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No.35833の一覧
[0] 竜狩りケルライン 【完結】[白色粉末](2015/06/27 22:02)
[1] 決死のユーナー[白色粉末](2013/01/21 03:24)
[2] 不屈のインラ・ヴォア[白色粉末](2013/03/27 04:45)
[3] 聖女ルーベニー[白色粉末](2013/04/22 14:24)
[4] 決戦前日[白色粉末](2013/10/07 14:53)
[5] 黒い竜[白色粉末](2013/12/26 04:58)
[6] 竜狩りケルライン[白色粉末](2014/08/17 05:09)
[7] キャラメモ[白色粉末](2014/08/17 05:46)
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[35833] 竜狩りケルライン 【完結】
Name: 白色粉末◆f2c1f8ca ID:c7c9cdef 次を表示する
Date: 2015/06/27 22:02


 この作品は 小説家になろう 様にも投稿させていただいています。


――


 クラウグス王国は精兵を多くもつ。その中で最も強き者達は、矢張り最も困難な戦いに赴く


 クラウグス王国の、竜狩りの栄光の全ては、常に縦に割れた瞳の紋章と共に在った


――


 この世の全ての魔物の中で最も強く、速く、残忍な存在が竜である
 意のままに炎と氷と雷の息を操り、鱗は油が染み込んだ分厚い革のように硬く頑丈。一度空に舞い上がれば、瞬きする間に山を一つ飛び越える
 人と家畜を襲い、家々を薙ぎ払い、祖霊達の墳墓を荒らす。最悪の存在

 人が決して敵わぬそれに対抗する為に聖群青大樹騎士団は生まれた。五百年も前、苦しみ喘ぐ人々の涙と、戦友達の血の海から生まれた竜狩りの騎士団だった


 その栄光は常に瞳の紋章と共に在った。縦に割れたドラゴンアイ

 最強の敵と戦う栄光。偉大な王と偉大な祖国の盾となる誇り。最強との戦いを、最重要の護りを任される我らこそ、王国最後の砦であると言う強烈な自負


 その全てを打ち砕かれた時、聖群青大樹騎士団旗手ケルラインは祈るより他に術を持たなかった


 「……意識の……ある者は、……声を、上げよ」

 ケルラインは岩に背を預けながら呼び掛ける
 一言発する度に口から血の塊が毀れそうになる。腹が破れていた。肺も傷付いているのだろう。魔獣の革と鋼鉄を合わせて作られた鎧は、相対した竜の爪の一振りでずたずたにされてしまった

 もうもたない。ケルラインは己の死を悟る。首を持ち上げれば鈍く頭痛がした。打ち付けたに違いないが、その痛みも麻痺し始めているようだ

 辺りは凄惨な状況だった。同胞達の無残な屍骸が焼け焦げた草原地帯に散らばっている

 「お、おぉぉ」

 大半は炎のブレスで誰かも解らぬほどに焼かれていた。これまで幾度と無く炎の息を防いできた騎士達の紋章盾は、今回全く役に立たなかった。竜の力は圧倒的だった

 足の無い者、手の無い者。首だけの者は、一体どういう所以であるか
 全身があらぬ方向に曲がっている者は、竜の尾で痛烈に打ち据えられたに違いない

 一人として動くものは無い。聞えてくるのは寒々しい風の音と、焦げた死体が未だぶすぶすと燻る音

 「おぉぉぉッ!」

 全滅!
 全滅か!

 日々競い合い、教え合い
 誤れば正し、苦難にあっては支え
 杯を交わし、時には殴り合い、顔を赤くして未来を語り合った同胞達が

 全滅か!

 ケルラインは泣いた。父が死んだ時以来の涙であった
 戦友達は皆死んだ。己ももう幾許も無い
 腸が零れるのを感じる。異臭がする。痛みは完全に麻痺していた

 「竜狩りが、敗れては……!」

 竜狩り部隊が竜に破れる。あってはならない事だ。ケルラインはピクリとも動かない足に力をこめる。感覚が無いため解らないが、恐らく右は折れている
 戦友達の死が、己の使命が、ケルラインを咆哮させる

 我々が敗れたら、国はどうなる。民は
 我々の他に竜を狩れる者達があるか?
 ある物か

 どうにかこうにかケルラインは立ち上がる。それだけで奇跡だ。猛烈に腫れた左手は、どうやら右足同様折れているらしい

 旗を探さなければ。ケルラインは思った。聖群青大樹騎士団の旗手はケルラインだ。団員達の投票によって、ケルラインは栄光の紋章旗を任された

 「(戦いを、続けなければ……。旗の後にこそ……勇者は続く……)」

 二歩、酔漢よりも酷い足取りでよろめいて倒れこんだ先に、紋章旗はあった。縦に割れた瞳の紋章の旗。竜狩り騎士団の栄光の証
 奇跡的と言うべきか、損傷は極めて少なかった。ケルラインは腹圧で零れ落ちた己の腸にすら構わず、紋章旗に縋り付いた

 「力を与えたまえ」

 ケルラインは祈った
 主神レイヒノムの加護よあれ。我と我の同胞達に、魔を払い民を護る力を与えたまえ

 せめて伝えなければ。己の事などどうでも良い。竜狩り部隊の全滅と、かつて無い程強力な竜の出現を王に伝えなければ

 紋章旗は団員達の血で染まっていた。血染めの旗に己の口腔から零れ落ちた一滴を加えながら、ケルラインはまた唸る

 「よき戦士、無念の内であろうと、全く凄まじき死に際よ」

 女の声にケルラインは顔を上げた。目が霞み、己の腕の届く内ですら正確に見通せない

 足が見えたが、それより上は頭が持ち上がらなかった。革のサンダルを履いた白いほっそりとした足だけ

 「……」
 「言わずともよい。旗手ケルライン」

 優しげな声にケルラインは不思議な安堵を感じた
 この女が何者なのか確かめなければと理性では思うのに、そうしようと言う気持ちが全く起こらなかった

 「我々は、古くは聖群青ロロワナ戦士団と言った。余りに多くの血の海の中から、竜と戦う為に生まれたのだ。聖木ロロワナの喪失と共に名が変わり、我らが忘れ去られた今でも、お前のような戦士が我らの誇り高き戦いを受け継いでくれている。私は嬉しい」
 「……戯言を」

 長口上にせめて一言でも言い返してやろうと、ケルラインは漸く吐き捨てた

 まるで自分が竜狩り騎士団であるかのような物言い

 ケルラインには戯言であった。今ケルラインは王命を果たせずこうして這い蹲っている。友は皆死に、護るべき物も竜によって次々焼かれていくだろう

 奇抜な慰めなど要らない。欲しいのは戦いを続行するための力だ

 女の声が笑った。満足げな笑い方だ

 「旗手ケルライン。日が沈むまで眠れ。目覚めたらドラゴンアイの紋章旗のみを持ち、夜目の魔法を使って王都まで駆けよ。良いな、私と戦友達がついている」
 「……貴公、一体何を……」

 ケルラインは身体が温かい何かに包まれるのを感じた。生まれてから今まで一度も感じたことの無い、不思議な感覚だった。なのにどこか懐かしい

 力を振り絞って、上半身を仰け反らせる。太陽の下で銀髪の女が腕組みしていた。どうやら微笑んでいるらしかった

 「もう一度、血の海から生まれよ。お前が全く新しい竜狩りの騎士となれ。栄光と、誇りと、戦友達の無念を率いて、何度でも立ち上がり戦うのだ」

 我が名はインラ・ヴォア。古き言葉で、流星の如き矢と言う意味である

 その声を最後に、ケルラインの意識は途絶えた


――


 目覚めた時、ケルラインは己が正気を失っているのだと思った

 腹は破れていなかったし、手足の骨も繋がっていた。小さな傷は無数にあり、鎧もズタズタのままだったが、確かにケルラインは生きていたのだ

 そんな訳がない。自分はおかしいのだ。そうでなければ、全てが夢だったのか
 夢だったのであれば、我が友達は

 「そうではない」

 ケルラインは周囲を見渡し、全身を痙攣させた。ともがらの死体はそのまま無残に打ち捨てられている
 竜の匂いが色濃く残っているため、獣達は近寄らない。死体を荒らされなかった事が唯一の慰めだった

 「……何が起こった。………………俺だけか! ……俺だけなのか!」

 ケルラインは紋章旗をはっしと掴む。胸の内は荒れ狂い、様々な考えが爆発しては消えていく。それでいて全く記憶することが出来ず、数瞬前に考えていた事が思い出せない
 本当に俺だけなのだ。俺は一人だ。一人でも戻らねばならないのだ。戦わなければならないのだ

 心細い、とケルラインは素直に思った。俺一人で何が出来る

 『私と戦友達がついている』

 女の甘くも凛々しい声が耳元を舐った。意識を失う前、朦朧としていたが、はっきりと覚えている

 ケルラインは紋章旗の持ち手を抱きしめる。痛みも悲しみも、全てを飲み込んだ

 行かなければ。課せられた使命が、戦友達の無念が、ケルラインに一歩を踏み出させた


 そしてケルラインは駆けに駆けた。小雨を浴びて竜の匂いが消えた後になっても、不思議と獣達はケルラインを追って空腹を満たそうとはせず、遠くから鼻をひくつかせて見るだけった

 どういった者かは知らないが、あのインラ・ヴォアと言う女の加護か?
 ケルラインは感謝しつつ先を急ぎ、”遠目に見れば馬の面のようだ”と言われるピマーリオ監視塔へと辿り着く

 監視塔は常に比べて兵士が少なく、だと言うのに異様にざわついていた

 ぼろぼろのケルラインを認めた兵士が慌てて走りよってくる

 「聖群青大樹騎士団の騎士殿であられますか!」

 兵士の、松明を握る手が震えているのにケルラインは気付く。闇を見通す夜目の魔法の為に暗くともよく見えた

 「騎士ケルラインである!」

 兵士は畏まって礼をする

 「騎士ケルライン、貴方お一人で御座いますか?」

 兵士の言葉にケルラインの表情は曇った。全滅、全滅なのだ。背に負った紋章旗がずしりと重たく感じる
 ケルラインは歯を食いしばり、地面に足を叩きつけるようにして歩を勧める

 「聖群青大樹騎士団は……敗北した。私だけが生き延びた。竜は生きている!」

 兵士の顔が蒼褪める。無理も無い

 竜狩り部隊が竜に破れるなど、これまで無かった事だ。どんな困難な討伐でも、竜狩り部隊は遣り遂げてきた

 昨今の王都の民は竜を知らない。その平和は、全て竜狩り部隊の功績である。監視塔の兵士は竜の力の片鱗と、竜狩り部隊の強さの両方を知っているから、蒼褪めた

 最強の騎士団が敗れ去る、強き敵

 「聞えるか他の者も! 竜は生きている! 私は騎士ケルラインだ! 私だけが生き残った! 私は王都に急ぎ、これを伝える! お前達は兎に角、近隣の村々に走れ! 万が一の備えをさせるのだ!」

 からからに渇いた咽で声を張り上げるケルライン
 一頻り叫んだ後急激に声を小さくしたのは、咽の渇きからではあるまい

 「そして……マゼラエの森の手前に、我が団の同胞が打ち捨てられている……。彼等のことを頼む……」

 弾かれたように兵士達は走り出す。同様に、ケルラインも止まった歩みを再び動かした

 惨めだった。敗走し友を野晒しにしたまま王の御前に戻る、このなんたる無様さよ

 監視塔の兵士が水の入った水筒を投げ渡してくる
 ケルラインは温い水を口に含み、少しも休まず走り続けた


――


 それから馬を借り一日駆け続けたケルラインを待っていたのは、冷えた視線だった
 身形を正し、食事と休息を取りながら王の謁見を待つケルラインは、そろそろ我慢の限界に達しようとしている

 ケルラインは王城のレイヒノム聖堂で待機させられたまま、既に半日が経とうとしていた。竜の事は簡単ながら伝えた筈なのに、兵達が慌しくしている様子は無かった

 「あの目」

 幾ら座り続けても毛ほども温まった感じの無い黒い長椅子の上でケルラインは俯く

 用件を伝えた際の、近衛隊長ロスタルカの厳しい目。こちらを全く信用していない目つきだった
 まさか狂言と思われたのか

 主神レイヒノムの巨像が見下ろす聖堂。ケルラインは長い髪と髭を蓄えた主神の像に向かって祈り続ける


 乱暴に聖堂の扉が開かれたとき、ケルラインは飛び上がった。召喚される時を今か今かと待ち望んでいたのだ
 しかし現れたのはケルラインを召喚するための使者では無かった

 人一倍大きく、人一倍鍛えられた太い上半身の上に、人好きのする精悍な顔の乗っかった大男
 乱暴に扉を開け放ち、ケルラインに呼び掛けながら入ってきたのは、騎士ユーナーであった

 「騎士ケルライン」
 「騎士ユーナー、どういう事だ。……何故篭手の一つも備えていない」

 ユーナーは鎧どころか篭手も具足もつけていなかった。剣一本を佩いているだけだ
 何時竜が来るとも知れぬこの時に。ケルラインは立ち上がりユーナーを迎えつつも違和感に顔を曇らせる

 「報せを受けた当初はそうしていたのだが、命令でな……」
 「戦いを前に騎士に鎧を着けるなと?」
 「そうだ、馬鹿げている。……ので、適当に上役へ顔を見せた後、勝手に臨戦態勢に入るつもりでいる」

 ユーナーは悪戯っぽく笑った。ケルラインはその笑顔に救われる気持ちだった

 「王都は長く平和過ぎた。騎士ケルライン、聖群青大樹騎士団は強過ぎたのだ。誰も竜の脅威を認めようとしない」
 「耳目を塞いでも、あの忌々しい火噴き蜥蜴は居なくなりはしない!」
 「そうではない。竜を知らない者は、辺境の蛮族を打ち負かすように勝って当然と思っているのだ。でなければ何時までも貴公をこんな所に放って置いたりはすまい」


 馬鹿な


 地方領主の三男として生まれたケルラインは聖群青大樹騎士となるよりずっと前から竜の力を知っていた

 直接出会う事が無くとも、抉れた大地、燃えた森、干上がった湖を見ればその力の大きさは容易に知れた。大き過ぎて逆に解らない程だった

 だから聖群青大樹騎士となり直接竜と戦うようになった時も心構えは出来ていた

 ケルラインはレイヒノム像の前に跪き、嘆く

 「……これまで全てが死闘だった。勝って当然の戦いなどただの一つも無かった……」
 「王都の認識を伝えておきたかった。……もしもの時の事をよく考えて置け。謁見に関しては、こちらからも手を回してみる。……気を強く持てよ、騎士ケルライン」

 最早ケルラインには言葉も無かった。レイヒノムの祭壇に栄光の紋章旗を奉げ、祈るだけだった


 静かに神官が歩み寄ってくる。ユーナーとの話が終わるまで待っていたらしい
 金の長髪を揺らしながら近付く神官、ルーベニー司教の手にはワイングラスが握られている

 この女司教は、ケルラインが聖堂に通されてからずっと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる

 「騎士ケルライン様、寝所の準備が出来ています」
 「寝ている暇など」
 「丸一日以上野を駆け馬を駆って来られたのでしょう。この上そうやって張り詰めたままでは、遠からず倒れてしまいます」
 「我ら……聖群青大樹騎士団は竜に打ち勝つため。三日三晩眠らず休まず水のみで戦い続ける事もある。気遣い無用」
 「貴方を打ちのめしているのは疲労だけではないでしょう」

 無愛想極まりないケルラインの応対に全く怯まずルーベニーはワイングラスを差し出してくる

 たおやかに微笑む金の女神官には、しかし有無を言わせぬ力強さがあった
 騎士は神職の、特に高い位置にある者のワインを断ってはならないと言う掟がクラウグスにはある。神の酒を信仰と正義、摂理の護り手たる騎士が断るなど、と言う理屈だ

 ケルラインは無言でグラスを受け取る。中を見てください、と促され、ワインの深い赤色に映った己の顔を見る

 「酷い顔だ」
 「騎士ケルライン様の御仲間方は、勇敢に戦い命を落とされた。そして騎士ケルライン様も竜を前に退かなかった筈。……一人生き残ったのを悔いる事はありません」

 暖かな指がケルラインの血の気の失せた手を包む
 寄り添うルーベニー。花の香りがした


 そうだ、王都へ向けて駆けるな確かに思った
 一人生き残らなければ、竜と相対したあの時、もう一歩踏み込んでいれば

 こんなに苦しい思いをせずに済んだのだろうかと

 「甘えだ。逃げだ、それは。俺は逃げない」
 「では立ち向かうため、今はお休み下さい」
 「……不思議な神官だ。貴女は」

 この妙齢の女神官には、どうも敵いそうに無い。ケルラインは祭壇上の紋章旗を引き下げると、ルーベニーの後ろに従った


――


 酷い寒気と共に目覚めた時、ケルラインは寝汗に塗れていた。寝床に入る前に水を浴びたのが台無しである

 酷い夢を見ていた気がする。何かに急き立てられるような、落ち着かない夢だ

 頭を振って毛布を放り投げた。異様に火照った身体が冷えていく

 「疼く」

 今はもう無い腹の破れ傷が疼く。しつこいようだが、確かに致命傷だった

 ケルラインは裸だった。細々とした傷を一つずつ確かめた後、ケルラインは頭を抱え込む

 背骨がじりじり焼け付くような焦燥。だと言うのにこの寒気は何だ
 ケルラインは意識して深呼吸した。心を落ち着ける必要があった

 橙色の陽光が薄暗い寝所に差し込んでいた。夕暮れ時であるらしい

 視界の外側に唐突に気配が現れたのはその時であった

 「旗手ケルライン、目覚めたか」
 「?! 貴公、インラ・ヴォア……?!」

 長い銀髪の女。緑染めのシャツの上に黒い魔獣の革鎧をつけている
 背には弓、腰には矢筒、腿には小剣。今にも戦場に飛び出していきそうな様子だ

 金の瞳に息を呑むほどの威があった。こんな瞳の色をした者は、クラウグスでは見たことが無い

 「よく走った旗手ケルライン。己の運命にも、仲間の死にも挫けず、見事だ。だが本番はこれからだぞ」
 「本番……?」

 ケルラインは皮肉げに笑う。普段、真面目一徹で通す男とは思えない捻くれた態度だった

 「俺を見るが良い。無様に逃げ帰った騎士を、王は必要としないようだ。一刻も早く竜に備えねばならない時に」
 「だからと言って何を嘆く事がある。敵が迫る王城で、頭たれたまま討たせてやるつもりか」
 「誰も真実を見ようとしないのだ。我等の誇りも栄光も、城壁の内側で暮らす者達にとっては関係ない。まやかしのような物だったのだとハッキリ解った」

 そっぽ向いたケルラインの頬にインラ・ヴォアの手が這う

 と思った瞬間、強引に前を向かせられていた。インラ・ヴォアはケルラインの失望を予想していたのか、憤った様子もない

 「旗手ケルライン。誇りならば確かにあったが、まずそれらから始まったのではないぞ、竜狩りは」
 「……貴公は一体何者なのだ? 超常の者だと言うのは解る。そして竜狩りの全てを見てきたような物言い、ひょっとして本当に我等の遥か先達なのか?」
 「そうだ。だが今聞かせたいのはそれではない」

 ベッドの上に膝をつけてインラ・ヴォアは貌を近づけてくる
 金の瞳が爛々と光るようだ。ケルラインは御伽噺の一説を思い出した。竜と戦う者は、竜に近しくなっていく、と
 そういえばこのインラ・ヴォアの金の瞳は、縦に割れているように見えなくも無い

 「まず始めに戦いがあったのだ。誰も我等に期待などしていなかったし、賞賛など望むべくも無かった。我等を様々に支援した者達でさえ、心の底では諦めていた」

 インラ・ヴォアは己の語る情景を思い浮かべているのか、凄絶な笑みを浮かべる

 「だが、我等は勝った。いと尊き神々の加護、いと尊き多くの犠牲、それらでもって勝利した。勝利なくば滅ぶのみだった。旗手ケルライン、勝利の後にこそ栄光と賞賛はうまれたのだ」

 ケルラインは腹に手をやる。疼きが大きくなっている

 「我等とて戦っていた。インラ・ヴォア。誰も彼も、必死になって……、戦って、勝って、繰り返して……。ならば我等は一体何だったのだ。我が団の犠牲は……栄光に、賞賛に値しない物だったのか……」
 「その苦悶は捨て去れ。この王都が間違っているのだ。お前達こそ正しい。…………そしてだからこそ、新しく始めるのだ、ケルライン。お前は生まれ変わったのだから」

 インラ・ヴォアが右手を伸ばす。窓辺に立て掛けてあった、持ち手の外された紋章旗が音も無く浮き上がり、インラ・ヴォアの手に収まる

 青白い光が紋章旗を包んでいた。時折燐光を撒き散らすそれは、暖かかった

 「解るか。彼等を連れて行け」

 促されるまま紋章旗を手に取る。青白い光の暖かさがじわりと手を伝わり、身体を、頭を、足の先まで、ゆっくりと包んでいく

 聞きなれた声に、ケルラインは背を震わせた

 ケルライン
 ケルライン、兄弟よ
 我がはらからよ
 我等の旗手よ

 はっきりと聞える呼び声に、ケルラインは涙していた
 わなわなと口腔は震え、声一つ漏らせない

 友は死して尚旗の元に居た。ずっと傍に居たのだ

 「俺は……大馬鹿者だ」
 「ふふふ……。私は多少馬鹿である方が好きだぞ」
 「感謝する、インラ・ヴォア……。……インラ・ヴォア?」

 用事は済んだのか、インラ・ヴォアは姿を消した

 同時にずん、と言う揺れをケルラインは感じた
 地震ではない。人々のざわめきと、その中で一層異彩を放つ狂おしき吼え声

 竜だ

 「誰かある!」

 咄嗟に叫んでから、しまった、と思った。つい従騎士が控えているつもりで呼んでしまった

 当然聖堂にそんな者は居ない。ケルラインは寝台から飛び起きると、肌着のみを急いで着込み、紋章旗と持ち手を引っ掴んで部屋を飛び出す

 祈りの間に来て見れば、ルーベニーが祭壇に祈りを奉げていた。鈍い色を放つ黒金の鎧と具足が奉げられている

 「ケルライン様」
 「ルーベニー司教、竜だ。俺は行く。世話になった」
 「ケルライン様がこの聖堂に足を踏み入れられた瞬間から、主神レイヒノムの加護を強く感じるようになりました」

 唐突なルーベニーの言葉にケルラインは意表を突かれた
 ルーベニーは矢張りたおやかに微笑んで、祭壇上の鎧具足を示す

 「この鎧を、どうぞ。古き時代、聖群青ロロワナ戦士団の勇者がつけていた物です」
 「聖遺物では……。良いのか?」
 「こんな気持ちは初めてです。神々がケルライン様の勝利を願っておられる。そして当然、私も」

 ルーベニーは傍らに置いてあった司教杖を高く掲げ、祈りの言葉を紡いだ
 現存する厳かな奇跡の一端である。淡い陽光の如き光が司教杖に降り立ち、そしてルーベニーはそれで黒金の鎧具足を叩いた

 奇跡を終息させ、ルーベニーは肩で息をし始める

 「神の奇跡と古き鎧が竜の息吹を弱めるでしょう。……私が出来るのはこれだけです」
 「……感謝する、ルーベニー司教」
 「ケルライン様……ご無事をお祈りしております」

 鎧は見た目に反し、革鎧程の重さしかなかった。それで総鉄の鎧と同じ程の頑丈さがある

 旗と持ち手を組み合わせながら、ケルラインは矢張り腹が疼くのを感じた


 王城区を出ようとした時、門を護る兵士達は最初、非協力的だった
 ケルラインを出すなと指示されていたらしい。軟禁である。罪人扱いか、と常のケルラインならば怒りを顕にしたであろう
 しかし今は非常時でケルラインに怒りをぶちまけている暇など無かった。また非常時であると言う認識は、兵士達も同じだった

 「納得できる命令ではありませんでした。竜狩り騎士を軟禁するなど」

 聖群青大樹騎士団にのみ配備される斧槍を運びながら兵士は言う

 「武器庫からもってまいりました。竜狩りとあらば、その為の武器が無ければ」

 竜の鱗を突破するためには大きく重たい武器が必要だ。聖群青大樹騎士の武装はそれゆえ特注である
 同時にそれを振る肉体の強さが聖群青大樹騎士には求められた。兵士が両手で振る大剣を、盾を構えながら片手で易々振ることから、腕一つ二人力とよくわからない賞賛を受けたりもする

 「感謝する。陛下は何をしておられるか、知っているか?」
 「陛下は城に。ガモンスク将軍が城下に出られ、陣頭指揮をとっておられます」
 「ならば良い。お前達、竜を相手に如何な門も意味は無い。二人だけ残して残りは王城に向かい陛下をお守りする一助となれ」

 遠くでまた吼え声がする。他のどんな獣とも似つかない、竜特有の重く太い咆哮
 しいて言うならば洞穴を風が打つ音に似ている
 ぼぉぉ、と言う恐怖を呼び起こす不気味な音

 「騎士ケルライン様。私は竜を見た事がありません」
 「であろうな」
 「……勝てますか、……いえ、失礼しました。お勝ちください、ケルライン様」

 兵士達が一斉に跪いた。王にでもするかのような礼であった

 ケルラインは旗を天に突き上げる
 勝てるかと問われれば解らない。敵は強大だ。これまでに無い程

 しかしケルラインは一人ではなかった。死した戦友達がついている
 それに王と国を護るため畏れを呑み込み死地に向かうクラウグスの数多の戦士達

 「王の下知と竜狩りの旗の下、勝利はある」

 無数の戦士達の声よ、一つとなれ
 力を与えたまえ。勇気を与えたまえ
 我等が祖霊達が守り通してきた大地なのだ。海の如き量の血潮が染み込んだ祖国なのだ

 護らせてくれ、俺にも
 俺達にも

 ぼぉぉ、と吼え声は続く。ケルラインは走り出した


――


 黒き鱗の竜とは珍しい。最初”奴”を見た時ケルラインはそう思った

 強敵を前に程よく緊張していた。死の覚悟もあった

 油断、驕りなど一切無かった。状態は万全だった

 しかし敗れた


 吼え声は天を割き、尾を振れば地が割れる
 灰の色の双角、夜の闇のような鱗
 仲間が一瞬の隙をついて渾身の剣を突き入れれば、其処から溢れ出た血の霧に肉も鎧も溶け落ちる
 黒き鎧の内側に溶岩を巡らせる炎の主

 まこと強き黒竜。城下の上を悠然と舞いながら遠退くその姿に、ケルラインは畏怖すら覚えた


 市場であった場所は既に炎の海と化していた。路地裏だった場所は一切合財破壊され瓦礫と死体が無造作に転がる
 何たる様か。ケルラインが走りに走って滑り込んだ瓦礫の影で、兵士が一人血を吐いていた

 「生きているか!」
 「……その紋章……竜狩り騎士団……」
 「ガモンスク将軍は?!」
 「あちら……広場だった位置で、竜をやり過ごした筈です……。どうぞ……私に構わず……」

 歯を食いしばった後、済まんと吐き出してケルラインは駆け出す

 人々の悲鳴は遠のいている。ここいら一帯は既に破壊しつくされ、悲鳴を上げる生者が居ないのだろう

 荒らされた城下の例に漏れず、かつて広場だった場所も変わり果てていた。噴水周りは砕かれ、炎弾が落とされたのか地は抉れている

 ケルラインは呼び掛けた

 「ガモンスク将軍! 居られますか?!」

 がこんと足元で音が鳴り、下水路に通じる石蓋が持ち上がる

 顔を出したのは顔を煤塗れにした兵士。それが安堵の息を吐いたかと思うとするする地上に這い出し、次に其処から顔を出したのは老齢に差し掛かりの白い髭を蓄えた男だった

 「貴公は?」
 「聖群青大樹騎士団旗手、ケルライン・アバヌーク」
 「ほぉ、一人逃げ帰ってきた竜狩り騎士か」
 「生き恥を晒しております」

 ガモンスクは部下を穴から引っ張りあげながら嘆く

 「太刀打ちのしようが無かった。そして私が今死ねば、城下に散らばった部下達は完全に統制を欠く」
 「は」
 「……逃げた者が何故戻った、騎士ケルライン。何処にでも去ってしまえば生き残る目があったろう」

 全く酷い侮辱であった。同時にクラウグス王国上層部が聖群青大樹騎士団の壊滅と言う一大事を、どういう物の見方で捉えていたのかハッキリした

 「私は一度たりとも逃げてなど居りません」
 「ふむ。ではクラウグス駐在の亜人どもの大使は真っ赤な嘘を言っている事になる」
 「私について、讒言が?」
 「貴公が豪商と繋がり、聖群青大樹騎士団の物資を横流ししていたと言う情報だ。そしてそれが露見しかけた為、同僚を罠に嵌めて竜に食わせたと」

 ケルラインの顔は一瞬にして真赤に染まる
 そんな事があって堪る物か。八つ裂きにされたとて仲間は売らぬ

 「陛下はそれを?」
 「様々な証拠があった。少なくとも無視は出来ないとお考えであったようだ」
 「……成程」
 「情報が早過ぎるとは思っていた。時期が良過ぎるとも」

 三十名ほどの兵士達が下水路から這い出し、指示を待っている

 彼等の伺うような視線が冷静さを保つのに一役買ったか、ケルラインは怒りを通り越し非常に興味深いとすら感じた。皮肉な笑みが浮かぶ
 私を陥れようとした者がある。それは私個人を狙った物か、それともクラウグス王国を狙った物か

 今は良い。ただその企みを、竜ごと打ち砕いてくれる

 「我が身の忠誠と潔白を、竜との死闘で示したく思います」
 「そうだな。潔白の証が無くとも、陛下には必ず伝わるだろう」

 ケルラインは兵士達を見た。ガモンスク直属の兵士のようで、目には恐怖があるが戦う意思までは捨てていない
 しかし武装が拙い。剣と盾だ。弓矢が無ければ竜を地上に引き摺り下ろせないし、ただの盾では竜のブレスは防げない

 「彼等に武器を」
 「少し前武器を得るため部下を走らせた。西の住宅街で瓦礫によって立ち往生していると伝令が来て以来、音沙汰なしだ」
 「では行きましょう。私が前に」
 「任せよう。どうせ此処では指揮を続けられない」

 ケルラインは兵士達を振り返って、紋章旗を掲げる

 「王と王都の為に、我々の命が必要だ。覚悟はあるか」

 兵士達の目が一様に据わった。ここは間違いなく彼等の故郷だ
 それをこうも荒らされ、怒りを感じない者が居るか

 彼等は報復の為に命を惜しまないだろう

 「では旗に続け!」


 市を抜け、坂を上り、城下西部へと至る

 西の住宅街と言えば比較的裕福な者達が好んで住まう場所だった。が、矢張り今となっては見る影も無い
 それでも竜は人々の密集していた市場などに執着し、こちら一帯は比較的被害が少ない方だ
 だと言うのに瓦礫に阻まれて物資が届かないというのは運の悪い話だった

 「旗手ケルライン、備えよ。竜が迫っている」

 ケルラインは走りながら女の声を聞いた。早くも耳に馴染み始めた声だ

 インラ・ヴォアの声である。疑う気持ちなど最早起こる訳も無い

 ケルラインは紋章旗を一振りし声を張った

 「止まれ! 警戒しろ!」

 兵士達が何故、と問う前に答えとなる物が現れた。竜の咆哮である

 貴族の屋敷が影になり、極低空を飛翔する巨体に気付けなかったのだ。屋敷の青い屋根を抉りながら庭に降り立った黒い影に、その場に居た全ての者は戦慄した

 「竜だぁぁー!」

 敵を前に恐怖の声を上げて逃げ腰になるなど粛清物の失態である
 だが、竜を前に恐怖の声を上げるのを誰が責められようか

 皆が皆、聖群青大樹騎士ではないのだ。ケルラインは盾を構えて矢面に立つ

 「怯えるな! 怖気づけば食われるぞ!」

 石畳を踏み締め、悠然とケルライン達を睥睨する黒き竜

 記憶の中のそれと少しも違わない。あの太い顎と鋭い牙で戦友達を喰らい、黒曜石のような爪で引き裂き、岩を繋げたような尾で叩き潰した

 目は荒ぶる魂が顕になているのか、溶岩の如き緋色の光と熱を放っている
 顎に入った亀裂は如何な理由か。傷であるのは間違いないが、竜自身の鱗の頑健さが完治を邪魔しているらしい

 微笑んでいる。注視したケルラインはそう感じた
 同時に、激怒した

 良い様にに王都を蹂躙され、臣民を奪われ
 この上嘲りの笑みを受けるなど
 許せるものか

 「主神レイヒノムと英霊達の加護ぞある!」

 左手に握り締めた紋章旗と、同時に左腕に装備した紋章盾を頼みとし、ケルラインはそれらを前に突き出して構える

 前、相対した時、仲間達は紋章盾ごと焼き払われた
 この上は死した者達の助けとレイヒノムの加護、ルーベニー司教の儀式を信じるしかない

 竜が首を戦慄かせて天を仰ぐ。口の隙間から赤い揺らぎが見えた
 周囲の温度が上がったようにすら感じた。赤熱光は竜の牙の隙間から木漏れ日のように漏れだして、幾重もの光線となって周囲に散り始める

 「皆、後ろに!」
 「逃げるべきだ!」
 「逃げ切れる相手ではありませぬ、将軍!」

 ままよ、と吐き捨ててガモンスクはケルラインの背後に隠れる。兵士達が限界まで身を寄せ合ってそれに習う

 ケルラインは死ぬか、死ぬか、と気を吐いた。ここで死んでなる物か

 そして竜がそれを解き放つ時が来る。大顎を開いて、一切合財纏めて焼き尽くすために

 吹き出てきた物は、炎、と言うよりは最早光その物であった

 「舐めるなよ、舐めるなよ竜よ! 立ち向かって見せるぞ!」

 雄たけびを上げてケルラインは全身に力をこめた

 紋章旗が青白い光を放つ。それらはケルラインの身体を巡り、そして構える紋章盾に集束する
 炎を真向から迎え撃つ。最早他に手立ては無い

 そして黒竜の放つ光線はそれと衝突し、一瞬拮抗した後、あらぬ方向に弾き飛ばされた。弾き返したのだ。それを成したケルライン自身でさえ、一瞬何が起こったのか解らなかった

 激しい燃焼音の渦の中で、兵士達がどよめく

 「おぉ、竜のブレスが!」
 「凄い! 防げるぞ、あの悪魔の炎を!」

 激しい熱気の海の中に居た。しかしケルラインもガモンスクも兵士達も、焼かれて死ぬ者は一人としていない

 ブレスは防げる。ならば戦えるぞ。ケルラインは己を勇気付けるように、更に咆哮した

 「畏れるなぁッ! 退くなァッ! クラウグスのため!!」

 竜の息の凄まじさをケルラインは再確認していた。これほど凄まじい炎の息は他に無い。防げている、とは言っても、少しでも気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうだった

 それでも尚、ケルラインは一歩踏み出す。未だ続く竜のブレスを防ぎながら、熱気の海の中を踏み出していく

 「畏れれば友が死に、退けば民が死ぬ! 勇者であれ! 最も早く死ぬのは、勇敢に戦う我等であるべきぞ!」

 全員が雄たけびを上げていた。ガモンスクとて例外ではない
 必死の形相で全身に力をこめ、レイヒノムの加護を希いながら少しずつ前進する。火の光線を掻き分けていく

 誰もが
 誰もが皆一様に必死の形相で、当然取り繕う余裕などなく
 生存を願うのが正気ならば、それをかなぐり捨てる狂気の集団

 羽毛の毛先一筋程の間違いで簡単に死ぬ状況。皆一様に死んだつもりになっていた。死を覚悟していた

 流石に息が続かなくなったのか、竜のブレスが途切れる
 凄まじい火力であった。屋敷の石畳が形を留めていない。石が溶ける炎と言うのは、正に人知を超えている

 ケルラインは走り出した。それに続いてガモンスクと兵士達も
 黒竜は首を振る。血に塗れた黒曜石の如き牙の奥に、赤黒い舌が覗く

 顎をぱっくりと開いて喰らい付いてきた。ケルラインは咄嗟に体勢を低くした
 ケルラインの直ぐ後ろを走っていた兵士が上半身を食いちぎられる

 「うおぉ!」

 ガモンスクがケルラインを追い抜いて竜にぶつかっていった。ガモンスクは竜の防御力を承知していて、己の持つ直剣の頼りなさを感じていたが、それでもそうせずには居られなかった

 案の定剣は鱗を貫くに至らなかった。無造作な竜の手の一振りで吹き飛ばされるガモンスク

 ケルラインは斧槍と紋章旗を両手で纏めて握り締め振り上げる
 狙うは首。竜は比較的首が弱い。ケルラインが長柄物を好む理由はこれが大きい

 ずん、と異様な音が響いて、竜狩りの斧槍が黒竜の首に僅かに埋まった。身を捩る黒竜。斧槍によって穿たれた傷から溶岩の血潮が噴出する。。斧槍が炎に強いカラド黒鉄製でなければ、溶け落ちていた

 「(入れた! 一矢報いた!)」

 思わぬ快挙にケルラインは飛び上がりたい気持ちだった。それに浴びせ掛けられる冷や水は、当然用意されていた

 「旗手ケルライン、迂闊だぞ!」

 インラ・ヴォアの声。咄嗟に盾を突き出すケルライン

 黒岩の尾が唸り、ケルラインを打ち据えていた。吹き飛ばされ転がる
 黒竜を押し留めようと兵士達が一斉に飛び掛る。無駄な努力だった。ある者は爪、ある者は牙で引き裂かれ、千切られていく
 人体が千切られるのだ。悪夢のような光景だった

 石畳に叩きつけられた痛みに顔を顰めながらケルラインは立ち上がる。それを見咎めた黒竜が、見せ付けるようにしながら首を振り上げた

 そこに光の矢が飛来した。眩さに最初なんであるか判別出来ないほどであったそれは、過去の伝承に登場する神の矢、雷の矢であった
 雷の矢は竜の鼻面に突き立ち、雷光を閃かせてその頑強な身体を痛めつける
 竜がもがき苦しむ内にケルラインは体勢を立て直し、視線を巡らせた

 果たしてインラ・ヴォアは背後に居た。銀髪を振り乱し、額に汗を浮かべながら弓を握り締めていた

 「私とてあの矢は容易に放てぬ。が、竜とてそれは同じこと。あれ程のブレスそう頻繁に放てる物ではない筈だ」
 「感謝する、インラ・ヴォア!」

 左に紋章旗、右に斧槍。どちらも相応の重量のある物で、特に斧槍に至っては大の男が抱え上げるのも難しい重さである。それを片手で振るう
 この怪力が、ケルラインが旗手に選ばれた理由の一つだった。旗を持つものは高潔で尊敬される者でなければいけないのは当然のことだが、聖群青大樹騎士団では旗を天高く掲げながら戦いに貢献することまで求められるのである

 ケルラインの藍色の瞳と黒竜の緋色の瞳がぶつかり合い絡み合う

 竜は吼えていた。ケルラインもまた

 「掛かれ兵ども! 騎士ケルラインだけを行かせるな!!」

 頭から血を流しながら立ち上がったガモンスクが、黒竜に向けて再び走り、叫ぶ

 「命を惜しむな! 名をこそ惜しめ! クラウグス万歳! 我等の偉大なる王陛下万歳!」

 インラ・ヴォアが天に向かって弓を掲げた。天空を睨む金の瞳に光が点る

 「旗手ケルライン、旗を掲げよ! 私と戦友達がついている!」

 竜の巻き起こす暴風に縦に割れた瞳の紋章旗がはためく。それが光を放ち、そしてケルラインは全身に光が満ちるのを感じた

 振りぬいた斧槍。のたうつ竜の首。大顎が開き、ケルラインの斧槍を噛み砕こうとする
 青白い光が溢れた。竜のブレスを弾き返した光だ。それは斧槍を包み込み、竜の頭を叩きのめした

 おおぉ、と言う無数の怒声。ケルラインの物だけではない。この場に居る物全ての気勢が混じり合い、竜の咆哮すら凌駕する

 ケルラインに続き飛び掛るガモンスク、そして兵士達もまた青白い光に包まれていた
 本来ならばどう足掻いても竜の鱗に抗しようが無い脆弱な直剣が、不思議な力の後押しを受けて深々と巨体に突きこまれる
 幾本も幾本も、捨て身となった男達の我武者羅な突撃が竜の腹に、背に、傷を穿っていく。溶岩の血潮は青白い光に防がれ、鎧や肉の代わりに地面を溶かした

 「雷鳴よ!! インラ・ヴォアの矢となれぃ!」

 そして止めとばかりにインラ・ヴォアの光の矢が首に突き刺さり
 ケルラインの斧槍がその後を追うように喰らいついた


 竜が啼いた。ぼおぉ、と啼いた。身を捩る竜。ケルラインは何故か身体が震えた

 竜の足が地面をがしりと握り締める。次の瞬間、竜は身体を半回転させ、尾で兵士達を薙ぎ払った
 そして薙ぎ払われたのはケルラインも例外ではない。痛撃を受け胃液を撒き散らしながら吹き飛ぶケルライン。インラ・ヴォアに助け起こされ、ぐらりと揺れる視界のまま盾と紋章旗を構える

 竜は背を向け、首だけで振り返りじっとケルラインを睨みつけていた。唸り声一つ上げず、思うまま辺りを破壊する事もなく
 ガモンスクを初めとする兵士達になど目もくれず、ジッとケルラインとその傍らのインラ・ヴォアを睨みつけていた

 ――この瞳は、何だ

 何よりも死を予感させる目。先程炎を掻き分けて進んだときでさえ、このような感覚は無かった

 身体は熱いのに頭は冷えていく。黒竜の見上げる程の巨体が、更に何倍にも大きく見える

 顎と首と腹から溶岩の血を流しながら、黒竜はまた、ニタリと微笑んだ。ケルラインには何故だか竜の事が解ったのだ

 そしてぼおぉ、とまた咆哮。ケルラインが咄嗟に吼え声を返せば、竜は天を仰ぎ翼を広げる

 ――あ、飛ぶ

 誰かが呟いた。竜はその通り暴風を巻き起こしながら宙へと舞い上がり、あっと言う間に飛び去ってしまった。何処へ行ったのかは解らないが、少なくとも王都から去ったのは確かだった

 「……追い返したのか?」
 「あれは古き竜だ。我々にとっては忌むべき敵であるが、誇り高く強敵を求める。私と貴公は敵と認められたのだ。遠からず咆哮と共に再び現れよう」

 平然と答えるインラ・ヴォアに改めて礼を言おうとケルラインは振り返る

 また、だった。その時には既に、インラ・ヴォアは姿を消していた

 「……騎士ケルライン……、今の女は……? いや、それよりも……我々は……勝ったのか……?」
 「……竜は本気を出してはいなかった。奴にとって我々は狩りの得物ですら無かったのです。……ですが、また直ぐに現れるでしょう。その時は竜は本気です。勝てぬ時は矢張りクラウグスが滅ぶ」

 ガモンスクがふらつきながら歩み寄ってくる。足元は危なっかしいが、兵士達の手前全く平気そうな顔をしていた

 「あれで本気ではなかったと……。竜の専門家は酷な事を言ってくれる」

 ケルラインの少しも取り繕わない言葉に、ガモンスクは些か消沈したようだった
 しかしすぐさまそれを笑い飛ばす所に、ガモンスクの豪胆さが伺えた

 「つまり我々は、我々を侮った竜にまんまと思い知らせてやった訳だな! ……皆の者、鬨の声を上げよ! 戦友達を称え上げるのだ! 我等こそがあの凶悪なる竜を王のお膝元より叩き出したのであるぞ!」

 生き残った兵士達は十二人。実に半分以上の者が殺された
 軍団としては致命的な損耗率だ。生き残りも泥と血と煤に塗れている

 だが、竜に勝った。あの強力無比な存在と相対し、勇敢に戦い、且つ生き残ったのだと言う実感が、兵士達の鬱屈した空気を吹き飛ばした

 雄叫びが上がる

 友よ見ているか
 我々は勝利した

 皆同じことを思っていた。ケルラインは跪き、紋章旗に額を押し付けて感謝と祈りの言葉を奉げた


――


 王の御前に跪く時はどうしても過去の事を思い出す
 先王ハルカンドラの剣にて騎士叙任を受けたときの事だ。もう十一年も前の事なのに、あの光をともした双眸の事はハッキリと覚えている

 謁見の間の石壁にはクラウグスの起こりの伝承が壁画として表されている
 初めに炎があり溶けた大地の上に八人の神々が生まれる……といった具合に始まる創世神話だ
 クラウグス王国の紋章が掲げられた大窓からは陽光が差し込み、その神話の石壁を照らす

 天を仰ぐのと変わりない、とまで思わせるほど高い天井には細かな装飾が施してあり、非常に高度な技術が伺える
 入り口から向かって左右に座する鎧兜の石造は、こちらも細かく掘り込まれていて溜息する他無い出来栄え

 建築とは国家の先導すべき事業だ。王城のそれともなれば正にその一大事業の粋なのだ
 このどれほどの技術と、人足を必要としたか知れない謁見の間こそ、それを自在に操る王の偉大さを示す物であった


 叙任を受けたその瞬間は、正直この謁見の間を忌諱した物だ。恐ろしかった

 荘厳な朝日の差し込む石の間に、堂々とした立ち姿の”赤毛王”ハルカンドラ
 厳しく果断で強き王の左右には、その厳格なる統治を助ける知者、重大なる国土を護る勇者達群臣が居並び、ケルラインを朝夕無く責め上げ鍛えてくれた先輩騎士達も、木偶人形のように固まり顔を伏せて跪くしかない

 その威光に対し矮小な身一つで向かい合う時、自分がそれに奉仕する身であると理解していても、畏怖してしまう物だ。ケルラインの忌諱はそれから来る物だった


 今、赤毛王の後継たるクアンティンが玉座から立ち上がり、跪くケルラインを見下ろしている。矢張り過去を思い出させる光景
 怜悧な美顔を硬く引き結ぶ御年十三の若過ぎる王は、それでもハルカンドラの持っていた王の威とでも言うべき物をしっかり備えている

 竜を退け一夜明けた。半ば生存を諦めていたケルラインには、太陽の光は望外の褒美であった
 そして陽光を受け、赤い髪を朱金に輝かせるクアンティンとの謁見もまた

 「まずガモンスク、やらねばならぬ事は山のようにあり、労うのが遅くなった。よくやってくれた、大儀である。その指揮下の者達も国の誉れよ」

 ケルラインの隣で跪くガモンスクが恭しく応答する。兵士達に至っては頭を打ち付けんばかりの礼である

 ケルラインがガモンスクと並んで謁見するのは異例と言って良い。序列で言えば一介の騎士であるケルラインが、ガモンスクと同列で王に拝謁するなど無い事だ
 が、ガモンスクの強い推薦の為にこうなった。前列に二人、ケルラインとガモンスク。後列には竜と相対し生き残った兵士達と、王都の民を護るために奔走した者達の中でも特に目覚しい働きをした数名が並んでいる

 次は自分だ。王が御声を掛けて下さる。ケルラインは身を硬くしてそれに備えた

 もう三十に近付こうかと言うほどに齢を重ねていながら、親子ほども年の離れた少年の言葉を期待して浮付くケルライン
 滑稽とは思わなかった。王国騎士にとって王とはそういう物だ

 しかし、王が続いてケルラインを労う事は無かった
 しばし、謁見の間に沈黙が満ちる。クアンティン王は居並ぶ者達に背を向けると玉座まで戻ってしまう

 「(…………なに?)」

 ケルラインは遠退く気配に些か混乱した
 そしてすぐさまそれを振り切った。王の賞賛を強請る様な気持ちを自覚してしまったのだ

 浅ましい期待があったと言えばそうだ。滅私の心を僅かの間忘れていたと言えばそうだ
 王の言葉を、それも労いや賞賛の言葉を直々に受けるのは、まこと名誉な事なのである。そればかりを気にしていた

 ケルラインは恥じた

 「(……そうだ。そも、我々聖群青大樹騎士団が王命を遂行できなかった為にこのような惨事を招いたのだ)」

 俺は愚かだ。国の受ける傷は王の受ける傷。民の流す血は王の流す血。王に血を流させた俺が、王から労われる謂れなどない

 少し考えれば解る事ではないかっ

 「…………ッ!」

 ケルラインは小さく震えていた。自責の念から頭が下がっていき、石床に擦り付けんばかりである


 同時に、ガモンスクは突如として震えだしたケルラインと、栄光ある勇者に一言すら掛けず戻っていったクアンティンに困惑した
 ガモンスクの中ではケルラインは間違いなく勇気ある者だった。賞賛を受けるに値する戦士だった

 「陛下……愚問を述べる事をお許し下さい」

 ガモンスクは跪き、顔を俯かせたまま声を上げる
 王は沈黙を続ける。またもや謁見の間に得もいえぬ空気が満ちる

 果たして王はガモンスクの願いを容れた

 「許す。顔を上げよ」
 「は!」

 彫像の如き美貌、と言う物をクアンティンは持っていた。母親似の王の尊顔はその雰囲気も相まって神秘的な物を感じさせる

 今は、酷く冷厳であった。先王ハルカンドラを髣髴とさせる面持ちだ

 「騎士ケルラインには……」

 クアンティンは全く顔色を変えず、うむ、と頷く

 「追って沙汰する」
 「……それだけで御座いますか。陛下、あの黒い竜を撃退せしめたのにはこの騎士ケルラインの功績が大きく御座います」

 ガモンスクは過ぎるほどに言葉を選んだ。余りに過ぎて、言葉が少しおかしくなってしまうほど選別した

 よく解らないが、クアンティンが不機嫌なのは解った
 ガモンスクとしては眉を顰めるしかない。騎士ケルラインには確かに横領や裏切りの嫌疑が掛けられていたが、ガモンスクは全く信じられることではないと感じていた。また王が同感であるとも思っていた
 クアンティンが怒る理由など無い筈だ。確かに王都が酷く痛め付けられたのは重大事だが、その憤りをケルラインにぶつけるなどあっていい筈が無い

 そのような方ではない。……とは思うが

 「騎士ケルラインの嫌疑の事であれば、全く証拠不十分であると私は思います」

 居並ぶ臣下達はガモンスクの発言を危ういと捉えた

 陛下はガモンスクの質問に答えられた。そしてガモンスクは二つ目の質問を許されていない。考えを述べる事も、だ

 止めるべきか。その場に居た誰もが王の勘気を恐れた

 「……では騎士ケルライン。今お前に掛かる疑惑の事は知っていよう。このクアンティンの前で何か言う事はあるか」

 群臣の不安を他所に、クアンティンは冷然としていた。少なくとも表情と声音は冷静その物だったケルラインは伏したまま応える

 「ガモンスク将軍からお聞きした事であるのならば」
 「それだ。弁明するが良い」
 「私は主神に誓ってそのような事はしていません」

 クアンティンは立ち上がった。無表情のまま目を見開き、荒い足音を立ててダン、ダン、とケルラインに近付いてくる

 「では森にてどうやって生き延びた。他の者は一人として帰らぬのに、旗手である、団の先頭を行くべきであるお前のみが、どうやって生き延びた」
 「主神の加護と、インラ・ヴォアの慈悲にて」
 「インラ・ヴォア? 何を表す名であるか」
 「弓騎士です。音も無く現れ、私の破れた腹と折れた手足を癒し、凄まじき光の矢を操ります」
 「私を愚弄するか」

 ガモンスクが割ってはいる

 「事実であります! 少なくとも私は、光の矢を放つ女騎士を見ました!」
 「ガモンスク?」
 「王を欺くぐらいであれば、臣は咽を掻っ捌いて死にましょうぞ。我が部下どもも見ている筈です」

 ケルラインは顔を上げた。許しは得ていなかったが、構う物かと思った

 王が死ねと言うならば死のう。だがそれならばせめて、竜との戦いで死なせて欲しい

 「インラ・ヴォアは私に竜狩りを続けろと言いました。私の傷を癒し、団の皆の魂を紋章旗に宿らせ、新たな竜狩りの騎士となれと言いました」
 「事実であれば、実に神のような不遜な物言いであるな」
 「陛下! 王命に従います! 私は身の潔白を証明する術を持ちませぬ故、死ねと言うならば死にましょう! ですが、どうか……!」

 ケルラインは悲壮に叫んだ。文武百官が胸を打たれ、息を詰まらせるほどの真摯な願いであった

 「竜と戦う機会を……! 奴はまた現れます!」
 「だれが陳情までを許したか!」
 「友が無駄死にでなかった事の証明の為に! ドラゴンアイの紋章旗の名誉を穢さぬ為に!」

 「……私が死ねと言えば死ぬのだな、騎士ケルライン」

 王の背後で跪く者があった
 ケルラインよりも大分若い騎士だ。二十を過ぎたばかりであろうか
 顔を真赤に紅潮させ、目尻には涙を光らせている

 「騎士ケルラインを助命願います!」
 「ニコール!」
 「陛下、それがしも!」

 次はクアンティンの左手側から壮年の文官が進み出てくる
 彼は跪き、文官帽を脱いで床に置く

 「騎士ケルラインの助命を願います」
 「アッズア!」
 「あ、わ、私は!」

 文官アッズアに続くようにして出てきた女が、鯱ばった礼をした後に矢張り跪く

 「全ての事柄を精査いたしたく、お、思います。さすれば騎士ケルラインの嫌疑も晴れましょう!」
 「ボロフィン! ……そうか」

 次から次へと声を上げる臣下たち
 クアンティンはとうとう大喝した

 「……煩わしい! 騎士ケルラインを助命すべしと思う者は手を挙げるが良い!」

 臣下達は一斉に跪き、右手を挙げる。王に対する最敬礼である

 満場一致であった。クアンティンは美貌を顰め、ううむと唸った

 そのとき、きんと甲高い音が鳴る。断続的に響いている
 場違いな音に皆が視線をやれば、音は入り口を護る兵士からしていた

 正確には、兵士の持つ紋章旗だ。拝謁に際しケルラインが兵士に預けた紋章旗から、甲高い音がしている

 「何だ……?」

 ガモンスクが呟くと同時に、紋章旗から燐光が溢れた

 「お、おぉ?!」

 青白い光だった。紋章旗が震え、波うち、光を撒き散らしている
 それらは次第に形を持った。二足で立つ人型。それも複数

 皆揃いの鎧を着ている。細部の輪郭までは解らないが、大きな武器を持ち、腰まであるマントをはためかせ、列をなして堂々と行進を始める

 「……これは……」

 ケルラインは唖然とするしかなかった

 「馬鹿な! 奇跡だ!」
 「聖群青大樹騎士団! 竜狩り騎士団だ! 全滅した筈の!」

 ガモンスクの隣まで歩を進めた青い人影は、矢張り跪く
 ケルラインと、ついでにガモンスクを取り巻くように、王に向けて最敬礼をしている

 ガモンスクは悟った

 「死して尚、戦い続けるのか。そして騎士ケルラインを救おうと……。これこそ正に、騎士ケルラインの潔白の証明に他なりませぬ。仮に騎士ケルラインが裏切り者だとすれば、どうして彼等は現れましょう。これほど固き結束は他にありますまい」

 初めにケルラインの助命を願い出たニコールは、とうとう落涙する

 「騎士、かく在るべし。我、かく在れかし……」

 王よ、王よ。皆が跪き、右手を掲げる
 王は矢張り先王の後継者であった。厳しく、果断で、強き王

 如何に群臣たちが熱狂しようとも、真実を見誤らない。クアンティンは冷静に周囲を睥睨する
 が、クアンティンにも最早理解できていた。ケルラインを信じ、用いるべきだと

 「……物証ではない。余は未だ騎士ケルラインの真実を掴んだ訳ではない。だが……信ずるに足るものは、持っているようだな」
 「は! 私には過ぎた戦友達であります!」
 「黙れぃ!」

 クアンティンは腰の剣を鞘ごと引っこ抜き、ケルラインへと投げ渡した
 王の剣はただの剣ではない。古の火の力が封じ込められた剣で、先王ハルカンドラはこれをもって戦場を駆けた

 目を白黒させるケルラインに、クアンティンは命令した

 「我が剣を貸し与える! 竜を狩れ、ケルライン! クラウグスは竜になど屈さぬ! 証明するのだ!」

 王たるは
 勇壮なる騎士を持ち
 騎士たるは
 神聖なる王を持つ

 ケルラインは剣を胸に掻き抱き、死した同胞達の跪く中で一人立ち上がる

 「我が魂魄を賭して!」


 見よ友よ。貴公等の掲げる剣の輝き、その荘厳たる気炎を背に受け、我等は行く

 主神レイヒノムと英霊達の加護ぞあれ。我等は竜狩り。骸の群れから、血河の底から、幾度果てようとも蘇る

 神々も照覧あれ。王の威たる我等の戦いを

 我等は竜狩り。退かぬ者


――

 後書

 たまーに
 こってこてな……頭を使わないファンタジーを……書きたく……なるんや

 そして途中で力尽きるんや……ぐへへ


 2014/08/17
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