どうも、天倉 澪です。
お姉ちゃんが一人で行ってしまいました。
どうしようかな、追いかけようかな、とも思ったのですけれど、たぶんそのうち戻ってくるだろうと思い、一階の囲炉裏の前に座り込んでます。
囲炉裏とは言っても火はついてないし、どうすれば火を起こせるのかなんて分かりません。幸い、そんなに寒くないし、着ている物で十分というのが救いでしょうか。
…それにしてもヒマです。テレビも何もありません。
なので、射影機をイロイロといじくってます。
基本は普通のポラロイドカメラです。ファインダーを覗いて、ピントを合わせて、シャッターを切る。しばらくすると、ジィジィとゼンマイを巻くような音がして、写真が出てきます。
普通と違うのは、コレが『ありえないもの』を写し出し、『ありえないもの』を封じ込める事ができるということ。
この機能… と言っていいか分かりませんが、コレが無かったらあたしもお姉ちゃんも無事では済まなかったでしょう。
なんなんでしょう、この家は。というよりこの村は。拾った新聞記事には『皆神村』とありましたけれど…
異様というよりも異常、違和感を感じるというよりも不気味で気味が悪いです。
理由も無く、その辺りを見回したりとかしてしまいます。
早くお姉ちゃん、戻ってきてくれないかな、と玄関の戸を見やりますが、その気配はありません。
ここで探しに出ても良いのでしょうが、行き違いになる方が面倒です。
それに、
お姉ちゃんは脚を悪くしています。
…あまり考えたくないです。だって、お姉ちゃんの脚がそうなったのは、あたしにも責任があるからです。
そう、
あれは、
まだあたし達が幼かった頃の思い出…
「みおー。スッゴイほん、みつけたよー」
「まゆおねえちゃん。スゴイほんって、どんなの?」
「エヘヘ… ジャーン!」
「…わあ! ふわっ! あわわわわ…」
「ね、スゴイでしょー? あたしたちもおおきくなったら、こんなコトするのかなー?」
…後でものすごく怒られたっけ… じゃなくて。
えーっと…
「みおー。コレなんだとおもう?」
「なあに、まゆおねえちゃん。 …それ、どこにあったの?」
「おかあさんの、おふとんの、マクラのした。へんなかたちだよねー」
「…あ、ここにスイッチがあるよ、おねえちゃん」
「ホントだ… あはは、へんなうごきしてるー へんなのー」
…コレも後ですっごい怒られたっけ… でもなくて。
あれ? なんか昔のあたし達の思い出ってこんなのばっかだっけ?
そんなハズないよね?
でも… えーっと…
………
…さ、最近! 昔のコトじゃなくて、最近の印象深かったのは、えーっとぉ…
「へえ~。 澪って、イチゴ柄のパンツはいてるんだあ」
「ちょ、お姉ちゃん! スカートめくらないでよぉ!」
…と、とにかく!
お姉ちゃんは脚を悪くしているので、あまり遠くには行けないハズです。だからすぐに戻ってくると、そう思っていたんですが…
「…お姉ちゃん、遅いなあ…」
なんとなくつぶやいたその言葉が、静かな家の中に響きます。
もしかして、あまり考えたくはないですけど、お姉ちゃんの身に何かあったんでしょうか?
考えてみれば、この村は異常なんです。
明ける気配のない夜。
人はいないのに、姿も見えないのに、何かこちらを探るような気配だけはそこらじゅうからしていますし、なによりもこの射影機… そしてコレで封じたあのオバケ…
思わずその場に立ち上がってしまいました。
バカ! あたしのバカ!
後悔する事しきりです。
こんな所にお姉ちゃんを一人っきりにさせるなんて、何を考えていたんだろう?
お姉ちゃんゴメンね! すぐに行くからね!
あたしはすぐに玄関を開け、家の外へと飛び出しました。
…どっちに行ったんだろう?
初めて来た村です。おまけに来たいと思って来たわけでもありませんから、土地勘なんてあるハズもありません。
こんな事ならお姉ちゃんが帰ってくるのを待つなんてせずに、すぐに追いかければよかったんだと、今さらになって悔やまれます。
それでもとりあえず、村の奥の方へと続く道を進もうとしたあたしの足に、何かがコツンと当たりました。
なんだろう? そう思って拾い上げたそれは―
「これ、お姉ちゃんの…!」
いつも身につけて、大切にしていたお守りです。コレを落とした事にも気付かず、お姉ちゃんは行ってしまったのでしょうか?
と、その時、あたしの脳裏に何か閃くモノがありました。
お姉ちゃんを待っている間、ヒマを持て余したあたしは、この家の中をいろいろと探っていたんです。
そこで見つけたモノ。
霊石ラジオ。
「これ… 使えるかも」
原理や理屈なんて分かりません。
ただ、近くに落ちていた取り扱い説明書というか、注意書きにはこうありました。
強い思念を持った石を部品の一部として組み込む事で、その思念を聞く事ができると。
なぜ、そんな突拍子も無いものを使う事を思いついたのか、今にして思えば不思議です。
射影機なんてモノがすでにあったからなのか、
この村の異質さに、あたしの心はすでに飲み込まれていたのか、
それとも、
あたしがそうするよう、『何か』の働きかけがあったのか…
いずれにせよ、そのときのあたしは迷う事無く、お姉ちゃんの落としていったであろうお守りを霊石ラジオに組み込みました。
そのとたん、石を組み込む前には、どこをいじっても、うんともすんとも言わなかったラジオから、ザーザーとノイズが流れ出しました。
そして、そのノイズに混じってかすかに、けれども確かに聞こえてきた声。
『…んでる…』
「お姉ちゃん!」
思わずラジオに向かって叫んでしまいました。けれど、そのラジオはその声に反応する事無く、作られたその用途の通りに、ノイズ交じりの音声を、お姉ちゃんの声を流し続けます。
『…よ…る…よん…でる…』
この古ぼけた機械の仕組みなんて分かりませんが、自動でチューニングする機能でも付いているのか、ノイズの強かった音が、だんだんと音声が聞き取れるようになってきました。
お姉ちゃんは「呼んでる」と言っているのでしょうか?
でも、
だとしたら誰に?
『…よんでる…いかなきゃ…』
やっぱりお姉ちゃんは、何か良くない事に巻き込まれているみたいです。
あたしのせいだ。
あたしが、お姉ちゃんを一人っきりにして放っておいたから、
また、
こんな事に…
『…いかなきゃ…よんでる…いかなきゃ…』
待っててね、お姉ちゃん。
あたしがすぐに行くからね!
『…ひゃくまんにんの…あたしの…ふぁんが…』
…は? 今、なんて?
『…よんでる…ふぁんくらぶの…みんなが…あたしを…よんでる…』
………
…えーっと。
やっぱり行くの止めようかなあ?
(あとがき)
単発ネタのつもりでしたがもう少し引っ張ろうと思い、続きを書きました。久々に『紅い蝶』やったら面白くて怖くて。
これであの村に温泉とかあったら絶対行ってみたいんですけどねぇ…。