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No.35605の一覧
[0] ちょっとお姉ちゃん!(零 ~紅い蝶~)[海堂 司](2013/09/09 22:17)
[1] ちょっとお姉ちゃん! その2[海堂 司](2012/10/23 19:04)
[2] ちょっとお姉ちゃん! その3[海堂 司](2012/10/25 06:13)
[3] ちょっとお姉ちゃん! その4[海堂 司](2012/10/25 21:41)
[4] ちょっとお姉ちゃん! その5[海堂 司](2012/10/27 17:27)
[5] ちょっとお姉ちゃん! その6[海堂 司](2012/10/28 08:21)
[6] ちょっとお姉ちゃん! その7[海堂 司](2012/10/31 09:46)
[7] ちょっとお姉ちゃん! その8[海堂 司](2013/09/09 22:22)
[8] ちょっとお姉ちゃん! その9[海堂 司](2012/11/06 20:50)
[9] ちょっとお姉ちゃん! その10[海堂 司](2012/11/10 06:52)
[10] ちょっとお姉ちゃん! その11[海堂 司](2012/11/19 14:57)
[11] ちょっとお姉ちゃん! その12[海堂 司](2013/04/28 08:26)
[12] ちょっとお姉ちゃん! その13[海堂 司](2013/06/09 06:46)
[13] ちょっとお姉ちゃん! その14[海堂 司](2013/09/08 18:30)
[14] ちょっとお姉ちゃん! その15[海堂 司](2013/09/09 22:26)
[15] 【番外編】夜光虫 (零 ~月蝕の仮面~)[海堂 司](2012/11/02 10:40)
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[35605] ちょっとお姉ちゃん! その3
Name: 海堂 司◆39f6d39a ID:fc355867 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/25 06:13
 この夜が明けない村で、時刻にどれくらいの意味があるのでしょう。
 目に付くところに時計なんて無いし、そもそもあたしも時計を付けていませんし、親にケ-タイも持たせてもらってません。

 こんにちわ、でしょうか。
 こんばんわ、なのでしょうか。

 多分ですけど、この村に迷い込んでから経過した時間を考えると、こんばんわ、だと思います。
 という事ですので、

 こんばんわ、天倉 澪です。

 あれから、その場にへたりこみそうになる虚脱感をなんとか追い払い、あたしはお姉ちゃんを連れ戻すため、村の奥の方へと足を進めました。
 角を曲がり、渡り廊下の下をくぐり、不気味な村の道を進みます。
 そして、

「お姉ちゃん!」

 その姿が見えたのは、あたしが呼ぶのとほぼ同時に、お姉ちゃんが角を曲がっていった数秒だけでした。
 あたしは無我夢中で走りました。
 前述したように、お姉ちゃんは脚を悪くしています。どんなに急いでも、ひきずるようにしか走れません。だから、追いつける。追いつけるハズ。

 なのに、

「お姉ちゃん… 待って、お姉ちゃん!」

 お姉ちゃんは大きな門に、まるで吸い込まれるかのようにして入っていきました。あたしも続こうとしたのですが、お姉ちゃんを捕まえようとした、その直前で、無情にも閉まってしまいました。
 もちろん、あたしもその門を開けようと力を込めたのですが、ビクともしないんです。
 あの最初に入った家に閉じ込められたみたいに、不自然な力で押さえつけられているようなそれとは違い、今度は鍵がかかってしまったようなのです。
 お姉ちゃんが内側から鍵を掛けたのでしょうか? …そんなハズありません。

 でも、

 だったらどうして?

 …とにかく、この門を開けるには鍵が必要です。調べてみると、それも二つ要るようなんです。
 どうしましょう。
 鍵を保管してある場所なんて、当然知りませんし、当てもありません。
 この門は諦めて、別の入り口を探すとかした方がいいのでしょうか。

 そう思って、

 振り向いた、

 そこに、

「…ヒッ!?」

 男が三人、あたしの事を囲むようにして立っていました。

 …いえ。男、という言い方は、本当は正しくないのでしょう。
 なぜならその男達は、もうこの世の者でないということがハッキリしているからです。
 霊感の有無なんて関係ない。十人がそれを見れば十人ともそう判断するでしょう。
 
 墨よりもまだ黒い『何か』で描いた、悪意のある絵から抜け出てきたような、現実味の無い身体。
 何か嫌なものが住んでいる洞窟のような、暗く、ぽっかりと開いた眼と口。
 そんな、得体の知れない不気味な男が三人。あたしをここから逃がさないと言わんばかりに、こちらの様子を伺っているのです。
 たまらず、閉まりきった門に背中を押し付けるようにして、あたしはその場から、恐怖で動けなくなってしまいました。

 怖い怖い怖いっ…

 それでも、目を背けたら、その瞬間に襲われそうな気がして、必死になってその三人を睨む… いえ、睨む勇気なんてありません。とにかく目を離さないようにするのがやっとです。そしてそれが、あたしに出来る精一杯の抵抗でもありました。

 …と、

 あたしの方から見て左にいる男が、懐から何かを取り出し… へ?

 あれ?

 取り出したのは… カメラ!?

 それもあたしが持っている射影機のような古いものではなく、最新式の… や、あたしもカメラに詳しくは無いのですが、この村の雰囲気には全くなじまないくらい、立派なカメラを取り出しました。
 そして、それをあたしに向けて、

 シャッターを、

『待て』

 …きろうとしたその時、真ん中の男が止めました。

『レイヤーに断り無く撮影するはマナー違反ぞ』

 は? レイヤー? よく分かりません。が、

『おう、そうであった』

 カメラを持った男は、しまったとばかりにレンズを下げました。 …あれ? なんでしょう?
 なんだか、さっきまで感じていた恐怖とはまた別の恐怖が、ムクムクとわいてきましたよ?

『しかし、どうも府に落ちぬ』

 そう言ったのは残る一人。右にいる男です。

『こやつ、本当にレイヤーか?』
『レイヤーでは無いと申すか?』
『撮影会場はココでは無いと申すか?』
『どうにも分からぬ』
『分からぬ』
『分からぬなあ』
『ではどうする?』
『尋ねよう』
『そうじゃ。尋ねよう』

 そして、真ん中の男があたしの方をじっと見つめてきました。どうやらこの男がリーダーのようです。

『おぬしは、レイヤーか?』

 …さあて、どう答えたものでしょうか? あたしにはレイヤーが何のことなのか分かりません。ですがとりあえず、話は出来るみたいです。
 なので、ここは穏便に事を済ませられるよう、正直に答えた方がいいのでしょう。
 適当な事を言って、変に逆ギレされたらそれこそお終いです。
 あたしは汗ばんだ両手にぎゅっと力をこめて、カラカラに乾いた口を開きました。

「いえ、違います。あたしはレイヤーとか、そういうのじゃありません」

 男達にちゃんと伝わるよう、まだ震えている唇に力を込めて、できるだけゆっくり、はっきりと話します。
 でも男達は黙ったまま、身動き一つしません …たぶん、伝わったと思うのですが。
 先を続けろ、という意味なのでしょうか。

「…あたしは、この門の奥に行ってしまったお姉ちゃんを助けたいんです」

 男達はまだ、黙ったままです。あたしはさらに、言葉を続けます。

「お願いです、力を貸して下さい。勝手な事を言ってるのは分かってますけど、それでもあたしは、お姉ちゃんと一緒にこの村から出たいんです。お願いです、あたしをお姉ちゃんの所へ行かせて下さい」

 そして、しばらくの間、あたしも、男たちも無言のまま、時間だけが流れていきました。
 それは数分だったのか、それとも数秒の事だったのかは分かりません。が、

『なるほど… そなたはレイヤーではなかったのだな』

 左にいた、カメラの男がつぶやくようにそう言いました。そしてカメラをゆっくりと、元の懐の中へとしまいこみました。
 分かってくれたのでしょうか。助けてくれるのでしょうか。



 …なんて、甘かったです、本当に。



「あーっ! ウソですゴメンナサイ! あたし本当はレイヤーです! レイヤーが何するモノなのか分かりませんけどレイヤーです! レイヤーに命かけてます! ウソついてゴメンナサイ!」

 我ながら見事なまでの方向転換です。
 だって、
 カメラをしまったその手で、刃渡りの大きい鎌なんて出されたら、誰だってこうなると思いますよ? 

『うむ、レイヤーであったか』
『しかし解せぬ』
『おぬし、衣装はどうしたのだ?』

 え? 衣装? とりあえず、大鎌で襲われるという危機は脱したようですが… 衣装って、なんの事でしょう?

『衣装も無しで何をするつもりか』
『おぬし本当にレイヤーか?』
『我らを騙そうとしているのではないか?』

 なんだかよく分かりませんけど、衣装が必要みたいです。でも、この人達が言うところのレイヤーでないあたしが、そんなもの持っているわけがありません
 でも、だからと言って、持ってません、なんて正直に答えたら、またあの凶器が出てきてしまいそうです。

「あの… 友達の家に…」

 人間、追い詰められるとこれ位のウソはつけるようです。そんなあたしの答えに、三人は顔を見合わせ、再び、あたしの方へ視線を戻します。
 うう、そんな眼で… 眼があるかどうかなんて分かりませんが… できるだけ見ないで欲しいです。
 すっごい不気味です。夢に出てきそうです。

『忘れたと申すか』
『今は無いと申すか』
『コスプレができぬと申すか』

 コスプレ。というのは聞いた事があります。確か、アニメやゲームなんかの衣装を着るやつですよね? …え? ってことは、レイヤーってつまり、そういうこと?

『仕方ない。それでは今回は特別だ』

 右の男がそう言って、何か、黒い服? を取り出しました。そしてあたしの方に近づいてきて… 怖いです… それを手渡してきました。なんでしょう? なんだかどこか、なじみのある手触りです。すこしだけ躊躇しましたが、思い切って広げてみました。

 …え? スクール水着!?

『案ずるな』
『我らは向こうを向いている』
『着替えたら声をかけてくれい』

 着ろと。
 ここで着替えろと。
 しかも水着に着替えるってことは、一度全裸になれってことじゃないですか!
 いくら向こうを向いているからとか言われても、そんなの無理に決まってます。
 なので、

「あ、あの~ ちょっといいですか?」

『なんだ』

「その… スクール水着をこんな所で着るのは、ちょっと…」

『気に入らぬと申すか』
『競泳水着の方がよいと申すか』
『旧スクでなければ着ぬと申すか』
『白スクでなければ納得できぬと申すか』
『こだわるなあ』
『こだわるなあ』

「いえ! その、学校で着ているので! …あと、できればもう少し、肌の露出が少ないのがいいなあ、と…」

『ふむ』
『一理あるな』
『では、わしが用意しよう』

 …ふう。なんとか、こんな場所で水着に着替えるという、女子にあるまじき行動を回避する事はできたようです。
 でもその代わり、今度は真ん中の男がなにやら取り出してきました。

 あれは… 制服でしょうか? あたしの通う中学校の制服ではないようですけれども。
 そしてまた、さっきと同じように、その制服を手渡してきました。

 …出来れば地面に置いて、あたしがそれを取りにいくとかして欲しい… うう、近くで見ると一段と怖いよぅ… と?

『待て』
『そうじゃ、待て』

 残った二人から物言いです。何か問題でもあるのでしょうか。正直、この状況を考えれば、スク水に比べたら全然いいんですけど… ココで着替えなきゃいけない、という以外はですけどね!

『その娘は、学校で着慣れているからと、スク水を拒否したではないか』
『そうじゃ』
『制服も同じではないのか』
『その通りじゃ』
『わかっておる』

 文句を言う二人に、この男は自信たっぷりです。どうでもいいけど離れてくれないかなぁ?

『娘。制服の上からこれを着るのじゃ』

 そう言って、さらに取り出したのは… エプロン? 

『おお!』
『なるほど!』

 さっきまで文句を言っていた二人から、驚きの声です。え? なんで?

『制服エプロン!』
『制服を着る年頃で、かつ、家にご飯を作りに来てくれるほど親密な娘がおらねば成り立たぬ、奇跡の組み合わせ!』

 …あー。なんだかなー。しょーもない理屈だなー。

『よし、決まりだ』
『決まりだな』
『娘よ、それを着るのだ』
『我らは向こうをむいておる』
『終わったら声をかけてくれればよい』
『できれば… そうじゃ。妹風にな』

 …はい?

『なんじゃ、分からぬのか』
『着替え終わったよ、お兄ちゃん。と言うのじゃ』
『わしは素直になれない幼なじみ風に頼むぞ』

 そして、三人は向こうを向きました。
 …正直、無防備な背中に向かって思いっきり蹴りを入れたいところですが、それが通じるかどうか分かりません。
 もちろん、言われた通りにコスプレをするつもりもありません。
 そんなことをしたら、今度はどんな行為を要求されるか、分かったものではありませんから!



 と、いうことで。



『おのれ! あの娘、逃げて行きおったぞ!』
『わしのスク水を持ったままじゃ!』
『わしは制服とエプロンじゃ!』
『おのれ!』
『おのれえ!』
『わしらの純情をもてあそびおって!』



 …どうやらこの村では、『変態』と書いて、『純情』と読むらしいです。
 まあ、向こうを向いて、あたしが声をかけるまでそのままなわけですから、逃げるのは割と簡単でした。
 スク水と制服とエプロンを持ってきたのは、ささやかな抵抗です。どこか、汚い所にでも投げ捨ててやります。
 か弱い乙女にムリヤリ言う事聞かせようとしたのですから、この程度の罰で済んで、感謝して欲しいくらいですよ、ええ。

 …射影機だってありましたしね。

 恐怖で忘れてましたけどね!

 実に無意味な恐怖でしたけどね!!






 …ハア …ホント嫌だ。この村。









(あとがき)
 夢枕 獏センセイの、陰陽師シリーズとか読んでます。


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