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No.35537の一覧
[0] 【習作】Sword Art Online - Reinca Reaper 【SAO転生・オリ主モノ】[レイス](2012/12/04 01:30)
[1] Trans_01[レイス](2012/11/25 11:31)
[2] Trans_02[レイス](2012/11/16 22:29)
[3] Trans_03[レイス](2012/11/20 00:44)
[4] Trans_04[レイス](2012/12/04 01:35)
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[35537] Trans_02
Name: レイス◆fb25e506 ID:cd665d91 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/16 22:29

 第49層のサブダンジョン。東洋文化の遺産アンコールワット遺跡を彷彿とさせる石造りの建造物が立ち並ぶフィールドである。
 だがその様相は厳かなモノではなく、何世紀も人の手を離れて朽ちてしまった様相を呈している。石畳の隙間から樹木が乱立し、傷みと崩落を如実に再現した廃墟と化している。
 木々を含む多くの植物が人の背丈を優に超えて建造物を覆い、蔦が木々すらも跨って日差しを遮ぎる。そのため、このフィールドは薄暗いものとなっている。

 そして、薄い霧も発生しているために常闇を彷彿とさせ、ダンジョンの全容を一望することは愚か、索敵範囲も制限を受ける。
 敵と戦闘をするための視界は確保されており、奇襲の危険性は小さい。単に軽い肝試し程度の視野の狭さでしかない。
 探索関係のスキルをきちんと使用し、警戒を怠らなければ恐るるに足らない。PTを組んでいるのであれば、互いにカバーすれば良い。

 そして此処に薄霧の中、敵の攻撃を掻い潜っている最中のソロプレイヤーが一人居た――。

「――ッ!」

 敵の攻撃を弾く。しかし、想定以上の重みの乗る攻撃に呻き声を上げる。見れば攻撃の元は両手剣である、大剣。
 攻撃速度よりも破壊力を目的とした剣だ。片手剣で捌くには少し重荷である。それに加え、速度も乗っているのだから厄介極まりない。
 今の攻撃を捌き切り、衝撃の余波から回復すると彼は索敵スキルを展開。サーチング開始。だが、捕捉出来ない。舌打ちの変わりに毒を吐く。

「一体何なんだ、奴は…!?」

 足元を見る。今、攻撃された大剣が転がっている。攻撃は斬撃ではなく、遠方からの投擲によるもの。彼の見立てでは《投剣スキル》と見る。
 SAOは剣のゲームだ。接近戦を旨とする武器を手に取り、魔法や銃といった遠距離攻撃は一部の例外を除いて一切が存在しない。

 その例外が投剣スキル。だが、このスキルの使用に当たって制約が存在する。
 投剣スキル専用の消耗品による固定ダメージ。または、フロアボスの弱点として使用される場合だ。
 前者は雑魚敵への先制攻撃や牽制、戦闘回避の為に使用される。後者は階層ボスの弱点として過去に幾度か確認されている。

 活躍する場面は存在するが、決して戦闘の主役して使用できる武器スキルではない。
 ゲーム攻略の最前線は愚か、中層のプレイヤーでも積極的に使用するプレイヤーは居ない。

(だが、奴の攻撃の威力と速度は投剣スキルの範疇を超えている。これは武器スキル特性をそのままに攻撃されているようにしか思えない…!)

 閃光が視界に入る。それはソードスキル発動の証。敵を視認出来ない中で唯一、敵の存在と攻撃位置を知らせる証。
 身体が即座に反応する。弾くのではなく、躱す。身体を大きく捻り、反撃をかなぐり捨てる。これは回避に専念する必要があると、そう感じた。
 後に遅れて棚引く外套の裾が弾け飛び、残光を放って切れ端が消滅する。何気に自慢の一張羅が、と驚嘆する先に戦慄が彼の胸中に押し寄せる。

(今の攻撃は細剣。速度重視の武器ならば投擲速度が高くなり、大剣なら威力が高くなるのか! 一体どんなスキルを使えばそんな事が実現できるというんだ!?)

 そんな逡巡を胸中に抱き、射線軸から敵の主な位置を特定。接近戦を挑むべく、走る。既に幾合からの攻撃を捌き、相手の攻撃インターバルは大きいことは判明している。
 恐らくは、攻撃毎に武器を再度装備する必要がある為だ。武器を投げれば装備を手放したも同然の状態だ。
 改めて武器を装備するにはメニューウインドウを展開し、武器を右手に装備し直す必要がある。

 この仮説は論理的に可能であるが、実践では敵の攻撃に対して無防備となるリスクを伴う。だが、これも未だに仮説に過ぎない。
 何故なら、未だに敵を捕捉できず、それを実行している姿を確認できずにいる為だ。その攻撃の一撃一撃は致命傷に至りかねず、回避も紙一重なモノが多い。
 更にはフィールド効果で視界が制限され、障害物の多い遺跡と森の広がる地形効果で距離のある敵を捕捉するのは困難である為に視認は愚か、接近も困難であることが理由である。

 攻撃地点と思われる場所には何も居ない。敵は彼が此方に来るのを予測し、既に移動をしていた。
 周囲を警戒するが、ソードスキル発動の閃光はない。だが、視界の端に小さな影を捉え、剣を振るう。剣戟が交錯する時に発する火花エフェクトが発生。弾き、転がるそれは曲刀。

(見間違いでなければ、直線起動ではなくて曲線を描いて飛んで来た。ソードスキルを発動しなくても特殊な攻撃が可能なのは厄介だな…!)

 実はソードスキルを発動し、遺跡の陰または木々の死角から放った可能性も捨て切れない。何しろ曲線を描くのだから、断定できない。

「これが《フロアボスの亡霊》の正体だとでもいうのか――…エギル!」

 ゲーム攻略の最前線で戦う攻略組にカテゴライズされるソロプレーヤー、キリト。彼は今、背中の死角から生じた閃光に気が付かずに毒を吐く。


  ◆


「キリト、"フロアボスの亡霊"という噂を知っているか?」

 馴染みの商店で小休憩をしていたキリトに、店の主であるエギルがそう言葉をかける。
 精悍な体躯の男は何時になく真剣な表情と雰囲気を纏っている。
 単なる雑談ではなく、少々きな臭い話題だと感じたキリトは不思議気に眉を寄せる。

「ボスの亡霊? 聞かない話だけど、何かしらのクエストかイベントの事か?」

「いや、噂というよりも怪談、怪談というよりも偶然が度重なった不幸な出来事とも言うべきか…」

 言葉を濁し、視線が宙を踊る。エギルという剛毅な言動な人物にしては歯切れの悪い言葉に、キリトは少々困惑する。

「どうした、エギル。アンタにしては歯切れが悪いじゃないか」

 エギルは今度こそ黙り込む。口に手をやり、紡ぐべき言葉を吟味してか情報を整理をしてか今一度頷き、はっきりとした口調で言葉を発する。

「キリト。ここ最近、中層の迷宮区やサブダンジョンに向かったプレイヤーが消息を絶ち、《はじまりの街》の碑石に名前が消えたプレイヤーが何人も居る」

 はじまりの街に存在する碑石。それはSAOに閉じ込められた一万名のプレイヤーの名簿表。その名前に打消し線が刻まれ、打ち消された証があることは死を意味する。
 モンスターが存在するフィールドに出れば常に命の危機と隣り合わせだ。その事実をこのエギルが一々話題に出す必要もない。ならば、とキリトは言う。

「オレンジ――…いや、レッドプレイヤーによる《PK》(殺人)か?」

「俺もそれは考えたが、俺の見解からすれば違う。奴らにしてはPKの仕方が中途半端だ」

「そう断言する根拠は?」

 レッドプレイヤーのする事は、健全な人間からは計り知れない。単なる物取り感覚で殺害する可能性だってある。

「件のプレイヤー達の中には肝試し感覚で迷宮区に挑んだPTが居たんだが、やられたのはその内のペア一組だ。
 装備・スキル共に万全で《転移結晶》(安全圏へのテレポートアイテム)も確保、《安全マージン》(その階層ボス攻略に必要かつ安全なレベル)も確保していた。
 そんな奴らを狙うにしては一組だけなのは解せない」

 殺人をゲーム感覚でやるにしては殺される人数が少ない。言葉の裏に隠された意味にキリトは眉を潜める。
 そうと判りつつも、エギルは言葉を続ける。この話をする口にする、意味を理解してもらうために。

「このPKを良しとするレッドプレイヤーの犯行だと仮定した場合、そういう連中ならば他人に解る証拠を現場に残す。或いは表明をする」

「表明とは随分と物騒だな。テロリストの真似事でもする奴が居るのか?――…スマン、失言だった」

 「いや」とエギルが言葉を返す。話が逸れることを口にしたキリトだが、自身が発した言葉を否定し切れない事実に口籠る。
 エギルもそれが解っているからこそ別段、反論の声を上げなかった。

 犯罪行為を行うオレンジプレイヤーの中には悪名を上げる集団、《オレンジギルド》が存在する。
 《ラフィン・コフィン》がその最右翼であり、奴らならばどんな犯罪行為を行っても不思議ではない。それが殺人でも、だ。
 そうと判断してキリトは、今の話で聞くべきことを口にする。

「エギルの言う通りに、奴らにしては爪が甘いかもしれない。だけど、違うと断言するには根拠は薄いんじゃないか?
 もしかすればそういう事を良しとするレッドプレイヤーかもしれない。不運にも転移不可の部屋に入ったり、迷宮区を甘く見過ぎただけかもしれない。
 エギル、アンタもさっき言葉にしていたが、本当に偶然なのかもしれないぞ」

 相手の言葉を全否定する。だが、これで終わるとはキリトは微塵も思っていない。
 何故なら、重要なワードが未だに出ていないのだから。

「エギル。それが判らないアンタじゃない。それにも関わらず、亡霊と言った。何故、"亡霊"なんだ?」

 沈黙が室内に訪れる。エギルは瞼を伏せ、キリトはそんなエギルを見据える。次に紡がれる言葉を暫し待つ。
 エギルはSAOの中では斧使いとして最前線のボス攻略にも参加する猛者であり、中層で商いをする大人でもある。
 阿漕な商売をする剛胆な言動を旨とし、SAO内でも理解のある大人であるとキリトは認識している。そんな彼が今、苦悩を口にする。

「初めは、商売のお得意様が死んだ時の事だ。そいつは装備の強化のために、ウチで扱ってるレアアイテムの値切り交渉して来た。
 骨のある奴でな、最後は俺の方が折れた。その妥協案として下層の方にあるレアアイテムを幾つか取りに行かせたのさ。
 特にそいつのレベルと装備なら問題なく、レアアイテムと言っても時間を要する以外は然して難しいものでもなかった筈だった。だが奴さん石碑に刻まれた」

 エギルの話が何時のどの階層かは判らない。だが、エギルの観察眼による判断ならば、決して生死を別つ無理難題ではなかった筈だ。
 単にそのプレイヤーが勇み足を踏んでヘマを犯したか、レッドプレイヤーに殺されたか。理由は数あれど、エギルが気に病む必要はないものだ。

「それからだな、何気なく石碑に刻まれる名前を気にするようになったのは。そして、ふと気が付いた。
 ウチのお得意様である中層プレイヤーの名前に打消し線が刻まれているのを。それが日に日に増えていき、店に来なくなったのを、な。
 俺の記憶にあるそいつ等は、最前線の攻略組でもなければ、無理無謀をするなんて決してやらない連中だった」

 詰まる所、迷宮区などの戦闘を行う上できちんと安全に配慮をするプレイヤーであるにも関わらず、死んだ現実。
 キリトにはそのプレイヤー達がどの程度安全に配慮したかは判らない。だがエギルが言うのならば、事実なのだろう。
 では何故、死んだのか。それが判らない。ならば、調べるまでだ。

「これは何かあると踏んだ俺は知人や伝手、情報屋を使って独自に調べてみた。
 するとある共通点が浮かび上がってきた。サブダンジョンか迷宮区で死んでいる、尚且つ"時期"でもあった」

「――…時期?」

 予想外のワードにキリトはオウム返しの言葉を発する。モンスターが存在するフィールドである圏外であれば、PKを含めて有り触れた死因である。
 だが、時期とは如何なる意味を持つのか。何かしらの季節限定のクエストか、隔月か季節限定で出現するボス級のモンスターか。または《ネームドMob》(レアモンスター)か。

「石碑には大まかな死亡原因と死亡時刻も記されるから、そこから奴らの死亡前の居場所や行動をある程度限定できる。
 調べると、俺のお得意様のように決してダンジョンで死ぬような奴らではないプレイヤーが他にも何人も死んでいるのが判った。
 で、話を聞いて時系列と階層別に纏めてみると不思議な結果が出て来た。時を追う毎に犠牲となるプレイヤーの階層が上へと向かっていた」

「――PKをする範囲が広がっているのか?」

「違う。敢えてPKと仮定するならば、PK場所が移動をしている――、上に。そしてそれより下の階層での犠牲者はパタリと途絶える。
 行ったり来たりではなく、階層一つ一つ、犠牲となる場所が登って来ている。まるでフロアボスの攻略に合わせてるみたいに、な」

 成程。此処で漸くの合点がいく。話を聞く限り、これはレッドプレイヤーによるPKだ。それも個人的な理由による計画的愉快犯。
 アインクラッドという城の全100層の中でも、中層以下の低レベルのプレイヤーを狙うのではなく、階層一つ一つ毎に一歩一歩、上へ上へとPKを行う。
 その階層に飽きたら上の階層へ。または最前線の階層が一層上へ行けば、それに合わせてもう一層上でPKを。

 エギルはその行動をまるで倒されたフロアボスが亡霊となり、下層のサブダンジョンや迷宮区を彷徨っているものだと例えた。
 フロアボスが倒され、新たな怨念を感じた亡霊が一層上へ、そしてまた一層上へと登っている、と。PKに対する皮肉だと、キリトは思う。

「…それで、アンタの見立てでは今は何層に居るんだ。その亡霊は」

 その問いに、エギルは間を一つ置いて告げた。

「第49層辺りだ。最近、第45層で似たような被害があったという話を耳に挟んでいるが、この話との関係性はまだ確認できていない」

 キリトは「そうか」と言葉を返し、店の出口へと向かう。それをエギルが言葉をかけ、止める。

「キリト。言い出しっぺの俺が言った手前、行くなとは言えん。だが敢えて、釘を刺しておく。止めておけ。
 お前さんが気にする必要も、出張る必然もない穴だらけな俺の与太話だ。
 アホなPKかもしれないが、本当に偶然が重なっただけの事故かもしれない。だから、お前さんが行く必要は何もない」

 これからキリトがするであろう行動を確信しての言葉。そして、首肯がキリトから返ってくる。

「そんな与太話を真剣に調べてるのはアンタだろう、エギル。心配いらない、サブダンジョンを軽く一周したら今日は布団に入って寝るさ」

 歩みを再開する。再度の静止の声に振り返る。迫る物体を手に取り、見る。転移結晶だ。

「餞別だ。必要に迫られたら、迷わず使えよ」

 大袈裟だと思いつつも、軽く手を振ってキリトは店を後にする。
 だが、それ程までにエギルという人物を真剣にさせる何かが、このアインクラッドの大地に存在する。それを実感する。
 軽い気持ちで向かうつもりの足取りは、既に最前線の攻略への足取りのモノへと変わっていた。


  ◆


 閃光は――、正面!。迎撃も回避も容易な角度だが、その全てが一瞬だけ遅れた。それは索敵スキルの発動に意識を割いていた為だ。
 スキルの発動には特定のモーションまたは意識の集中が必要となる。敵はその隙を見逃さなかった。
 回避は間に合わず、片手剣を眼前に構え得て衝撃に備える。下策ではあるが、それ以外だと手遅れになる。

(今度は――、槍!)

 針のように細くて長い、細剣と見間違えそうな長大な槍がキリトの持つ片手剣の腹へと吸い込まれた。
 衝撃が腕を貫く。両手剣のような重厚な重みではないが、此方の防御していた腕を一瞬で跳ね上げる。この現象にキリトは驚愕した。

(不味い、狙われる!?)

 両手剣や細剣などと攻撃特性が異なる槍に対する分析に割く時間はない。この無防備な瞬間は命に係わる。そして当然の攻撃が飛来した。
 衝撃は軽微だった。胸元を軽く小突く程度だが、見れば短剣が刺さっている。刺し口からは継続ダメージのエフェクトが表れている。
 だが、それにしてはダメージ減少量が早過ぎる。HPバーの端を見れば、紫の水滴模様のアイコンが追加されていた。

(毒の継続ダメージ!? 毒の追加効果付きに短剣か!)

 即座に短剣を引き抜き、毒以外の継続ダメージを回避する。そして遺跡の瓦礫の陰へと身を隠す。
 アイテムストレージから解毒ポーションを選択、出現させる。そして、曲刀が眼前を通り過ぎ、ポーションが弾き飛ばされる。
 攻撃により、アイテムに設定されている耐久値が零となり、消滅エフェクトを発して光となって虚空へと消える。

「くそっ! 解毒をする時間も与えないというのかよ!」

 キリトのほんの小さなミスから、戦闘の突破口を切り開いた相手の手腕に思わず悪態が口から出る。
 相手方もキリトに対する明確な戦術が見出せない現状、キリトへの継続ダメージは貴重だ。故に解毒を阻止した。
 そしてキリトも相手の姿が未だに判らず、後手に回る現状に苛立ちと焦燥が募るばかりである。

「――HPは半分を切り、尚且つ毒のダメージで更に減少を続けている。敵の目的と姿も未だに不明。此方の付け入る隙はただ一つ」

 それは即ち、攻撃の合間に特攻を仕掛ける。相手の攻撃はソードスキル以外、大きな問題はない。威力、速度ともに弱いのだ。
 恐らく、スキルの発動をすることで武器特有の特性を生かした攻撃が可能になるのだ。
 でなければ、一々自分の居場所や攻撃軌道を描く閃光を放つ必要がない。この視界の悪さを殺す必要もないのだから。今の解毒ポーションへの攻撃のように。

「――…」

 メニューウインドウを展開し、コマンドを選択していく。出し惜しみをしている時間はない。
 武器アイテムをもう一つ選択をし、展開。眼前に新たな片手剣が出現する。更に武器スキルの設定も変更。
 最後に新たに出した剣を左手に装備…できない。閃光が視界の端に灯ったからだ。敵の攻撃、ソードスキル発動の声/殺意がキリトへと届く。

「――ッ!!」

 左手に剣を取る。メニューウインドウを介さずに直接、手で握ることで武器を装備としたとシステムに認識させる。
 だか、これでは装備と認識されるまでに僅かに時間を要してしまう。故に迎撃をギリギリまで遅らせる。
 攻撃モーションを早く行えば、左手の武器は装備手順不正で単なるオブジェクトアイテムとして認識され、武器として直ぐには使えない。

 飛来する剣を弾き飛ばす。細剣だ。キリトの現状、毒状態で混乱していることを見越しての最速の攻撃。
 PKにしては徹底した完璧主義だ。尊大なプライドを持っていれば、両手剣で大ダメージを狙うだろう。そうであれば、キリトの装着は問題なく間に合っていた。
 剣を弾き飛ばしたのは、左手の片手剣。間に合った。そして右手にも片手剣が存在する。それ即ち、《二刀流》を意味する。

(敵に対策を取る時間を与えずに、即行でケリをつける!)

 ソードスキルを発動する。二刀流のソードスキル《スターバースト・ストリーム》を発動。合計、十六連撃の神速へと足を踏み入れる。

(通常の移動速度では、逃げる敵に追い付けない。ならば、ソードスキルの移動速度補正を利用して肉薄する!)

 スキル補正を利用した疾走で攻撃地点と思われる場所へ到達。何もないのは予め予測できていた。
 虚空を一閃。連撃スキルである以上、一定時間内に剣戟を行わなければスキルが終了し、硬直時間が発生してしまう。
 全十六連撃が終わる前に敵を肉薄し、倒さなければ死ぬのは此方だ。

 即座に視線を巡らせる。居た。木々を駆け抜ける何かを目撃する。容姿までは把握できないが、初めて敵を尻尾を垣間見た。
 一直線に加速をする。片手剣がキリトへと飛来する。剣戟の二合目で弾き飛ばす。更に素振りを一度、二度、三度。
 上方からの攻撃が二度、叩き落とす。敵は遺跡の上の階へと移動していた。

 素振りで垂直方向への瞬時に移動、上の階へと高度が合致すると刺突の素振りで水平移動。着地、そして改めて素振りをして追跡を再開。
 連撃の半分は既に消費した。だがその甲斐もあり、敵の姿が鮮明となった。カーソルの色は判別不明な距離だが、その姿は人だ。
 ボスの亡霊ではない。プレイヤーの一連の不審な死も偶然ではない。人の手によるPKでしかなかったのだ。

 更に素振りを二回。相手も此方の異様な接近速度に恐れたか諦めたかは定かではないが、その足が止まった。
 そして数瞬の後、片手剣が飛来する。スキル発動の閃光はない。払い除け、更に肉薄する。
 刺突の素振り二回による最後の加速、相手を肉薄。残るは最後の一撃のみ。相手を捉えた。攻撃範囲内だ。

 相手のカーソルの色は、オレンジ。顔と容姿は男。その手にはソードスキルを発動した両手剣が、キリトへと照準を合わせていた。

――弓に、剣を矢として構えた姿で。

(―――な、に…?)

 スキル最後の一撃。キリトは思いも因らぬ光景を前に、最速のタイミングが逸した。故に先手は、相手のソードスキルによる攻撃。即ち、射撃だ。
 先程までの経験が反射となり、キリトは両手の剣を交差しさせる。矢の着弾点を防御するもその重い一撃にキリトは大きく弾き飛ばされる。

「――ッア!?」

 辛うじて着地に成功する。衝撃で呻き声を上げ、石畳に片膝を着く。それ以上、身体は反応しなかった。
 それは被ダメージによるものかソードスキル発動後の硬直か、その両方か。HPはレッドゾーン突入間近、毒のダメージが時間で解除されているのが救いだ。
 視線を相手へと見遣る。そこには当然のように姿はない。相手に距離を取られた。漸く硬直が解け、左右の剣を構えて再度の攻撃に備える。

―――…攻撃が止んだ。静寂がこのサブダンジョンを包み込む。

「逃げた、のか?」

 否、助かったというべきだろう。そう、キリトは認識する。キリトの未知な武器スキル、またはソードスキルを警戒したのだろうか。
 それともPKをするには美味しくない相手だと悟ったか。その答えは、相手のレッドプレイヤーの胸の中にしか存在しない。
 先程までの戦闘が夢だと言わんばかりの呆気ない幕引きである。この事実にキリトは、何一つ釈然としない思いを抱く。

「奴は一体、何だったんだ…?」

 その疑問に答える者は、此処には居ない。





「参ったね。今回のプレイヤーは随分とTUEEEと思ったら、あのキリトさんだったとは…! 危うく主人公を殺しちゃうところだったZE☆
 キリトさんにはこのDEATH☆GAMEを攻略してもらわなくちゃいけないし、キリトさんに目を付けられちゃ、今度はこっちが危ないね」

 その男、メイソンは言葉にしつつも流石だとも感心していた。キリトはどんな角度や不意を突いた弓による射撃を迎撃、または回避していたからだ。
 このゲームでの遠距離武器は、メイソンの持つ弓以外は存在しない。それはつまり、初見であればメイソンは絶大なアドバンテージを有している事実を意味する。
 特に今回のような互い視界を制限するフィールドであれば猶の事、有利となる。暗視や捕捉関係のスキル駆使し、今回のように一方的に相手を捕捉しつづけたのあれば、確実にHPを削り切れる自身がメイソンにはあった。

 だが、キリトはそんな完全不利な戦況に対抗した。直勘としか思えない反応速度で直撃ギリギリのタイミングで初撃を払い除けた。
 これが二刀流スキルを会得した者の反応速度だと云わんばかりの刹那の反応だった。流石のメイソンも距離が開いては相手プレイヤーの細かな造形までは判別できない。
 狙った相手があのキリトであるとは流石のメイソンも予測できず、それを成し得た相手の神業に唖然とさせられた。それでも狙ったからには、と攻撃を再開した。

 それ以降もキリトはメイソンの姿を捕捉できない中で此方の攻撃パターンを分析していた。正解に至らずとも近似の解答へと到達する観察眼と分析能力。
 そして二刀流スキルへのコマンド変更操作をギリギリのタイミングで成功させる強運。正しい主人公の姿だと、端役を自負するメイソンは溜息を吐く。

 恐らくは、より上層へと向かほどにゲーム攻略の重要人物や登場人物との遭遇率は更に高くなるだろう。
 下手なSAOのメインキャラへの干渉がこのデスゲーム攻略の足枷になることは極力避けたい。そうしなければ、本当に一生ゲームから解放されなくなってしまう。流石にそれは勘弁願う。

「今度からはもっと慎重に獲物を選ばいないとなぁ~☆」

 メイソンはそう、言葉にする。そしてその足はそのまま、第49層の迷宮区へと赴いていく――…。



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