツがいた。じゃじゃーん、という感じで、走り去る車をじーっと見るデカイ羆が。「バイバイ、ハム美味しかったよ、ありがとう」みたいな感じで。いつも加害者は被害者のことを深く考えないのだ。「ヒ―――――――だめだ、いますぐ札幌帰ろうそうしよう!」その帰り、「人がいるんだ、ここに人がいるんだ」と手が震えて車をサービスエリアに駐車する際に縁石にぶつけた。「あーもう!最悪だ!帰りたい!ん?今からもどって―――アイツに車で勝負――やめよう帰ろう、俺の軽だから負ける!」という嫌な記憶である。生まれ変わっても覚えていた、忘れたかった記憶である。「とまぁこんな感じの前世の記憶が蘇るわけだ、うん、悪夢だね、俺、本当に肉食動物全般ちょっと好きじゃない。まだ犯罪者とかの方が大丈夫」どっちかというと俺が彼ら側にとって大型怪獣だし、と思う達馬であった。この前、刃物持ったコンビニ強盗取り押さえたし。末馬達馬の事件簿1深夜のコンビニ。「よっと」ぐいっと、手で刃物を握り込む少年。コンビニ強盗が持っていた刃渡り20cmのアマゾンなどで購入したそれを。握りこんで砕いた。グニュウウウウウウウ、ガギっと。「え……?」34歳無職の男は、目の前の光景に眼を見張った。なんだこれ、と。「うん、あと聞くけど、犯罪者だから、ぶっ飛ばしていいよね?ドカーンって」(強化)と口元を動かすコンビニ強盗現場に偶然居合わしていた中学生くらいの少年。その少年に男は、とてつもない恐ろしさを感じた。「あ、すいません自首しますからやめてください、何かそういう無敵オーラだすのやめて」男は素直にそう言った。「そうした方がいいですよ、あと此処のコンビニ流行ってないから犯した犯罪の割に合わないですよー?」ふっと、その恐ろしさをやめる少年。「うるせぇ!人の店に文句垂れるな!?売れ残りの弁当やらんぞ!末馬さんにチクるぞ!」夜のロードワークのあとに寄ったコンビニで、腹ごしらえするのが末馬達馬の日課である。「お前家で食ってないの?」「いやー燃費悪すぎるから夜中走ったあと腹鳴らして帰ってきて、その音で起きる妙子さんに夜食作ってもらうのが罪悪感半端なくて」「お前、ほんとーに凄い音なるよなお腹、俺の嫁のいびきよりも五月蝿い」いつも安くて量がある菓子パンや食パンを食ってるのをみて、なんか餌をあげたくなったのかわからないが。燃費が悪すぎる達馬はいつもご好意で「小遣い足りんだろ、余ったの食え食え」と店長から毎晩廃棄する弁当を頂いているのだ。「あーすいません、あと未遂って形で収めて立件なしでどうすかね」「え?」「え?」「悪を憎んで人を憎まず――――みんなで肉まんでも食いましょうや」「上手い事いったつもりか、もう並んでないし、作らないと駄目だし、あと売りもんだから駄目だ、お前が食いたいだけだろ」「妙子さんの元バイト先のテンチョサン。ダメですか?何か滅茶苦茶イイこといったのに――――――あとオニーサン?」「な、何?」「俺んちの近くですし、そういうのはちょっと、海鳴以外のところでやって捕まってください」「別なところならいいのかよ!?」「テンチョサン、テンチョサン。人間そんなもんですって」「大人だなぁ、たっくんも大人になったな「将来の夢の作文、正義のヒーローとかでいいじゃないか!まだ小学1年だぞ!?なんでやり直し!?」とか言っていた、たっくんも大人になったな」「昔から大人ですって!?」「まだ14だろお前、子供のくせに大人ぶるな、あとなんでお前、お兄さんと店長の部分フィリピンパブの客引きみたいな発音なんだ?」「様式美です。あと海鳴界隈ならヒーローやりますよ、この街好きですし―――――ねえオニーサン?」「何ですか――――わ」「これで叩かれたくないですよね?」空間を引き裂く手の平が閃いて、男の首元にいつの間にか添えられていた。その手は硬質なまるで建設重機のような暴力的な――――ビルとか倒壊させそうな見事な手の平だった。禍々しいその手刀。まるで妖刀のように、妖しく、恐ろしい。「人様にメーワクかけんな――――――ぶっとばすぞ」そう、少年が言った。少年の昔からの知り合いである、コンビニ店長をやっている的場さんが「流石末馬さんの子供だなぁ」としみじみ思う謎のパワーと性格である。「すいません!」「冗談ですってアハハハハハハHAHAHAHAHAHA」「お前まじだったろ。今の、いいから、お前帰れ、こいつ気が変わったらまじで何故か怪我をしない凄い痛いチョップするぞ」「手刀じゃない!?」「難しいですよね、いっつも失敗してただ痛いだけの首元を狙ったチョップになるんすよね―――いつか成功して漫画みたいに気絶とかしないかな」いっつも失敗するんだよなぁ、と少年は微笑んだ。「やめてください警察呼んでもいいからやめてください」真面目に働こう、そう思った男であった。自分の住む市からわざわざ隣の市である海鳴まで犯罪しにきた男はそう思った。海鳴は魔の都だ。「それは、怖い……?」「―――――新車だったのに、あとローン―――別にいっかな無効だろ、俺の保険金で」なのはにディバインバスター撃たれるより羆が怖いと達馬は言う。「……たっくんの前世の話って本当っぽいよね、あと本当に人間なのたっくんって?」なのはは山田からも聞いた、あることを思い出した。休みの日、隣の市まで山田と二人、動物園を山田相談所を開きながら二人で歩いてると、末馬達馬はいきなり言った。「俺帰るわ」「え、いきなり何!?」「俺はいつでも妙子さんの所に帰りたいから――――おい山田ァ!羆がなんでいるんだよ!いないって言っただろ!?」「これはグリズリーよ」「そっか、ああ何か俺が見たのと違う―――もっと怖いわぁ!?帰る帰る!檻の中に居てもヤダ!見るのも嫌だ!あとこっち何で見るクマ!?……やめろみるなぁ!」「気にしすぎよ、それにあんたじゃなくて、あんたの右手にある焼き鳥あ――――手でも握ってあげよっか?怖いなら?」山田は積極的に達馬の手を取ろうとしたが。「―――――俺は妙子さんの所に帰るんだぁあああああああ!あと何でグリズリーが動物園にいるんだよ!?」ブルブルと震え、すぐさま動物園の壁を軽く飛び越えて、末馬達馬は逃げ出した。車の法定速度ぐらいをしっかり守って。「ほら私が………いない!?………………え?」末馬達馬は本当に走って帰ったとさ、焼き鳥を最後まで離さず、風圧で手にタレがつこうとも。「俺マジで帰るから今日の相談終了!後日埋め合わせすっから!休み潰してゴメンな!」と電話しながら。そんな山田のかわいそうなお話。「山ちゃん怒ってたよ?」「あいつ俺に「怖いモノある?」って聞いて教えたら彼処つれてくんだもん、お互い様だろ、ていうかアイツ鬼だろ、まぁ可愛い悪戯だからいいけどさー」「山ちゃんは可愛くないの?」「ん?どういうこと?見た目がってこと?んー多分お前の女子中等部中でも1位2位を争えるって誰かいってたな、何か俺を睨みながら」この男は………となのはは思う、本当に妙子さんに似てきている。本人がこの鈍さを直さないと、絶対に妙子さんは振り向かない、そう思うほど腹の立つ鈍さである。末馬達馬は自分を過小評価する癖がある、普通じゃないくせに俺は普通、妙子さんは女神、という変な常識があるのだ。「はぁ」なのははため息をつく。大きくなってどんどん男の子から立派な男になってきているのは良く知っている。悪乗りしなくなったし、キチンと締めるとこはビシッと決める。成績は男子中等部で常に一位、運動神経は人外、性格、面白いし、困ってる人がいれば絶対に助けるお人好し。でも顔はいつも眠そうで、見てるとこっちも眠くなりそうな顔だけが、ちょっとした欠点。よく小学校の時は先生に「寝るな末馬!」「寝てません!?起きてます!」という顔である。私は別に昔から妙子さんおバカなところを見てきているので、逆にそれがいい、と言われてもピンとこない。まぁこれで顔とか美形だったら、凄いよね、とくすりとなのはは思う。ここまで立派になったのは妙子さんの御蔭だけどすごいなぁと思う。よく周囲から、「幼馴染、いいなー」とか言われるけれど、なのははそういう気になったことなど一度もない。精々近所の同い年の面白いお兄さんだ。「あー私も恋とかしてみたいなぁー」ちょっと自分のこれから先にある未来になのはは全く不満はないが、もったいないかな、と思う日々である。ユーノも大変だなと末馬達馬も片思い同盟の友人のユーノの苦労を思い偲びため息を吐いた。「ま、いっか、良くないけど、あとさ、妙子さんに絶対に俺が男として好きとしてみてるとかバラすなよ?」「うん、わかったよたっくん、あと告らないんだ?そろそろいいでしょ?」「そろそろ?そろそろ?そろそろが来るのか、俺に?」ああ、鈍いなコイツやっぱり鈍い。知らないのか、となのはは思わず叩きたくなったのは悪くないと思う。男の人が苦手な妙子さん。末馬達馬こそ世界中の誰よりも信頼している唯一人の男の子。それは確信を持っていえること。未だに一緒にお風呂入ろうとか言うくらいは。「優しく迫れば?とんって感じに」したとしても、全然許しそうな感じなんだけどなぁ、と思う。それはみんなが思っていることだ。ヴィータなど、「ヘタレめ」と言う感じに。「お前の口からそんな言葉が!?やめろ、やめろ、やばいんだから、やめろ、我慢するので精一杯なんだからやめろ」ちなみに末馬達馬は昔と違い、妙子さん以外全く女性に興味がなく、どんなAVを見てもぴくりともこない怪物になった。レイプモノをみると、胸糞悪すぎてゲロを吐いて自分の家じゃない綺麗な知り合いのお姉さんとかの家にその日は夜までお邪魔して寝込む奇病持ちというのが男子中等部の有名な話である。ウブな男子中等部の男子に頼まれ、そういうモノを何処かで買ってくるくせに、そういうものが本人は駄目になって来ている。「昨日はあのあと何処行ったんだ?」「ああ、美里さんのアパート、看護師の人んとこ、隣の県の」それから男子からはこう呼ばれる。「病人」と。「たっくんはヘタレだなぁ」「ん、そうかもな――――だけど、俺は傷つけたくないし、泣かせたくないし、悲しませたくないし、苦しませたくない。どんなにそれが良い結果につながろうとも、絶対にそういう風な目には会わせないと誓っているんだ。ほら前教えただろ、俺さ、そういうの大嫌いって、5年間だ、5年間、俺ずっと人を泣かせたり、苦しませたりしてた、あれだけは見たくない。それに、まだ妙子さんも、最近落ち着いてきたけれど、ダメなんだ、まだ乗り越えてないんだ、ってかまだ?とか思うこともないとは言わない」「思ってるんだ………」「いや、自分の都合の良いように、そういう未来を思い浮かべるのは誰だってあるだろ?でもそれは駄目だ、それはただの自分勝手な我が儘。自分がこうだからって人に要求するのは残酷だ。どんなに好きで好きでたまんない人でも、そういう風に思ったら、駄目、ていうか犯罪です。まぁ思いやりが大事」「たっくん」「ん?」「大人になったねぇ」「なーにいってんの、妙子さんに関しては出会って二日目からだ」「すごいたっくん凄い!」「ハハハハハハハハ」「一日目は?」「滅茶苦茶無礼なこと言いました思いました」