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No.35616の一覧
[0] 【習作】 機動戦士Zガンダム 星を追うひと 【拙作リメイク】[ア、アッシマーがぁぁ!!](2013/11/23 04:07)
[1] re.Zガンダム2[ア、アッシマーがぁぁ!!](2013/11/22 11:57)
[2] re.Zガンダム3[ア、アッシマーがぁぁ!!](2013/11/30 06:12)
[3] re.Zガンダム4[ア、アッシマーがぁぁ!!](2013/12/01 21:36)
[4] re.Zガンダム5[ア、アッシマーがぁぁ!!](2013/12/04 22:19)
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[35616] re.Zガンダム4
Name: ア、アッシマーがぁぁ!!◆996184ac ID:0da57608 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/01 21:36
林の木の影に隠しながら基地への道へ引き返す。
カミーユが見上げると、空にはビームライフルの火線と思わしき閃光がチカチカと輝いているのが分かる。
モビルスーツがコロニー内で空戦をする戦力なんて、同じモビルスーツでしか在り得ない。
十中八九、エゥーゴだ。今の宇宙にそれ程の戦力を抱えたジオン残党なんて居ないのは、民間人のカミーユだって知っている。

「そら見ろ……! 敵ばっかりのティターンズに基地なんか作らせるから、コロニーが戦場にされるんだ」

すぐ近くで戦闘が行われている恐怖と焦燥に、カミーユは爪を噛む。
フェンス越しから軍の敷地内を覗きながら、基地の方まで慎重に近寄っていく。
見れば墜落したガンダムはようやく倉庫へと運び出された所だ。実戦配備前の新型の扱いとしてはお粗末に過ぎる。
あれが宇宙に慣れないティターンズの実態だ。不測の事態になれば、狼狽えて戸惑うばかり。
今なら、親父が造った機体を奪える。カミーユの脳裏にそんな考えが過った。
何を馬鹿なと頭を振るう。そうやって行動して、自分が今しがた逃げて回っていたのをもう忘れようとしている。

そんな時、息を殺して潜むカミーユは一人の見知った人間を見つけてしまった。
黒い制服の連邦軍兵士。カミーユを尋問したMPが、ガンダムMK-Ⅱの近くに立っていた。
MPは近くの一般兵に向かい、何やら喧しくがなり立てている。
その男の姿を見て、カミーユの腸が一瞬で煮えくり返るのを嫌でも自覚した。

「あの軍人、許せないな……!」

先ほどの墜落でみっともなく転げまわった男が、今は機体を出せと怒鳴り散らしている。
エゥーゴなどという反乱分子は武力で殲滅してしまえと。コロニーが壊れれば、そこに住む人は生きてきけなくなるのに。
あいつは、ああやってカミーユの事も痛め付けたのだ。
宇宙人だ、子供だと。自分たち地球人が生かしてやってるのだと思い込んで。

「見てろ。一方的に殴られる怖さを教えてやるっ……!」

カミーユは全速力で基地の横を駆け抜け、牽引車へ載せられたMK-Ⅱへ走り寄った。
コックピットの位置は知っている。手探りで装甲の繋ぎ目に手と足を掛けよじ登れば、すぐにそれは見つかった。
開けっ放しのハッチへ潜り込んで、操縦桿を握る。簡単だ、拍子抜けするくらいに。
すると閉めようとしたハッチを掴み、一人の軍人がカミーユを覗きこんだ。

「貴方……!? 何をしているの、そんなところで!!」
「貴女は、エマ・シーン中尉?」

黒のパイロットスーツを着た女兵士にカミーユは見覚えがあった。
確か、空港でジェリド・メサに殴られた時に近くにいたティターンズのメンバーだ。エマと呼ばれていたのも確かに聞いている。
そんな記憶の片隅にしか残っていそうもない事を、極度の緊張によって鋭敏化したカミーユの感性は即座に引き出していた。
栗色の髪に勝ち気そうな瞳。綺麗な人だと、カミーユは率直に思った。
だが今はそんな事を気にしていられる時ではない。ティターンズなら、どのみちカミーユの敵なのだ。

「危ないです、離れていて下さい!」
「貴方っ、何を!」

強引にハッチを閉め、そのまま機体を起こすべく操縦を開始する。
この機体の事をカミーユはよく知っている。このMK-Ⅱのデータは何度だって繰り返し見たのだから。
ジュニア・モビルスーツの大会では、このモビルスーツのコックピットのレプリカを作って出場した事もある。
機体に自分の知る最適な数値を入力し、出力を上げていく。

「火が入ったままだ、親父め。作るだけ作って後の面倒を見ないから、こんな適当に使われるんだ」

ここには居ない父親へ、悪態を付かずにはいられない。
フランクリンは不精な人間だ。開発部の主任に抜擢される技術力は並大抵ではないが、その人格には大いに疑問が残る。
このMK-Ⅱの開発にしても、フランクリンは技術試験の一環程度に考えている節があった。
この機体がどんな理由で求められたのか。ガンダムの名で何を示したかったのか。そんな事を、フランクリンは露ほども気にしてはいないのだろう。
だからティターンズなんかに協力する。それがどんな意味を持つかなど考えず、目先の利益ばかり見るから疑問を覚えないのだ。

自宅の父の書斎は散らかっている。仕事で使うコンピューターや書類が何時も放り出されたままなのだ。
まるで玩具で遊んだ子供が片付けをしないでいるように。カミーユは父のそんな所が心底、堪らなく嫌だった。

『そこのお前、何をしている! すぐにハッチを開けて出てこい!!』
「あれは……ブライト・ノア中佐だ!」

拡声器を使って声を張り上げる軍人。MK-Ⅱのメインカメラが捉えたのは、カミーユが会いたかった人物だった。
元ホワイトベース艦長、ブライト・ノア。一年戦争での功績を称えられ、中佐にまで昇進した人だ。
カミーユは一度、彼と出会った事がある。軍主催のサイン会で色紙にブライトのサインを貰ったのだ。
あの時のブライトは何処か居心地悪そうに苦笑していた。自分は船を沈めた艦長だと、口癖の様に呟いて。

「怪我をします、離れて下さい!」
「止めなさいっ! 坊やの弄る物じゃないわ!」
「ちぃっ……! 下がれエマ中尉、奴はやる気だ!」

ガンダムが立ち上がる。牽引車を押し潰し、倉庫の屋根を倒壊させながらゆっくりと。
光を吸い込むような濃紺の巨躯。ガンダムMK-Ⅱが醸し出す異様に、退避したエマとブライトは絶句していた。
子供がモビルスーツを動かす、まるで伝記の再現だ。それもブライトが誰より良く知り、連邦軍のエマなら当然聞き及んでいる人物の。

「これでは、アムロの再来じゃないか……!」
「アムロ・レイ――――ブライト中佐? あの子が……まさか、ニュータイプ?」

それは早計だ。という喉まで出かけたエマへの言葉が、ブライトの口からは終ぞ出てくる事はなかった。
一年戦争でのホワイトベースクルーにとって、アムロ・レイは特別な存在だった。
終戦後、ホワイトベースクルーの殆どがニュータイプではないかと民衆は真しやかに囁いたが、それが誤りであるのは全てのクルーが実感していた事だろう。
モビルスーツでの超人的な戦果。少なくともア・バオア・クー戦の時のアムロの重要性は、そんな一側面で語れる物ではなかった。
しかし他ならぬブライトが、あの少年を"アムロの再来ではないか"と、一瞬でも考えてしまったのは事実であった。

「すみませんっ! ブライト中佐、エマ中尉!」
「あいつ、抜け抜けと……!?」

渋面で悪態を付きながらも、やはりアムロにそっくりだとブライトは感じた。
まだ戦争をしている自覚が無かった頃のアムロも、ああやって大人をナメた、人を喰った様な口の利き方をした。
だが今はそんな感傷に浸っていられる場合ではない。子供にモビルスーツを鹵獲されるなど、前代未聞の大失態だ。
ホワイトベース艦長への就任以来、終戦後に至るまで貧乏くじを引き続けたブライトだが、久方ぶりに頭を抱えたく成るほどの災難に見舞われていた。

遂にカミーユが機体を完全に立ち上がらせた時。
そのすぐ近くへ複数のモビルスーツがバーニアを吹かせ、次々と着地していく。
二機の黒いモビルスーツと、同型の赤い機体。モノアイ型のメインカメラと寸胴なシルエットはジオニック系機体の意匠を感じさせる。
そしてもう一機。『2』の数字が肩にマーキングされた、ガンダムMK-Ⅱ二号機が大地へと降り立った。







クワトロ率いるリックディアス隊はグリーン・ノア2へと侵入し、迎撃に打って出た連邦の機体を掻い潜っていた。
連邦の対応は拙遅であり、お粗末に過ぎた。コロニーの損壊を考慮しない砲撃戦などその最もたる物だ。
加えて、主力MSとして旧式を改修したジムⅡを使用している事もクワトロの眉を顰めさせた。
ティターンズが次期主力として次々と新型を開発している中、基地守備隊としてあんな型遅れの機体を現役のままにしている。
それは連邦上層部がどれだけ宇宙に関心が無いかを表しているかの様だ。
先のデラーズ紛争が終息した後でもアクシズを始め、まだ宇宙に燻る火種は幾らでもあるというのに。

―――――。

「何だ、この感覚はっ……?」

戦闘中に発見したガンダムMK-Ⅱを追尾する最中、クワトロは無意識を刺激される感覚に呻いた。
まるで激情に駆られた少年の怒声の様な煩わしさ、ここに来てクワトロは確信を得ていた。
やはり、居る。このグリーン・ノアに、あの白い少女に比肩し得る才能の持ち主が存在するのだ。
あのガンダムのパイロットではない。恐らくティターンズの兵ではないだろう、ならば誰だ?
クワトロの思考を誘導するかの様に、無意識への声は大きくなっていく。

「ええい……邪魔をするな、ナナ! 戦場は子供が口出しするような所ではない!!」

コックピットの中で、クワトロは叫んでいた。理由が在った訳ではない、反射的に出た行動だった。
ナナが自分を通して戦場を見ている。そんなファンタジーめいた馬鹿馬鹿しい考えが脳裏を過った。
しかし、その考えを否定する理由もクワトロは持ちあわせてはいなかったのだ。
振り払う様に声を上げれば、無意識からの煩わしさが煙の様に消えたという事実が残るのみだ。

ガンダムMK-Ⅱはバーニアを瞬かせ、基地施設と思わしき場所への逃走を繰り返す。
それをクワトロは鼻で笑った。艦隊の援護も期待出来ぬコロニー内で、逃げに徹する理由が如何ほどの物かと。
しかし次の瞬間、クワトロは目を見開く事となった。

「大尉、ガンダムMK-Ⅱです! もう一機います!」

基地内部の建物から、その等身を突き抜けさせる様にガンダムは佇んでいた。





複数の機体が乱雑に入り混じる中で、カミーユは酷く緊張していた。
モノアイの不明機体。その隊長機らしき赤い機体に、"力"とでも呼ぶべき圧迫感を感じていた。

「まるで、赤い彗星じゃないか……!」

あの機体にだけは敵と思われてはいけない。そんな自己防衛の意識がカミーユの中に芽生えていた。
そんな時、カミーユの視界の端に黒い小さな人影が映った。
逃げ惑う兵士の中にあって一際目立つ黒い制服の男。その姿を見て、カミーユの意識はあっという間に別の方向へと傾いた。

「見つけたぞ、逃がさないっ!」

バーニアを目一杯に吹かせ、三号機のMK-Ⅱは空中へと舞い上がった。
モノアイの機体、リックディアスが警戒し銃口を構え直すが、そんな事に構ってはいられなかった。
自重に任せ、黒い制服のMP目掛けてMK-Ⅱを降下させていく。
今のカミーユは異常なまでに感覚が冴え渡っていた。まさにイメージした通りの場所へと機体を着地させる事に成功したのだ。

「そこのMP!! 一方的に殴られる怖さを教えてやろうか!?」

外部スピーカーの電源をオンにし、カミーユは叫んだ。
眼前に迫る圧倒的な暴力へ震え上がる男に、カミーユは頭部バルカンの引き金を迷うこと無く引く。
当然、威嚇射撃だ。あの男には、自分が受けた恐怖と苦痛をそっくりそのまま味あわせねば気が済まない。
みっともなく腰を抜かした男。このまま踏み潰してやる、頭に血の上っていたカミーユは機体の片足を上げさせた。

――――……!

「何でだよ、止めろって言うのか? だって、こいつはっ」

無意識への声が、熱に浮かされたカミーユへと制止を掛ける。
目の前の事に無我夢中だった頭が、急に現実へ引き戻されたカミーユは、怒りよりも先に困惑した。
自分は一体何をしようとしていたのか。こんなのは復讐でもない、ただの殺人だ。
カミーユは熱くなりがちだが、決して残酷な人間ではない。問題はあれど普通の家庭で育ち、教育の中で当たり前の倫理観も持たされていた。
自分は、あと少しで取り返しの付かない事をしていた……それを止めてくれた声に、カミーユはどっと感謝の念が溢れるのを感じていた。

このMK-Ⅱの奇行に、とうとう膠着を耐えかねた黒のリックディアスが銃口を跳ね上げさせた。
アポリーの行動に、クワトロを機体を前へ割り込ませ制止を掛ける。

「よせ、アポリー! 敵ではない、二機とも捕獲するぞ」

クワトロは半分賭けで、外部スピーカーを通して声を張り上げた。
それはカミーユにとっても転機だった。あの機体を味方に付ける、この状況を打開するにはそれ以上の事はないのだから。

「そうだ、僕は敵じゃない! 貴方がたの……味方だ!」

カミーユは機体を転回させ、MK-Ⅱ二号機へと標的を定めた。
その様子に混乱したのは、二号機のパイロットであったカクリコンだ。
てっきりあの機体に乗るのは、テストパイロットであるジェリドだと思っていたのだから無理もない。

「今、証拠を見せてやるっ!!」
「なんだと……! 馬鹿な!?」

想定外どころの話ではない状況にカクリコンが呻くと、三号機はその眼前へと瞬く間に突進してきていた。
正規の軍人を相手にして、素手で敵モビルスーツを鹵獲しようなどとは一般人でも分かる無謀だ。
しかし今のカミーユにはそれが出来ると確信があった。感覚が冴えている、機体が自分の手足の様に動くのだ。
スラスターの勢いのまま押し込まれる二号機は、武器を構える暇もなくビルへと押し倒されていった。

「コックピットを開けるんだ! でないと、このまま押し潰すぞ!」
「ぐぬうっ……何故、こんな事になるんだ……!?」

コックピットへと向けられるバルカンの存在に、カクリコンを止むを得ずハッチを開けた。
その手際は見ていたクワトロをして驚嘆という他になかった。
聞こえた声は少年の物だ。ならば当然、正規の兵ではないだろう。

「あの感覚は、この少年のモノだったのか……ならばMK-Ⅱのパイロット、信用出来るか?」

カクリコンがハッチから降りたのを確認し、黒のリックディアスが直ぐさま確保へと移った。
それを静観する三号機には、相変わらずクワトロたちへの敵意は感じられない。
あの機体までを得られるのであれば僥倖だと、クワトロは三号機へと通信を試みる。

「三号機のMK-Ⅱ、一緒に来てくれると思って良いのだな?」
「……はい! ティターンズは許せませんし、もう帰る事も出来ませんから」

エゥーゴならば、スペースノイドの味方の筈だ。
どの道、カミーユには彼らに着いていく以外の選択肢は残されていないのだ。
無力化された二号機を担ぐ二機のリックディアス、それを追う赤いリックディアス。
カミーユは意を決し、その軌道を追う様にMK-Ⅱを空へと飛翔させた。



カミーユが駆るMK-Ⅱの眼下には、荒れ果てたグリーンノア2があった。
ビームライフルの熱で焼け焦げた道路、墜落したジムに押し潰された家。
見ればカミーユの家も潰されている……両親との仲には不満があっても、それはカミーユにとっては替えの効かない物だった。
胸を抉る損失感に歯を食い縛りながら、機体を維持し続ける。

「あれは、ファ……!」

戦火から逃れるため、必死に走る少女の影がメインカメラに映っていた。
居もしない影に怯える様に、あちこちを見ましながら走るファの姿は酷く痛ましかった。
か弱い幼馴染に手を差し伸べてやりたい……しかし今のカミーユは、彼女の所へ戻る資格も失くしてしまったのだ。

「どうした三号機、付いてこないのか?」
「……いいえ、行きます!」

軌道を乱したカミーユに、赤い機体のパイロットは訝しげに声を掛けた。
深みのある、男性の声だ。でもこれは、無意識に語りかけてきたあれとは別の物だと思えた。
赤い機体は、連邦軍の追撃を避ける為にジグザグと複雑なコースを飛行していく。
前に見た連邦軍の飛行演習とは全然別物である事にカミーユは驚いた。より精錬された、熟達した動きだと分かったのだ。

「大丈夫か三号機! 付いてこられるか!?」
「だ、大丈夫です!」

黒い機体の一機が、カミーユの機動の危なっかしさに耐えかねてMK-Ⅱを支えた。
この人の良さそうな声の男が、アポリー・ベイという名前であることをカミーユはまだ知らなかった。
カミーユは機体の片腕でアポリーの介助を退けた。大見得を切って着いてきたのだ、おんぶ抱っこなど願い下げだった。
この熟練の軍人たちに無様は見せられない。そんな子供じみた見栄がカミーユの弱気を消し去ってくれていた。





侵入の際にコロニーの外壁へと開けた穴を潜り、クワトロたちは宇宙へと脱出する。
コロニーの外へ出てしまえばこちらの物だ。追手が来ようとも合図一つでアーガマの支援砲撃が開始される手筈になっている。
流れが完全に自分の望んだ物になっていることにクワトロはほくそ笑んだ。

「ん……来たか!」

宇宙空間に自分たちへと迫る、三つの光源が現れたのをクワトロは確認した。
瞬く間に射程圏内に接近した機体は、連邦の量産機ハイザックだ。
ジオニックのザクを元に、アナハイム社が新素材を採用し再設計、そこに地球系企業のジェネレーターを載せた技術キメラとでも呼べる代物だ。
そんな複雑な経緯をもって生まれたハイザックだが、実際は類稀な堅実さを持った機体として仕上がっている。
ザクの優良な操作性に新世代の装甲の堅牢さ。出力こそ低めだが、それ故にパイロットの思い通りになる扱いやすさも持ち合わせていた。

「出てきたな、エゥーゴめ……よくもまあ抜け抜けと!」

ハイザックを操縦するジェリド・メサは、眼前を翔けるエゥーゴの機体に歯噛みした。
組織へ誇りを持つジェリドには、コロニーを荒らすだけ荒らして逃げるコソ泥どもを許す気などない。
自分も行く行くは上層部へと願うティターンズの威信に、奴らは泥を塗ったのだ。

「無理はするな、ジェリド中尉! その機体に慣れてもいない筈だ」
「俺だってティターンズだ。大口に見合うだけの仕事はさせて貰う、やらせてくれ!」

ドックベイから同時に出撃したパイロットは、ジェリドより先にハイザックの習熟を済ませている熟練だ。
だがジェリドとてグリーンノアで休暇を満喫していた訳ではない。テストパイロットに選ばれ、ずっと過酷な日程をこなして来たのだ。
事実、ハイザックはMK-Ⅱより余程扱いやすい。あの遊びの無い機体に振り回された日々も、決して無駄ではなかったと実感させてくれる。

「ロベルト、信号弾を撃て」
「了解!」

クワトロからの指示で、ロベルトのリックディアスはアーガマへの合図を放った。
数秒後、メガ粒子砲の超長距離射撃による支援砲撃が届く。それまで凌げばクワトロの勝ちだ。
全てが計画にに沿った予定調和だった。しかし、その考えが甘かったとすぐにクワトロは思い知る事になる。






カミーユは見た。自分たちが向かう進行方向から、一筋の光が輝くのを。
速い、まるで流星だ。そんな事を考えた一瞬で、光はカミーユの横を通り過ぎた。
MK-Ⅱを運ぶアポリーとロベルトの横を。敵への警戒を続けるクワトロの上を。
歴戦のエースたちにその存在を認識させる間もなく、その機体はハイザックを駆るジェリドたちの前へと躍り出た。

「ジムなのか? でもあれは、ティターンズの……」

カミーユは、その機体がティターンズのジム・クゥエルだと知っていた。
本来濃紺色の機体は胴体と頭だけを白く塗装され、酷く不格好な姿を晒している。
しかしそのエゥーゴカラーが、ティターンズから奪った機体を自陣の戦力とした鹵獲機体だと証明していた。
それを見て憤ったのはジェリドだ。目の前の巫山戯たジムに、怒りのままライフルを構えた。

「盗んだ機体が増援なんぞとは、恥を知らねえのかっ、テメェらは!!」

瞬いた火線は一直線にジム・クゥエルへと向かう。
やられる。次の瞬間に爆散するとしか思えなかったジムに、カミーユは自分の目を疑った。
ビームが、ジムをすり抜けた。いいや、避けたのは分かる。しかし、そうとしか見えないのだ。
ジムは続け様にハイザック隊から放たれる幾重ものビームを、まるで曲芸飛行の様な機動で躱し続けている。

「馬鹿な、ナナだと……!? ちぃぃっ! ヘンケン、何故出した!!」

超機動を展開する、現れる筈のないジムの存在に、クワトロは怒りと苛立ちでシートを殴り付けた。
ナナの実力は未知数だ。計画への混乱と倫理観の両面で出撃は無いと、ヘンケンと二人で固く誓った筈だった。
あの少女を戦いで散らすなど言語道断だ。クワトロにとって、ナナは決して失ってはならない存在なのだ。
心許した少女を、自分の理想だったニュータイプを。過去に失った男が同じ過ちを繰り返すなど、あってはならない事なのだから。

「馬鹿な、何故……何故、当たらない!?」

ジェリドは目の前の機体が、自分の想像を越えた存在であるのをようやく感じていた。
クゥエル、あれにはジェリドも訓練で乗った事がある。旧式でパワーではジムⅡにすら劣る欠陥機体……その筈だった。
あんな軌道をジェリドは取らない、あんな機動はジェリドには出来ない、あんな反応速度が人間に出来るものか。
何だ、あのマシーンは。ジェリドが戦慄する一方で、カミーユはジムに魅入られていた。

――――――れ?

声が、聞こえる。
より強く、より鮮明に。手を伸ばせば届く様な距離に"彼女"は居た。
カミーユは理解した。カミーユに声を届けていたのは、彼女だったのだ。
今なら分かる。MK-Ⅱを取り押さえた時の感覚の冴えは、彼女が力を貸してくれていたのだ。

あなたは、だれ?

「カミーユだっ! 俺は、カミーユ・ビダンだっ!!」

カミーユは叫んだ。少女に向かって、自分の声を届けようと精一杯に。
モビルスーツという鋼鉄の壁と宇宙空間に遮られ、その声は届く筈がなかった。
でも、聞こえた筈だ。カミーユは理由も不確かな高揚感に包まれ、操縦桿を強く握りしめた。
そしてジム・クゥエルから放たれたライフルの一撃が、強かにハイザックの片足を貫いた。

「野郎、化け物かっ……! な、なんだ!?」

罵倒とも賞賛ともつかぬ呻きがジェリドから零れるのと同時に、閃光が辺りを満たした。
それは戦艦からのメガ粒子砲だ。予想外の火砲の嵐にハイザック隊は浮足立ち、その動きを散漫にせざるを得なかった。
一機、また一機と。ハイザックが粒子の波に呑まれていく。
その悪夢のような光景に、ジェリドの心臓は早鐘を打ち、脂汗がどっと溢れだして止まらない。

「こんな、こんな筈では……!」

火線の間を巧みに掻い潜るエゥーゴの機体への追撃は断念するしかなかった。
それどころか命からがら、自分のハイザックがビームの餌食にならないのを必死で祈るばかりだ。
だが同時に自覚していた、あれが敵なのだと。自分たちティターンズを脅かすのがエゥーゴだと。
ジェリドは火線の止んだ空域を瞬くように去って行く赤い機体とMK-Ⅱを、ジムを。その姿が見えなくなるまで目で追った。














あとがき

なんとか11月内に更新出来たので、ageさせて頂きます……
いや本当に今更過ぎてアレですが、SS自体は止めてないのです、恥ずかしながら。
一年放置の上にsage更新とか意味不明な事をしてるのに感想を頂けた時は、正直舞い上がるほど感激しました。
何時も励みにさせていただいております。取り敢えず気になった所にちょちょっと弁解させて貰うと……

>中の人
リ・ガズィSSの世界のナナには中の人はいません。完全消滅です。
というかLv9世界は、自分の中ではリ・ガズィのパラレルワールド的な扱いなので、元の世界で元気にやってると思ってます。
アル中にもならず、トラックにも轢かれず、日和見過ぎて大学留年とか多分そんな感じです。

>ヘイズル
基本的にSSに登場させる機体は原作のみ、出たとしてもMSV機体だけの予定です。
外伝、特にアドバンスドは原作機体と並べた時の絵面が想像できないのが主な理由です。
渋いMK-Ⅱとハイカラなヘイズルだと、自分的にはなんだかなぁと思ってしまうのです。
ヘイズルの魅力である換装も、鹵獲機体と考えると説得力が薄くなりそうですし。


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