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No.35616の一覧
[0] 【習作】 機動戦士Zガンダム 星を追うひと 【拙作リメイク】[ア、アッシマーがぁぁ!!](2013/11/23 04:07)
[1] re.Zガンダム2[ア、アッシマーがぁぁ!!](2013/11/22 11:57)
[2] re.Zガンダム3[ア、アッシマーがぁぁ!!](2013/11/30 06:12)
[3] re.Zガンダム4[ア、アッシマーがぁぁ!!](2013/12/01 21:36)
[4] re.Zガンダム5[ア、アッシマーがぁぁ!!](2013/12/04 22:19)
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[35616] 【習作】 機動戦士Zガンダム 星を追うひと 【拙作リメイク】
Name: ア、アッシマーがぁぁ!!◆996184ac ID:5f18bd3d 次を表示する
Date: 2013/11/23 04:07
この作品は、拙作「ZガンダムにNTLv9の元一般人を放りこんでみる」のリメイクになります。



薄暗い部屋の中で、一人の少女が目を覚ました。
幾重ものコードが繋がれたシリンダーに満たされた、培養液の中に浮かべられながら。
最低限の照明と、数々の計器のディスプレイの明かりのみで照らされた部屋。
その室内で、数人の研究者たちが歓声を上げた。

「被験体NT-007、意識が覚醒しました。排水開始します」
「やったか……!」

コポコポと液体が音を立て、シリンダーから抜けていく。
研究者たちは自身らの技術の粋が形になった感動に胸を打ち震わせる。
少女は、ただそれを無機質な瞳で見詰めるのみであった。

「NT-007、気分はどうかね?」
「………だれ」
「私はここの所長だ、つまり一番偉い人ということさ」

この研究所の責任者である初老の男は、少女へ話しかけた。
白だ。この少女を一言で表すならば、まさにそう表現するのが正しいだろう。
一糸まとわぬ身体は白磁の様に透き通った白さで、腰まで伸びた髪は降り注ぐ雪のようだ。
感情を一切感じさせぬその瞳だけが、まるで空を凝縮したようなネイビーブルーの深い輝きを放っていた。
男は少女に、私の言っている言葉が分かるかね。と問いかけると、少女は一つ小さく頷いた。

「そうか……では、ニュータイプという言葉の意味は分かるかい?」
「にゅー、たいぷ?」
「君のことだ。人類の革新、人の可能性。我々がこれより歩む先の道しるべとして生まれた最高のニュータイプ。
それが君だ、NT-007」
「…………人の、可能性」

空虚な言葉だ。少女に一人前の自我があったのなら、そう思っただろう。
ありもしない偶像を信仰し、それに祈りを捧げながら宙へと手を伸ばし、救いを求めて藻掻き、足掻く。
それは旧い人間オールドタイプの在り方だ。宇宙に進出した人類の――――人の革新ニュータイプを求める者のすることでは、断じて無かった。
白い少女が白衣の男たちを見上げる瞳は、どこか虚しい物を見るかのような哀れみがあった。








「ティターンズ出資の秘密研究所が見つかった?」
『はい、クワトロ大尉。詳細までは分かりませんが、かなり非人道的な研究を行うニュータイプ研究組織の様です』

通信機越しの報告に、クワトロ・バジーナは眉を顰めた。
ニュータイプは、かつてサイド3がジオン共和国となった時、初代首相ジオン・ズム・ダイクンによって示唆された人類が進化した存在だ。
宇宙に適応することで拡大した認識能力によって、人々は皆わかり合える。ダイクンはそう言った。
しかし現実では、ニュータイプは軍隊において非常に優れた兵士として利用されている。
一年戦争という最悪の大戦が終結した後でもこうして、人の尊厳を無視した非道な行いが続けられる程に。

「ムラサメ研究所の様な強化人間を研究している所とは違うのか」
『…それがどうも、研究者たちが旧公国のフラナガン機関の生き残りらしいのです」

フラナガン、と聞いたクワトロの顔に驚愕が浮かぶ。
フラナガン機関。旧ジオン公国軍少将キシリア・ザビが設立したニュータイプ研究の始祖ともいえる場所だ。
ニュータイプ研究と言えば、今でこそ普通の人間に超感覚的な直感力を付与する事が主流となっている。
しかしフラナガンは、先天的な資質を認められたニュータイプたちの能力を開発し、発展させることを目的とした機関だった。
クワトロ――否、シャア・アズナブルにとって最も深い傷として残っている少女。ララァ・スン。
恐らく後にも先にも現れる事の無い、最高の能力をもったニュータイプ。
彼女がその適正を認められ、力を発揮したのもフラナガン機関だ。

「分かった、私が出よう。アポリーとロベルトも同行させる」
『よろしいのですか?時期が時期だけに、アーガマもあまり大っぴらな戦闘は難しいとは思うのですが』
「構わん。地球に降りる前に、後顧の憂いは絶っておくに越した事はない。それに――」

自身の理想であるニュータイプを俗人たちの玩具にされるなど、クワトロにとって許せる物ではなかった。
それにフラナガン機関。ザビ家の遺物が未だ世に残っているというのなら、それを潰すのは自分の役目だ。
公国軍のシャア・アズナブルとして、ザビ家への復讐者キャスバル・レム・ダイクンとして。
キシリア・ザビの妄念など、この世に一片たりとも残して置く気などない。

『大尉?』
「――いや。なんでもない、任務には関係のない事だ」

かつて夢見た、ニュータイプの世界。
自分の理想そのものだったララァは死に、可能性を感じたアムロはその類稀なる才能故に最悪の敵となった。
夢は所詮、夢でしかない。
父ジオンの掲げた思想はザビ家によって地に堕ち、独裁政権による選民思想の方便に成り下がった。
そのザビ家の亡霊であるデラーズは歴史を繰り返し、再び地球にコロニーを落とした。
あるいは真のスペースノイドの国になりえるかと思ったアクシズも、所詮はザビ家の怨念に囚われた愚物たちの巣窟だった。
そしてコロニーの指導者たるダイクンの名を継ぐべき自分は、流れ流れて連邦軍士官の名を名乗る始末だ。

「…ままならない物だ」

だが、その一方でまだ諦めきれない自分がいた。
重力の束縛から開放され、誰もがニュータイプになれる世界。
もう幾度も諦めかけている自身の夢を体現する誰かと、また再び相まみえる事が出来るのではないかと。
らしくもない考えが、頭を過った。






件の研究施設は、廃棄処分されたと偽装されたコロニーの中にあった。
エゥーゴの新型MSリックディアスを駆り、コロニーに侵入したクワトロは眼下に立ち並ぶ廃都市を見やった。
打ち捨てられたビル群の中に、一つだけ照明の明かりの灯された物があった。

「アレですね。資料の中に在った物とも一致しています」

クワトロの赤い機体に随伴する黒いリックディアスに乗るのはアポリー・ベイ。
優秀なパイロットであり、クワトロが最も信頼する部下の一人である彼は呟いた。

「しかし、何故ティターンズはこんな所を研究所なんかにしたんですかね?奴らならこの手の施設は地球に作りそうな物ですが」
「彼らがフラナガン機関だからさ」
「はあ。スペースノイドだからですか?」

クワトロの言葉に、アポリーは首を傾げた。
確かにティターンズの人間の妄信的なアースノイド至上主義は周知の事実ではある。
彼らが『宇宙人』と蔑むスペースノイドを地球の土地に住まわすのを嫌ったというのは、解らない話でもなかった。
だが、そのアポリーの考えにクワトロは「いいや」と首を横に振った。

「ティターンズではなくフラナガンがここを望んだのだろう。連中は宇宙がニュータイプという種を生み出す土壌だということを知っている」
「奴らにとっては、この馬鹿でかい棺桶に地球のリゾート以上の価値があると」
「だろうな。余人には得てして理解し難いのが研究者という人種だ」

アポリーの下らないジョークに、クワトロは薄く笑みを浮かべた。
そうしてクワトロとアポリーが機体を廃都へと進めていた時だった。
リックディアスのレーダーが熱源を察知し、アラートを鳴らし始めた。

「大尉!熱源1、MSが出てきたようです!」
「一機だけ?だとすると防衛部隊ではなく研究用のサンプルか……?」

警戒するクワトロたちの眼前に、一つの機影が現れた。
出てきたのは濃紺色に染め上げられたジムタイプのモビルスーツ、ジム・クゥエル。
ティターンズ結成当初に象徴的モビルスーツとして開発された経緯を持つそれは、既に一線を退いた機体だ。
それは旧式となったからなのもそうだが、何よりジム・クゥエルの設計思想に問題があったからである。
ゲリラ鎮圧を想定したクゥエルは、コロニー内での戦闘を主眼に置いているために、出力が抑えられている。
それは宇宙戦を始めとした空間戦闘での不利を意味し、ひいては対MS戦闘での不振という致命的な結果をもたらした。

「敵モビルスーツを叩く。アポリー、分かっているな!」
「先行したロベルトが施設を抑えるまでの時間稼ぎですね。了解です、大尉!」

ジム・クゥエルをリックディアスのメインカメラに収めたクワトロは、機体のバックパックにマウントされた
ビーム・ピストルをディアスのマニュピレーターに掴ませた。
原則として戦闘レベルの出力のビーム兵器はコロニー内に置いては使用不可能ではある。
しかし、それは民生用コロニー内の建造物損害を考慮した場合であり、加えてビーム自体の出力に制限をかければ考慮すべきはMS破壊時における誘爆のみだ。
クワトロの赤い機体が続け様に3射ビームを発射すると、危なげな機動でジム・クゥエルは廃ビルの物陰へと隠れた。

「あのパイロット、慣れてないのか……?一気に畳み掛けるぞ、アポリー!」
「了解!」

アポリーのディアスは携行していたクレイバズーカを構えると、ビルへと向かって引き金を引いた。
放たれた砲弾が接触すると同時に吹き上がる爆炎。轟音と砂埃を巻き上げながらビルは倒壊した。
吹き荒れる衝撃と爆炎に、ジム・クゥエルは堪らずスラスターを吹かしその場から離れた。
煙幕と化した砂埃の中にクゥエルの影が映ったのは一瞬の事であった。しかし今ここに居るのは百戦錬磨の熟練兵と、あの『赤い彗星』だ。

「貰ったぁ!!」

その機影を捉えたアポリーが、機体のスロットルを全開にし、ジムへと肉薄する。
構えたバズーカを投げ捨て、背部から抜き放ったビームサーベルを振りかぶる。相手の操縦の隙を付く早業だ。
ジムのパイロットが反応する間もなくそのまま機体を真っ二つにされると確信しての、アポリーの一撃だ。
…………しかし。

(――――――ッ!)

次の瞬間に撃墜されるであろうジムに対し、クワトロは強烈な悪寒を感じた。
本能が警戒を鳴らす程のプレッシャー。クワトロがこの第六感的な感覚を覚えるのは、初めてではなかった。
以前にも感じた事がある。そうだ、あれはア・バオア・クーでの――――――

「下がれアポリー!罠だっ!!」
「な、なにぃっ!?」

上段から袈裟斬りに振りぬいたディアスのサーベルが、ジムをすり抜けた。。
否。そうではなく、そう見える程に直前にとった回避行動によって、あたかも攻撃がすり抜けたかの様に見えたのだ。
ジムのパイロットは攻撃を察知してから高速旋回によって機体を半身にズラし、慣性に流される機体を制御しつつサーベルを抜き放った。

「う、うわぁ!!」

放たれた一撃が、アポリのディアスの片腕を薙ぎ払った。
サーベルの粒子が、肩口から腰部のスカートまでを焼き切り、発生したプラズマは衝撃となってディアスを後方へと吹き飛ばした。

「無事か、アポリー!」
『ぐっ、すいません、大尉!』
「完全にしてやられたか……!」

予想外の事態に、クワトロを動揺を隠せずにはいられなかった。
ただの不慣れなパイロットだと思っていた敵が、今では身震いするような存在感を放ってそこにいる。
先程の回避、驚くべきは操縦技能ではなく0.01秒の世界での察知、予測、思考を可能とする人間の常識を遥かに越えた反応速度だ。
ああいった事が出来るパイロットがいることは、クワトロはよく知っていた。
知っていたからこそ驚愕しているのだ。かつて感じたザラついた感覚が、クワトロの意識を掻き乱す。
間違いない、ニュータイプだ。しかもアムロ・レイやララァ・スンに匹敵する程の!

「アポリー、引け!奴の相手は私にしか出来ん」
『しかし、大尉!』
「どの道その機体では無理だ、ロベルトの援護に回れ――――行け!」






ジムを正面に捉え、赤いリックディアスはビームサーベルからの攻撃を次々と放つ。
ジムの戦いは、操縦技術そのものには特筆すべき物は無い。
むしろMSでの戦闘技術全体でみれば、機体制御以外の射撃や格闘という分野は並以下の新兵レベルだ。
しかし、倒せない。エゥーゴのクワトロ・バジーナが、あの"赤い彗星"が。
ただの一度も有効打を与えられずにいる。それどころか、クワトロ本人は圧されるような焦燥感すら覚えていた。

「ちぃっ――――またか!」

次の行動に入ろうとした時に、ジムはそれを予知したかのような絶妙なタイミングで懐に入り込んでくる。
辛うじてジム・クゥエルの一撃をサーベルで切り払うものの、依然として戦況は膠着している。
バルカンを放つ、それをジムは見越していたように、危なげなく避ける。
射線から逃れたジムはそのままサーベルを構え、クワトロ機へと肉薄する。

「くっ、なんだ……!?」

疾走するジムはマウントしていた盾とライフルを投げ捨てると、サーベル一本でリックディアスへと向かってくる。
クワトロの視界の中でその濃紺色のジムが、白い双眼のモビルスーツ姿と重なった。
白い機体、ガンダムが振り抜いたサーベルをクワトロの機体はすんでの処で躱し、相手へ体当たりすることで難を逃れた。
衝撃で揺れるコックピットで、クワトロは幻覚を振り払うように頭を振った。
もう一度目の前を見れば、そこに居たのはガンダムではなくジム・クゥエルだった。

「呑まれているというのか、この私が……!」

ありもしない幻を見るなど、自分の不甲斐なさにクワトロはいっそ苛立ちすら覚えた。
感じる強烈なプレッシャー。ニュータイプなのは確かだ。
だが、やはりアムロではない。ララァであるはずがない。
信じがたい事だった。彼らと同等の力の持ち主が、こんな宇宙の片隅に居たなどと。

「だがっ…!」

目の前のパイロットは危険過ぎた。なんとしてもここで決着を付けねばならないだろう。
拙い操縦は未熟さの証だ。放っておけば、目の前の敵は本当にアムロと同じ程のニュータイプとして覚醒してしまうだろう。
クワトロはリックディアスのスラスターの出力を限界まで引き上げ、目の前のジムに組みつかせた。

「いくらレスポンスが高かろうと、パワーの差まで覆せまい!」

重モビルスーツであるリックディアスの利点を、最大限に利用する。
どれだけ超常的な反応速度を持っていたとしても、所詮相手はジムタイプ。
エゥーゴの新型であるリックディアスとの性能差は歴然であり、さらにパイロットは未熟だ。
そこに付け入る隙があった。

「……こ、のっ!」
「子供、なのか…?」

直接触れ合った機体から、相手のパイロットの声が伝わる。
まだ幼い、少女の声。戦闘中だというのに、クワトロの思考は一瞬真っ白になった。
その一瞬を抜け目なく見抜いたジムがディアスを振り払い、跳躍しながら上空へとスラスターを吹かして逃げる。
しまった、と思った時にはもう遅い。
跳躍したジムは先程捨てたライフルを拾い上げ、此方に向かい引き金を引こうと構えた。
終わった、そう思った瞬間だった。ジムの後方にあった、研究施設が爆発した。
それに気を取られたジムの動きが、一瞬止まる。

「おおおお!!!」

武器を構えている暇などない。
リックディアスの脚部で、ジム・クゥエルのコックピットを直接蹴り上げた。
吹き飛ぶジム・クゥエルは路面を抉りながら地べたへと倒れこんだ。
パイロットは意識を失ったらしく、起きあがる様子はなかった。

「大尉、御無事ですか!?」
「ロベルトか!」

通信機から、クワトロが待ちに待った声が聞こえる。
施設からは炎と黒い煙が立ち上っていた。






施設内にいた研究員は、アポリーとロベルトの両名により残らず縛り上げられた。
もう何年もろくに手入れのされていないであろう埃っぽい研究室で、クワトロは怒りを押し殺していた。
その手にあるのは今ここで押収したばかりの研究資料だ。
倫理を無視した非道な実験、違法薬物の使用。此処は、エゴを剥き出しにした人間の悪辣さを体現したかのような場所であった。

「貴様ら、一体何の権限があってこんな真似を!」

ここの研究所の責任者である初老の男が、怒声をもって怒りを顕にした。
クワトロの絶対零度の視線も意に介さず、男は掛けられた手錠を外そうともがいた。
その往生際の悪さに、クワトロは男の不様さを蔑む気持ちを抑えられずにはいられなかった。。

「私の研究がどれ程の物か貴様らには解るまい!人類の革新、人類の未来。NT-007こそが世界を導く真のニュータイプだと、今に誰もが知る事になるというのに!」
「ニュータイプは、お前たちのような俗物が私欲の為に弄んで良い物ではない!!」

人を人と思わぬ男の言葉に、クワトロの忍耐もそろそろ限界だった。
男との不毛な会話を切り上げるべく、クワトロは先程の戦闘でジムのコックピットから降ろした少女へ目をやった。
まだ幼い、齢10歳前後といった少女だ。その容姿は思わず見入ってしまう程に整っている。
しかし自然ではありえない白い髪とネイビーブルーの瞳が実験の跡である事を知るクワトロは、彼女の美しい容貌に痛々しさしか感じられなかった。

「私と、一緒に来るか?」

抵抗らしい抵抗もせず、ただ静かに自身を見ていた少女に、クワトロ半ば無意識で声を掛けた。
少女は不思議そうにぱちくりと瞬きした。その様子に苦笑しながら、クワトロは手を差し出した。
出した後になって、一瞬不安になった。彼女が、この手を払いのけるのではないかと。
あの宇宙で、ザビ家への憎しみに支配されていた頃の自分の手をアムロが振り払ったのと同じように。
だが、少女はクワトロの手を取った。
一瞬だけ、少女の瞳が宝石のような蒼色に輝いたように見えたが、きっと気のせいだろう。



「アーガマに帰還するぞ」
『了解!』
『了解!』

リックディアスへと搭乗し、コロニーを去るべく機体を動かす。
エゥーゴの本格的な作戦の前に、小さな煩い事を片付けようと出てみればとんだ重労働だったと溜息をついた。
ふと思い、クワトロはリニアシートの脇に座り込んだ少女に声をかけた。

「そう言えば、名前を聞いていなかったな」

なんとなしに聞いたその言葉に、少女はしばらく黙ったままだった。
感情の起伏が少ないのか、表情が殆ど動くことの無いため分かりづらいが、どうやら考えているようだ。
ふいに、少女がその歳相応の声で答えた。

「……NT-007」
「それは名前とは言えないな。しかし、名無しというのも困った物だ」

思わず苦笑した。この娘があの研究所で目を覚ましたのも、つい最近だったというのを忘れていた。
彼女を物として扱う場所から抜け出して来た今、もうその呼び名は不要な物だ。
相応しい名前を考えければいけないな、と思った時だった。

「じゃあ、ナナ」
「7、か。いいのか?あそこは君にとって好ましい場所では無かったと思うが」
「……うん」

NT-007だからナナ。安易といえば安易だが、本人に思い入れがあるならば、それもまあ良いだろう。

「私はクワトロだ。ナナ、よろしくな」
「うん、シャア」

思わず耳を思わず疑った。この少女は今、自分をシャアと呼んだのか。
直接その名で呼ばれたのは、アクシズにいた頃が最後だ。
シャアという男がクワトロと名乗っているのを知っているのは、アーガマの一部のクルーとブレックス准将、後はメラニー・ヒュー・カーバインくらいだ。
しかしナナは自分の言ったことがさも当たり前といった様子で、むしろクワトロが何故驚いてるのかと不思議そうな顔をしていた。
ニュータイプの物の本質を捉える能力。ナナのそれは最早一種の予知にも近いのかもしれない。

「私はクワトロ・バジーナだ。シャアという男は、知らないな」

白々しく嘯きながらも、その口元が釣り上がるのを抑えられなかった。
ナナはシャアと呼んだ。キャスバルではなく、赤い彗星であったシャアと。
時間が経ち歳をとり、それでも自分が未だシャアであることが嬉しかった。
遣り残した多くを、ただ惰性のままに追いかけているのでない。あの頃の燃えるような野心がまだ自分の中にはあるのだ。
リックディアスのフットペダルを踏み込み、機体を急加速させる。
そうして、シャア・アズナブルとナナを乗せた赤い機体は、宇宙の闇へと吸い込まれて行くのであった。




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