この一週間は主に…というより、タズナさんの護衛を行っていた。護衛を行っている中で、この国は相当弱っていることを実感させられた。八百屋に商品が全く並んでなく、町では子供が裸足で駆けている。
正直言って、目も当てられない…何処の戦後の国だよ。と不謹慎ながら思ってしまった。
修行に関して、ナルト、サスケ共々順調に成長していっている、食事中チャクラコントロールについて、アドバイスを聞いてきたりと、日々精進している。また、その食事中に子供のように張り合いながら食べる姿が輝いて見えたのはきっと、気のせいじゃない。まぁイナリと一悶着あったけど、比較的穏便だ。
そうして、とうとうこの日を迎えたのだ。…ザブザ来襲である。
その日は丁度、ナルトが昨日、木登り修行でチャクラを使い果たして寝坊した日だった。サスケもこの一週間で木登りをマスターして、私と、復活したカカシ先生と一緒にタズナさんの護衛任務へ当たる。
…因みに私は、この一週間はこっそりと影分身での修行も行っていたので、無駄に護衛していた…というわけではない。
そうして、何時ものルートを通って建造中の橋まで来てみると…
「何じゃこりゃー!?」
血だらけになって倒れている人が5人おり、全員呼吸をしているので死んではいないが、早く治療をすべきだ。そう思い、タズナさんを後ろに回して近づこうとした所
ヒュ
風切り音と共に私の足元に千本が刺さる。瞬間濃厚な霧が私達の視界を埋め尽くす。
「来るぞ!」
その言葉と同時に私達の周りを囲むようにチャクラが発現する。すぐさまタズナさんを守るように陣を組んだ瞬間に
「くく…そこの坊主、可哀想になぁ…震えているぞ」
その言葉と共にザブザの水分身が発現したチャクラの所に現れる。だが、私達も一週間寝ていたわけではない、特に…
「やれ、サスケ」
その言葉と共に、チャクラを練ったサスケが水分身ザブザに向かって飛び出し…高速で全ての水分身を切り刻む。
「見える!!」
これは、サクラが惚れるのは無理は無い。客観的に見ると確かにカッコいいね。身内だから何ともいえない気分だけど。そう、サスケのレベルアップは目を見張るものがある。…常識の範囲内だけど。
これで影分身を使っていたらもっと成長したのにね…恐らくだけど。
「ほー水分身を見切ったか」
「やりますね、彼」
そう言って霧から現れたザブザとお面君。
「やはりお面君はザブザの味方のようだ…俺の予感的中ってわけか」
そうして両者にらみ合う形になった。
「カカシ先生、どうします?」
「ん~…ここは「あのお面は俺がやる」……よし、任せたぞ」
「下手な芝居しやがって…ああいうスカしたガキが一番嫌いだ」
一歩前へ出ているサスケを私と、カカシ先生は半眼で見る。そうして、カカシ先生と目が合い
(自分の事を棚に上げちゃってるんですけど、妹さん)
(お母さんはこんな風に育てたつもりはありません!)
今度こそ完璧なアイコンタクトが成立した瞬間である。それにしてもこのお面君確か血継限界だよね。
…私の万華鏡写輪眼でコピーできないかな……なぁんてね。血継限界は遺伝子に組み込んである情報をが無ければ発現しない…
と、思うじゃん?
「秘術、千殺水翔!」
その術を発動する前にカカシ先生の指示で私が後ろに下がり、全員の視界に私が入らないことを確認し、
万華鏡写輪眼を開眼する。そうして、白が高速で片手印を結ぶ手をばっちり見る。
ばっちりコピーできたことを目を閉じて確認する。…まぁ印を覚えているかどうかの確認の為である。
先ほどザブザの水分身が全てやられて出来た水を利用し、サスケを囲むように硬度を持った水の針が現れサスケに向かい高速で飛来する。それを足にチャクラを集中し、上空へ避ける。
そのまま、手裏剣を放ち、降りてきた所を格闘戦に持ち込み、一発白に蹴りを入れた。
確実に成長している。たった一週間であれは…私と同レベルの成長速度である。
「ガキだと舐めてもらっちゃ困るね。こう見えてもサスケは木の葉の里ナンバーワンルーキー。ここにいるアヤカはその妹にして俺と同じ位の実力…」
「!?」
やめてー!今乗っているサスケに精神攻撃はやめてー!!やられちゃうから!奴さんにいとも簡単にやられちゃう精神状態になっちゃうから!繊細なんだよ!サスケはガラスのハートなんだよ!ブロークンハートしちゃうから!そこらへん察しろよ!この案山子!
「そして、もう一人は目立ちたがり屋、意外性ナンバーワンのドタバタ忍者ナルト」
そう、カカシが言い切る
「くく…白、このままだと返り討ちだぞ」
「ええ…残念です」
サスケの周りの水に冷気が帯びて来ている。というより、さっきの術で水の近くは危ないと思わなかったのかよ。…まぁ私も今気付いたけどね。
「秘術、魔鏡氷晶!!」
ばっちり、万華鏡写輪眼で印とチャクラと術のプロセスをコピーして、万華鏡写輪眼を解除する。
「何だあの術は!?」
サスケの周りに氷の鏡が出来て囲む。発動した術者…白はその厚さ2センチにも満たない氷に入り込む。
そして、サスケを取り囲んだ全ての氷に白が移りこむ。まずい状況だ。
「くそ!!」
瞬時に状況を理解したカカシ先生。悪態を付くと同時にサスケを救助せんと駆ける…が
「お前は俺が相手だ」
「じゃあ、私が助太刀致します」
「悪いが…小娘はこいつと戯れていろ」
その瞬間、ザブザが何処からともなく巻物を取り出し、その巻物から何かを口寄せした。
「…人形?」
「くく…ただの人形じゃない、こいつは「投影人形」だ」
「それで、ザブザさん。その少女の対策はどうするのですか?」
時は少し戻り、白がザブザに向けて可愛いウサギ型のリンゴを作って、食べている時である。
ザブザは右手にリンゴを持ちながら、食べていたものを全ての見込み口を開く
「ああ…あのガトーが持っていたのだが…こいつを使う」
「…なんですか?その、呪われそうな黒い藁人形は」
ザブザが取り出したのは、趣味の悪い黒い藁人形しかし、よく目を凝らしてみると…
「!?……これは、印の文字が……」
「そう、遠くから見ると黒いが…その黒に見えるのは全て印が刻み込んであるのが原因だ。でだ、こいつに人の遺伝子情報がある物を詰め込み、チャクラを流すと…その遺伝子情報を元にその情報と同じ姿かたちを作り出す……血継限界も恐らく使用可能だ」
「…しかしその少女の遺伝子情報は何処から?」
「くく、前回戦闘したときに、俺の攻撃で髪の毛を少し斬ったらしくてな…」
その言葉と共に、ザブザの手に長く黒い髪の毛が握られている。そう、ザブザ本体からの攻撃で髪が切れてしまっていたのでである。
「でも、チャクラはどうするのです?」
そう、何事も対価が必要なのである。どんな術でもチャクラは必要だし、上の忍術を用いればそれ相応のチャクラが必要である。何事も対価が必要なのだ。先ほどのザブザの話を聞くとその対価を無視した形で道具が使用できる風に聞こえる
「いいところに気付いた…だが、こいつにチャクラを溜めれるとしたら…どうだ?」
「!?…なるほど…この一週間のチャクラを込める。というわけですか」
「ああ…そのチャクラを使用してこの人形は動く…まぁ終わった後は燃え尽きるけどな」
「それは…どうしてですか?」
「現実に考えてみろ…普通ならありえないだろう。同じ人間がこの世界で二人居るなんて。その代価だ……だが、その代価を利用して、同じ人間を殺そうと動く一品だ」
世界の理を覆す代物。…ガトーカンパニーの頭だからこのような品が手に入ったのだろう…まぁガトー自身はこの人形がどれほどのものか分からないと思うが。
「ま、世の中にはもっと常識はずれの事が多く存在しているけどな」
「アヤカ!注意しろ!その人形に込められたチャクラ量が尋常じゃない!!」
そんな物、分かっている!素のナルトの2倍以上はあるし、その質もザブザと同レベル。…こんなの原作に無かったぞ!?どうなっていやがる!
「クソ!術が発動する前にこの手で壊す!」
瞬時に全力で身体強化を図り、大気を弾けさせながらザブザに向かってクナイを振る…が
「させない」
鳴り響く金属音、鈴が鳴る様な心地いい声…いや
「わたしの…こえ?」
「ご名答」
煙から現れたのは、私と寸分違わない…私がザブザを守るように私のクナイを止めている。
おいおい!どうなってやがる!?
「アヤカだと!?」
「よそ見してる暇があるのか?カカシ」
「クソ!」
これで実質三対三。ナルトはまだ来ていない。…非常にまずい。
「ふふ…ま、安心してよ。直ぐ楽にしてあげるから」
「ち!」
瞬時に距離を取るが、それと同等の速さで接近され追撃が来る。…チャクラで強化した足だ
「痛天脚!!」
私に接近してきたと同時に、空中で一回転し、脚に膨大なチャクラを宿した踵落しが来る。
これを避けたら、橋の存在がやばい!損壊的な意味で
「木の葉大旋風!!」
全身のチャクラを瞬時にコントロールし、右足を思いっきり強化し、チャクラを集める。
両方とも大気を裂く様な速度を持って衝突する。
大気が弾け、まるで大きな爆弾が直ぐ目の前で爆発したような音が響く。その音と共に運ばれてくるのが衝撃。大気を保つ空気が極限を超えた振動に耐え切れず発生した波。
その波が発生地点の半径50メートルを襲い、突風が吹き荒れる。
「アヤカ!お前絶対事情を説明してもらうぞー!!」
突風の中カカシ先生の声が聞こえる。しかし、それに答える余裕は無い。全身に衝撃がいきわたり、軸となった足の骨から嫌な音が響く…が瞬時に回復させる。この程度、なんということは無い。
しかし、受けきった際に軸足を貫通した衝撃は橋に大きく亀裂を生み出す
「ああー!橋がー!!」
今度はタズナさんの声が聞こえるが、こちとら必死なんだよ!予想外だよ!何なんだこの人形は!
…しかし、ナルトの世界ならありだな。死人だって偽りながらも蘇らせ、更には全盛期の肉体とチャクラまで宿せる。不思議ではない…不思議ではないが…納得いかない
「雷歩」
空中に居た所を貫手で胴体を貫こうと思ったが、それ以上の速さで私の背後に移動され
「しね」
神速の貫手が私の心臓目掛けて来る事を感じる。
「ちぃ!」
体を回転させて避けるが、脇腹を衝撃と共に持っていかれ、出血する。しかし、それも直ぐにキズを塞ぐ
。そして、回転に併せて裏拳を放つが、しゃがんで避けられ
「木の葉大旋風!!」
カポエラーの要領で私の顔面目掛けて蹴りが迫る、それをバク転で避けて距離を空ける。
バク転の最中に印を結び、着地した瞬間…いや、偽りの私を視認した瞬間
「火遁豪火玉の術!!」
火遁も諦めずに練習し、何とか実用化に持ってこれた術を惜しげもなく発揮させる
しかし、相手は何のことも無く、右手にチャクラを…螺旋丸を作り、握りつぶした。握りつぶした螺旋丸を中心に、チャクラを伴った乱気流が発生し私の豪火が打ち消される。
「…その程度?」
しまいには挑発される。こいつぅ…その技術は私がばれないように必死こいて磨いてきた技術だっつうの!…よく分かったよ。確かに真似されるのは別にいいと思ってたよ…でも、実際に目の当たりにするとめちゃくちゃむかつく~!
「著作権違法だぼけぇ!」
「…その著作権に保護された世界にいるくせに」
おのれ、ああいえばこういう…これが私の性格なのか?つか、著作権関係ないね。
くそ!奥の手を使うしかないか…?いや、待てよ…
「うずまきナルト!ただいま見参!ってうお!アヤカちゃんが二人いる!?」
「ナルト!それは後だ!今はタズナさんを安全な場所へ移動しろ!その後サスケの援護だ!」
「させるかよ」
ザブザが割り込み、手裏剣をナルトに向かって投げるが…全て千本で叩き落される
「余所見してていいの?」
そこまで相手に注意を払いながら見ていたが…声を掛けられる。…私の後ろから
お腹から血が出て、クナイの先端が体から突き出ている…あれ?私の体って、結構細いんだね…
認識した瞬間に一気に引き抜かれる。
「あぐ!」
痛み…というより、灼熱の鉄板が体内に入り込んでるような熱さが体を襲う。足に力が急に抜けて膝を付く
「アヤカ!!」
カカシ先生の声が聞こえるが…
「打っ飛べ」
背中から心臓へ駆けて、途方も無い衝撃が伝わり、端の先端まで吹っ飛ぶ。一瞬意識を持っていかれ、呼吸が上手くできない。しかし、何とか橋から落ちないようにクナイを橋に突き立て減速させる。
「はぁ…はぁ……かはっ…」
まずは呼吸を落ち着かせる。しかし、直ぐには落ち着くはずが無いので一瞬だけ万華鏡写輪眼を展開させて、狭間へ避難する。何も無い空間でその場に留まり、術で怪我を回復させ、呼吸を整え、眼を閉じる
次に眼を開くと、先ほどの橋の上。
「……開眼させたな?」
「うん。でも、終わり」
「何?」
高速で組んだ印を元に術を展開させる…片目を髪で見えないように万華鏡写輪眼を開眼させながら。
「秘術、千殺水翔!」
そうして、偽アヤカの周りに大量の氷柱が生まれる。そこで更に印を追加し、全ての氷柱に風を纏わせる
「…成る程。やるね」
「馬鹿な!?あれは血継限界だぞ!?」
「!?」
高速で一気に偽アヤカに向かう、そして、肉片一つすら残さない密度で氷柱が襲い掛かった…はずである
「まずまず…といったところだね」
何のことも無く、私の隣に無傷で姿をあらわす偽者。…もうこいつが本物でいいんじゃね?
「…使ったでしょ?」
「当たり前じゃん」
不適に笑いあい、お互い万華鏡写輪眼を両目に宿して、お互い狭間を展開する。
「ふふ…ここで蹴りをつけようか?」
「そのつもりだよ」
背景は全て真っ黒。だけど足元は白い何かで円形に広がっている。さながら闘技場である。
「お互い、チャクラが減らない状況…私のほうがチャクラがあるけど…どうするの?」
「…いや、お人形ちゃんの方が…圧倒的に少ないよ」
その言葉と共に、八門遁甲の陣を展開する……第2の門、休門まで開く
「これで一気に形勢逆転だね」
「…でも私がこの空間を出れば……出れない!?」
「当たり前じゃん…私が継続してるんだもん」
「…そっか。あーあ…もう少し楽しみたかった」
その言葉と共に、限界まで圧縮した螺旋丸に風の性質変化を伴わせ、手裏剣の形にする。
「螺旋・風魔手裏剣」
大気を切り、偽者に着弾。かなり広い空間の半分以上が乱回転しているチャクラとカマイタチの嵐で覆われて…今度こそ、終わった。
「はぁー…これで八門遁甲の陣が出来てたら…考えたくも無いなぁ…」
これはある意味賭けであった。本当に私と全く同じなのであれば、この陣が出来ても可笑しくはない…が恐らく最初に感じたナルトの2倍以上…あのチャクラが偽アイラのチャクラ量の限界と踏んだ。何故なら、既に練られたチャクラを使用していたし、私と同じであれば、私のチャクラを使用するはずである。
が、私のチャクラは存在せず、ザブザのチャクラしかなかった…よって、この賭けに出たのだ。
この八門遁甲はチャクラ量を限界まで絞りだす方法だ。表に出しているチャクラを含めると、総量が大幅にアップする。そしてこの空間で使用したチャクラは現実世界にいる自分にトレースされない。
しかも、現実世界では一瞬なので他の人に奥の手が気付かれる心配も無い。…恐らくだけど。
だからこの手段を取った。それだけの話である。
「あ~…割りに合わない依頼だよね…絶対」
そう思いながら、ずたずたになった人形を踏みつけ、眼を閉じ、現実世界へ戻る。
「はい、終了~」
第三者の目からでは瞬間移動して突如、人形を踏んだ私が現れた風に見えるだろう…って、アツ!人形が一瞬にして燃えつきやがった!?
「何が起こった!?」
「何も起こってないよ」
その言葉と共にザブザの懐に入り
「木の葉大烈風!」
顔面を蹴りで打ち付ける…が、カカシ先生以上の体術を持つザブザ…当然避けられる。
「あめぇ!」
「いやいや…ザブザ君の方が甘いよ」
上体をそらして回避したザブザの体に掌底を打ち据えるカカシ先生
「ぐぅ!?」
数メートル吹っ飛び、転がって衝撃を和らげている。その間に
「先生、ナルトは?」
「あの術の中だ…自分から飛び込んでいったぞ」
「…………であれば…タズナさんの護衛をしますね」
分かったという返事を聞き、タズナさんの傍に瞬神の術で姿を現す。
「あれ?そういえば、ナルトが貴方を安全地帯へ…」
「いや、あの黒髪の小僧がの…ピンチだったから、わしに一言いって、飛び出していきおったわ」
わははと笑っているタズナさん…いや、笑うところじゃないと思うんですよ。うん。
ま、ナルトらしくていいね。霧が深くて状況が良く見えないけど…頑張ってくれているに違いない。であれば私は、何時ザブザが此方に向かってくるか分からない。よって、全力でタズナさんを護衛しなければならない。…しっかし、ナルトが居なくなった間、よく生きていたよ…本当に。そう思いながら、戦いの行く末を見守る。
数分経ち、ザブザの奇襲はまだ無い。だが、恐らくナルト達が戦っている箇所から、恐ろしく膨大なチャクラが発現した。
(九尾か)
今の状態なら恐らく、この万華鏡写輪眼で調伏できるかもしれない…が、あのチャクラを制御出来るか…といわれたら、難しいとしかいえない。確かにチャクラコントロールには自信がある…と、いうより、伝説の三忍を凌ぐ自信もある…年数が年数だしな。が、あれは意思を…九尾の意思が伴ったチャクラである。それをコントロールするのは至難の業…いや、不可能なはず…人柱力以外。
しかし、確か二次創作で万華鏡写輪眼がどうとか言っていたから調伏は出来るんだろうなぁ…
…まぁ、従える気も無いので、その事は置いておくか。
「…だんだん霧が晴れてきましたね」
「だの」
確実にナルト達と私達とでは温度差が違う。もうこっちはのほほんモードだ。茶でも飲んでたい。
まぁ一応警戒は怠らないけど…
「雷切り!!!」
微かに浮かぶ人影が携えたのは超高密度のチャクラ…底に雷の性質を合わせている。
これは…カカシ先生の奥義。
そうして、完全に霧が晴れた時、僅かにしか怪我をしていないカカシ先生の右手が、白の胴体を貫いている光景が眼に映った。…夥しいほどの血の量。即死だろう。
ザブザが白の死体ごとカカシ先生を切ろうとするが…明らかに動きが鈍い。
直ぐに白の死体と共に距離を取って、眼を伏せさせる。その先に浮かんできたのはナルトの姿。
ナルトは白とカカシ先生を交互にみて、ザブザを睨みつける。しかし、此処からでも聞こえる声で
「これは俺の戦いだ」
カカシ先生の言葉と共に、歯を食いしばり…下がる。そうして、此方に気付き…
「アヤカちゃん……サスケが…さすけがぁ!」
此方に近づいて来て、俯きながら搾り出す言葉…
「…ちょっと見てくるから、タズナさんの護衛を宜しく」
その言葉に頷いて、留まる。私は霧が晴れて来て漸く見えた…全身千本だらけのサスケの近くまで行く。
まるで眠るように横たわるサスケの体温は嘘の様に冷たい。見ているだけで痛々しい。その原因となっている千本を首に刺さっている以外のものをゆっくりと引き抜く…痛むように。
「うぐ!」
ビクンと体を痙攣させてサスケの瞼が上が…らない。
「まぁまだ千本は一杯あるしね」
そうして、次の千本はねちっこく取ろうと思ったが…
「おうおう…派手にやられて…がっかりだよ。ザブザ君」
そう声が上がって姿を現したのが、サングラスをかけた小柄な爺さん。ガトーである。
「まぁ、此方としても好都合だな…使えない子鬼ちゃんを殺して、タダでそのじじぃを殺す……金の掛からんいい手だろう?」
その言葉を無視して、サスケをお姫様抱っこで皆の所に運んでいく。タズナさんがサスケの姿を見て眼を見開き、俯かせる。
ガトーの足元に白の死体があり、それを足で思いっきり蹴った。その事にナルトが激昂したが、カカシ先生に止められる。白の主であったザブザは何も言わずに、白を見ているだけ。その姿にナルトが思いの丈を…白がザブザをどう思っていたのかをぶつける。
「何も言うな…小僧」
ザブザのその言葉と共に眼から涙が溢れている。本当に、この世はままならない。
ナルトからクナイを借りたザブザは一気にガトーの元へ駆ける。その気迫は正に鬼である。
どんなに刃が刺さろうとも止まる事はない。そして、とうとう…ガトーの首を刎ねて、力尽きた。
「う…節々がいてぇ……」
まるで抉られているような…と言葉を発して私の腕の中で起きたサスケ。ゆっくり地面に下ろす。
あぶねぇ…お姫様抱っこをしているのをサスケが自覚したら絶対に暴れる所だ。最悪、頭からおって、首についている千本がまずい箇所に移動するかもしれないしな。
「く…アヤカか…あの面のヤローはどうした……」
「死んだよ」
「ナルト、のヤロー…が?」
「ううん…ザブザがカカシ先生に殺されそうなところを庇って」
「…そうか」
ち、それにしても最初の突風は何だったんだ…と愚痴を零しながら、何か思うことがあるのか、死んでいる白を見つけ、じっと…見る。恐らく、急所に当たっていないという所であろう。
そうして、一安心した所で、ガトーと共に現れたチンピラが此方に襲い掛かろうとしていた。
その瞬間、チンピラどもの足元に一本の矢が刺さった。後ろを振り返ると
「俺たちが相手だ!」
その言葉を口にするのは以前見たイナリとはかけ離れるほど強気なイナリ。…ナルトは恐らく原作通りに動いたのだろう。しかし、一般人相手にチンピラは引かない様子。
ナルトは影分身を行って威嚇し、比較的軽症なカカシ先生も影分身を行う。私も水分身を作って威嚇し。
「「「やるかぁ!?」」」
その一言でチンピラたちは全員フネに引き返して退散していった…
「白の…顔を、みたいんだ……」
「分かった」
残った死に体のザブザをカカシ先生が運んで、白の遺体の傍に置いた。
ふわ
目の前に白い何かが舞った。空を見上げると、真っ白な雪が…辺りを覆っていた。
そっと手にとって見ると、前世と同じで、綺麗で冷たかった。