何もかも呪った。生まれて一度も嬉しかった事は無いとはいわない。
けど、目の前の現実が否応無く見せ付けられる。
「なんだよ……これ」
震える声で何とか息を吐けた。
極度の疲労でふらふらしながらやっと帰ってきたぼろいアパートのポストに投函されていた一つの封筒。
そこには膨大な数値が記載されている紙2枚。
「1億……」
内容としては、簡単だ。両親が豪遊して作ったお金。名義を全て俺の名前でお金を借りたらしい。
その負債額の通知であった。勿論、法律なんて適用されない所からのお金だ。
「は…はは…」
碌な記憶が無い。両親なんて子育てやる気ゼロで、本当に最初はおもちゃ気分で子を育てたのだろう。
煩かったら直ぐにタバコの火を押し付けられた。その跡も至る所に残っている。
一番古い記憶は両親が一月以上不在で雑草を食べていた時だ。
でも、それでも学校は行かせてもらった。食事もたまにだけど食べさせてもらった。
社会に出てからは歪んだ性格もかなり直ってきた。そう、それなりの生活が出来ていたはずなんだ
思い返せば、確かに…確かに苦い記憶だけじゃない。
だが、目の前の封書にはそんな思い出なんて路頭の石ころ以下に成り下がった。
借金の負債額ともう一つのコピーされた紙。
生命保険の保障金額が載っていてそこにボールペンか何かで丸が付いていた。
「1億2千万か…」
結論から言おう。俺の現時点での命の金額であった。
「っは…いくらなんでもストレートすぎるだろ」
簡潔に言えば両親は手っ取り早くそのお金が欲しいらしい。
何も書かれていなくても分かる。あんな屑共でも一応は両親なのだ。それくらい…分かる。
「…いいだろう」
もう飽き飽きだ。こんな世の中。なくなってしまえ。平等の世界。神様。全てがくだらない。
だから、この世の中をもっと、もっと、もっと!
「もっと、くだらねぇ世の中になるよう、死んでも祈ってやるよ(のろって)」
享年29歳。この世の恨みを内包して■■ ■■は高さ80Mのビルから飛び降りた。世界がとてつもなくスローに感じた。
恐らくこの状況でも助かろうと必死に脳が働いているのだろう。今まで経験してきた記憶が溢れ返ってきている。
俗に言う走馬灯だ。しかし、それでも無理なものは無理だ。最後に眼を開いて見たのは視界一面の灰色だった。
「やっぱ怖いな」
「ルクルちゃんばいばーい!」
「じゃね」
最後に見たのは灰色であった。それは間違いない。
けど、次に目が覚めた時には既にベットの上であった。何がどうなってるんだと体を起こそうと思っても上手く体が動かない。
手を動かしてみたら、紅葉みたいなちっちゃな手。
何のことは無い。赤ちゃんになっていたのだ。
女の子として。
別にそれで取り乱したりとかはしていない。ただただ、納得しただけだ。
本当に不思議な話だがストンと腑に落ちたというか…とにかく納得したのだ。
理由はいくつか考えられるが一番そのウエイトを占めているのが
どうでもいい
という感情なのだろう。いまだに前世の気持ちを引きずっていた当初はそう思っていたのだろう。
まぁ、そんなわけで現状は別段納得している。
申し遅れた。俺の名前は ルクル・リーデット
立派な幼女で今は7歳だ。金髪でイメージ的にはリリカルのあの運命ちゃんだ。つか瓜二つ。逆に怖い。
そしてこの世界はH×Hの世界だ。
当初は俺みたいなやつは直ぐに殺されるんだろうな…と思っていたけど…蓋を開けてみれば何のことは無い。
平和そのものであった。そも、一般家庭に生まれてハンターなんてテレビの世界の人間という認識でしかない生活圏なのだ。
治安は日本よりは悪いがそれでも犯罪なんか滅多に起こらない。
起こったとしてもそれでもテレビの中の世界だ。本当に普通の家庭で生まれたのだ。
両親もこれまた一般人で母、アリアは専業主婦。父、ライダはしがないサラリーマン
二人の容姿もそこそこ。…俺は何か突然変異みたいななんかなのだろうけども。
愛情も普通にあり、本当に普通を地でいく家庭で生まれたのだ。俺にとっては最高だけどな
何故H×Hと分かったのか、それはテレビという情報媒体からであった。
ハンター協会という言語が耳に入った瞬間は記憶に新しい。漫画の世界に入るとは思いもよらなかった。
…まぁ最初は直ぐに死ぬんだ…とかしか思ってなかったけど。しかし、衝撃の事実が浮上したのだ。
結論から言おう。念が使えたからだ。しかもオーラの量が恐らくだが、膨大だ。世界の色が戻った気がした。
この瞬間だけ神様を信じられるかもと思ったけど…そう、そこまではいい。しかしこれだけは納得いかない。
…俺のオーラ…凄く禍々しいです。何かあれだ。ゴンさんだ。魔王だ。見ていてあまり気持ちよくは無い。
恐らく前世の怨み辛みが膨大なオーラとして持ち越されたのだろう。何これ怖い。
しかも、この顔にこのオーラは致命的に似合わない。…慣れたけど。
まぁ当初は浮かれていたことは否定はしないさ。前世も相当読み込んだ。俺は単行本派だから最新がどうなったかしらないけど。
オーラが使えて修行方法も念でどういった事が出来るのか知っていた。
とりあえず、鍛えようと思って両親が寝た頃にトレーニングを開始した。肉体から始まり最後に念を鍛える。
寝る前には錬でオーラを空っぽにして寝る。この繰り返しだ。
まぁその影響かは分からんが…身長がくそ小さい。
小学校1年の平均が約120センチに対して俺は110しかない。皆より頭一つ分小さいのだ。
しかし、この年からでも前世のスペックというものを既に追い越している。念があるからなのか知らないけど、身体能力はもう完全に超している。
…てか前世は全力疾走で二日後に筋肉痛だからな。
既に越しているといっても過言ではない。
それに伴って念も充実してきた。戦闘なんかしないだろうが、持っているものなら兎に角鍛えた。
ガキが数トンの壁を動かせる世界なのだ。案の定さ。鍛えれば鍛えるほどその成果が返って来る。
面白い。非常に面白い。前世では決して味わえない快感だ。
オーラも増える、体も際限なく強くなる。頭も…それなりに良くなる。
面白い。この快感は絶対に手放したくないと思った。
しかし、一般家庭に生まれた俺がこの力を発揮することはきっと無いだろう。
恐らく何にも無い人生の中のちょっとしたひと時…いわゆる趣味で収まるだろう。
格闘技なんか習ってないし、前世は喧嘩なんか数えるほどしかしたことが無い。
パンチの仕方なんて全然分からない。
でも、それでもいいと思った。無闇に力をつけるとか、そんなのどうだっていい。
兎に角、その時その時が面白ければそれでいい。…人を傷つける勇気なんて何処にも無いのだから。
「ただいま」
ルクルです。最近学校に通い始めたぴかぴかの1年生さ。
この世界には漢字が無く、全ての言語が統一されている。俗に言うハンター文字だ。
余談だが、民族特有の文字が数百種類ぐらいあるとかテレビでいっていたような気がしないでもない。
漢字やカタカナが無いので、国語の授業の中で言語の授業は非常に少ない。
というより、この年になるとこの近辺に住む殆どの人間が読み書きくらいなら出来る。
環境的には日本が近いだろう。義務教育という素晴らしい制度もある。
学生の頃は学校めんどくさいと感じたけど…社会に出ると学生に戻りたいと思ってた。
が、学生に戻るとやっぱり学校というものは面倒だ。…面白いけどね。
俺のクラスの立ち居地は、可も無く不可もなくで運動はよろしい大人しいという位置に落ち着いている。
まぁハブにされないように最低限のコミュニケーションは取っている。
しかも、皆無垢な瞳で俺の名前を呼ぶもんだから可愛くて可愛くて、癒されるね。
まぁ学校は概ね良好といえるだろう。因みに科目は国語、算数、理科、社会、その他生活とか何か色々ある。
学校からの帰宅後、家に入り、まず行うことは
円
これで家に誰もいない事を確認する。現在、母もパートでショッピングセンターで働いているので、まぁ殆どの確立で家には誰もいないんだけどね。
まったく問題ない。因みに俺の今の限界は俺を中心に30Mである。この時間を使って体を扱いていくのだ。
基本、母が帰ってくるまで懸垂や足腰を鍛えるため現状山に行って全力疾走している。
足腰とスタミナを鍛えるのだ。日に日に疲れが出てこなくなるのが分かる。
目に見えて力が付いてくるとトレーニングは病みつきになる。
むしろ毎日鍛えてないと何か一日が締まらない。
さらにお小遣いを使って、ボクシング入門書を購入。パンチの仕方とかパンチとかどうせしないのになぁとか思いながらこんなことやっている自分を省みるとやっぱり、
俺tueeee!がやってみたいのだろう。
でも、理性はそれに危険信号を出しているから実践はしない。
…ハンターにはなってみたいけどね。あれ売れば一生遊んで暮らせるんでしょ?
完璧ジャン。この世界もゲームはあるから夢のニート生活が出来る。
そうだ!ハンターになればいいんだ!何で思い浮かばなかったのだろう。
夢のニート…勝ち組ニートになるべく、俺は帰ってきたら両親を説得しようと決意するのであった。